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(1)

中小企業向け貸出における銀行の金利設定行動‑‑リ スクを反映した金利設定実現に向けての課題

著者 益田 安良

著者別名 Masuda Yasuyoshi

雑誌名 経済論集

巻 30

号 1

ページ 41‑59

発行年 2004‑10

URL http://id.nii.ac.jp/1060/00005351/

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止

(2)

1 は じ め に

中小企業の資金繰り強化、銀行の収益基盤の拡充、金融緩和効果の発現などの観点から、中小 企業金融の整備・拡充が求められている。しかし、中小企業は、ディスクロージャーが不足して おり、資金調達における情報の非対称性が大きい。また金融機関にとっては、案件ごとの与信コ ストの負担率が大きい。こうした根本的な特性により、中小企業の資金調達は大・中堅企業に比べ て相対的に阻害されがちである。このため、情報の非対称性のコストを補うに十分なリスク・プレ ミアムが、貸出金利に上乗せされるかどうかが中小企業金融拡充の可否の鍵を握っている。

本稿では、銀行の中小企業向け貸出の金利が、企業の財務力に応じたリスク・プレミアムを織り 込んだ水準に設定されているかどうかを、業種別クロスセクション分析などにより探る。

結論を先取りすれば、邦銀の貸出金利は企業の財務状況や格付けを十分に反映していない。す なわち、貸出市場におけるクレジット・イールドカーブは、合理的に形成されているとは言い難い 状況にある。

他方で貸出市場では、貸出債権の証券化やクレジット・スコアリングの普及といった新しい動き

中小企業向け貸出における銀行の金利設定行動

―リスクを反映した金利設定実現に向けての課題―

益 田 安 良

目   次

1 はじめに

2 中小企業金融の重要性と特殊性

3 貸出金利と中小企業向け貸出行動の関係〔理論的な意味合い〕

4 貸出金利の設定状況

5 中小企業金融における新しい動き 6 中小企業金融再構築の為の課題〔総括〕

(3)

もある。本稿では、こうした新たな動きの貸出金利体系への影響についても考察する。

2 中小企業金融の重要性と特殊性

2−1 中小企業金融拡充が求められる背景

中小企業金融1)の拡充・整備は、様々な観点から求められる。

第1に、中小企業自体の資金繰り強化の観点である。1990 年代以降、経済停滞に伴う銀行のリ スク認識の高まりや担保価値の低下、企業間信用の縮小などにより、多くの中小企業が資金繰り 難に陥った。中小企業は、元来、外部資金調達に占める借入れの比率(あるいは間接金融比率)

が高い。日本企業の外部資金調達に占める借入金(手形割引を含む)の比率をみると、日本企業 全体では 90.3%だが、中小企業ではほぼ 100%である(表1)2)。このため、90 年代以降の金融不安 の下で、中小企業の資金繰りは、大企業以上に深刻であった。

こうした状況を是正すべく、政府も様々な対策を図ってきた。例えば、金融庁による銀行に対

1)本稿では、中小企業基本法の定義に則り、製造業では資本金 3 億円以下・従業員 300 人以下、卸売業では資本金 1 億円 以下・従業員 100 人以下、小売業では資本金5千万円以下・従業員 50 人以下、サービス業では資本金 5 千万円以下・従業 員 100 人以下を中小企業と定義する。

なお、中小企業には、○1ベンチャー企業、○2大企業の子会社、○3独立系既存中小企業が混在しており、其々の金融状況 は全く異なる。本稿では、中小企業の大半を占める「○3独立系既存中小企業」を想定して論を進めるが、文中の諸データ は上記の3つの形態のいずれをも含む。

2)米国企業の資金調達に占める借入れの比率は 46%と日本に比べて低い(表1)。しかし、米国においても中小企業は相 対的に借入れ比率が高い。2000 年末の米国企業(製造業)の外部資金調達に占める金融機関借入れの比率は、大企業で は 27%に過ぎないが、中小企業では 61 %であった(米国財務省 Quarterly Financial Report による)

表1 法人企業の外部資金調達の内訳

日本

(2003年末)

米国

(2003年末)

      (資本金)

有利子外部資金調達額  借入金

  金融機関   手形割引   その他  市場性調達   社債   CP  自己資本比率

100.0 90.3 71.2 2.3 16.8 9.7     27.4

100.0 100.0 62.7 1.7 35.6 0.0     10.2

100.0 99.4 76.6 3.9 18.9 0.6     23.0

100.0 98.2 80.9 2.6 14.6 1.8     24.1

100.0 75.6 64.0 0.6 11.0 24.4     33.7

100.0 83.0 62.8   20.1 17.0 14.1 2.9 26.7

100.0 37.4 12.3   25.1 62.6 57.6 5.0   10M未満 10M〜1億 1億〜10億 10億以上

全企業(2002年度末)

(%)

( 注 )「日本」は、日本銀行『資金循環勘定』の民間非金融法人の数値。

    同列における金融機関は「民間金融機関」、手形割引は金融機関に含まれる。

(資料)財務省「法人企業統計調査」(http://www.mof.go.jp/1c002.htm)、日本銀行「資金循環勘定」(http://www.boj.or.jp  /stat/stat̲f.htm)、Board of Governors of the Federal Reserve System(米国連邦準備制度理事会) Flow of  Funds Accounts  (http://www.federalreserve.gov/releases/z1/current/data.htm)により筆者作成。

(4)

する中小企業向け融資拡充目標の設定、政府系金融機関の中小企業向け貸出の増強、特別信用保 証制度の創設(98 年 10 月)といった策を次々と繰り出してきている。

第2に、中小企業向け貸出は、依然銀行にとって最も重要な収益源である。80 年代以降の大企 業の資金調達の直接金融へのシフトに伴い、大手銀行は中小企業向け貸出に注力した。そして、

80 年代後半には不動産価格の急上昇の下で担保を過剰に重視する姿勢が強まり、中小企業向け貸 出も急増した。その後 90 年代に入り不動産価格が急低下し、不良債権が増加する中で実際の中小 企業向け貸出は低迷するが(図1)、中小企業の資金需要自体は大・中堅企業に比べて乏しくなっ たわけではない(図2)。大企業は、証券発行での資金調達にさらにシフトし、銀行にとっての中 小企業向け融資の重要性はむしろ高まっているといえよう。実際に、銀行の貸出姿勢をアンケー ト調査でみると、中小企業に対する融資姿勢は、大・中堅企業向けに比べて、一貫して積極的であ ることがわかる(図3)。

第3に、中小企業向け貸出の動向は、金融緩和効果の浸透(すなわちマネーサプライ拡大)の 鍵をも握っている3)。日本銀行は銀行市場に対して巨額の資金を供給し続けているが、銀行の企 業向け与信の増勢が乏しく(図1)、金融緩和効果が発揮されない状況にある。マネーサプライが 拡大する為には、民間銀行の中小企業向け融資の拡大が不可欠である。

2−2 中小企業金融の特異性

では、なぜ中小企業に焦点をあてて金融問題を論ずるのか。それは、元来中小企業の資金調達

600 500 400 300 200 100 0

(兆円)

1980 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02(年度)

図1 貸出残高の内訳

( 注 )各年度の平均、2003年度は4〜12月平均。

(資料)日本銀行「貸出先別貸出金」(http://www.boj.or.jp/stat/

    dlong̲f.htm)により筆者作成。

総貸出

大中堅企業向け

個人向け

中小企業向け 企業向け

3)詳細は、益田[2003b]参照。

(5)

は、「ディスクロージャーの不備」「与信における固定費負担」という2つの特質により、大企業 に比べて疎外される傾向があるからである。

(1)ディスクロージャー不備

企業金融における基本的な要素に、「情報の非対称性」がある。すなわち、貸し手(銀行等)は、

借り手(企業)に比べて不十分な情報しか保有しないという性格であり、これがモラルハザード 5

0

−5

−10

−15

−20

−25

−302000 01 02 03 04

中堅企業

中小企業 大企業

(%)

(年)

<資金需要動向D.I.:「増加」−「減少」> 図2 企業の資金需要の変化

( 注 )回答構成比(「増加」−「減少」

(資料)日本銀行「主要銀行貸出動向アンケート調査」(http://

    www.boj.or.jp/stat/stat̲f.htm)により筆者作成。

図3 銀行の貸出スタンス 45

40 35 30 25 20 15 10 5 0

(%)

2000 01 02 03 04 (年)

( 注 )回答構成比(「積極化」−「慎重化」

(資料)日本銀行「主要銀行貸出動向アンケート調査」(http://www.boj.or.jp/

    stat/stat̲f.htm)により筆者作成。

中小企業向け

中堅企業向け 大企業向け

(6)

や逆選択の原因となる。これは、あらゆる企業金融に普遍的な現象だが、中小企業の場合はとり わけその程度が大きいと考えられる。情報の非対称性を埋める「ディスクロージャー」が、中小 企業では不足しがちだからである(Berger & Udell[1998]、松浦・竹澤[2001])。とくに、小企業 の会計はオーナーの個人勘定との混同が生じやすく、把握が困難なケースが多い。

(2)与信における固定費用(審査・モニタリングのコスト)の負担

貸し手は、与信活動において借り手の発掘、審査、モニタリング、回収といった作業を繰り返 す。この際、審査やモニタリングには相応の費用を要するが、その費用には規模の経済性が働く。

即ち、小口の案件であっても、大口と同様の費用がかかるため、与信額(収益額)に対する与信 費用の比率は小口与信の方が高くなる傾向がある。また、中小企業の場合は、企業間の質の差異 が大きく、その分審査費用も拡大しがちであるとの指摘もある(塩澤[2000])。

こうしたことから、景気後退期や金融引締期には、貸し手は与信効率の観点から中小企業に対 する与信を抑制する傾向があると指摘されている(Bernanke[1983]、Cooper and Corbae[1997])。 同時に、借り手サイドにも、中小企業の資金調達が抑制される要因がある。中小企業の場合、情 報の非対称性を埋めるために借り手が負担するシグナリング費用4)の負担が相対的に大きい。こ の為、不況期には中小企業はシグナリングを怠りがちとなり、これが貸し手の更なる与信抑制を 招きがちとなるからである。

上記は、いずれも情報の非対称性に伴う信用リスク(及びそのコスト)に係わる問題である。

従って、信用リスク(コスト)に見合う適正な価格(金利)さえ設定されれば、中小企業金融の 特異性に伴う問題もある程度克服が可能であると考えられる。かかる観点から、以下、中小企業 向け貸出金利の設定状況を中心にその改善課題について考察したい。

3 貸出金利と中小企業向け貸出行動の関係[理論的な意味合い]

まず、信用リスク(信用コスト)に見合う貸出金利が形成されるか否かが、マクロ経済の貸出 量や銀行の貸出行動において、理論的にどのような意味を持つのかを整理する。

3−1 リスク・プレミアムと資金供給の制約(マクロの視点)

マクロの貸出市場において、貸出量及び貸出金利水準は借入需要(D)と金融機関による貸出供

4)情報の非対称性の緩和を意図して、情報を多く持つ側が積極的に情報提供することに要する費用。例えば、(優良な)

中小企業による銀行への決算説明、接待の費用や、地域での好評判の為の諸会費、本社社屋の整備費などが挙げられる。

これらは中小企業にとっては少なからぬ負担となる。

(7)

給(S)の交点に定まると考えられる(図4)。貸出供給曲線は、中央銀行の資金供給や金融機関 の収益状況、預金者の金融資産選好などに制約を受けると考えられる。ここで貸出の信用リスク が適切に把握され、これが金利に反映されている状況では、金利は図中の r、貸出量はLに定まる。

仮に信用リスクの認識が困難であり、リスク・プレミアムを貸出金利に上乗せすることが出来な い場合には5)、貸出金利は r1 に低下し貸出量は L1 に拡大する。この場合、金融機関は信用コス ト(不良債権の償却負担)をリスク・プレミアム分の収益でカバーできない。融資の実行時にはこ うした状況を認識していなくても、後に貸出採算が採れないことが判明した時点で、その貸出は 不良債権となり、処理コストが発生する。その結果長期的には、金融機関は貸出量を金融機関全 体の許容リスク量6)に見合うレベル以内に抑えざるを得なくなる。この場合、貸出供給曲線は、

図中の S1 のように垂直となり、その貸出量はその水準で制約されることになる。

仮に供給曲線が L1 より右側で垂直になる(S1)のであれば、需給は均衡しうる。しかし、もし 銀行の財務状況の悪化などにより、S2 のように L1 より左側で垂直となる場合、需給は均衡せず

(L1 − L2)の部分の貸出は実行されない。これがいわゆる「貸し渋り」の状況である。例えば、

97 年秋〜 98 年秋にかけての金融危機においては、銀行の信用リスク許容度が著しく減少し、L2 は L1 よりかなり左側に設定されていたと考えられる。その後の株価上昇や自己資本の拡充により、

r

r r1

L2 L L1 L(貸出量)

D S S2 S1

リスク プレミアム

(金利)

図4 貸出量と金利(リスクプレミアム)

(資料)筆者作成

5)信用リスクを把握できない場合、金融引締期であれば(金融機関の資金供給が制限的である場合には)、リスク・プレ ミアムは過大に設定され、貸出金利は r  より高くなる可能性がある。しかし、現在のような超金融緩和、オーバーバン キングの状況下では、リスク・プレミアムは過小となる可能性が高い。ここでは後者の状況を想定する。

6)許容リスク量は、その金融機関の自己資本の多寡によって制約される可能性が高い。信用コストの事前的な認識が十 分でなく、リスク・プレミアムが採れていない状況では、貸倒引当金も過小となっている公算が高く、貸倒れによるコス トは自己資本でカバーされることになる。こうした状況では、自己資本が潤沢でない限り、貸出量が抑制されることに なる。

(8)

銀行の許容リスク量は拡大したと考えられるが、依然、貸出供給量の制約は残っている。この為、

信用割当て7)がなされ、中小企業金融は構造的に制約されていると考えられる。

こうした状況を是正するには、信用コストに見合うプレミアムを乗せた貸出金利が設定される ことが不可欠である。

3−2 銀行の貸出行動/採算性と予想損失(ミクロの視点)

近年、与信管理の適正化の観点から、銀行にディスカウント・キャッシュフロー法(DCF 法)に よる貸出資産の評価を求める風潮が強まっている8)。DCF 法は、与信に係わる信用リスクとコス ト及びリターンの関係を総合的に捉えて管理することにより、適切な不良債権処理(引当金の計 上など)を求めるものである。これは、金融機関の経営の健全性向上を通じて金融システムの安 定化に資すると期待される(日本銀行[2003a])。この DCF 法の下で、貸出金利と引当金、信用 コストとの関係をどう捉えるべきかを以下整理する。

DCF 法では、「貸出債権の経済価値」は「(将来のキャッシュフロー−予想損失額)の割引現在 価値」として捉えられる。ここで、貸出元本(簿価)を B、毎年のキャッシュフローを G(毎年 の元利金収入−調達コスト−経費)、毎年の平均的予想貸倒損失額(信用コスト)を L、金利を r とすると、当該貸出プロジェクトの採算が採れるためには、

B ≦(G − L)/(1 + r)+(G − L)/(1 + r)+(G − L)/(1 + r)+(G − L)/(1 + r)4 +・・・・・・

すなわち、B ≦(G − L)/r となる必要がある。

ここで、L =貸倒償却等毀損額/債権額=倒産確率×(1 −回収見込み率)

仮に、金利減免や不適切な貸出金利設定により G が G1に低下したり、経済環境の悪化による倒 産確率の上昇により L が L1 に拡大すれば、貸出債権の経済価値は減価する。

その結果、B >(G1− L1)/r となれば、当該貸出債権は採算の取れないものとなり、この時両 者の差である F(= B −(G1− L1)/r)が「不良債権の要処理額」となる。

通常、L のうち予測される部分(EL、Expected  Loss)については、貸倒引当金として計上する ことが求められる。そして、そのコストは貸出金利にリスク・プレミアムとして上乗せされるのが

7)リスクが低い貸出が優先され、リスクの高い貸出が必要以上に排除されること。信用リスクの認識が困難な場合は、

企業規模による判断に傾きがちとなり、中小企業金融が阻害される可能性がある。

8)DCF(Discounted  Cash  Flow)法による資産評価は、既に米国の会計基準に採り入れられており、国際会計基準

(IAS)やバーゼル委員会の銀行監督基準にも反映されるなど、国際的な要請になっている。日本では、2002 年 10 月に 閣議決定された「金融再生プログラム」において、銀行の大口要管理先債権に対して DCF 法による引当を求めることが 決定され、これを受け金融庁は「金融検査マニュアル」を改訂し、日本公認会計士協会は 2003 年 2 月「DCF 法による引 当のガイドライン」を設けた。

(9)

妥当である。他方、マクロ経済環境の予想外の悪化などの予測できない分(UL、Unexpected Loss)については、自己資本で対応することが求められる。バーゼル委員会は、この UL に応じ た自己資本を準備することを銀行に求めているのである。

従って、貸出金利がリスクに応じたプレミアムを織り込んだ充分に高い水準であれば、B ≦

(G − L)/r となり、貸出債権は不良化せず、貸倒が発生しても追加の費用負担は生じない。また、

貸出に要する審査やモニタリングの費用等を削減できれば、G を引き上げて銀行の収益を嵩上げ するか、G を維持して貸出金利を引き下げることが可能になる。

現実の日本の貸出市場においては、B >(G − L)/r となっている可能性が高く、銀行もその 状況を認識していることが、新規の企業融資の拡大を阻む要因になっていると考えられる9)。と くにリスクを過大評価されがちな中小企業向け貸出が集中的に抑制される原因となっている可能 性がある。また、キャッシュフローの不足分である損失 F が、依然として自己資本を圧迫してい ると考えられる。

ここで、貸倒損失 L は景気の関数であり、金融機関はコントロールできない10)。調達コストも、

ゼロ金利の下ではこれ以上の引き下げは望めない。こうした状況では、貸出増強(特に中小企業 向け貸出増強)の為には、○1リスクを織り込んだ水準にまで貸出金利を引き上げるか、○2貸出に係 わる経費を削減するか、の 2 つの方法しかないといえよう。

4 貸出金利の設定状況

4−1 貸出金利の分布

では、実際の貸出金利は適正に設定されているのであろうか。(以下、本来であれば、すべて中 小企業向け貸出データを抽出して論ずるべきであるが、データの制約により、一部は大・中堅企業 向けを含む全企業向け貸出のデータを用いて論ずる。)

国内銀行の貸出の貸出金利水準の分布(2003 年平均)を見ると、最頻値は 1.75 〜2%であり、

金利 3 %未満に全体の 87 %、3.5%未満に全体の 93 %が集中している(図5)。中小企業に限った データを見ても(藪下・武士俣[2002])、全体の 93%の借入がプライムレートとの金利差 0.0%〜

2.5%の狭い範囲に集中している(図6)。さらに、全国銀行の貸出金利を業態別にみると、最低の 都市銀行と最高の信用金庫との差は、短期金利で約1%強、長期金利では 0.8%程度しかない(図7)。

9)仮に信用リスク認識が甘ければ、銀行は事前にはロスが生じることを想定せず、その時点では必ずしも貸出は抑制さ れない。しかし、事後的に貸倒損失が想定以上となれば、新規の償却負担(貸倒引当金の積み増し、あるいは直接償却 負担)が発生し、結果的に自己資本を圧迫することになる。この結果、前述のとおり許容リスク量が縮小し、この時点 で貸出が抑制されることになる。

10)厳密には貸倒れ時の回収率を高める事により L を削減することは可能である。しかし、その回収コストの増分は G の減 少要因となる。その結果、回収強化により(G − L)を拡大することは容易でない。

(10)

これらから、中小企業向け貸出と大企業向け貸出の金利差、あるいは優良企業向け貸出と不振企 業向け貸出の金利差は、かなり小さいと推察される。

図5 銀行貸出金利の分布(2003年)

(資料)日本銀行「利率別貸出金」(http://www.boj.or.jp/stat/dlong̲f.htm)

    により筆者作成。

14 12 10 8 6 4 2 0

(%)

6.00〜6.25%未満

5.50〜5.75%未満

5.00〜5.25%未満

4.50〜4.75%未満

4.00〜4.25%未満

3.50〜3.75%未満

3.00〜3.25%未満

2.50〜2.75%未満

2.00〜2.25%未満

1.50〜1.75%未満

1.00〜1.25%未満

0.50〜0.75%未満

0.25%未満

貸出全体 手形証書貸付

( 注 )国民生活金融公庫「中小企業の銀行借入れに関する実態調査」。

(出所)藪下・武士俣〔2002〕、p. 98より引用。

20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0

(%)

図6 中小企業借入金利の分布(2000年)

  (借入金利とプライムレートと差)

▲0.5%未満 ▲0.5−▲0.25% ▲0.5−0.0% 0.0−0.25% 0.25−0.5% 0.5−0.75% 0.75−1.0% 1.0−1.25% 1.25−1.5% 1.5−1.75% 1.75−2.0% 2.0−2.25% 2.25−2.5% 2.5−2.75% 2.75−3.0% 3.0−3.25% 3.25−3.5% 3.5−3.75% 3.75−4.0% 4.0−4.25% 4.25−4.5% 4.5%以上

(11)

一方、銀行の融資対象先と重なっていると目される企業群の社債金利11)の分布を見ると、A 格 で 1.3%〜 1.7%、BBB 格で 2.2 %、BB 格で7%と最大6%近くの金利差がある(宮坂恒治[2001])。 社債金利のばらつきは、貸出金利のばらつきを明らかに上回っている。

これらを総合すると、銀行の貸出金利は十分にリスクを反映していない可能性が高く、クレジ ット・イールドカーブは過度にフラットとなっていると推察される12)

4−2 信用コストとの対比

さらに、日本銀行[2003a]において示された「採算金利(信用コストを上乗せした貸出金利の 適正水準)」を見ると、正常債権においては実際の金利は採算金利を約 0.5%程度上回っているが、

要注意先債権においては、実際の金利が2〜5%採算金利を下回っている。採算金利を下回る部分 の貸出額は、前述の F = B −(G1− L1)/r の潜在的損失額、すなわち後に不良債権の要償却額 に転ずる部分に相当する。

こうした要注意先債権に対する採算割れの低金利での貸出は、むしろ借り手の「金利負担能力」

に応じて金利設定がなされることから生じると考えられる。日本銀行[2003a]の試算では、要注 意先以下の債権では、実際の貸出金利は採算金利ではなく企業の支払可能金利に収斂している。

その背景には、中小企業や不振企業に対する融資拡充に関する行政や社会からの要請が強いこと、

図7 業態別貸出約定金利

(資料)日本銀行「貸出約定平均金利」(http://www.boj.or.jp/stat/dlonhttp://www.boj.or.jp/stat/dlong̲f.htm)により     筆者作成。

7 6 5 4 3 2 1

7 6 5 4 3 2 1

(%) (%)

94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 (年) 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 (年)

国内銀行 都市銀行 地方銀行 第2地銀 信用金庫 国内銀行

都市銀行 地方銀行 第2地銀 信用金庫

<貸出ストック:短期> <貸出ストック:長期>

11)日本の社債金利は、「必ずしも合理的に形成されていない」との指摘もあるが(西岡・馬場[2004]、オープン市場に おいて形成される金利であるため、発行体の信用リスクを最も適切に反映する金利であるとして論を進める。

12)近年増加が著しいシンジケート・ローンについては、通常の貸出よりも明確なクレジット・イールドカーブが形成され ている(小野・長谷川・澤田[2003]。例えば、Aaa 格の企業向けのシンジケート・ローン金利よりも Baa1 格企業向けの シンジケート・ローン金利の方が 0.3%高い。しかし、両者の金利差は社債発行金利における Aaa 格と Baa1 格との金利差

(約 1 %)に比べると小さい。

(12)

銀行と企業との取引の継続性が重視されがちなこと、公的保証が付されている融資が多いこと、

などがあると考えられる。

この結果、全国銀行全体の貸出利鞘は、表面的には 2%弱(全国銀行)で安定推移しているが、

信用コストを差し引いたベースではゼロ%前後、さらに経費率を差し引くと、マイナス 1%程度と なっている13)

なお近年、多くの銀行が貸出金利の適正化(すなわち高リスク先に対する金利引き上げ)を謳って いる。日本銀行のアンケート調査によって、銀行の利鞘設定姿勢をみると、確かに 2002 年以降、

中小企業向け貸出、下位格付け貸出を中心に、利鞘拡大(金利引き上げ)の姿勢を強めた様子が伺え る(図8)。しかし、2003 年後半以降、景気拡大にもかかわらず、再び利鞘拡大姿勢が弱まっている。

4−3 借り手の財務状況と金利

次に、企業の財務状況と金利との関係を見る。37 業種において、4つの経営指標と借入金利と をクロスセクション分析すると、いずれの指標でも金利との相関は低い(図9、いずれも符号条 件は充たしているが相関係数の絶対値は 0.2 以下)。4指標の中では、総資産に対する負債の比率 と金利との相関が比較的高い(図9の○2相関係数は 0.1808)。

企業規模別に見ても、金利と財務状況との関係は不明確である。4つの財務指標とも、企業規 模が小さくなるにつれて明確に悪化している(表2)。しかし、企業規模と金利とは対応していな い。むしろ、最も財務状況が劣る資本金1千万円以下の中小企業の借入金利は全体平均を下回っ

( 注 )「拡大した金融機関数」−「縮小した金融機関数」、回答構成比。

(出所)日本銀行「主要銀行貸出動向アンケート調査」(http://www.boj.or.jp/stat/stat̲f.htm)により筆者作成。

図8 利鞘の設定(「拡大」−「縮小」)

 <貸出先企業規模別> <貸出先格付け別>

25 20 15 10 5 0

−5

−10

−15

(%)

2000 01 02 03 04 (年) 2001 02 03 04 (年)

80 60 40 20 0

−20

−40

(%)

大企業向け 中堅企業向け 中小企業向け

上位格付け 中位格付け 下位格付け

13)日本銀行[2003b]、図表 29 による。左記論文によると、信用コスト率(不良債権処理額/貸出残高)は、93 年頃から 拡大し 98 年度に最大となった。信用コスト率・経費率を控除した貸出利鞘は、93 年度以降マイナスが続いている。米国 では、表面的な貸出利鞘は 4%程度であり、信用コスト控除後の貸出利鞘でも3%程度ある。またドイツでは貸出利鞘は 1%程度と低いが、信用コスト率が小さいため、信用リスク控除後の貸出利鞘は依然プラスである。

(13)

図9 企業の財務力と負債金利(業種別クロスセクション分析、2003年)

( 注 )1.有利子負債=短期借入金+長期借入金+社債+受取手形割引残高。いずれも期首・期末平均     2.負債金利==支払金利・割引料/有利子負債残高(期首・期末平均)

    3.キャッシュフロー=経常利益/2+減価償却費。

    4.業種別クロスセクション・データをプロットしたもの。

    5.図中(傾向線の上)の数値は両データの相関係数(−1〜1)

(資料)財務省「法人企業統計調査」(http://www.mof.go.jp/1c002.htm)により筆者作成。

金利と「有利子負債/総資産比率」

金利と「総資産経常利益率」 ◯金利と「売上高経常利益率」

金利と「有利子負債/キャッシュフロー比率」

4.00 3.50 3.00 2.50 2.00 1.50 1.00 負債金利(%)

4.00 3.50 3.00 2.50 2.00 1.50 1.00 負債金利(%)

4.00 3.50 3.00 2.50 2.00 1.50 1.00 負債金利(%)

4.00 3.50 3.00 2.50 2.00 1.50 1.00 負債金利(%)

0 5 10 15 20 25 30

0.1385

有利子負債/キャッシュフロー比率(%)

8 7 6 5 4 3 2 1 0

総資本経常利益率(%)

14 12 10 8 6 4 2 0

売上高経常利益率(%)

90 80 70 60 50 40 30 20 10

有利子負債/総資産(%)

0.1808

−0.1663 −0.071

表2 企業の財務力と負債金利(企業規模別、2003年)

負債金利

有利子負債/キャッシュフロー比率 有利子負債/総資産比率

総資産経常利益率 売上高経常利益率

  2.06  1.96  2.09  1.75  2.17   9.8  22.6  16.2  9.6  6.3   42.4  66.0  49.5  41.5  34.5   2.5  −0.5  1.9  2.7  3.2   2.3  −0.4  1.6  2.3  3.7

1千万円未満 1千万〜1億円 1億〜10億円 10億円以上

全企業 <資本金別>

(%)

( 注 )1.有利子負債=短期借入金+長期借入金+社債+受取手形割引残高。いずれも期首・期末平均     2.負債金利=支払金利・割引料/有利子負債残高(期首・期末平均)

    3.キャッシュフロー=経常利益/2+減価償却費。

(資料)財務省「法人企業統計調査」(http://www.mof.go.jp/1c002.htm)により筆者作成。

(14)

ている14)

また、日本銀行[2003a]によれば、借り手の格付けによる銀行貸出金利の変化はほとんど無く、

むしろ低格付け企業ほど金利が低い傾向すらある15)。このように、業種別に見ても企業規模別に 見ても、企業の財務状況や格付けと金利との関係は希薄である。

4−4 リスク対応の貸出金利が形成されない事の意味[本章のまとめ]

上記を総括すると、貸出金利は、信用リスクを反映した合理的なイールドカーブを形成してい るとは言いがたい。こうした不合理な金利設定は、以下の様々な弊害をもたらす。

第1に、銀行の経営基盤を脆弱にする。信用リスク・経費控除後の貸出利鞘がマイナスの状況 が続く限り、銀行の財務基盤は悪化する。その結果、金融システムの脆弱性も是正されない。

第2に、リスク対応の貸出金利が設定されない為、逆選択が生じ、優良企業が資金調達におい て財務内容に応じた低金利を享受できない懸念がある。優良な大企業は、証券市場での調達が容 易な為、これが経営に深刻な影響を直接与える可能性は少ない。しかし、中小企業の場合は、優 良企業であっても不当に高い金利による実害を蒙る事になる。

第3に、社債市場の育成が阻害される懸念がある。前述のとおり、社債市場では明確に形成さ れているクレジット・イールドカーブが、貸出市場ではうまく形成されていない。この為、BBB か ら BB 格のミドルリスク(あるいはハイリスク)の社債の発行が不当に不利となっており、これ が社債市場の広がりを殺ぐ要因となっている。

第4に、不振企業でも優良企業と同等の低金利を享受しており、これが不振企業(不振産業)

を温存し、経済全体での資源の最適配分を阻害している可能性がある。

逆に(前述のとおり)、金融不安が高まり融資量が抑制される局面では、相対的にリスクの高い 企業の資金調達が著しく阻害される懸念も残っている。その場合、財務状況が相対的に劣る中小 企業は、銀行経由の資金調達を全くできない状況に陥る可能性がある。

すなわち、貸出金利の適切な形成がなされていない為に、優良企業も不振企業も弊害を蒙ってい るのである。

5 中小企業金融における新しい動き

中小企業金融をめぐる環境には、近年いくつか新たな動きが出てきている。とくに近年しばし

14)製造業の比率が低く短期借入れの比率が高いこと、信用保証協会の保証が付されているケースが多いことも、中小企 業の借入金利が低い理由として考えられる。

15)日本銀行[2003a]、図表3による。CRD 運営評議会の中小企業信用リスク情報データベースをもとに、日本銀行が独 自推計したもの。

(15)

ば論じられる「市場型間接金融」の中核的な存在である、貸出債権の証券化やシンジケート・ロ ーンといった新たなスキームが、中小企業金融、あるいは貸出金利の設定動向に大きな影響を与 える可能性がある。

5−1 小口社債市場の拡充

前述のとおり中小企業は、外部資金調達に占める借入れの比率が高い。第1の理由は、社債・

CP による資金調達は、発行手数料・ディスクロージャーコスト・格付け取得コストなどの固定費 負担が大きいことにある。第2の理由は、中小企業の多くは、財務諸表の整備が不十分であり証 券調達に必要な条件を充たせないケースが多いことにある。

しかし、97 〜 98 年に経験したとおり、銀行界全体が危機に見舞われた際には、貸出全体が極端 に抑制され、中小企業全体が資金調達難に陥るリスクが生ずる。こうしたリスクを回避するには、

中小企業といえども極力、社債・ CP による資金調達のルートを確保し、複線的な調達構造を構築 しておく必要がある。

近年、中小企業向け社債市場にはいくつかの環境変化が生じている。

第1は、小口社債発行の増加である。とくに小口社債を金融機関がまとめて社債を発行する CBO  (Collateralized  Bond  Obligations)が注目される。流通市場の形成に時間がかかる、劣後部 分について投資家を見つけにくいといった障害があるが、これらの問題も徐々に改善していくこ とが期待される。

第2は、地方自治体主導の中小企業向け社債市場の整備に向けての試みである。東京都は、

2000 年から中小企業向けの債務担保証券(CDO; Collateralized Debt Obligations)市場の構築に力 を入れている。当初は貸付債権の証券化商品である CLO(Collateralized  Loan  Obligations)が中 心であったが、2003 年3月には CBO が発行され、両者を併せた証券の累計発行額は 3800 億円

(2004 年3月末)にのぼっている。その後、多くの地方自治体が同様の試みを行っており、CDO は徐々に定着しつつある。

通常、これらの証券には、各自治体が保証を付している。これが自治体主導の CDO の魅力とな っているが、同時にリスク対応の金利体系の形成を阻害するという弊害もある。しかし、民間金 融機関が組成する公的保証無しの CBO 市場がきちんと形成されるまでの過渡期においては、自治 体主導の保証つきの CDO も存在意義を持つと考えてよかろう。

5−2 シンジケート・ローンの拡充

シンジケート・ローンが急増している。99 年から拡大し始め、2002 年の組成額は 15 兆円弱に のぼっている。とくに借入れ極度を設け、その範囲内で自由に借入・返済を行う信用枠を供与する

(16)

「コミットメント・ライン」の増勢が著しく、2003 年末の設定残高は約 6000 件、18 兆円にのぼっ ている。

シンジケート・ローンは、元来、規模の大きな融資のリスク分散を狙いとする金融商品であり、

必ずしも小口の中小企業向け融資に適した商品ではない。しかし実際には、中小企業に対して設 定されるケースも少なくない。前述のとおり12)、シンジケート・ローンにおいては、通常のローン に比べて信用度に応じた金利設定がなされる傾向が強い。そうした観点からは、シンジケート・ロ ーンの拡充は、リスクに応じた銀行貸出金利の設定を進めるきっかけとなる可能性がある。例え ば、通常の貸出からコミットメント・ラインへの移行を促進する事により、結果的に中小企業向 け貸出の金利が適正化に向かうことが期待される。

5−3 資産の証券化

銀行の中小企業向け資産(貸出等)の証券化も急増している。これは中小企業金融にとって、

いくつかの重要な意義を持つ。

第1に、資産の証券化により、原債権のオリジネーターである金融機関がリスクを切り離すこと が可能となる。例えば、銀行は通常の貸出において、○1審査機能、○2債権(融資)管理機能、○3信 用リスク負担機能、のすべてを満期まで負う。しかし、貸出債権を証券化して第三者の投資家に売 却すれば、○3の信用リスクは銀行から分離しうる。許容リスク量に限界があり、また BIS 規制によ り保有リスク量が規制される銀行にとって、証券化はリスク量コントロールの為に不可欠な手法と なっている。リスク切り離しの道が開ければ、当初の貸出実行時におけるリスクは軽減され、長期 的には融資拡大の可能性が増す。とりわけ中小企業向け融資においては、貸し手のリスク認識が大 企業向けよりも厳しい為、証券化による中小企業金融拡充効果はより大きいと推察される。

第2に、より多様な証券化商品を投資家に提供できる。日本の公社債市場は、規模は大きいが 多様性が乏しい。とりわけミドルリスクの証券が少ない。そうした中では、中小企業向け貸出債 権の証券化商品は、貴重なミドルリスク商品となりうる。

第3に、証券市場では投資家が信用リスクに応じた適切なスプレッドを要求する傾向が強いた め、これが当初の貸出実行時での金利を適切なものに修正する効果を持つ。当初の貸出実行時の 金利が信用リスクを反映していないと、後に証券化する際に投資家が見つからない状況となるか らである。また、適切なスプレッドを算出できるよう、中小企業にディスクロージャーの整備を 間接的に促す効果も期待できよう。

5−4 クレジット・スコアリングの導入

近年、クレジット・スコアリング方式の融資スキームを導入する銀行が増えてきている(益田・

(17)

小野[2004])。クレジット・スコアリングとは、信用リスクと関係が深い諸項目を変数とするモデ ルを構築し、企業の属性や財務状況の入力により自動的に計算されるスコアをもとに、融資判断 を行う方式である。もともと米国において、消費者ローン分野で開発され、発展してきた方式で ある。

日本では、1998 年に東京都民銀行が取り扱いを開始した後、大手行や地方銀行が順次取り入れ、

徐々に浸透してきている。

中小企業向けのクレジット・スコアリングは、2つの観点から中小企業金融再構築に資すると考 えられる。第1の意義は、融資における審査・モニタリング費用の削減である。前述のとおり、

中小企業金融は小口であるが故に、案件ごとの審査等のコストの負担率が高まり、これが中小企 業金融を阻害する一因となっていると考えられる。クレジット・スコアリングにより、審査・モニ タリング費用の削減が期待できる16)

第2は、貸出金利の引き上げが可能となる。通常、クレジット・スコアリングの金利は、年率 2.5 〜 9%程度に設定されている(表3)。過去の取引慣行との継続性から、既存の通常融資の金利

表3 中小企業向けクレジットスコアリング融資の概要

融資限度額 利率(年) 融 資 条 件 対 象 条 件

(資料)各銀行のディスクロージャー誌、パンフレット、ホームページなどにより筆者作成。

みずほ銀行

「アドバンス・パートナー」

三井住友銀行

「ビジネスセレクトローン」

東京三菱銀行

「融活力」 

UFJ銀行

「ビジネスセレクトローン」

東京都民銀行

「スモールビジネスローン」

東京スター銀行

「Qマネーアルファ」

100〜3000万円

 〜5000万円

500〜3000万円

〜1億円

(通常5千万円以内)

50〜1000万円

50〜500万円

2.5〜9%

(変動)

2.75%〜

(変動)

2〜8%

(変動)

2.25%〜

(変動)

9%

(一部9.9%)

(固定)

5〜7%

(変動)

期間 1〜36ヶ月 分割or一括返済 代表者保証、無担保 期間 〜60ヶ月 分割返済、有無担保 全代取の連帯保証 期間 6〜36ヶ月 分割返済、無担保 全代取の連帯保証 期間 〜60ヶ月 分割返済、原則無担保 全代取の連帯保証 期間 〜24ヶ月 分割or一括返済 代表者保証、担保不要 期間 12、24、36ヶ月 分割返済、無担保 法人:代取連帯保証 個人:保証不要

業歴2年以上 売上高10億円未満 債務超過でない

業歴2年以上、在店エリア 売上高10億円未満 債務超過・税金未納でない 業歴2年以上、在店エリア 前2期のうち1期は経常黒字 債務超過でない

業歴3年以上、在店エリア 債務超過・税金未納でない 業歴2年以上、

従業員30名以内

(含む個人事業主)

業歴2年以上、

従業員30名以内

(含む個人事業主)

16)クレジット・スコアリング導入による審査コストの削減は、3−2で記した貸出採算の数式においては、G を向上さ せる効果を持つ。

(18)

を引き上げるのは現実には容易でない。しかし、クレジット・スコアリング方式の新型定型ローン への切り替えに伴って金利を引き上げる、あるいは従来取引のなかった中小企業17)に対して新型 ローンを適用するといったやり方で、結果的に銀行の中小企業向け平均貸出金利の上昇が期待で きる。

中小企業の資金調達をめぐるこれらの新しい動きは、緒に就いたばかりであるが、中小企業の 資金調達パイプの多様化をもたらすと同時に、中小企業向け貸出金利の適正化(リスクを反映し た金利の形成)にも資する。民間金融機関が、これらの新しい中小企業金融ツールの拡充に、一 層注力することが望まれる。

6 中小企業金融再構築の為の課題[総括]

以上の分析を総合すると、中小企業金融を再構築するためには、○1中小企業のディスクロージ ャーの整備、○2適切な貸出金利設定の実現、○3ディスクロージャーに限界がある企業群に対するス コアリング形態のローンでの対応、○4債務の証券化の促進、○5社債・CP 発行市場の裾野拡大、と いった様々な課題がある。なかでも、「適切な貸出金利の設定」と、その前提となる「中小企業の 財務情報の整備」が鍵となるといえよう。

なお、中小企業向け融資拡大に関する政策的な要請が強い中、2002 年頃から「リレーションシ ップ・バンキングを強化すべき」との議論が高まった18)。すなわち、「中小企業金融においては、

銀行が中小企業と緊密な継続的な関係を構築し、これによって情報の非対称性を埋めることが重 要である」とする考え方19)である(大山剛[2002])。

このリレーションシップ・バンキングは、日本における銀行の融資の実態を反映した現実的な 提言である。しかしながら、リレーションシップを強化することで、本稿で述べた中小企業金融 の根本的な諸問題、すなわち○1中小企業のディスクロージャー不足、○2リスクを反映しない金利設 定、○3銀行にとっての審査コスト負担、が改善されると考えるには無理がある。さらに、リレー ションシップ・バンキングの推進は、銀行のコスト増を招き、貸し手と借り手の関係を曖昧なもの にする懸念があり、むしろ上記の変革課題の障害となりうることをも認識しておくべきであろう。

17)銀行などの預金取扱金融機関が融資対象とする企業群と、商工ローン業者などが融資対象とする企業群との間に空白 地帯があると言われている(金利においても、低利の銀行等と 20%近い商工ローンの金利との間に大きな空白地帯があ る)。クレジット・スコアリングは、この空白地帯を埋めることをも期待されている。

18)リレーションシップ・バンキングは、政府が 2002 年 10 月に発表した「金融再生プログラム」において提唱され、その 後 2003 年3月に金融庁が発表した「リレーションシップ・バンキングの機能強化に向けてのアクションプラグラム」に 基づき、充実が図られている。

19)一方、大口与信は、公開された豊富な情報をもとに、個別プロジェクトごとに与信する「トランザクション・バンキン グ」にシフトすべきとの考え方が背景にあるようである。

(19)

また、中小企業金融における貸出金利の適正化を阻む大きな要因に、「オーバーバンキング」と

「公的金融の存在」がある。

「オーバーバンキング20)」は、比較的優良な中小企業向けの貸出市場における過当競争をもた らし、貸出金利全体の引き上げを困難にしていると考えられる。これを是正するには、大手行か ら信用組合までがこぞって同じ企業に融資を試みる現状を是正し、業態に応じてある程度マーケ ットの棲み分けがなされることが望まれる。それにはまず、金融機関の中小企業戦略が成熟化し、

何割かの金融機関が中小企業金融から撤退することを待たねばならない。同時に、金融当局は、

「あらゆる業態に対して中小企業金融の拡充を求める」といったことを避けねばなるまい。

他方の「公的金融」については、その融資規模を極力縮小する必要があろう。ベンチャー企業 の育成、不況業種への短期的な助成、社会的使命を担う企業への助成など、公的金融機関の存在 意義は少なくない。しかし、現実には日本では公的金融機関による低利の中小企業向け融資額は 過大であり、これが上述のとおり民間銀行の貸出金利を低位に引き止める作用をしている。例え ば、公的機関の貸出を縮小し、その分、民間金融機関の融資にあたって、一定の要件の下で利子 補給を行う、あるいは借り手に補助金を供与する方式に移行すれば、金利体系を歪めることを避 けることが出来る。また、公的な信用保証についても、全額保証を改め「部分保証」とすること で、民間金融機関による中小企業への安易な低利での貸出も抑制できるであろう。

中小企業金融の再構築には、官民いずれにも数多くの変革課題が残されている。(了)

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20)銀行数ではなく、融資量(残高)が過大である状況をさす。具体的には、1つの借り手に対して、多くの金融機関が 集中して取引を試み、貸出において過当競争が生じているような状態を指す。

(20)

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参照

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