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審査要旨

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Academic year: 2021

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博士論文審査報告書

鈴  池    静  氏  論文題目

「コミュニケーションにおける声のノンバーバル要素の 重要性に関する研究」

早稲田大学

大学院公共経営研究科

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審査要旨

  鈴池静氏による博士学位請求論文「コミュニケーションにおける 声のノンバーバル要素の重要性に関する研究」は、第 1 章から第 3 章までの第 1 部、第 4 章及び第 5 章による第 2 部に、序章、終章を 加えた A4 判で 113 頁の論稿である。

序章

第 1 部  声におけるノンバーバル要素の存在意義 

第1章  声におけるノンバーバル要素の重要性とその存在意義 第2章  声におけるノンバーバル要素の形成要因

第3章  声におけるノンバーバル要素の分類 第 2 部  声の実態調査

第4章  仮説と方法論

第5章  実態調査の結果と分析 終章  課題と展望

  以下、1.  論文の構成と概要、2.  論文の特徴と評価、及び 3.  結 論の順で審査結果を記述する。

1. 論文の構成と概要

本論文は、コミュニケーション手段が大きく変化している現代社 会において、意思伝達と情報の共有を効果的かつ円滑に行うことが 一層重要であるという問題意識を根底として、コミュニケーション に声のノンバーバル要素が果たす役割と意義について、仮説を設定 して検証を行い、それに基づいて理論フレームワークの構築を目指 すことを意図している。

本論文は 2 部構成により仮説を論証し、終章においてさらなる課 題と理論モデルの可能性を提示している。第 1 部においては、仮説 検証の前提として必要とされる声のノンバーバル要素の意義につい て、当該要素がどのような影響力を持ち、形成されるのか、またい かに識別され、分類されるのかを論じる。第 2 部においては、仮説

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を設定し、検証のために 3 調査を設計し、その調査結果に基づき、

声におけるノンバーバル要素の重要性とその存在意義を論証してい る。終章においては、探究されるべきさらなる仮説と理論的課題を 提示している。

序章においてはまず、児童生徒の暴力行為、不登校、いじめの発 生件数の推移に関する文部科学省の統計データ及びそれらに対する 問題分析を提示し、IT の発達を含む社会環境の変化により、青少年 のコミュニケーション形態が対面による会話からメールの活用に移 行したこと、対話離れがこれらの諸問題の背景に存在することを論 じる。この問題背景にさらに、スキルを具備する声による「読み聞 かせ」が聞き手に与える影響に関する 4 つの異なる事例の観察結果 に基づく考察を加えて、声におけるノンバーバル要素が情報の発信 者の意図を効果的に伝達するために重要であるという問題設定を行 っている。この問題設定を行った上で、本論文において論じる「コ ミュニケーション」「スキル」「想い」を定義し、本論文が論証の対象 とする範囲を明確化する。本論文は、発信者と受信者間の意思伝達、

特に声のノンバーバル要素による想いの伝達を対象とするため、コ ミュニケーションの研究領域のうちで教育的コンテクストにおける コミュニケーション研究であるスピーチ・コミュニケーション研究 ならびに話す行動と聞く行動の生物学的、音韻的及び物理学的な諸 相の研究である音声科学を対象とすることを明らかにしている。

第1章においては、声におけるノンバーバル要素が本来有してい た機能を基礎として、心理学者 Mehrabian が導出した感情の総計 を引用し、感情表現にはバーバルによる好意表現よりも声による感 情表現、顔による感情表現の影響力が大きいこと、さらに語調と表 情というノンバーバル要素が相互に結びついて対話を成立させるこ とを言語学、音声学、医学をはじめとする諸領域の研究成果を引用 し、検討する。

  次に第2章では、声におけるノンバーバル要素がどのように形成 されるかについて、先天的要因、環境による影響、後天的要因、複 合的要因のそれぞれについて医学的、言語学的、音楽(声楽)的観点 から考察し、ノンバーバル要素が個々人に特有なものとして複合的 要因により形成されることを論じる。

  さらに第3章では、声におけるノンバーバル要素を具体的なもの

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としてどのように分類できるかについて、日本語研究、日本語表現 法、医学、声紋研究、声楽のそれぞれの研究領域における分類を検 討し、高低、強弱、音色、速さ、間などの要因を識別できることを 確認した後、ノンバーバル要素に影響を与える息、呼吸法との関係 を論じる。

第4章では、第 1 章から第 3 章までの声のノンバーバル要素の形 成と分類を基礎として、声のノンバーバル要素をコントロールする スキルによって他者に正確に想いを伝達できるという仮説、「スキル を具備する声は想いを伝達する。」を設定する。また、この仮説の設 定と検証が先行研究である Mehrabian の研究、「言語」「聴覚」「視覚」

の要素がメッセージの伝達に与える影響に関する研究に対して、ど のような特質を持つかを明らかにする。すなわち、当該研究は、対 象を声に絞り、声が内包するバーバルとノンバーバル情報の伝達の 程度について検証するものであるという特質を有する、ということ である。

当該仮説を論証するために、方法論を体系的に整理し、次の 3 段 階の調査を設計し、実施している。すなわち、第 1 段階は、声に対 するアンケート調査であり、一般の人の声に対する認識と実態との ギャップを明らかにする、第 2 段階は、音声収集による波形データ 分析であり、声をコントロールする専門家である P(Professional:

声優)と一般の人の声の波形データについて強弱、ボリューム、スピ

ードなどのノンバーバル要素のコントロールの相違を明らかにする、

第 3 段階は、被験者による聴取実験であり、声のノンバーバル要素 から「想い」が伝達されるか否かについて、スキルを有する P と一 般の人を比較することを目的とする。

  第5章では、これら 3 段階による調査・分析結果の詳細を明らか にしている。第 1 段階の声に対するアンケート調査では、声に対す る認識と自己の声に対する意識的な取組については相関が見られな いという結果が示され、声のノンバーバル要素のコントロールによ る伝達能力向上の充分な幅が存在することが明らかに示された。第 2 段階の音声収集による波形データ分析では、声のノンバーバル要 素をコントロールするスキルを有している Pと有していない一般の 人の波形に著しい相違があることが明らかに示された。具体的には、

特に声のリズム、テンポ等超分析素性を示すピッチについて、P の

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場合にはすべての場合が明確に区別される波形を示しているのに対 し、一般の人の場合はほとんど変化の無い波形が示された。スペク トルについても同様であり、P の場合には指示ごとに異なる周波数 を読み取ることが出来るが、一般の人の場合には読み取ることが出 来ないという結果が示された。以上のことから、一般の人には声の ノンバーバル要素をコントロールするスキルが育成されていないこ とが判明した。第 3 段階の被験者による聴取実験では、以下の 2 つ の結果を得た。すなわち、(1) P と一般の人(大人)、P と一般(小学 生)の間に有意水準 1%で有意差がみられたこと、(2)バーバル要素 が伝達する情報とノンバーバル要素が伝達する情報が一致している 場合と不一致の場合において、有意水準 1%で P には両者に有意差 はみられないが、一般の人の場合には有意差がみられたこと、であ る。以上の 3 段階の調査・分析結果から、仮説「スキルを具備する 声は想いを伝達する」が検証されたことが示されている。

  これらの検証結果に基づき、終章では全体を総括するとともに、

さらなる課題として、「思いを伝えるノンバーバル要素は訓練によっ て習得できる」を設定し、それについて予備的実験を実施し、その結 果について考察している。この考察に基づき、申請者は野中他によ るナレッジマネジメントの理論を適用することにより、心性とスキ ルの構築プログラムのモデル化を行い、当該プログラムと仮説の検 証を本研究のさらなる研究課題として設定している。

2.  論文の特徴と評価

  本論文の特徴とそれに対する評価は、少なくとも次の三点から議 論できる。

その第一は、声におけるノンバーバル要素がコミュニケーション に重要な役割を果たすという問題設定を行い、ノンバーバル要素を コントロールし、顕在化させるスキルの重要性に焦点を当てて、仮 説を設定し、検証を行ったことである。コミュニケーションにおけ るノンバーバル要素の重要性を一般的に論じる研究は存在するが、

声におけるノンバーバル要素を識別し、そのコントロールの実態と 想いの伝達との相関関係をデータに基づき検証した成果は、本申請

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論文が独自に導いた重要な研究成果であると評価することが出来る。

このことは先行研究としての Mehrabian の研究に独自の視点を加 え、検証したものと評価することができる。さらにこの研究成果の 有用性が、申請者が、声のノンバーバル要素の分類、検討に当たっ て、隣接諸学の研究成果を精査し、その特質を具体的かつ明確に設 定して、スキルとノンバーバル要素の緊密な関係性を同定した結果 を基礎としている点も高く評価することが出来る。

第二の特徴は、仮説検証のために 3 段階にわたる調査を整合的に 設計し、さらに音声波形データの分析を含む調査分析を綿密に実施 して、一般の人の声に対する意識、声の実態、ノンバーバル要素を 表すスキルの程度を明確にし、意思伝達、想いの伝達における声の 実態に関する貴重な一次データを作成した点である。203 名の 10 代から 60 代の幅広い年齢層にわたる声の波形データの標本収集、

被験者による聴取実験は貴重な基礎データと位置づけることが出来 る。これらのデータは、スピーチ・コミュニケーション教育、音声 科学の研究領域においても重要な基礎データを提供するものと評価 できる。

さらには、本論文には、公共経営研究に対する基礎的貢献を見出 すことが出来る。それは、声のノンバーバル要素をコントロールす るスキルを具備することによって、対面によるコミュニケーション のみならず、非対面によるコミュニケーションにおいて発信者が意 図する想いを正確かつ確実に伝達することが出来ることをポジティ ブに提示する点である。本論文の問題意識、問題設定の根底には、

青少年が抱えるさまざまな問題、特に IT の発達という社会環境の 変化が学校教育にもたらしている負の影響の背景として、対話離れ によるコミュニケーション不全の存在がある。声のノンバーバル要 素による円滑なコミュニケーションが、これらの負の影響にいかな る機能を果たすかについては、さらなる研究が必要とされるが、コ ミュニケーション不全に解決を導く重要な要因が識別されたことは きわめて優れた貢献といえる。さらにこのことは、公共経営の重要 な課題は市民相互、市民と行政、市民と民間セクターとのダイアロ グを基本とする相互の意思伝達であることを前提とすれば、本論文 が提示するスキルの重要性は市民社会における基礎的コミュニケー ションを円滑に機能させる基本要件と位置づけることが出来る。

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  以上のように評価できる本論文には、しかしながら、少なくとも 二点の問題点が指摘され得る。その第一は、声におけるノンバーバ ルの重要性をスキルとの関係性に限定して論じている点である。ノ ンバーバルをコントロールするスキルの向上は、コミュニケーショ ンにとって重要な要素であることは論証されたが、ノンバーバル要 素には豊かな想いを形成する精神性の醸成が影響を与えることにつ いては、論及することができなかった。さらに研究を進めるにあた っては、スキルと精神性の均衡がノンバーバル要素に与える影響に ついても対象とする必要があり、そのことが一層洞察に広がりを生 むと考えられる。

  第二は、本論文が提示する心性とスキルを具備する声の研究が、

コミュニケーション研究に与える貢献を明確に位置づけなかったこ とである。本研究が対象とするコミュニケーション研究の領域がス ピーチ・コミュニケーション教育、音声科学の研究領域であること を前提とすれば、本研究が論証した仮説、さらなる課題の抽出、理 論的なフレーワークであるスキルの構築プログラムを当該研究領域 の中で位置づける努力が必要であった。今後の研究において、当該 研究領域に対する貢献を明らかにすることが望まれる。

  これらの点をより一層精緻化することにより、本論文を基盤とし たさらなる分析・考察が申請者自身によって展開されることを、期 待するものである。

3. 結論

  以上を考量し、今後改善しなければならない点は認められるもの の、コミュニケーション研究と公共経営研究に対する貢献を高く評 価して、博士後期課程を修了して独立した研究能力を証明したと認 め、本審査委員会としては、本論文は、博士(公共経営)の学位を 授与するに値するものと判断する。

2010 年 2 月 2 日

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主査 博士(商学)早大 早稲田大学教授 小  林  麻  理

副査 Dr.rer.publ. 早稲田大学教授 縣      公一郎

(シュパイアー行政大学院)

      早稲田大学教授        田  勢  康  弘  経済学博士      早稲田大学教授        福  島  淑  彦     (ストックホルム大学)

      工学博士(早大)  早稲田大学教授        小  林  哲  則

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