事例 2 美和木材協同組合 茨城県
事 例
2
美和木材協同組合
美和木材協同組合
求められる能力を階層別に示し
将来の幹部候補を育てる
茨城県北部に設立された美和木材協同組合は、森林面積の割合が全国平均を下回るという地 理条件のもとで、県内の事業体をリードする先進的な取り組みを続け、林業の地位向上に貢 献してきた。近年では機械化の推進やインターンシップの受け入れによって世代交代が進ん でいる。若い職員が希望をもって働き続けることができる職場をつくるために、能力評価制 度の構築に取り組んだ。 ◉所在地 茨城県常陸大宮市鷲子46-1 ◉主な事業内容 立木、素材などの共同購買及び素材の 共同生産事業、森林管理署の行う素材生産及び育林事 業の受託代行、経営及び技術の改善向上及び教育情報 の提供、労働災害防止及び福利厚生に関する事業、ピ ジョン育樹キャンペーンへの協力、木質バイオマス・ オガ粉製造販売 ◉職員数 35名(常勤役員2名、事務職員3名、現場従 業員30名) [事業体概要] 美和木材協同組合は昭和38年、地域の製材工場 によって設立された。茨城県の森林の約6割が集 中する北部山岳林地帯の南端に位置し、組合員数 は現在10人。設立当初は国有林内にある立木の共 同購入を専業としていたが、現在では素材生産や 造林事業まで幅広く事業を展開している。 専務理事を務める大森豊氏は平成23年、茨城 県庁を定年退職後に入職し、平成26年に現職に 就いた。 「茨城県は全面積に占める森林の割合が全国平均 を下回っており、林業への注目度は高いとはいえ ません。そこで働く作業員、特に若い人たちが誇 りをもって働ける職場をつくるには、どのような 環境整備が必要かを考え続けていました」(大森氏) 同組合は川西正則現理事長のもと、「全国レベ ルの事業体を目指す」という目標を掲げて先進的 な施策を実施していた。特に高性能林業機械の導 入は1990年代の後半から積極的に進めており、 平成25年には林野庁補助事業の「先進的林業機械 緊急実証・普及事業」に認定された。 機械化がもたらす労働安全の向上や、平成23 年ごろから始まったインターンシップの受け入れ によって、入職を希望する地元の高卒者が増加し た。その結果、職員の平均年齢は35歳まで若返っ ている。 大森氏は、明確な人事評価制度が確立されてい ないことが、将来的に職員の離職率を高めるので はないかという不安を抱いていた。組合の設立当 初、技能職員は事業請負のようなかたちで雇用契 約を結んでいた。昭和50年ごろより直接雇用への 切り替えが進んだが、明確な人事制度はつくられ ず、昇給や昇格は勤続年数をもとに役員がその都 度判断してきた。 「昇給や昇格に必要な要件を知らされないまま では将来設計もできません。結婚や育児のことを 考える年齢になれば不安を感じ、転職を考える人 も現われるでしょう」(大森氏) 平成25年、組合は創立50周年を迎えた。ちょ うどこの年、大森氏は能力評価システム導入事業 の説明会に参加する機会を得た。 「制度がスタートした前年度には、茨城県内の 事例はありませんでした。それならば、私たちの 手で県内のモデルとなるような評価システムを構 築しようと思い、参加を決めました」(大森氏) コンサルタントの張安徳氏による導入の支援 は、平成26年9月から12月にかけて5回にわたっ て行われた。第1回から第3回までは、事前に提 出された計画書をもとに、川西理事長および大森 氏と、対象となる技能職員にヒアリングが行われ た。ここで確認された組合の現状や評価システム のイメージをもとに、経営理念、行動指針、能力 評価シートの作成に入った。 作業は8人の職員に大森氏と参事の中郡雅一氏 を加えた10人のプロジェクトチームによって進 められた。メンバーの最年少は25歳で、業務や 組合が置かれている状況について理解しつつ、若 手の悩みや要望を代弁できる年齢ということで選 ばれた。 まずはコンサルタントが提供した複数の企業の サンプルをもとに意見を出し合い、経営理念と4 つの行動方針が定められた(図表1)。続いて能 力評価シートは前年度の事例をもとに叩き台をつ くり、プロジェクトチームのメンバーが修正を加 えて完成させた。そして第5回の指導ではプロ ジェクトチームのメンバーを対象に評価者研修が 行われ、これをもって支援は終了した。 能力評価制度の内容は、①目的、②求められる職 員像、③ステージ別役割能力要件の3点を説明す る「能力評価基準」(図表2)と「能力評価シート」 (図表3)に分かれている。ステージ別役割能力 要件とは、技能職員を階層別にレベル1(新入職 員、作業士)、レベル2(係長、主任、班長)、レ ベル3(課長、課長補佐)に分類し、それぞれに 要求される能力の水準を定義したもので、この レベルごとに3種類の能力評価シートがつくら れた。 評価の方法については、まずは本人が自己評価 を行い、続いて班長クラスの職員が1次評価、課 長クラスの職員が2次評価を記入する。2段階の チェックを通すことにより、個人的な価値観や感 情に左右されることなく公平、公正な評価を得る ことができる。 結果は最終的に役員が確認するが、そこで手を 加えることはない。上がってきた点数のまま、人 事評価の参考にするという。 項目を見ると、具体的な作業に関する指示は含 まれていない。この点について川西理事長は、林 業に携わるうえで必要な人格の形成を重視したと 語る。 「美和地区は県内でも有数の森林地域であり、 地域経済の中心は林業です。その責任を果たすた めに、消防団などの活動には積極的に参加し、役 員も引き受けています。職員は林業の技術だけで はなく、周囲から一目置かれるような人格を備え ていなければなりません」(川西理事長) 評価項目はレベルによって異なる要素に分類さ れている。そのうち共通しているのは「規律性」「責 任性」「積極性」「協調性」で、この4要素を必修 科目とし、レベルに応じて求められる要素が加え られるという仕組みになっている。 ただし、同じ要素でもレベルによって項目の数 や内容は変えている。たとえば「規律性」を見ると、 レベル1では「報告・連絡・相談が行われ、情報 の共有を図ることができた」「法令や職場の規則 を遵守することができた」など初歩的な内容の5 項目が挙げられている。これに対してレベル3で は「組合の社会的責任が果たせるよう関係者と調 整し、部下に適切な行動をとるよう指導した」と いう内容で、数は1項目のみと少ないが、課長と いう階層に応じた高度な行動が求められている。 大森氏は、最も重要な要素として、規律性を挙 げる。 「林業は他の職員との共同作業が求められます。 協調性も重要ですが、1人ひとりが最低限のルー ルを守ることができなければ、チームワークは成 り立ちません」(大森氏) 次に、追加された要素をレベル別に比較してみ よう。 レベル1は「知識・技術」が加えられ、若手職 員が定型業務を確実に遂行できるようになるため の5項目が示されている。 レベル2はチームを率いるリーダーに必要な 「知識・技術」の5項目と、「指導力」「合理化推進」 の2項目ずつが追加されている。 レベル3では共通4要素は各1項目、合計4項若い職員が希望をもって働くための
能力評価制度をつくる
階層に合った行動目標を
3種類のシートで示す
目に減り、「指導・統率」「業務改善・合理化推進」 の各2項目、「無災害の推進」の1項目、「知識・ 技術」の4項目が追加されている。この9項目に は、現場の熟練者のなかから将来の幹部候補生を 育てたいという、大森氏の思いが込められている。 「申請書の作成や営業活動といった業務は、理事 長、私、参事の3人で行っています。しかしみな 60歳を過ぎていますので、後継者の育成が急務で す。他の事業体からスカウトするという方法もあ りますが、内部から起用したほうが現場で働く職 員との人間関係も良好になるはずです」(大森氏) 今後は意欲を持つ技能職員を積極的に登用し、 評価項目の内容にも反映させていくという。 評価は毎年2回、前期と後期の終了時を予定し ているが、初年度の平成27年は本格導入前の予行 演習と位置づけている。評価者の能力を図ること が目的で、評価が本人と一致しない場合には、採 点の理由を確認する。今年度の結果次第では、1 次と2次の評価を1人ではなくグループで行うこ とも検討する。 年2回の評価だけでは、日々の行動に落とし込 むことは難しい。シートの内容を常に意識させる ための取り組みとしては、達成状況を報告する会 を四半期ごとに輪番制で行うことを検討してい る。また組合では月2回、「安全委員会」と称し て事故防止に関する情報を共有するためのミー ティングを行っているが、ここでの報告も考えて いる。さらに職員の休憩所には、入り口付近と いった目に入りやすい場所にシートを掲示する予 定だ。 いま組合では、インターンシップや小学生向け の森林教室、建築主の見学会など、職員が外部の 人と接するイベントを積極的に受け入れ、参加者 から好評を得ている。また「育ちすぎた庭の立木 を伐採してほしい」という地元住民からの直接の 依頼が増えている。住宅地では周囲に迷惑をかけ ないように、木を倒さずに伐らなければならない。 そこでプロの技が求められるのだが、お客様から 直接感謝の言葉を聞くことにより、仕事に対する モチベーションも上がる。 「若い人たちが誇りを持って林業に従事できる 環境が、現実となりつつあります。しかし、子ど もや学生さん、お客さんと直に接する仕事には、 現場の作業とは異なる能力が必要です。このよう に求められる人材像の変化も、評価項目に反映さ せたいですね」(大森氏) 今後は運用とともに内容の検討と更新を続け、 残された課題である公正、公平な処遇制度の構築 につなげていく方針だ。 11 12事例 2 美和木材協同組合 茨城県
事 例
2
美和木材協同組合
美和木材協同組合
求められる能力を階層別に示し
将来の幹部候補を育てる
茨城県北部に設立された美和木材協同組合は、森林面積の割合が全国平均を下回るという地 理条件のもとで、県内の事業体をリードする先進的な取り組みを続け、林業の地位向上に貢 献してきた。近年では機械化の推進やインターンシップの受け入れによって世代交代が進ん でいる。若い職員が希望をもって働き続けることができる職場をつくるために、能力評価制 度の構築に取り組んだ。 ◉所在地 茨城県常陸大宮市鷲子46-1 ◉主な事業内容 立木、素材などの共同購買及び素材の 共同生産事業、森林管理署の行う素材生産及び育林事 業の受託代行、経営及び技術の改善向上及び教育情報 の提供、労働災害防止及び福利厚生に関する事業、ピ ジョン育樹キャンペーンへの協力、木質バイオマス・ オガ粉製造販売 ◉職員数 35名(常勤役員2名、事務職員3名、現場従 業員30名) [事業体概要] 美和木材協同組合は昭和38年、地域の製材工場 によって設立された。茨城県の森林の約6割が集 中する北部山岳林地帯の南端に位置し、組合員数 は現在10人。設立当初は国有林内にある立木の共 同購入を専業としていたが、現在では素材生産や 造林事業まで幅広く事業を展開している。 専務理事を務める大森豊氏は平成23年、茨城 県庁を定年退職後に入職し、平成26年に現職に 就いた。 「茨城県は全面積に占める森林の割合が全国平均 を下回っており、林業への注目度は高いとはいえ ません。そこで働く作業員、特に若い人たちが誇 りをもって働ける職場をつくるには、どのような 環境整備が必要かを考え続けていました」(大森氏) 同組合は川西正則現理事長のもと、「全国レベ ルの事業体を目指す」という目標を掲げて先進的 な施策を実施していた。特に高性能林業機械の導 入は1990年代の後半から積極的に進めており、 平成25年には林野庁補助事業の「先進的林業機械 緊急実証・普及事業」に認定された。 機械化がもたらす労働安全の向上や、平成23 年ごろから始まったインターンシップの受け入れ によって、入職を希望する地元の高卒者が増加し た。その結果、職員の平均年齢は35歳まで若返っ ている。 大森氏は、明確な人事評価制度が確立されてい ないことが、将来的に職員の離職率を高めるので はないかという不安を抱いていた。組合の設立当 初、技能職員は事業請負のようなかたちで雇用契 約を結んでいた。昭和50年ごろより直接雇用への 切り替えが進んだが、明確な人事制度はつくられ ず、昇給や昇格は勤続年数をもとに役員がその都 度判断してきた。 「昇給や昇格に必要な要件を知らされないまま では将来設計もできません。結婚や育児のことを 考える年齢になれば不安を感じ、転職を考える人 も現われるでしょう」(大森氏) 平成25年、組合は創立50周年を迎えた。ちょ うどこの年、大森氏は能力評価システム導入事業 の説明会に参加する機会を得た。 「制度がスタートした前年度には、茨城県内の 事例はありませんでした。それならば、私たちの 手で県内のモデルとなるような評価システムを構 築しようと思い、参加を決めました」(大森氏) コンサルタントの張安徳氏による導入の支援 は、平成26年9月から12月にかけて5回にわたっ て行われた。第1回から第3回までは、事前に提 出された計画書をもとに、川西理事長および大森 氏と、対象となる技能職員にヒアリングが行われ た。ここで確認された組合の現状や評価システム のイメージをもとに、経営理念、行動指針、能力 評価シートの作成に入った。 作業は8人の職員に大森氏と参事の中郡雅一氏 を加えた10人のプロジェクトチームによって進 められた。メンバーの最年少は25歳で、業務や 組合が置かれている状況について理解しつつ、若 手の悩みや要望を代弁できる年齢ということで選 ばれた。 まずはコンサルタントが提供した複数の企業の サンプルをもとに意見を出し合い、経営理念と4 つの行動方針が定められた(図表1)。続いて能 力評価シートは前年度の事例をもとに叩き台をつ くり、プロジェクトチームのメンバーが修正を加 えて完成させた。そして第5回の指導ではプロ ジェクトチームのメンバーを対象に評価者研修が 行われ、これをもって支援は終了した。 能力評価制度の内容は、①目的、②求められる職 員像、③ステージ別役割能力要件の3点を説明す る「能力評価基準」(図表2)と「能力評価シート」 (図表3)に分かれている。ステージ別役割能力 要件とは、技能職員を階層別にレベル1(新入職 員、作業士)、レベル2(係長、主任、班長)、レ ベル3(課長、課長補佐)に分類し、それぞれに 要求される能力の水準を定義したもので、この レベルごとに3種類の能力評価シートがつくら れた。 評価の方法については、まずは本人が自己評価 を行い、続いて班長クラスの職員が1次評価、課 長クラスの職員が2次評価を記入する。2段階の チェックを通すことにより、個人的な価値観や感 情に左右されることなく公平、公正な評価を得る ことができる。 結果は最終的に役員が確認するが、そこで手を 加えることはない。上がってきた点数のまま、人 事評価の参考にするという。 項目を見ると、具体的な作業に関する指示は含 まれていない。この点について川西理事長は、林 業に携わるうえで必要な人格の形成を重視したと 語る。 「美和地区は県内でも有数の森林地域であり、 地域経済の中心は林業です。その責任を果たすた めに、消防団などの活動には積極的に参加し、役 員も引き受けています。職員は林業の技術だけで はなく、周囲から一目置かれるような人格を備え ていなければなりません」(川西理事長) 評価項目はレベルによって異なる要素に分類さ れている。そのうち共通しているのは「規律性」「責 任性」「積極性」「協調性」で、この4要素を必修 科目とし、レベルに応じて求められる要素が加え られるという仕組みになっている。 ただし、同じ要素でもレベルによって項目の数 や内容は変えている。たとえば「規律性」を見ると、 レベル1では「報告・連絡・相談が行われ、情報 の共有を図ることができた」「法令や職場の規則 を遵守することができた」など初歩的な内容の5 項目が挙げられている。これに対してレベル3で は「組合の社会的責任が果たせるよう関係者と調 整し、部下に適切な行動をとるよう指導した」と いう内容で、数は1項目のみと少ないが、課長と いう階層に応じた高度な行動が求められている。 大森氏は、最も重要な要素として、規律性を挙 げる。 「林業は他の職員との共同作業が求められます。 協調性も重要ですが、1人ひとりが最低限のルー ルを守ることができなければ、チームワークは成 り立ちません」(大森氏) 次に、追加された要素をレベル別に比較してみ よう。 レベル1は「知識・技術」が加えられ、若手職 員が定型業務を確実に遂行できるようになるため の5項目が示されている。 レベル2はチームを率いるリーダーに必要な 「知識・技術」の5項目と、「指導力」「合理化推進」 の2項目ずつが追加されている。 レベル3では共通4要素は各1項目、合計4項若い職員が希望をもって働くための
能力評価制度をつくる
階層に合った行動目標を
3種類のシートで示す
目に減り、「指導・統率」「業務改善・合理化推進」 の各2項目、「無災害の推進」の1項目、「知識・ 技術」の4項目が追加されている。この9項目に は、現場の熟練者のなかから将来の幹部候補生を 育てたいという、大森氏の思いが込められている。 「申請書の作成や営業活動といった業務は、理事 長、私、参事の3人で行っています。しかしみな 60歳を過ぎていますので、後継者の育成が急務で す。他の事業体からスカウトするという方法もあ りますが、内部から起用したほうが現場で働く職 員との人間関係も良好になるはずです」(大森氏) 今後は意欲を持つ技能職員を積極的に登用し、 評価項目の内容にも反映させていくという。 評価は毎年2回、前期と後期の終了時を予定し ているが、初年度の平成27年は本格導入前の予行 演習と位置づけている。評価者の能力を図ること が目的で、評価が本人と一致しない場合には、採 点の理由を確認する。今年度の結果次第では、1 次と2次の評価を1人ではなくグループで行うこ とも検討する。 年2回の評価だけでは、日々の行動に落とし込 むことは難しい。シートの内容を常に意識させる ための取り組みとしては、達成状況を報告する会 を四半期ごとに輪番制で行うことを検討してい る。また組合では月2回、「安全委員会」と称し て事故防止に関する情報を共有するためのミー ティングを行っているが、ここでの報告も考えて いる。さらに職員の休憩所には、入り口付近と いった目に入りやすい場所にシートを掲示する予 定だ。 いま組合では、インターンシップや小学生向け の森林教室、建築主の見学会など、職員が外部の 人と接するイベントを積極的に受け入れ、参加者 から好評を得ている。また「育ちすぎた庭の立木 を伐採してほしい」という地元住民からの直接の 依頼が増えている。住宅地では周囲に迷惑をかけ ないように、木を倒さずに伐らなければならない。 そこでプロの技が求められるのだが、お客様から 直接感謝の言葉を聞くことにより、仕事に対する モチベーションも上がる。 「若い人たちが誇りを持って林業に従事できる 環境が、現実となりつつあります。しかし、子ど もや学生さん、お客さんと直に接する仕事には、 現場の作業とは異なる能力が必要です。このよう に求められる人材像の変化も、評価項目に反映さ せたいですね」(大森氏) 今後は運用とともに内容の検討と更新を続け、 残された課題である公正、公平な処遇制度の構築 につなげていく方針だ。 事例 2 美和木材協同組合 茨城県事 例
2
美和木材協同組合
美和木材協同組合
求められる能力を階層別に示し
将来の幹部候補を育てる
茨城県北部に設立された美和木材協同組合は、森林面積の割合が全国平均を下回るという地 理条件のもとで、県内の事業体をリードする先進的な取り組みを続け、林業の地位向上に貢 献してきた。近年では機械化の推進やインターンシップの受け入れによって世代交代が進ん でいる。若い職員が希望をもって働き続けることができる職場をつくるために、能力評価制 度の構築に取り組んだ。 ◉所在地 茨城県常陸大宮市鷲子46-1 ◉主な事業内容 立木、素材などの共同購買及び素材の 共同生産事業、森林管理署の行う素材生産及び育林事 業の受託代行、経営及び技術の改善向上及び教育情報 の提供、労働災害防止及び福利厚生に関する事業、ピ ジョン育樹キャンペーンへの協力、木質バイオマス・ オガ粉製造販売 ◉職員数 35名(常勤役員2名、事務職員3名、現場従 業員30名) [事業体概要] 美和木材協同組合は昭和38年、地域の製材工場 によって設立された。茨城県の森林の約6割が集 中する北部山岳林地帯の南端に位置し、組合員数 は現在10人。設立当初は国有林内にある立木の共 同購入を専業としていたが、現在では素材生産や 造林事業まで幅広く事業を展開している。 専務理事を務める大森豊氏は平成23年、茨城 県庁を定年退職後に入職し、平成26年に現職に 就いた。 「茨城県は全面積に占める森林の割合が全国平均 を下回っており、林業への注目度は高いとはいえ ません。そこで働く作業員、特に若い人たちが誇 りをもって働ける職場をつくるには、どのような 環境整備が必要かを考え続けていました」(大森氏) 同組合は川西正則現理事長のもと、「全国レベ ルの事業体を目指す」という目標を掲げて先進的 な施策を実施していた。特に高性能林業機械の導 入は1990年代の後半から積極的に進めており、 平成25年には林野庁補助事業の「先進的林業機械 緊急実証・普及事業」に認定された。 機械化がもたらす労働安全の向上や、平成23 年ごろから始まったインターンシップの受け入れ によって、入職を希望する地元の高卒者が増加し た。その結果、職員の平均年齢は35歳まで若返っ ている。 大森氏は、明確な人事評価制度が確立されてい ないことが、将来的に職員の離職率を高めるので はないかという不安を抱いていた。組合の設立当 初、技能職員は事業請負のようなかたちで雇用契 約を結んでいた。昭和50年ごろより直接雇用への 切り替えが進んだが、明確な人事制度はつくられ ず、昇給や昇格は勤続年数をもとに役員がその都 度判断してきた。 「昇給や昇格に必要な要件を知らされないまま では将来設計もできません。結婚や育児のことを 考える年齢になれば不安を感じ、転職を考える人 も現われるでしょう」(大森氏) 平成25年、組合は創立50周年を迎えた。ちょ うどこの年、大森氏は能力評価システム導入事業 の説明会に参加する機会を得た。 「制度がスタートした前年度には、茨城県内の 事例はありませんでした。それならば、私たちの 手で県内のモデルとなるような評価システムを構 築しようと思い、参加を決めました」(大森氏) コンサルタントの張安徳氏による導入の支援 は、平成26年9月から12月にかけて5回にわたっ て行われた。第1回から第3回までは、事前に提 出された計画書をもとに、川西理事長および大森 氏と、対象となる技能職員にヒアリングが行われ た。ここで確認された組合の現状や評価システム のイメージをもとに、経営理念、行動指針、能力 評価シートの作成に入った。 作業は8人の職員に大森氏と参事の中郡雅一氏 を加えた10人のプロジェクトチームによって進 められた。メンバーの最年少は25歳で、業務や 組合が置かれている状況について理解しつつ、若 手の悩みや要望を代弁できる年齢ということで選 ばれた。 まずはコンサルタントが提供した複数の企業の サンプルをもとに意見を出し合い、経営理念と4 つの行動方針が定められた(図表1)。続いて能 力評価シートは前年度の事例をもとに叩き台をつ くり、プロジェクトチームのメンバーが修正を加 えて完成させた。そして第5回の指導ではプロ ジェクトチームのメンバーを対象に評価者研修が 行われ、これをもって支援は終了した。 能力評価制度の内容は、①目的、②求められる職 員像、③ステージ別役割能力要件の3点を説明す る「能力評価基準」(図表2)と「能力評価シート」 (図表3)に分かれている。ステージ別役割能力 要件とは、技能職員を階層別にレベル1(新入職 員、作業士)、レベル2(係長、主任、班長)、レ ベル3(課長、課長補佐)に分類し、それぞれに 要求される能力の水準を定義したもので、この レベルごとに3種類の能力評価シートがつくら れた。 評価の方法については、まずは本人が自己評価 を行い、続いて班長クラスの職員が1次評価、課 長クラスの職員が2次評価を記入する。2段階の チェックを通すことにより、個人的な価値観や感 情に左右されることなく公平、公正な評価を得る ことができる。 結果は最終的に役員が確認するが、そこで手を 加えることはない。上がってきた点数のまま、人 事評価の参考にするという。 項目を見ると、具体的な作業に関する指示は含 まれていない。この点について川西理事長は、林 業に携わるうえで必要な人格の形成を重視したと 語る。 「美和地区は県内でも有数の森林地域であり、 地域経済の中心は林業です。その責任を果たすた めに、消防団などの活動には積極的に参加し、役 員も引き受けています。職員は林業の技術だけで はなく、周囲から一目置かれるような人格を備え ていなければなりません」(川西理事長) 評価項目はレベルによって異なる要素に分類さ れている。そのうち共通しているのは「規律性」「責 任性」「積極性」「協調性」で、この4要素を必修 科目とし、レベルに応じて求められる要素が加え られるという仕組みになっている。 ただし、同じ要素でもレベルによって項目の数 や内容は変えている。たとえば「規律性」を見ると、 レベル1では「報告・連絡・相談が行われ、情報 の共有を図ることができた」「法令や職場の規則 を遵守することができた」など初歩的な内容の5 項目が挙げられている。これに対してレベル3で は「組合の社会的責任が果たせるよう関係者と調 整し、部下に適切な行動をとるよう指導した」と いう内容で、数は1項目のみと少ないが、課長と いう階層に応じた高度な行動が求められている。 大森氏は、最も重要な要素として、規律性を挙 げる。 「林業は他の職員との共同作業が求められます。 協調性も重要ですが、1人ひとりが最低限のルー ルを守ることができなければ、チームワークは成 り立ちません」(大森氏) 次に、追加された要素をレベル別に比較してみ よう。 レベル1は「知識・技術」が加えられ、若手職 員が定型業務を確実に遂行できるようになるため の5項目が示されている。 レベル2はチームを率いるリーダーに必要な 「知識・技術」の5項目と、「指導力」「合理化推進」 の2項目ずつが追加されている。 レベル3では共通4要素は各1項目、合計4項若い職員が希望をもって働くための
能力評価制度をつくる
階層に合った行動目標を
3種類のシートで示す
目に減り、「指導・統率」「業務改善・合理化推進」 の各2項目、「無災害の推進」の1項目、「知識・ 技術」の4項目が追加されている。この9項目に は、現場の熟練者のなかから将来の幹部候補生を 育てたいという、大森氏の思いが込められている。 「申請書の作成や営業活動といった業務は、理事 長、私、参事の3人で行っています。しかしみな 60歳を過ぎていますので、後継者の育成が急務で す。他の事業体からスカウトするという方法もあ りますが、内部から起用したほうが現場で働く職 員との人間関係も良好になるはずです」(大森氏) 今後は意欲を持つ技能職員を積極的に登用し、 評価項目の内容にも反映させていくという。 評価は毎年2回、前期と後期の終了時を予定し ているが、初年度の平成27年は本格導入前の予行 演習と位置づけている。評価者の能力を図ること が目的で、評価が本人と一致しない場合には、採 点の理由を確認する。今年度の結果次第では、1 次と2次の評価を1人ではなくグループで行うこ とも検討する。 年2回の評価だけでは、日々の行動に落とし込 むことは難しい。シートの内容を常に意識させる ための取り組みとしては、達成状況を報告する会 を四半期ごとに輪番制で行うことを検討してい る。また組合では月2回、「安全委員会」と称し て事故防止に関する情報を共有するためのミー ティングを行っているが、ここでの報告も考えて いる。さらに職員の休憩所には、入り口付近と いった目に入りやすい場所にシートを掲示する予 定だ。 いま組合では、インターンシップや小学生向け の森林教室、建築主の見学会など、職員が外部の 人と接するイベントを積極的に受け入れ、参加者 から好評を得ている。また「育ちすぎた庭の立木 を伐採してほしい」という地元住民からの直接の 依頼が増えている。住宅地では周囲に迷惑をかけ ないように、木を倒さずに伐らなければならない。 そこでプロの技が求められるのだが、お客様から 直接感謝の言葉を聞くことにより、仕事に対する モチベーションも上がる。 「若い人たちが誇りを持って林業に従事できる 環境が、現実となりつつあります。しかし、子ど もや学生さん、お客さんと直に接する仕事には、 現場の作業とは異なる能力が必要です。このよう に求められる人材像の変化も、評価項目に反映さ せたいですね」(大森氏) 今後は運用とともに内容の検討と更新を続け、 残された課題である公正、公平な処遇制度の構築 につなげていく方針だ。事例 2 美和木材協同組合 茨城県