平成 25 年度
公益財団法人 海と渚環境美化・油濁対策機構
環境・生態系維持・保全活動等調査事業
漁民の森づくり活動等調査報告書
(海の羽根募金事業)
平成 26 年 3 月
まえがき 漁民の森づくりに関する調査は平成 13 年から、当機構で継続して行われている調査で す。北海道から九州まで各地で植樹活動は活発に行われています。漁業者が植樹活動を行っ ていることはあまり知られていないかもしれませんが、この「漁民の森づくり活動」は、 各地の漁業者が粘り強く永年にわたり活動しているものです。この漁民による森づくりの 運動は定着してきており、近年は植樹作業だけではなく、下刈りなどの森を管理する作業 も増えてきています。 一方で、生物多様性に関係した活動としても注目されています。活動資金も水産だけで なく、緑の募金や森林組合の資金といった事例もあります。当機構の調査は、この活動の 様子を毎年アンケート調査によりその実態を表そうとするものです。今年のアンケート調 査では、森づくり活動で重視していることについて尋ねています。環境と安全、広葉樹が キーワードとして浮かんできます。様々な場所でこの報告書を利用して頂けると幸いです。 また、アンケート調査に加えて、シジミを主人公に水産と水田との関係から論じたもの を載せていますので、今後の漁民による森づくり活動への一助となることを願います。 平成 26 年 3 月 公益財団法人 海と渚環境美化・油濁対策機構 理 事 長 岸 宏
目 次
頁 「漁民の森づくり活動調査」と農林水産業協働モデルと課題 ……… 1 1.はじめに ……… 1 2.攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業 ……… 3 3.ヤマトシジミの生息環境とへい死原因 ……… 5 3-1.生息環境 ……… 5 3-2.へい死原因 ……… 5 3-3.潜在的酸性硫酸塩土壌 ……… 7 4.ヤマトシジミ資源の回復施策 ……… 8 5.二枚貝類の餌料としてのケイ藻と陸上植物−片山論文から ……… 9 6.八郎潟干拓地に展開する多様な水田農法と汚濁負荷発生量 ……… 11 7.おわりに ……… 12 漁民の森アンケート結果 ……… 13 1.漁民の森づくり活動で使用された樹種 ……… 13 2.漁民の森づくり参加者の漁業種類(複数回答) ……… 14 3.平成 26 年度以降の漁民の森づくりについて ……… 15 4.漁民の森活動で重視した点について(複数回答) ……… 15 5.漁民の森づくりの活動内容について ……… 16 6.アンケート結果を参考にして ……… 21 平成 25 年度における「漁民の森づくり活動」状況調査 全道 78 ヶ所 ……… 23 全道 141 ヶ所 ……… 25 平成 25 年度における「漁民の森づくり活動」実施状況 (アンケート調査結果) ……… 28─ 1 ─
「漁民の森づくり活動調査」と農林水産業協働モデルと課題
文責 活動調査委員 井上祥一郎 1.はじめに 漁民の森づくり活動は、漁業者と林業関係者との連携と位置付けられている。漁業と林 業に農業を加えて一次産業と呼ばれるが、現時点では農業はまだ「森つくり」と距離があ るように思われる。「海は生きている」(講談社 2009)に「漁民の森つくり活動地図」を 引用した著者の富山和子は、「水と緑と土」(中公新書 1974)の中で、水田と森の親密な 関係を繰り返し述べているが、効率性重視の米つくりが進められた中で忘れ去られた感が ある。農業用水はダムで作られているとの感覚である。 かつては農地と水辺が近接している地域では、「半農半漁」による生業が普通であったが、 この言葉も現在のわが国では死語化しているように思う。しかし、現実にはヤマトシジミ 漁と数 ha の水田経営を両立させている地域もあり、そこで話を聞く機会も多いが水田の 取り扱いとヤマトシジミの漁場への影響についての対応になると、肥料と農薬の使用量を 減らす程度に止まっているのが現状である。 代掻き時期になると水田からの濁水が琵琶湖の湖岸に広がる写真が紙面に載ることが多 い滋賀県では、「マザーレイク 21 計画 < 第 2 期改訂版 >」を作成しており、その中に「南 湖再生プロジェクト」の項を設けてその内容が取りまとめられているのでご紹介しておく。 (滋賀県 HP から引用の参考資料参照) 施策の構成として 6 項目が挙げられているが、我が国の淡水湖・汽水湖・内湾に共通す る点が多く、一般論として理解しやすい内容になっている。一部を眺めてみると、湖底環 境の改善施策の指標が、「砂地造成面積(累計)」と「セタシジミの漁獲量」とされている。 その下段に続く健全な水環境の確保施策の指標の中に「流域単位での農業排水対策の取り 組み面積」がある。湖底環境の 2 指標と、濁水に代表される農業排水問題の交差が垣間見 えるが、直接的な表現になっていない所に水産に関わる者として物足りなさも感じる。 琵琶湖南湖は二枚貝資源として、淡水真珠養殖に使われるイケチョウガイと特産種のセ タシジミが著名だが、イケチョウガイは真珠母貝の確保が困難になっており、セタシジミ も 6 千㌧あった漁獲が数十㌧に激減している。この原因の一つが底質の細泥化であるとの 認識から、覆砂による砂地の造成面積が対症療法的な指標として、また、水田濁水の軽減 が根治治療的な指標として上げられているように思われる。その他の施策としてセタシジ ミ稚貝の放流が毎年実施されているが、資源回復には程遠いのが現状である。 漁民の森つくり活動が、森林からの土壌流出、すなわち濁水の減少をその効果の一つと する点では、農地からの濁水を考える上で農業と林業の共通認識に繋がるものと考える。 25(本)年度は林業と水産から視界を広げて、水産と水田農業との関係に関する情報の紹 介を中心に置いて述べて情報提供の責を果たしたいと思う。南湖再生プロジェクトの内容 施策の構成 内容・主な施策(事業)等 指標 水草の異常繁茂へ の対策 水草の刈り取り等により、航行障害、漁業障害、 悪臭等の弊害を除去し、生態系の回復を図る 取り組み ・水草の刈り取りに関する事業 ・南湖再生ワタカ放流事業 ・総合流域防災事業 ・水草群落面積 ・水草表層刈り取り量 ・水草根こそぎ除去面積 外来種の駆除 外来魚や外来植物などを除去し、琵琶湖本来 の生態系の回復を図る取り組み ・有害外来魚ゼロに向けた事業 ・レジャー条例の運用(外来魚ノーリリース) ・水草の刈り取りに関する事業 ・外来魚生息量 ・外来魚の駆除量 ・ 回収量 ・琵琶湖漁業の漁獲量 ・水草表層刈り取り量 ・水草根こそぎ除去面積 水陸移行帯の 保全 ・ 再生 海と陸地とのつながりを再生し、生態系の回 復を図る取り組み ・ヨシ群落の保全 ・ 管理 ・ 再生に関する事業 ・自然再生事業(砂浜保全) ・湖岸保全整備事業(砂浜保全) ・漁場環境保全創造に関する事業 (ヨシ帯 ・ 砂地の造成等) ・南湖の生きもの再生事業 ・生態系に配慮した水位操作の検討 ・ 調整 ・ヨシの植栽面積(累計) ・砂地造成面積(累計) ・「魚のゆりかご水田」など豊か な生き物を育む水田取組面積 湖底環境の改善 湖底の環境を改善し、シジミなど琵琶湖の在 来魚介類をはじめとする生態系の回復を図る 取り組み ・湖底環境の改善に関する事業 ・水産基盤の整備に関する事業 ・砂地造成面積(累計) ・セタシジミの漁獲量 健全な水環境の 確保 安全 ・ 安心な水環境を確保する取り組み ・湖沼水質保全計画の推進 (流出水対策推進計画の推進) ・下水道事業、農業集落排水事業等 ・市街地排水対策事業 ・河川環境整備に関する事業 (流入河川対策、底質改善対策) ・環境こだわり農業に支援に関する事業 ・下水道を利用できる県民の割合 ・水稲における環境こだわり農 産物栽培面積の割合 ・流域単位での農業排水対策の 取組面積 南湖生態系に 関する研究 ・琵琶湖環境科学研究センターによる調査 ・ 研究(順応的管理に向けた南湖の生態系保全 方法の検討) ・琵琶湖生態系の修復に関する研究 ・琵琶湖沿岸環境変動の影響に関する調査研究 滋賀県 HP より
─ 3 ─ 2.攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業 平成 25 年 12 月 20 日、農林水産省本庁の会議室で、「攻めの農林水産業の実現に向けた 革新的技術緊急展開事業」に関する説明会が開催された。実現性の高い農林水産に関する 技術開発を手厚く支援するというもので、100 億円の補正予算が裏付けとなる事業である。 対策のポイントとして「産学の英知を結集して、革新的な技術体系を確立するための実証 研究や民間の活力を生かした技術開発を行い、消費者等のニーズに応えます。」が示され ている。実効性が強調されていたが、下記に示した 3 点の政策目標にそれが示されている。 ○大幅なコスト低減等による農林水産業経営の収益増大 ○事業化促進研究において、実施課題の 90%以上で事業化 ○ 異分野融合共同研究において、実施課題の 80%以上で事業化が有望な研究成果を創出 委託研究費の額として、「網羅型研究」の予算額は 2 年間で概ね、6 千万円∼ 1 億 5 千万円程度、「個別要素技術型研究」は 2 年間で概ね 2 千万円が示されている。 水産関係では対象が養殖二枚貝と魚類に分かれ、目指す技術体系として前者は「高品質 真珠母貝の導入等による品質向上・安定化」と「二枚貝養殖システムの高度化」が挙げら れている。 後者のそれは「次世代魚類養殖システムの確立による生産の効率化、生産性の向上」、「定 置網漁業の生産性向上、効率化」と「水揚げから出荷段階における漁獲物の高付加価値化 による漁業・養殖業収益の向上技術」である。 筆者のこれまでの技術経験を、「安定経営を可能とする二枚貝資源量維持のための老朽 化漁場復活支援技術の実用化」とすると、「二枚貝養殖システムの高度化」の範疇に入り 事業の趣旨に該当すると考え提案することにした。 当該事業で特徴的なのは、研究成果の普及・実用化を促すため、研究グループに原則と して「都道府県普及指導センター、民間企業、協同組合等研究成果の普及を担う機関(普 及・実用化支援組織)の参画を得ることとします」との但し書きがあることである。 この但し書きにある「普及・実用化支援組織」の事業への組み込みが、実現性が高くな いと技術の意味がないと考える生業の集合体の性格から、どの研究グループにとっても難 しい対応を迫られると思われた。公募期間が忙しい年度末の 2 月 21 日から 3 月 13 日まで の 20 日間は、関係者間の調整や書類の作成にかかる時間を考えると短すぎると思われた。 平成 25 年 1 月の島根県松江市における汽水域研究合同研究発表会に話題提供者として 参加以後、研究者も含めて多様な立場の多くの方達と交流することになり、宍道湖に月一 で 3 日間程度通っていたので、提案の対象水域を宍道湖、対象種をヤマトシジミとした。 普及・実用化支援組織には漁民の森つくり活動を続けている「公益財団法人宍道湖・中 海汽水湖研究所」のメンバーである、宍道湖漁協さんにお願いすることにした。昨年 7 月 には同漁協の傘下の「斐川蜆組合」で勉強会の講師を務めさせてもらったご縁もある。 公募の発表に先立って 5 分間の提案技術を説明する機会があった。当日の資料を基に作 り直した資料を下記に示しておく。
図 1 「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業」に係る技術提案会 提案資料
─ 5 ─ 宍道湖は汽水湖であり、七珍として、スズキ、モロゲエビ(ヨシエビ)、ウナギ、アマ サギ(ワカサギ)、シラウオ、コイ、シジミ(スモウアシコシと覚えると良いと書いてあっ た)が挙げられるが、漁獲の 95%以上がヤマトシジミであるといわれ、この豊漁不漁が 地域の経済に与える影響は極めて大きい。昨年は少し回復したようだが、3 日間で湖水の 全量をヤマトシジミがろ過すると報告された 9 千㌧∼ 1 万㌧に比べると、近年の漁獲量は 激減している。 3.ヤマトシジミの生息環境とへい死原因 ヤマトシジミの資源量は生息環境とへい死が反映していると思われるので、その各々に ついて考察し、更に宍道湖・中海で見られる酸性硫酸塩土壌について解説する。 3-1.生息環境 中村幹雄編著「日本のシジミ漁業」(たたら書房 2000)によると、生息を制限する環境 要因を大きくは、底質粒度、溶存酸素量、塩分としているが、その内数値化できるヤマト シジミの生息限界を ①シルト・粘土含有率 50%、②強熱減量(IL)14% とし、好適生息範囲を ①シルト・粘土含有量 10% 以下、②強熱減量(IL)5% 以下 としている。この底質問題も含めて同書では、図 2 に示す高密度に生息する湖棚と、生 息しない湖底平原部を定量的および定性的に比較して参考に供している。 宍道湖では漁場は湖面の 30%弱で、湖棚部分にあたる水面である。盆状の湖底は湖底 平原部と呼ばれ、この部分にはヤマトシジミは生息していない。宍道湖西岸の斐川のシジ ミ漁師さんによると、湖棚から湖盆に移る緩傾斜部分が昔は採れたが今は採れない老朽化 漁場のようである。 溶存酸素量と塩分については、生息限界が溶存酸素量飽和度で 50%、好適値を 80%と 推定し、塩分は 0 ∼ 22psu では生存に全く影響しないとしている。但し、溶存酸素量に ついては、貧酸素耐性は大きいが、硫化水素耐性は低いとも述べており、溶存酸素飽和量 50%以下が生息限界になるという訳ではなく、暴露時間が関係するものと思われる。後述 する青潮(硫化水素)障害に関するへい死条件を検討する必要があると思われる。 3-2.へい死原因 へい死ないし資源減少原因として一般論としては、青潮、アオコ、ヘドロが挙げられる ケースが多い。宍道湖では青潮の発生も見られ、アオコも発生し、ヘドロの底質も広く分 布する。青潮は貧酸素から無酸素に移行した後に、硫酸還元菌による有機物分解の副産物 として発生する硫化水素が、酸素のある水塊に出会って硫黄粒に変わって青白く見えるこ とと認識されている。
底質粒度 粗砂∼細砂 極細砂∼シルト・粘土 強熱減量 3% 13% COD 10mg/g 35mg/g 硫化物量 0.1mg/g 1.5mg/g 泥含有量 15% 90% 溶存酸素 飽 和 貧酸素 生物相 多 様 貧 弱 生物量 多 い 少ない 宍道湖西岸での青潮発生が、平成 24 年 9 月 20 日の国土交通省出雲河川事務所記者発表 資料として公表されている。生理学者でもある地元出雲市のヤマトシジミの研究者である 島根医科大学生物学教室(当時)坂本巖は「汽水湖研究 No.4」(前出宍道湖・中海汽水湖 研究所 1994)で、硫化水素発生は大量へい死の原因になり得るとして、その対策の必要 性を訴えている。坂本の観察によると、神経毒である硫化水素によるへい死は、底質中に 潜ったまま殻を閉じた状態でおきているという。 アオコは藍藻類の異常繁殖であるが、ヤマトシジミにとって餌料として不適な微細藻類 であり、アオコ発生は言い換えると餌不足と考えると理解しやすい。琵琶湖においてもア オコの発生が問題となっているが、かつてのケイ藻優占から緑藻優占を経て藍藻優占の今 日に至っているとされる。昨年 12 月に網走で開催された「第 6 回全国シジミシンポジウ ム in 網走」の講演要旨集で、島根県水産技術センターの勢村均は、ヤマトシジミの餌料 図 2 宍道湖の湖底地形からみた 2 つの生息場所とそれぞれの環境の違い
─ 7 ─ としてのケイ藻の重要性を述べている。 ケイ藻の増殖に使われるべき栄養塩類が、藍藻類に使われてしまうことがアオコ発生と すれば、餌料不足は体力不足に繋がるであろうから、健康であれば耐えられる範囲の環境 不良条件であっても、へい死を引き起こしやすいと考えるのである。 ヘドロ問題は中村が示した底質問題である。一般的には富栄養化で発生した赤潮やアオ コの死骸が原因とされることが多いが、水田からの濁水、ダムによって長期化を余儀なく される濁水流出に伴う無機質のシルト・粘土も原因として大きい。 3-3.潜在的酸性硫酸塩土壌 図 3 は島根県農事試験場(当時)の研究報告(1967)にある「中海、宍道湖地域におけ る酸性硫酸塩土壌の分布図」である。当時から有機物供給が多かった部分で「硫酸還元に よる硫化水素発生⇒鉄との遭遇で硫化鉄化⇒更に硫黄が附いてパイライト(黄鉄鉱)とし て安定」が起きていた。つまり、かなり以前から硫化水素の発生が起きていたことの証左 であり、中村の言う「底質中の硫化物」がパイライトにあたると考えられる。この底土を 畑土等に使うと微生物の働きで硫酸が発生し、作物が枯れる被害を受けることになる。 硫酸の発生があると酸性硫酸塩土壌であり、パイライトが分解しない状態を「潜在的」 と表現している。解説では中海では面積 1 万 ha につき 151 点で底土を採集しているが、 宍道湖、大橋川では数か所で底土または客土採取したとしており、宍道湖では長江、江尻 干拓地、出東だけでなく調査すれば酸性硫酸塩土壌の分布は広いと推察している。 パイライトは王水に溶解するとされているが、島根県農事試験場では pH 測定に過酸化 水素を使って 3 以下になれば潜在的酸性硫酸塩土壌と判断できるとする簡易な「半定量法」 を開発している。島根県農事試験場は酸性硫酸塩土壌の研究先進地であったのである。 図 3 中海、宍道湖地域における酸性硫酸塩土壌の分布
4.ヤマトシジミ資源の回復施策 ヘドロ対策として宍道湖内では、国土交通省出雲河川事務所の事業で、斐伊川からの湖 内に流入した砂を使い、琵琶湖南湖と同様覆砂が実施されている。 貧酸素対策としては、一昨年、日本水環境学会の「技術賞」を受けた地元企業の松江土 建が、国土交通省と共同開発した高濃度酸素供給装置の「WEP」を用い、浚渫深場が存 在する十間川で酸素供給試験が行われている。 筆者は中村が重要と指摘する塩分濃度と酸素量の人工的なコントロールは、これまでの 技術対応をみても経済的には難しい課題で、むしろ、資源量を増やしてヤマトシジミの持 つ生態系サービスを利用するところに活路があると考え、前記の提案に織り込んでいる。 秋田県八郎湖の爆発的なヤマトシジミの増産の記憶(昭和 62 年産卵)は、未だに人口 に膾炙するが、ヤマトシジミにとっての衣食住条件が整えば、この再現が可能ということ は誰にも理解できることであろう。この時の大増殖のきっかけは、台風に伴う海水の流入 が、淡水化後もわずかに生き残っていたヤマトシジミの産卵を促し、この単一年級群が最 大年 1 万㌧強、6 年間で 2 万 7 千㌧に上った。 提案ではこの八郎湖モデルの再現を目的として、ヤマトシジミにとっての衣食住環境を 同時並行的に整備するシステムを確立するとした。具体的な技術としては対症療法の域を でないが、流域に視点を移した根治療法は、漁民の森つくり活動の成果として期待される ことと同じである。以下、具体的な技術内容を提案書から拙文を引用する。 『本研究開発は八郎湖の事象の再現を目的としている。すなわちヤマトシジミの衣食住 条件の整備による漁獲回復を目的とし、具体的には人為的に対策が可能な、衣食住条件と して不適な上記 3 点の経済的解消技術の実証である。 (注:上記三点は次の通り。「昨年宍道湖を舞台にした TV 番組では、青潮の発生、底 質のヘドロ化、アオコの発生をヤマトシジミ漁獲減の原因としている。この 3 点につい ては愛知県水産試験場のパンフレットでも、富栄養化の結果生じる、貧酸素化・硫化水 素発生、ヘドロ化、有害赤潮の影響が大きいとしており、湖沼・内湾に共通した未解決 の課題である。」) 研究代表者(筆者)は宍道湖周辺でも普通に見られる「潜在的酸性硫酸塩土壌性状」を 示す底泥中に数%含まれる黄鉄鉱等鉄分をバイオミネラリゼーション技術で三価の赤鉄鉱 化し、数 ppm から数十 ppm の硫化水素水を無害化する材料として利用する発明で特許を 得ている。 同特許技術の前段工程では適正底質材料の砂を底質から得て、また後段工程では鉄の三 価化に伴う硫酸塩による pH 低下に対してケイ酸ソーダで pH 調整を行い、同時にケイ酸 供給を行うことで、ヤマトシジミの衣食住条件を整える漁獲回復システムとしている。 前段工程は細泥化対策であり、後段工程はケイ藻優占化対策となる。技術開発の中心部 分の硫化水素対策としての赤鉄鉱供給策は、昭和 20 年代後半に島根・鳥取両県にまたが る中海で、藻貝漁場やカキ筏下への赤土散布の形で実施されている。また、ケイ酸ソーダ
─ 9 ─ の添加は実験規模ではあるが昭和 50 年代中盤にアオコ発生が著しい茨城県の霞ヶ浦湖水 を対象にして実施されている。これらは各県の研究報告として公表されている。 ケイ藻が殻の形成に利用するケイ酸(ケイ素・シリカ)は過剰障害の無い物質として 知られ、稲作にも関係が深い。他のケイ酸供給方法として、湖水の緩速ろ過法や、上流 域の健全森林土壌浸透機能に伴うケイ酸溶出現象がある。(この現象を微生物風化と考え ている。) 本研究開発に係る課題は次の 2 点である。 ①上記技術の実地規模での効果検証と経済的かつ省力的処理法および設計仕様の確立 ②ヤマトシジミの生物生産構造上の重要性が明らかになった炭素源供給法の開発 すなわち、②についてこれまでヤマトシジミの餌料として、ケイ藻の重要性はほぼ共通 認識になっているが、一部に陸域からの有機物の有用性の報告もあることに対する説明に もなる仮説である。 片山亜優(筆者注:平成 25 年度「ヤマトシジミ Corbicula japonica の生物生産構造に 関する研究」で東北大学大学院農学研究科学位取得)によれば、『ヤマトシジミの生長に は微細藻類(特にケイ藻類)が重要であるが、微細藻類(C/N 比≒ 7)のみではヤマトシ ジミの栄養要求(C/N 比≒ 10)を満たせず、炭素が制限要因となることが明らかになった。 言い換えれば、陸上植物は窒素源としては不十分で、生長への寄与は小さいが、多くの炭 素を供給する重要な役割を果たしている。(p.127)』 従って人為的な炭素供給の定量化とそれに関する技術開発の必要性が新たな課題となっ た。 漁民の森つくり活動が「健全な森林土壌浸透機能」に寄与すると考えれば、ケイ酸供給 によるケイ藻の優占施策になる。また、健全な森林土壌は同時に濁水の発生を軽減するの で、湖沼や内湾における底質の細粒化防止施策になることは、これまでにも繰り返し述べ てきたところである。 これらに加え、片山が明らかにしたケイ藻類単独の摂餌では不足する炭素源の供給源を 探ることが、ヤマトシジミの高度な資源維持に欠かせない新たな課題になった。この点で 農業、特に最も広い栽培面積を持つ稲作関係者との協働が必要になると思われる。 5.二枚貝類の餌料としてのケイ藻と陸上植物−片山論文から 筆者はこれまで、二枚貝資源にとっての重要な餌料はケイ藻であり、富栄養化等水質の 組成に変化が、淡水では餌料として適しているケイ藻から緑藻に移り、アオコで知られる 餌料として不適な藍藻類に移ってきた、すなわち、餌料としてのケイ藻優占が崩壊したこ とが衣食住条件の中の、「食」環境を貧しくしたと主張してきた。同様に海域ではケイ藻 から、非ケイ藻、特に渦鞭毛藻類に移ったことが、有害赤潮や貝毒発生等の頻発に繋がっ ているとし、淡水域、汽水域、内湾を問わず、不足するケイ素(シリカ≒ケイ酸)供給を 図る方策を考えるべきだと提言してきた。漁民の森つくり活動に関しては「健全な森林土
壌つくり」に寄与することになり、健全な森林土壌生態系を雨水が通過することでケイ素 が溶け込み、海の基盤を支えるケイ藻優占に繋がるところから、漁業者が森をつくる意義 はそこにあるとも論じてきた。 前出の片山とは昨年の 10 月 25、26 の両日網走市で開催された「第 6 回全国シジミ・シ ンポジウム in 網走」会場で初めてお会いした。ヤマトシジミの餌の研究をしていて、所 属研究室は東北大学農学部、指導教官が伊藤絹子助教と伺った。伊藤助教は浮遊微細藻 類だけでなく、底生微細藻類が沿岸域の二枚貝にとって重要とする論文(例えば「河口 汽水域生態系の特性−基礎生産における二重構造と高次消費者へのつながり−月刊海洋 2009」)の著者で、是非お目に掛かりたいと思っていた研究者のお一人であった。 前述の「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業」にはオリンピック ではないが参加することに意義があると提案することにしたが、提案技術のキーパーソン と考えた伊藤、片山のお二人を東北大学に訪ねた。その時に恵贈頂いたのが、前記の博士 論文である。 片山は、同論文で河川汽水域に生息が見られる重要な二枚貝資源であるヤマトシジミと アサリと、イシガレイがその水管を餌料として利用するイソシジミの 3 種を対象にして、 窒素と炭素の同位体を物差しにして、餌との関係を明らかにしている。 アサリは陸上植物の同化に必要とされるセルロース分解酵素を持たないという先例研究 の結果を追認し、他の 2 種の植物の同化を確認して、ヤマトシジミとイソシジミは同酵素 を持つことをまず明らかにした。筆者がヤマトシジミの餌料について目を通した複数の論 文に、デトライタスの重要性を指摘するものがあったが、以下に述べる片山の研究成果か ら一般論として説明できる根拠が得られたと考えた。 『汽水域に生息する二枚貝類 3 種の主要な食物は微細藻類である。そして、イソシジミ とヤマトシジミは、陸上植物を同化することができ、炭素源として利用している。生産を 支える主要な食物である微細藻類は種間で異なり、アサリでは海産植物プランクトンを、 ヤマトシジミは淡水・汽水産底生微細藻類を、イソシジミは海産および淡水・汽水産の微 細藻類を利用している。 利用する食物の種間の差異は、潮汐リズムに伴う物理環境の変化と食物環境の変化が同 時進行していることによると考えられる。河川汽水域は、潮汐リズムにより海水と淡水の 流入状況が変わる。それに伴って微細藻類の組成も大きく変化している。微細藻類を食物 として利用するこれら 3 種の二枚貝は、摂食可能タイミングが塩分により規定されてい る。−中略−ヤマトシジミだけでなく汽水域における二枚貝の食物は、潮汐リズムによる 食物供給と種の摂食活動のタイミングにより規定されており、食物と生息環境が密接にか かわっていることが明らかになった。』と結論している。 また、『ヤマトシジミの食物は、窒素源として植物プランクトンおよび底生微細藻類が 主であり、陸上植物が供給される生息場所においては、窒素源としては不十分なアシを含 む陸上植物が寄与するという結果は、国内の河川・湖沼を問わず、ヤマトシジミの食物を
─ 11 ─ 考える上では、炭素源と窒素源を分けて考える必要性を示すことができた』と結んでいる。 我国の低平地はかつてはヨシ原が茂り、その後、稲作地帯に変貌してきた。更に工業地帯 に変化した低平地も多い。ヨシ原のヨシとイネは共にイネ科の植物であり、ヤマトシジミ に対して炭素源の供給に寄与してきたと言えよう。ヨシ原が見られなくなる中流域ではイ ネや上流域の落葉等が汽水域上部のヤマトシジミにとっては炭素源であったと想像され る。落葉がダム等で止められると、嫌気的な環境に置かれることから餌料価値は低下する のであろう。若し、嫌気的環境に置かれた落葉等が有用水産物にとって好ましいものであ れば、経験豊富な漁業者は黒部川の出し平ダムの排砂ゲートから排出されるそれを歓迎す るであろう。それが漁業者の反対に合うことであれば、水族にとって餌料価値が低いと断 ぜざるを得ない。 この問題は半農半漁で生業を立てている人達が、水田の抱える課題や今後の在り方を生 業を継続させるために何が必要かを生業の場で示すことが必要だと考える。 6.八郎潟干拓地に展開する多様な水田農法と汚濁負荷発生量 八郎湖では海水流入によるヤマトシジミの産卵誘発が、爆発的な増殖をみせ、過去に経験 しなかった漁獲を得たことは前述した。産卵誘発から稚貝の定着が確認できている所から、 稚貝放流をすれば漁獲に繋がると考えられたが、現実には稚貝放流による漁獲増成果は得ら れていない。近年では藍藻類のアオコの発生が著しいことが、地域の悩みになっている。 藍藻類ではなくケイ藻類が優占することが必要と筆者は考えているが、積極的にケイ藻 を優占させる施策は採られていない。僅かに、茨城県内水面水産試験場がアオコ発生が著 しい時期に湖水にケイ酸を添加して、添加しない対照区はケイ藻、緑藻、藍藻類が拮抗し たのに対し、試験区はケイ藻が優占しそれにつれてワムシの増殖が見られたとの報告を知 る程度である。ワムシはワカサギの餌料と考えられているので、ワカサギ漁の視点からは 当時の湖水はケイ素が相対的に少ない「シリカ欠損状態」にあったと述べている。 また、滋賀県水産試験場の資料によると、セタシジミが高密度に生息する水域は湧水が 見られるとしている所からも、ケイ素供給が有用水産物の食物連鎖に大きく関わっており、 海底湧水が見られる海域は好漁場と言われるのも故なきことではないと考えるのである。 八郎湖および八郎潟干拓地では湖沼の環境と、稲作技術との関係を見続けている地域で ある。秋田県立大学が「八郎潟干拓地に展開する多様な水田農法と汚濁負荷発生量」と題 する論文で、『八郎湖は干拓・淡水化以来富栄養化による水質汚濁が進み、アオコの発生 が慢性化している。干拓地の水田農業が一汚濁源と指摘されるなか、営農者は湿潤な重粘 土土壌の克服を最大課題としつつ、多様な農法・耕法を組み合わせ営農的に有利で環境負 荷を考慮した農法を模索してきた。』と書き出していることからも、稲作と豊かな湖沼環 境両立を目指す姿勢が伝わってくる。 平成 16 年 12 月∼ 19 年 11 月の間、「研究課題:環境創造型農業を実現するための社会 システムの研究開発」と題する報告書が同大学の地域共同研究センターから出されている
が、ここでは「農業者による地域農業環境の管理・改善を可能にする社会技術・社会シス テム(環境創造型農業システム)」を開発・研究することを目的にして、 ①水質改善技術確立のための圃場ブロック実験 ②広域農業コミュニティのためのブロードバンドセンサネットワークの基幹系の構築 ③参加型合意形成支援システムの構築 ④水質改善技術の社会経済的評価手法の開発 に分けて研究成果を報告している。 八郎湖への影響は、窒素、リンという富栄養化物質と濁水を水田に起因する問題として とらえられており、農法の評価もこの 2 点にたって行われている。読んでいると不耕起移 植と冬季湛水の組み合わせが望ましいと感じさせる記述が多い。但し農業者の取り組み面 積では、小面積に限定されているのが現状のようである。 これらの水質改善技術研究対象にケイ素を豊かな湖沼と結びつける記述はないが、ケイ 素が稲の健全さにとって重要な栄養塩であることを明らかにした研究はきわめて多い。 筆者は八郎湖のヤマトシジミの爆発的増殖を支えたのは、当初の浮遊微細(ケイ)藻類 の摂餌段階からヤマトシジミのろ過食性に起因する透明度の上昇があり、底質上の付着微 細(ケイ)藻類のバイオマス量が増大し、それが餌料として加わったからだと考えている。 また、ケイ藻優占を支えていたのは豊富なケイ酸濃度の高い湧水の存在と考えていたが、 片山論文に出会ってから、湧水の存在に加えて上流の稲作地帯からの稲わら由来の炭素源 があったことも重要だと考えるようになった。 7.おわりに 漁民の森つくり活動は、森の恵みをより享受する活動として林業者と連携して実施され てきたが、稲作がヤマトシジミに必要な炭素の供給源という認識に立つと、水田が身近な ものに感じられるようになる。水田と水産の地理的距離は近いので、ケイ藻類への炭素供 給地域という正の視点と濁水発生源という負の視点を、農業者と漁業者が共有することが 必要というのが、今回の情報提供の要である。 前出の片山は総合考察の中で、『ヤマトシジミの特に漁獲量の減少が著しい河川におい ては、人工構造物による漁場環境や洪水などによる個体群の流出が最も大きな要因である。 −中略−人工構造物による人為的攪乱は、大きく環境をかえるだけでなく、自然攪乱と異 なり、水の流動性と生物の移動性を著しく遮断してしまう。さらにそれが継続することで、 連続性の乏しい分断された環境として固定されてしまう。ヤマトシジミが生息する汽水域 は人間の生活圏と接しており、人為的な影響を受けてきた。最も大きな影響は堰や護岸堤 防など人工構造物の設置である。』と断じている。 河川構造物の弊害を肌で感じているのは一次産業を生業としている人々であろうから、 この連携が実現することが、森・里・海の自然との日常的な触れ合いと距離を持たされて しまった二次、三次産業を生業とする人達との協働の条件になるように思うのである。
漁民の森アンケート結果 平成 25 年度のアンケート結果から、140 ヵ所程度の回答を得て、植樹活動では 80 種類 程度(針葉樹 10 種以上を含む)の樹種が使用されていた。参加人数はのべ 1 万 2 千人程度、 植樹本数は 8 万 5 千本程度であった。表 1 から作業別でみると、植付け、地ごしらえと答 えた回答のうち、北海道からの回答が 70%以上を占めていた。下刈り、つる切りなどの 作業は北陸・中部・近畿及び九州地方に多かった。 昨年と比較すると、参加人数はあまり変わらず、植樹(作業)本数及び育樹や下刈りと いった植樹後の管理作業はわずかに増加していた。樹種は減少していた。それぞれの植樹 活動の場所については巻末の地図及び表を参照されたい。 表 1 地域ごとの作業種類の回答数(複数回答) 植付け 下刈り 地ごしらえ つる切り 枝打ち 間伐 その他 北海道 79 9 36 0 1 0 1 東北・関東 9 9 4 3 0 0 2 北陸・中部・近畿 8 17 4 7 1 2 5 中国・四国 6 5 3 0 0 2 0 九州 6 17 2 5 1 1 0 1.漁民の森づくり活動で使用された樹種 活動に使用された樹種上位 10 樹種について図 4 に示す。 20 程度の活動箇所で使用された樹種はヤマザクラ(24 か所)、ミズナラ(24 か所)の 2 種であった。今年はエゾヤマザクラ(5 か所)、サクラ(7 か所)に代わってアカエゾマツ(10 か所)とモミジ(7 か所)が加わった。ヤマザクラからケヤキとクロマツの 8 種はここ数年、 常に多くの活動で使用されている。 図 4 全国の植樹活動で多く使用されている上位 10 樹種 (活動数であって、本数ではない)
─ 14 ─ 各地域で使用されている樹種について図 5. に示す。 北海道ではミズナラが最も多く使用され、ミズナラを使用している活動 24 ヶ所のうち 23 カ所は北海道での活動である。本州以南では東北・関東ではブナ、北陸・中部・関西 ではコナラ、中国・四国及び九州ではヤマザクラが多く使用されている。使用された樹種 は北海道 39 種、北陸・中部・近畿 36 種と 30 種以上あり、他の地方では東北・関東 12 種、 中国・四国 10 種、九州 18 種であった。 2.漁民の森づくり参加者の漁業種類(複数回答) 図 6 に漁民の森づくり参加者の漁業種類の割合について示す。 活動に参加者した漁業者の漁業種類で見ると、単一の漁業種類である場合と複数の漁業種 類の漁業者が参加していた場合の割合は 1:2 であった。図 6 から、参加者の漁業種類の 割合をみると、定置・建網、採貝・採藻がそれぞれ 20% 程度を占め、次いで、刺網・流し網、 魚類・貝類・のり養殖が 15% 程度であった。 図 5 各地方で植樹活動で使用される上位 5 樹種(活動数であって、本数ではない) 活動数が同じ樹種は同じ欄に記載した 図 6 森づくり活動参加者の漁業種類(複数回答)
3.平成 26 年度以降の漁民の森づくりについて 図 7 に来年度以降の漁民の森づくりの予定について示す。 来年度以降の予定で見ると、「植樹の他、下刈り等管理にも力を入れていく」が最も多く 29%、「植樹はほぼ済んだので、下刈り等管理に力を入れる」を加えると 55% を占め、植 樹活動内容が植樹から管理作業に移行していると考えられる。 その他の内容をみると、予算、場所選定などで来年度の内容は検討中との意見が多かった。 4.漁民の森活動で重視した点について(複数回答) これまでの森づくり活動の場所選定で、どんな点を重視したかという質問に対して、「漁 場(周辺)に流入する河川がある。」が 41%、「活動しやすい場所である」が 30% と環境 と安全の 2 点を重視して場所を選定している傾向があった。次に「一定の面積がある」が 10% であったが、面積で 0.1ha ∼ 1ha、本数で 100 本∼ 3000 本と場所によって様々であった。 表 2 これまでの森づくり活動の場所選定で、どんな点を重視しましたか。 漁場(周辺)に流入する河川がある。 41% 漁場(周辺)にある湧水の後背地である 4% 流入水系(含湧水)はないが、近くに漁場がある 5% 活動しやすい場所(林道・駐車場から近い、傾斜が緩い、苗木を運び易い等)である。 30% 一定の面積がある。 10% その他 7% 図 7 平成 26 年度以降の漁民の森づくり作業内容(予定)について(回答数 ,%)
─ 16 ─ 次に樹種選定で重視した点という問いについては、「広葉樹に限定した。」が 40%程度 と最も多く、次に「地域の樹種」17%、「苗木が入手しやすい樹種」15% という回答であった。 「木の実や花、葉の色づきなど、植樹後に楽しめる樹種を選定した。」も 11% あり、その 他では土砂流出防止や水源涵養などの活動目的に合った樹種や地質に合った樹種を選ぶと いう回答等があった。 表 3 これまでの植樹の樹種選定では、どんな点を重視しましたか。 地域の林(神社等)に生えている樹種を選定した。 17% 広葉樹に限定した。 39% 苗木が入手しやすい樹種を選定した。 15% 木の実や花、葉の色づきなど、植樹後に楽しめる樹種を選定した。 11% 生長速度が異なる樹種を組み合わせて選定した。 3% その他 15% 5.漁民の森づくりの活動内容について 各地域の活動内容を以下に示す。 北海道 豊かな海を育む水の重要性に着目し、森林が持つ多面的機能や、森∼川∼海 のつながりを理解する場として、また実践する場として必要不可欠であり、 「100 年かけて 100 年前の自然の浜を」の合い言葉とともに息の長い植樹活動 を継続している。 青森県 青森森林管理署職員による作業の注意点及び指導・協力を受け下刈り作業を 実施。また、ブナの苗木に目印の支柱を立て過って苗木を切らないよう作業 を実施。 日程の都合上、漁協職員での植樹活動となった。 平成 25 年度の活動は、AMLS 協議会が、公益社団法人国土緑化推進機構 の助成を受け易国間(いこくま)漁協とタイアップして行った。地域漁業者、 AMLS 協議会会員、県、村関係団体から 65 名が参加し、ブナ苗木 400 本を 植樹した。 植樹はほぼ済んだので、下刈り等管理及び環境整備等に重点をおく。新たな 場所を選定する。 平成 23 年から森林組合と連携し、小泊地区の山地に広葉樹 120 本、平成 24 年は広葉樹 150 本を植樹した。 漁業者が自ら植樹に参加をすることにより、国土保全と海づくりの意識改革 が図られる。
秋田県 鹿角(かづの)市十和田大湯字田代川上流部に毎年ブナ等を植樹し、組合員は基 より田代自治会住民にも活動の輪が広がっている。平成 21 年度からは岩手県 の河川漁協関係者とも、植樹を通じて県境を越えて活動の輪が広がっている。 ハタハタを育むエコの森づくり・地球温暖化防止と森づくりについての講話・ 植樹、保育体験(ミズナラ . コナラ . トチノキ . 山桜 合計 200 本)下刈り体験・ 炭焼き体験・その他森林散策等 茨城県 ①林床整備(下刈り・つる切り) ②森林と海の関係を学ぶ研修会 ③水産物を食べながらの地域住民との交流会 新潟県 7 月 11 日上越市漁協・桑取川漁協・くびき野森林組合の協力を得て、下草刈 りやつる切り等の管理活動を行った。参加者 41 名 10 月 12 日上越市漁協・桑 取川漁協・くびき野森林組合・地元町内会・地元子供会(育成会)・県漁連・ NPO 法人かみえちご山里ファンクラブ等の団体から協力得て下草刈りやつる 切り、園路整備等を行った。参加者 145 人 協議会メンバー及び緑の少年団による下刈り・ブナの植樹 富山県 水産多面的機能発揮対策事業のメニューを利用し、漁業者が主体となった植 林が行われるようになってきた。また、内水面漁協では、漁協組合員であり 森林組合員でもあるというケースがあり、森づくりと川づくりの両方を日常 的に行っている。飛越源流の森づくり活動では、富山湾に流れ込む神通川の 上流・岐阜県で植樹と下草刈りの年 2 回イベントが開かれ、参加者には富山 湾産魚介類を使った山海汁が振る舞われた。その際に、木や貝殻を使ったフォ トフレーム作りも行われ、楽しくできる森づくり活動が展開された。魚津市 漁場環境保全会が行っている森づくり活動では平成 26 年度からは地ごしらえ にも取り組む予定である。 石川県 ①いしかわ漁民の森づくり in 穴水 10 月 20 日◎参加者 地元漁師、石川県 漁協本所企画指導部、(一財)石川県水産振興事業団、あいおいニッセイ同和 損害保険会社、金沢青陵大学野外スポーツ部 1、2 年生、石川県水産課、穴水 町水産振興課 計 76 人 ◎開会式 穴水漁民の森づくり実行委員会 熊野恭 雄氏 挨拶「私は、地元の甲地区で漁師をしています。山に木を植えることに よって、様々な栄養が土にしみこみます。それがやがて川から海に入り、海 藻などを育て、豊かな海につながっていきます。今日は金沢からもたくさん 参加され、ありがとうございます。一緒に頑張りましょう」穴水町産業振興課 課長補佐 樋爪友一氏 挨拶(略) ◎植林の説明および注意点 穴水町林業 研究会会長の浦谷国夫氏、百成博氏 ◎植林の様子 樹種は、コナラ 70 本、 ヤマザクラ 70 本、ヤマモミジ 100 本の計 240 本。植林している間は、ごく弱 い気にならない程度の小雨が降っていたが、参加者は地元の人たちと会話を
─ 18 ─ しながら笑顔で木を植えていた。 ②いしかわ漁民の森づくり in 中能登 11 月 10 日◎参加者 地元漁師、石川県漁 業協同組合ななか支所、石川県漁協本所企画指導部、(一財)石川県水産振興 事業団、能登の國石動山を護る会、NEC フィールディング北陸支社、金沢星 稜大学野外スポーツ部、小松市立第一小学校教諭、石川県水産課、中能登町 保健環境課、計 53 人 ◎開会式 七尾湾里海漁民の森実行委員会 北橋行夫 氏挨拶 「ここ石動山は、古来より豊かな自然に恵まれ、石動く山から流れる 豊潤な水は、二宮川から七尾湾へ注ぎ、我々漁民に豊かな海をもたらしてく れました。本日はケヤキ 200 本を植樹します。この植林によって、さらに海 が豊かになると信じています。そして、この豊かな自然を守っていくことが、 我々漁民の使命だと感じています」中能登町保健環境課長 長元健次氏(略) ◎植林の説明および注意点 中能登森林組合◎植林の様子植樹 ケヤキ 200 本 風が強く、雨が懸念されたが植林をしている間は山が風を遮り、雨は弱 く参加者は手早く植樹を行うことができた。◎植林後「石動山資料館」にて能 登の國石動山を護る会 理事の奥村章氏より石動山の歴史と文化について講 演があり、参加者の漁師の知識も加わり有意義な時間となった。 福井県 漁民の森は、継続的に維持管理して、隣接小学校の「学校林」として森林環境 教育の場として活用(下刈り体験、木の実の収穫、植物観察会等)していく。 育樹を中心にした活動になっています。 平成 16 年度から漁民の森づくりとして植栽や下刈り、補植などの活動を行っ てきている。現在では、植栽した樹木の樹高が高くなり下刈り等の必要など が無くなってきた。このため、今後は樹木の生育状況等を見ながら必要なと きに、必要な施業(補植、除伐等)を行っていく予定である。 現在漁民の森づくりとしての活動はしていない。・NPO 法人三国湊魅力づく りプロジェクトとして、「緑のリレープロジェクト(里山整備活動)」独自で実 施しているが、平成 26 年度以降の実施については、未定である。 愛知県 <梶島植林事業>梶島(愛知県西尾市)では、松食い虫等の被害により多くの 樹木が枯れてしまった。そのため、漁業者のグループ組織である西三河地区 漁業士協議会では、漁業環境保全の活動の一環として、平成 20 年度から平成 22 年度にかけてモチノキ、オオシマザクラ等の植林を行った。その後、継続 的に下草刈りを行い、植林地の管理を行っている。 <段戸国有林「漁民の森づくり活動」>平成 14 年から蒲郡市漁協青年部連絡協 議会等の漁業関係者が、NPO 法人穂の国森づくりの会、中部森林管理局愛知 森林管理事務所、蒲郡市、愛知県と連携して、豊川と矢作川の水源となる愛知 県北設楽郡設楽町にある段戸国有林において、毎年継続して森林づくり活動を 行っており、将来の水産業を担う三谷水産高等学校の生徒も参加している。
平成 25 年度は、10 月 25 日に蒲郡市漁協青年部連絡協議会等の漁業関係者 19 名、三谷水産高等学校関係者 41 名を始めとして、NPO 法人穂の国森づくり の会、蒲郡市、愛知森林管理事務所、愛知県東三河農林水産事務所の関係者 など、総勢 76 名が活動に参加した。参加者は午前に、ヅナやナラ類などの広 葉樹の成長を妨げる周辺のシロモジ等の除去作業を行い、午後には、段戸裏 谷原生林の自然観察を行った。 三重県 (海と森林を結ぶ交流事業)平成 25 年度の山側での活動は、平成 25 年 5 月 11 日(土)に亀山市林業総合センターにおいて、「海と森林を結ぶ交流活動」が開 催あされました。この活動は、海側の鈴鹿市漁業協同組合と山側の鈴鹿森林 組合が主体となり、海と森林が密接に関係であることを理解し合い、力を合 わせて環境保全に取り組むという趣旨に基づき、山と海それぞれの場所に集 まって交流活動を行うもので、生成 18 年度から継続して開催されています。 今年の山側での交流活動は、森林ウォーキングが計画されていましたが、雨 天でしたので、NPO 法人「森林の風」の指導により、屋内で竹ポットやバー ドコール作り体験が行われました。また、子どもたちを対象にした森林保全 に関するビデオを利用して、森のはたらきについての学習を行いました。 (「三重漁民の森」造成事業)県内の漁協を単位に持ち回りで植栽地を選定し、漁場 に良い影響を期待して、たくさんの漁民とともに広葉樹を植えるようにしている。 滋賀県 水源涵養林の育成管理、補植、交流啓発活動 京都府 平成 13 年度から 5 年間をかけ植樹を行い、平成 18 年度以降は植樹した樹木 の生長を促進させるため、育樹活動(下草刈り)を、漁業者・行政・府内他協 同組織と連携し実施している。なお、本年度も育樹活動を実施予定であったが、 「浦島エコローの森」に隣接する風力発電施設の倒壊により、同施設周辺への 立ち入り禁止規制がひかれたため実施ができなかった。 大阪府 大阪府内の 24 漁業組合の若い漁業者が中心となり、「森と川と海はひとつ」を モットーに、大阪湾を豊かな漁場として育むため、府内の森や埋立地で水源 地として山を肥らせる植林、下草刈り、竹林伐採などの保全活動を行っている。 この活動を行うにあたり、大阪府関係部局、関係市町村、大阪府漁連、森林 関係者、ボランティア団体を構成員とする「魚庭(なには)の森づくり協議会」 を開催し、活動計画等の検討、策定を行っている。 和歌山県 本県では、平成 10 年度から漁民の森づくりの活動を実施し、これまで県内 9 箇所で落葉広葉樹の苗木を植樹するとともに、下草刈り等の作業を実施して きた。和歌山県漁業士連絡協議会では、山林が豊かな海を守るためになくて はならない役割を担っていることから、山、川、海を一体と考え、漁業者が 中心となっての「森づくり」を実践する活動を行っている。今年度から、漁業 士連絡協議会の事務局は和歌山県漁業協同組合連合会に移っている。
─ 20 ─ 香川県 近年、瀬戸内海では底栄養塩化による漁業環境の変化により、ノリ養殖業で は色落ちによる漁期短縮で生産量が減少、また、稚魚の育成場として重要な ガラモ場などの減少、食物連鎖の根幹を成す植物プランクトンの組成の変化 など、生物生産に影響し、漁船漁業の水揚げが減少するなど、漁業生産の継 続が心配されています。このような状況の中、私達 JF 香川県漁協青壮年部 連絡協議会は瀬戸内海の栄養塩不足による漁場環境の悪化をくいとめるため、 ツインパル長尾の隣接地の竹林 0.15ha において、竹林を伐採し、広葉樹であ るくぬぎと山桜の苗木を植樹しました。この場所は、未だに竹の地下茎が残っ ており、初夏ごろには竹が生えて苗木の育成に悪影響が出ると予想されます。 このため、今後は竹や雑草を取り除き、苗木の手入れを継続して行っていこ うと計画しています。 愛媛県 「漁民の森づくり」の活動は、国の水産多面的機能発揮対策事業の一環として、 学校教育と連携を図り、市内小学校において出前事業を行い、漁業者が講師 となって水産業や環境保全についての講義を行っている。さらにその授業を 受けた子どもたちと漁業者、そして活動に賛同する地元高校生等が協力して 流域において、年 1 回植林を行っている。 福岡県 矢部川の源流と下流である有明海漁連の交流として、市有林の下刈りや植樹 等を行った。 佐賀県 毎年夏期に下刈り作業、3 月中旬に植林作業を継続して行っています。毎年 行うことで、森林の保水力の向上や海へ流れる水質の浄化という目的以外に、 山・川・海の環境保全に対する意識の向上と林業・漁業への関心が図られて きているのではないかと考えます。 毎年、7 月には下草刈り及び補植に苗を植樹している。地形的に石が多く毎年、 補植を行っているが、あと数年で補植も終わる予定で、初年度に植樹した樹 木は減ったが残っている樹木は確実に成長している。 熊本県 既に植林した場所における下草刈りと補植を中心とした「育林」が活動の主体 となっている。 大分県 植樹を行った後、毎年 1 回下刈りを実施している。なお、日出町緑の募金の 支援により、追加植栽(20 本)を平成 22 年度に実施した。 宮崎県 鏡山山頂付近において植樹活動を行った後、サニーハウス(植樹場所より徒歩 5 分)において、昼食を兼ねた交流会を行った。なお、交流会においては、海 の幸(チリメンのお吸い物、チリメンの天ぷら等)が振る舞われ、海と山の交 流がより深まった。交流会終了後、延岡木青会による木工教室が開かれ、参 加した子どもたちは植樹の大切さを学ぶことが出来た。 平成 8 年に投資で開催された「全国豊かな海づくり大会」を記念し、日南市漁 協が植林して以来、一年に 1 回、下刈り、蔓切り、間伐の作業を続けている。
6.アンケート結果を参考にして 漁民の森づくり活動の特徴として、植栽樹種に広葉樹が多いことが挙げられる。上位 10 種(活動数)の内、針葉樹はクロマツとアカエゾマツの 2 種である。 これは、広葉樹は豊かな森林土壌を作るので保水力、栄養塩供給が大きいと考えられて いることを反映しているように思われる。 このことは日常的に目にする里山地域の人工林の手入れ不足、特に間伐遅れの林地から の濁水流出機会が増え、奥山の自然林、すなわち広葉樹林に期待することの現れのように 感じられる。 この点について専門家はどう見ているかを、太田猛彦著「森林飽和」(NHK 出版 2012)から引用をして伝えておきたい。 『“落葉や下草つきの“「健全な森林土壌」を維持すれば、それが雨水をすべて地中に浸 透させ、水源涵養機能は発揮されることになる。言い方を変えれば、森林の「地下部」が 水源涵養機能を発揮しているということである。 「スギやヒノキの人工林より、ブナなどの天然林のほうが水源涵養機能は高い」という のも、よく聞く話である。確かに、水源涵養機能の全体を考えれば、多少は落葉広葉樹の 天然林のほうが良い。しかし、それはおもに広葉樹林のほうが針葉樹林より水を使わない ためである(あまり変わらないという報告もある)。健全な森林土壌を維持すれば、雨水 を浸透させるはたらきはほとんど変わらない。 詳しく言えば、落葉広葉樹林のほうがスギ・ヒノキ人工林より浸透能(地表からの水の 浸み込みやすさ)が高い可能性はある。しかし、健全な森林土壌をもつスギ・ヒノキ人工 林であれば、人工林であっても、もっとも強い雨でもすべて浸み込ませてしまう浸透能を もつ。仮に 1 時間 150 ミリの豪雨があっても、健全な森林土壌をもつ人工林も天然林もまっ たく同じようにすべての降雨を浸透させてしまう(たとえ一部に地表流が現れても、地面 には凹凸があり草の根や虫の穴もあるので結局は浸み込んで、沢や谷まで連続した地表流 にはならない)。つまり、天然林のほうがもっと大きな浸透能をもっているとしても、実 際上は意味がないのである。したがって、よく管理された人工林は水源涵養機能を十分に 発揮できるといえる。一般に人工林が水源林として嫌われるのは、間伐が遅れた場合や、 伐採時に地表が攪乱された場合に健全な森林土壌が失われやすいという事実と、現代人の あまり根拠のない「天然林志向」が結びついた結果であると考えられる。』 著者の太田猛彦氏は、1941 年東京生まれで、東京大学名誉教授。専門が森林水文学・ 砂防工学・森林環境学で、砂防学会・日本森林学会の会長を歴任されている。極めて長い 引用になったが、漁民の森づくり活動の関係者が、天然林志向から視野を広げることにな るのであれば、ここに紹介した価値があることになる。 落葉広葉樹の中で多いのが「ヤマザクラ」と「ミズナラ」で、同数の 24 活動で植栽樹 種として選定されている。ここ数年の活動の傾向に、植栽場所が少なくなり、下刈り、除 伐などの維持管理に関する報告が多くなってきている。この傾向を踏まえて、来年度のア ンケートに反映して欲しいのが、活動区域における枯損木の問題である。 「ナラ枯れ」という言葉を聞かれた関係者は多いと思うが、1980 年代からコナラ、ミズ ナラなどの集団枯死(通称ナラ枯れ)が目立つようになり、毎年被害地域が拡大している。
─ 22 ─ 図 4.から読み取ると「コナラ」は 12 活動で選定されている。ナラ枯れは「カシノナガ キクイムシが病原菌を伝播することによって起こる、樹木の伝染病の流行」と定義されて おり、病原菌は大腸菌のような細菌(バクテリア)ではなく、菌類であるカビの 1 種と確 定されている。被害を受ける森林の特徴は、比較的高齢で大径木が多い広葉樹二次林(旧 薪炭林)で発生することが多い。 特に枯死被害が大きい樹種はミズナラとコナラで、とりわけミズナラが枯死しやすい。 枯死被害が見られる樹種は、上記 2 種の他、ウバメガシ、クヌギ、アベマキ、カシワ、イ チイガシ、アカガシ、アラカシ、ウラジロガシ、シラカシ、クリ、スダジイ、ツブラジイ、 マテバシイが列挙されている。図 5.には、2 種以外にカシワ、クヌギ、ウバメガシが含 まれており、ナラ枯れ予備軍という見方をすると、数十年後の枯死が危惧される。 ナラ枯れを避けるために里山のこれらの林を更新することが効果的とされているので、 漁民の森づくり活動ではカシノナガキクイムシの繁殖にとって不適になるような維持管理 方法の検討が必要になる。 放置里山林では高齢のナラ林内に下層植生が繁茂するので、カシノナガキクイムシの繁殖 には好適な環境となる。また、近年の公園型整備では、高齢のナラ類を残して林内植生を 刈り払うケースがあり、ここもカシノナガキクイムシの繁殖に好適な場になる。かつて 30 年程度で輪伐されていた薪炭林施業は、伐採して若齢林分に戻し低林管理が行われており、 カシノナガキクイムシの繁殖には不適な環境が作られていた。これらの結果から、長期的な 維持管理手法の検討を行うことは、健康な森林造成上必須のことになると考えられる。 ナラ枯れについては、2010 年 3 月に改訂版が発行された、(独)森林総合研究所関西支 所発行の「ナラ枯れの被害をどう減らすのか−里山林を守るために−を参考にした。出典 を明らかにして参考に供するものである。 漁民の森づくり活動が展開されている地域は、奥山ではなく里山が多い。里山は薪炭や肥料 の採取地として利用されてきた場所であり、1950 年代以降、管理ざれずに放置されてきた薪 炭林の主要樹種がミズナラやコナラで、ナラ類はその他シイタケの榾木としての利用もあった。 当時と比較して現時点で新たな利用法としては、薪ストーブの普及が範疇に入ってこよ う。伐採したナラ類を薪ストーブ用の燃料として持ち出せると、参加者のメリットにもつ ながってくる。前述のシイタケ原木としての持ち帰りなども、家庭菜園風の利用があれば、 参加者には歓迎されると思われる。 漁民の森づくり活動の場が人工林の場合は、現在喫緊の作業は間伐と言われている。し かし、間伐作業は危険との隣り合わせで、十分な技量が要求される作業でもある。十分な 技量がないことを前提にした間伐作業に「皮むき間伐」がある。スギ・ヒノキなど樹皮を 剥いて立ち枯れさせてから切り倒す間伐作業である。前段の皮むきは特に軽微な作業であ り、今後の活動に導入されても良いのではないかと考える。 本方法は、NPO 法人の「森の蘇り」が、鋸谷茂さんが提案した「巻き枯らし間伐」を アレンジしたものと同会の HP で紹介されている。 漁民の森づくり活動も、新たな段階に入っている。豊饒の海は国民全ての財産であり、 一次産業の健全な生業なくしては守ることができないことも分かってきた。今後の活動に 対して、少しでも役に立つ情報の提供に今後も心掛けたいと思う。
平成 25年度における 「漁民の森づくり活動」 北海道 お魚殖やす植樹運動 北海道漁連 当別町道民の森 道有林 5 月 地ごしらえ、 植付け 北海道 (小樽地区) 清流と魚を守る森林づくり事業 石狩湾漁協 石狩市厚田区小谷 市町村林 10 月 地ごしらえ、 下刈り、 植付け 浜益魚つきの森推進協議会植樹 浜益魚つきの森推進協議会 石狩市浜益区毘砂別 国有林 6 月 地ごしらえ、 下刈り、 植付け 古平町植樹祭 古平町 古平町 市町村林 10 月 地ごしらえ植付け お魚殖やす植樹活動 東しゃこたん漁協 厚苫地区 市町村林 5 月 地ごしらえ、植付け JT の森積丹森林保全活動 積丹町 積丹町 市町村林 6 月 地ごしらえ、 植付け お魚殖やす植樹運動 古宇郡漁協盃地区女性部 泊村興志内村字茂岩 市町村林 5 月 地ごしらえ、植付け お魚殖やす植樹運動 古宇郡漁協盃地区女性部 泊村大字泊村モヘル林道 市町村林 5 月 地ごしらえ、植付け 北海道 (桧山地区) お魚殖やす植樹活動 ひやま漁協女性部奥尻支部 奥尻郡奥尻町 市町村林 5 月 植付け ひやま漁協女性部上ノ国支部 桧山郡上ノ国町 市町村林 10 月 植付け ひやま漁協女性部江差支部 桧山郡江差町 市町村林 5 月 植付け ひやま漁協女性部乙部支部 爾志郡乙部町 市町村林 5 月 植付け ひやま漁協女性部熊石支部 八雲町熊石地区 私有林 6 月 植付け ひやま漁協女性部大成貝取澗 支部 せたな町大成区 市町村林 5 月 植付け ひやま漁協女性部瀬棚支部 せたな町瀬棚区 市町村林 5 月 植付け ひやま漁協女性部 厚沢部 市町村林 5 月 植付け 都道府県名 活動名 主催者 活動実施地区 活動林地 実施時期 作業内容
実施状況 (アンケート調査結果) ─ 29 ─ ミズナラ(250)、 イタヤ(250)、 ニレ(250) 60 20 貝類 刺網 ・ 流し網 その他 0.30 750 H9 漁連 ・ 漁協 ・ 漁業者グループ その他 ハルニレ、 ミズナラ 62 15 定置 ・ 建網 貝類養殖 刺網 ・ 流し網 延縄 ・ 潜水 船曳 0.20 270 H20.10 国 その他 ミズナラ(50) 40 5 定置 ・ 建網 貝類養殖 刺網 ・ 流し網 0.50 50 H15.6 国 その他 アカエゾマツ (300) マカバ(100) 82 26 定置 ・ 建網 採貝漁業 刺網 ・ 流し網 釣り 0.20 400 不明 市町村 市町村 マカバ(60) ミズナラ(60) 10 7 採貝漁業 0.20 120 H2.5 漁連 ・ 漁協 ・ 漁業者グループ その他 マカバ(500) ミズナラ(500) 176 16 採貝漁業 1.00 1,000 不明 市町村 その他 ドロノキ(20) 14 14 定置 ・ 建網 採藻漁業 延縄 ・ 潜水 ・ 船曳 0.03 20 H8.5 漁連 ・ 漁協 ・漁業者グループ 市町村 ドロノキ(20) 11 11 定置 ・ 建網 採藻漁業 延縄 ・ 潜水 船曳 0.04 20 H25.5 漁連 ・ 漁協 ・漁業者グループ その他 ミズナラ(200) 100 30 採貝漁業 0.10 200 S63 市町村 市町村、 その他 カシワ(900)、 ミズナラ(800)、 トチノキ(800) 95 22 定置 ・ 建網 0.50 2,500 S63 市町村 市町村 ヒバ(100) 63 41 釣り 0.05 100 S63 森林組合 市町村、 その他 キハダ(100) 50 15 釣り 0.10 100 S63 乙部町魚つきの森づくり協議会 市町村、 その他 ブナ(300) 23 15 採貝漁業 0.10 300 S63 森林組合 市町村 エゾヤマザクラ(40) 30 23 釣り 0.10 40 S63 森林組合 市町村 エゾヤマザクラ(50) 22 20 定置 ・ 建網 0.08 50 S63 市町村 市町村 ブナ(30) 13 13 その他 0.10 30 H20.5 森林組合 女性部 管理作業又は植樹種 参加者 作業面積 作業本数 活動開始 管理者 経費負担者 針葉樹 ( 本数 ) 落葉樹 、 広葉樹など ( 本数 ) (名) うち漁業 者、漁協 主な漁業種類 (ha) (本) 年月