• 検索結果がありません。

Japanese Journal of Acute Care Surgery 2011; 1: 9 14 総説 重症外傷に対する集学的外科治療としての damage control surgery 1) 東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座救急医学分野東北大学病院高度救命救急センター 2) 石巻

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "Japanese Journal of Acute Care Surgery 2011; 1: 9 14 総説 重症外傷に対する集学的外科治療としての damage control surgery 1) 東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座救急医学分野東北大学病院高度救命救急センター 2) 石巻"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

はじめに

 重症外傷に対する手術は、必要と思われる機器と万 全のスタッフ、さらに十分な輸血用血液の準備のもと、 外傷外科に習熟した複数の外科医により施行可能であ るとは限らない。さらに、外傷は単独部位とは限らず、 腹部外傷に対する手術も “腹腔内出血によるショック” といった病態に対する手術であることが多く、損傷臓 器とその形態などの正確な診断に対する手術ではない。 外科医として、根本治療となる手術を遂行することは その責務である一方、輸液療法に反応しない循環不全、 低体温、アシドーシス、凝固異常あるいはそのリスク の存在は、 “可能であれば複雑な術式を避けたい”と思 わせ、選択しうる単純で有効な手術方法があれば、こ れが選択されるのは必然である。  このような重症外傷に対する手術において、明確な 背景と概念のもとに理論的に構築されたアプローチが damage control surgery(DCS)である1-3)。DCSの考 え方は、すべての外傷領域に関わり、また、重症外傷 治療における中心的な課題として捉えるべきテーマで ある。さらに、近年、非外傷性病態の治療にも広く応 用されてきている4, 5)  本稿においては、DCSの理論的背景と考え方、その 実際として、初回手術時における出血の制御と汚染防 止、術後ICUにおける管理、一時的閉腹法、さらに、 interventional radiology(IVR)を含めた集学的アプロー チに関して述べる。

重症外傷に対する外科治療:定型的術式から

damage control surgeryへの転換

1)なぜdamage control surgeryか

 従来行われてきた外傷に対する外科的治療は、すべ ての損傷に対する根本治療を受傷後早期に速やかに終 了 し よ う と す る も の で あ り、 非 外 傷 性 のelective surgeryと同様のコンセプトに基づくものである。しか し、多部位に出血源を有する重篤なショック症例の治 療において、“すべての損傷の外科的修復は行えたが、 救命することはできなかった”ということは、稀では なかった1-3)  大量出血を伴う重症外傷患者の術中・術後の最大死 亡原因は、主要な出血源をコントロールできないこと による失血ではなく、代謝性アシドーシス、低体温、 血液凝固異常のlethal triad of deathとされる生理学的 恒常性破綻によるものであるとされる1-3, 6)。主要な出血 源を制御しても、これらの生理学的破綻をきたすと、 ①止血のための外科的処置に難渋している間に増悪す る、②術中に復温を試みても極めて困難であり、③凝 固異常を呈し、低体温となった患者を復温するには一 旦手術を中止する必要がある。このような状態を回避 するためには、初回手術においては、損傷に対する速

要旨:Damage control surgeryは、大量出血を伴う重症外傷に対する治療手段として、明確なコンセプトのもと

に理論的に構築されたアプローチであり、重症外傷治療における中心的課題として捉えるべきテーマである。そ して、近年は非外傷病態における外科治療にも応用されている。Damage control surgeryは、①出血と腹腔内 汚染の“コントロール”のための初回手術、②循環不全とともに低体温、アシドーシス、凝固異常といった生理 学的異常の補正のための外科集中治療、③根本治療のための予定再手術の3つのphaseにより構成されるが、そ の第一段階として、適切・迅速な適応判断が重要である。これら判断、手術と集中治療とともに、避けることの できない腹部開放管理法、interventional radiologyを組み合わせた止血、そして、外傷急性期凝固異常の病態把 握と積極的なhemostatic resuscitationによるdamage control resuscitationなどによって構成される、集学的外科 治療がdamage control surgeryである。

【キーワード】damage control surgery, trauma, coagulopathy, interventional radiology, open abdomen management

総説

重症外傷に対する集学的外科治療としてのdamage control surgery

所属:東北大学大学院医学系研究科外科 病態学講座救急医学分野 住所:〒980-8574 仙台市青葉区星陵町1-1 東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座救急医学分野1) 東北大学病院高度救命救急センター2) 石巻赤十字病院救命救急センター3) 久志本成樹1) 赤石 敏2) 山内 聡1) 遠藤智之2) 佐藤武揚2) 古川 宗2) 野村亮介2) 藤田基生2) 工藤大介2) 本間信之2) 大村 拓2) 宮川乃理子2) 遠山昌平2) 石橋 悟3) 小林道生3)

(2)

やかな“コントロール”のみを行い、根本治療を行う ことなく、手術操作を最小限に抑える必要がある1, 2) “Damage control”の用語は、第二次世界大戦時の米 海軍軍事方略をもとにしたものであり、艦船の被弾対 策を指していたとされる。“味方の被害を最小限に食い 止め、如何に戦闘の継続を可能にするか”という考え に基づく方策であり7)、外傷外科においては、Rotondo らが明確なコンセプトを持って使用しはじめたもので ある8)。 一般的には、物理的な攻撃・衝撃を受けた際に、 そのダメージや被害を必要最小限に留める事後の処置 を指して用いられている。

2) Damage control surgeryは単なる外科手術手 技ではない  DCSは、重症外傷に対する外科的治療手技のみを指 す言葉ではない。肝損傷に対してパッキングにより止 血をするというのは、重要な治療手段であるものの、 DCSの一部に過ぎない。以下の3つのphaseにより構成 される1,2) a. 出血と腹腔内汚染の“コントロール”のための初 回手術  初回手術では、出血と腹腔内汚染に対しては確実 なコントロールを行うが、あくまで出血と汚染の制 御である。さらに、簡略化した迅速な一時的閉腹を 行う。 b. 生理学的異常補正のためのICUにおける外科的 集中治療 循環動態改善とともに、積極的に低体温、血液凝固 異常の補正を行い、48 〜 72時間以内の再手術を可能 とする。 c. 根本治療のための予定再手術(planned reoperation)  止血の確認、血行再建・消化管再建と定型的閉腹 を行う。

3)Damage control surgeryの適応判断

 Mooreら は、DCSの 第 一 段 階 と し て“Patient Selection for Abbreviated Laparotomy”を挙げている ように3)、どのような症例を適応とするかの判断は非常 に重要である。①代謝性アシドーシス、②低体温、③ 凝固異常が適応決定の中核となるが、出血傾向が出現 した場合の死亡率は85%以上9)、体温32℃以下への低下 症例の死亡率はほぼ100%の報告がある10)。適応決定こ そDCSによる治療成績向上のポイントである。実際に は、上記3徴候の出現を待っての適応判断では遅すぎる。 執刀後5分以内に適応を決定せよとも述べられている11, 12)。不必要なDCSは避けるべきではあるが、適応決定 の遅れは、救命しうる症例を失うことにつながるとの 認識が必要である。  従来提唱されてきた適応には、lethal triad、とくに 凝固異常の出現という視点からの判断が含まれている が、明らかな出血傾向が出現してからではどのような 手段を用いても止血が困難となることが少なくないこ とから、その危険性が高いと判断される状態を適応と すべきであると転換されてきている。手術開始後、① 循環動態と輸液・輸血に対する反応性、②貧血と凝固障 害の程度、③その後の手術操作に予想される出血と準 備 し う る 輸 血、 な ど の 要 素 を 考 慮 し て、 速 や か な decision makingが求められる。最近、外傷および非外 傷病態に対する適応として以下が提唱されており、よ り早期の適応判断と拡大が示されている13) 1. Hemodynamic instability

2. Coagulopathy on presentation or during operation (clinical or laboratory)

3. Severe metabolic acidosis (pH <7.2 or base deficit >8)

4. Hypothermia on presentation (<35°C)

5. Prohibitive operative time required to repair injuries (>90 mins)

6. High-energy blunt torso trauma 7. Multiple penetrating torso injuries

8. Multiple visceral injuries with major vascular trauma

9. Multiple injuries across body cavities

10. Massive transfusion requirements (>10 units packed red blood cells)(日本では20単位に相当) 11. Presence of injuries better treated with nonsurgical

adjuncts  重症腹部外傷の治療において、中心的な役割を果た すDCSである一方、その適応症例数が減少傾向である ことの報告もみられる。Higaらは2006年からの3年間に おける開腹術を施行した外傷症例を後ろ向きに解析し ている14)。532例に対して開腹術が施行され、DCS施行 率は、2006年の36.3%(53/146例) から2008年には8.8% (15/170例)へと減少しているが(p<0.001)、死亡率は 21.9%から12.9%へと低下を認めている(p=0.05)。DCS の減少により開腹手術数も減少し、医療費の削減にも つながっている。開腹術施行症例の転帰を改善しつつ、 DCSの適応をさらに限定しうる可能性を示しており、 広すぎる適応を見直す必要があることを示唆している。

Damage control surgeryの実際

1)Damage control surgeryにおける初回手術

 外傷外科手術におけるDCSは、特殊状況下での回避 的な治療手段ではなく、適応を明らかにした上で選択 する治療法である。初回手術においては、外傷に対す る開腹術における基本的要素である以下4項目のうち、 1〜 3のみを迅速に施行する。 1. Control of bleeding 2. Identification of injury 3. Control of contamination

(3)

4. Reconstruction a. 出血のコントロール  DCSというと、パッキングがすぐに想起されると 思われるが、パッキングのみが止血手段ではない。 損傷臓器・血管とその程度に応じて止血手段が選択 される。また、出血は確実なコントロールでなけれ ばならず、パッキングが行われていればいいわけで はない。  開腹と同時に、出血源の検索をしつつ、用手圧迫止 血、出血部位に対するパッキングなどにより一時止血 を行い、損傷に応じて以下の止血手段を選択する。 ⑴ 側壁縫合により容易に修復しうる損傷でなけれ ば、結紮可能な主要血管損傷は結紮にて止血す る。:腹腔動脈根部、上腸間膜静脈、腸骨静脈、 腎下部下大静脈など ⑵ 結紮により末梢の虚血あるいはうっ血の危険性 がきわめて高い血管ではtemporary shuntによ り、一時的血流の維持をはかる。Temporary shuntとしては、輸液用延長チューブや胸腔ドレ ナージ用チューブなどによる応用が可能であ る。:上腸間膜動脈、総腸骨・外腸骨動脈、門脈 など ⑶ 脾、腎などの摘出可能な実質臓器は摘出がもっ とも確実である。脾では被膜損傷のみと判断さ れても容易に止血できず、パッキングも不確実 なことが少なくない。 ⑷ 肝損傷に対しては用手圧迫止血、パッキング、 Pringle法により速やかに一時止血を行う。損傷 形態の評価にもとづいた術式の選択を行うが、定 型的肝切除と比較してその手技に時間を要さない とされるresectional debridement、hepatotomy with selective vascular ligationも選択されるこ とは少ない。深在性損傷に対して死腔を残す可 能性はあるものの、extensive hepatorrhaphyも DCSでは有用である。  肝損傷においては、もっぱらパッキングが行 われる。肝葉を頭側と尾側で挟み込むようにす るとともに、両手で肝を椎体に向かって押さえ 込み止血する形で外科タオルを用いてパッキン グを行う。パッキングにより門脈と肝静脈系か らの出血を制御するが、肝動脈からの出血を圧 迫止血にてコントロールしようとすることは、 過剰なパッキングから肝壊死をきたす15)。パッキ ング後も動脈性出血が持続する場合、あるいは パッキングした状態でPringle法を解除すること により動脈性出血が認められる場合には、直ち に経動脈的塞栓術による止血の補完を施行する。  肝後面下大静脈損傷が疑われる場合には、直 接アプローチを試みる肝臓の脱転操作そのもの が出血量を著しく増加させるのみならず、出血 の制御不能な状態に陥る危険性がある16-18)。腎周 囲、肝後面、骨盤内のnon-expanding hematoma に対しても、これを不用意に展開し、直接止血 を試みるべきではない。操作そのものが出血量 を増加させ、制御不能となる危険性がある。 b. 消化管内容による汚染阻止  消化管全層損傷に対しては、側壁縫合により修復 が可能な場合には、1層あるいは2層による修復を施 行する。しかし、切除・吻合を要するものでは、自 動縫合器による切離あるいは太いテープなどによる 結紮にとどめ、汚染防止のみを目的とし再建は行わ ない。また、人工肛門の造設は避けるべきである。 初回手術後も輸液による蘇生の継続が必要なことが 多く、腹腔内容量の増加のみでなく、腹壁も著しい 浮腫により厚みを増し膨隆する。このため、人工肛 門は腹腔側に牽引され虚血になることがある。また、 再手術における閉腹が困難となることから、初回手 術での人工肛門造設は行わない12)  胆管・尿管損傷に対してはカテーテルによる外瘻、 膵液に対してはドレナージを施行する。 c. 迅速な一時的閉腹  DCS後の一時的閉腹においてはopen abdomenの管 理が必要であり、①腸管の保護・収納と腹腔内外の バリアの形成、②腹腔からの体液喪失のコントロー ル、③パッキング部位への適切な圧の維持、④定型 的閉腹のための腹壁状態の維持などを目的として、 迅速性、術後の創管理の容易さ、閉腹後のabdominal compartment syndrome(ACS)の発生の危険性な どから、一時的閉創法を選択する1, 19, 20)

⑴skin only closure:

 皮膚のみを縫合閉鎖するものである。迅速に施 行可能であるが、止血のためのsurgical towelが腹 腔 内 に 充 填 さ れ、 か つ 閉 腹 後 も 大 量 のfluid resuscitationを継続しなければならない状況では、 閉腹時に腹腔内圧が高値を示さなくても、ACSの 発現に対する十分な注意を要する。

⑵towel clip closure:

 Towel clipを用いて皮膚のみを閉鎖する方法であ る。2 〜 3分以内にはlong midline incisionも閉創は 容易に行え、もっとも迅速な一時閉腹法である1, 19, 20)。皮膚のみの縫合閉鎖と同様、ACSに対する注 意が求められる。術後にIVRを行うことが少なくな く、towel clipの多数の存在はその妨げとなる可能 性があるため、最近はあまり使用していない。 ⑶silo closure:  1)腹腔・後腹膜臓器の著しい浮腫や止血のため のパッキングによる容量増加により、縫合糸や towel clipによる皮膚のみの閉鎖が困難な場合や、2) 縫 合 閉 鎖 が 可 能 で は あ っ て も、 大 量 のfluid resuscitationの継続が必要であり、ACSの発生が

(4)

危惧される場合にsilo closureが選択される1, 19, 20) 被覆材料としては、欧米からは膀胱鏡や経尿道手 術時の尿路洗浄液のバッグが比較的多く報告され ているが、常に滅菌されたシートとして準備され ているものではなく、著者らは高カロリー輸液用 プラスチックバッグを使用し、創縁に縫着してい る。プラスチックバッグの上をドレープにて被覆 するが、血液や滲出液の創周囲への漏出を完全に 防ぐことができないため、持続吸引チューブを留 置して管理を行う。

⑷vacuum pack closure:

 米国では、KCI Vacuum Assisted Closure (San Antonio, TX) が広く用いられ、本邦では2010年4 月より保険収載されているが、腹腔用キットは未 承認である。代替法として、有窓のポリビニルシー トで腹腔内臓器を被い、その上をsurgical towelで カバーし、シリコンドレーンを2本置き、ドレープ で被覆して陰圧をかける、“3-layer vacuum pack method”がもっとも標準的方法と考えられる21) 一時的閉腹法の選択では、enterocutaneous fistula 発生率が低く、定型的閉腹の可能性の高いことが 考慮されるが、現時点においては本法による成績 がもっとも良好である22, 23) 2)術後ICUにおける管理  初回手術後のICUにおける管理目標は、①末梢循 環不全の改善のための蘇生継続、②低体温、アシドー シス、凝固異常の積極的補正により、48 〜 72時間後の 根本治療のための再手術を可能とすることである1, 11)   循 環 動 態 の 改 善 目 標 と し て、supranormal resuscitationのゴールであるD02 >600 mL/min/m2と することは、きわめて大量の輸液を必要とし、腸管 灌流は阻害され、腹腔内圧上昇、ACSと多臓器不全、 死亡の発生率が増加することから推奨されない24)  低体温、アシドーシス、凝固異常に対しては、各 施設において利用しうる手段を駆使して対応する。 低体温に対しては、加温輸液装置を用いた輸液・輸血、 ブランケット等の保温・加温装置の利用であるが、 腹部の開放創からの浸出液や漏出血液の背部への貯 留にも注意が必要である。凝固異常に対しては、PT-INR <1.5、血小板数>50,000mm3を目標に新鮮凍結 血漿と血小板の投与を行う。アシドーシスの改善に は末梢循環不全からの離脱が必要であることはいう までもない。  初回手術後2 〜 3時間以内に10単位以上の赤血球輸 血を必要とする場合には、止血のための再手術、 IVRによる止血の補完を考慮するとともに、腹部以 外の出血源の検索を行う。生理学的異常を補正する ための集中治療、輸血のみを行っていても患者は救 命しえない。  ACSの発生に対しては十分な注意が必要である。 定型的筋膜閉鎖による閉腹を行っていなくとも、ま たsilo closureとしていてもACSは発生しうるため、 膀胱内圧のモニタリングを行う。 3)IVRを含めた集学的アプローチによる出血の制御  手術を完結しえないこと、外科的にきちんとした 止血をできずに圧迫止血のためのパッキングのタオ ルを挿入したまま手術室を出ること、さらには、外 科的に出血の制御を完全に行い得ないことは、ショッ クを伴う外科的治療を要する外傷に限らず、外科医 にとって敗北であると考えられているのではないだ ろうか。  出血のコントロールの方法として、外科的止血を 強力に補完するのがIVRであろう。IVRの適応に関し て明確なものはないが、下記病態に有用である可能 性があり25-28)、今後、その適応範囲が広がり、かつ、 明確にされるものであろう。 ① 深在性肝損傷(日本外傷学会分類III型)に対する パッキング施行時 ② 適切なパッキングと肝門遮断により止血可能であ り、肝門遮断解除により動脈性出血の認められる 肝損傷(形態的に重症とは限らない) ③展開・到達の容易でない後腹膜出血 ④開胸術後の胸壁よりの出血 ⑤ DCS施行後の持続性出血(術後短時間での10 units 以上、2 units/hr以上の輸血継続)

4) Damage control resuscitationを組み合わ せたアプローチ  外傷の90%では、normal-hypercoaglable stateであ り、受傷直後よりhypocoaglable stateを呈するもの は10%未満であるが、出血による死亡の大部分はこ の10%に含まれる29)。すでに述べたように、大量出血 による死亡は、主要出血源を制御できないことでは なく、凝固異常を中心とした生理学的恒常性破綻に よるものであり、従来、凝固異常は希釈性凝固障害 とアシドーシス、低体温などによる蘇生に伴うby-productとされてきた。しかし、重症外傷では早期よ り希釈によらない凝固異常を約25%に合併し、合併 例の死亡率は4倍であることが明らかにされた30, 31) 2000年代になりFFP過少投与の指摘、希釈性凝固障 害出現以前より認められる凝固障害に関する報告が なされ、晶質液過剰投与制限と早期より十分量の FFPを中心とした凝固因子補充を主眼とするdamage control resuscitation(DCR)が、重症外傷の転帰を 改善する可能性が示唆されている32-34)。さらにトラネ キサム酸による抗線溶療法が、出血性ショックまた は そ の リ ス ク の 高 い 症 例 の 死 亡 率 を 低 下 さ せ (CRASH-2)35)、その有効性は受傷後3時間以内の投 与症例で認められる36)。外傷そのものが線溶亢進を 惹起し、線溶亢進型DICを来しうることを明確な理論

(5)

的背景とし、晶質液投与制限と早期より十分量のFFP を中心とした凝固因子補充を主眼とするDCRのみでな く、1)fibrinolytic phenotype disseminated intravascular coagulation(DIC)の認識に基づくトラ ネキサム酸の投与、2)さらにfibrinolytic phenotype DICでは、フィブリンのみでなくフィブリノゲン分解 が生じることから、早期より減少するフィブリノゲン 補充の重要性を含めた病態把握と治療的アプローチに 基づく、新たなDCRの確立はさらに重症外傷診療に大 きな展開を与える可能性を有している。

おわりに

 DCSの考え方は外傷外科における中心的課題のひと つであり、決して逃げの治療ではなく、重症外傷に対 して適応を決め、積極的に選択する治療法である。 DCSは、その第一段階が適応判断である。さらに術中 の迅速な判断と的確な手技の要求される初回手術が大 切であることは言うまでもない。しかし、これのみが DCSではなく、集中治療室での全身管理、根本治療の ための再手術、腹部開放創の管理、IVRによる止血補 完と外傷急性期凝固異常に対する早期よりの対応など のすべてにより構成されるものであり、重症外傷に対 する集学的外科治療そのものである。 文 献

1) Wyrzykowski AM, Feliciano DV: Trauma Damage Control. Trauma, sixth edition. Feliciano DV, e al eds. New York: McGraw-Hill, 2008: 851-870.

2) Shapiro MB, Jenkins DH, Schwab CW, et al: Damage control: Collective review. J Trauma 2000; 49: 969-978.

3) Moore EE, Burch JM, Franciose RJ, et al: Staged physiologic restoration and damage control surgery. World J Surg 1998; 22: 1184-1191.

4) Subramanian A, Balentine C, Palacio CH, et al: Outcomes of damage-control celiotomy in elderly nontrauma patients with intra-abdominal catastrophes. Am J Surg 2010; 200: 783-788. 5) Morgan K, Mansker D, Adams DB: Not just for

trauma patients: damage control laparotomy in pancreatic surgery. J Gastrointest Surg 2010; 14: 768-772.

6) Johnson JW, Gracias VH, Schwab CW, et al.:Evolution in damage control for exsanguinating penetrating abdominal injury. J Trauma 2001; 51: 261-269.

7) Department of Defence, Washington DC: Naval War Publication 1996; 3: 20-31.

8) Rotondo M, Schwab CW, McGonigal M, et al: ‘Damage Control’: an approach for improved survival in exsanguinating penetrating abdominal injury. J Trauma 1993; 35: 375-383.

9) Asensio JA, McDuffie L, Petrone P, et al: Reliable variables in the exsanguinated patient which indicate damage control and predict outcome. Am J Surg 2001; 182: 743-751.

10) Jurkovich GJ, Greiser WB, Luterman A, et al: Hypothermia in trauma victims; an ominous predictor of survival. J Trauma 1987; 27: 1019-1024.

11) http://www.trauma.org/index.php/main/ article/368/

12) Hirshberg A, Mattox KL. Top Knife. The art & craft of trauma surgery. tfm Publishing Ltd, 2005. 13) Waibel BH, Rotondo MF: Damage control in

trauma and abdominal sepsis. Crit Care Med 2010; 38: S421-S430.

14) Higa G, Friese R, O'Keeffe T, et al: Damage control laparotomy: A vital tool once overused. J Trauma 2010; 69: 53-59.

15) Dabbs DN, Stein DM, Scalea TM: Major Hepatic Necrosis: A Common Complication After Angioembolization for Treatment of High-Grade Liver Injuries. J Trauma 2009; 66: 621-629.

16) Liu PP, Chen CL, Cheng YF, et al: Use of a refined operative strategy in combination with the multidisciplinary approach to manage blunt juxtahepatic venous injuries. J Trauma 2005; 59: 940-945.

17) Buckman RF Jr, Miraliakbari R, Badellino MM: Juxtahepatic venous injuries: a critical review of reported management strategies. J Trauma 2000; 48: 978-984.

18) Fabian TC, Bee TK: Liver and biliary tract trauma. In: Mattox KL eds, Trauma, sixth edition. New York: McGraw-Hill, 2008; 637-660.

19) Kushimoto S, Yamamoto Y, Aiboshi J, et al: Usefulness of the bilateral anterior rectus abdominis sheath turnover flap method for early fascial closure in patients requiring open abdominal management. World J Surg 2007; 31: 2-8.

20) 久志本成樹:ダメージコントロール術後の閉腹法. 救急医学 2005: 29; 979-988.

21) Diaz JJ Jr, Cullinane DC, Dutton WD, et al: The management of the open abdomen in trauma and emergency general surgery: part 1- Damage control. J Trauma 2010; 68: 1425-1438.

(6)

Temporary closure of the open abdomen: a systematic review on delayed primary fascial closure in patients with an open abdomen. World J Surg 2009; 33: 199-207.

23) Bee TK, Croce MA, Magnotti LJ, et al: Temporary abdominal closure techniques: a prospective randomized trial comparing polyglactin 910 mesh and vacuum-assisted closure. J Trauma 2008; 65: 337-344.

24) B a l o g h Z , M c K i n l e y B A , C o c a n o u r C S : Supranormal trauma resuscitation causes more cases of abdominal compartment syndrome. Arch Surg 2003; 138: 637-642.

25) Kushimoto S, Arai M, Aiboshi J, et al: The role of interventional radiology in patients requiring damage control laparotomy. J Trauma 2003; 54: 171-176.

26) Kushimoto S, Koido Y, Omoto K, et al: Immediate Postoperative Angiographic Embolization after Damage Control Surgery for Liver Injury: Report of a Case. Surg Today 2006; 36: 566-569.

27) Kushimoto S, Miyauchi M, Yokota H, et al: Damage control surgery and open abdominal management: recent advances and our approach. J Nippon Med Sch 2009; 76: 280-290.

28) 久志本成樹、宮内雅人、増野智彦、他: 外傷性血胸 に対する頸動脈的塞栓術の適応を考える:自験4例 と文献報告からの検討. 日外傷会誌 2010;24:27-32. 29) Holcomb JB: Damage control resuscitation. J

Trauma 2007; 62: S36-7.

30) Brohi K, et al. Acute traumatic coagulopathy. J Trauma 2003; 54: 1127–1130.

31) MacLeod JB, Lynn M, McKenney MG, et al. Early coagulopathy predicts mortality in trauma. J Trauma 2003; 55: 39–44.

32) Holcomb JB, Jenkins D, Rhee P, et al: Damage control resuscitation: directly adressing the early coagulopathy of trauma. J Trauma 2007; 62: 307-310.

33) Duchesne JC, Islam TM, Stuke L, et al: Hemostatic resuscitation during surgery improves survival in patients with traumatic-induced coagulopathy. J Trauma 2009; 67: 33-39.

34) Holcomb J, Wade C, Michalek JE, et al: Increased plasma and platelet to red blood cell ratios improves outcome in 466 massively transfused civilian trauma patients. Ann Surg 2008; 248: 447-458.

35) CRASH-2 trial collaborators: Effects of tranexamic acid on death, vascular occlusive events, and blood transfusion in trauma patients with

significant haemorrhage (CRASH-2): a randomised, placebo-controlled trial. Lancet 2010; 376: 23-32.

36) The CRASH-2 collaborators: The importance of early treatment with tranexamic acid in bleeding trauma patients: an exploratory analysis of the CRASH-2 randomised controlled trial. Lancet 2011; 377: 1096-1101.

参照

関連したドキュメント

2)医用画像診断及び臨床事例担当 松井 修 大学院医学系研究科教授 利波 紀久 大学院医学系研究科教授 分校 久志 医学部附属病院助教授 小島 一彦 医学部教授.

URL http://hdl.handle.net/2297/15431.. 医博甲第1324号 平成10年6月30日

学位授与番号 学位授与年月日 氏名 学位論文題目. 医博甲第1367号

金沢大学学際科学実験センター アイソトープ総合研究施設 千葉大学大学院医学研究院

東京大学 大学院情報理工学系研究科 数理情報学専攻. hirai@mist.i.u-tokyo.ac.jp

大谷 和子 株式会社日本総合研究所 執行役員 垣内 秀介 東京大学大学院法学政治学研究科 教授 北澤 一樹 英知法律事務所

鈴木 則宏 慶應義塾大学医学部内科(神経) 教授 祖父江 元 名古屋大学大学院神経内科学 教授 高橋 良輔 京都大学大学院臨床神経学 教授 辻 省次 東京大学大学院神経内科学

⑹外国の⼤学その他の外国の学校(その教育研究活動等の総合的な状況について、当該外国の政府又は関