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中学校数学科教育において教材の価値を生かした指導

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Academic year: 2021

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(1)

1 はじめに

 「なぜ数学を学ぶのか」多くの生徒が潜在的に感じている疑問である。筆者は中学校で 数学の授業を行っていた時,最初の授業で,まず生徒に「どうして数学を勉強するの?」

と問いかけてきた。「計算ができるため」「入試にあるから」など様々であったが,押し黙っ てしまうことも少なくない。筆者が生徒に言っていたのは「考える力をつけるため」であ る。

 国内外の調査などから,日本の子供たちについては,判断の根拠や理由を示しながら自 分の考えを述べることについて課題があることが指摘されている。数学の授業の様子を参 観していても自己解決をする場面で,思考を働かせることなく教師の次の言葉(解答)を 待っている生徒の姿をよく見受ける。教師の問いに主体的に向き合い思考を深めることや 生徒がその問を自らの問いとすることを期待するのだか,なかなかそうはいかない。考え ることとともに,主体的に考えようとすることを育む指導が求められる。

 予測困難といわれるこれからの時代に子供たちがたくましく生きていくために,課題を 発見すること,その課題に対して思考をめぐらし協働的に解決していくこと,さらにこう いう取組を通して数学的な資質・能力を育むことが求められている。本稿では第 2 学年図 形領域の「平行四辺形になるための条件」の学習において,教材の持つ数学的価値を生か した授業を工夫し,生徒が数学的な活動を通して課題に気づき,思考を働かせ課題解決す る授業のあり方についてICTを活用し,アクティブ・ラーニングの視点にたち考察する。

中学校数学科教育において教材の価値を生かした指導

─ ICT 活用とアクティブ・ラーニングの視点を通して ─

安藤 秀朗

(2)

2「平行四辺形になるための条件」の持つ数学的価値

(1)第 2 学年図形学習の目的

 学習指導要領では,第 2 学年の目標において,図形領域に関することとして

・・・(2)・・・数学的な推論の過程に着目し,図形の性質や関係を論理的に考察し 表現する力,・・・を養う。(3)数学的活動の楽しさや数学のよさを実感して粘り強く 考え,数学を生活や学習に生かそうとする態度,問題解決の過程を振り返って評価・

改善しようとする態度,多様な考えを認め,よりよく問題解決しようとする態度を養 う。(1)とある。

 「B 図形」では,育成する資質・能力の思考力,判断力,表現力等について,(1)基本 的な平面図形の性質,(2)図形の合同について,それぞれ次のようにある。いずれも数学 的活動を通して,次の事項を身に付けることができるように指導する,とある。

(1)イ(ア)基本的な平面図形の性質を見いだし,平行線や角の性質を基にしてそれら を確かめ説明すること。

(2)イ(ア)三角形の合同条件などを基にして三角形や平行四辺形の基本的な性質を論 理的に確かめたり,証明を読んで新たな性質を見いだしたりすること。

(2)イ(イ)三角形や平行四辺形の基本的な性質などを具体的な場面で活用すること。(2)

 また,用語として逆,反例も学習対象となる。

 第 2 学年の図形領域では,平行線の性質や多角形の角に関する性質,三角形の合同や平 行四辺形の性質について学び,それらを根拠として演繹的な論証,すなわち論理的な思考 力を育む学習を行う。演繹的に推論することは小学校でも行っており,その素地となる経 験をしている。中学 1 年では部分的には根拠をもとに演繹的に推論することを経験してい る。そういった学習のもと,中学 2 年では,推論の過程を簡潔・明瞭に表現する力を養う ことや根拠を明らかにし,すべての場合において命題が成り立つことを説明することを学 習し,論理的な思考力を高めることが目標となる。

 この段階で扱う図形は小学校でも扱ってきた平面図形で,補助線を加えるなどにより合 同な三角形や等しい大きさの角,等しい長さの辺が現れるケースが多い図形である。生徒 にとっては新たな性質を発見しやすく,その性質について考察することができ学びの多い 図形である。帰納的な考え方や類推的な考え方,演繹的な考え方を学ぶにも適した教材で

(3)

ある。

(2)「平行四辺形」を教材とした学習の持つ数学的価値

 平行四辺形には,教科書で扱う 3 つの性質(定理)のほかにも,2 本の対角線により向 かい合う三角形が合同になることや,これらの対角線により分割された 4 つの三角形の面 積が等しいことなど,明快で興味深い性質が多く内在している。性質などの根拠をもとに 新しい性質を演繹的に証明する学習には大変有効な図形である。

 また,同じく「平行四辺形になるための条件」の学習も,論理的な思考を育むという点 で大変有効である。平行四辺形に何らかの補助線を加えることで,新たな平行四辺形が作 成されるケースがある。新たな四角形が平行四辺形になることを証明する課題を提示こと はもちろん,さらにどのような補助線により平行四辺形を作成することができるか,とい う課題も提示できる。

 また「平行四辺形になるための条件」を考察する際には,これまでに学んできた数学的 な考え方を活用し,必要な条件を見つけ証明するという課題が提示できる。その際には,

まず考えらえる条件をすべてあげることが必要となる。さらに,決して容易ではない証明 やそもそも証明することができるのか判断しにくい課題にも直面し,証明できない場合の 説明方法なども学ぶことができる。こういった意味で,この課題は演繹的な論証の学習に とって大変に意義のある教材である。なお,教科書ではこの課題に対しては 5 つの条件を 提示しその証明を学習するにとどめている。

 本稿では,この「平行四辺形になるための条件」の数学的な価値を踏まえた授業のあり 方に焦点を当て,ICTを活用しアクティブ・ラーニングの視点にたち考察する。

3「平行四辺形になるための条件」の学習のあり方

(1)教科書の扱い

 現在中学校で行っているこの学習は,平行四辺形の定理としてまとめられた 3 つの性質 に定義と「1 組の対辺が平行でその長さが等しい」場合を加え 5 つを条件として紹介し,

その条件を与えれば「四角形が平行四辺形になる」ことを証明するという展開である。平 行四辺形の性質についての学習後に,その逆について考察するという思考は自然である。

しかし教科書は「どのような四角形が平行四辺形になるか」について検討することはせず,

(4)

5 つの条件を提示しその証明を求める展開となっている。これからの社会は将来が予測し にくい時代ともいわれている。これまでに経験したことがない課題に直面した際,その課 題にどう取り組むか,どのように課題解決の方法を見出すかがこれからの教育に求められ ている。「平行四辺形になるための条件」の学習においては,条件を 5 つ示しそのことを 証明するというだけの学習ではなく,条件を見出すところから課題意識を持ち取り組ませ たい。条件を見出すには何を手がかりにすればよいのか,その手がかりはどれだけあるの か,また,それぞれの場合,平行四辺形になるのかならないのか,といった問をもち「平 行四辺形になるための条件」について,自分の手で全面解決を図るところまで学習したい。

おそらく,教科書は課題の複雑さや解決の困難さから,5 つの条件提示にとどめ,それを 証明するという展開としているものと思われる。しかし,教科書の指導計画にそって学習 を進めるのであれば,生徒には,課題が複雑になることなどを示し,5 つの条件を先に提 示してしまうことを説明する必要がある。本来,論立てて思考することを学ぶ学習におい て,筋道を立てた論理的な思考過程ではない展開となっているのが現状である。

 与えられた「5 つの条件」という課題を証明する学習から,その課題の意味を理解し課 題を整理し,説明のための証明や反例の必要性を認識し,自ら課題の解決に取り組む学習 を計画する主体的で深い学びとなるような授業をデザインすることが必要である。

(2)「平行四辺形になるための条件」の指導の流れ

 「平行四辺形になるための条件」の学習は,論理的な思考力を 育むには大変有効な教材であることから,次のような授業展開が 考えられる。

① 四角形が平行四辺形になるための条件を考える。

② 三角形が二等辺三角形になるための条件について想起する。

③ 平行四辺形の定義と性質を確認する。

④ 手がかりを定義・性質に求め,平行四辺形になるための条件を考える。

⑤ 定義・性質を数学的に表現し,8 条件をあげる。

(例;性質から「四角形ABCDでAB=DCならば四角形ABCDは平行四辺形である」)

⑥ 1 つの条件で平行四辺形と確定できるかを考える。

⑦ 8 条件からどう考えたらよいか検討する。

⑧ 8 条件から複数の条件を組み合わせることにより,平行四辺形と確定できる組み合 図 1

(5)

わせがあるかを検討し,2 組の組み合わせを取り出す。

⑨ 2 組の組み合わせをすべてもれなくあげる。(28 通り)

⑩ 28 通りのすべてのケースについて,その条件下で平行四辺形になるかを確かめる が 28 通りすべてのケースについて考察する必要があるのかを考察する。

⑪ 28 通りの中で数学的に同等な条件をあげ,条件の数を最小限とする。

⑫ それぞれについて,「平行四辺形になるための条件」となるか,ならないかを証明 する。ならない場合の証明はどのようにするかを考える。

⑬ すべての証明と反例をについて考察する。

⑭ 3 組以上の組み合わせが条件としては不要であることを確認(説明)する。

⑮ 「平行四辺形になるための条件」をまとめる。

⑯ まとめた「平行四辺形になるための条件」の価値について検討する。

(3)それぞれの指導過程における数学的価値と授業のあり方

 (2)の①から⑯において,それぞれの指導過程における価値と具体的な授業のあり方 は次の通りである。

① 課題の持つ意味を確認する。自分の問題として意識をする。そのためには,日常の 授業で,とりわけ図形の学習では課題の解決後に「課題の逆は成り立つのか」,「課 題の条件を変えても成り立つのか」という疑問や課題意識を持つ経験をしているこ とが大切である。そのことが深い学びとなり,新たな発見が生徒の主体性を育むこ とにもつながる。こうした経験を積んでいることで,平行四辺形の性質についての 学習を終えた時点で自然に,「では逆に,どういうときに四角形は平行四辺形とな るのだろうか」という疑問,課題意識が生じてくる。

② 既習から同様な課題がなかったかを思い起こし解決の手がかりとする。直前の平行 線の学習では,同位角,錯角の性質でその逆について扱い,二等辺三角形の性質(定 理)では定理の逆が成り立つことを証明し論証における「逆」について学習してい る。授業では,これまでの学習を振り返り,同様の学習を想起するよう促す。なお,

逆については,この後も円周角の定理などで同様の課題を学ぶ。引き続き指導を繰 り返し,「逆はどうか」という疑問を主体的に持てる生徒を育てる。

③④ 「二等辺三角形になるための条件」を参考に「平行四辺形になるための条件」の 定義・性質を振り返り,条件となるかどうかを検討する。

(6)

⑤ 性質の逆が条件となる可能性があることに気づき,性質を条件となりうる候補とし て検討する。授業では④以降の学習は 4 名程度のグループ活動を行う。二等辺三角 形の逆について確認したことを踏まえ,どのようなことが条件となりうるのか,お 互いの考えを出し合い高めあう中でより適切な解決方法を検討する。対話的な学習 となる。定義,性質のまとめ方は一般には文章で表されているが,数学的な表現を 用いて正確に表すことも求められる。

⑥ 一般的に「1 つの条件をもって平行四辺形と確定することはできない」ということ は自明のことであるから,このことに関する生徒の意識は薄い。しかし,ここで改 めて反例をあげて確認をすることができる。反例をあげることは比較的容易である が,何をどう表現することが反例をあげたことになるのかを丁寧に確認すること で,数学に対して苦手意識を持っている生徒にとっても,数学的な表現を用いて説 明ができる学習となる。

   また,条件が 1 つでは平行四辺形とは特定できないということが,2 組あれば条 件となること,さらに 3 組である必要がないことへとつながる。三角形の合同条件 では 3 条件を必要としたことと対比して学習できる。これらのことを確認すること も論理的な考え方を構築する上で必要である。

⑦⑧⑨ 三角形の合同条件において,6 組の条件から必要な組み合わせにより合同であ る条件が導き出されることを直感的,実験的に認めている。このことから平行四辺 形においては 8 組ある定義・性質から 2 組を組み合わせ,条件となる候補をあげる。

もれなくすべてあげるには工夫が必要で,グループ学習を通してより効率的で確実 な方法を見つけることが期待できる。この活動は統計学習の素地にもなる考え方で ある。

⑩⑪ 表現が異なっていても対称の考え方や回転などにより数学的に同等な条件を見つ け条件を絞る。その上で実際に検討しなければいけない条件を正確にあげる。授業 では,グループの中で数学的に同等なもの(後述 4(3))をあげ,なぜ同等かをお 互いに示す活動を行う。この課題ではすべての条件を検討する中で,「対辺が平行・

対辺が等しい」ことの条件と「対角が等しい・対角線がそれぞれの中点で交わる」

との関係は,対辺と角や対辺と対角線の位置関係を区別しなくても同等となるが,

対角と対角線の条件については,その位置関係も独立した条件となることを学ぶこ とができる。

(7)

⑫⑬ 必要なすべての候補を考察する際「平行四辺形になるための条件」となる場合に はその証明が必要であること,また「平行四辺形になるための条件」とならないこ とを説明するためには反例をあげることが必要であること,その両者により数学的 な説明となることを理解し考察をする。これまでも学習指導要領解説数学編では「推 測は必ずしも正しいとは限らない。このことを反例を用いるなどして示したり,は じめの推測を修正して正しいものにしたりすることの学習にも配慮する必要があ る」(3)としている。また,今回の学習指導要領解説数学編では「推測は常に成り立 つとは限らないので,その場合には反例を用いるなどして推測が常に成り立つとは 限らないことを示したり,推測を修正したりする学習に取り組む機会を設けること に配慮する」(4)とし,さらに新たに反例の説明を1/2 ページ以上にわたって設けてい る。これは,昨今の社会の動向の中で,正しくない情報や,あえて誤解を招くよう なあいまいな情報が流布しており,批判的に考察する力を育むことが重視されてい る表れである。平行四辺形になるための条件の学習においても,グループ学習を通 して反例に気づいたり,それをお互いに説明しあい高めあったりする活動が求めら れる。ただし,証明のうち後述する証明の 6(1)(サ)や反例の 6(2)(キ)は中学生に は難解である。本稿では,いずれも第 3 学年で学習する円周角の定理の逆を利用し て説明をしている。授業では,生徒が一定の検討(証明と反例)をした後,教師が 成り立つものと成り立たないものを提示し,第 2 学年で説明が可能な条件について は証明や反例を求めるが,難解な証明と反例については,あえてこの時点では解法 を求めず示すこともしない。第 3 学年の学習を終えれば証明や反例をあげることが 可能になることを説明し,関心のある者は調べてみたり挑戦してみたりすることを 促すことで,数学に対する関心や意識を持たせる程度にとどめる。

⑭ 2 組の条件で平行四辺形となることが分かれば,それ以上の条件を付与することは,

数学的な価値を持たないことを認識し,生徒はそのことを説明する。三角形の合同 条件で既習である。条件の考え方として,最小限の条件によることやより効率的で 労力を必要としないで済むかという考え方を学ぶ。

⑮ 「平行四辺形になるための条件」としてまとめる。その際,表現として数学的に的 確な表現を用いてまとめる。また,「2 組の対辺がそれぞれ平行である」という条 件は定義であり自明であることから,なぜ教科書では条件としているのかについて も一考した上で,条件とするべきかを判断する。論理的な思考を積みあげているの

(8)

で,条件としてまとめるのであれば,なぜそうするのかを確認することにも注意し たい。条件の意味や価値を考えることになる。

⑯ 図形(幾何学)の性質としてまとめるに値するか,数学的な価値について考察をす る。平行四辺形には様々な性質があるが,教科書では定理として 3 つとしている。

中学校数学科の学習として,なぜ,この 3 つを定理としているのかを考えること,

すなわち,性質としてまとめるに値する価値がどこにあるかを考えることができ る。このことを通して,簡潔,明瞭,汎用性などの価値を学ぶ。その上で改めて「平 行四辺形になるための条件」をいかにまとめるかを検討することもできる。

4「平行四辺形になるための条件」の整理

(1)「平行四辺形の性質」及び「平行四辺形になるための条件」

 教科書でまとめている「平行四辺形の性質」及び「平行四辺形になるための条件」は次 の通り。(いずれも東京書籍)

「平行四辺形の性質」

定理

 

1

 平行四辺形では,2 組の対辺はそれぞれ等しい。

 

2

 平行四辺形では,2 組の対角はそれぞれ等しい。

 

3

 平行四辺形では,対角線はそれぞれの中点で交わる。 図 2

「平行四辺形になるための条件」

定理 四角形は,次のどれかが成り立てば,

   平行四辺形である。

 

1

 2 組の対辺がそれぞれ平行である。・・・定義  

2

 2 組の対辺がそれぞれ等しい。

 

3

 2 組の対角がそれぞれ等しい。

 

4

 対角線がそれぞれの中点で交わる。

 

5

 1 組の対辺が平行でその長さが等しい。 図 3

(9)

(2)「条件」となる候補

 「平行四辺形になるための条件」について,高橋(1994)では,次の指摘がある。

「四角形ABCDが平行四辺形であるとき,次のことがらが成り立つ。但しOは対角線 ACとBDとの交点とする。(図(2)参照)

   ① AB//DC   ② AD//BC   ③ AB=DC   ④ AD=BC    ⑤ ∠A=∠C  ⑥ ∠B=∠D  ⑦ OA=OC   ⑧ OB=OD    (中略)

次に問題になるのは,四角形ABCDにおいて,この①~⑧のうちどれか2つが成り立っ ているときに,それが平行四辺形といえるかどかということである。」(5)

 高橋(1994)では上記①~⑧のうち,2 つを選ぶ組み合わせは 28 通りあり,そのうち本 質的に同等のものを除き分類すると,12 通りの候補が考えられること,さらに

 「① AB//DC かつ ④ AD=BC」,「③ AB=DC かつ ⑤ ∠A=∠C」,

 「③ AB=DC かつ ⑦ OA=OC」「⑤ ∠A=∠C かつ ⑦ OA=OC」の場合には,平行四辺 形にならない場合もあることが指摘されている。(6)

 本論文では,高橋(1994)の論文を参考にしながら,授業実践を想定した形で「平行四 辺形になるための条件」についてさらに考察を進める。特に,全体を通した指導のありか たの考察と平行四辺形となる条件については中学校数学科の学習におけるその価値につい て検討する。また,その条件だけでは「平行四辺形になる場合」と「平行四辺形にならな い場合」の双方が生じる際には,なる場合とならない場合の違いに関する考察と後者を反 例として捉えることから「平行四辺形であるための条件」とは何かを振り返る学習活動も 重視する。

 なお,本稿では「平行四辺形になるための条件」については,平行四辺形を構成する辺 どうしの関係(長さ,平行)と内角の関係,対角線のもつ性質とし,平行四辺形内に垂線 などの補助線を引いてつくられる条件はここでは扱わない。

 改めて本稿において「平行四辺形の定義」及び「平行四辺形の 性質」を手がかりに四角形が「平行四辺形になるための条件」を 考えるために,定義と性質の逆の組み合わせを候補とする。

 平行四辺形では

 2 組の対辺はそれぞれ平行 (定義)  → AB//DC・・・ ①,    AD//BC・・・ ②

図 4

(10)

 2 組の対辺はそれぞれ等しい    → AB=DC・・・ ③,    AD=BC・・・ ④

 2 組の対角はそれぞれ等しい    → ∠DAB=∠BCD・・ ⑤,∠ABC=∠CDA・・・ ⑥  2 本の対角線はそれぞれの中点で交わる → AO=CO・・・ ⑦,  BO=DO・・・ ⑧

 以上 8 条件から 2 条件の組み合わせは,次のC= 28 通りとなる。

 生徒はこの 28 通りをもれなく,重複なく効率的にあげる方法を検討する。

<候補となる 28 条件>

 【①かつ②】【①かつ③】【①かつ④】【①かつ⑤】【①かつ⑥】【①かつ⑦】【①かつ⑧】

 【②かつ③】【②かつ④】【②かつ⑤】【②かつ⑥】【②かつ⑦】【②かつ⑧】

 【③かつ④】【③かつ⑤】【③かつ⑥】【③かつ⑦】【③かつ⑧】

 【④かつ⑤】【④かつ⑥】【④かつ⑦】【④かつ⑧】

 【⑤かつ⑥】【⑤かつ⑦】【⑤かつ⑧】

 【⑥かつ⑦】【⑥かつ⑧】

 【⑦かつ⑧】

(3)28 の条件のうち同等な条件

 生徒は 28 の条件から,条件の位置関係を検討し数学的に同等である条件を整理する。

グループでの学習が可能である。活動にあたっては,条件を記号表記とともに図や文言で 示すことでより判断しやすいように配慮する。上記のうち同等なものは次の通り。

 【①かつ③】と【②かつ④】は同等で   「1 組の対辺が平行でその長さが等しい」

 【①かつ④】と【②かつ③】は同等で

  「1 組の対辺が平行で,かつもう 1 組の対辺が等しい」

 【①かつ⑤】と【①かつ⑥】【②かつ⑤】【②かつ⑥】はすべて同等で   「1 組の対辺が平行で,かつ 1 組の対角が等しい」

 【①かつ⑦】と【①かつ⑧】【②かつ⑦】【②かつ⑧】はすべて同等で   「1 組の対辺が平行で,かつ 1 本の対角線は他の対角線を 2 等分する」

 【③かつ⑤】と【③かつ⑥】【④かつ⑤】【④かつ⑥】はすべて同等で   「1 組の対辺が等しく,かつ 1 組の対角が等しい」

 【③かつ⑦】と【③かつ⑧】【④かつ⑦】【④かつ⑧】はすべて同等で

(11)

  「1 組の対辺が等しく,かつ 1 本の対角線は他の対角線を 2 等分する」

 【⑤かつ⑦】と【⑥かつ⑧】は同等で,

  「1組の対角は等しく,かつ等しい対角を結ぶ対角線は他の対角線により2等分される」

 【⑤かつ⑧】と,【⑥かつ⑦】は同等で

  「1 組の対角は等しく,かつ等しい対角を結ぶ対角線は他の対角線を 2 等分する」

 以上を整理し,検討する必要がある条件は次の(ア)から(シ)の 12 条件である。

 (ア)【①かつ②】「2 組の対辺がそれぞれ平行である」

 (イ)【①かつ③】「1 組の対辺が平行でその長さが等しい」

 (ウ)【①かつ④】「1 組の対辺が平行で,かつもう 1 組の対辺が等しい」

 (エ)【①かつ⑤】「1 組の対辺が平行で,かつ 1 組の対角が等しい」

 (オ)【①かつ⑦】「1 組の対辺が平行で,かつ 1 本の対角線は他の対角線を 2 等分する」

 (カ)【③かつ④】「2 組の対辺がそれぞれ等しい」

 (キ)【③かつ⑤】「1 組の対辺が等しく,かつ 1 組の対角が等しい」

 (ク)【③かつ⑦】「1 組の対辺が等しく,かつ 1 本の対角線は他の対角線を 2 等分する」

 (ケ)【⑤かつ⑥】「2 組の対角がそれぞれ等しい」

 (コ)【⑤かつ⑦】「1 組の対角が等しく,かつ等しい対角を結ぶ対角線は他の対角線に より 2 等分される」

 (サ)【⑤かつ⑧】「1 組の対角が等しく,かつ等しい対角を結ぶ対角線は他の対角線を 2 等分する」

 (シ)【⑦かつ⑧】「対角線がそれぞれの中点で交わる」

図 5  定理;教科書に「条件」としてまとめられている ◎;「条件」となる ×;「条件」と ならない(※ ◎,☓の判断は以下の考察により示すものとする)

(12)

5「平行四形になるための条件」の検討

 上記 (ア),(イ),(カ),(ケ),(シ)は教科書にまとめられている平行四辺形になるた めの条件で,いずれも成り立つ。(証明省略)また,高橋(1994)が指摘しているように(エ),

(オ),(サ)が成り立ち,(ウ),(キ),(ク),(コ)は成り立たない。

 授業において,条件として成り立つかどうかについて数学的な解決を図るためには,こ の 12 種類について証明を試みるというのが論理的な展開である。次のような指導が考え られ,対話的な学習活動を取り入れることで,深い学びにつなげる指導となる。

① グループ毎に 12 種類の条件を与え証明を試みる。それぞれの条件のもと「四角形 が平行四辺形となるのか」の検討にあたっては,成り立つのか成り立たないのかが 定かではない中での検証活動となり,生徒にとっては難しい課題である。条件は,

記号で表記したものとともに,図で示したもの,言葉で示したものを与える。

② 成り立たないと思われる条件について,「常に成り立つとは限らない」ということ を説明する(証明する)には,どのように示せばよいかを考えさせることで,反例 の指導につなげる。

③ グループ毎に一定の検討がなされたところで,そこまでのグループでの成果を発表 させる。各グループはひとつの条件のみについて説明をする。多くのグループに発 表の機会を与え,より対話的な活動とする。

④ 成り立たない(キ),成り立つ(サ)に関しては中学 2 年生の段階での説明は困難であ るが,その他の条件については解決が可能である。どのグループも解決できない条 件については,成り立つものと成り立たないものを示し,改めて(キ),(サ)以外に ついての証明や反例を求める。

   このとき,反例については,フリーソフトGeoGebraの使用が効果的である。た だし,日常からこういった図形ソフトを使用し,使用法に慣れていることが必要で ある。

   なお,成り立つ(エ)及び(オ)の証明と成り立たない(ウ)及び(コ)の反例について は,十分解答が可能である。グループ内で解決させるよう助言し指導する。また,

(ク)の反例については,平行四辺形の形状を複数示すなどの助言を与え解決させたい。

⑤ (キ),(サ)については,中学 2 学年の段階で解決はできないが,3 年生の学習をす ると解決する方法があることを示すにとどめる。

(13)

6 証明と反例

(1)成り立つ(エ),(オ),(サ)の証明

 (エ)【①かつ⑤】「1 組の対辺が平行で,かつ 1 組の対角が等しい」

平行線の錯角・同位角の関係と対角が等しい条件から 2 組の対辺が平行となる(詳 細略)

 (オ)【①かつ⑦】「1 組の対辺が平行で,かつ 1 本の対角線は他の対角線を 2 等分する」

2 本の対角線により分割された向かい合う 2 つの三角形において,平行線の錯角,

対頂角さらに対角線の交点が 1 本の対角線の中点であることから,分割された向か い合う 1 組の三角形が合同となる。このことから 2 本の対角線がそれぞれの中点で 交わり,平行四辺形となる。(詳細略)

 (サ)【⑤かつ⑧】「1 組の対角が等しく,かつ等しい対角を結ぶ対角線は他の対角線を 2 等分する」

【仮定(条件)】        【結論】

 ∠DAB=∠BCD・・・ⅰ,BO=DO・・・ⅱ  四角形ABCDは平行四辺形である。

【証明】

 点Aの対角線BDに対する対称点をE とすると   ・ EO=AO(対称点)・・・ⅲ

  ・ ∠EOB=∠AOB=∠COD(対称点と対頂角)・・・ⅳ

また,∠BED=∠BAD=∠DCB(対称点とⅰ)よりB,E,C,Dは同一円周上の点で ある。

Oにおいて対角線BDに垂直な直線をOTとし, この同一円との交点を図 6 のよ うにSとすると,

ⅳより ∠EOB=∠CODからEOとCOはOTに関し て対称,また,BS,DSもOTに関して対称。

よって,これらの交点E,CもOTに関して対称。

したがって EO=CO・・・ⅴ

よって,ⅲ,ⅴよりAO=EO=CO・・・ⅵ

ⅱ,ⅵより,2 本の対角線がそれぞれの中点で交わることか

ら四角形ABCDは平行四辺形である。(7) 図 6

(14)

(2)成り立たない(ウ),(キ),(ク),(コ)の反例

(ウ)【①かつ④】「1 組の対辺が平行で,かつもう 1 組の対辺 が等しい」

  反例・・・等脚台形を作図することができる。(説明略)

 (キ)【③かつ⑤】「1 組の対辺が等しく,かつ 1 組の対角が等し い」

 平行四辺形の形状によって,図 8 のように

∠ABC=∠AB’Cとなる点B’を 3 点A,B,Cの共通円周上で かつAB=AB’となる点としてとることができる。

この時,AB’=DC,∠AB’C=∠CDAとなる 四角形AB’CDが存在する。

すなわち反例として「1 組の対辺が等しく,かつ 1 組の

対角が等しい四角形」で平行四辺形とならない四角形が存在する。

 (ク)【③かつ⑦】「1組の対辺が等しく,かつ 1 本の対角線は他の対角線を 2 等分する」

 平行四辺形の形状により,図 9 のように AB=AB’ と な るB’を 対 角 線 のBD上 で か つ BO内にとることができる。

 この時 AB’=DC,AO=CO となる四角形 AB’CD が存在する。

すなわち反例として「1 組の対辺が等しく,かつ 1 本の対角線は他の対角線を 2 等分 する四角形」で平行四辺形とならない四角形が存在する。

 (コ)【⑤かつ⑦】「1 組の対角が等しく,かつ等しい対角 を結ぶ対角線は他の対角線により 2 等分される」

  反例・・・凧型四角形を作図することができる。(説明略)

//

図 7

// //

//

図 8

//

図 9

図 10

(15)

(3)ICTの活用 GeoGebra による作図

 以下の図 6-2,8-2,9-2 はそれぞれ,成り立つ証明であげた図 6,反例としてあげた図 8,

図 9 について,フリーソフトGeoGebraを使い,長さ,角度を表示し実際に作図したもの である。

図 6-2 図 8-2

(サ)「1 組の対角が等しく,かつ等しい 対角を結ぶ対角線は他の対角線を 2 等分 する」(成り立つことの証明)

(キ)「1 組の対辺が等しく,かつ 1 組の 対角が等しい」 (反例とし)

図 9-2

( ク )「1 組 の 対 辺 が 等 し く,

かつ 1 本の対角線は他の対角 線を 2 等分する」 (反例とし)

(4)反例の限界と授業の扱い(8)

 以下は反例である(キ)【③かつ⑤】「1 組の対辺が等しく,かつ 1 組の対角が等しい」

及び(ク)【③かつ⑦】「1組の対辺が等しく,かつ 1 本の対角線は他の対角線を 2 等分する」

についてフリーソフトGeoGebraを使い,平行四辺形とならない状態とその限界を示した ものである。

(16)

(キ) 【③AB = DC かつ ⑤∠A = ∠C】「1 組の対辺が等しく,かつ 1 組の対角が等 しい」について反例の限界 (図は同等の③AB = DCかつ⑥∠B = ∠D)

(ⅰ) (ⅱ)

(ⅲ) (ⅳ)

図 8-3

 「1 組の対辺が等しく,かつ 1 組の対角が等しい」条件を満たす点Fは 3 点A,B,Cを通 る円の円周上にあり,かつ点Aを円の中心とし半径がABの長さの円の円周上にあること から,この2つの円の交点となる。

 対角線AC<ABの状態では点Fが確定し,平行四辺形とならない四角形AFCDができ る(ⅰ.ⅱ)が,AC>ABの状態では点Fが対角線ACよりも頂点D側にでき(ⅳ),四角 形AFCDは凹四角形となる。

 すなわち,条件にある「1 組の等しい対辺」の長さが 2 本の対角線のうち,等しい対角 を結んだ対角線ではないもう一方の対角線よりも長い時に,平行四辺形にならないことが ある。

 このことにより逆に,

 ③かつ⑤の条件に「1 組の等しい対辺の長さが 2 本の対角線のうち,等しい対角を結ん だ対角線ではないもう一方の対角線よりも短い」という条件を加えることで「平行四辺形 になるための条件」となる。

(17)

(ク)【③AB = DC かつ ⑦AO(G)=CO(G)】「1組の対辺が等しく,かつ   1 本の対角線は他の対角線を 2 等分する」について反例の限界

(ⅰ)

(ⅱ) (ⅲ)

図 9-3

 「1 組の対辺が等しく,かつ 1 本の対角線は他の対角線を 2 等分する」条件を満たす点Iは,

点Aを円の中心とし半径がABの長さの円の円周と対角線BDの交点となる。

2 本の対角線の交点をGとしたとき,AG>ABの状態では点Iが,BG上に確定し(ⅰ), 平行四辺形とならない四角形AICDができるが,AG<ABの状態では点IがGを超え,

GD上にでき(ⅲ),四角形AICDは凹四角形となる。

 すなわち,条件にある「1 組の等しい対辺」の長さが 2 等分される対角線ACの長さの 半分よりも短い時に,平行四辺形にならないことがある。

 このことにより逆に,

 ③かつ⑦の条件に「1 組の等しい対辺の長さが 2 等分される対角線の半分よりも長い」

という条件を加えることで「平行四辺形になるための条件」となる。

 授業では,以上の 2 つの反例について,図形ソフトを用いて動的に考察することができ る。図形ソフトで反例を作図した上で,動点(図 8-3 のF,図 9-3 のI)をソフト上で動か すことにより,反例としての点が決定できなくなる状態(本稿での限界)が生じることを 発見できる。

 なお,この 2 条件については,ともに一定の条件を加えることで「平行四辺形になるた

(18)

めの条件」ということもできるが,条件を際限なく付加することは適切ではないことから,

これらを「平行四辺形になるための条件」ということはしない。

7「平行四辺形になるための条件」

(1)「平行四辺形になるための条件」

 以上から,平行四辺形となるための条件をまとめると次の 8 通りとなる。

 教科書で扱っている 5 つの「条件」に加え 3 つの条件((エ),(オ),(サ))が「平行四 辺形になるための条件」として成立する。

 【平行四辺形になるための条件】

(1) (ア)【①かつ②】「2 組の対辺がそれぞれ平行である」

(2) (イ)【①かつ③】「1 組の対辺が平行でその長さが等しい」

(3) (エ)【①かつ⑤】「1 組の対辺が平行で,かつ 1 組の対角が等しい」・・・図 14

(4) (オ)【①かつ⑦】「1 組の対辺が平行で,かつ 1 本の対角線は他の対角線を 2 等 分する」・・・図 15

(5) (カ)【③かつ④】「2 組の対辺がそれぞれ等しい」

(6) (ケ)【⑤かつ⑥】「2 組の対角がそれぞれ等しい」

(7) (サ)【⑤かつ⑧】「1 組の対角が等しく,かつ等しい対角を結ぶ対角線は他の対 角線を 2 等分する」・・・図 16

(8) (シ)【⑦かつ⑧】「対角線がそれぞれの中点で交わる」

図 14 (3)(エ) 図 15 (4)(オ) 図 16 (7)(サ)

(2)「平行四辺形になるための条件」を利用した応用問題

 次に示す問題 1,2 のような(3),(4)の条件を利用した問題を生徒に考えさせる「作問」

を提示し,生徒がお互いに解答する学習も探究的な学習となる。「作問」は平行四辺形に ついての総合的な理解と思考力を必要とし,学習効果が期待できる。

(19)

問題1((3)(エ)の条件利用) 図 17

 平行四辺形ABCDで,図のように∠Bの二等分線とADとの 交点をE,∠Dの二等分線とBCとの交点をFとする。このと き四角形EBFDは平行四辺形となることを証明しなさい。

問題2((4)(オ)の条件利用) 図 18

 平行四辺形ABCDで,図のように対角線の交点Oを通る直 線と辺AD,BCとの交点をそれぞれE,Fとする。このとき四 角形EBFDは平行四辺形となることを証明しなさい。

8「平行四辺形になるための条件」としての価値

 以上 8 条件が「平行四辺形なるための条件」となる。

 授業では,それぞれの価値について,生徒に考えさせその根拠を述べさせることが大切 である。ここでは筆者の考えを示す。

 (1)(2)(5)(6)(8)は教科書ですでに定理として扱われており,詳細には触れないが一定 の価値があると考えてよい。そのほかの(3)(エ),(4)(オ),(7)(サ)の価値について考察 をする。ただし,いずれの条件も成り立つことは先に確認した通りであり,数学的には価 値があり尊重されるべき定理といえることには違いがない。ここでは,中学生の学習段階 において教科書に示されている条件のように定理として扱うのが妥当か,という意味での 価値であり,具体的には,数学的に明瞭で汎用性があるか,中学校段階で論証の学習に対 して有効であるか,という基準で考えることとする。

 (3)(エ) 「1組の対辺が平行で,かつ1組の対角が等しい」

比較的明瞭な条件で,生徒にとってはわかりやすく一定の価値がある。定理として扱 うことも可能である。

 (4)(オ) 「1 組の対辺が平行で,かつ 1 本の対角線は他の対角線を 2 等分する」

2本の対角線のうち1本の対角線が他の対角線を2等分するという状態がわかりづらく,

条件の理解を難しいものにしている。中学 2 年生での学習を考えた時,わかりにくい 表現は生徒にとっては混乱を招き誤った概念を構築してしまう可能性もある。定理の ような形で条件としてまとめるには,できる限りシンプルでわかりやすいものでるこ 図 17

図 18

(20)

とが望ましい。またこの条件は,学習の汎用性を考えてもあえて定理の形で条件とし て扱うまでの必要性はない。

 (7)(サ) 「1 組の対角が等しく,かつ等しい対角を結ぶ対角線は他の対角線を 2 等分    する」

等しい対角と対角線の位置関係を指定していることで複雑な条件となっている。(オ)

同様,汎用性にも乏しい。表現の複雑さからも定理の形で条件として扱うべきではな い。

 以上から,教科書に示されている 5 組の条件と,(3)(エ)「1 組の対辺が平行で,かつ 1 組の対角が等しい」は,条件として扱う価値を有しているものと考える。ただし,他の 2 条件を含め,授業では生徒が発見し証明まで検討した条件については,それらをまとめ「本 校における平行四辺形になるための条件」と扱うなどし,生徒に達成感をもたせたい。

 これまでの一連の学習により「平行四辺形になるための条件」の全容について考察する ことができる。この一連の取り組みが生徒に論理的な思考力を育成することになる。

9 まとめ

 本研究の目的は,中学校第 2 学年「平行四辺形になるための条件」の学習において,教 材の持つ数学的な価値を最大限に生かし,生徒の論理的な思考力を高める授業を工夫する ことにある。条件を与えられ証明する学習から,条件となりうる候補を自分たちが考え,

その候補を精査すること,さらに精査した条件について検討し証明や反例をあげるという 一連の授業展開について考察を行った。また,指導にあたってはグループ学習や各グルー プによる発表の機会を設定することなどで,アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた 指導のあり方について提示した。指導者が,教材の価値を意識し指導目標を明確にした授 業を工夫することで,それぞれの指導過程で生徒に主体的に課題に取り組ませ,論理的な 思考力を高めることが期待できる。

 反例については図形ソフトを使用し動的に考察することで,「平行四辺形とはならない 特別な条件」に関する提案とそのことから一定の条件を付加することで「平行四辺形にな るための条件」となる 2 条件について提示した。

 今後の課題として「平行四辺形になるための条件」については,本稿で示した反例の限

(21)

界についてさらに検証することも考えたい。また,本研究による授業を実践するには,授 業時間の確保が必要である。その際には学習事項に軽重をつけることを含め授業計画の詳 細についての検討が求められる。あわせてグループ学習や課題の発表において,期待する 学習効果をあげるための具体の手立てについても検討を要する。

〈引用・注・参考文献〉

(1) 文部科学省「中学校学習指導要領(平成 29 年告示)」(2017),p.69

(2) 文部科学省「中学校学習指導要領(平成 29 年告示)」(2017),pp.70-71

(3) 文部科学省「中学校学習指導要領解説 数学編(平成 20 年 7 月)」(2008),p.95

(4) 文部科学省「中学校学習指導要領 (平成 29 年告示)解説 数学編(平成 29 年 7 月),

(2017),p.112,114

(5) 高橋純(1994)「中学校第 2 学年における四角形の指導に関する一考察」(神大附属研 究紀要8),p.43-44

(6) 高橋 前掲載,p.44-45

(7) 清宮俊雄(東京学芸大学名誉教授) 横浜国立大学講話後の指導にて(1995 年)

(8) 本稿では図形を動的にとらえたとき,反例が作図可能な状態から作図不可能な状態に なることを反例の限界とした。

・ 「平行四辺形になるための条件は万国共通か」

 ― 条件の組み合わせと海外教科書との比較 ―  平井崇晴 甲南大学

 http://pal.las.osaka-sandai.ac.jp/~hirai/pdf/study/ParaCon.pdf (2019.8.28 最終確認)

・ 「新しい数学 2」(東京書籍)

参照

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