【査読論文】
自律型殺傷兵器(LAWS)開発禁止に求められる 安全保障のアプローチ
─ 人間の安全保障と国家安全保障の観点から ─
Security Approach to Prohibit Lethal Autonomous Weapon Systems (LAWS) from the Perspective of Human and National Securities
佐藤 仁
SATO Hitoshi
[要旨]
AI(人工知能)技術は軍事分野において活用が進められており、「キラーロボッ ト」とも称される自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapons Systems:
LAWS)が開発され使用されうる。そのようなLAWSに対して国際NGOは、
人間の判断を介さないで共感など人間性の本質が欠如した機械が判断して標 的に攻撃を行い、人間を殺傷することが非倫理的、非道徳的であると問題意識 を持っておりLAWS開発と使用に懸念を抱いて開発禁止を訴えている。また LAWS開発禁止を訴えているNGOはLAWSがジェンダーや特定の民族を標的 にして攻撃し殺傷する恐れがあると危惧している。本論ではLAWS開発の禁止 に向けた動向を整理したうえで、LAWS開発禁止と人間の安全保障の架橋とな る概念を提示し、LAWS開発と使用禁止に向けて安全保障の観点からどのよう なアプローチが必要なのかを明示する。
キーワード:自律型殺傷兵器、LAWS、人間の安全保障、NGO、ジェンダー
はじめに
人工知能(AI)の発展によって、AIを軍事分野で活用しようとする動きが進めら れている。AIを搭載した兵器が人間の判断を介さないで標的や人物を攻撃する「キ ラーロボット」とも称される自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapon Systems:
LAWS)が開発され実戦で使用されることに国際NGOが懸念を表明し、開発反対を訴 えている。なおLAWS開発には国連事務総長やAI技術者らも反対を表明しているが、
本稿ではNGOに射程を限定して論じる。
*立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科博士課程後期課程
AIは軍事分野でも導入されようとしている。アメリカの国防総省は2018年に「ジョ イントAIセンター(Joint AI Center:JAIC)」を創設し、AIの軍事での活用を推進し ようとしており、2020年7月には同センターの副所長のナンド・ムルチャンダニ氏は
「初の致死的なAIの活用は現在、テストフェーズであり、今後の軍事活動での中心と なる。但し人間によって完全なコントールを行う」と述べている(1)。さらに米国防総 省が2020年5月に発行した「米国防総省の5G戦略」においても、5G回線の特徴で ある低遅延機能が次世代の無人兵器や自律型兵器を実現することができると明言し、
軍事分野でのAI活用と自律型兵器登場の可能性を示している(2)。実戦で利用されてい ないとされるLAWSだが国連の人権理事会の特別報告者のアニエス・カラマール氏は 2020年7月に「100か国以上の軍隊で軍事ドローンは導入されており、そのうち3分 の1以上が自律型殺傷兵器を所有していると考えられる」と述べていた(3)。
本論では、人間の判断を介さないで共感など人間性の本質が欠如した機械が標的を 攻撃してくることが非倫理的、非道徳的であると国際NGOは問題意識を持っており、
開発の禁止を主張しているLAWSについて、国際社会を形成する人間と国家の安全保 障の観点からどのようなアプローチが求められるのかを論じていきたい。
第1節では、LAWSの開発を反対している国際NGOの主張と動向を整理する。第2 節では、LAWS開発禁止の動向と人間の安全保障を架橋する概念を提起してみる。女 性や特定民族を標的にしたLAWSによる攻撃を国際NGOは懸念しており、LAWSと 人間の安全保障は密接な関係にあるといえる。だが、LAWSは兵器であり人間の安全 保障だけでなく従来の国家の安全保障の観点からも対応策を検討する必要がある。第 3節では、兵器であるLAWSを国家の安全保障の観点からLAWS開発と使用禁止に向 けてどのようなアプローチが必要なのかを検討する。
1.LAWS 開発禁止をめぐる状況
第1節 で は、LAWS開 発 反 対 を め ぐ る 議 論 を 整 理 す る。 現 在、Human Rights watch(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)、56か国の113のNGOの連合体であるThe Campaign To Stop Killer Robots(ストップ・キラーロボット・キャンペーン)を中心 に、人間の判断を介さないで人間性が欠如した機械が人間を殺傷することが非倫理的 であるという理由から国際人道法(例えばジュネーブ諸条約AP–I第36条「新たな兵 器」(4)など)によるLAWSの開発禁止を訴えている。ヒューマン・ライツ・ウォッチ は国際人道法でLAWS開発禁止するにあたって、武力行使においては人間による有意 義なコントロールが行われるという一般的な義務(General Obligation)、人間の判断 と関与なしに標的の選定と攻撃を行う兵器の開発の禁止(Prohibition)、標的の選定と 攻撃にあたっては人間の関与と判断が保持される条件を設ける積極的義務(Positive Obligation)の3つが必要であると掲げ、2019年11月に開催された特定通常兵器使用 禁止制限条約(CCW)締約国会議で発表している(5)。また人間によるコントロール
(Human Control)について、ストップ・キラーロボット・キャンペーンは3つの要素 をあげている(6)。1つは意思決定の要素(Decision Making component)で、兵器使用 にあたって法的、倫理的な根拠があると人間が判断するにあたって情報収集ができる
こと、またその兵器を運用する人間が、兵器による攻撃でどのような影響をもたらす のかを十分に理解していること。2つ目は技術的要素(Technological component)で、
有意義な人間の関与を強化するための機能が兵器システムに搭載されていること。3 つ目が運用的要素(Operational component)で、兵器使用にあたっては運用の時間、
運用する場所、攻撃する標的に制限を設けることによって有意義な人間によるコント ロールが行われることをあげている。LAWSについては毎年、特定通常兵器使用禁止 制限条約(CCW)の枠組で政府専門家会合(GGE)が開催され議論されている。そし て2018年のGGEにおいてLAWSについて10の原則を再確認した(7)。このGGEには 日本を含む約80か国の他、国際機関やNGOが参加している(8)。本原則には法的拘束 力はないものの、LAWSに関する国際社会での「規範」の統一見解と言ってもよいだ ろう。GGEでのLAWSに関する原則においてもLAWS使用において人間の判断が入 ること、開発においても人間による運用と制御・リスク評価と緩和措置、国際法の遵 守を強調している(9)。LAWSに明確な定義はないが、GGEでのこの原則を完全に順守 するとLAWSの開発と運用は禁止されるべきと解釈でき、LAWSが登場してこない平 和が実現されるだろうし、その結果として人間のAIのみの判断で殺害されることはな いだろう。
だが実際には軍事におけるAIの活用と兵器の自律化は進められており、LAWSにな りうる兵器の開発は着手されているといえる。またLAWSに反対している国は30か国 と限定的である(10)。その30か国のほとんどが小国などでアメリカ、ロシア、イスラ エル、インド、韓国や欧州の主要国などAIの軍事化を進めている国は入っていない。
また中国もLAWSの使用反対は訴えているが、開発については反対していない。また、
LAWSの開発や使用に対しては法的拘束力も罰則も一切ない。
2.人間の安全保障から見る LAWS
第2節ではLAWS開発禁止の動向と人間の安全保障を架橋する概念を提起してみた い。従来、国際政治学において安全保障の主体は、国家と想定されてきたが冷戦終結 後の1990年代後半から人間の安全保障という概念が注目されるようになってきた。国 家の安全保障がかえって人間の不安全を生み出しているということから1990年代半 ばから人間の安全保障という概念が生まれてきた(11)。人間の安全保障は1994年に UNDPの「人間開発報告書」での提起から登場した。従来の国家の領土や国益を守る 安全保障から、病気、犯罪、政治的弾圧、環境破壊などの脅威から人間を重視した安 全保障を目指し、人間の安全保障では恐怖からの自由と欠乏からの自由という2つの 要素がある。
赤十字国際委員会(International Committee of the Red Cross)は、人が殺されたり 傷つけられることが問題なのではなく、どのように殺されたり傷つけられるかが問題 であり、人間の判断を介さないで殺傷されることが人間の尊厳を無視しており非倫理 的であることからLAWSを禁止すべきだと主張している(12)。ヒューマン・ライツ・
ウォッチは2014年に、例えば、暴力的な独裁者が抵抗する人たちを抑圧、殺害する ために自律型兵器は有効であるだろうと述べ、抑圧される人々がそのような自律型兵
器の標的にされて、彼らの人間の安全保障が脅かされる可能性があると指摘している。
そして完全な自律型兵器は、人間個人の生命やその重要性を理解することができない ため、人間の尊厳を尊重しないで人々を殺害することができるだろうから、自律型兵 器が判断して人を殺害することを許容することは、人間の尊厳の原理との争いとなり うると述べている(13)。ストップ・キラーロボット・キャンペーンは、LAWSが顔認識 機能や音声認識機能で女性だけを認識して、彼らを標的にして攻撃を行う可能性もあ りうるという例をあげてジェンダーの観点からもLAWS開発の禁止を訴えている(14)。 同団体ではLAWSの顔認識や音声認識では女性だけでなく特定の肌の色の人種、障害 者を認識して攻撃を行うことも危惧している。また婦人国際平和自由連盟(Women’s International League for Peace and Freedom)ではロボットでもプログラムされれば レイプするし、人間の兵士と違って躊躇せずにレイプを行うことも危惧している。ま た同団体ではジェンダーの観点からだけでなく、特定の民族を差別した偏見に満ちた プログラムがされたLAWSがその民族を標的にして攻撃をしてくることも懸念してい る(15)。LAWSが実用化されて女性や特定民族が標的にされるようになると人間の安全 保障での恐怖からの自由を脅かすものになりうる。このようにLAWS開発禁止の動向 と人間の安全保障は密接な関係にあるといえる。
人間の安全保障であれ、従来の国家の安全保障であれ、安全保障問題は、最初に 誰の何からの安全かを限定しなくてはならない。土山は「安全保障とは、人間集団
(特に国家)が獲得した価値を奪おうとするもの(脅威)から守ること」と述べてい る(16)。つまり、安全保障はそれらを脅かすもの、破壊するものから自由であることを 意味する。人間の安全保障について加藤は国家の保護をうけることもできない被抑圧 社会の人々の安全を保障する唯一の方法が人間の安全保障であり、その重要性はとて も大きいが、人間の安全保障の最大の問題として、誰が人々の安全を守れるのか、ま た人間の安全保障の主体は誰か、つまり国連なのか、国家、NGO、個人、それともそ の全てなのか、という問題が解決していないことだと指摘している。そして主体が必 ずしも明確でないため、主体が国家の場合もあり、人間の安全保障が国家による安全 保障となり、時に国家安全保障と人間の安全保障との間で齟齬をきたしたり、または 主体が個人や企業の場合もあり、その際は人間の安全保障が私的暴力の正当化に悪用 される恐れもあると述べている(17)。加藤は人間の安全保障の最大の問題は、誰が人々 の安全を守れるのか、人間の安全保障の主体は誰か、という問題が解決していないこ とであると問題提起している(18)。このことはLAWSにおける人間の安全保障において もあてはまる。LAWSにおける人間の安全保障も「誰が人々の安全を守れるのか」、ま た「人間の安全保障の主体は誰か」という問題は解決されていない。NGOは人間の判 断を介さないで、兵器に搭載されたAIが判断して標的や敵の人間を殺傷させることが 非倫理的であり、殺傷される側の人間の尊厳に関わるということでLAWS開発の禁止 を訴えている。だが「誰が人々の安全を守れるのか」という問題について、LAWSに 搭載されたAIは敵を殺傷するためにプログラムされているからそのAI自身に人々の 安全を守ることはできないであろう。さらに、AIが判断したLAWSによる攻撃で人々 を殺傷から守ってくれる主体は誰なのかも不明である。つまり、LAWSの攻撃から人 間の安全を保障してくれる主体は国連のような国際機関でもなく、国家や軍隊、さら
にLAWS開発禁止を訴えているNGOでもない。CCWのGGEでは、LAWSの原則と して「兵器の使用に関する人間の判断と責任が入ること。兵器や機械には責任を転換 しないこと」と、「人間による兵器の運用と制御が入るという条件で、国際法に則って、
新たな兵器システムの開発と運用に責任を持つこと」とあるので、人間がLAWSの開 発と使用に対しては責任を持つことは明らかだが、もしLAWSが使用されて、誤爆な どによって一般市民が殺傷した際の責任はLAWSを開発したメーカーにあるのか、使 用した軍や政府にあるのかは明らかになっていない。AIを搭載した自動運転車や医療 機器など民生品でも事故が起きた際の責任は誰にあるのかという問題は決着しておら ず、しばらく時間がかかるだろう。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、LAWSは人間 にとって大きな脅威として幅広く認識されており、気候変動と同じように緊急にマル チラテラル(多角的)な行動が必要だと指摘している(19)。世界中のほとんど誰もが脅 威の客体になりうる気候変動は、人間の安全保障にもかかわる安全保障問題の1つと して位置づけられており、国やNGO、民間企業が気候変動対策に向けた多角的な取組 を行っている(20)。LAWS開発禁止に向けても国家やNGOだけでなく軍事メーカーや AI開発者など関係するアクターを巻き込んだ多角的な検討と行動が求められるだろう。
人間の安全保障では、人々が恐怖と欠乏から解放され、生存・生活・尊厳に対する 広範かつ深刻な脅威から人々の生命と生活を守っていき、尊厳ある生命を全うできる ような社会づくりを目的としている。だが、AIによる判断でLAWSに殺傷されること も、人間の判断によって通常兵器で殺傷されることも、標的とされる人間にとって脅 威や恐怖としては同じであろう。LAWS開発禁止を訴える際に、独裁者による抵抗者 への攻撃や特定のジェンダーや民族を標的にして攻撃を行うこと可能性をあげている が、LAWSを使用しなくとも、独裁者が抵抗する者を通常兵器で攻撃したり、特定の ジェンダーや民族が人間の判断によって使用される通常兵器の攻撃の標的になること は現在でもありうるし、将来にわたってもあるだろう。人間の判断を介さないで、人 を殺傷することが人間の尊厳を奪うので非倫理的であるという主張もあるが、実際に は人間の判断によって、特定のジェンダーや民族を殺傷することも人間の尊厳を奪っ ているだろうから、LAWSの使用は他の通常兵器と同様に手段にすぎない。但し特定 のジェンダーや民族、抵抗者を検知して居場所などを特定するのはAIを搭載した兵器 の方が、人間が彼らを探し出して、攻撃を判断するよりも迅速で正確であろうから、
その分は通常兵器よりは人間の安全保障が脅かされているといえる。人間の安全保障 という概念が登場した当初から小渕恵三元首相は、人間の安全保障におけるNGOな ど市民社会(シビル・ソサイエティー)の役割が重要であると述べていた(21)。これは LAWSにおいてもあてはまる。現在、ヒューマン・ライツ・ウォッチやストップ・キ ラーロボット・キャンペーンなど国際NGOが積極的にLAWS開発や使用の禁止を人 間の尊厳重視の観点から訴えているが、今後もこのようなNGOのアドボカシー活動 は重要になるであろう。
3.LAWS開発と使用禁止に求められる安全保障
前節ではLAWS開発禁止動向を人間の安全保障の観点から見てきたが、本節では
LAWSという新たな兵器に対して、国家の安全保障の観点からLAWS開発禁止と使用 に対してどのようなアプローチが必要なのかを検討してみたい。
吉川は核兵器廃絶を例にして国際平和と人間の安全保障とが両立する安全保障共同 体を構築することこそ軍備廃絶の唯一の道であり、その道標を示すことが最大の課題 であると主張している(22)。核兵器の軍縮に向けても冷戦期と冷戦後の米ソ(米ロ)の 戦略的安定性を基盤とした軍備管理アプローチと、核兵器使用の非人道性を訴えた人 道的アプローチが採られ、後者はカナダやノルウェーといった中堅国家と国際NGO が主導し、彼らは「人間の安全保障」の観点から訴え、伝統的な「国家の安全保障」
の観点からの議論ではなかった。そして核兵器使用の結果は、地球上の人類の全滅を 招く恐れもあるほど壊滅的なため、核兵器は人類と共存できないので、段階的なアプ ローチによる核兵器の削減ではなく、核兵器の廃絶を強調していた。そして、このよ うな考えは、核兵器禁止条約および核兵器廃絶の基盤としてきわめて有益であり有用 であったと黒澤は指摘している(23)。核兵器については1955年に作成された「ラッセ ル・アインシュタイン宣言」では、冒頭から「人類が直面している悲劇的な情勢の中、
科学者による会議を召集し、大量破壊兵器開発によってどれほどの危機に陥るのかを 予測し、この草案の精神において決議を討議すべきであると私たちは感じている」と いう文章で始まり、水爆使用が人類に絶滅をもたらすのか、それとも人類が戦争を放 棄するのかと「人類」という言葉を用いて核兵器(水爆)の使用禁止を訴えている。
また同宣言の中では、戦争を廃絶することは国家主権に不快な制限を要求するため難 しいであろうと述べている。そして自分自身や子孫に対して水爆の危険が存在してい るのだが、人々は「人類」という言葉が漠然として抽象的であるため水爆の危険に対 する理解を妨げていることと、自分と愛する者たちが、苦しみながら死滅しようとす る切迫した危険状態に陥る脅威をはっきりと心に描けてないので、近代兵器が禁止さ れるなら、戦争は続けても構わないと思っているのだと述べている(24)。これはLAWS の開発禁止についても同じことが言えるだろう。「ラッセル・アインシュタイン宣言」
が発出された1955年に一般の人々には水爆による人類への影響と脅威が理解できな かったかもしれないが、広島と長崎には1945年に原爆が投下されていたことから、原 爆の脅威は理解できていただろう。だが、LAWSはまだ実戦で使用されていないため、
人類に対してどのような脅威があるのかは当時の水爆以上に理解しにくいかもしれな い。
LAWSは実戦ではまだ使用されていないが、軍事分野でのAI技術の活用を含めて LAWS開発を進めている国家と、LAWS開発と使用の禁止を訴えている国家と国際 NGOに分かれる。AI技術の開発力がある米中やロシア、イスラエル、韓国、イギリ スやフランスなどはLAWS開発禁止を認めていない。なお中国は使用のみの反対を主 張しており開発については反対していない(25)。本来であれば、国連のような国際組織 が主導して、LAWS開発と使用の禁止に向けた枠組みが構築されることが理想であろ うが、現在LAWSの議論に参加している約100か国それぞれLAWSに対する姿勢が異 なることから容易ではないだろう。対人地雷やクラスター弾のように中堅国家と国際 NGOが協力しながらLAWS開発と使用の禁止に向けた規範作りも重要になってくる だろうが、現時点では具体的にどこかの国が主導して積極的にLAWS開発禁止を取り
組んでいこうとする様子は見られていない。LAWSは兵器としての明確な定義がない ため、殺傷能力のある小型ドローンなどの兵器にAIを搭載すればLAWSになりうるの で、核兵器のように開発の難易度は高くない。そのため、LAWSの開発と使用の禁止 を主張している30か国(中国含む)も、反対を主張しているが法的拘束力がないため、
いつLAWSの開発を行い使用するかわからない。LAWSの開発に至らなくとも、新た な技術であるAIの軍事分野での活用はRMA(Revolution in Military Affairs:軍事の革 命)においては必然であり、AIの軍事での利用を規制したり禁止することはできない。
そのため、LAWSにおいても核軍縮のように国家の安全保障の観点での軍備管理アプ ローチと人間の安全保障の観点での人道的アプローチを併用しながら、LAWSが開発 されても使用されないように予防的な対応が求められるだろう。
4.おわりに
本論では、LAWS開発と使用禁止に向けて安全保障の観点からどのようなアプロー チがあるのかを検討した。国際NGOがジェンダーや特定の民族を標的にしてLAWS による攻撃が行われることを懸念してLAWS開発禁止を訴えており、LAWSが開発さ れ使用されることは人間の安全保障とも密接に関係している。だが人間の判断を介さ ないでAIが判断して標的を攻撃してくるLAWSは「誰が人々の安全を守れるのか」と いう観点で不明である。そのため、核軍縮のように国家の安全保障の観点での軍備管 理アプローチと人間の安全保障の観点での人道的アプローチを併用しながら、LAWS が開発されても使用されないように予防的な対応が求められるといえる。国連のよう な国際組織が主導して、LAWS開発と使用の禁止に向けた枠組みが構築したり、対人 地雷やクラスター弾のように中堅国家と国際NGOが協力しながらLAWS開発と使用 の禁止に向けた規範を作っていくことが理想だろうが、現時点では具体的な取組みは 行われていない。そのため、今後も国際NGOが積極的にLAWS開発や使用の禁止を 人間の安全保障や人間の尊厳重視の観点から訴えていくアドボカシー活動は重要にな るだろう。
■註
(1) Department of Defense(2020) Where it Counts, U.S. Leads in Artificial Intelligence https://www.defense.gov/Explore/News/Article/Article/2269200/where-it-counts-us- leads-in-artificial-intelligence/ (2020年9月5日最終閲覧)
(2) Department of Defense (2020) Department of Defense (DoD) 5G Strategy p.1
https://www.cto.mil/wp-content/uploads/2020/05/DoD_5G_Strategy_May_2020.pdf (2020 年9月5日最終閲覧)
(3) UN News(2020) All drone strikes ʻin self–defence’ should go before Security Council, argues independent rights expert
https://news.un.org/en/story/2020/07/1068041 (2020年9月5日最終閲覧)
(4) 36条では「新兵器、新戦闘手段もしくは新戦闘方法の研究、開発、取得又は採用にあたっ ては、締約国はその使用が一定の状況または全ての状況においてこの議定書の諸規定又は 当該締約国に適用されうる他の国際法規則により禁止されるかどうかを決定する義務を負
う」と定めている。
(5) Human Rights Watch(2020) The Need for and Elements of a New Treaty on Fully Autonomous Weapons pp.8–9
https://www.hr w.org/sites/default/files/media_2020/06/202006arms_rio_autonomous_
weapons_systems_2.pdf (2020年9月5日最終閲覧)
(6) The Campaign To Stop Killer Robots(2019) KEY ELEMENTS OF A TREATY on fully autonomous weapons pp.2–3
https://www.stopkillerrobots.org/wp-content/uploads/2020/03/Key-Elements-of-a-Treaty- on-Fully-Autonomous-Weapons.pdf (2020年9月5日最終閲覧)
(7) CCW/GGE.1/2018/3(2018) Group of Governmental Experts of the High Contracting Par ties to the Convention on Prohibitions or Restrictions on the Use of Cer tain Conventional Weapons Which May Be Deemed to Be Excessively Injurious or to Have Indiscriminate Effects
https://www.unog.ch/80256EDD006B8954/(httpAssets)/20092911F6495FA7C125830E003 F9A5B/$file/CCW_GGE.1_2018_3_final.pdf (2020年9月5日最終閲覧)
(8)外務省(2018)「特定通常兵器使用禁止制限条約 自律型致死兵器システムに関する政府専 門家会合の開催」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_005920.html
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_006392.html (2020年9月5日最終 閲覧)
(9) LAWSに関する国際法からの議論は、福井康人「軍縮分野の規範形成」(広島市立大学広島
平和研究所監修、吉川元・水本和美編『なぜ核はなくならないのかⅡ:「核なき世界」への 視座と展望』法律文化社、2016年)に詳しい。
(10) LAWSの禁止を求めているのは次の30か国。アルジェリア、アルゼンチン、オーストリ
ア、ボリビア、ブラジル、チリ、中国(使用のみ)、コロンビア、コスタリカ、キューバ、
ジブチ、エクアドル、エルサルバドル、エジプト、ガーナ、グアテマラ、バチカン市国、
イラク、ヨルダン、メキシコ、モロッコ、ナミビア、ニカラグア、パキスタン、パナマ、
ペルー、パレスチナ、ウガンダ、ベネズエラ、ジンバブエ
(11) 武者小路公秀『人間安全保障序説:グローバル・ファシズムに抗して』国際書院、2003年、
p.117
(12) International Committee of the Red Cross (ICRC)(2018) Ethics and autonomous weapon systems: An ethical basis for human control? pp.10–11
(13) Human Rights Watch(2014) Shaking the Foundations: The Human Rights Implications of Killer Robots
https://www.hrw.org/report/2014/05/12/shaking-foundations/human-rights-implications- killer-robots (2020年9月5日最終閲覧)
(14) The Campaign To Stop Killer Robots, Gender and Killer Robots
https://www.stopkillerrobots.org/gender-and-killer-robots/ (2020年9月5日最終閲覧)
(15) Women’s International League for Peace and Freedom(2018) Statement to the 2018 CCW Group of Governmental Experts on lethal autonomous weapon systems:29 August 2018:
The way ahead
https://reachingcriticalwill.org/images/documents/Disarmament-fora/ccw/2018/gge/
statements/29August_WILPF.pdf
https://www.reachingcriticalwill.org/images/documents/Publications/wilpf-guide-aws.pdf
(2020年9月5日最終閲覧)
(16) 土山実男『安全保障の国際政治学』有斐閣、2004年、p.82
(17) 加藤朗『戦争の読み方:グローバル・テロと帝国の時代』春風社、2008年、pp.251–252
(18) 加藤朗『戦争の読み方:グローバル・テロと帝国の時代』春風社、2008年、pp.251–252
(19) Human Rights Watch(2020) Stopping Killer Robots Country Positions on Banning Fully Autonomous Weapons and Retaining Human Control
https://www.hr w.org/repor t/2020/08/10/stopping-killer-robots/countr y-positions- banning-fully-autonomous-weapons-and#_ftn2 (2020年9月5日最終閲覧)
(20) 環境省「気候安全保障(Climate Security)に関する報告」(平成19年5月)
http://www.env.go.jp/earth/report/h19-01/full.pdf (2020年9月5日最終閲覧)(p.21)
(21) 外務省(1999年)「小渕総理大臣演説 国際連合大学・(財)日本国際問題研究所共催
(財)日本国際問題研究所創立40周年記念シンポジウム 小渕内閣総理大臣基調講演「人 間の安全保障を求めて」」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/11/eos_1211.html (2020年9月5日最終閲 覧)
(22) 吉川元「武器の進化と国際平和」(吉川元・水元和美編、広島市立大学広島平和研究所監
修『なぜ核はなくならないのかⅡ:「核なき世界」への視座と展望』法律文化社、2016年)
pp.29–30
(23) 黒澤満『核兵器のない世界へ:理想への現実的アプローチ』東信堂、2014年、pp.194–195
(24) 日本パグウォッシュ会議「ラッセル・アインシュタイン宣言(1955)」
https://www.pugwashjapan.jp/russell-einstein-manifesto (2020年9月5日最終閲覧)
(25) Human Rights Watch(2020) Stopping Killer Robots Country Positions on Banning Fully Autonomous Weapons and Retaining Human Control
Human Rights Watchは2020年8月に97か国の2013年からのLAWSに関する動向をま とめたレポートを発出している。
https://www.hr w.org/repor t/2020/08/10/stopping-killer-robots/countr y-positions- banning-fully-autonomous-weapons-and (2020年9月5日最終閲覧)
■参考文献
黒澤満編著『国際共生と広義の安全保障』東信堂、2017年 土山実男『安全保障の国際政治学』有斐閣、2004年
武者小路公秀『人間安全保障序説:グローバル・ファシズムに抗して』国際書院、2003年 福井康人「軍縮分野の規範形成」(広島市立大学広島平和研究所監修、吉川元・水本和美編『な
ぜ核はなくならないのかⅡ:「核なき世界」への視座と展望』法律文化社、2016年)
藤田久一『新版 国際人道法:再増補』有信堂、1992年
メアリー・カルドー著、山本武彦・宮脇昇・野崎孝彦訳『「人間の安全保障」論:グローバル化 と介入に関する考察』法政大学出版局、2011年
International Committee of the Red Cross (ICRC) Ethics and autonomous weapon systems: An ethical basis for human control? 2018