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‐化学物質管理に係る個人的体験記‐

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民主主義の法治国家になりきれていない日本の一断面

‐化学物質管理に係る個人的体験記‐

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化学生物総合管理 第11巻第1号 (2015.8) 1-3 受理日:201576

【巻頭言】

民主主義の法治国家になりきれていない日本の一断面

‐化学物質管理に係る個人的体験記‐

星川欣孝

ケミカルリスク研究所所長

化学物質管理に係る長年の経験で最も感慨深いのは、1992 年 6月の UNCED (国連 環境開発会議) における世界の持続可能な発展のための行動計画であるアジェンダ 21 の採択を受けて、日本化学工業協会 (日化協) が世界の化学産業界と協調してレスポン シブル・ケア活動に取り組むこととなり、1992年7月から約4年間事務局に出向した ことであった。

主な役割は、日化協のレスポンシブル・ケア活動のための、アジェンダ21第19章 (有 害物質の適正管理) に基づく各種国際機関の活動への対応と自主的な化学物質総合管 理の実施に必要な体制の整備であった。その間に参加した主な国際会議は、IFCS (政府 間化学物質安全フォーラム)、OECD (経済協力開発会議)、ILO (国際労働機構)、IPCS (国 際化学物質安全計画) などのアジェンダ21第19章に規定された活動計画に係る様々な 国際会議と化学業界の世界的な協議体である ICCA (国際化学工業協会協議会) のリー ダー会合であった。

そこにおける体験は、先進的な OECD 加盟国の政府関係者等が先導して化学物質適 正管理の世界的な実現を目指した時代の潮流に身を晒し、共通の課題に挑戦する機会の 連続であった。

この潮流はその後、2002年9月のWSSD (持続可能な発展に関する世界首脳会議) の 実施計画の採択で再確認され、2006年2月にドバイで開催されたICCM (国際化学物質 管理会議) の SAICM (国際化学物質管理の戦略的取組み) に引き継がれて今日に至っ ている。

ただし、後で認識したことであったが、この化学物質適正管理の潮流の源泉は、1970 年代からのOECD (経済協力開発機構) の活動であった。その活動も当初は、水銀、PCB などによる環境汚染対策であったが、1971 年 5月に化学物質のリスク管理について加 盟国の協調的な取組みを行うために、日本政府も参画して新たな検討グループが設置さ れた。この検討グループは後に「化学物質グループ」に改称されたが、主な任務は、化

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学物質の人と環境に対するハザードとリスクを包括的に評価して管理する方法論を確 立すること、そして確立した方法論に基づいて加盟国の分担で化学業界も参画して高生 産量 (HPV) 化学物質のスクリーニング評価を実施することであった。

OECD は、加盟国が化学物質の大半を生産し、かつ相互に活発に国際取引している 事実に着目した。そして各国の法規制の違いが化学製品の国際取引に対する非関税障壁 になることを防止するため、および化学物質のハザードやリスクの評価や管理に係る各 国の負担を軽減するために、化学物質の包括的なハザード評価やリスク管理の概念や方 法論について国際的な標準の確立を目指して理事会決議を数多く採択してきた。

それらの理事会決議の中でとりわけ重要なものは、1974年と1977年の初期の2つの 理事会決議であった。それらの理事会決議は、加盟国に化学物質の包括的なハザード評 価とリスク管理を促し、その概念に基づく「化学物質総合管理法制」を整備することを 要請したものであった。

つまり、1974 年の OECD理事会決議は、1971 年にアメリカの大統領府が連邦議会 に提出したTSCA (有害物質管理法) 法案をモデルとしている。そして1973年に日本が 制定した化学物質審査規制法 (化審法) のような取締法的な法規でなく、化学物質の人 と環境に対するハザードとリスクの評価と管理を包括的かつ一元的に行う総合的な管 理法制の実施を加盟国に推奨した。そして欧州連合 (EU) を始め、カナダやオーストラ リアも、OECD の理事会決議に呼応してそれぞれの仕方で化学物質総合管理の法制を 整備してきた。

ところが、日本においては政府も化審法を所管する各省も、OECD の国際協調的な 措置に呼応した国内対応の重要性を認識せず、不作為の姿勢を取り続けており、40 年 を経過したにもかかわらず、未だに化学物質総合管理を基本とする法制の整備が進んで いない。そして、グローバルな事業展開の中で国際競争力の維持向上に欠かせない国際 調和の必要性を強く認識しているはずの産業界も、世界の潮流から大きく遅れたこうし た現況を看過している。

世界の中における日本を語る日本国政府が、あるいは、国際機関の活動を分割的に所 掌する行政府が、自ら合意に参加した事柄に沿って行動することなく合意内容を放置す るこのような姿勢を取り続けることは、端的に言って、国民の利益を蔑にする所業であ る。そのような理不尽なことができるということは、2009 年 5月の化審法改正時の国 会の附帯決議に誠実に対応することなく放置していることも含めて、日本が、未だに民 主主義の法治国家になりきっておらず、統治システムに重大な欠陥があるのではないか と判断せざるを得ない。

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民主主義の法治国家になりきれていない日本の一断面

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しかしそうではなく、これが学界のみならず、官界や産業界に集う人材がすっかり劣 化してしまっている結果であるとすれば、日本の将来はなお一層懸念される。

市井の一市民にすぎない著者らでさえ、国際的な潮流を踏まえれば、「化学物質総合 管理法」の法律要綱案を作成して学会誌で公開する程度のことができることを考えれば、

日本国政府に参集する官界の、あるいは世界をまたにかけて活躍する産業界の俊英にそ れ以上のことを実行する能力がないとは、国民の一人として想定したくもないことであ る。

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