九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
種子島の前期中新世オリストストロームならびに北 琉球における四万十帯南帯の構造層序の再検討
福田, 泰英
https://doi.org/10.15017/1654978
出版情報:Kyushu University, 2015, 博士(理学), 論文博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
(様式6-2)
氏 名 福田 泰英
論 文 名
Early Miocene Olistostrome Belt in Tanegashima and Re- exmamination of the Tectono-stratigraphic Setting of the Southern Shimanto Belt in North Ryukyu(
種子島の前期中新世オリストストロームならびに北琉球に おける四万十帯南帯の構造層序の再検討
)論文調査委員 主 査 九州大学 助教 坂井 卓 副 査 九州大学 教授 佐野弘好 副 査 山口大学 教授 脇田浩二
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
本学位論文は,琉球弧の四万十帯南帯の構造発達史を明らかにすることを目的として,
北琉球種子島を主要な研究対象に,始新世中期から中新世前期に形成された前弧コンプレ ックスの層序・構造の解析を行ったものである.調査地域は,四国海盆の形成時期の西南 日本弧と琉球弧の会合部に位置し,フィリピン海プレートの運動変化と西南日本・琉球弧 前弧域のテクトニクスの広域的変化を地質記録から解読する上で重要な位置に当たる.し かしながら,非常に複雑な地質構造と時代決定に有効な化石の産出を欠くために,これま での研究では層序と地質構造に多くの不明確な点が残されていた.
本研究者は,鹿児島大学での卒論およびそれ以降の博士後期課程での研究を通して,沖 縄本島を始め琉球弧の四万十帯南帯の研究に携わり,多くの野外情報を蓄積してきた.さ らに九州大学での社会人博士課程では,フィリピン海プレートの運動史の理解を深めると ともに前弧コンプレックスの新しい解析方法を習得して本研究を進めてきた.前弧コンプ レックスの解析には詳細な岩相分布と地質構造の解明は勿論のこと,詳しい野外観察に基 づく堆積相や変形構造の解析,さらに時間軸を決定するために多くの年代データが必要と なる.本研究では,堆積相の観察,古流向の測定や実測柱状図データより地層の形成環境 と堆積システムの復元,変形構造のデータからは海洋プレートの沈み込みに伴う付加構造 の認定,重力滑動の運動像の解析が行われた.また,多くの地点で採集された110以上の 泥岩試料から浮遊性ならびに底棲有孔虫化石の抽出処理により 6 地点で年代証拠が得ら れている.底棲有孔虫化石試料は古水深の評価のデータとして用いられた.さらに,一部 の凝灰質砂岩からはフィッション・トラック年代データも出された.
本研究の内容を評価するに当たって特に顕著な成果として次の3点を挙げる.最初は,
これまで不明確であった琉球弧と西南日本弧との間の地体構造の延長問題である.本研究 では,これまでの四万十帯南帯を構成するのは熊毛層群であるという見解を覆し,本質的 に成因の異なる2つのコンプレックスに大別できることを明らかにした.その一つの熊毛
コンプレックスは,構造的最下位に剪断褶曲で特徴づけられる付加変形を認定し,その上 位に深海扇状地の堆積物が重なるという一連のサクセッションから構成される地層群と 定義した.これには始新世中期から中新世前期の前弧−海溝系が復元出来ることを示した.
一方,門倉崎コンプレックスは,全体が乱雑な堆積・変形体からなり,巨大な重力崩壊に よる堆積体であるオリストストロームに認定した.種子島・屋久島は,北側に付加コンプ レックス,南側にオリストストロームが配置するという地体配列構造が示された.これに よって,四万十帯南帯の巨視的な構造配置が九州から北琉球まで確実に延長するが,中・
南琉球へは延長しないことを明確にした.四万十帯南帯の南半部は大規模な斜面崩壊堆積 物からなることは西南日本の南関東から九州の同帯各地で広く認められている.この結論 は,北・中琉球との間での前弧テクトニクスの違いが,フィリピン海プレート内で生じた 四国海盆の拡大を反映しており,その西縁である九州−パラオ海嶺の位置が北琉球まで及 んでいたことを明確に描きだした.
第二番目の成果は,オリストストロームの認定とこれを構成するオリストリス(滑動に よって移動した岩塊)の由来,ならびに重力滑動に関する運動像の解析である.オリスト リスの詳細な堆積相の解析から,ほとんどのオリストリスは崩壊以前の島弧−海溝系の付 加体と深海扇状地堆積物に由来し,一部は浅海相を示す上部陸棚環境の堆積物やより古い 異地性の巨大な岩塊が含まれる事を初めて明らかにした.さらに地滑りによるスランプ構 造の解析から,南東方向に向かう地滑り運動を浮き彫りにした.以上の詳しい堆積学的・
構造地質学的視点に基づいて得られた成果は,西南日本のオリストストローム地帯の解析 では数少ない研究事例である.
第三番目の成果には,オリストストロームの形成時期に関する新しい年代データが提示 されたことを挙げる.著者は膨大な泥岩試料のフッ酸処理と忍耐を要する抽出作業を行 い,浮遊性有孔虫化石帯による生層序学的年代データを得た.特に,熊毛コンプレックス の最上部と門倉崎コンプレックスの基質から,ともに浮遊性有孔虫の化石帯で N.4-
N.6(22.96-17.54Ma)に相当する化石群集は他地域の四万十帯南帯の中で最も若い年代証
拠にあたる.この化石年代データは,大規模かつ広域的な前弧斜面の崩壊によって生じた オリストストロームの形成時期が四国海盆の拡大停止直後であり,さらに,古地磁気の研 究から指摘されている西南日本背後の日本海背弧盆の回転運動を伴った拡大運動の開始 時期とほぼ一致することを強く示唆している.
本研究で明らかにした野外事実の認定と年代証拠は,先行研究ではまだ不明確であった オリストストロームの形成時期と成因について,初めて 17Ma から開始した日本海の拡 大運動が原因となることを指摘した.本研究は,単なる地域地質の解析に留まらず,西南 日本と琉球弧のテクトニクス進化についても包括的視点を用意し,始新世から中新世の日 本列島のテクトニクス進化に新たなデータとその合理的な理解を示している.よって,本 研究者は博士(理学)の学位を受ける資格があるものと認める.