水環境保全における GIS の活用手法の開発と実践
東善広,藤田友丈
The development and application of GIS techniques for water environmental improvement activities
Yoshihiro AZUMA and Tomotake FUJITA
Abstract: We have provided some GIS tools for water environmental improvement activities in Lake Biwa region to local volunteer groups, and examined its effects.
Application method is divided into not using the system and using system (WebGIS).
Whichever method is used for the improvement of public participation, the problem was found in our action research. In order to obtain the better advantage of GIS tools in environmental improvement activities, not only aiming toward system development, also it is important to make setting up the utilization.
Keywords:
住民参加(Public participation),WebGIS,水環境(Water Environment),
琵琶湖(Lake Biwa)
1.はじめに
GIS 技術は,インターネットの普及やパーソナ ルコンピュータの性能向上にともない専門家のツ ールとしてだけでなく,一般市民の活動の場にお いても大いに役立つツールとして期待されている.
しかしながら,一般市民レベルでのその活用の現 状は,インターネット上の地図情報サービスなど の一部の分野において普及ぶりは目を見張るもの があるが,全体的にはまだ十分とは言い難い.環 境保全における市民参加ツールとしての GIS の普 及についても実践例は決して多くなく,その普及 のあり方には課題が多い.
本報告では,地域住民による琵琶湖の水環境保 全活動において GIS 手法の活用を通じて浮かび上
がった課題を明らかにし, 解決の道筋を検討した.
2.琵琶湖における GIS 利用パターン 2.1. システム化されてない利用
筆者らが,琵琶湖の水環境改善活動に GIS を活 用し始めたのは,著しく水質汚濁が進行した赤野 井湾の環境改善を目指した取り組みを実践する上 で必要から生じたものである.つまり,GIS を用 いたシステム構築を主眼としたものではなく, 「必 要に迫られて適時 GIS を使った」というものであ る.
そのようなシステム化によらない GIS 利用のき っかけは,琵琶湖の赤野井湾流域を中心に水環境 改善活動を展開している住民グループ(NPO 法人 びわこ豊穣の郷)への支援・協力からである.び わこ豊穣の郷は,1997 年から,流域内の里中河川 約 100 箇所で,パックテスト等による簡易な水質 東: 〒520-0022 滋賀県大津市柳が崎
5-34滋賀県琵琶湖環境科学研究センター
E-mail: [email protected]調査を住民達の手で実施したが,その膨大な調査 資料をいかに活動に役立てるかが住民グループで 問題となった.そこで,それに呼応する形で,研 究者や大学院生が調査結果の整理に関与するよう になったのがはじまりである.
ここで重要なことは,地域住民の自主的な取り 組みを尊重し,表 1 に示すような情報の収集,整 理,発信のプロセスを促進するようにしてきたこ とである.表 1 を見るとわかるように,水環境マ ップづくりにおける GIS 技術の利用だけではなく,
ホームページづくりや河川調査結果データベース 開発など,むしろ情報技術全般を用いて,活動内 容に適した方法を柔軟に適用してきた. その結果,
この活動団体の活性化に一定の役割を果たすこと ができた.
しかしながら, このような GIS 利用パターンは,
地域の活動の固有性に対応できる反面,状況に応 じて個別に GIS でアウトプットを作成する必要が あるため,手間と労力がかかるのと,一定の技術 を有する人材が必要である.
2.2. GIS 利用のシステム化
一方,地域住民による水環境調査活動の結果を 継続的,効率的に活用するためのツールとして,
これまでに WebGIS を用いた情報システムを開発 し,その利用と普及も図ってきた.これまでの開 発経緯によりシステム構築は 2 つに分けられる.
最初のものは,前節で述べた赤野井湾流域のみ を対象とし,当地における調査活動の成果を WebGIS に集約したものであり, 1999 年に運用を始 表 1 赤野井湾流域における情報共有の歩み
活動内容 課題 情報共有の方法 共有化の段階
1997 年 1 月 河川水質調査開始
(100 地点余りの定点での調査)
1997 年 11 月 水環境マップ作成の作 業開始
1998 年 3 月 水環境マップ完成
• 調査データの分析
•
成果のわかりやすい集約
• パソコンの表計算ソフトによる「デ
ータ入力」,「集計」,「グラフ作図」,
「簡易地理情報システム作成」.
1998 年 9 月 ホームページ作成の作 業開始
1999 年 1 月 ホームぺージ開設 1999 年 5 月 世界湖沼会議(デンマー
ク)に参加
• 会員の情報作成への参加
• ホームページ利用者と会員
の双方向交流
• Webサイトの構築
•
サーバサイドスクリプトを用いたホ ームページ簡易作成機能,BBS 機 能の実現.
• BBS による湖沼会議参加者と住民
との情報交流の実現.
1999 年 12 月 4年目になる河川水質調 査活動の活性化 2000 年 4 月 パソコン教室開催 2001 年 11 月 水環境マップⅡ完成 2002 年 10 月 ほたるマップの作成 2003 年 6 月 地域情報ネットワーク化
事業の開始 2005 年~ ホタル復活のための 2007 年 水辺環境調査 2007 年 8 月 水環境マップⅢ完成
• 調査活動に対す る意欲低
下,活動のマンネリ化の克 服
•
地道ではあるが,調査継続 の重要性認知
•
情報システム利活用におけ る人材不足
•
人材育成・確保と資金の確 保の必要性
•
活動の発展にともなう地域 住民との隔たり
• 10年間以上継続した調査結
果の集約と今後の展開
• 河川水質調査結果のデータベース
化,それにともなうインターネットに よる全調査結果の入力・検索・平均 処理・表示機能の作成.
• パソコン教室における大手通信民
間会社による人的協力.
• マップⅡ,Ⅲ作成,ほたるマップ作
成,水辺環境調査の解析への GIS の応用
•
地域とのつながりの再構築(地域 情報ネットワーク化)
本表は, 「東・長尾(2005)琵琶湖研究所所報,2,221-227.」の表 1 を加筆・修正したものである.
情 報整 理・ 理 解 情報発信 ・交 換 情報 蓄 積 ・人 材 育成
めたシステムである.ここでは,これを「赤野井 WebGIS」と呼ぶことにする.もう1つは,この赤 野井湾流域での取り組みをモデルにして,琵琶湖 の各流域に応用できるシステムとして開発し,
2006 年から運用している(図 1) .ここでは,これ を「びわこ環境マップ」と呼ぶことにする.赤野 井 WebGIS は,利用者が WebGIS に直接調査データ を登録することができない単方向型マップシステ ムであったのに対し,びわこ環境マップシステム は,調査地点の位置,水質と指標水生生物に関す る調査データを利用者(調査者)自身が入力する と,入力した調査データの値に基づいてマップが 動的に作成される双方向型の WebGIS システムで ある.
びわこ環境マップの普及を進めていくため,ま ず,各活動団体や行政機関に協力を呼びかけ,過 去に実施した調査結果を当システムに取り込んだ.
その結果,50 団体以上の調査データを収集しシス テムに登録することができた. これらデータには,
地域住民が生活している場を中心とした身近な小 河川・水路を調べたものが数多く含まれる.河川 の行政による水質モニタリングは,比較的大きな 主要な河川について実施されるのみで,小河川や 水路レベルの状況はほとんど把握できていないが,
びわこ環境マップは,それぞれが生活する身近な 場を通じて水環境を把握することを可能にしたと いえる.
一方,水環境保全活動におけるこういったツー ルの利用について,徐々に課題も明らかになって きている.本手法の主目的は,人々が自発的に環 境について学び,その結果に基づいて行動・実践 することを支援するためのツールを提供すること であり,その出発点として,調べた結果を自らび わこ環境マップに登録し,それぞれの活動に利用 していくシナリオを描いていた.
しかしながら,実際に自ら情報登録しているの は,現在のところ「びわこ豊穣の郷」と「湖南流 域環境保全協議会」の2団体のみである.このほ か,今後環境学習において活用したいと打診があ ったのが1市の小・中学校グループと,高等学校 1校である.その他の団体については,これまで
のところ自ら情報登録するまでには至っておらず,
このようなツールを環境保全活動において主体的 に活用できているとはいいがたい.
その原因は複数の要因が考えられるが,1つに は,決められた方法で情報を系統的に扱う情報シ ステムの宿命から,地域ごとに多様な活動を展開 する地域環境調査活動に対応しきれない点が考え られる.ある活動では,植物を対象に調べたり,
またある活動では魚などを中心に調べたりと調査 の対象が様々であり,現状のびわこ環境マップで は,こういった情報を扱うことが困難であるとい う問題がある.
また,別の問題としては,滋賀県における水環 境保全活動の担い手には年配者が多く,パソコン を用いる情報技術手法が受け入られにくいという 問題も考えられる.
3.課題解決の方向性
以上述べてきた琵琶湖における GIS 利用の実践 から明らかになった各利用パターンの特色をまと めると,表 2 のとおりである.このようにいずれ の方法も,単独でみた場合には,使い方によって は優れた面があるが,一方で問題点もある.つま り,水環境保全の住民参加活動において GIS が有 効なツールとなり, 大いに普及していくためには,
少なくとも前述の実践結果で見る限りでは,技術 図 1 びわこ環境マップの画面例(水質変化グラフ作成)
(https://www.lberi.jp/BiwakoMap)
的に大変優れた環境情報システムを開発するだけ では解決できそうもない.重要なことは,GIS と いうツールが存在し,環境保全活動に役立つこと を知ってもらう場づくりや仕組みづくりの構築で ある.
現在,びわこ環境マップを自発的に利用してい る団体は小数ではあるが,これら活動団体が GIS 手法を利用するようになったきっかけには共通点 がある.これら団体は,内発的に GIS 手法に注目 するようになったわけではない.GIS 専門家との 係わりや既に GIS を活用していた別の活動団体と の交流など,他者の影響を受けて自発的利用に至 っていることが共通している.
そもそも環境ボランティア活動団体は,一般的 に他の団体や専門家や行政などとの関わり・つな がりを通して自らの能力や主体性を高めることが 多い.GIS の普及方法も,このような環境ボラン ティア活動の特質を踏まえる必要があろう.図 2 は,環境ボランティア活動における住民参加ツー ルとしての GIS 活用のあり方を示したものである.
4.おわりに
琵琶湖における環境保全活動の住民参加ツール としての GIS の活用は,このようにまだ課題があ る.ここでの述べたのは,WebGIS のようなシステ ムは意味がないということではなく,このような ツールを使ってもらえる仕組みをいかにして構築 できるかをあわせて考える必要があるということ である.今後ともこの点について実践的に検討し ていきたい.
表 2 GIS 利用パターンの比較
利用パターン 長所 短所
システム化によらない GIS 利用
•
住民活動の進捗にあわせて目的に応じた GIS 利用が可能
•
必要なデータがない場合,対象地域のみ 作成することで,コンテンツ不足の問題が 比較的起こりにくい.
• 活動団体と深い関わりをもつことになるの
で,情報技術全般について技術導入する ことで,GIS への理解・関心も深まり,効果 も得られやすい.
•
手間と人手が大変かかる.
• GIS を扱うことができる人材が身近なところ
に必要.
• 地域や活動グループごとにやり方をあわ
せるため,広域での展開がかなり困難.
赤野井 WebGIS
(単方向型マップシステム)
• 運用者側であらかじめ作成すれば,目的
に応じて様々なマップを作成し提供するこ とが可能.
• あらかじめマップを手作業で作成しなけれ
ばならず,運用の負担が大きい.
シ ス テ ム 化
びわこ環境マップ
(双方向型マップシステム)
• 利用者(調査者)が自分たちの調査した結
果を、自分たちでマップ化できるため、活 動の達成感を高める効果が期待できる.
•
ひとたびシステムが構築できれば運用者 側の負担は比較的小さい.
• 双方向性のために提供できるマップの表
現方法が画一的になりがち。地域の固有 性を表現しにくい.
•
システムを用意しただけで自発的な利用と 普及が進むわけではない.
GIS普及のネットワーク 研究会
ワークショップ 直接参加など
A
B
C
D システム
D システム
A B C D
システム
A B C
環境ボランティア活動に 一体化したGIS活用の仕組み
環境ボランティア活動のネットワーク