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東アジアにおける偏西風の時間・空間変動特性

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偏西風に関連して熱帯太平洋の海面温度と500hPa高度 場 と の 関 係 に つ い て の 研 究 も 行 わ れ て い る (小泉, 1989)。 偏西風蛇行の原因についてなされた研究の他に,偏西 風蛇行がおよぼす各気象影響に関する研究がある。土屋 (1967) は北半球における冬と夏の偏西風の主な大循環 の型を示し,偏西風蛇行の大きくなったブロッキング現 象に伴う日本の天気について研究した。田中 (1996) は 1993年の冷夏,1994年の猛夏のそれぞれの年の全球領 域に対し統計的解析を行い,季節変動による偏西風等の 考察を行った。 このように,偏西風の先行研究においては事例解析を もとにした研究が多く,統計解析,とりわけ多変量解析 を用いた現象把握の研究はほとんど見られない。そこで 本研究では東アジア地域を対象として比較的長期間の高 層風データを用い,気流系をベクトル要素に分解して同時 に統計的解析を行うことで,偏西風の主なパターンを抽出 し季節ごとでの変動を探る。また地上天気図との比較を Ⅰ.はじめに 日本を含む中緯度上空には大気大循環の大きな特徴と して偏西風が定常的に吹いている。偏西風帯が顕著に表 れるのは500hPaにおける高度であり,200-300hPaの高 度ではジェット気流が顕著である。南北の温度差が大き くなると波動を起こし傾圧不安定波となることが知られ ており,また蛇行現象が大きくなるとブロッキング現象 がおこり各地域に異常気象をもたらすことが注目されて いる (小倉,1999)。従って,各気象現象に影響をあたえ る偏西風の変動を探ることは天気予報においても重要な 役割を果たす。 これまで,偏西風については様々な研究が行われてき た。シミュレーションを用いたチベット高原付近の大気 の流れ (住,1981) や,偏西風と梅雨の関係 (Takeaki et al. 2010) など多くの研究がなされている。また偏西風は 北極振動とも深い関係があるとされており,本田・高谷 (2007) の研究によりその関係が考察されている。一方,

大田 悠

・加藤 央之

**

We investigated air current pattern on the 500 hPa and 850 hPa surface in eastern Asian region depending on the NCEP/NCAR reanalysis data in eastern Asian region. Air current patterns were obtained using principal component anal-ysis and cluster analanal-ysis.

These patterns are classified into warm season pattern, cold season pattern, and singular pattern. As a result of the analyses, there was no significant changes in each pattern during 33 years. Warm season pattern and cold season pattern are divided in to seven, and six, respectively, and identified to the weather system using surface weather charts.

Keywords: westerlies, principal component analysis, cluster analysis, air current, east Asia

東アジアにおける偏西風の時間・空間変動特性

Time and Space Fluctuation Property of Westerlies in East Asia

Yu OTA

and Hisashi KATO

** (Received November 17, 2014) 日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要

No.50 (2015) pp.69-80

Graduate School of Integrated Basic Sciences, Nihon University:

3-25-40, Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan

** Department of Geosystem Sciences, College of Humanities and

Sciences, Nihon University: 3-25-40, Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan

日本大学大学院総合基礎科学研究科:

〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40

** 日本大学文理学部地球システム科学科:

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行い高層気流場との関係,季節変化・経年変動を探る。 Ⅱ.使用データと解析方法 Ⅱ-1.使用データ 本研究では1979年から2011年までの全12053日間を 対象とした解析を行った。解析にはNCEP/NCAR再解 析データから,2.5度メッシュの500hPa, 850hPaの東西 風・南北風データ (00UTC) を使用した。対象領域は東 経110度~160度,北緯20度~52.5度である。 Ⅱ-2.解析方法 NCEP/NCAR再解析データに対し主成分分析を行っ た。主成分分析とは複雑な変動パターンから主要な変動 パターンを抽出する統計手法である。主成分分析は通常 スカラー量に対して行われる統計的解析手法であるが, 東西,南北データの同時性を考慮することによりベクト ル的な解析をすることが可能である。地点ごとに2 つの 変数(東西成分と南北成分)を考え,同時に主成分分析 を行う。すなわち,通常p地点×t 時間のデータマトリ クスに主成分分析をかけるのに対し,(2 ×p地点)×t 時 間のマトリクスに主成分分析をかけている。この操作は 東西風成分と南北風成分の同時性を考慮したパターン解 析を意味し,ベクトル風を複素主成分で分析することと 基本的には等価であると考えられる。気流パターンの第 i 主成分は以下の式で示される。 これらをまとめると,以下の式になる。 ここで,U ; 東西風データ,V ; 南北風データ,e ; 固 有ベクトル成分(添え字のu, v はそれぞれ東西成分,南 北成分を示す),Z ; 主成分スコア (卓越指数) t ;年日時 のデータ数n ; 地点数 i ; 主成分番号 である。 Ⅲ.結果と考察 Ⅲ−1.500hPa 気流場の解析 ここでは500hpa気流場に対する主成分分析の結果を 示す。図1 に500hPa高度場における平均気流場を,図 2 に第 1 主成分から第 6 主成分までの固有ベクトル成分 の分布をベクトル合成した結果を示す。主成分は平均か らの偏差を示す。ここで,各主成分のベクトルにある日 の卓越指数 (主成分スコア) を掛けたものがその日のそ の主成分による風速変動成分に相当する。つまり卓越指 数が正ならば,主成分ベクトル図の基本ベクトルの方向 に風が強められ,負ならば基本ベクトルが180度逆の方 向に風が強められるということである。主成分ベクトル 図の固有ベクトルの値が大きい所が風速の変動が大きい ところとなり,小さい所は変動が小さい。 図1 によると,年平均の 500hPa気流場では,日本上 空でおおよそ10m/sの偏西風が吹いており,南にいく につれ偏西風は弱まる。また,オホーツク海側でも弱 い。 第1 主成分は,卓越指数が正に卓越した時には日本の 南海上で西風成分が強まり,逆に負に卓越した時には偏 西風を弱める,または東風成分となることを示す(図2a)。 寄与率は31.2%であり第1主成分だけで解析期間の風の 変動の約30%を説明できる。卓越指数は暖候期で負に 卓越し,寒候期で正に卓越する (図3a)。暖候期に卓越 指数が負に卓越するのは太平洋高気圧の影響であり,偏 西風帯は北上することを意味する。従って,第1 主成分 は季節ごとの強風軸の北上と南下を示す成分と考えられ る。第2 主成分のベクトル図では,卓越指数が正に卓越 した時には,日本の東海上には低気圧性循環が,大陸北 側では高気圧性循環がみられ,日本列島上空で北東風を 強める気流を示す (図2b)。寄与率は 10.0%であり第 2 主成分だけで解析期間の風の変動の約10%を説明でき る。卓越指数は6月,7月に正の大きな値となり,10月 11月に負の大きな値となることから東海上の低気圧や 図1  対象領域内の500hPaにおける33年間 (1979-2011) の 平均風

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東アジアにおける偏西風の時間・空間変動特性 下位の主成分は寄与率が小さく,季節的に卓越しやす い移動性の高気圧や低気圧,さらに規模の小さい高気圧 や低気圧などの影響を表しているものと考えられる。本 研究ではそれぞれの主成分に対応した各々の現象の解明 ではなく,気流場のパターンを明らかにすることが目的 であるので,個々の現象,特に高次の現象については詳 しくは検討しない。ここで,第1 主成分から第 6 主成分 までの累積寄与率は65.9%となり,解析期間内における 気流場の変動の約2/3を説明できるものである。残りの 約1/3はより局地性のある気象場の影響が考えられる。 ただし,以上で示した寄与率は平均のものであり,日別 でみた際には各主成分の寄与率は異なることには注意を 要する。 次に各月ごとにみた主成分スコアの経年変化を探る。 これは各月の気流場が年々どういった変化をするのか, 33年間でみた場合に明らかにするためである。1月にお ける平均の第1 から第 3 主成分スコアの経年変動を示す (図4)。これによると目立ったトレンドは見られず,例 えば第一主成分と対応する強風軸の顕著な変動は見られ ない。エルニーニョ,ラニーニャ現象が発生した年にお いても,主成分スコアの大きな変動はない。これについ 移動性高気圧の影響と考えられる (図3b)。 第3 主成分以下では,寄与率は小さいものの,局地的 に明瞭な循環が見られる。第3 主成分のベクトル図で は,卓越指数が正に卓越した時には,日本上空に高気圧 性循環が強められる。ただし,領域の南西側では気流系 の変動は小さく (図2c),主たる変動域は日本の東海上 である。寄与率は8.3%であり第 3 主成分だけで解析期 間の風の変動の8.3%を説明できる。第 4 主成分のベク トル図では,卓越指数が正に卓越した時には,大陸側で 低気圧性循環が強められ,日本の東方で北東風が強めら れる特徴が見られる (図2d)。寄与率は6.7%であり第 4 主成分だけで風の変動の解析期間の6.7%を説明でき る。第5 主成分のベクトル図では,卓越指数が正に卓越 した時には,千島列島の東に中心を持つ低気圧性の循環 が見られ,三陸沖で北西風が強められることを示す(図 2e)。寄与率は5.2%であり第 5 主成分だけで解析期間の 風の変動の5.2%を説明できる。第 6 主成分のベクトル 図では,卓越指数が正に卓越した時には,日本の西で 高・低気圧循環が強められる特徴が見られる (図2f)。 寄与率は4.7%であり第 6 主成分だけで解析期間の風の 変動の4.7%を説明できる。 図2  500hPa気流場の主成分分析結果による因子負荷量図 (a) は第 1 主成分,(b) は第 2 主成分,(c)は第 3 主成分,(d) は第 4 主成分,(e) は第 5 主成分,(f) は第 6 主成分. カッコ内の数字は各主成分の寄与率を示す.

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ては下位の主成分スコアの経年変動に現れている,また は複数の主成分が関連している可能性があると考える が,ここでの検証は行わない。また全ての月に対しても 同様の図を作成したところ,1月と同じく大きな変化は 見られなかった。 Ⅲ-2.850hPa 気流場の解析 ここでは850hPa気流場に対する主成分分析の結果を示 す。図5 に850hPa高度場における平均気流場を,図 6

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図4  500hPa気流場の 1月における月平均主成分スコアの経年変化 横軸に年,縦軸に卓越指数を示す. 図5  対象領域内の500hPaにおける33年間 (1979-2011) の 平均風 図3  500hPa気流場における各主成分の月平均卓越指数 (a) 第 1 主成分 (b) 第 2 から第 6 主成分 縦軸は卓越指数, 横軸は月.

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東アジアにおける偏西風の時間・空間変動特性 寄与率は9.0%であり第 3 主成分だけで解析期間の風の 変動の9.0%を説明できる。第 4 主成分ベクトル図では, 卓越指数が正に卓越した時には,日本海上空の低気圧性 循環を強める気流を示す (図6d)。寄与率は 7.1%であり 第4 主成分だけで解析期間の風の変動の 7.1%を説明で きる。第5 主成分ベクトル図では,卓越指数が正に卓越 した時には,オホーツク海海上と大陸南部で高気圧性循 環が,太平洋上空で低気圧性の循環が強められる(図6e)。 寄与率は5.5%であり第 5 主成分だけで解析期間の風の 変動の5.5%を説明できる。第 6 主成分ベクトル図で は,卓越指数が正に卓越した時には,アリューシャン側 と九州上空で低気圧性循環が,大陸側と太平洋上空で高 気圧性循環が強められる (図6f)。寄与率は5.2%であり 第6 主成分だけで解析期間の風の変動の 5.2%を説明で きる。 500hPa気流場と第 6 主成分までの累積寄与率を比較 すると,下層に位置する850hPaの値は50.9%と小さい ものであり,これは地上との空気の摩擦 (地形影響) を 受け,より複雑なパターンになっているためだと考えら れる。 500hPa気流場と850hPa気流場との変動パターンの関 に第1 主成分から第 6 主成分までの固有ベクトル成分の 分布をベクトル合成した結果を示す。 図5 によると,年平均の 850hPa気流場では,500hPa 気流場と同様に偏西風がみられるが,平均風速は最大で およそ7m/sと上層より弱い風となっていることが分か る。また北緯30度以南では東風成分がみられる。 第1 主成分ベクトル図では,卓越指数が正に卓越した 時には,北海道東の海上で低気圧性循環が強められる。 大陸側での変動は小さい (図6a)。寄与率は13.6%であ り第1 主成分だけで解析期間の風の変動の13%を説明 できる。卓越指数が寒候期に正に,暖候期に負に卓越す ることから太平洋高気圧の盛衰を意味する (図 7)。第 2 主成分ベクトル図では,日本東海上での偏西風の蛇行が みられることより,卓越指数が正の時は南よりに蛇行 し,負の時は北よりに蛇行する (図6b)。その他の領域 での変動は小さい。寄与率は10.7%であり第 2 主成分だ けで解析期間の風の変動の約11%を説明できる。 第3 主成分以下では,寄与率は小さいものの,局地的 に明瞭な循環が見られる。第3 主成分ベクトル図では, 卓越指数が正に卓越した時には,大陸から北海道を通り 太平洋へ抜ける北西風が強められる気流を示す (図6c)。 図6  850hPa気流場の主成分分析結果による因子負荷量図 (a) は第 1 主成分,(b) は第 2 主成分,(c)は第 3 主成分,(d) は第 4 主成分,(e) は第 5 主成分,(f) は第 6 主成分. カッコ内の数字は各主成分の寄与率を示す.

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となるが,気圧の中心の位置のずれや気圧の背の高さの 違いが見られるため,このような関連性が生じたものと 考えられる。 Ⅲ-3.500hPa 気流場のパターン分析 第1 主成分から第 6 主成分までの卓越指数 (累積寄与 率65.9%) を用いて,500hPa気流場の変動パターンを客 観的に分類するために6次元の直行座標空間でクラス ター分析をおこなった。図8 に全12053日のクラスター 樹状図を示す。この事例ではグループ距離8.96×104の 点において大きく7 つの型に分割された。結合ステップ 毎に結合距離を見たときに急激な増加があるということ は,性質が異なるクラスター群が結合したということで あり,グループ数の決定に対する目安になる (加藤, 1983) ので,グループの分割にあたってはこの点を判断 係を探るため,各主成分の卓越指数の相関係数を求めた (表1)。この場合,有意水準 1 %を満たす相関係数は 0.023,有意水準 5 %を満たす相関係数は 0.018であり, いずれの値も有意水準1 %を満たすものとなっている が,これは自由度が大きいためである。従って,この場 におけるt検定は検討の上ではあまり意味を成さない。 そこで,相関係数の大きなものを明確にするために,便 宜的に有意水準が0.5以上のものに *を記入しており, 0.7以上のものには **を記入してある。その結果,見か け が 類 似 し た パ タ ー ン の 高 い 相 関 以 外 に, 例 え ば 850hPaの第 2 主成分と500hPaの第 2・第 3 主成分でも 高 い 相 関 が み ら れ た。 以 上 に よ り,500hPa気流場と 850hPa気流場のパターンの間にはそれぞれに関連性が あることが示唆された。すなわち,1日ずつの 500hPa 気流場と850hPa気流場を見ると,おおよそ似た気流場 図7  850hPa気流場における各主成分の月平均卓越指数 縦軸は卓越指数,横軸は月. 表1  500hPa気流場と850hPa気流場との相関係数 相関係数 850 500 Z1 Z2 Z3 Z4 Z5 Z6 Z1 ** 0.71 0.17 0.32 0.28 0.25 -0.04 Z2 0.19 * 0.50 * -0.63 -0.10 0.02 0.00 Z3 -0.39 * 0.53 0.24 0.12 0.04 -0.22 Z4 -0.14 -0.16 -0.31 ** 0.71 0.00 -0.15 Z5 0.07 0.36 0.16 0.15 -0.38 0.32 Z6 0.24 -0.05 -0.04 -0.16 -0.36 * -0.5 有意水準1 %:0.023 5 %:0.018 相関係数が0.5以上のものに*をプロット,0.7以上のものに**をプロットしてある.

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東アジアにおける偏西風の時間・空間変動特性 事象によって特徴づけられる現象ではないといえる。 Ⅲ-4-1.A 型 図11-(a) に,A型の平均気流場を示す。A型は偏西風 の蛇行が大きく尾根が中国地方上空にみられ,大陸北側 に低気圧性循環,太平洋上空に高気圧性循環がみられ る。解析期間のうちA型の事例は4日間であり,対応す る地上天気図と比較を行ったところ,前線を伴った低気 圧が日本の北側にみられるのが特徴である。地上天気図 における低気圧の中心は上層の気圧の谷の東側に位置し ており,典型的な温帯低気圧にみられる特性である。A 型の事例では温帯低気圧は発達段階にあり,全国的に天 気はぐずついていた。 Ⅲ-4-2.B 型 B型は解析期間中に 1例だけあらわれた。日本海上空 に低気圧性循環があり,分岐した偏西風が北海道東の海 上で合流し (図11-(b)),日本の南側で強い西風がみら れる。この日の地上天気図より,関東東海上に温帯低気 圧がみられ,上空では切離低気圧と思われる気流系と なっており,地上の温帯低気圧と対応しているものと思 われる。温帯低気圧の東側で南風とともに暖気が入り込 んでおり,一方西側では北風とともに寒気が入り込んで いる。寒気の入り込みにより九州の北・西部で気温が低 くなっていた。地上天気図では一般的な南岸低気圧型と みられるが,500hPaでは特異的な事例として分類され の根拠とした。7 つの型の相互の違いを明らかにするた めに,卓越指数の最大・平均・最少を図9 に示す。 7 つの型のうち,メンバー数が特に多い型が 2 つある ため,グループ名を他と区別するためW型,S型とし た。これらは,主に第1 主成分の値の違い (図 9) によ り大きく「暖候期」に出現しやすいパターンと「寒候 期」に出現しやすいパターンとに分かれた。月別出現頻 度を図10-aに示す。また 7つに分けた型のうち全 12053 日に対し極端に日数が少なく,結合距離が大きいもの を,ここでは「特異パターン」と定めた。それぞれの出 現 頻 度 を 図10-bに示す。なお,上記の分類にあたっ て,本研究では類似した特性を分けるのが目的であり, 得意パターンの日数や境界領域のグループが厳密に暖候 期に属するのか,寒候期に属するのかの議論はしない。 以下では,各パターンの特徴について議論する。 Ⅲ-4.特異日・特異パターン Ⅲ-3節においてクラスター分析を行った際に,特異パ ターンとみなしたグループについて,地上天気図を用い て特性を明らかにする。特異パターンの事例をみると, いずれも第1 主成分から第 6 主成分までの累積寄与率は ほぼ70~80%であった。従って,これらの特異パター ンは,第1~第 6 主成分の値の組み合わせが他の事象と 比べて特異であるが,第7 主成分以下のさらに局地的な 図8  500hPa気流場のクラスター樹状図 カッコ内は事例日数を示す.

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ている。 Ⅲ-4-3.C 型 図11-(c) にC型の平均気流場を示す。C型は領域北側 で風速が大きく,以南では緩やかな蛇行がみられる。解 析期間のうちC型がみられた事例は 9日間である。対応 する地上天気図と比較をおこなったところ,大陸に発達 した高気圧,日本の東または南で太平洋高気圧がみら れ,いずれも北海道北側に前線を伴った低気圧が位置す る。また日本は高気圧に覆われており,全国的に晴れで あり気温が高くなっている。C型では第 3 主成分が累積 寄与率の30~60%をしめており,その中で,2002年 4月 23日,2009年11月8日,2009年11月9日の事例では第 5 主成分の寄与率が20~40%と次いで大きく占めてい た。第3 主成分が強く卓越することは,対象領域北側で 西風が強まることを,第5 主成分が卓越することは日本 南側での太平洋高気圧が強まることに対応する。 Ⅲ-4-4.D 型 図11-(d) にD型の平均気流場を示す。D型は11例あ るが,偏西風が大きく蛇行し大陸側で低気圧性循環がみ られ,日本上空では南西風が強く吹いている。4~6月 にみられた事例であり,日本の東で偏西風の蛇行が激し い事例である。大陸側上空で低圧部となっている。発達 した低気圧に伴う偏西風の蛇行と考える。このパターン の第1 主成分はほぼ 0 であり,第 4 主成分が50~60%を 占めていた。対応する地上天気図と比較をおこなったと ころ,全国的に雨となる例が多く,このように偏西風が 蛇行して地上では天気が崩れる事例とみられる。 Ⅲ-4-5.E 型 図11-(e) にE型の平均気流場を示す。E型は 9 例あ り,大陸側の低気圧性の循環,対象領域北側では東風, 対象領域南側では西風が見られる。第2 主成分と第 4 主 成分の寄与率の割合が大きいパターンである。500hPa 図9  各グループ の主成分スコア特性 ▲はグループ平均,ボックスはグループの最大.最小. 縦線は全データの最大.最小を示す.

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東アジアにおける偏西風の時間・空間変動特性 おける季節変動・年変動は目立った変化をしていないこ とが分かる。 W型 (寒候期型) は3587日,S型 (暖候期型) は8432 日であり,これらのパターンは事例数が多いことより, 大まかな特徴しか明らかにできない。そこで,デンドロ グラムを見直し,結合距離6.00×104の距離まで,グ ループを再分割した。再分割の結果,寒候期にみられる パターンは7 つに,暖候期にみられるパターンは 6 つに 分類した。各パターンと地上天気図を比較し,まとめた ものを表2 に示す。 Ⅳ.まとめと今後の課題 33年間における09時の気流場のデータに対し多変量 解析を行い,500hPaと850hPaの気流場の基本的な場を 明らかにした。卓越指数によりその季節性が明らかと なった。500hPa気流場と850hPa気流場にはいくつかの 関連性が見られるが,下層にいくにつれ地上の影響をう 気流場においては大陸に低気圧性の循環がみられ,北領 域ではブロッキング高気圧の影響で東風である。地上で は日本東海上に低気圧,大陸側に高気圧がみられるのが 特徴である。顕著なブロッキングが現れたパターンとい える。 Ⅲ-5.寒候期・暖候期の季節推移 本節では,クラスター分析によって得られた主要2 パ ターン (W型,S型) について検討する。各パターンの出 現傾向をもとに,対象領域内における季節進行の特徴を 示した (図12)。これより,特異日・特異パターンの出 現は,近年において増加の傾向にあるといった何らかの 規則性はみられないことが分かる。また3月4月11月に おいては,暖候期と寒候期のパターンがまばらに見ら れ,季節の移り変わりにあたる遷移期といえる。この遷 移期におけるトレンドを探ったが,33年間を通じての変 化ははっきりとは見られない。つまり500hPa気流場に 図10 各グループの月別出現頻度 (a) に寒候期・暖候期パターン,(b) に特異日・特異パターンを示す. カッコ内の数字は出現日数.

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ある。本研究では上空の気流場が特異・特異パターンで あったとしても,必ずしも地上での天気が特異になると は限らないことが分かった。また,500hPa気流場のク ラスター分析により,季節変化と経年変化を探ったが, 33年間を通して目立った変化はしていない。 本研究では33年間を通じで多変量解析をおこなった が,今後,季節ごとに分けて解析をかけることにより, 各々のパターンの季節性の特徴がより明瞭になると思わ れる。また,既存の地上のパターン分類を利用し3次元 的な気象場の分類を行う。すなわち500hPa気流場と 850hPa気流場との2層における関連性の考察を深める ことも今後の課題として挙げられる。さらには下位の主 成分を考慮した気象場との関連性を探ることも重要と考 えられる。 謝辞 日本大学文理学部地球システム科学科非常勤講師永野良紀 氏には多くのアドバイスを頂き感謝いたします。さらに環境 気象気候研究室の皆様には研究を進める上で多くの助けを頂 きました。深く感謝致します。本論文は著者の一人である大 田悠の平成25年度日本大学文理学部地球システム科学科の 卒業論文に加筆修正を行ったものである。 けやすくなっている。500hPa気流場をパターン分け し,それぞれに対応したおおまかな地上の気圧配置の特 徴を探った。卓越指数にクラスター分析を適用し大きく 7 つのグループに分類した。大きく寒候期パターン,暖 候期パターンに分かれ,解析日数に対して極端に少ない 日のグループを特異日・特異パターンと定めた。これら の特異パターンについて,天気図をもとに現象を明らか にした。 寒候期と暖候期の季節性を明らかにするために,さら にクラスター分析を行い,寒候期は7 つに,暖候期は 6 つに分類した。寒候期パターンでは,暖候期パターンと 比べ大陸からの風の流れ込みが強く,強く蛇行したパ ターンが多く現れた。暖候期パターンでは南領域で弱い 東風が見られるパターンが現れた。各パターンに対応す る地上天気図との比較により,上空の気流場と地上の気 象場の関係を探った。大きくトラフの位置と低気圧の位 置によりグループ分けされた。事例数が少ないグループ では上空の気流場と地上との関係が明らかになったが, 事例数が多いグループでは特徴が平均化されるため,地 上天気図から共通の特徴は明確ではない。クラスタリン グを進めることで事例数が多いものを更に分離でき,特 徴をつかめると思われるが,特徴が煩雑になる可能性が 図11 平均風速と第1 から第 6 主成分の重ね合わせによる,

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東アジアにおける偏西風の時間・空間変動特性 図12 クラスター分析による気流場の季節変化と経年変化 縦軸に年,横軸に月を示す. 黒色は特異日・特異パターン,また寒候期と暖候期パターンを示す (濃い網掛けは寒候期,薄い網掛けは暖候期). 表2  寒候期と暖候期パターンにおける特徴 寒候期パターン 上空の気流場の特徴  地上天気図の特徴  W-a (3) 沿海州に強い低気圧。切離低気圧。 上空と対応した低気圧がみられる。 W-b (81) 日本の東にトラフがある。 西高東低の気圧配置。日本の東に強い低気圧。日本上空 では高気圧がみられる。 W-c (63) 北海道にトラフがあり,南に大きく蛇行している。 日本の東に温帯低気圧。上空のトラフと対応している。 W-d (2) クラスタリングよりW-c型と結合するので,特徴はW-c型と 定性的にはあまり差がない。 日本を高気圧が覆う。大陸側と千島近海に低気圧。 W-e (256) 中国東北区側にトラフがあり,蛇行している。 上空のトラフに対応した発達低気圧がみられる。 W-f (73) 大陸から流れ込む北よりの風が顕著。 千歳の東に低気圧があり,移動性の高気圧が日本の上空 にみられる。 W-g (3109) 最も平均的なパターン。  * 暖候期パターン S-a (1446) 主に春と秋に出現する平均的なパターン。日本海北側に弱いトラフがみられる。 * S-b (871) S-a 型と似ているがトラフの位置が東にずれているパターン。 * S-c (10) 日本海上空で低気圧性の弱い循環とそれに伴う偏西風の蛇行 と,太平洋近海に強い南西風がみられる。 台風や発達した低気圧がみられる。 S-d (1057) 速も強くない。4月と 5月に多いパターン。際だった蛇行はしておらず,風 * S-e (5041) 6月から 9月における最も平均的な場。 * S-f (7) 太平洋に高気圧性の循環があり,強風軸が北側にある。南領域では弱い東風。 日本上空を高気圧が覆い,日本海側には低気圧がみられる。 左から各パターン名 (カッコ内は日数),上空の気流場の特徴,地上天気図の特徴を示す.*800日以上観測されたパターンの地上天気図の特徴は, 事例数が多いため平均化されており,特徴がつかみにくいため示していない.

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参照

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