国民年金法による学生差別の違憲性 : 学生無年金 障害者訴訟東京地裁判決
その他のタイトル Inconstitutionnalite de la discrimination des etudiants par la loi sur la retraite pour les non‑salaries
著者 村田 尚紀
雑誌名 關西大學法學論集
巻 55
号 2
ページ 338‑369
発行年 2005‑07‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/12207
家賠償を求めたのが本件である︒ ︹ 判 例 批 評
︺
村
国民年金法による学生差別の違憲性
学生無年金障害者訴訟東京地裁判決
事 実 の 概 要
︵三
三八
︶
大学在学中に障害を負った
A
ら四人は障害基礎年金の支給裁定を申請したが︑国民年金に任意加入しておらず︑被保険者資格が認められないなどとして同年金を支給しない旨の処分を受けた︒そこで︑
A
らが︑①社会保険庁長官に対し︑上記処分の取消しを求めるとともに︑②国民年金に任意加入しなかったため障害基礎年金の支給を受けら れない者が生ずることのないよう適切な立法措置を国がとるべきであったにもかかわらず︑長年にわたって学生の被
保険者資格に関する適切な立法措置をとることを怠ったことにより︑
A
らに多大な損害を被らせたとして国に対し国 田ニ八
尚
紀
国 民
年 金
法 に
よ る
学 生
差 別
の 違
憲 性
一項︒以下︑これを﹁任意加入﹂という︶︒
国民年金法の改正経過
あらかじめ本件で問題となる一九八五年改正国民年金法三 0 条および三 0 条の四に関連する規定の一九五九年同法
一九五九年法律第一四一号として成立し︵以下﹁一九五九年法﹂という︶︑これによって国民年
金制度が創設された︒本件にかかわる当時の制度を概観すれば︑次のとおりである︒
二九
︵同項七号︶は︑強制適用の対象 国民年金の被保険者は︑二 0 歳以上六 0 歳未満の国民であり︑これらの者は︑法律上当然に国民年金の被保険者と
なる︵強制適用︶こととされたが(‑九五九年法七条一項︶︑例外として︑被用者年金各法の被保険者または組合員
やその他の年金の受給権者︵同条二項一号ないし五号︶︑および︑既存の公的年金制度適用者の配偶者︵同項六号︶︑
並びに高等学校︑大学等の学生で︑定時制課程にある者や夜間部の学生を除くもの
外とされた︒こうして国民年金制度の強制適用の対象外とされた者のなかでも︑被用者年金各法の適用を受けず︑ま
た︑これらの法律に基づく年金給付︵遺族給付を除く︶ の受給権者でもない者︵学生は︑これに含まれる︶について
は︑本人の希望により︑都道府県知事の承認を受けて被保険者となることが認められていた(‑九五九年法附則六条
国民年金の被保険者は︑保険料を納付する義務を負うが︑国民年金の障害年金又は母子福祉年金の受給権者や生活
保護法による生活扶助を受けている者等は当然に︵同法八九条︶︑また所得がない者等は︑その申請に基づいて都道
府県知事が決定をすることによって︵同法九 0 条︶︑保険料の免除を受けることができるものとされていた︵ただし︑
その世帯主または配偶者が保険料を納付することが著しく困難でないときは︑免除は認められない︶︒しかし︑国民 ①国民年金法は︑ 制定から現行法に至るまでの主な改正の経緯を概観しておく︒
〔 1 〕
︵三
三九
︶
が拡大された 国民年金の被保険者は︑次の各号のいずれかに該当する者とされ︑国民年金法の強制適用を受ける被保険者の範囲
︵ 一
九 八
五 年
法 七
条 ︶
︒
① 被 保 険 者
で︑本件に関連する部分では次のような改正が行われた︒ ②国民年金法は制定後頻繁に改正されているが︑ 一九八五年法律第三四号による法改正︵以下︑改正後の法律を
第五五巻二号
年金に任意加入した者は︑いつでも任意のときに被保険者資格を喪失することができるが
初診日において六五歳未満の者が一定の障害の状態にあるときは︑
︵ 同
法 三
0 条 ︶
︒
︵ 三
四
0 )
障害年金の支給に関しては︑初診日において国民年金の被保険者であった者︑またはかつて被保険者であった者で
障害福祉年金の支給に関しては︑初診日において国民年金の被保険者であった者︑またはかつて被保険者であった
者で初診日において六五歳未満の者が一定の障害の状態にあるときにおいて︑所定の要件を備えていない場合であっ
一定の要件の下に障害福祉年金が支給されるものとされていた︵同法五六条︶︒また︑疾病にかかりまたは負
傷し︑その初診日において二 0 歳未満であった者が︑障害認定日以後に二 0 歳に達したときは二 0 歳に達した日にお
いて︑障害認定日が二 0 歳に達した日後であるときはその障害認定日において一級相当の障害状態にあるときにも︑
障害福祉年金が支給されることとされていた︵同法五七条︶︒
﹁一九八五年法﹂という︶は︑各種年金制度を統合し︑全国民共通の基礎年金制度を創設することを主眼とした改正 て
も ︑
障害年金が支給されるものとされていた 四項︶︑保険料負担の免除規定は適用されないものとされていた
一定の保険料拠出をしていたことを条件として︑
︵ 同
法 附
則 六
条 六
項 ︶
︒
関法
︵任意脱退︑同法附則六条
三〇
国民年金法による学生差別の違憲性
一九八五年法でも学生を国民年金法の強制適用の対象とはしないこととされ︑﹁学生の取扱いについ ては︑学生の保険料負担能力等を考慮して︑今後検討が加えられ︑必要な措置が講ぜられるもの﹂とされた︵改正法
附 則
四 条
一 項
︶
c
学生は︑都道府県知事に申し出て︑国民年金に任意加入することができるものとされたが︵国民年 金法附則五条一項︶︑任意に脱退することができる代わりに保険料の免除を受けることはできないものとされていた
一九五九年法と同様であった︵同条四項︑
10
項 ︶ ︒
(2 )
それまでの障害年金は︑﹁障害基礎年金﹂と名称が改められ︑現行法の三
0 条とほぼ同様の要件の下に支給される
こ と
と な
っ た
︒
②障害基礎年金について 点
は ︑ こ
の よ
う に
︑
の
︵
同 項
三 号
︶
(ウ)
厚生年金保険の被保険者︵七条一項二号︶
第二号被保険者︵上記い記載の者︶の配偶者であって主として第二号被保険者の収入により生計を維持するも
(イ)
とができる者︵同号口︶
(b)学校教育法四一条に規定する高等学校の生徒︑同法五二条に規定する大学の学生その他の生徒又は学生で
あって政令で定めるもの
︵ 同
号 イ
︶ 被用者年金各法に基づく老齢又は退職を支給事由とする年金たる給付であって政令で定めるものを受けるこ
(a)
し︑次のいずれかに該当する者を除く︵七条一項一号︶
(ア)日本国内に住所を有する二 0 歳以上六 0
歳未満の者であって次号及び第三号のいずれにも該当しない者︒ただ
︵三
四一
︶
(4)
は
で き
な か
っ た
︒
第五 五 巻 二 号
︵ 三
四 二
︶
また︑それまでの障害福祉年金は廃止され︑かわりに︑二
0
歳未満の間にかかった疾病等によって障害の状態と
( 3 )
なった者に対しても︑障害基礎年金を支給する旨の規定(‑九八五年法三
0
条の四︒内容は︑現行規定と同様であ
る︶が設けられ︑それまで障害福祉年金の支給を受けていた者に対しても︑障害基礎年金の受給対象となる障害の程 一九八九︵平成元︶年法律第八六号による改正︵以下︑改正後の法律を﹁一九八九年法﹂という︶によって︑
九八五年法七条一項一号のイ︑口が削除され︑学生についても国民年金法が強制適用されることとなり︑改正法施行
︵一九九一年三月三一日︶において同号イに該当した者が︑施行の日︵同年四月一日︶において一九八九 年法七条一項一号に該当するときは︑同日に国民年金の被保険者の資格を取得することとされた︵改正法附則三条︱
この結果︑学生も保険料納付義務を負うこととなり︑所得がない場合等一定の場合には︑都道府県知事に申請をし て保険料納付義務の免除を受けることができるものとされたが(‑九八九年法九
0
条本文︶︑世帯主または配偶者に
これを納付するについていちじるしい困難がないと認められるときは︑保険料納付義務は免除されないものとされて いた︵同条ただし書︶ため︑結局︑学生の親に保険料を納付する能力がある場合には︑保険料納付義務を免れること
000
年法律第一八号︵以下﹁二
0
0
年法﹂という︒︶によって現行の法九
0
条の三が新設されるに至った︒
現行国民年金法︵以下﹁法﹂という︒︶七条一項は︑①日本国内に住所を有する二
0 歳以上六 0
歳未満の者であっ
項 ︶ ︒
その後︑このような保険料納付義務に関する定めが学生の親に過大な負担を負わせるものとして批判され︑二
O
の日の前日
(3)
度を負っていれば障害基礎年金を支給することとされた︵改正法附則二五条︶︒
関法
国 民
年 金
法 に
よ る
学 生
差 別
の 違
憲 性
のとされている 務が免除される︒ め
て い
る ︒
一定の事由がある場合には︑保険料の納付義
︵ 法
八 八
条
て次号及び第三号のいずれにも該当しないもの︵一号︶②被用者年金各法の被保険者︑組合員又は加入者︵二号︶︑
③第二号被保険者の配偶者であって主として第二号被保険者の収入により生計を維持するもの︵三号︶を国民年金 の被保険者とし︑日本国内に住所を有する二
0 歳以上の者は︑全員が国民年金法の強制適用の対象者となることを定
国民年金の被保険者は保険料︵現在は一か月一万三三
0
0 円︒法八七条四項︶を納付する義務を負い
項︶︑世帯主はその世帯に属する被保険者の保険料につき︑配偶者の一方は被保険者である他方の配偶者の保険料に つき︑それぞれ連帯して納付すべき義務を負うが︵同条二項︑三項︶︑
学生についていえば︑当該学生の収入が政令で定める額以下︵扶養親族等がいない場合には︑前年所得が六八万円 以下︒法施行令六条の九︶であるときなどには︑社会保険庁長官に申請をして保険料の納付義務の免除を受けること
ができ︵法九 0
条の三第一項一号︒ただし︑法二六条かっこ書︶︑免除を受けた保険料は︑追納することができるも
︵法九四条一項︶︒また︑当該学生が地方税法に定める障害者︵地方税法二三条一項九号︑同法施行 令七条により︑身体障害者福祉法一五条四項の規定により交付を受けた身体障害者手帳に身体上の障害がある者とし て記載されている者等が含まれる︶である場合において︑前年の所得が政令で定める額︵法施行令六条の八により一 二五万円︶以下であるときには︑保険料の免除を受けることができるものとされている︵法九
0 条
一 項
︶ ︒
︵三
四三
︶
と 診
断 さ
れ て
い る
︶ ︒
の 後
遺 症
が 残
り ︑
第五 五 巻 二 号
︵ 三
四 四
︶
︵一九六四年八月二六日生︶は︑大学在学中の一九八六年九月六日︑バスケットボール部の練習試合中に転倒し て意識不明となった︒都立
s 病院での検査の結果︑脳出血が確認され︑救急手術で脳室ドレナージの施行を受け︑同
月︱二日には原因となった脳腫瘍の摘出手術を受けたものの︑意識は回復せず︑寝たきりの状態となり︑同月一九日 には︑同病院において︑転倒を機転として腫瘍内出血及び脳室内出血が発症したものと診断された︒
A は ︑
年四月ころから︑父母らの問いかけに対してわずかながら反応を示すようになり︑その後︑大小の手術を二
0 回余り
にわたって受け、ある程度の回復がみられたものの、精神機能低下、四肢の麻痺、発声障害、排尿•排泄機能障害等
者手帳の交付を受けた︒
A
の脳腫瘍は中心性神経細胞腫といわれるものである︒その生育歴を振り返ると︑高校三年(‑七歳︶時の一九八 二年五月の定期健康診断において︑視力がそれまでの両眼一
O ・
から︑右眼
O ・
七︑左眼 0
・ 三
と 急
激 に
低 下
し た
た め
︑
同年七月︑八月に
K大学病院眼科を受診している︒その後︑二
0 歳時の一九八五年一月には︑成人を祝う祝宴で飲酒
した翌日から極度の頭痛等の症状が発生したため医師の診察を受け︑くも膜下出血を疑われたことがあった︵もっと も︑この際には︑症状が改善したことなどもあって︑最終的にはくも膜下出血ではなく︑急性アルコール中毒である 中心性神経細胞腫は︑脳の中心部に発生し︑きわめてゆっくりと大きくなり︑発生から症状発現までに長期間を要
する点に特徴があり︑また︑その初発症状としては︑水頭症による頭痛や視神経の圧迫による視力低下が多いこと︑
A
図︺
A
について
関法一九九一年二月六日には︑脳出血による四肢体幹機能障害により身体障害程度等級一級の身体障害
三四
一 九
八 八
国民年金法による学生差別の違憲性
知覚麻痺︑言語障害等の後遺症が残り︑ し
て ︑ B ③ について B
日︑再審査請求を棄却する裁決をした︒
A は ︑
三五
BudR
を用いた星状膠細胞系腫瘍の成長解析データによれば︑腫瘍の体積が二倍になるのには︑理論上︱︱五日を 要するものとされており︑これを前提として
A
の中心性神経細胞腫の成長過程を逆算すると︑高校一二年時における同 細胞腫の大きさは︑長径が二
・‑
mm
以上︑垂直方向の大きさは一・七
m m
以上であったと推定され︑その大きさや発生部
位に照らしてみれば︑同細胞腫が視神経を圧迫し︑視力低下をもたらした可能性が高いこと︑
の頭痛等は︑回顧的にみれば︑明らかに同細胞腫に基因するものであったといえることが認められる︒
一 九
九 八
年 一
0 月八日︑東京都知事に対し︑障害基礎年金の裁定請求を行ったが︑同知事から︑同年︱二月
四日︑受給要件を満たしていないとして︑障害基礎年金を支給しない旨の処分を受けたため︑これを不服として一九 九九年二月四日︑東京都社会保険審査官に審査請求をしたが︑同審査官は︑二
0 0
0 年一月三一日︑審査請求を棄却
する裁決をした︒ A
は︑同年二月二九日︑社会保険審査会に再審査請求をしたが︑同審査会は︑二
0 0
一 年
四 月
二 七
︵ 一
九 六
0 年
五 月
ニ ︱
日 生
︶
一九八五年一月の極度
は︑大学在学中の一九八一年︱一月二九日︑友人と飲酒中に急に体がしびれて口が きけなくなり︑昏倒して病院に運ばれ︑
C
T 検査の結果橋出血と診断された︒同年︱二月一六日︑
T 大学医学部付属
病院に転医し︑燕下障害︑右片麻痺などが認められ︑小脳から橋部にかけての血管に先天性奇型による出血があると
一九八二年三月までに三回にわたる開頭手術を受け︑さらにリハビリテーション訓練を受けたが︑運動障害︑
一九八三年五月九日には︑脳動静脈奇型破裂による四肢体幹機能障害により
︵ 三
四 五
︶
七日︑再審査請求を棄却する裁決をした︒
C
は ︑ ヽ ︳ ︑ '
f
こ ︒t
cC
④について七日︑再審査請求を棄却する裁決をした︒
第 五 五 巻 二 号
一九
九八
年一
0
月八日︑東京都知事に対し︑障害基礎年金の裁定請求を行ったが︑同知事から︑同年︱二月三日︑受給要件を満たしていないとして︑障害基礎年金を支給しない旨の処分を受けたため︑これを不服として︑
九九九年二月四日︑東京都社会保険審査官に審査請求をしたが︑同審査官は︑二
0 0
0
年一月三一日︑審査請求を棄却する裁決をした︒
B
は︑同年二月二九日︑社会保険審査会に再審査請求をしたが︑同審査会は︑二
0 0
一年四月二
︵一九六四年︱二月ニ︱日生︶は︑大学在学中の一九八五年一
0
月四日︑普通乗用自動車を運転中︑他車と衝突する事故に遭遇して両眼球破裂︑眼瞼裂傷の傷害を負い︑
S
医大病院に搬送され︑手術を受けたものの視力は回復せず︑同年︱一月一日︑両眼失明を宣告され︑
一九八六年三月には︑身体障害者等級一級の身体障害者手帳の交付を受
一九
九八
年一
0月八日︑東京都知事に対し︑障害基礎年金の裁定請求を行ったが︑同知事から︑同年︱二月
七日︑受給要件を満たしていないとして︑障害基礎年金を支給しない旨の処分を受けたため︑これを不服として︑
九九九年二月四日︑東京都社会保険審査官に審査請求をしたが︑同審査官は︑二
0 0
0
年一月三一日︑審査請求を棄却する裁決をした︒
C
は︑同年二月二九日︑社会保険審査会に再審査請求をしたが︑同審査会は︑二
0 0
一年四月二
B
は ︑ 身体障害等級一級の身体障害者手帳の交付を受けた︒
関法
三六
︵ 三
四 六
︶
国 民
年 金
法 に
よ る
学 生
差 別
の 違
憲 性
ASD
の請求
審査請求をしたが︑同審査官は︑
D は ︑
三七
︵一九五九年七月九日生︶は︑大学在学中の一九八六年八月︱一日︑登山中に転落して負傷し︑昏睡状態のまま
で同日
S記念病院に入院し︑急性硬膜下血腫︑脳挫傷との診断により開頭手術を受け︑その後も︑同病院や
T 病
院 ︑
T 大学医学部付属病院等で治療を受けたものの︑重度の後遺症が残り︑
T 病院の担当医が作成した一九九八年七月三
0
日付けの診断書によれば︑﹁脳外傷により重度失語症と著明な知的障害にて日常生活動作に強い制限を認める︒体 幹バランスの不良︵常に介助が必要︶﹂という状態であって︑労働能力はないものと診断されている︒
四 日
︑
D は︑初診日(‑九八六年八月︱一日︶に国民年金に加入していないため︑受給要件を満たしていないとして︑
障害基礎年金を支給しない旨の処分を受けたため︑これを不服として︑同年︱二月二八日︑千葉県社会保険審査官に 社会保険審査会に再審査請求をしたが︑同審査会は︑二
0 0 一年四月二七日︑再審査請求を棄却する裁決をした︒
6 本件で適用すべき法律は︑
A.C.D
の場合が一九八五年法︑ B
の場合が一九八五年改正前法であるが︑四人とも︑
任意加入をしていない学生であるときに障害を負ったため障害基礎年金の受給資格がないとされたいわゆる学生無年
金者にあたる︒ A
ら四人は︑社会保険庁長官︵機関委任事務の廃止に伴い︑都道府県知事が機関委任事務として行っ ていた障害基礎年金の裁定に関する事務は社会保険庁長官が行うことになった︶に対して障害基礎年金不支給処分の
D
一 九
九 八
年 一
0 月八日︑千葉県知事に対し︑障害基礎年金の裁定請求を行ったが︑同知事から︑同年︱一月
固 D について
一 九
九 九
年 二
月 一
0 日︑審査請求を棄却する裁決をした︒
D は︑同年四月一六日︑
︵三
四七
︶
〔
1
〕牛 川
第 五 五 巻 二 号
9日
︵三
四八
︶
取消しを求め︑さらに国に対して国家賠償請求を行った︒不支給処分取消しにかかる
A らの主張は︑①
A.B
は 初
診日において二 0
歳未満であったから受給要件を満たしている︑②法三
0 条の四が二
0 歳以上の学生を適用対象か
ら排除したことは憲法違反であるから︑この規定を憲法に適合するよう拡張ないし類推解釈するべきであり︑そのよ うな解釈に基づけば︑
A ら四人全員に受給資格がある︑③二
0 歳以上の学生が傷害基礎年金の受給資格を認められ
るためには国民年金に任意加入する必要があることを周知徹底されていなかったことが憲法三一条などに違反する︑
というものである︒国家賠償請求にかかる
A
らの主張は︑いわゆる学生無年金者が生じることになる国民年金法を放
置していたことが憲法︱四条や二五条に違反する︑というものである︒
A.B
の 法
三
0 条の四該当性
この点をめぐっては︑法三
0 条の四の﹁初診日﹂の解釈が問題となった︒
A について︑判決は︑﹁高校三年時の診
療は︑単なる視力低下に対するものであって︑中心性神経細胞腫に対する診療ではないから︑﹃初診日﹄には当たら ない﹂とする被告の主張に対して︑﹁疾病︵中心性神経細胞腫︶に基因する疾病︵視力低下︶に対する診療行為が行 われている以上︑その原因となっている疾病︵中心性神経細胞腫︶が確定されていなくとも︑その診療行為の日を
﹃初診日﹄と解することに︑条文の文言上の妨げはないものというべきである﹂とした︒すなわち︑﹁法一︱
1 0
条の四
所定の﹃初診日﹄とは︑疾病又は負傷及びこれらに基因する疾病について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日 を意味する﹂と解したのである︒そのように解釈すべき理由を判決は︑次のように述べている︒﹁実質的にみても︑
関法
三八
国民
年金
法に
よる
学生
差別
の違
憲性
国民年金任意加入制度の周知徹底義務について
﹃初
診日
﹄
三九
の要件が要求されているのは︑医師の診療行為という客観的な事実によって疾病の存在を確認しようとす るところにあると解されるところ︑たとえ当該診療行為当時︑原因となっている疾病︵本件でいえば中心性神経細胞 腫︶の診断がされていなくとも︑診療行為が行われた事実及びその診療内容と︑その後に明らかになった事情を併せ れば︑当該診療行為当時に原因となっている疾病が発生していたことが客観的に明らかになっていると認められるの であれば︑上記の趣旨は満たされるものというべきである︒これに対し︑被告らのような解釈によれば︑当該診療行 為当時︑原因となっている疾病が客観的には発生しており︑資料上も疾病の発生を裏づけることができるにもかかわ らず︑診療に当たった医師が正確な診断を行ったかどうかで当該診療行為の日が﹃初診日﹄に当たるかどうかが左右 されることとなり︑そのような結論は妥当とはいい難い﹂︒
B
については︑このような解釈をもってしても︑脳動静脈奇型と幼時の鼻血との関係について︑﹁正確な受診日や 診療内容は全く明らかではないのみならず︑脳動静脈奇型と鼻血との間に何らかの関係があるのかどうかも定かでは ない﹂とし︑脳動静脈奇型が先天性のものゆえ出生日を初診日とする主張に対しては﹁﹁初診日﹂という概念は︑医 師が診療を行ったことを前提とするものであることは明らか﹂としてこれを退けた︒
2 被告が二
0
歳以上の学生の任意加入制度の周知徹底義務を怠っていながら︑原告が任意加入していなかったことを 理由に障害基礎年金受給資格を認めないのは︑憲法三一条に違反するという原告の主張に対して︑判決は︑﹁法律の 規定は︑それが施行されれば特段の周知徹底手続を要することなく適用されることになるのが原則であり︑本件に関
︵ 三
四 九
︶
③障害者の年金受給権について でき﹂ないと判断した︒
第五五巻二号
︵ 三
五
0 )
して︑特に周知徹底義務が要求されるものと解するだけの根拠はない﹂︑しかも﹁学生の任意加入制度については︑
毎年一定の広報活動が行われていたことが認められることからすれば︑周知徹底義務に違反があったと断定すること にも疑問がある﹂とした︒原告は︑学生が国民年金法の強制適用の対象からはずされ︑被保険者となるためには任意 加入しなければならないことを学生に対する不利益処分としたが︑これに対して判決は︑﹁社会保障制度は︑受益的 な制度であって︑それ自体としては憲法三一条の適用対象となるものではない上に︑学生の取扱いも︑社会保障制度 の一環として位置づけられるべきものであって︑憲法三一条の適用対象となるような不利益処分であるということは 原告が︑障害者に年金による所得保障を与えることは憲法二五条の要請であるにもかかわらず︑原告に障害基礎年
金が支給されないことは憲法二五条違反であると主張したことに関して︑判決は︑まず憲法二五条の文言から﹁直ち に障害者に対して年金の受給権が保障されているものと解することはできない﹂とし︑﹁健康で文化的な最低限度の 生活﹂が抽象的・相対的であり︑その具体的内容の決定が立法府の広い裁量に委ねられていると解する︒そこで︑判
決 は
︑ いわゆる合理性の基準ないし明白性の基準を適用して︑次のように原告主張の当否を判断する︒﹁障害者に対 しては︑何らかの所得保障措置が講じられるべきことは憲法二五条の要請であるという余地はあるとしても︑所得保 障のための方策としては︑生活保護を含めた様々なものがあり得るのであって︑現行の生活保護法には︑介護扶助も 含まれており︑障害者に対する所得保障についての配慮もされていることは明らかである﹂︑﹁限りある財源に基づい
関法
四〇
( 1 )
国 民
年 金
法 に
よ る
学 生
差 別
の 違
憲 性
四
て制度を設計しかつ運用するとの制約の下においては︑保護を与えるべき要件該当性につき厳格な審査をすることや︑
保護の水準をそれほど高くすることができないこともやむを得ないのであって︑現行の生活保護制度が憲法二五条の 要請を満たすものとして機能していることは否定できない﹂︑﹁年金のみが憲法二五条が要求する所得保障措置であっ て︑それ以外の制度を採用することは社会保障立法に関する裁量権を逸脱・濫用するものであると断定することは到
底 困
難 で
あ る
﹂ ︒
あらゆる障害者に障害基礎年金を支給するのが憲法二五条の趣旨だとする解釈について︑判決は︑障害基礎年金が 補完的な無拠出年金制度であることから︑﹁現行の国民年金制度は︑拠出制年金を基本とし︑補完的に無拠出制の年 金制度を設けているものであるところ︑⁝⁝別途生活保護の制度も存在する以上︑このような年金制度を設けたこと 自体が憲法二五条に違反するということはできない﹂として︑右解釈を退けた︒
原告は︑①学生を国民年金法の強制適用の対象から外したこと︑②傷害福祉年金が二
0 歳未満で傷害を負った者
に支給され︑二
0 歳以上の年金未加入の学生で傷害を負った者には支給されないこと︑③施行日五
0 歳超者を学生
と同様に強制適用の対象から除外し︑任意加入を認めることとしながら︑任意加入をした場合には保険料の納付義務 の免除を認め︑また︑任意加入をしない場合であっても老齢基礎年金の支給を認めたこと︑以上三点を理由として︑
一九五九年法が憲法︱四条・ニ五条に違反すると主張した︒ ( 4
〕一九五九年法が学生を国民年金法の強制適用の対象から外したことについて ︳九五九年法の違憲性について
︵三 五一
︶
第五五巻二号
︵ 三 五 二
︶
一九五九年法が二
0 歳以上の学生と二
0 歳以上の他の国民との間に不合理な差別をもた
らし︑憲法二五条にも反すると主張し︑それに対して被告国は︑①学生は稼得活動に従事しておらず︑保険料納付 義務を課すのは酷であること︑②卒業後は︑ほとんどの者が被用者年金に加入することが予想され︑この場合には︑
国民年金の保険料が掛け捨てになる結果となること︑③国民年金は︑稼得能力の喪失に対する保障を本質とするも のであるところ︑稼得活動に従事していない学生については︑稼得能力の喪失のリスクは存在しないこと︑以上三点 の理由を挙げて一九五九年法の当該差別が合理的なものであると反論した︒
判決は︑国の主張のうち②と③は合理性がないとしたが︑①については次のようにこれを認めた︒﹁学生の期間中 に保険料を納付しないことによって生ずる不利益はほとんど生じないか生じたとしてもそれほど大きなものではなく︑
未だ自らの収入のない状況下で保険料を負担してまで老後に備える必要があるとは考えられず︑制度の中心としての 老齢年金に着目して学生に被保険者資格を認めなかったことには︑それなりの合理性があると考えられる﹂︑﹁障害年 金について被保険者となる必要性は学生以外の者と変わりがないことから︑あえてその必要性のみに着目して被保険 者資格を付与するとの選択肢も考えられないではないが︑同法における保険料の額もまた適切な額の老齢年金を支給 できるように設定されているのであって︑保険料の大部分は老齢年金のためのものであり︑障害年金のためにのみ必 要な保険料はそのうちのごく一部分にすぎず︑しかも学生のうちに障害を受ける者の割合もかなり低いものであるこ
とからすると…•••このような選択をすることは、必要性に見合う限度を遥かに超える負担を強いる結果を招く点において不適切なものといわざるを得ず︑主たる制度である老齢年金に着目して被保険者資格を付与しない方が︑障害年 金のみに着目して被保険者資格を与えるよりも︑むしろ適切な選択であると認められる﹂︒すなわち︑﹁昭和一二四年法
この点に関して︑原告は︑
関法
四
決は
︑
国民
年金
法に
よる
学生
差別
の違
憲性
あるものといわざるを得ない﹂とした︒
四
が学生に被保険者資格を与えなかったこと自体には合理的な理由があり︑憲法︱四条及び二五条に違反するものとは 傷害福祉年金の受給資格に関して︑二
0
歳以上の学生を二0
歳未満で傷害を負った者と差別することについて この点について︑判決は︑﹁そもそも強制適用の下限を大部分の者が所得活動に入っているとの想定の下に二0
歳と設定しつつ︑学生については定型的にみて所得活動を行っていないことから二
0
歳に達しても強制加入の対象にし なかったことは︑昭和三四年法の立法思想自体が二0
歳以上の学生を二0
歳未満者と同視しているものとも考えられ るのであるから︑この点からしても二0
歳以上の学生についても障害福祉年金の支給対象に加えるのが自然な考え方であろう︒このように障害福祉年金の制度趣旨からしても︑昭和三四年法に現れた立法思想の一貫性の観点からして
も︑二
0
歳以上の学生を障害福祉年金の支給対象から除外すべき理由は見出し難い﹂とし︑﹁障害福祉年金の受給に
ついて︑二
0
歳前に障害を負った者と二
0
歳以後に障害を負った学生との間に取扱いの差異を設けることには疑問が 被告が︑二0
歳以上の学生を﹁二0
歳に達しながらあえて稼得活動に従事することなく自ら学生であることを選択した者︵いわゆる﹁エリート﹂︶﹂とみなしていることについて︑判決は︑二
0
歳以後に傷害を負った学生に傷害福祉 年金を支給することが二0
歳以上の者のうち学生でない者と学生( 1 1 エリート︶との間に重大な差別を設けることに なるという趣旨の主張であるとするならば︑法が重視している稼得活動への従事の有無を無視した主張であると批判 する︒また被告が︑そのような学生やその家計負担者には経済的余裕があるかのごとく論じていることについて︑判
一九五九年法の立法当時そのような事実が確認された形跡がないとし︑﹁いわばそのような社会通念を前提と
( 2 )
いえな
い﹂
︒
︵三 五三
︶
別と論じることはできないとする︒ ③ 施 行 日 五
0
歳超者との間の差別的取扱いについてさら
に判
決は
︑ 第五五巻二号
一般人が大学生とその父兄に対して
︵ 三
五 四
︶ して立案がされたと認めるのが相当である﹂とした︒すなわち︑まず事実としては︑﹁昭和三六年の調査による大学 生の家庭の収入状況は︑その職業によってかなりの差異があり︑その平均収入が全勤労者世帯の平均収入とほとんど 異ならないものもあることが認められるのであるから︑上記のように大学生やその父兄が一般に経済的に余裕を有す るものであるとの事実の有無については︑少なくとも客観的に見る限り疑問がある﹂としつつも︑当時の社会通念と しては︑﹁未だ当時においては大学の大衆化が進んでいなかったのであるから︑
経済的に余裕を有する者であるとのイメージを有していたことも不思議ではなく︑立法者がそのような社会通念を前 提として制度を設計することもまた不合理とは断じ難い﹂とする︒
及び制度自体の整合性という観点から見て比較的軽微といわざるを得ない﹂と判断した︒
結局︑この論点については︑疑問はあるが︑問題となる不利益の程度と社会通念の内容から︑﹁任意加入に伴う保 険料免除制度がなかったことも含めて︑憲法に違反するものとはいえない﹂とされるのである︒
この点について︑原告は︑施行日五
0
歳超者が国民年金に加入しなくても老齢福祉年金を受給でき︑また国民年金に任意加入した場合に保険料納付義務免除制度が適用されることになっていることによって︑学生と施行日五
0
歳超者との間に重大な差別があると主張するが︑これに対して判決は︑両者の利益状況に違いがあることから︑これを差
関法
一九五九年法段階では︑学生の被る不利益が少額の傷害福祉年金であるとし︑﹁その不利益の程度
四四
国民年金法による学生差別の違憲性
況になっていたということは困難である﹂として︑原告の主張を退けた︒
四五
一九七六年頃までに学生無年金者が生じないように学生を国民年金法の強制適用の対象にすべきであったのにそれ を怠った立法の不作為が憲法︱四条・ニ五条に違反するという原告の主張に対して︑判決は︑﹁昭和五一年当時は︑
学生無年金者問題が取り上げられ始めたばかりの時期であって︑直ちに立法による対応が必要であると認識すべき状 この点について︑原告は︑①学生を強制加入の対象にしなかったこと自体が違憲である︑②学生について障害を
理由とする年金の受給がより容易になるような制度を設けなかったことが違憲である︑という主張をした︒①につい
一九五九年法の違憲性の主張に対するのと同様の判断を示した︒
一方︑②について判決は︑次のように︑これを認める判断を示した︒
﹁昭和三四年法制定当時においても︑障害福祉年金の受給につき二
0
歳前に障害を負った者と二0
歳以後に障害を負った学生との間に取扱いの差異を設けることには疑問があったところであり︑その後の状況の変化を考慮すると︑
昭和六
0
年法制定時においては︑この点について何らの立法的手当をしないまま放置しておくことは憲法︱四条に違 反する状態となっていたものと認められる﹂︒このような判断のポイントとなったのは︑学生無年金者の被る不利益 まず不利益の程度に関して︑判決は次のように述べる︒﹁二
0
歳前に障害を負った者は︑昭和三四年法においては︑の大きさと社会通念の変化である︒ て
︑判
決は
︑
〔 6 〕 〔 5 〕
︳九八五年法の違憲性について 一九七六年以前の立法の不作為について
︵ 三
五五
︶
第五五巻二号 制度の根幹をなす障害年金自体は任意加入していない学生と同様に受給し得ず︑給付額のかなり低い付加的な制度と しての障害福祉年金の支給を受けられたにすぎなかったが︑昭和六
0
年法においては︑障害年金に代わって設けられた障害基礎年金を受給し得ることとなり︑障害福祉年金は廃止されたものの︑従来その給付を受けていた者は障害の 程度に応じて障害基礎年金の給付を受けることとなった︒このように昭和六
0
年法においては︑二0
歳前に障害を受けた者については︑給付の額が大幅に増加したのみならず︑被保険者資格がないにもかかわらず︑制度の根幹をなす 障害基礎年金の給付を受けられることとなったのであり︑二
0歳以後に障害を受けた学生との取扱いの差異は︑量的
に著しく拡大するとともに質的にも異なったものとなったと評価すべきである﹂︒
次に︑社会通念に関して︑判決は次のように述べる︒﹁文部省の平成︱二年度学生基本調査報告書によると︑大学 への進学率は︑昭和三四年には八・一パーセントであったところ︑その後は徐々に増加し︑昭和四七年に二
0
パー
セ ントを超えた以降は平成六年に三
0
パーセントを超えるまでの間︑二
0
パーセント台の中位で安定的に推移しており︑昭和六
0
年には二六・五パーセントと昭和三四年の三倍を超えていたことが認められ︑国民の意識においても︑昭和
五
0
年ころまでには大学への進学はそれほど特殊なことではなく︑大学生とその父兄が経済的に恵まれた者に限られ るとの認識も消滅したものと推認できるのであって︑それとともに昭和三四年法が前提とした社会通念ももはや存在 しなくなったと認めることができる﹂︒﹁これらのことからすると︑昭和六
0
年の法改正時点においては︑原告ら主張の点について︑昭和三四年法の合憲性を辛くも支えていた事情はいずれも消滅しており︑その不合理性のみが露呈す るに至ったと認められ︑これを是正すべき立法措置を講ずることなく放置することは︑憲法︱四条に違反する状態が 生じていたと評価すべきであるし︑昭和六
0
年法が従来障害福祉年金を受給していた者につき障害基礎年金を支給す関法
六四
︵ 三
六 五
︶
国民年金法による学生差別の違憲性
を得
ない
﹂︒
度が機能していなかったことを示すものであ﹂る︒
四七
ることとしながら︑同法制定以前に︱
1 0
歳に達してから在学中に障害を受けたいわゆる学生無年金者に何らの措置を 講じないことも︑両者間に憲法︱四条に違反する状態をもたらしたものと評価すべきである﹂︒
このような評価に関連して問題となる任意加入制度について︑判決は次のようにみる︒﹁任意加入制度には保険料 免除制度が伴っていなかったために︑本人にも父兄にも資力がない者には任意加入をすること自体ができず︑その場 合には障害に関する年金を受給することができないという欠陥があった上︑学生の任意加入者はわずか一パーセント 程度にすぎず︑その理由については様々なものが考えられるとしても︑このように加入率が著しく低いことは当該制 また︑国民年金法上︑障害年金が従たる制度にすぎないことについて︑判決は次のように判断する︒﹁それが本来
当該制度によって保護を図るべき者か否かにかかわらず︑その制度において一部の者にのみ救済が与えられ︑それと 同様の理由から救済が必要とされる者に対して何らの救済も与えられていない場合には︑その制度に代わる制度にお いて同等の救済が与えられていることが認められない限り︑平等原則違反による違憲違法の問題が生ずるといわざる 以上のように違憲状態にあると判断される一九八五年法は︑立法裁量によっても合理化できない︒すなわち︑判決
によれば︑﹁そのような評価を受けない程度に是正する立法上の措置が必要な状態が生じていたと認められるところ︑
その是正措置は︑もとより一義的に定まるものではなく︑上記の不合理な状態を解消するに足りる措置としての複数 の選択肢の中から︑立法者がその裁量に基づいて選択したものを採用すれば足りるものであったというべきである﹂
が︑種々考えられる﹁是正措置はいずれも採用されず︑上記の差別がそのまま放置されたのであるから︑この点にお
︵ 三
五 七
︶
任意加入制の周知徹底義務と憲法三一条 検討されるべき憲法上の問題点である︒
評
第五五巻二号
釈
︵ 三
五 八
︶
いて︑同法自体は憲法に違反するものであり︑立法不作為の違法が存在したものというべきである﹂︒
問題の所在
( 4 )
学生無年金障害者は全国でおよそ四
000
人存在するといわれている︒本判決は︑二0
一年七月五日︑全国九カ
0
所でいっせいに提起された学生無年金障害者訴訟の初の判決である︒
ニにみたように︑論点は多岐にわたるが︑ここでは︑二印の論点を除き︑憲法上の論点に限ってみておくことにす
( 5 )
る︒すなわち︑手続面において︑被告が国民年金の任意加入制を学生に周知させることが憲法三一条の要請ではな
かったのか︑実体面においては︑学生無年金障害者が生じるような国民年金法の憲法︱四条・ニ五条違反性の有無︑
またそのような国民年金法の規定を放置していたことがいわゆる立法の不作為に当たらないか︑といった点がここで
2
学生の任意加入制の周知徹底義務に関する本件判決の判断は︑要するに︑そもそも﹁法の不知は許さず﹂なのであるから︑社会保障立法に関する不知はなおさら救済に値しないというものである︒判決は︑さらに毎年一定の広報活
動が行われていたことをもって︑その判断を補強している︒
たしかに︑判決のいうように︑法律の規定は︑原則として︑それが施行されれば特段の周知徹底手続を要すること 関法
四八
国民年金法による学生差別の違憲性
加入制度の機能不全を認定している
四九
一般論としてはそのとおりであるといわざるをえないであろう︒
問題は︑本件のようなケースに一般論が妥当するかということである︒第一に︑本件の場合︑任意加入制度を知ら ずに学生無年金障害者となった場合の不利益の重大性を視野に入れなくてもよいのであろうか︒その点を考量に入れ るならば︑せいぜい法律の内容が国民の権利を制限するものでへあるか否かを決め手にするにすぎない一般論の次元に とどまるのは不当であるといえよう︒第二に︑毎年一定の広報活動が行われていたと評価する点も︑判決自身が任意
︵二⑱︶ことと矛盾する︒任意加入者が一パーセント程度であるということは︑
広報活動がアリバイ的なものにとどまっていたことを意味すると解すべきともいえる︒
学生が強制適用の対象から除外され︑被保険者となるためには任意加入しなければならないということを学生に対 する不利益処分として被告に周知徹底義務があるとすることは︑たしかに若干苦しい解釈であろう︒しかし︑本件の ような社会保障立法に関しては︑裁判所が立法裁量を広く認め違憲審査を回避しがちであり︑その理由の一っとされ るのが︑この種の立法が高度の専門性を有することである︒そのように裁判所も敬遠するような専門性の高い法律の 定めを一般国民が当然正確に知っておくべきとするのは酷といってよいであろう︒社会保障立法は少数の社会的弱者 のための法律であるということからも︑同様の指摘ができよう︒そして知らないことによるリスクの大きさは計り知
れない︒そうであるとすれば︑ここでは︑
(6 )
る原告の主張は︑重要な問題提起である︒
一般論は排斥されるべきであるといえる︒いずれにしても︑この点に関す
なく適用されることになると解すべきである︒
︵ 三
五 九
︶
〔 4 〕
︳九八五年法の違憲性
第 五 五 巻 二 号
障害者の年金受給権と憲法二五条
障害者に年金による所得保障を行うことが憲法二五条の要請であるとする原告主張に関する判決の判断は︑判決自 身も引用しているのであるが︑いわゆる食管法違反事件最高裁判決以来の判例法理を踏襲するものといえる︒すなわ ち︑﹁健康で文化的な最低限度の生活﹂が抽象的・相対的であることを理由にその具体的内容の決定が広範な立法裁 量に委ねられているとし︑障害者の所得保障それ自体は二五条の要請とする﹁余地はある﹂にしても︑具体的方策は 憲法二五条プログラム規定説には周知のように学説上批判があるが︑このような法的構成に基づくなら︑障害者の
所得保障の方法が年金以外にないとはいえない以上︑﹁このような年金制度を設けたこと自体が憲法二五条に違反す
るということはできない﹂のは︑当然の結論といえる︒
ただし︑注意すべきなのは︑本判決がここで判断したのは︑あくまでも﹁このような年金制度を設けたこと自体﹂
であって︑制度の内容をまるごと合憲と判断しているわけではないということである︒
一九五九年法および一九七六年以前の立法不作為および一九八五年法の憲法︱四条および二五条違反をいう原告の 主張に対して︑本判決は︑それぞれの合理性の有無を検証し︑判断している︒
その憲法判断の方法に関して注目されるのは︑国民年金制度の設置じたいを立法裁量の範囲内とし︑合理的と判断
したにもかかわらず︑国民年金制度の内容に関しては︑単なる合理性の基準ではなく︑事実上︑厳格な合理性の基準 立法府の判断に委ねられていると解するのである︒
〔
3
〕関法
五〇
︵ 三
六
O )
国 民
年 金
法 に
よ る
学 生
差 別
の 違
憲 性
五
︵三
六一
︶
が適用されているようにみえる点である︒判決は︑文言上﹁合理性﹂の有無を問題にしているにすぎず︑その合理性 の意味を明らかにはしていない︒しかし︑実際には︑判決は︑被告国の主張を厳密に検証している︒
一九五九年法が学生を国民年金法の強制適用の対象から外したことについて国が行った原告主張に対する反論の三
︵二④①︶︒また一九五九年法が傷害福祉年金の受給資格に関して二
0
歳以
上の学生を二
0歳未満で傷害を負った者と差別したことについて︑判決は︑﹁立法者思想﹂の射程を自ら明らかにし︑
当該差別を疑わしいものと判断する︒さらにこの点に関しては︑被告の﹁学生
11
エリート﹂論を判決は検証し︑それ 一九五九年法を合憲と判断するが︑その根拠は︑社会通念と学生の被る不利
益の小さいことである︒判決は︑大学生は恵まれたエリートであるという当時の社会通念が事実を反映していないこ とを明らかにしたうえで︑大学の大衆化か今日ほど進んでいなかったことを理由に誤解も仕方なかったとし︑そのよ うな誤った社会通念を前提にした制度設計も不合理とは断定できないとする︒この判断には︑いくつか問題点が指摘 できる︒第一に︑社会通念が誤っていたことにはもっともともいえそうな理由があるにしても︑だからといって立法 府が誤った社会通念を前提にしたことが正当化できるわけではないであろう︒この点に論理の飛躍がある︒第二に︑
第一の点とかかわるが︑社会通念のこのような誤りは︑立法府だからこそ知りうるし︑知らなければならないことで あったといえるのではないか︒立法府の不知ないし怠慢をこのように安易に免責してよいのであろうか︒
このような問題点はあるにしても︑判決が一九五九年法の背景にある社会通念を検討したこと自体は︑注目に値し︑
(8 )
また積極的に評価すべきであろう︒チャタレイ事件の最高裁大法廷判決によれば︑社会通念とは﹁個々人の認識の集
それにもかかわらず︑結局︑判決は︑ が事実に反することまで論証する︒ つの理由のうち二つは︑退けられている
関しては︑大学進学率の上昇という明白な事実を挙げて︑同法の憲法︱四条違反がもはやいわば救いようのない状態 本件のように社会権の差別が争点となる場合︑憲法判断の方法としては︑①憲法二五条プログラム規定説の立場
から社会経済立法に関する広範な立法裁量を認め︑生存権の平等保障の違憲審査基準としては︑単なる合理性の基準 を適用すべきとする方法︑②社会経済立法に関する立法裁量を否定しないが︑人間の尊厳に直接かかわる生存権の 重要性をふまえる立場から︑その平等保障に関して実質的平等を重視し︑厳格な合理性の基準を適用すべきとする方
( 1 0 )
︵1 1
)
法︑の二通りが考えられる︒判例は①の方法をとっているが︑下級審判決には②をとったものもみられる︒本件判決 は︑明言しているわけではないが︑事実上︑②の方法をとったといえよう︒①の方法は︑社会経済立法の平等原則違
反をきわめて例外的な場合に限定することになり︑﹁人間の尊厳性を確保するために現代福祉国家においてとくに要 にあると判断したのである︒ を
暴 き
︑
真正面から検討した︒判決は︑ それは反個人主義的に機能することになる︒裁判所がこのような社会通念を無批判に法の解釈に取り入れると︑﹁﹃社 意味で裁判規範として用いられる場合︑﹁個々人がこれに反する認識をもつことによって否定するものでない﹂以上︑ のでない﹂というもので︑その内容の判断は裁判官に委ねられることになっている︒このような社会通念が何らかの 合又はその平均値でなく︑これを超えた集団意識であり︑個々人がこれに反する認識をもつことによって否定するも
(9 )
会通念﹄に骨がらみ拘束された日本﹂において軽視されがちな少数者の人権は︑救済の場を失うことになる︒本件判 決は︑本来取り扱いに注意を要するにもかかわらず十分に吟味しないまま使われがちであった﹁社会通念﹂をいわば
一九八五年法が学生について障害を理由とする年金の受給がより容易になるような制度を設けなかった点に
関法第 五 五 巻 二 号
一九五九年法に関しては︑結果的に同法を救ったが︑問題となった社会通念の虚偽性
五
︵ 三
六 二
︶