■ 短 報
本研究は、長期入院の統合失調症患者がどのように自己決定をして退院に至ったのか、そのプロセスを明ら かにすることを目的とした。1年以上の入院を経て退院した患者9名に半構成的面接を実施し、質的な分析を 行った。さらに、入院時の診療記録等との関連を検討し、退院に至った自己決定のプロセスを分析した。その 結果、管理的な環境での長期入院統合失調症患者は、退院の基準を自ら見出すことが困難で、退院の可否は医 療者の判断に委ねてきた。退院意向のある患者は、決定の場に参加することで「自己の決定」と認識し、退院 意向のなかった患者は、退院支援の実感や、関与の度合いによって「自己の決定」や「共同の決定」、「周囲の 決定」と捉えていた。退院の決定には患者−看護師関係が影響し、決定を支援する看護師の8つの役割が明ら かになった。
The purpose of this study was to clarify the process of self-determination that led to the discharge of patients with schizophrenia after long-term hospitalization. Nine patients with schizophrenia underwent semi-structured interviews after hospital discharge. The interviews were qualitatively analyzed, and each patient’s responses were analyzed in relation to their medical records. Patients with schizophrenia found it difficult to adopt a suitable self-determination process in an administrative environment because of long-term hospitalization. Instead, they entrusted this responsibility to the person in charge of their medical care. Patients with intentions of being discharged recognized “self-determination” and “decision of others” as factors that influenced the decision-making process. Patients were classified on the basis of participation in a discharge meeting. Patients who had no such intentions regarded “self-determination,” “codetermination,” and “decision of others” as factors. Patients were classified according to the extent of participation in the decision-making process and the discharge support they received. The results also showed that nurse‒patient relationships influenced the decision of patient discharge. A total of 8 roles played by nurses in the process of supporting patient decisions were identified.
長期入院を経て退院に至った統合失調症患者の 自己決定のプロセス
Process of self-determination of discharge after long-term hospitalization in patients with schizophrenia
小山 明美
1Akemi KOYAMA
キーワード:自己決定、統合失調症、退院、長期入院
Key words:self-determination, schizophrenia, discharge, long-term hospitalization
1 慈雲堂内科病院 Jiundo-Naika Hospital
尊重、決定者と決定方法、支援者と支援内容などを 主な内容とした半構成的面接を個別に実施した。対 象者の承諾を得て録音し、平均面接時間は約50分、
面接回数は各対象者1回とした。医療者が捉えた退 院までの経過は、入院時の診療録と看護記録から収 集した。収集期間は2011年7月〜12月であった。
2.分析方法
面接内容の逐語録を読み込み、継時的に秩序づ け、事例毎に全体像を把握した。事例研究方法を用 い、事例毎の意味を解釈し、特徴を把握した。その 後、各事例の自己決定のテーマ、類型を見出し、類 型毎の特徴を把握した。また、事例の共通点と相違 点を整理した。
さらに、面接内容の分析結果と、診療記録から得 た退院までの経過との関連を検討し、退院に至った 決定のプロセスを分析し記述した。また、信頼性・
妥当性を高めるため、精神看護の専門家からスー パーバイズを受けた。
3.倫理的配慮
対象者と主治医には、個別に研究目的や方法、倫 理上の配慮などについて文書と口頭で説明し、研究 不参加や中断により不利益が生じないこと、匿名性 の厳守を約束し同意書を得た。対象者の同意能力と 参加の適否は、主治医に判定を依頼した。面接は対 象者の精神状態を配慮しながら個室で行った。診療 録と看護記録の利用は対象者、研究施設長、主治医 の許可を得た。本研究は東京女子医科大学および研 究施設の倫理委員会の承認を得た。
Ϫ.結果
1.対象者の概要
対象者9名は、男性6名、女性3名、年齢は30〜
70歳代、直近の入院期間は1年半〜14年半であっ
た。退院先は、入院前の住居2名、新規契約のア パート3名、グループホーム4名で、同居の有無 は、家族同居1名、単身8名であった。入院形態 は、A氏を除く8名は措置入院または医療保護入 院、A氏は任意入院だが本人の同意を得て、閉鎖病 棟に入院した。退院時には皆、任意入院に形態変更 されていた。対象者の背景を表1に示す。
2.退院の決定プロセスの類型毎の特徴
患者が捉えた退院の決定者で事例を分類した結
Ϩ.はじめに
統合失調症は、残遺期で陰性症状が増加し、セル フケアと対人関係の欠陥が特徴となる。好発年齢は 15〜35歳で、ソーシャルスキルが未熟なまま長期入 院となり、患者家族医療者共に退院の可能性を認識 できずにいた1。
長期入院患者への支援の1つが退院ニードの発現2 であり、退院意向の形成は困難で、支援は長期に及 ぶ。そのため、看護師と患者の思いにズレが生じ、
看護師は社会的入院や退院に倫理的問題を抱えてい
た3, 4, 5。看護師の役割としては、関係性の中での自
己決定6や意思決定のプロセスに関わる重要性7, 8が 示唆されていた。
長期入院患者は苦悩し9、医療者が入院治療の必 要なしと判断した場合でも、時に入院継続を希望す る。しかし、その意思が治療継続や退院拒否を意味 するのかは一概には言えない。精神科患者の判断能 力に関し北村10は、「十分な情報開示なきまま、患者 の判断能力が脆弱しているあるいは欠如していると の結論を出すことに警鐘を鳴らしている」。さらに、
患者が自己決定権を認識していない場合が多く、な ぜ患者が不足した情報に満足し情報開示を求めない かを、個別に問う態度が医療者に求められるとした。
統合失調症患者の判断能力は急性期に著しく低下 するため、人権や自己決定の侵害、偏見は根強く残 る。しかし、医療者に退院可能と判断された患者の 判断能力は回復傾向にあり、自己決定の権利は尊重 されるべきと考える。
そこで、本研究は患者が自己決定したと認識して いるか否かを焦点の1つとし、長期入院統合失調症 患者がどのように決定をして退院に至ったのか、そ のプロセスを明らかにすることを目的とした。
ϩ.研究方法
1.研究対象者とデータ収集方法
対象者は、統合失調症と告知され、直近の入院が 1年以上で、退院後の成人9名である。現在、デイ ケア・訪問看護などの支援を得ている者とした。対 象施設は精神科医療の現状を考慮し、医療法人精神 科病院の1施設とした。本研究では、入院1年以上
(精神科入院患者総数の70.5%)で退院が難しくな る11とした見解と精神病床平均在院日数を考慮し、
長期入院を1年以上の入院とした。
面接は、退院意向と動機、退院への不安、意思の
表1 対象者の背景
対象者 性別 年齢 入院回数 直近の入院期間(年) 退院先 家族同居 退院後の期間
A氏 女 47 4 2.5 入院前の住居 無 5ヶ月
B氏 男 37 2 1.5 グループホーム 無 1年半
C氏 男 64 2 5.5 グループホーム 無 5年半
D氏 男 58 1 10 新規アパート 無 5ヶ月
E氏 男 68 1 14.5 新規アパート 無 1年半
F氏 女 72 3 14 入院前の住居 有 5ヶ月
G氏 女 68 1 4 新規アパート 無 4年
H氏 男 49 1 6 グループホーム 無 2ヶ月
I氏 男 62 4 4 グループホーム 無 3年
表2 決定の類型別事例と影響因子
類型 対象者 事例 退院意向 決定の場の参加 支援の実感 不安
自己の決定 A氏 退院の目的や必要性を自覚した事例 有 有 有 無
B氏 譲歩し自己決定した事例 有 有 有 無
C氏 医療者の決定を承諾し自己決定とした事例 無 有 有 有
共同の決定 D氏 話し合いを重ね合意した事例 無 有 有 有
E氏 周囲の勧めで消極的に合意した事例 無 有 有 無
周囲の決定 F氏 本人が決定権を放棄した事例 無 有 無 無
G氏 周囲の決定を受け入れた事例 無 有 有 有
H氏 決定に自己関与感のない事例 有 有 無 有
I氏 看護師主導の事例 有 無 有 無
医師との面談、家族や多職種参加の話し合いのどち らでも良い。退院の意向が乏しい場合、退院後の生 活に関する自己決定を積み重ねることで『自己の決 定』と認識した。
先生にもいいですよ退院って言われたんで。自 分が例えば船だったら、船長はあなたよって言 われて。(A氏)
自分で決めたってなってるかもしんないね。
(C氏)
2)『共同の決定』と捉えた事例の特徴
『共同の決定』と認識した患者は、「退院の意向」
はないが「決定の場に参加」し、「退院支援を実感」
していた。退院の意向がないため、話し合いを繰り 返し、退院意向の形成と自律的な決定を支援された 果、『自己の決定』3事例、『共同の決定』2事例、
『周囲の決定』4事例の3類型となった。決定の類 型別事例と影響因子を表2に示す。
退院の自己決定には、「退院の意向」「決定の場へ の参加」「退院支援の実感」の3つの要因が関連し ていた。退院の意向がない場合は、決定の場に参加 し同意しても、必ずしも『自己の決定』と認識せ ず、その後の「退院支援の実感」や退院後の生活の 決定にどの程度関与したかによって、『自己の決定』
『共同の決定』『周囲の決定』に分かれた。退院の不 安は「退院の意向」との関連が考えられるが、決定 への直接的な影響はなかった。類型毎の特徴をまと め、対象者の言動を以下に記す。
1)『自己の決定』と捉えた事例の特徴
「退院の意向」がある場合、「決定の場に参加」す ることで『自己の決定』と認識した。決定の場は、
を見つけることで、退院準備は退院後の生活準備で あった。
自分の部屋見たら、誰もが退院したがるんじゃ ない。生きれるスペースがあると退院したいっ て思いますね。(C氏)
ϫ.考察
1.長期入院統合失調症患者における退院の自己決定
1)自己決定への影響要因
『自己の決定』には、「退院の意向」と「決定の場 への参加」が必要であった。また、人間の意思決定 は感情や自己関与感、協力の快感などの人間関係的 な問題が重要な役割を果たしている12。統合失調症 患者も同様に、「退院支援の実感」や医療者との関 係性が自己決定の要因であった。
自己決定の阻害因子は、「病識のなさ」「入院治療 の必要性と退院指標のなさ」「管理的保護的環境」
「自己決定権の認識のなさ」「将来の見通しのなさ」
であった。統合失調症の病識のなさが関連し、患者 は入院治療の必要性や退院の指標を、疾患と結びつ けることができず、閉鎖病棟や行動制限といった管 理的保護的環境の中、自己決定権がないと感じ、決 定を医療者に委ねていた。また、統合失調症の陰性 症状、自尊心の低さと将来の見通しのなさが、自己 決定を阻害していた。
2)決定の同意
決定の場に参加し同意しても退院の意向がない場 合、患者は『周囲の決定』と捉えた。そこで、看護 師は説得や情報の偏り、集団の同調圧力のよる暗黙 同意がなかったかを内省し、患者の意思や感情がど の程度伴っていたのかを理解する必要があった。清 水7は、意思決定のプロセスは同時にケアのプロセ スであり、患者が意思 informed will を形成できるよ うにサポートすることが重要だと述べる。統合失調 症は思考や感情、対人関係の障害が特徴である。患 者がどのように認識し、選択したかを知ることが重 要であった。
患者が同意しない場合でも、「退院を考えてない」
と「ずっと入院」、「退院したい」と「退院できる」
は別であり、患者の言動の意図を探り、言語化され ない不安や意思がないか、決定の場以外でも対話を 通して検討する必要がある。Beauchamp は、抵抗す る患者の説得が必ずしも自律尊重を侵害するわけで ことが影響して『共同の決定』と捉えた。
やっぱり自分の気持ちでしょうね。納得しない で退院はない。自分の気持ちと、皆のあれが丁 度合ったんでしょうね。みんながサポートして くれたからね。流れに乗って進んだって感じで すよ。(D氏)
3)『周囲の決定』と捉えた事例の特徴
『周囲の決定』と認識した患者は、「退院の意向」
はあるが「決定の場に参加」しない事例、「決定の 場に参加」したが「退院支援の実感」のない事例な ど、『自己の決定』や『共同の決定』に至る条件が 不足していた。
自分でなく、結構周りが退院って、指示して決 めてくれるから。(F氏)
だって成り行きに任せるっていうのか、言われ た通りにしてたんですよ。(H氏)
周りがいる。その人達の意見は大事。自分で決 めたくない。(I氏)
3.事例全体の共通点
退院の決定内容は「退院の可否」と「退院後の生 活」であった。決定内容の特徴をまとめ、対象者の 言動を以下に記す。
1)退院の可否
病識に乏しいが、精神疾患であると患者は認識 し、自己の特殊性を感じていた。そのため、疾患や 他患の退院に関心は薄く、患者関係は退院に影響が なかった。また、入院治療の目的が不明瞭で、疾患 の回復は退院を意味していない。その結果、患者は
「退院の可否」に関する決定権がないと感じ、医療 者に判断を委ねた。退院は医療者からの働きかけ で、退院の反対はなかったと捉えた。
もう諦めた頃に看護師さんの方に言われたん で、退院しようかって。(B氏)
やっぱり先生が勧めないと退院する気にならな いね。(G氏)
2)退院後の生活
「退院後の生活」に関する決定は患者家族の意見 が優先され、生活が具体的に見えた時や退院後に患 者は退院を実感した。退院の意味は、次の生活の場
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図1.退院の自己決定要因と看護師の役割
のかを見極める必要がある。さらに、看護師による 関係者間の調整は退院に影響を与えるが、調整は患 者から見えず支援を実感できない。見える支援、伝 わる看護、共に歩む関係は、患者にとって、意向を 汲んでもらった、良くしてもらえる存在である自分 を実感させる。また、入院中も地域と、退院後も病 院とつながることで、「退院支援の実感」が得ら れ、自己決定が容易になる。
患者の自己決定を支援する看護師の役割を以下に 示す。①患者・家族・多職種へ、退院の可否に関す る判断指標となる情報の提供者、②傾聴することに より、意識や感情を明確化し思考を促すカウンセ ラー、③現状と退院後の生活を見据えた資源の評価 者、肯定的な能力の承認者、④きっかけを作りcon- sentからwillへの動機づけを促す者、⑤選択肢の共 同探求者、⑥患者に伝わる看護、見える支援の提供 者、⑦医療ケアチーム、地域や家族への調整者、⑧ 退院に向けて患者をガイドし、共に歩む者。
Ϭ.研究の限界と今後の課題
本研究は1施設の対象者による事例研究方法を用 いたため、一般化することに限界がある。また、話 し合いは医療者間の方向性を統一し、家族の意向を 確認後、患者の同意を得る事例が多かったが、本研 究で患者家族の意見の相違や、家族の決定に関して は言及しない。今後、同意や決定の場への参加方法 の検討が望まれる。
謝辞
本研究は看護系大学院課題研究に加筆修正したもの です。ご協力ご指導いただいた皆様に深く感謝致しま す。
はないと述べる (p.118)13。地域で生活することが より治療的であると判断した医療者の意見は、患者 の判断指標として提供すべきで、自己決定を尊重す ると共に、患者の最善の利益を考慮し、選択肢を準 備する必要があった。
3)自己決定の放棄
自己決定を放棄し、信頼する他者に決定を委ねた
『周囲の決定』であっても、再入院を希望していな い。Beauchamp は、自律の尊重は専門職の責務であ る。しかし、自律的な選択は患者の権利であって義 務ではないと述べる (p.80)13。日常の自己決定を積 み重ねる前に、退院という重大な自己決定を強いて しまえば、患者の不安は高まる。制限の少ない環境 に努め、日常生活の選択から自己決定を支援し、強 いられる自己決定ではなく、精神疾患患者の安寧を 脅かさないよう、自己関与感を高めることから始め る必要があった。
2.看護実践への示唆
患者や家族、医療者にとって長期入院患者の退院 指標は不明確であった。疾患の査定は医師の意見が 重要である一方、現状と退院後の生活を見据えた生 活能力の査定は看護師が行うべき判断であった。看 護師は患者の能力を肯定的に承認し、伝え、目的や 見通しを見出せるように支援する。また、患者が聴 くことを看護師に望んだように、対話を通して思考 や感情を明確に意識化し、意思を言語化できるよう に援助することで、「退院の意向」が形成され自己 決定に結び付く。
決定による自己責任を強いるのでなく、共に悩み 考え、失敗をも支え合う関係が看護師に求められ る。患者の揺らぎから逃げず、寄り添い、何に迷う
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