太 田 小 雪
はじめに
2020年1月に国内で新型コロナウイルス感染症の発生が確認されて以降、この感染症は本稿の執筆現在(2020年 12月) まで我々の生活、そして国内の博物館や美術館の活動にも大きな影響を及ぼしている。11月には「変化の中 の博物館―新たな役割と可能性―」をテーマに日本博物館大会が開かれ、新型コロナウイルス感染症の流行が拡大 するなかでの博物館の事業や運営のありかたが中心的な議題となった(註1)。感染拡大から約一年、各館での取り 組み等がまとめられ、議論される段階に入ったといえる。
このような情勢の中、早稲田大学會津八一記念博物館(以下、当館)でも新型コロナウイルス感染症に関する対 応や問題点を振り返り検証する必要があるだろう。ついては、本稿にてそれらを振り返るとともに、大学博物館の 役割とコロナ禍での他の大学博物館の事例を挙げることで、今後の活動に資することとなれば幸いである。
1.博物館のコロナ禍での役割と取り組み
ここではまず初めに、大学博物館を含む国内の博物館全体の新型コロナウイルス感染症流行下での運営の状況と 取り組みを概観する。日本博物館協会の刊行する『博物館研究』Vol.55(2020年11月)によれば、新型コロナウイ ルス感染症対策関連トピック(文化庁発出文書を中心に)は以下の通りである。
1月24日 感染予防に関する注意喚起 2月12日 イベント等における留意点
2月25日 文化イベント開催に関する自粛要請 3月30日 文化イベント 対策・自粛強化要請 4月7日 7都道府県「緊急事態宣言」
4月16日 「緊急事態宣言」を全国に拡大
5月4日 「緊急事態宣言」解除を5月末まで延期 5月14日 日博協ガイドライン 公表
5月17日 「緊急事態宣言」大都市圏を除き先行解除 5月25日 緊急事態宣言解除 / 日博協ガイドライン改定 9月11日 11月末までのイベント開催について
9月18日 日博協ガイドライン改定
2月~3月のイベントの自粛要請に際してはギャラリートークやパフォーマンスを中止した館も多く、その後の 緊急事態宣言の発出を受けて全国の多くの館で臨時休館が相次いだ。その後緊急事態宣言が解除され、再開した博 物館も多かった(註2)が、再開後も開館時間の短縮や感染予防対策などがとられ、「新しい生活様式」に沿った運営 がなされている。
ではこのような事態にあって博物館は自身の理念や使命を果たすため、どのような取り組みを行ってきただろう か。そもそもわが国において博物館は、博物館法第2条によって次のように定義されている(下線部筆者)。
この法律において「博物館」とは、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成 を含む、以下同じ。)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエー ション等に資するために必要な事業を行い、あわせてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機 関のうち、地方公共団体、一般社団法人若しくは一般財団法人、宗教法人又は政令で定めるその他の法人(独立 行政法人(独立行政法人通則法 (平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。第二 十九条において同じ。)を除く。)が設置するもので次章の規定による登録を受けたものをいう。(註3)
以上に挙げた博物館の目的と役割(下線部)のなかでも、「展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、
その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行い…」という部分が博物館を運営してい く中で新型コロナウイルス感染症流行拡大による影響を受けていると言えるだろう。コロナ禍において博物館は、
物理的な展示やイベント・パフォーマンスを中止・延期、制限する、という選択肢を取らざるを得なかった。この ような情勢にあって、オンラインでの作品の公開や SNS による発信を積極的に行った博物館は多い。
各館のオンラインでの取り組みに関しては北海道大学『科学技術コミュニケーション』2020年8月刊行収録の室 井宏仁氏、奥本素子氏による「COVID-19 感染拡大下における博物館施設のオンライン発信の傾向と分析」が詳し い。同報告では新型コロナウイルス感染症流行拡大の影響を受け、活動が制限された国内の博物館がオンライン上 でどのような取り組みを提供してきたかを調査し、整理分析している。その結果としてインターネットを通じて 情報発信を行っている施設の多くが SNS などの外部サービスをメディアとして活用し、加えてこれまであまり見 られなかった全国規模での施設間連携等の新しい発信の取り組みも確認できたとまとめている。(註4)本稿ではさら に、日本博物館協会が集計したアンケートの調査報告(『博物館研究』11月号掲載)を参考にして具体的な事例を 挙げる。
このアンケートは「博物館園職員を対象に、新型コロナウイルス感染予防対策、現場の事業展開、現状と今後へ の課題等について調査し、その結果を共有するとともに今後の支援策の立案にも活用する」目的のもと WEB アン ケート形式により集計されたもので、実施期間は2020年9月1日~9月15日、解答館数は709館である。
46箇ある設問のうち、Q.34~36の三つの質問がコロナ禍でのオンラインコンテンツの利用状況に関するものに なっている。まず Q.34では「休館中の WEB 等による博物館情報等の発信の実施について」アンケートをとって おり、実施した館が511と全体(709館)の7割を超えていた。
次の設問はそのうち、発信したコンテンツの内容を問うもので(複数回答可)、全体の511館のうち、約半数の施 設で施設紹介(260館)、75%の館が展示紹介・解説(企画展・イベント紹介含む・387館)を行っており、これら は館や展覧会に直接訪れることのできない期間の代替案としてのコンテンツ提供となった。また、約2割の館(127 館)では児童生徒向けプログラムの発信をしており、これらはオンラインによる教育普及事業の一端と言えるだろ う。それらの内容の具体的な例として、
・おうちで日本画サイト
・地域の自然情報の発信、動画の配信
・本来美術館内にて実施する予定だった「絵手紙コンテスト」を応募式に変更して実施中
・ダウンロードできる工作キットの紹介、オンラインワークショップ
・飼育生体の生体解説等(食事風景等)
・美術館クイズの出題、収蔵作品塗り絵の作成 (ホームページ等からダウンロード)
などがあげられている。
他にも、アンケートでは明記されていなかったも のの、一連の取り組みで大きな流れとなったのは
「おうちミュージアム」という枠組みでの活動であ る。これは北海道博物館が発案したもので、2020年 12月現在国内の217の館が参画している。同博物館 はこの「おうちミュージアム」において、主に休校 になった小中学校に通う子供たちを対象に過去の展 覧会やイベントからコンテンツを提供した(註5)。そ
のほかにも家庭用ゲーム機任天堂 switch のゲーム、「あつまれどうぶつの森」内で使えるデータとして複数の館が 所蔵作品のデータを公開配布して話題になった(註6)。
いずれの事業も、デジタルアーカイブや過去の展覧会の内容を活用したコンテンツなどを発信することで、活動 が制限される中でも前述の「展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエー ション等に資するために必要な事業を行い…」という博物館の目的に貢献していると言えよう。
また、WEB 発信にかかる最後の設問として、メディアの種類を集計している(こちらも複数回答可)。何らか の情報や紹介等を WEB 発信していたと答えた511館の内、8割を超える館が使用しているのが公式ホームページ だ。公式ホームページはいわば館の玄関であるため、物理的な玄関が閉まっていた状況下では最も公的な情報発信 の場であると言えるだろう。しかしながら公式ホームページは利用者自らが検索しない限りアクセスすることは難 しい。そこで効果的になってくるのが、SNS による情報や WEB コンテンツの宣伝・周知である。アンケートでは SNS を利用している館は511館中、Twitter 258館・Instagram 132館 ・Facebook 247館 ・YouTube 197館・Zoom 18館・ニコニコ動画5館となるなど、SNS を利用している館も少なくないことが見てとれる。各 SNS はそれぞれ 得意とする内容やメインとして使用している層の違いなどもあり、何をどう活用していくかは館の方針次第である
(註7)が、令和元年度の博物館調査報告では SNS の利用実態について、情報管理の難しさや曖昧さから公式な対応 として使うのが難しいとしている館も一定以上あるものの、ほとんどの館が SNS による情報の即時性・拡散力・
発信の簡潔さを認めていることがわかっている(註8)。
以上、簡単にコロナ禍における国内の博物館の取り組みをみた。博物館法から博物館の役割を考えるとき、「展 示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な 事業」がコロナで影響を受けた部分であること、またそれを補うために、各館がオンライン上での取り組みを積極 的に行っていたことがわかった。またその内容としても単純な館や展示の広報だけでなく、資料の紹介や過去の展 覧会の紹介、子供向けの教育普及にかかるコンテンツなどが挙げられている(註9)。おうちミュージアムを発足し た北海道博物館の学芸員である渋谷美月氏は「おうちミュージアムのはじまりとこれから」で、「これまでのオン
図1 おうちミュージアム ロゴ、 出典:北海道博物
ラインでの発信は、博物館の活動の中では補助的な位置にあったといえる。一方おうちミュージアムは、これまで のように他の活動の補助的な発信のためではなく、おうちミュージアムそのものが博物館の新たな活動の枠組み、
社会の中での新たな立ち位置となることを目指している。」と述べており(註10)、オンライン上での取り組みが新し いスタンダードになりうるものとして重点を置かれていたとわかる。
2.“大学”博物館のコロナ禍での役割と取り組み
1 大学博物館の役割
それでは、「大学博物館」はどのような役割のもとコロナ禍で運営、事業を行ってきているだろうか。日本で一 番古い大学博物館(註11)は1914年に開館した京都帝国大学文学部陳列室である。この陳列室は明治30年(1897)に 創設された京都大学の博物館で、大学の研究・教育活動の拠点として学術標本を収蔵・管理するための施設として 設置された。大学の学部の増設に伴う資料の増加が博物館の設置に貢献したという(註12)。以後様々な大学が自身 の大学史や研究、所蔵品を発展寄与するために博物館を設置してきたが、契機となったのは、東京大学改革(総合 研究資料館の博物館改組)と一連のものとして1996年に文部省学術審議会の報告としてまとめられた「ユニバーシ ティ・ミュージアムの設置について」(註13)である。金沢美術工芸大学の加藤謙一氏は日本において大学博物館数 が1995年からわずか数年の間に倍増しており、それはこの中間報告の影響であるといえると述べている(註14)。
ここでは、大学博物館の定義及び役割について、同報告から引くことにする。「報告」の「3 ユニバーシティ・
ミュージアム整備の基本的な考え方」では、
ミュージアムとは、大学において収集・生成された有形の学術標本を整理、保存し、公開・展示し、その情 報を提供するとともに、これらの学術標本を対象に組織的に独自の研究・教育を行い、学術研究と高等教育に 資することを目的とした施設である。加えて、「社会に開かれた大学」の窓口として展示や講演会等を通じ、
人々の多様な学習ニーズにこたえることができる施設でもある。
したがって、ミュージアムは単なる学術標本保存施設又は収集した学術標本の展示を主たる目的とする施設 ではなく、下記の機能を持つ必要がある。
⑴ 収集・整理・保存
大学において収集・生成され、学術研究・教育の推移と成果を明らかにする精選された有形の学術標本を整 理・保存し、分類して収蔵する。
⑵ 情報提供
収蔵した学術標本を整理し、収蔵品目録を刊行することは当然であるが、さらに広範多様な利用に供するた め、画像データベースを構築することが必要である。このことにより、ネットワークを通じて全国的な利用に 供することも可能となる。また、研究者や学生のみならず、地域住民等からの学術標本に関する相談に応じ、
必要な情報を提供する。
⑶ 公開・展示
収蔵した学術標本を研究者に公開し、調査研究に供するとともに、必要に応じて貸出しや重複標本の交換等 も行い、有効な活用を図る。学生に対しては学術標本に直接接する機会を提供し、実証的で充実した教育に資
することができる。また、ミュージアムに収蔵する学術標本を用いた研究成果の展示を行い、論文等によらな い新しい形式の公表の方法を研究すると同時に、学内の研究成果を公表する場とする。
さらに、大学における研究成果については、地域社会に積極的に発信することが求められており、ミュージ アムにおいては展示や講演会等を通じ、大学における学術研究の中から生まれた多くの創造的、革新的な新知 見等を地域住民に積極的に公開し、周知することが望ましい。
なお、ミュージアムを「社会に開かれた大学」の具体的対応として円滑に機能させるためには、今後社会の ニーズをも踏まえ、管理運営方法について工夫することも必要である。
⑷ 研究
学術標本群の充実やその有効利用を図るとともに、学術標本を基礎とした先導的・先端的な取組を支援する ため、ミュージアム独自の研究を計画し実行する。この場合、ミュージアムに所属する研究者が中核となる が、大学内外の研究者の共同研究として行うことが望ましい。
⑸ 教育
学術標本を基礎とした大学院・学部学生の教育に参加するとともに、博物館実習をはじめ大学における学芸 員養成教育への協力を行う。また、一般の博物館の学芸員に対する大学院レベルのリカレント教育や、人々の 生涯にわたる学習活動にも積極的に協力することが望ましい。
としている(下線部筆者)。すなわち大学博物館特有の特色・役割として、大学における博物資料を管理活用し、研究 を支援する基盤となる組織としてその研究の成果を公表すること、それを生徒や市民に開くことを挙げている(註15)。
新型コロナウイルス感染症流行拡大による影響を受け、先に見た博物館のケースと同様に、休館や制限がかかる 状況下で、大学博物館も資料の公開や教育普及活動という点で影響を受けてきた。さらに大学博物館の特色とし て、学内の知(研究)の発信公開・周知を、博物館資料を通して行うというものがあるが、こちらも工夫が必要な 項目と言えるだろう。
2 大学博物館の新型コロナウイルス感染症流行下での実践
本節では前述の大学博物館の役割を踏まえ、当館の新型コロナウイルス感染症流行拡大時の運営や取り組みを振 り返り、加えて他の大学博物館のコロナ禍での運営や取り組みについても言及し、比較検討したい。
① 早稲田大学會津八一記念博物館
当館は、資料の常時公開・展示をもとに学術利用への貢献と大学の知へのアクセスを目指し1998年に設置さ れた学内の博物館である(註16)。新型コロナウイルス感染症に対しての対策・運営としては主に早稲田大学(以 下、本学)の方針に沿い展開してきた(註17)。
本学には当館をはじめ次に挙げる演劇博物館、大学史資料センター、早稲田大学歴史館、早稲田スポーツ ミュージアムが付置されているが、これらの施設は3月2日に休館を決定し、当館でも例年通りに休館してい た2月が明け、3月2日のみ開館、その翌日から臨時休館となった。これに伴い、当館では2020年5月に予定 していた企画展「受贈記念 コレクター寺田小太郎―難波田龍起、相笠昌義を中心に―」をはじめとする企画
展、常設展示の会期が変更となった。
その後4月6日には早稲田大学本部よりキャンパスの立 ち入り禁止が公表され、職員は在宅での勤務が要請された
(5月1日からキャンパスへの立ち入り禁止が段階的に規 制緩和されるものの、6月中は基本的に在宅勤務を継続し ながら、必要に応じて最小限の出校。6月29日5割程度の 出校率となった)。在宅勤務では展覧会準備、デジタルアー カイブ作成の準備等を行った。約半年の休館を経て9月10 日、大学本部が博物館の9月25日の再開を決定し、当館も 開館時間を10時~ 17時から10時~ 16時に短縮、休館日を水 曜日から土曜日・日曜日・大学の臨時休業日とし、感染症対 策をとったうえでの再開となった。11月15日には開館時間が 元通りになり、在宅勤務も基本的には終了し現在(2020年12 月)に至っている。
当館ではデジタルアーカイブの整理・作成・公開事業が進 められており、新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響 でその必要性が再確認された。また、休館中には以前から
アカウントを取得していた Twitter を活用して作品紹介や展示の紹介を行った(以前は広報や簡単な展示の 見どころが中心だったものの内容の充実化を図った。)り、館の再開や開館時間等の情報は HP や同 Twitter アカウントを通して発信を行っている。また、大学が後期に入り、段階的に対面での授業が再開されたことか ら、感染予防対策をとった上での博物館実習等での博物館における授業利用が再開している。
このように当館では本学の要請に合わせ3月~9月末までの約7ヶ月間臨時休館し、その間外部に向けては HP や Twitter を通して情報を発信してきた。以下では他の大学博物館の運営や取り組みを同様に概観する。まずは 同じ本学内に付置されている早稲田大学坪内博士記念演劇博物館での対応と対策を②にまとめた。
② 早稲田大学坪内博士記念演劇博物館
早稲田大学坪内博士記念演劇博物館は、1928年に特に演劇関連に特化した博物館として設置され、本学にお いては当館より歴史のある博物館である。資料の展示公開を行う他、デジタルミュージアムの公開、演劇講 座や各演劇にかかるイベントの実施、また、図書室・AV ルームが併設されている。同博物館の運営も本学の 方針に従って進められた為、当館と足並みをそろえる形で休館、再開をしている(ただしリニューアル工事を 行っていた関係で1月~3月末までの休館が従前から決まっていた。)。この際、4月に予定していた新収蔵品 展の中止、5月~8月に予定していた春季企画展「Inside/Out―映像文化と LGBTQ+」(5/16-8/2)と特別展
「競演!『三国志』の風雲児たち―日本・中国・台湾の華麗なる舞台」、および常設展が秋季に延期になって いる(註18)。
早稲田大学坪内博士記念演劇博物館でも、SNS(Twitter)が以前より活用されているが、主に広報を中心 にした媒体として扱われているようだ。同博物館で特筆すべき取り組みは、新型コロナウイルス感染症流行拡 大による影響で中止・延期になった演劇公演に関する調査そしてその成果展示、並びに演劇と新型コロナウイ 図2 作品紹介等に関する投稿(2020年6月16 日)、出典:早稲田大学會津八一記念博物 館公式Twitter
ルス感染症流行拡大に関する研究である。調査は「新型コロナウイルス感染症の影響下にある時間を演劇とい う視座から記録し、2020年に上演が叶わなかった公演の記録/記憶を後世に伝えること」を目的に、インター ネットや新聞、雑誌等、募集による情報収集と整理が行われ、10月7日、「失われた公演―コロナ禍と演劇の記 録 / 記憶」と題してオンライン展示が始まり、2020年12月現在、151の団体・公演の情報を公開している(註19)。 加えて、早稲田大学坪内博士記念演劇博物館では毎年演劇映像学連携研究拠点として研究活動を展開してい るが、今年度は特別テーマ研究の一環として「新型コロナウイルス感染症の影響下における日本演劇界の調査 研究」(研究代表者・後藤隆基)、「COVID-19影響下の舞台芸術と文化政策:欧米圏の場合」(研究代表者・伊 藤諭)、「博物館・美術館・図書館における新型コロナウイルス感染拡大予防策に関する調査報告」を実施・公 開している(註20)。
同じ大学内にあっても、「演劇」という特定のジャンルに特化している早稲田大学坪内博士記念演劇博物館 では「新型コロナウイルス感染症流行拡大による影響で中止・延期になった演劇公演に関する調査そしてその 成果展示、並びに演劇と新型コロナウイルス感染症流行拡大に関する研究」といったように、当館と比較して より専門的な取り組みがなされていることが大きな特徴として見てとれるだろう。
さらにここでは本学以外の大学博物館の事例として明治大学博物館、西南学院大学博物館の運営と取り組み も概観する。これらの館はコロナ禍において、SNS やデジタルアーカイブを使って積極的に活動を行ってい た大学博物館であり、いずれも私学大学に付置されている施設であることから、当館との比較・検証に資する と考えた。
③ 明治大学博物館
明治大学に付置する明治大学博物館が今の形になったのは2004年、それまで別々に設置されていた刑事・商 品・考古の三博物学を統合する形で新規開設している。明治法律学校を前身とする明治大学は、社会を教育対 象にすることに力を入れており、その点では「教育」「研究」に加えて「社会貢献」に力を入れていることを 明言している(註21)。
明治大学でも本学とほぼ同時期の4月7日にキャンパスの入構禁止措置が取られ、博物館は翌日から休館措置 を取った。再開されたのは本学のミュージアムより遅く、11月11日で、時間を短縮しての再開となった(註22)。休
図3 オンライン展示「失われた公演―コロナ禍と演劇の記録 / 記憶」トップページ、
出典:早稲田大学演劇博物館
館中はインターネット上で の企画として、Facebook に 同博物館の広報誌『ミュー ジアム・アイズ』のバック ナンバーを紹介する投稿
(4月28日~7月13日まで 全10回 )、Twitter に よ る
「明治大学博物館クイズ」
の 発 信( 5 月 1 日 ~)、
YouTube チャンネルにて常 設展示紹介動画のシェア、
おうちミュージアムへの参 画、並びに「明治大学博物 館 ONLINE ミュージアム」
(註23)の公開を行っている
(註24)。
明治大学博物館は新型コロナ感染症流行以前からデジタルアーカイブを積極的に公開(註25)しているなど、
オンラインコンテンツを提供する基盤があったと言える。実際、コロナ禍での取り組みを見ると Facebook・
Twitter・Instagram・YouTube を使い分けた幅広い情報発信が見られる。また協定を結んでいる南山大学ら と合同で zoom によるコロナ禍を考えるシンポジウムも12月に開催している(註26)。
図4、5 おうちミュージアム紹介に関する投稿(2020年8月7日、9月7日)、
出典:明治大学博物館公式 Twitter
図7、8 明治大学博物館が YouTube チャンネル内で提供している動画一覧、
出典:明治大学公式 YouTube チャンネル 図6 YouTube における常設展示紹介に
関する投稿(2020年7月17日)、
出典:明治大学博物館公式 Twitter
④ 西南学院大学博物館
福岡県福岡市に位置する西南学院大学博物館は2006年に現在の博物館がある建物の名称を「西南学院大学博 物館」に変更し、一般公開を始めている。キリスト教主義教育の大学の精神に基づき、博物館資料を通してキ リスト教文化の理解や生徒の教育、学内外への成果の発信を使命としている。
5月に公開された『西南学院大学博物館電子ニュース』によると、同博物館は3月は開館しながらも換気・ア ルコール消毒強化、中旬からは予定していたすべての講演会やイベントの中止、4月には緊急事態宣言に先立ち 4日から臨時休館、それに伴い、4月に予定してい
た展覧会も延期された。勤務体制としては、常勤出 勤する職員は学芸員のみ、そのほかの職員は在宅勤 務としている(その後8月3日に再開した(註27)。)。
西南学院大学博物館はこの期間にすべてのキャプ ションの英訳と見どころ解説の追加を行っている。
また同博物館は館長・学芸員・学芸研究員が大学の 博物館学に関する講義に多くかかわるなど教育普及 活動に力を入れており、SNS を利用しての教育普 及活動もこの間積極的に行っている。具体的には Twitter や Facebook を使っての作品紹介や、「お うちでワークショップ」、西南学院大学博物館周辺 の聖書に関する植物をめぐる「聖書植物園ツアー」
などのコンテンツを提供している。(註28)
図9 作品紹介「壱週逸品」に関する投稿(2020年5月9日)、
出典:西南学院大学博物館公式 Facebook 図10 「聖書植物園ツアー」に関する投稿(2020年8月25日)、
出典:西南学院大学博物館公式 Twitter
以上簡単に取りまとめたようにこれらの二施設では、当館が SNS として活用している Twitter に加え、以前か ら活用されているプラットフォームを利用し、臨時休館中の広報や教育普及活動として YouTube チャンネルや Facebook などの SNS を使い分けていることがわかる。これらの使い分けは前述の通り、情報を幅広い層に届け、
また発信する情報の幅を広げることを可能にする。また、実際の展示の様子や、以前では紙媒体で発布していた情 報誌をオンライン公開するなど、新型コロナウイルス感染症流行下で制限された来館によって得られる体験をオン ライン上で提供する工夫も見られた。
4.むすびにかえて
新型コロナウイルス感染症の流行拡大に伴い、博物館では展示やワークショップなどといった実物体験をもとに した成果公表や社会貢献が制限される事態となった。その代替案、ひいては新しい選択肢として、デジタルアーカ イブや SNS を積極的に活用したオンライン上での活動が見られた。これらの取り組みは、博物館法に示された博 物館の役割である「教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業」に資するものである。
大学博物館においても、大学の方針に合わせながら「コロナ時代」の事業・運営を行ってきた。デジタルアーカ イブや SNS を使った資料紹介や教育普及活動に加え、授業利用等をはじめとした学生に向けたコンテンツの提供 や、自館の研究基盤を生かした調査研究、その成果発表が見られた。これらは「ユニバーシティミュージアムに関 する報告」にもみられたような“大学”博物館特有の使命「大学における博物資料を管理活用し、研究を支援する 基盤となる組織としてその研究の成果を公表すること、それを生徒や市民に開くこと」を果たすことに貢献してい る。
一方で全ての館がこうした積極的な事業を展開することができているわけではない。コロナ禍における取り組み はそれまでの館の取り組みの延長にある。自館が博物館として、大学博物館として、どのような目的と使命を持っ ているか優先順位をつけて活動を展開していくことが求められるだろう。本稿では大学博物館のコロナ禍での取り 組みについて、取り上げる館を絞りその一端を紹介するにとどまったが、紙幅の都合上検証できなかった他の大学 博物館の事例や全体の傾向に関してはより網羅的な調査が必要になるだろう。
註
⑴ 日本博物館協会「第68回全国博物館大会 大会要項」(https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/taikaiannnai2020.pdf 最終閲 覧日:2020年12月22日)
⑵ 丹青社が運営するインターネットミュージアムの HP の情報によると、10月27日時点では情報掲載数1,208施設に対し て再開済みの施設は1,151施設(コロナ以外の理由で休館・閉鎖した館 7施設)とされており、再開した館が9割を超 えていることがわかる。(インターネットミュージアム「特集 新型コロナウイルス特集」、(https://www.museum.or.jp/
special/korona 最終閲覧日:2020年12月22日)
⑶ 日本博物館協会編『博物館研究 Vol. 48,No.1』日本博物館協会、2013年
⑷ 室井宏仁、奥本素子「COVID-19 感染拡大下における博物館施設のオンライン発信の傾向と分析」、北海道大学 高等 教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)『科学技術コ ミュニケーション』、2020年、pp. 1-10
⑸ 国内において早くから感染の拡大がはじまった北海道に所在する北海道博物館は、全国的にも早く、2月29日から休館 措置をとっていた。
北海道博物館「おうちミュージアム」(http://www.hm.pref.hokkaido.lg.jp/ouchi-museum/ 最終閲覧日:2020年12月18日)
⑹ アメリカのメトロポリタン美術館が始めた企画で、以降国内では三菱一号館美術館やポーラ美術館がデータを提供して いる。
The Metropolitan Museum of Art, “Own a Van Gogh … in Animal Crossing, with The Met’s New Share Tool”, (https://www.
metmuseum.org/blogs/collection-insights/2020/animal-crossing-new-horizons-qr-code 最終閲覧日:2020年12月24日)
三菱一号館美術館公式ブログ「2020年5月1日 # あつ森で飾ろう」、(https://mimt.jp/blog/official/?p=3230 最終閲覧日:
2020年12月24日)
ポーラ美術館「# あつ森でポーラ美術館(飾ろう編)」、(https://www.polamuseum.or.jp/acnh/ 最終閲覧日:2020年12月 24日)
⑺ 各SNS の特徴に関しては以下の通り
Twitter:国内ではLINEに次いで利用者の数が2番目に多く、140字以内のテキスト、動画、画像などが投稿・共有で
きる。検索や個人的な情報周遊が手軽にできるため、情報収集を目的に利用している人が多い傾向にある。
Instagram:主に画像や写真を投稿・共有するソーシャルメディアで、若い女性を中心にSNSの中でもかなり勢力を伸
ばしているメディアである。利用している層は多方面に関心を持ち、投稿をきっかけに購買や訪問につながる傾向が ほかのメディアより高くなっている。
Facebook:原則として実名でのアカウント登録・利用が求められているため、インターネット上で新しい交流関係を作 るというよりは実際に交流のある家族、知人・友人との情報交換や近況報告をいった目的で利用されることが多い。
投稿できる内容としては、テキスト・画像・動画など。
YouTube:動画投稿・共有サービスの中では世界一の利用者数で、動画視聴だけならアカウント登録をせずに誰でも動 画を視聴することができ、アカウントを登録すれば無料で動画を投稿・共有することができる。Twitterなどに比べ、
長めの動画の動画も投稿することが可能なので(ギャラリートークやパフォーマンスなど)の公開も可能である。
(渡辺洋子「SNSを情報ツールとして使う若者たち :「情報とメディア利用」世論調査の結果から②」、NHK放送文化研 究所『放送研究と調査放送研究と調査 69(5)』、2019年、pp. 38-56)参照
⑻ 『令和元年度 日本の博物館総合調査報告書』日本博物館協会、2020年、pp. 26-27
⑼ 先に挙げた令和元年度の博物館調査の報告では、SNSで発信する内容についてほとんどが広報中心(イベント告知や 特別展の情報提供等)であることが示されつつ、その中で、広報ではない利用のされ方(博物館の日常・資料・学芸員 の活動・研究成果の紹介や公開)などが増加傾向にあることに触れており、コロナ禍という時代にあってその可能性の 広がりが見えたといってよいだろう。
⑽ 渋谷美月「おうちミュージアムのはじまりとこれから」、日本博物館協会『博物館研究 Vol. 55 No. 9』、2020年、pp.
26-29
⑾ 世界では1683年に設立されたイギリスのオックスフォード大学のアシュレモレアン博物館が最古。同博物館は驚異の部 屋というジャンルから出発し、「文化や時代を超えた人類の知識は社会にとって重要である」という創業の理念のもと 今日まで運営されている。
Ashmolean Museum Oxford, “HISTORY OF THE ASHMOLEAN”, (https://www.ashmolean.org/history-ashmolean 最終閲覧日:
2020年12月19日)
⑿ 吉村日出東「大学博物館の設置とその意義」、東京大学編『大学研究 19号』1999年、pp. 201-214
⒀ 『ユニバーシティ・ミュージアムの設置について(報告)―学術標本の収集、保存・活用体制の在り方について―』学 術審議会学術情報資料分科会学術資料部会、1996年
⒁ 加藤謙一「ユニバーシティ・ミュージアム構想からみた金沢美術工芸大学の美術館機能の現状と将来」、『金沢美術工芸 大学紀要 No. 50』金沢美術工芸大学、2016年、pp. 135-150
⒂ 西野喜章「「大学公開論」―大学博物館」」、『大学博物館 ―理念と実践と将来と』東京大学出版会、1996年
安高啓明「大学博物館総論−知の拠点と学芸員の養成」、『歴史の中のミュージアム−驚異の部屋から大学博物館まで』
昭和堂、2014年
⒃ 1927年より會津八一は博物館設置を提唱してきたが、以後計画はなかなか実現せず、70年の時を経て創立100年の新図 書館設置に伴い旧図書館を博物館にする計画で進んだ(大橋一章「會津八一記念博物館の開設」『早稲田大学會津八一 記念博物館 20年のあゆみ』早稲田大学會津八一記念博物館、2019年、pp. 8-9)
⒄ 早稲田大学「新型コロナウイルス感染症への対応について」、(https://www.waseda.jp/top/2020covid-19 最終閲覧日:
2020年12月24日)
⒅ 後藤隆基「演劇が失われた時間―コロナ禍による中止・延期公演の調査収と資料収集」、日本博物館協会『博物館研究 Vol. 55 No. 11』2020年、pp. 28-31
⒆ 早稲田大学演劇博物館「enpaku オンライン展示 失われた公演 コロナ禍と演劇の記録/記憶」、(http://www.waseda.jp/
prj-ushinawareta/ 最終閲覧日:2020年12月24日)
⒇ 早稲田大学演劇博物館 演劇映像学連携研究拠点「2020(令和2)年度共同研究課題」、(http://www.waseda.jp/prj-kyodo-
enpaku/research/2020.html#07 最終閲覧日:2020年12月23日)
明治大学博物館「明治大学博物館の理念・目標」、(https://www.meiji.ac.jp/museum/greeting/copy_of_greeting.html 最終閲 覧日:2020年12月23日)
明治大学「新型コロナウイルス感染症に関する明治大学の対応について【情報まとめページ】」、(https://www.meiji.
ac.jp/koho/natural-disaster/gaiyo.html 最終閲覧日:12月18日)
明治大学博物館「明治大学博物館オンラインミュージアム」、(http://ict-museum-meiji.tokyo/index.html 最終閲覧日:
2020年12月23日)
「博物館活動報告 臨時休館中の取り組みについて」、明治大学博物館編『ミュージアム・アイズ Vol. 75』、明治大学 博物館、2020年
明治大学博物館「明治大学博物館アーカイブ」、(https://www.meiji.ac.jp/museum/mmarchive.html 最終閲覧日:2020年12 月23日)
明治大学博物館「明治大学博物館 イベント一覧2020年度 <満員御礼>シンポジウム「今、博物館は何をするべきか
―コロナ以後の持続可能性を考える―」開催のお知らせ」、(https://www.meiji.ac.jp/museum/news/2020/6t5h7p00003a2e69.
html 最終閲覧日:2020年12月23日)
西南学院大学「コロナ特設ページ」、(http://www.seinan-gu.ac.jp/emergency/ 最終閲覧日:2020年12月23日)
早田萌「博物館の新型コロナウイルス対策事例③ 西南学院大学博物館」西南学院大学博物館『西南学院大学博物館 電 子ニュース』、2020年、pp. 9-10
図版出典
図1 北海道博物館「おうちミュージアム ロゴ」
図2 早稲田大学 會津八一記念博物館 (@waseda_aizu)『Twitter』2020年6月16日、(https://twitter.com/waseda_aizu/status/
1273541858849771520 最終閲覧日:2020年12月24日)
図3 早稲田大学演劇博物館「enpaku オンライン展示 失われた公演 コロナ禍と演劇の記録/記憶」WEBサイトより、
(http://www.waseda.jp/prj-ushinawareta/ 最終閲覧日:2020年12月24日)
図4 明治大学博物館(Meiji University Museum)(@meiji_museum)『Twitter』2020年8月7日、(https://twitter.com/meiji_museum/
status/1291533577180467201 最終閲覧日:2020年12月24日)
図5 同上、2020年9月7日、(https://twitter.com/waseda_aizu/status/1273541858849771520 最終閲覧日:2020年12月24日)
図6 同上、2020年7月17日、(https://twitter.com/meiji_museum/status/1284019819134595073 最終閲覧日:2020年12月24日)
図7 Meiji University「再生リスト 明治大学博物館」、『YouTube』(https://www.youtube.com/playlist?list=PL8bCC-xrDXMQI OcrNNRngbL-UORdunW5D 最終閲覧日:12月24日)
図8 同上
図9 西南学院大学博物館「臨時休館特別企画Ⅱ 壱週逸品①」、『Facebook』 2020年5月9日、(https://www.facebook.com/
seinanmuseum/ 最終閲覧日:2020年12月24日)
図10 西南学院大学博物館 (@seinan_museum)『Twitter』2020年8月25日、(https://twitter.com/seinan_museum/status/1298095 380773498880 最終閲覧日:2020年12月24日)