東京外国語 大学 『日本研 究教 育年報16』 (2012.3)
(研究ノー ト)
日本語教育における無声アニメー シ ョンの教材的価値
一初中級および申上級クラスでの実践か ら一
臼 井 直 也
1
.は じめに近年、日本のアニメが世界中で人気を博 している。『ポケ ッ トモ ンスター』『ONEPIECE』
『NARUTO』な どの世界 中での大 ヒッ トや宮崎駿監督 『千 と千尋の神隠 し』のアカデ ミー 長編アニメ‑ シ ョン映画賞受寮な ど、日々メデ ィアを通 して私たちに多 くのアニメ人気が 伝 えられ るよ うになった。 ここ数年は この傾 向にさらなる拍車がかか り、毎年世界各地で アニメ関連のイベ ン トが開催 された り、数 々の 日本のアニメが世界 中で映画賞 を受賞 して いるO このアニメ人気は筆者が生活 している中国において も例外 ではな く、 日本語学習者 の学習動機 には多 くアニメや漫画などポ ップカルチャーが挙げ られ る。
このよ うな世界におけるアニメ人気 を受 け、ここ数年来アニメが 日本語教育の現場で積 極的に使 われ るよ うにな り多 くの報告がな されてい る。 しか し、それ らの報告で用い られ てい るアニメの種類 に 目を向けると、台詞のある作品がほ とん どであることがわかるO こ れは、アニメ活用の大きな 目的の一つが 「日本語 を聴 くこと」であるか らと考 えられ るが、
このよ うなアニメの活用 とは対照的に、台詞のない無声アニメー シ ョンに関 してはその活 用の報告 はほ とん どな されていないのが現状である。そ こで、本研究ではこれまで 日本語 教育において活用が少ない無声アニメーシ ョン1に焦点を置 き、学習者‑の実際の活用 を通
して、無声アニメーシ ョンに どのような教材的価値があるかについて論 じる。
2 .
先行研究無声アニメ‑シ ョンと言語教育を関連付 けた研究は、管見では渡辺 (2007)、鵜生川 (2011) のみである。渡辺 (2007)は、アニメー シ ョン 『ピングー』 を 日本語母語話者 と日本語非 母語話者 に描写 させ、主観 的表現の使用 に どのよ うな相違 があるかを明 らかに した研究で あ り、教室での活用に焦点 を当てた ものではない。一方、言語教育 に焦点を当てた鵜生川 (2011)は、アニメ‑シ ョン 『っみきのいえ』を EFLの授業で英文エ ッセイの基本的な書 き方の習得 に用いた報告であ り、無声アニメーシ ョンの活用効果 に関 して、①談話 レベル の作文練習が可能である、②台詞がな く想像 を働 かせ 自由に書 くことができる、③登場人 物 に 自分 を重ねあわせ て考 える機会を与 える、 とい う三点 を挙げてい るo Lか し、台詞 の ある作品であって も 「談話 レベルの作文練習」や 「登場人物 に 自分 を重ねあわせ る」 こと
1本研 究においては、海外で‑般的に行われ てい る"anl'me" と"animation"の区別 に基づ き、「アニ メ」 は宮崎アニメの よ うな 日本の商業用作品、「アニメー シ ョン」は人形や粘土、水彩画や油絵 な どを動かす アー トアニ メー シ ョンとす る。本研 究で用い る作品 『岸辺 のふた り』 は 「アニメー シ ョン」 に属す るも のである。
は可能である し、絵や写真 も 「想像 を働 かせ 自由に書 くことがで きる」 とい う効果 を持 っ てい る と考 え られ る。 よって、無声アニ メーシ ョン特有の効果 につ いては明 らかになって いない と言えるであろ う。
そ こで、本研究では 日本語教育 にお いて無声アニ メー シ ョンの活用 に どの よ うな教材的 価値 があるかを確かめるため、筆者 の所属す る大学の 日本語専攻の2年生、3年生 を対象 に それ ぞれ無声アニメ‑ シ ョンを用いた授業お よび学習活動 を行 った。
3.授 業 ・学 習活動概 要 3.1アニメー シ ョン作品
本研 究の授業お よび学習活動 では 『岸辺のふた り』 2とい う作品のDVDを用いた。 この 作品 を選んだ理 由は、アカデ ミ‑賞短編アニメ‑ シ ョン寮 を受賞 した優れた作品であ り鑑 賞 に値す ること、そ して約 8分 とい う授業で扱 いやすい作品時間であ りなが ら起承転結が 分 か りやすい とい う点であるO また、この作品は10の短いシ‑ ンか ら構成 され てお り、特 に 3年生 を対象 に した作文授業 において段落を意識 して書 く練習 になる とい う点 も理 由の
‑・つである。以下に、同作品の ウェブサイ トで紹介 されてい るス トー リーを抜粋す る。
幼い娘を置いて、岸辺からボ‑ トに乗って行ってしまったまま戻ることはなかった父C 違い目 の父の面影を求めて、娘は父と最後に別れた場所である岸辺を訪れ続けるO (中略)繰 り返され る四季o移り変わる自然。 それでも変わらず、娘は岸辺に立ち止まり、父を想 う。 そうして時 は過ぎ、そのひたむきな強い想いはある奇跡を起こす‑ 0 3
ウェブサイ トで も紹介 されてい るよ うに、約 8分 間 とい う短い作品で あ りなが ら、愛す る人 を想い続 ける気持 ちが切 な くも美 しく表現 され ている作品であ る。
3.2 3年生の作文授業
授業の対象者は筆者 が所属す る福州大学外国語学院 日語系の3年生38名で、2010年度 の作文授 業において活用 を試みたO 学生の 日本 語 レベル は多少 ば らつ きがあるものの、甲 上級 レベルである。
授業では、作品のシー ンを細 か く描 写す る とい う課題 を行 った自作 品の視聴後、登場人 物 の名 前や年齢 な どの設定は 自由に決 めていい ことな どを伝 え、作文 を開始 したO なお、
授 業 中に書 き終わ らない学生がほ とん どであったので、翌週 までの宿題 とし、各 自作 品を 見なが ら作文 を完成 させ た。
アニメー シ ョンをシ‑ ン描写 のために用いたのは、前述の とお りこれ までの 日本 語教育 にお けるアニメの活用が 「台詞 の聴 き取 り
」
「日本事情の学習」な どが中心 となっていた こ2マイケル ・デュドク ・ドゥ・ヴィット(2003)『岸辺のふたり』EMIミェ‑ジックジャパン
3 『岸辺のふたり』公式ウェブサイ トより
日本語教育における無声アニメ‑ションの教材的価値
と、そ して作文活動 を行 う場合で も、その使用があ らす じを説明す る作文や視聴後の感想 文な どに限 られている とい う印象 を受けたか らである。そ こで、台詞がな く動 きだけでス
トー リーが展開 され る無声アニメ‑シ ョンな らでは教材的価値があるのではないか と考 え、
シーン描写 とい う作文授業を行 った0
3.3 2年生のアニメー シ ョンによる学習活動
筆者が2年生のクラスを担 当 していない とい う理 由か ら、アニメ‑シ ョンを使 った 活動
‑の参加者 を募 り学習活動 を行った。参加者 は福州大学外国語学院 目語系の2年生20名4で、
2011年9月 に活動 を行 っ た 。学生の 日本語 レベルはば らつ きがあるものの、初 中級 レベル である。
学習活動では、以下の3つの活動 を行 った。
1.「動詞 は何 ?」‑アニメーシ ョンを見なが ら動詞 を学習す る。
2.「台詞を考えよ う」‑登場人物の会話 を考えてアフ レコを行 う。
3.「話の内容を描写 しよ う」一作品のシー ンを描写 した後、参加者全員で ピア ・レスポン スによる推敵を行 う。
「動詞 は何?」は、作品中の登場人物の動 きや状況の変化な どを表現す るための、動詞 を含んだ単文を37文作成 し (資料 1参照)、各文に どのよ うな動詞が使 われ るか作品を見 なが ら全員で考 えるとい う学習活動であるO まず は動詞のマス形 を挙げ させ 、シー ンにあ わせて 「〜ています」「〜ま した」な ど適切 な形 に直 させた。
「台詞 を考えよ う」は、作品冒頭の娘 と父が 自転車で一緒に岸辺‑行 く1分間のシ‑ン を用い、二人が どのよ うな会話 を してい るかペ アになって 自由に考 え、作った会話を映像 に合わせて発表 させた。
「話の内容 を擢写 しよ う」は、シ‑ンの描写を行 う作文活動であるO二人一組にな り10 のシ‑ ンの中か ら一つ を選び、細かいシー ン描写を行わせた。作業後は各組 の作文を参加 者 に配 り、全員で ピア ・レスポンスによる推敵 を行 ったO
なお、三つ 目の活動であるシー ン描写は各組 の宿題 とし、教室では ピア ・レスポンスに よる推蔽のみを行 った。そ して活動が全て終わった後で中国語 による簡単なアンケー ト(餐 料2参照) を行い活動の感想 を書いて もらった。
4.考察
4.1 3年生の作文授業か ら得 られた教材的価値
3年生の作文授業での活用か ら、無声アニメ‑シ ョンには 「誤 りの可視化 による内容指導」、
「作文評価の統‑」、 「動作や変化 の描写の整富 さ」、 「作文量の多 さ」 とい う教材的価値 が
4活動 は二 目に分 けて行 ったが、初 日に参加 した20人の うち、二 日目に参加 できなかった学生が 5人いた0
あることが明 らかになった。 なお、本稿 にお ける学生の作文例の通 し番号、下線は時に断 りがない限 り筆者 によるもの とす る。
4,1.1誤 りの可視化による内容指導
誤 りの可視化 による内容指導は視聴覚素材 の特徴であ り、 これ まで教室で も行 われてい た ものであるが、無声アニメ‑シ ョンのシー ン描写では細かい動作の指導が多 くなったO 以下は学生の作文例である。
(i)雨がやんだばか りの午後、高校生になった雫はまた 自転車でそ こに来たO青い帽子 をかぶていた 彼女は海 の遠 い ところを眺めてか ら、帰 ったo
作品を見ていない教師が この作文を見た時、「かぶていた」の箇所を直すに とどまるので はないだろ うかo Lか し実際にこのシー ンを見てみ ると、音や映像か ら、雨が降っている シ‑ ンであることが分かる。登場人物が傘 を ささず に レイ ンコー トを着てい ることか ら学 生 は 「雨がやんだ」 と勘違い した と考え られ る。また、以下の作文例 において も同様 の内 容指導が可能 となった。
(2)四人の子供が 自転 車 を乗 ってそ こで遊んでいま した。舞子 も大 き くな りま したo彼女 は岸辺の道 で 自転 車に乗 りま したo彼 女と木の影が地面に映 ってい ま したO しば らくとまって彼女は子供 た ちに手 を振 って別れ ま した。
この例でも 「自転車を乗 って」 とい う言語形式の間違いが 目に留まる。 しか し実際にこ のシ‑ ンを見 ると、「手を振 って別れた」のではな く、 「手招 きを して呼んだ」場面である ことが分か る。 これ らの 「言語形式は正 しいが内容 に誤 りがある」 とい う文は、映像 を用 いない場合、その発見が極 めて困難である。 この誤 りの可視化による内容指導は台詞のあ る映像作品で も可能であるが、無声アニメー シ ョンの場合は台詞がない とい う特徴か ら動 作 についての内容指導が多 くなると考え られ る。 この点において、無声アニメーシ ョンに 特有な教材的価値 にな りうるといえるだろ う。
4.1.2 作文評価の統一
作文の授業において、評価の統一は教師が抱 える大きな問題である。伊東 (2008)にも
「採点 ・評価 をす る場合、採点者の作文に対す る感 じ方が評価 に影響す ることが多 くな り、
主観的評価 にな らざるを得ません」 とあるよ うに、信頼性 ・妥当性 を高めることは困難で ある。 この間題の解決策 として4コマ漫画 を説明 させ るな どの作文活動が行 われ ることも 多いが、無声アニメーシ ョンを用いた場合、 さらに 「シー ン描写の省略」を容易に指摘で きるとい う特徴があげ られ る。以下は、学生の作文に見 られ たシー ン描写を省略 した一例
日本語教育にお ける無声アニメ‑ シ ョンの教材 的価値
である。
(3)その後の多 くの 日には、風 が強 く吹こうか、雨がひどく降 ろ うか、娘 がいつ も自転 車 を乗 って、
その湖 の岸 に行 きま したo
下線部は本来であれば作品の10のシー ンの中の2つであ り、それぞれ娘が強風の 日と雨 が降っている 日に父 と別れた岸辺で父を待つ とい うシー ンであるが、シー ン描写のほ とん
どが省略 されていることが分かる。
この よ うに、学生が どのシ‑ ンを書かなかったかが一 目で分か り、前項で挙 げた誤 りの 可視化 とあわせ て信頼性 ・妥当性 の高い作文評価が可能 になると考 え られ る。作文評価 の
焦点を当てれば無声アニメーシ ョンの教材的価値の一つにな りうると思われ る。
4.1.3 動作や変化の描写の豊富 さ
前述の とお り、無声アニメーシ ョンには台詞 がな く、登場人物の動作や シ‑ ンの変化で ス トー リーが展開 され る。 よって、 自然 と作文中に動詞 を用いた動作や変化の描写が多 く なるO次は、学生による約30秒のシー ンの作文例であるが、約30秒のシー ンで動詞が7 つ使われている。
(4)娘は10 歳 になりま したo とて も風 が強か ったですO 自転車 を壁上ヱ 坂 を登りましたC途中ある おばあ さんを会いま したO 同 じところで海 を旦 三三 、それか ら追い風に乗って帰りました。
台詞 のあるアニメや映画な どの場合、シー ンによっては登場人物が動かず会話だ けでス ト‑ リ←が展開す るとい う場合 もあるが、無声アニメーシ ョンでは作品全編 を通 して動作 を中心 としてス トー リーが展開 され るので、動作の描写が豊富になる。 この特徴は無声ア ニメーシ ョン特有の ものであ り、教材的価値の一つである と考 え られ る。
4.1.4作文量の多さ
前項の動作や変化の豊富な描写 と関連 して、無声アニメー シ ョンを描写す ることによ り 作文量が増 え、ま とまった量の作文を書 く活動が行 えることが明 らかになった。10のシー ンか らなる作品を、シーンの大幅な省略をせずに書いた学生Sの平均文字数は 1237字であ り、多い学生の場合は約2000字 とい う長文を書いた。8分の作品で平均1200字程度のま とまった作文を書かせ ることができるとい う点は非常に効率的であるといえるO無声アニ メーシ ョンは一般的に10分前後の短い作品が多 く、短い視聴時間でま とまった急の作文 を
5作文 を書 き始 める前 に、シー ンを省略せず な るべ く細か く描 写す るよ うに と指示 したが、シ‑ ンの省略 を行 った学生が多か ったO指示 を徹底 した場合 、作文塵は さらに増 える と考 え られ る0
書 くこ とがで きる とい う点 は、台詞 のある映像 素材 とは異 な る無声アニメー シ ョンな らで はの教材的価値であるといえるだろ う0
4、2 2年生のアニ メー シ ョンによる学習活動か ら得 られた教材的価値
2年生のアニメ‑ シ ョンに よる学習活動での活用か ら、無声アニメー シ ョンには 「動詞の 動 く絵 力‑ ドとしての活用」、 「学習者 の 日本語 レベル を問わない活用」、 「誤 りの可視化 を 用いた ピア ・レスポ ンス」 とい う点において教材的価値お よびその 可能性 が あることが明
らかになった。
4,2.1 動詞の 「動 く絵 カー ド」 と しての活用
初級 の学習 において は 絵力‑ ドが月往、られ ることが多いが、 これ は写真 な どの生素材 と
観 点 か ら無声 アニ メ‑シ ョンを見 ると、 「情報が制限 されてい る絵が動 く」 とい う点におい て大 きな教材 的価値 を見 出す ことができるG
動 詞の導入及 び練 習 に は、‑般 的に絵 か‑ ドの利用や教師の実演が用い られ るが、両者 に はそれ ぞれ次の よ うな問題点が存在す るo総 力‑ ドを利用した場合 、絵 カー ドは動 きの 一瞬 を切 り取 った ものであ り、そ こに動作性 を表す ことは困難であ る。漫画 の よ うな補助 線や矢印な どの記号 を用い動 きの方向性 な どを示す ことはで きるが、一連 の動作 を表す こ とはで きないo よって学習者 は絵 力‑ ドだ けでは動詞 が どの よ うな動 きなのか を完全 に把 握す ることが難 しい といえる。‑方 、教師 の実演では実際の動 きを見せ るこ とが 可能 であ る。 よって 「立つ」 「歩 く」 「開ける」な どの動作は教室内で も実演が可能 であ り効果的で ある。 しか し、教室で実演 が可能 な動詞 には限界があ り実演 できない動作が出て しま う、
また実演が 可能であるか ど うかは教師の身体的能 力に よって左右 され る とい う問題 を含 ん でい る。
この よ うな観点か ら一つ 目の活動 「動詞は何 ?」を 見る と、「19.娘 は追い風 に ( 乗 りま す )」、「24.木の葉が風 に ( 舞います )」は絵 力‑ ドで も教師の実演で も説 明がやや困 難 であ り、「15∴娘は強い風 に (逆らいます )」、「28∴地面の水が ( 跳ねます )」、「36, 娘 は走 りなが ら ( 若 返 ります )」 な どは絵力‑ドや教師の実演 で提示は可能であるが、
学習者 によっては どの よ うな動 き、変化 なのか分か りに くい場合 も考 え られ る。 この よ う な場合 にアニメー シ ョンの場 面を提示す ることによ り、学習者 はその ‑‑‑‑・連 の動 きや変化 を 見 ることができ動詞の正確 な把握 が可能 にな ると考 え られ るO
これ らの動作の把握 は実写の映像作 品で も可能 であるが、実写の作 品 と比べ アニメ‑ シ ョンぼ 情報が制限 され てお り、動作 をよ り明確 に把握 できる とい う点で優れ てい る といえ る。 また前述 の とお り無声アニメー シ ョンでは動作や変化 のみでス ト‑ リ‑ を理解 させ る 必要があることか ら、台詞の あるアニ メ と比べそれぞれの動作が一 目で分 か るよ うに描か れてい るとい う点で さらに効果的である とい えるだろ うo
E]本譜教育 における無声 アニ メー シ ョンの教材 的価値
活 動 後 の 学生 の ア ンケ‑ トには特にこの点についての記述 はなかった ものの、ある学生
が 「ア ニ メ を 通 じて、動詞 によ り深 く印象が残 っています」 と書いていたO これは、アニ
メ ー シ ョ ンの中で動作その ものを見た ことによ り、そのシー ンで見た動 きと言葉である動 詞がよ り深 く結びついたためではないか と考 えられ る。
この よ うな絵 力‑ ドや教師の実演 との比較、そ して学生の感想か ら考 えるに、無声アニ メーシ ョンには他 の映像素材 にはない 「動 く絵 カー ド」 としての教材的価値 が含 まれ てい るといえるだろ う。
4 , 2 . 2
学習者の 日本語 レベル を問わない活用初級、初 中級 の学習において台詞のある生の映像素材 を用いる際に最 も問題 になるのが、
学習者 の 日本語聴解能力である。 この間題 を解決 しなけれ ば学習者 は作品のス トー リー を 理解す ることができず、生の映像素材 の最大の利点である 「楽 しみなが らの学習」ができ な くなって しま う。そ して、 この聴解能力の制限によ り、 これまで映画やアニメ、 ドラマ の活用が中級 もしくは中上級以上に限定 されていた と考 え られ るO
映画や アニメ、 ドラマを初級、初中級の授業で用い るためには この制限を取 り除かなけ れ ばな らないが、 これまでは矢
崎 ( 2 01 1 )
の よ うに、学習者 の共通 言 語 が 作品の字 幕 に入 っているものを使 う、学習者 の共通言語 による吹 き替 えがある作品 を 使 う な どとい っ た 方法 に限 られていた。 しか し、 これには学習者に共通 言 語 が あるとい う制約がかか り、 日本 国内における授業では活用できないことが多いC)また、学習者 に共通言語がある場合で も、
授業で使用 したい作品に入 っている音声 も しくは字幕 にその共通言語がない とい うこ とも しば しば起 こることであるo
この聴解能力の制限を受けない生の映像素材が無声アニメ‑ シ ョンである0本研 究で学 習活動に参加 した 2年生の学生 も、ス ピー ドや単語 をコン トロール された E3本語でなけれ ば理解 できない レベルであ り、中国語 による音声や字幕 がなければ生の映像素材 を十分に 理解す ることは難 しい と思われ る。 この よ うな初 中級 レベルの学習者 に対 して無声アニメ ー シ ョンを用い ることによ り、学習者 は生の映像素材 を楽 しみなが らそのス トー リー を容 易 に理解でき、教師はその理解 を基に レベル にあった 日本語 の活動 を行 うことがで きるよ
うになるのである。
参加 した学生のアンケ‑ トに も 「台詞がない映画で も内容が全て表現 されています」 と あ り、ス ト‑ リ‑ を理解 した上で三つの学習活動 を行 った ことが うかがえるC また、アン ケ‑ トに 「映画の描写は とても教務で感動的だ と思います」「この作品を通 じて、時間の爵 重 さと肉親の情 の素晴 らしさを実感 しま した」 といった作品に対す る評価 とともに 「いつ もの文法の勉強はちょっ と味気ないが、それ と比べてアニメを見なが ら勉強できるのはい い ことだ と思います (質問 1‑の回答)」や 「入物の台詞を想像す ると同時に会話能力が鍛 え られ、話 し言葉 と書 き言葉の違いが分か りま した (質問 岩‑の回答)」 とい う日本語学習 活動‑のプラス評価 も多 くあることか ら、生の映像作品本来の魅力である 「楽 しさ」 と間
時 に 日本語の学習 も行 うことができた と考 えて よいだろ うQ
以上のよ うな初 中級における聴解能力の制限 と学生のアンケ‑ トを基に考えると、無声 アニメー シ ョンには他の映像素材 にはない教材的な価値が含 まれ ているといってよいだろ
う0
4.2.3 誤 りの可視化を用いた ビア tレスポンス
前章で述べた とお り、無声アニメーシ ョンには動作を中心 とした誤 りを可視化す るとい う教材的価値が含 まれてい るが、 この特性 は初 中級における学習活動で も十分 に活用す る ことが可能であった。 国内における授業においては、学習者の 日本語能力が十分ではない 初 中級の場合、日本語‑の 自信 のな さか ら学習者 同士のや り取 りが活発 に行われず、 ピア 活動がスムーズに進まない とい う問題 が起 こ りうる。 しか し、学習者がアニメー シ ョンの 映像 、ス ト‑ リ‑ を共有 している場合、 クラスメー トの間違いを 自信 を持 って指摘 しあ ラ ことができる0本研究の学習活動 において も、シー ンを描写す る三つ 目の活動の際に、学 生が書いた 「娘はお年寄 りになった とき、あきらめな くて 自転車に乗 って岸辺 に行 きます」
とい う文に対 して、他の学生か ら 「自転車に乗っていませんo 自転車を押 しています」 と い う趣 旨の発 言が出た。 これ は学生が映像 を共有 していることによって可能 となった発言 であるo 中級,上級 におけるピア活動の よ うな学習者同士による積極的なや りとりはなか ったが、学生がクラスメー トの作 った作文について心緒に考 えるとい う学習活動は ピア ・
レスポンスの初歩的な練習 になるのではないだ ろ うか。学生のアンケー トに 「みんなの使 ったすぼ らしい単語や文な どに私 も大変勉強にな りま した」 とい う感想があることか らも、
無声アニメー シ ョンが初 中級 の ピア ・レスポンスにおいて多少の効果 を生む とい う教材的 な価値 を持っている可能性 を指摘できる。
5 .
おわ りに本研究における中上級での作文授業、そ して初 中級 にお ける三つの学習活動か ら、無声 アニメーシ ョンには台詞のある映像作品にはない教材的価値 があることが明 らかになった。
具体的には、中上級での作文授業 においては以下の4点の教材的価値が見出 された。
1.動作を中心 とした誤 りが可視化 され、的確 な内容指導が行 える。
2.可視化 された誤 り、シー ン省略を容易に指摘でき、作文評価が統‑できる。
3.動作や変化の描写を豊富に書かせ ることができる。
4.ま とまった畳の作文を効率的に書かせ ることができる。
また、初 中級 におけるアニメー シ ョンを使 った活動か らは以下の教材的価値 、またはそ の可能性が見出 された。
日本語教育における無声アニメ‑ シ 革ンの教材 的価値
1.動詞の 「動 く絵カー ド」 としての効果的な活用が可能である。
2.学習者 の 日本語 レベルや共通語の有無を問わず に使 うことができる。
3.誤 りの可視化 を用い ピア ・レスポンスを行 うことで、 ピア活動の基礎 を学ぶ ことがで きる可能性がある。
しか し、本研究は中上級の授業、初 中級 の活動それぞれ一回の結果か らの考察である。
今後は授業、学習活動での実践を重ね本研究で挙げた教材的価値の更なる検証 に努 めたい。
また、本研究では初 中級、中上級 レベルの学習者 を対象に したが、 「学習者の レベル を問わ ず使 うことができる」 とい う教材的価値の検証のために、初級の学習者 を対象 に した活用 を行 うことも今後の課題 としたい。
謝辞 :本稿 の執筆 にあた り、 ご助言 をくだ さった文化外 国語 専門学校 の吉本恵子先生、ア ンケー トの翻 訳 を手伝 って くだ さった福州大学外国語学院 日語 系の黄越 さん、梁島 さんに心 よ り感 謝 申 し上 げ ます。
《参考文献》
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鵜生川恵美子 (2011)「無声アニ メー シ ョン映画 (DVD)を使用 した ライテ ィング指導 について
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『群馬 県立 県民健康科学大学紀要』6,85・91群馬県立県民健康科学大学矢崎満天 (2011)「アニメの 「共通体験」に基づ く日本語 コ ミュニケー シ ョン活動の提秦‑ カナ ダの高校生 に対す る授 業実践事例か ら‑」『異文化 コ ミュニケ‑ シ ョンのための 日本語教育2』729・730高等教育 出版社
渡辺文生 (2007)「ス トー リー を語 る 日本語の文章 にお ける主観 的表現 について :母語話者 と非母語話者 の作文 を とお して
」
『山形大学人文学部研究年報』4,67‑78山形大学《参考UR
L 》
『岸辺のふた り』公式 ウェブサイ トhttr)://www.crest‑inter.co.jr)舷ishibe/ (2011/09/Ol)
資料1(括弧の 中の動詞 は学習活動 では空欄 の状態 で配布) 1.お父 さん と娘 は 自転車に ( 乗 ります )0
2.お父 さん と娘 は 自転車 を ( こざます )0 3.お父 さん と娘 は坂 を ( 上 ります )0
4.お父 さん と娘は 自転車 を木の下に ( とめます )0 5.お父 さんは娘 に ( キス します )0
6.お父 さんは坂 を ( 下 ります )。 7.お父 さんは娘の方 を ( 振 り返 ります )o
8.お父 さんは娘 を ( 抱 きます/抱 き上 げます )∩ 9.お父 さんは娘 を下 に ( お ろ します )0 10.お父 さんは舟 を ( 漕 ぎます )o ll.鳥 が木の近 くを ( 飛び ます )0
12.娘 は 自転車で家へ ( 帰 ります/戻 ります )0 13J娘は 自転車 を ( 倒 します )0
14.風が強 く ( 吹 きます )。 15.娘 は強い風 に ( 逆 らいます )a 16,娘は 自転車 を ( 押 します )0 17.娘 は 自転 車のベル を ( 鳴 らします )0 18.海 が ( 荒れ ます )。
19.娘 は追い風 に ( 乗 ります )。 20。雨が ( 降 ります )0
21.友だちは娘 に ( 手招 き します )a 22,娘は 自転車の後 ろに ( 乗 ります )<, 23.自転車の ライ トが道 を ( 照 らします )D 24.木の葉が風 に ( 舞います )。
25J娘の子 どもは坂 を ( 転が ります )。 26.雪が地面に ( 積 も ります )C 27.鳥が ( 鳴 きます )。 28.地面の水が ( 跳ねます )0 29.渇 (湖)が草む らに ( な ります )a 30.自転車のタイヤが ( 回 ります )ぐ∫ 31.自転 奉が ( 倒れ ます )0 32.娘は 自転車を ( 起 こ します )(1 33舟が砂 に ( 埋 ま ります )0 34∴娘は舟の中で ( 横 にな ります )。 35J娘は ( 目覚 めます )。
36,娘 は走 りなが ら ( 若返 ります )0 37.娘はお父 さん と ( 抱 き合 います )。
資料2(アンケー トの質問、回答 は全 て中国語 である)
1,「!呂動1動詞 は何?」 をご行 って どうで したかO 感想 を 自由に書いて くだ さい。
2.「活動2 台詞 を考えよ う」 を行 って ど うで したかO 感想 を 自由に書いて くだ さい0 3.「活動3話 の内容 を捕写 しよ う」 を行 って どうで したか。 感想 を 自由に書いて くだ さい0
4. この作品を使 って、他 に どの よ うな活動 を行 いたいです かO