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研究年報61集2号

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Academic year: 2021

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―  ―159  本研究は、約5年間の観察記録と保護者への聞き取りを通し、ある高機能自閉症児の対人相互交 渉のトラブルの変容を捉え、自他の言動の理解との関係性を明らかにすることを目的とした。結果 は次の3点にまとめられた。第1に、自己の言動および他者の言動に関する理解の困難が引き起こ しうるトラブルがあった。第2に、他者の言動に関する理解が進む中でトラブルは減少した。第3に、 観察当初から自己の言動に関する理解の困難は確認されたものの、トラブルとして顕在化したのは 他者の言動に関する理解が進んでからであった。これらのことから、自閉症児における対人相互交 渉のトラブルを捉えていく上で、自己の言動への理解という視点が必要であることを示唆した。 キーワード:自閉症・対人相互交渉・自己の言動の認識

Ⅰ はじめに

 自閉性障害(以下、自閉症と記す)の中核的な障害に社会性の障害がある(Wing, 1996)。知的障害 のない、いわゆる高機能自閉症児は、通常学級に在籍していることも多く、他児とトラブルになる ことが多い。他児との関係構築のつまずきは、不登校等の二次的な障害に繋がることもある(杉山 , 2007)。  これまで対人相互交渉のトラブルに関しては、他者の心的状態に関する理解の困難が背景要因に 挙げられてきた。その根拠として、自閉症児における心の理論課題へのつまずきがある。心の理論 (Theory of Mind)とは、「他者の行動に心を帰属させることであり、他者の目的・意図・信念・思考・

疑念・推測・ふり・好みなどの内容を理解すること」と定義され(Premack & Woodruff, 1978)、これ まで自閉症児が心の理論課題の1つである誤信念課題につまずくことが指摘されてきた(Baron-Cohen, 1989; Baron-まで自閉症児が心の理論課題の1つである誤信念課題につまずくことが指摘されてきた(Baron-Cohen, Leslie & Frith, 1985)。

 ただし、自閉症児すべてが心の理論課題につまずくわけではない。高機能自閉症児の中には、課 題を通過する者がいることも指摘されてきた。課題を通過する高機能自閉症児に関しては、心の理 1 教育学研究科 博士課程後期 2 宮城教育大学特別支援教育総合研究センター 教授 3 教育学研究科 教授

ある自閉症児の対人相互交渉におけるトラブルの変遷

―観察記録および保護者への聞き取りを通して―

鈴 木   徹

1

野 口 和 人

2

細 川   徹

3

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論の発達過程が定型発達児とは異なること(別府・野村 , 2005; Happé, 1994)、課題の結果が必ずし も日常生活の様相を反映しないこと(Bowler, 1992)の2点が示唆されてきた。後者に関しては、定 型発達児とは異なる方略で他者の心的状態を推測するために意図を誤った解釈が多いなど、他者の 心的状態の理解の困難の延長線上で捉えられてきた。  一方、鈴木・平野・北・郷右近・野口・細川(印刷中)は、高機能自閉症児1名の約5年間に渡る観察 記録をもとに、自己の言動の認識の困難を背景要因として捉える必要性を指摘した。すなわち、自 身の言動に関する理解が乏しいことや、自他の言動の因果関係の理解に困難があることが対人相互 交渉上のトラブルの契機となり得ることである。ただし、この研究報告では数年の観察記録を一括 して扱っており、自己の言動の認識の困難を契機としたトラブルの発生時期については言及してい なかった。また、対人相互交渉のトラブルと他者の心的状態の理解および自己の言動の理解の関係 性について検証されていなかった。  本研究は、鈴木ら(印刷中)で扱った高機能自閉症児の対人相互交渉のトラブルの変容を捉え、自 己および他者の言動の理解との関係性を明らかにすることを目的とした。

Ⅱ 対象および方法

1 対象児  対象児は20XX 年3月当時、14歳9 ヶ月の高機能自閉症男児(以下、A と記す)で、公立中学校通 常学級に在籍していた。定期的な通級指導を受けてはいないものの、A の様子を配慮して教師ら が別室で個別指導を行うこともたびたびあった。小学校時は、民間で実施されている発達障害児を 対象とした社会性支援活動に参加していたが、中学校入学を機に参加しなくなった。11歳5 ヶ月時 での知的機能(WISC- Ⅲ)は、FIQ =102、VIQ =96、PIQ =108であった。生育歴および心の理論 課題の結果に関しては鈴木ら(印刷中)を参照されたい。なお、本研究は、A および保護者に対し て研究の主旨や内容について説明を行い、同意を得た上で行った。 2 観察および記録  主に著者(T.S.)が A の自宅に出向き、3時間から5時間ほど参与観察を行った。内容は、特定の場 面を設けたりすることはなく、ときに学習指導を行うこともあったが、主として余暇の充実を目的 としたため、公園や大学構内にてさまざまな他者(大学生や高校生・A の同級生・A の弟など)を交 えて " 遊び " を中心にかかわってきた。加えて、不定期ではあったが、キャンプ等のアウトドア活 動を行ったり、遠方まで宿泊を伴う旅行に行ったりすることもあった。学校行事に伺い、A の様子 を観察することもあった。  観察記録は、約5年間(小学校2年から6年まで)を通して97回であった。ビデオやテープレコーダー などの記録機器は A の注意を引きつけるため使用せず、T.S. が観察時における対人相互交渉(A と 他者とのやりとり)をその都度メモした。そのため、観察記録の正確性に関しては、観察に同行して いた他の著者および大学生に確認をし、発言の内容等に関して加筆・修正した。なお、T.S. がかか

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―  ―161 わる以前の A の様子(小学校入学前から小学校1年まで)に関しては、室田(2006)で扱った観察記 録を参考にした。 3 保護者へのインタビュー  20XX 年1月に実施した。質問項目は、対人相互交渉におけるトラブル、他者の言動への理解、自 己の言動への理解などであった。小学校入学前から中学校入学までの様子を、1)小学校入学前、2) 小学校低学年(1・2年生)、3)小学校中学年(3・4年生)、4)小学校高学年(5・6年生)、5)中学校入学 後の5つの時期に区分して、それぞれの内容を聞き取った。 4 分析  観察記録および保護者へのインタビューをもとに、対人相互交渉におけるトラブル、他者の言動 への理解、自己の言動への理解の内容を、1)小学校入学前、2)小学校低学年、3)小学校中学年、4) 小学校高学年、5)中学校入学後、の5つの時期に分け整理した。なお、保護者は「誰かと揉めること・ 気持ちが乱れてしまうこと」と対人相互交渉のトラブルを捉えていた。そのため、対人相互交渉の トラブルを他者と揉め事が起きることとした。

Ⅲ 結果

 対人相互交渉のトラブルは、他児への乱暴な行動が目立つ時期(小学校入学前)、トラブルが減少 し他児と遊ぶ機会が増加した時期(小学校低学年から中学年)、他児との関係不調を頻繁に訴える時 期(小学校高学年から中学校入学後)の3つに大別された。トラブルの内容と他者の言動への理解、 自己の言動への理解の時系列的変化を図1に記した。以下では、それぞれの具体的な内容を記した。 図1 対人相互交渉の変容 弟 と の ケ ン カ 叩 く ・ 囓 る 集 団 活 動 か ら の 逸 脱 自 己 否 定 的 な 発 言 状 態 を 適 切 に 説 明 自 覚 の な い 行 動 言 動 の 理 由 の 説 明 な し 弟 と の ケ ン カ 他 児 と 遊 ぶ が 途 中 帰 宅 状 態 を 適 切 に 説 明 心 的 状 態 の 適 切 な 表 現 心 的 状 態 の 想 像 他 者 の 意 見 に 同 調 自 覚 の な い 行 動 他 者 の 責 任 と 主 張 弟 と の ケ ン カ 他 児 と 遊 ぶ が 途 中 帰 宅 他 児 と 関 係 不 調 の 訴 え 自 己 否 定 的 な 発 言 状 態 を 適 切 に 説 明 心 的 状 態 の 適 切 な 表 現 心 的 状 態 の 想 像 他 者 の 意 見 に 同 調 自 覚 の な い 行 動 他 者 の 責 任 と 主 張 よく見られる しばしば見られる 見られる 図1 対人相互交渉の変容 弟 と の ケ ン カ 叩 く ・ 囓 る 集 団 活 動 か ら の 逸 脱 自 己 否 定 的 な 発 言 状 態 を 適 切 に 説 明 自 覚 の な い 行 動 言 動 の 理 由 の 説 明 な し 弟 と の ケ ン カ 他 児 と 遊 ぶ が 途 中 帰 宅 状 態 を 適 切 に 説 明 心 的 状 態 の 適 切 な 表 現 心 的 状 態 の 想 像 他 者 の 意 見 に 同 調 自 覚 の な い 行 動 他 者 の 責 任 と 主 張 弟 と の ケ ン カ 他 児 と 遊 ぶ が 途 中 帰 宅 他 児 と 関 係 不 調 の 訴 え 自 己 否 定 的 な 発 言 状 態 を 適 切 に 説 明 心 的 状 態 の 適 切 な 表 現 心 的 状 態 の 想 像 他 者 の 意 見 に 同 調 自 覚 の な い 行 動 他 者 の 責 任 と 主 張 小学校入学前 よく見られる 小学校高学年から中学校入学後 小学校低学年から中学年 しばしば 見られる 見られる トラブル 自己の言動 他者の言動 図1 対人相互交渉の変容 小学校入学前 小学校低学年から中学年 図1 対人相互交渉の変容 小学校高学年から中学校入学後

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1 他児への乱暴な行動が目立つ(小学校入学前)  ⑴ トラブルの内容  当時、幼稚園に通っていた A は、他児への乱暴な行動、集団活動からの逸脱が多く、その理由を 説明しないことも多かった。加えて、自己否定的な発言を行っていた。A は、他児を叩いたり噛み ついたりする行動を頻繁に起こし、教師を困らせていた。そのほとんどは教師や他児が「突然 A が 叩いて(噛みついて)きた」と思うものであり、その理由を尋ねても A は答えずに教室を抜け出して しまっていた。また、他児との共同作業が難しく、集団活動自体に参加しないこともあった。その ような A の様子を他児が叱責することもあった。A は「いじめられている」、「自分には友達がい ない」とたびたび訴えていた。  保護者へのインタビューによると、家庭でも自己否定的な発言を行うことが多かったということ であった。  ⑵ 他者の言動への理解  他者が腹を立て大きな声をあげていたり、または談笑していたりしたとき、A は他者の状況から 推測される心的状態を言及することがあった。それらは概ね適切に表現されており、とりわけ喜び や怒り、困惑、悲しみなどの心的状態について言及していた。また、それは特定の他者(保護者や弟 といった A と近しい者)に向けられたものではなく、T.S. や他児にも同様であった。  ⑶ 自己の言動への理解  自身の言動の理由を尋ねられても答えないことが多かった。たとえ(A の行為を受けて)他児が 泣いていたとしても、理由を答えることはなく、ときには自身は全く関係ないかのような素振りを 見せていた。A が叩いたり囓ったりすることで他児を泣かせてしまい、その理由を保護者から尋ね られたとしても A は答えなかった。むしろ、A が叩いたことで他児が泣いてしまったにもかかわ らず、その横で平然と遊び始めるなど、他児の状態に無関心な素振りを示すことが多かった。その ことを他者から注意されたとしても、他児に謝るようなことは殆どなかった。 2 トラブルの減少・他児と遊ぶ機会の増加(小学校低学年から中学年)  ⑴ トラブルの内容  自己否定的な発言は断続的に続いたものの、他児と遊ぶことが多くなった。担任教師が A に対 して厳しく指導していたこともあり、授業中も離席することなく、集団活動から抜けてしまうこと もなくなった。以前のように、周囲から見て突然(A が他児を)叩くこともなくなった。この頃、A の容姿をからかう他児が複数いたが、A は彼らを叩いたりすることはなく、「やめろ」などと言葉 で返していた。学校での出来事について、他児と休み時間に一緒に遊んだことを話すこともあった が、「自分には友達がいない」、「皆に嫌われている」、「友達は○○(T.S. のこと)だけでいい」と話 すことが多かった。小学校低学年頃は、放課後または休日に他児と遊ぶことはあまりなかった。

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―  ―163  保護者へのインタビューによると、他児と遊ぶ機会が少なかったのは、保護者の教育方針による ところが大きく、習い事を3つ4つ掛け持ちしていたため、余暇にあたる時間の多くはそれに費やさ れていたとのことであった。ただし、どの習い事も長続きすることはなく途中でやめていたという ことであった。  小学校中学年の頃は、毎日のように他児と遊ぶようになった。近所に公園があり、放課後には自 然と公園に他児が集まってきていた。そのため、公園に行くとサッカーやキックベースといった遊 びに A も混ざっていた。ときには、「お腹が減った」といって他児と自転車で近所へ出掛けること もあった。他児が A を誘いに家を訪ねることも多く、「□□君、今日は来ないのかな」などと A は 誘われることを楽しみにしていた。T.S. との会話の中でも「他児と遊んだ」、「□□君はシュートが うまいけど、僕はパスがうまい」などと他児の名前が度々出てきており、この時期「友達がいない」 と訴えるようなことは少なかった。  保護者へのインタビューによると、一見、周囲とうまく関係を築けていたように思っていたが、 稀に泣きながら帰宅くることがあり、A は「いじめられた」、「バカにされた。もう一生遊ばない」 と泣きながら訴えていたとのことであった。ただし、翌日には(同じ)他児と遊びに出掛け、「楽し かった」と話すことも多く、子ども同士のケンカと認識していたとのことであった。  ⑵ 他者の言動への理解  他者の言動から推測される心的状態への言及に加えて、他者の言動を受けた(別な)他者の心的 状態の予測(または想像)した発言を行うようになった。喜びや悲しみ、不快といった心的状態を言 及しており、それらは他者の心的状態を適切に予測していた。たとえば、次のようなことがあった。 T.S. と A、弟は大学構内でセミの抜け殻を集めていた。その後、大学生との待ち合わせに向かう途中、 T.S. は「この抜け殻(大学生に)でいたずらしよう」と提案した。すると A は「そんなことしたら○ ○(大学生の名前)ちゃんがかわいそうだ」と言った。T.S. は、「大丈夫だよ。驚くだろうけど、怒っ たりしないよ」と言ったものの、A は「かわいそうだ」と言い続けた。  ⑶ 自己の言動への理解  小学校入学後から自身の言動の理由を話し始めるようになった。ただし、その内容は「他児が悪 い」と主張したものが殆どであり、" なぜそのような言動を示してしまったのか " という他者の問い かけの意図に沿ったものではなかった。他者が問いかけの意図を再三説明しても、A は頑なに「他 児が悪い」と主張していた。  A は「自分は悪くない」、「□□(他児の名前)が僕を怒らせるようなことをした」と主張するのみ で、自身の言動によって他者に嫌な思いをさせてしまったとしても、そのことを認めようとしなかっ た。また、自身の言動が他者に与える影響を考慮しないこともあった。その際、A の行動が周囲に もたらす影響を説明したとしても、A は自身の行動を変えることはなく、むしろ(自身の言動が) 全く関与していないかのように振る舞うことがあった。たとえば、次のようなことがあった。弟の

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通う保育園の運動会に T.S. と A は見学に行った。A は園内でお菓子を食べており、それを見た数 名の園児が「いいなぁ」と言い近づいてきた(園内は飲食禁止であった)。T.S. は、「ここでお菓子を 食べると他の子どもが欲しいと思うからお菓子をしまってね」と注意した。それにもかかわらず、 Aはお菓子の袋をしまわなかったため、数名の園児はAの周りから離れず、会の進行の妨げてしまっ ていた。近づいてくる園児に対して、A は「あっちにいけよ」、「先生に怒られるぞ」などと注意し ていた。  また、自身の言動によって(A 自身の)状況が悪化したにもかかわらず、その原因は他者にあると A は主張することもあった。ときには、その場にいない他者に原因があると主張することさえあっ た。他者が A 自身の言動と現在の状況を結びつけて説明しても、A は納得することはなかった。 たとえば、次のようなことがあった。大学構内で、A と弟、T.S. の三人で遊んでいたとき、A は構 内に住みつく猫を見かけると、その後を走って追いかけた。追いかけられた猫は茂みの中に隠れて しまった。猫に逃げられてしまったことに A は腹を立て、「何で触らせてくれないんだ」と言い頭 を抱えていた。その後、A は弟のもとに駆け寄り「お前がいるから猫が逃げたじゃないか」と叱責 した(弟は猫を追いかけていなかった)。T.S. は、A が走って猫を追いかけたことが原因で猫が逃 げてしまったこと、弟は全く関係がないことを再三説明したが、A は納得することはなく「弟が悪 いんだ」と言い続けていた。このような場面は類似した状況で再三見られた。 3 他児との関係不調の頻繁な訴え(小学校高学年から中学校入学後)  ⑴ トラブルの内容  小学校高学年頃から、他児と遊ぶものの途中で泣きながら帰宅してくることが増えた。その理由 を A は「相手が悪い」と主張するだけで、他児との具体的なやりとりを話すことはなかった。一時 期減少していた自己否定的な発言も頻繁に行うようになった。中学校入学後は、他児とうまく関係 が築けていないことを頻繁に訴えるようになった。  小学校高学年になると、放課後に他児と遊びに出掛けるものの、すぐに泣きながら帰宅し「僕は いじめられている」、「皆が僕をからかう」と訴えるようになった。徐々に他児と遊ぶことは少なく なり、放課後は殆ど家で過ごすようになった。特定の他児が A をからかうようになり、「休み時間 が苦痛だ」、「休み時間は一人でボーっとしている」などと学校での様子を話していた。  保護者へのインタビューによると、A が他児とトラブルが起きていることを学校へ伝えても、「一 概に他児だけが悪いとは言えない」と対応されるだけで、学校と家庭ではトラブルの認識に多少な り隔たりがあると感じていたとのことであった。家庭でも、A は「僕はいじめられている」、「皆が 僕をバカにする」と訴えるようになったとのことであった。  中学校に入学すると、状況はさらに悪化した。A は、他児からいじめられると訴え保健室で休む ことが増え、次第に欠席するようになった。A は「皆が僕をバカにするような目で見てくる」、「陰 口を言われたような気がする」といった、「・・・かもしれない」ことを保護者や担任教師に訴えるこ とが多く、周囲は A がストレスを感じていることを重々理解しながらも、具体的な支援を行うこと

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―  ―165 はできずにいた。そのような中で、席替えを機に少しずつ状況が変わってきた。担任教師の配慮に より、席替えの際、事前に誰が近くなら良いか聞いておき、A の好む他児を周りに配置し、かつ教 室の後方に座席を配置した。そうすることで A の訴えは徐々に減り、休まずに登校するようになっ た。「学校が楽しい」という言葉はないものの、「行きたくない」とも言わなくなった。  ⑵ 他者の言動への理解  他者の言動から推測される心的状態への言及、他者の言動を受けた(別な)他者の心的状態の予 測(または想像)した発言は行われていた。加えて、敬語を話したりするなど年長者への配慮が見ら れるようになった。  保護者へのインタビューによると、他者の行動から心的状態を読み違えるようなことは殆どない とのことであった。また、他者によって態度を変えるようにもなってきており、成長を実感してい るとのことであった。一方で、弟に対して叩いたり囓ったりするのは小学校入学前から続いており、 身体も大きくなっていることから怪我の心配をしているとのことであった。  ⑶ 自己の言動への理解  自己の言動の説明は、小学校入学後から変わらず、「他者が・・・したから」と他者に責任がある との主張が多かった。A はトラブルが起きると、「何とか解決して欲しい」と T.S. に何度も電話を かけてきた。T.S. は A の気持ちを受けとめつつ、A の言動が他児の言動に影響していた可能性を 尋ねると、A は「他者が・・・したから」という主張を繰り返すだけだった(この問答を繰り返す中 で A が泣き出してしまうことが多く、T.S. はなぜトラブルの背景を確認できなかった)。  保護者へのインタビューによると、家庭でも「いじめられた」と毎日のように訴えてきて、保護者 が「A 自身も他児に何かしていたのではないか」と尋ねると、A は「なぜ辛い気持ちを受けとめて くれないんだ」と泣き出してしまうとのことであった。また、A は T.S. をとても頼りにしているが、 「つらいことがあったら○○君(T.S.)が話を聞いてくれるけど、一向に解決しない」と話していると のことであった。

Ⅳ まとめ

 対人相互交渉のトラブルに関しては、弟とのケンカは各時期に共通していたが、その他のトラブ ルの内容は時期ごとに異なっていた。自己否定的な発言は小学校低学年から中学年にかけて一旦減 少し、その後再び行われるようになった。他者の言動への理解に関しては、小学校入学前から他者 の状態を適切に表現することは可能であり、小学校低学年頃からは、他者の意図を適切に解釈する だけではなく、他者の意見や主張に同調することもあった。自己の言動への理解に関しては、小学 校入学前までは自身の言動を説明しないことが多く、小学校入学後からは説明するものの、「他者 が・・・したから」と主張するのみで、「なぜそのようなことをしたのか」という他者からの問いかけ の意図に応じることはなかった。自身の言動によって状況が悪化したときなどは、全く関与してい

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ない他者が悪いと主張することもあった。 1 他者の言動への理解とトラブルとの関連  小学校入学を機会にトラブルの内容は大きく変わっていた。それまでは、叩いたり囓ったりといっ た他児への行動が主なトラブルであったが、入学後はそのような行動は見られなくなった。たとえ、 他児から悪口を言われたとしても、A は他児を叩くことはなく、苛立つ気持ちを言葉で表現しよう としていた。この頃、他者の言動が別の他者へ与える影響についても適切に表現したり、他者の意 見や主張に同意したりするようになった。別府・野村(2006)では、高機能自閉症児は心の理論課題 を9歳頃に通過することを示されており、課題を通過した者は適切な回答理由付けを行っていたと 報告している。当時、A は心の理論課題の一部を通過していたこと(室田 , 2006)からも、小学校入 学後に他者の状態から心的状態を適切に推察することが可能になり、そのことが他者への直接的な 行動の減少や放課後に他児と遊ぶ回数の増加に繋がったものと思われる。 2 自己の言動への理解とトラブルとの関連  小学校中学年頃から、A は他児と遊びに出掛けるものの、途中で泣きながら帰宅することがあっ た。高学年になると、その回数は増え、毎日にように泣きながら帰宅するようになった。つまり、 小学校入学前頃のように、他者から突発的と思われるような A の行動がトラブルの契機になって いるわけではなく、まさに他児との相互交渉の中でトラブルが起きていた。その理由を A は「友達 に・・・された」、「皆、俺のことを嫌っている」などと説明していた。つまり、他児の言動の意図に は自身への批判等が含まれていると A は解釈していた。Bowler(1992)は心の理論課題を通過する 自閉症児も実際の対人相互交渉においてトラブルが生じることを指摘していた。その理由について は、これまで他者の心的状態の理解の困難の延長線上で説明されてきた。他者の言動から意図や心 的状態を推察することが可能であるからこそトラブルが起こり得たと言えるだろう。  A は、「いじめられた」と話すものの、「なぜそのようなことを他児がしたのか」という他者の問 いかけに答えることはなかった。鈴木ら(投稿中)では、そのような A の発言の背景に自身の言動 の認識の困難を想定していた。つまり、他児との相互交渉の中でトラブルが起きたときに、自身の 言動が他者の言動に与えた影響(自分が・・・したから他児が・・・してきた)を考慮していないこ とである。自身の言動の理由について、A は「他児に・・・された」という他者の言動の内容や意図 に関して発言しており、それらは時期に限らず共通して確認された。  児童期の自己評価の発達について、眞榮城(2005)は、小学校中学年頃を境に自己中心的評価から 他者中心的な評価へ変わると指摘している。具体的には、「自分は○○した」という自身の行為を主 体とした評価から、「自分のしたことは他者から○○と思われている」という(自身の行為を受けた) 他者の視点を踏まえた評価へと変わるという。つまり、小学校中学年頃からは、「自分が・・・した ことで他者が・・・した」という自他の言動の因果関係の理解が可能となり、それは他者の言動を受 けての自身の言動の調節へと繋がるものと思われる。A は他者の言動に含まれる意図を適切に解

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―  ―167 釈することは可能であっても、他児とのトラブルの原因に自身の言動を踏まえて説明することはな く、また自身の行動を調整したにもかかわらずトラブルが起きてしまったと説明することもなかっ た。自身の言動を認識することの困難がトラブルの直接的な要因と成り得たかに関して本研究では 結論は出ない。ただし、他児が自他の言動の因果関係の理解に配慮した対人相互交渉を行うように なる中で、A が自身の言動を省みずに他者の言動のみの解釈を行っていたことは、他児との関係不 調が生じる契機と成り得たと言えるだろう。 3 今後の課題  従来、他者の心的状態の理解の難しさが対人相互交渉のトラブルを引き起こすと想定されてきた。 ただし、Happé, Ronald and Plomin(2006)が指摘するように、単一の要因によって包括的な説明 を行うことは難しいだろう。本研究は、対人相互交渉において、他者理解の困難が引き起こしうる トラブルと自身の言動の認識の困難が契機となり得るトラブルの両方を確認した。自身の言動の認 識に関する困難は当初から確認されたが、それがトラブルとして顕在化したのは A が他者の心的 状態の理解に基づく振る舞いが見られてからであり、あくまでも原因ではなく契機となり得るもの であった。今後、自閉症児の原因帰属の傾向を確認し、なおかつ他者の心的状態に関する理解の状 態を考慮した上で、対人相互交渉を評価する必要があるだろう。

謝辞

 A 君と A 君の家族に多大なるご協力をいただきました。また、本研究を進めるにあたり、東北文 化学園大学の平野幹雄先生、三重大学の郷右近歩先生、筑波大学付属久里浜特別支援学校の室田義 久先生からたくさんのご助言をいただきました。心よりお礼申し上げます。 【文献】

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―  ―169

The purpose of this study was to investigate the change of social communication problems and understanding of the relationship between self and others behavior in a child with high functioning autism. The results are summarized below; First, there was a problem about the difficulty of understanding of self and others behavior. Second, the problems decreased with an increase in the understanding of others behavior. Third, although there were difficulties in understanding of self behavior from beginning of the observation, these difficulties became evident with improving to realize others behavior. The results suggested that it is important to evaluate not only how autistic child understanding of others behavior but also how he/she understands of his/her own behavior.

keyword:autism・social communication・understanding of self-behavior

Toru SUZUKI

(Graduate Student, Graduate School of Education, Tohoku University)

Kazuhito NOGUCHI

(Professor, Special Needs Education Research Center, Miyagi University of Education)

Toru HOSOKAWA

(Professor, Graduate School of Education, Tohoku University)

Social Communication Problems in a Child

with High Functioning Autism

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参照

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