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【新島講座講演会】ヨーロッパ連合と法の役割 : 展開、状況、展望

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【新島講座講演会】ヨーロッパ連合と法の役割 :  展開、状況、展望

著者 ハーバサク マティアス, 守矢 健一

雑誌名 同志社法學

巻 65

号 5

ページ 1688‑1668

発行年 2014‑01‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014648

(2)

◆新島講座講演会◆

ヨーロッパ連合と法の役割

――展開、状況、展望――

マティアス・ハーバサク  守 矢 健 一 (訳) 

 敬愛する聴衆のみなさま!

 ヨーロッパ連合の現状について、そしてその展望について、いくたりかの 考察をみなさんに開陳することができますのは、わたくしにとり大きな喜び でありまた光栄であります。これを行うにあたり、わたしはある一つの局面 に焦点を絞りたいと思います。ただ、その局面は法律家にとってはまことに 中心的な局面なのであります。すなわち、ヨーロッパの統一化過程および統 合過程の枠組において、法にはどのような役割が与えられているか、という 局面です。わたくしはなにより、商法、会社法、資本市場法の領域を専門に していますから、法のなかでもとくにこれらの領域について、その役割を考 察することに自己限定をしておく方がよいでしょう。具体的にはまず、ヨー ロッパ連合に至る過程の歴史的な諸段階を素描しましょう。そしてその次に、

基本的諸自由の役割を、居住自由及び資本取引の自由を例に挙げて、示しま す。こうした自由保障の数々が企業法にとってもまことに本質的な意味を持 ち、とりわけドイツ会社法に対しては大きな課題を突きつけるものだという ことがわかるでしょう。このような基本的諸自由のほかに、第二次的

EU

*  本稿は0年0月2日(水)に開催された新島講座講演会「欧州連合とEU市民意識」(主 催 学校法人同志社新島基金運営委員会/共催 司法研究科)が改題されて翻訳されたもので ある。

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にも注目しましょう。第二次的

EU

法は、具体的には指令(Richtlinie)お よび規則(Verordnung)のかたちをとり、私法全般に亘る諸領域、なかで も特に会社法および資本市場法に係る諸領域を広く、特徴づけるものです。

最後にヨーロッパ連合に対する、また私法の調和化(ⅰ)過程に対する、将来につ いての展望を提出してみたいと思います。

Ⅰ . 歴史的展開:石炭鉄鋼共同体からヨーロッパ連合に至るまで

 ヨーロッパ統一化過程の黎明期は950年代にさかのぼることになります。

その冒頭に位置づけられるのは、95年4月8日のヨーロッパ石炭鉄鋼共 同体設立条約であり、この共同体は通称で鉱山共同体(Montanunion)とも 云います。この条約によって、ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、オ ランダ、ルクセンブルクという共同体設立国が目指したのは、軍事的に重要 な産業(石炭および鉄鋼)を共同の監督下に置くことでした。つまりこの条 約によって、ヨーロッパにおける平和の確保に対する貢献という機能が当初 から付与されていたわけです。これは、ドイツとフランスとが、95年に 終結する第二次世界大戦においてのみならず、第一次世界大戦においても、

さらにそのまえの870年にも互いを敵として戦争を行ったこと、それゆえ ながいこと、両国の関係が「不倶戴天の敵」とも表現されていたことに鑑み るならば、一層、意義ふかいことです。

 石炭鉄鋼共同体は、当初から、これを拡張してゆくべきだと考えられてい ました。もとより政治的連合へ、そして防衛共同体へ、といった拡張には至 ることができませんでした。それでも、957年3月5日のヨーロッパ経済 共同体設立条約(Vertrag zur Gründung der Europäischen Wirtschaftsgemeinschaft

EWG-Vertrag)は重要です。この条約においても、締結国はドイツ、フ

ランス、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクでした。ここで締 結国において目指されたのは、共通市場の実現でした。それは共同体に属さ ぬ国との関係で統一的な関税政策の展開を実現する、ということであり、ま

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たとりわけ商品、サーヴィス、労働力および資本が共同体内において自由に 通行することでした。ヨーロッパ経済共同体条約は、核エネルギーの平和的 利用をその内容とするヨーロッパ原子力共同体条約とともに、958年1月 1日に発効しました。この二つの条約は「ローマ条約」とも云われます。

 ヨーロッパ経済共同体条約は、数十年に亘り、ときには基本的な点にまで 及ぶ、改訂および展開を遂げました。99 年1月1日発効のヨーロッパ連合 条約をここで取り上げておくべきでしょう。「マーストリヒト(Maastricht)

条約」と通称されるこの条約によって、共通の屋根を形成する組織としてヨー ロッパ連合が誕生しました。ヨーロッパ経済共同体はヨーロッパ共同体へと 名称をかえ、共通の外交および防衛政策や警察に係るまた司法に係る協働、

そして就中、最終的にはユーロという共通の通貨の導入と現金によらない 支払取引についてヨーロッパ単一決済圏(Single European Payment Area

= SEPA)の導入とを目指した経済通貨連合の段階的導入が決定されました。

この点についてはまたあとで触れましょう。

 法的観点からするヨーロッパ経済共同体条約の展開は、条約構成国の継続 的拡張を伴ったものでした。現在のところヨーロッパ連合加盟国は 8 を数 えています。ただし、経済通貨連合に加入しているのはそのなかの 7 か国 だけで、この 7 か国がいわゆるユーログループを形成しています。7 か国 以外の EU 加盟国のうち、連合王国、デンマーク、スウェーデンは、ユーロ グループに参入するのをやめています。その他の国は、ユーログループに参 入するにはマーストリヒト条約が定めた参入資格要件を満たさねばなりませ ん。

 発展の暫定的な終結点を形成するのは 009 年 月1日に発効したリスボ ン(Lisbon)条約です。この条約によって、なにより、ヨーロッパ議会の地位 が強化され、またこの条約以降、ヨーロッパ共同体条約は「ヨーロッパ連合運 営条約(Vertrag über die Arbeitsweise der Europäischen Union=AEUV, 英語名は Treaty on the functioning of the European Union)」と改名され ました。

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Ⅱ . 発展の推進力としての基本的諸自由

 もはや 55 年以上も前に発効したヨーロッパ経済共同体条約が域内統一市 場の形成を目指したことはすでに指摘しました。この目的の現実化に向け て、この条約は当初よりいわゆる基本的諸自由条項を含んでいました。商品 やサーヴィスの流通、居住や労働者の移動の自由がそれです。こうした基本 的諸自由についてこれからすこし立ち入ってお話ししようと思いますが、こ れらの基本的諸自由は、原則的には、国家単位で取引に障害を設けたり、商 品やサーヴィスの自由な流通や労働の場の自由な選択なり商業目的のための 居住地の自由な選択なりを制限する、といった国家的措置に対抗するもので す。基本的諸自由はもとより実定法を定立することはできないし、国内法相 互の調和のために実定法定立を通じて貢献できるわけでもありません。法の 調和のためには、指令や規則を与えることが必要で、この指令や規則につい ては後で触れます。しかし基本的諸自由に自由保障機能があることは否定さ れ得ません。このことは、かなりの程度、ヨーロッパ裁判所の判例に負って いるとみるべきでしょう。ヨーロッパ裁判所の判断によれば、基本的諸自由 は、国内における平等取扱0 0 0 0 0 0 0 0 0 0(Inländergleichbehandlung)を求める権利およ び AEUV8 条1項に定められた差別禁止の具体化であるだけでなく、自由 制限の禁止0 0 0 0 0(Beschränkungsverbot)全般を含むものだというのです。こ のことは、商品流通自由については、非常に早い段階で認められており、最 終的には条約に明文の規定が置かれさえしました。そして、ヨーロッパ裁判 所は居住自由についてもこのような意味での理解をするに躊躇がありません でした。重要な意味を持つ「クラウス(Kraus)」決定において、ヨーロッ パ裁判所は、居住自由は

「他の構成国において獲得された補完的学位(ⅱ)を掲げるための前提につい てのいかなる国内規定であれ、その規定がなるほど国籍を根拠とする限 り差別が問題とされずに適用され得るとは言いながら他方で、ヨーロッ

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パ経済共同体条約に保障された基本的諸自由の、係る共同体に属する者 による行使を妨げたりあるいはその行使の魅力を殺ぐために利用されや すいものである場合には、そのような国内的規定のすべてに、対立する 関係に立つ。かかる国内規定が、ヨーロッパ経済共同体条約と調和し得、

または一般の利益という強行的な論拠によって正当化し得るそのような 正当な目的を追求している場合にのみ、別論となろう(…)。ただ、そ のような場合でも、当該国内規定の適用は、その規定が目指す目的の実 現を保障するのにふさわしいものでなければならず、また係る目的の達 成に必要な限度を超えるものであってもならないであろう(…)。」

 ここに示された「四つの基準によるテスト」は「ゲープハルト(Gebhard)」

決定において見紛い様もなく確認されました。爾来、居住自由の国内法の手 法による制限は、以下の場合にのみ正当化され得るという見解がヨーロッパ 裁判所の確立した判例となりました。すなわち①差別的でない仕方0 0 0 0 0 0 0 0で適用を 見る場合、②一般の利益という強行的論拠0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0からその規定が必要とされる場合、

③追求されている目的の達成に適切0 0である場合、④必要な限度0 0 0 0 0を超えない場 合。

 このような基準に照らす限り、制限を設ける国内法上の強行規定はつね に、特にその正当化を要するかのような印象がまずは与えられました。企業 の居住地=開業(Niederlassung)、子会社の設立、既存の会社の移転といっ たことがらを、国内法が困難にし、従ってこうしたことがらの「魅力を殺ぐ」

ことがあり得ることは否定できないからです。労働法なり環境法なり租税法 なりの強行法規を想起してくださるだけでそのことはわかります。しかしか かる印象を真に受け取るならば、それは国内法にたいへんな圧力をかけるこ とを意味するでしょう。第一次的 EU 法からは、国内法の形成に係る具体的 な定めを読み取ることはできません。それなのに各国の立法権者の構築権限 には枠が設けられることになってしまうでしょう。純粋に国内法的な規律に は相応性審査(Verhältnismäßigkeitsprüfung)(ⅲ)が待ち構えており、国内法

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的規律は傾向としては追い詰められてしまうでしょう。

 商品流通自由に対しては、その制限の包括的禁止はかなり以前から認めら れていたのだということはすでに紹介しましたが、しかしまさにこの商品流0 0 0 通自由0 0 0は、ヨーロッパ裁判所における「ケック(Keck)」決定により、相当程 度限定されることになりました。すなわちヨーロッパ裁判所の見解によると:

「これまでの判例とは逆に、ある種の販売方法(Verkaufsmodalität)を 制限したり禁止することを定めた国内法規定を、他の構成国で作られた 製品に適用しても、かかる定めが国内においてその活動を行うすべての 経済活動参画者にも妥当する限り、そして係る定めが国内製品および他 の構成国の製品の売れ行きに法的にも事実上も同程度に影響をもたらす 限りにおいて、ダソンヴィル(Dassonville)判決の意味での構成国相 互の取引を(…)直接的または間接的に、事実上または潜在的に、阻害 するのに適しているとは言えない。すなわち、ここに列挙した諸前提が 満たされる場合には、かような規定を、この規定が念頭に置く製品を他 の構成国が生産していた場合、この製品の販売にあたって適用すること は、この規定が立法国の製品についても同等のことをしているのだから、

他の構成国の製品が市場に流通する過程を遮断したり強い規制をしたり することに適している、とは言えない。したがってこうした規定は、ヨ ーロッパ経済共同体条約0条(現行の

AEUV条)の適用領域に含ま

れない。」

 ヨーロッパ裁判所はこうして商品流通自由の領域については、製品に関連 づけられた定めであるのか、それとも販売方法にのみ関連づけられた規定な のかによって、区別をしています。販売方法に係る規定は、市場への参加可 能性に大した影響を持たないから、自由制限禁止の守備範囲には入って来ず、

差別取扱禁止0 0 0 0 0 0(Diskriminierungsverbot)と抵触するかどうかがせいぜい問 題になるに過ぎません。商品流通自由に対するこのような限定づけは、ほか

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の基本的諸自由についても、そしてとりわけ居住自由についても、同様の考 察が成り立ち得るのか、という疑問を投げかけます。すなわち、ほかの基本 的諸自由は、この「ケック」判決を応用するならば、市場参加に関わりを持 たない領域については、商品流通自由の場合と同じように、差別取扱禁止と 同じ意味しか持たないものと理解してよいのか、という疑問です。しかし司 法は人の流通の自由(労働者の移転自由および居住自由)について、はっき りとした言質を与えてはいません。とはいえ、ヨーロッパ裁判所は居住自由 の論点においても、国内法が基本的自由に及ぼす作用が「あまりにも不確実 で間接的なものに過ぎる場合」、国内法が居住自由を制限しているとは言え ないと判断しています。さらにヨーロッパ裁判所は、新たな決定において、

ただし「ケック」判決を明示で引用することはないままで、居住自由の制限 があることを基礎づけるには、ほかならない市場参画の途を邪魔しているこ との認識が必要だと強調しています。居住自由も商品取引自由も、国内法秩 序を一般的に点検することを可能にするものであってはならない以上、実際、

「ケック」判決において示された、市場参画の困難化という基準は居住自由 にも使う方がよいように見えます。AEUV9条5条は従って、市場参画0 0 0 0およ び居住そのものが問題である場合には、やはり制限禁止の原則を含むのだと いうことになります。これに対して、他のある構成国のとある地域に住所を 持つ会社による営業の遂行については、この営業の遂行は国内の一般的な定 めに従うこととなります。国内営業法、競争法および労働法が含む強行規定 ではあるが差別はもたらさない規定によって生じた自由制限は、居住自由の 保護領域に含まれるものではまったくありません。これらの法においては「ケ ック」判決の意味における単なる「販売方法」が問題であるにすぎないから です。相応性原則に根差した、国内法の統御はここでは生じてはなりません。

国内法は他の構成国の、あるいはドイツのどこかに、住所を持つ会社に対し て、その法が差別を生じせしめるものでないかぎり、立ちはだかってもよい わけです。

 ただし、国内会社法についてみると、権利能力の獲得に対して、資本調達

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に対して、有限責任に対して、それぞれ課される個別の要請を定める会社法 上の定めが、外国の会社の市場参画をかなり困難にすることがあり、「ケック」

判決が定める、市場参画に関わりのないという意味における例外をそもそも 具体的に考えることができない、という場合が問題になり得ます。ヨーロッ パ裁判所はむしろ居住自由そのものから、他の構成国の法により設立された 会社を外国法による会社として承認する義務を導き出しています。この結果、

国内の会社は、その事務所の住所を

EU

内のどこかに移転したり、国境を超 える企業合併および企業分割を行うかなり広範な可能性を享受することがで きます。また、同一性を担保したまま、ある他の構成国が設けている法形式 へと組織変更を行うこともできます。ここでは個別の問題に立ち入ることは できません。いずれにしても、EUを構成する他の国の法に基づく会社が住 所をある別の構成国内に移したとき、その後者の構成国の会社法をこの会社 に適用するのはごくごく限られた場合のみであるとは言えるでしょう。

 いわゆる「黄金株」、すなわち、EU構成国が個々の企業に対して、かか る黄金株の持分について合意を差し控え、企業における重要な論点について 拒否権を有し、取締役組織または監査役組織の構成員となる、といった特権 を有していることについて、ヨーロッパ裁判所の示した判断は、ここまでに 紹介した方向で歩みを進めています。裁判所の確立した判例によれば、かよ うな特権は、とりもなおさず資本流通自由を制限するものと見られています。

かかる特権は、会社の運営及び統御に対する他の出資者による影響力行使を 縮減し、投資の魅力を削減してしまうものです。したがって、考察はあげて、

国家による特権が、すでに紹介した「ゲープハルト」決定が示した四つの基 準によるテストに照らして正当性を持ち得るかどうか、にかかってきます。

さてヨーロッパ裁判所はこの点、厳格な態度を示しており、黄金株について はこれまでわずか一事例においてのみ正当であることを認めているにすぎま せん。黄金株を扱うその余の訴訟においては、構成国がその特権を正当化す る試みは成功しませんでした。ドイツ連邦共和国も、フォルクスヴァーゲン 株式会社(Volkswagen AG)についての特別法における特別な定めによって

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株主としての国家を優遇しようとしましたが、この試みもまた認められなか ったのです。ヨーロッパ裁判所による連邦共和国に不利な判決を受けて、こ の特別な定めのいくつかは廃止されました。しかしそのうちのいくつかはい まだに存続し、そのゆえに、連邦共和国は再度、条約違反を理由に提訴され ております。どのような判決をヨーロッパ裁判所が下すか、注目されます。

Ⅲ . 第二次的 EU 法の役割

 すでに述べたとおり、基本的諸自由のことは、条約により定められており、

したがって第一次的

EU

法の構成要素をなしています。これに加えて、条約 は第二次的

EU

法の公布を自らに授権しています。ただ、指令(Richtlinie)

と規則(Verordnung)とを区別せねばなりません。

 1.

 AEUV88条3項により、指令は、指令の名宛人たる構成国のすべてにお いて、それが達成すべき目標の点で拘束力を持ちます。しかし指令は、構成 国の内部の諸組織に、その目標達成のための形式と手段との選択を委ねてい ます。指令の名宛人0 0 0

EU

構成諸国だということになります。構成諸国は、

国内法が具備するさまざまの手段によって目指されている目標、すなわち国 内法相互の調和化、これを実現すべく義務づけられています。こうして、調 和化は二段階0 0 0の手続を通じて生じます。すなわち第一に、指令が構成諸国に 対して目標を提示する。それを受けて、第二に、構成諸国がそれぞれに、こ の目標を国内法に予定されている諸手段を通じて実現してゆく。指令の目標 は、構成諸国の国内法相互の調和化0 0 0(Angleichung)であり、これに対して、

国内法相互の統一化(Vereinheitlichung)はその目標ではありません。構成 諸国において調和化された国内法は、したがって、その国家法としての性格 を保持しているのであって、ただ、実質的な内容について相互に対応関係が なければならないということになります。AEUVにより広い領域について予

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定されている、指令による法の調和化手続は、あらゆる意味において、妥結0 0

(Kompromiss)であるという性格を持っています。この手続は、法の調和 化に配慮しなければならないけれども、その際、同時に、構成国の特殊性及 び構成国の立法権限を損なわないようにもしなければならない、というわけ です。法の調和化の基礎をなすのはこのように、ヨーロッパおよび構成諸国 の双方の立法権限の協働だということになります。指令はほとんどすべての 市民法の領域において大きな意味を獲得しています。特に、消費者法につい ての指令、会社法および資本市場法についての指令、労働法についての指令 が大事だということをわたしは申したいと思います。

 法定立の二段階手続は、争いの余地のない長所0 0を持っています。それは調 和化された法を、各国における国内法において発展してきた体系になじませ ることができ、したがって、国内法と共同体法とが調整されないままで併存 するという事態を防ぐことができるということです。そのゆえ、たとえばド イツの立法権者は、会社法に係る指令を国内法化する義務に対して、株式会 社法(AktG)、有限会社法(GmbHG)、または商法典(HGB)の対応する規 定を変更するということで応ずることができます。指令の国内法化にあたっ て、EU法が許容する範囲内において、国内法の用語法と体系とを顧慮する こともできます。こうした長所に対して、もとより短所0 0もいくつかあります。

たとえば国内法化の要請は、法の調和化のためにとられる措置の効果の犠牲 を伴って実現します。すなわち、構成国が指令の国内法化に応じたとしても、

ということは国内法化がなされていないということはできないような場合で あっても、調和化された法はそれぞれの構成国の法秩序に嵌め込まれている がゆえに、そして調和化された法の効果は国内法秩序に基づいて生ずるから、

固有の展開を見せることになり、この固有の展開は、構成国相互に齟齬をも たらしかねず、結果、調和化の措置の成功を損ないかねないものです。しか も、ヨーロッパ裁判所は、国内法が指令と同調しなければならないこと、そ して「指令に調和的に(richtlinienkonform)」解釈せねばならないことを要 求しています。指令に調和的な解釈はしかし、方法的に重大な問題を導くも

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のです。この問題に立ち入ることはここではできません。ただ、最近の判決 においては、ドイツの最高裁すなわち連邦通常裁判所は、国内法の定めにお ける明瞭な含意を持つ文言に注意を払うことなく、ヨーロッパ法に調和的な 解釈を行うことを繰り返しています。そうするとしかし、結果的には、指令 には規則とほとんど同じ効果が付与されることとなってしまいます。

 2.

 すなわち規則は

AEUV88条2項の定めにより、一般的に妥当します:「規

則はどの領域においても拘束力を持ち、どの構成国においても直接妥当す る」。指令とは異なり、規則は法の統一化0 0 0(Vereinheitlichung)を目指すこ とになります。規則は直接に妥当する法を生み出し、これを妨げる国内法を、

当該国内法が規則公布の前に議決されたのかそれとも後であるのかには頓着 せず、排除します。規則は、ヨーロッパ企業法の領域ではこれまで、カルテ ル法および会社法において見出すことができます。会社法において、規則は 国家を超える法形式0 0 0 0 0 0 0 0 0(supranationale Rechtsform)の導入によって意義を 獲得しています。たとえば規則は、ヨーロッパ経済利益団体(Europäische

Wirtschaftliche Interessenvereinigung, European economic interest

grouping)やヨーロッパ会社、ヨーロッパ協同組合といった法形式を案出す

ることで、ヨーロッパ起源の、そして構成国すべてにおいて利用可能な会社 の諸形式をもたらしました。ヨーロッパ法に基づく会社であるこれらの会社 は、定款上の住所を移転することができる利点を享受できます。ヨーロッパ 私会社(Europäische Privatgesellschaft)という形式を導入する計画は、こ れまでのところ実現していません。将来には、資本市場法の広い分野につい ても規則が規律することになるでしょう。

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Ⅳ . 将来の展望  1.

 さて、ヨーロッパの統一化と統合化の過程はこの50年間、継続的に進展し てきたことをこうして見てきました。そうすると、この統一化過程は何度も 限界に突き当たったことをも認識せざるを得なくなります。とくに触れるべ きものとしてここではいくつかのものを挙げるにとどめましょう。まずは、

ヨーロッパ憲法策定に向けた条約の失敗。この条約によってヨーロッパ連合 には(たとえば

EU

旗や

EU

歌というような)国家に比すべき性格をより一 層付与されるべきはずでした。次に、大英帝国、デンマーク、スウェーデン の三か国がユーロ圏への参入を拒んだこと。最後に、ヨーロッパ内の国境検 査を無くしそのことにより

EU

内の旅行を障壁なく行えるようにすることを 目指したシェンゲン(Schengen)協定に、EU構成国の全てが参入したとは とても言えない状況であること。

 短期的あるいは中期的な将来において、ヨーロッパがさらに拡大するとい うことはあまりあり得ることではないでしょう。この数年わたしたちがヨー ロッパにおいて経験している国家債務の危機は、ある種の政治的連合および とりわけ共通の財務政策、財政政策そして租税政策を設けることなしに通貨 連合を導入したことが冒険でもあればひょっとすると誤りですらあったかも しれないということに気づかされるきっかけとはなっています。しかしだか らといって、これまで放置しておいたことをおいそれと実現できるかという とそれもまた現実的ではないのです。この危機はむしろ、多方面において、

また少なくない構成諸国において、ヨーロッパおよびユーロに対する不信感 を惹起するものであり、経済的基本枠組が少なくない構成諸国において根本 的に異なっていることや、EUの強化は痛みを伴わずには生じえないことを 明らかにするものでした。統合の方面にではなく、二つの異なった速度を持 つ展開を内包したヨーロッパというモデルが模索されています。それは通貨 連合の領域およびシェンゲン協定の領域でわたしたちがすでに見たモデルで

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もあります。このモデルが目指すのは、構成諸国の一部 ―― ここで意味さ れているのは構成諸国のなかでも核心を担う諸国 ―― は、統一化過程統合 過程を今後も歩んでいくけれども、それ以外の構成諸国は現状のままとどま る、というものです。このモデルへの変化が意味するのは、とくに危機に見 舞われた南側の諸国は、経済的に安定している北側の諸国と切り離されねば ならないということです。このモデルがまことに現実的だとまではわたしに は見えません。しかしこうしたモデルは、ドイツでもそれ以外の構成国でも 生じてきている不満の表現であります。ユーロの安定のために取られた措置 がもたらした費用や、景気の低下およびいくつかの構成国の債務が未だに巨 額であるという帰結は、これまでは危機の被害を相対的に被らずに済んだ構 成国をも巻き添えにすることに対する危惧がこの不満の噴出を支えていま す。心配の種としては、南の諸国において、とくにギリシャとスペインにお いて、若者の失業率が高いことや、また流通市場を通じて、しかも自由な競 争においては形成されないほど低い利息とともに国債を買い占め、そのこと により結局はいくつかの国家の財政を支えることを目指すというヨーロッパ 中央銀行の政策が挙げられます。ヨーロッパ中央銀行のこうした実践はイン フレへの懸念を掻き立てている(90年代にインフレに苦しめられたドイ ツにおいてはこの懸念は非常に広範に流布されています)だけではありませ ん。むしろ、ヨーロッパ中央銀行が買い占めた国債が不渡になるというリス クを最終的には個々の構成諸国が背負わねばならないのではないか、そうし て国債についての「共同体化」が達成されてしまうのではないか、という心 配も大きいのです。なぜなら、ヨーロッパ中央銀行の担い手たる構成諸国は この銀行の財政状況の最終的な面倒を見なければならないのだから。

 わたしを統合プロセスの将来について懐疑的にさせるのはしかし、具体的 な危機をきっかけにした展開および懸念だけではありません。より重要なこ ととして、少なくない市民が、ヨーロッパの次元における法定立には民主的 正当性に欠けるところがあるのではないか、ということに自覚的にもなれば、

また敏感にそれを感じ取ってもいるということがあります。ヨーロッパ連合

(15)

というのは現在でも国家連合であるにとどまり、全体が一つの国家なのでは ありません。この国家連合の法定立に対する正当性は従って、構成諸国の立 法権限を

EU

に移譲することに基づいており、しかも構成諸国の立法権限自 体は、それぞれの国内の憲法にその基盤を持っています。理論的にはこうし て、ヨーロッパ連合の高権的措置は国内憲法によって正当化されるというこ とになります。しかし市民の視点からすれば、こうしたモデルは結局のとこ ろ理論に過ぎないものと映ります。実際には委員会とヨーロッパ議会が法定 立の範囲を確定しているのであり、その範囲は最終的にはすべての生活圏を 覆い、したがって、EU市民に向けられた法律すべての本質的な部分は直接 にヨーロッパ起源のもの(規則の場合)であるかまたはヨーロッパを後ろ盾 とするもの(とりわけ指令の場合)であるかどちらかです。ヨーロッパに対 する倦怠感の醸成には、ヨーロッパの規則制定者がマーストリヒト条約に特 に強調されている補充性原則(Subsidiaritätsgedanke)を軽視している場合 があまりにも頻繁に看取される、ということも一役買っています。「悪名高い」

定めとして、キュウリの曲がり方の程度がどの程度ならヨーロッパの市場に 出回ってもよいかを定めた規則や、また、すべてのヨーロッパのレストラン に対して、レストランに訪れた客のテーブルに、栓のしていないオリーブ油 の瓶を置いてはならぬと定めた試みなどがあります。もちろん

EU

市民はヨ ーロッパ統合がもたらしたさまざまの自由を楽しんでいることもまた確かで す。すなわち、製品の流通自由やサーヴィス流通の自由のみならず労働者の 移動自由や国境検査の解体、さらに近隣諸国との友好的な関係などがそうで す。それでもこうした達成を人々は当然のこととして享受するのであり、こ うした達成は戦いによってはじめて勝ち取られたこと、その際に法が中心的 な役割を果たしたこと、は忘れ去られてしまっています。

 2.

 統一化0 0 0過程の強化を巡る問いと当然ながら区別されねばならないのは、構 成諸国の私法の調和化0 0 0は今後どうなってゆくのか、という問いです。この問

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いについては静止状態があるとは言えません。会社法および資本市場法が示 すように、ヨーロッパ委員会は今後も指令と規則との公布を続けるでしょう。

0年月日の委員会において、「ヨーロッパ会社法とコーポレート・ガ ヴァナンス:行動的な株主と競争によりよく生き残ってゆける企業のための 現代的な法的措置」に係る行動計画が示され、委員会が近々どのような措置 をとろうとしているかが示されました。とくに挙げておくべきは以下の点で しょう:上場会社に課される義務的公開において、経済外的なものを含むリ スクの公開が要請されること;株主権行使コンサルティングに携わる者の利 益相反をどのように取り扱うかについての措置;組織化された投資者の株主 権行使のあり方の公開;株主参加における一層の透明性確保のための措置;

[たとえばコーポレート・ガヴァナンスに係る論点を巡って株主たちが適法 な協力行動を行うことと区別された]「共謀行為(acting in concert)」が成 立するための構成要件の精密化;国内のコーポレート・ガヴァナンス・コー ドに従って提示されるべき、法令順守表示要請に適切な規律のあり方;[複 数の企業による]「グループ利益(Gruppeninteresse)」という概念の承認;

会社と会社に近い者たちとの間の取引(related party transactions)の統御 の改善;最後に、企業の国境を超える再編成の簡便化。この行動計画はこの ように、遅くとも00年5月日の会社法に関する行動計画によって導入 された展開を扱っております。この行動計画は構想の面からみると上場会社 と非上場会社との区別を行っていることが特徴的です。ここでなされている 提案は基本的に上場会社にのみ妥当すべきものだというわけです。もう一つ の特徴は、いくつかの各論に係る措置だけを取り扱っていることです。構造 に係る(これは、株式会社の構造及び労働者の共同決定についての株式法上 の定めの調和化を意味します)指令の計画及びコンツェルン指令(すなわち 企業グループに株式会社を結合させる際に妥当すべき規範の調和化を目指し た指令)の計画に対しては、委員会は00年の行動計画によって最終的に 手を切りました。とりわけ、コーポレート・ガヴァナンスのためにとられた 措置は会社の構造と基本的組織とに関わるものだったし、行動計画はコンツ

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ェルン法上の諸問題もかなり重要な部分について扱っています。しかし委員 会はここでは完全な調和化を目指すのではなく、個別の措置の実現だけを狙 っています。その個別の措置とは、①会社の組織維持者及びそれぞれの機能 の担い手が機能的にかつ会社の利益のための行動を確実にするような措置を 行うこと、②企業に対して国境を超えるような企業再編の可能性を提供する 措置を行うこと、そして一般的に、③企業の業績能力をより高め、競争力を 高めるための措置をとること、です。こうして、法の調和化は、ずいぶん以 前から、それ自体が自己目的なのではなくなっており、むしろ、ヨーロッパ 連合企業の危機克服の手段として、また競争力の確保及び強化の手段と見ら れるようになっているのです。全体として、00年の行動計画を以て、ア メリカ合衆国的な法体系への発展が示されており、その発展の先には設立自 由、会社の広範な機動性、国内会社法の競争力といったものが控えています。

0年の行動計画はこの傾向を裏書きしています。この行動計画において も委員会の関心事は、上場会社のコーポレート・ガヴァナンスおよびコンツ ェルン法の領域なのであって、会社法の調和化それ自体、というわけではあ りません。

 委員会によるこうした「控えめの」やり方は、以下のような背景に照らし て理解せねばなりません。すなわち一般的に市民法の調和化、そして特に会 社法の調和化、というものは、ヨーロッパ連合がこんにち傘下におさめる構 成国の数の大きさに照らしてほとんど実現不可能である、ということです。

国ごとの個性による差異はあまりに大きいし、それぞれの国の私法秩序の間 に横たわる基本自体に関わる相違も、あまりに大きい。そして、株式会社法 上のまた有限会社法上の規律の他の私法の諸部分との絡み合いと体系的な結 びつきとはあまりに緊密なものがあります。そういうわけで、委員会が会社 法の領域における活動を開始した時代、すなわち960年代および70年代、

株式法 ―― それは、すべての構成国の法秩序に見られる会社形式であって、

しかもその形式の会社はしばしば

EU

全体に亘る活動を行いまた組織化され た資本市場を要請することもあり得る、そのような会社形式に係る法で

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す ―― のまさに重要な領域における調和化のために努力したのでした。今 日ではもはや追及されないこのような目標に資したのは、とりわけ、公示に 係る、資本に係る、会社合併に係る、会社分割に係る、さまざまの指令であ り、さらに、会社の構造に係るまたコンツェルン法に係る指令の制定に向け られた諸提案でした。こうした計画から委員会が手を切ったのには、委員会 が自らにできることの限界を悟ったからでもありました。市民法および会社 法が6つの構成国からなる(しかもその市民法秩序が全体としてローマ法の 刻印を受けているそのような構成国からなる)共同体において調和化さるべ きかどうか、ということと、8か国からなる共同体があって、そのそれぞれ の構成国の法は当然にさまざまの出自と性格とを持っている、というのでは、

やはり違いがあります。

 ヨーロッパ会社についての規則の辿った運命にも、問題の所在がよく出て います。この規則は00年0月8日という日付を持っています。しかしヨ ーロッパ会社(Societas Europaea=

SE)のアイディアははるかに古いも

のでした。このアイディアは、チビエルジュ(Thibièrge)が早くも959年 フランス公証人会議においてこのアイディアについて講演を行ったときまで さかのぼるのです。ロッテルダムの商法学者ピーター・サンダース(Pieter

Sanders)はこのアイディアをほどなく取り上げ、委員会により設立された

専門家グループの一員として966年月にヨーロッパ株式会社法の規約に 係る草案を定式化しました。この草案はその後970年に委員会提案として 閣僚理事会(Ministerrat)に提出されました。これに対しては多数の見解が 寄せられ、これがきっかけとなり委員会は自身による提案を全体として練り 直し、975年に改訂版を提出しました。この改訂版にも反論が相当寄せら れました。988年7月になって漸く、委員会はもういちど、主導的にこの 問題に取り組み、メモランダムのかたちで相当スリム化した提案を予告し、

その提案を989年8月に委員会は提出し、99年5月にはその改訂版を提 出しました。しかしこの草案も合意を得るには至らないことが判明します。

その原因はなにより、労働者の共同決定という問題でした。この問題は引き

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続いて展開された討論においても中心的な問題であって、000年月0日 のニースにおける[閣僚理事会ではなく各国首脳が集まる]ヨーロッパ理事 会において漸く克服されるに至りました。970年代に提出された提案と、

最終的に承認を受けた規則とを区別するのは、まず以てその量です。当初の 提案は00以上の条項を含んでおり、こうした条項は会社の住所が置かれた 国の株式法に立ち戻ることを不要にするほどのものでありましたが、最終的 に承認を受けたものは70条しか持っておりません。新たな構想はこうして統 一法の創出を相当程度断念したこととセットになっているのであり、「ヨー ロッパ株式会社法」という将来の国境を超える法形式が本当に成功するのか について疑念を持たせるに十分でした。たとえばこの規則にはコンツェルン 法に係る定めはほとんどありません。株主による議決についても間歇的な定 めがあるばかりですし、株式の構造および引渡について、さらにヨーロッパ 会社の解散、清算および倒産については、全然定めがないというありさまで す。こうした背景に照らすと、規則9条1項に、会社本社の住所地の国内法 を参照せよと定められているのには、きわめて実践的な意味があります。こ のことは、ヨーロッパ会社法が構成国ごとにずいぶん異なった内容を持ち、

「各国ごとのヨーロッパ会社」ができあがっていく、ということを意味します。

なおヨーロッパ会社における、企業的共同決定もこのことにより影響を受け ました。なお、共同決定については別の補完的な指令において定めが置かれ ており、またこの共同決定という問題群は長いことヨーロッパ株式会社の構 想および関連する指令の計画の実現を長い間拒んでいました。ヨーロッパ会 社法の共同決定の場合、事業を主導する機関と監査役機関とを区別する二元 的体系においては、共同決定は監査役機関において実現し、一元的体系にお いては、事務機関の内部に共同決定が実現されます。いずれの場合において も、労働者が会社の諸問題について影響力を行使できるということが肝心で す。その際、影響力の行使の仕方は、会社の監査役会または事業所の構成員 の一部を自らの手で選びまたは指名する権利を持つことによるか、あるいは こうした機関の構成員の一部の指名を推薦しまたは拒否する権利を持つこと

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によるか、に分かれます。さて指令は次のような交渉手続を選択しました。

それによると、交渉委員会というものを特に設け、この委員会を関係する会 社および子会社と事業所における労働者を代表するものと捉えることがまず 要請されます。そしてこのような交渉手続は、ヨーロッパ会社の設立に関与 した設立諸会社において最も広く利用されている共同決定モデルが基本的に は実現さるべし、という調整的な規定によって補完されています。ここでは 個別の論点に立ち入ることはしません。決定的なのは、ヨーロッパ会社法の 法形式を如何に定めるかを巡る0年以上に及ぶ作業を通じて、共同決定法を 調和化することが上手くいかなかったということです。調和化を進めるかわ りに、共同決定の水準及びその基準については国内法が参照されることとな ったのですから。

 こうして結局、会社法について見るならば一定の論点についてのみ調和化 の措置が可能であったということがわかります。これを肯定的にとらえるな らば、こうすることによってさまざまの国の法秩序相互の競争が生ずるに至 ったということもできるかもしれません。すでに見たように会社は居住自由 を享受するわけですから、会社は住所地決定を会社法および市民法の品質に 対応させて行うことができるということになります。ただ実際には、そうい った要素は住所地決定にあたっては大きな役割を持っていません。住所地決 定に当たりより重要なのは ―― ほかにもいくつかの要素はありますが ――

租税法、環境法、社会保障法および労働法です。そういうわけで法秩序相互 の競争という考えは法の調和化過程が破綻したということを補って慰めるに 足るものではありません。最近でも、統一売買法の創出という試みについて、

法の調和化が困難であることが露呈しました。売買契約の当事者が当然に適 用可能な売買法に替わるもう一つの方策として選択することができるという 意味での「オプションとなる仕組」を作り出すことだけが目指されていたに もかかわらず、個々の構成国による抵抗には強いものがあって、計画はもは やこれ以上追求されては行かないでしょう。同じようなことは、ヨーロッパ 民法典の作成というより野心的な計画についても妥当すると言えましょう。

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 3.

 結論を述べることとしましょう。かつてのヨーロッパ経済共同体そして現 在のヨーロッパ共同体およびヨーロッパ連合はすべて、常に法的共同体とし ても理解されまた定義されるものであったということを見て参りました。こ れらは常に法に基づいて成立したのでもあります。それだけでなく

EG

なり

EU

なりの任務は、自由および経済的成功を法を通じて獲得しようという点 にありましたし現在もそうあり続けています。構成諸国の法相互を調和させ ることにより統一化を進めそのことによってあわよくば政治的連合の形成の ための土壌を形成しようという目論見は、かなり以前から困難に逢着してい ます。その困難はなにより、構成国の数が増大したことに起因していますが、

統合をさらに強化させようということに対する疑念が広範に共有されている ということにも起因していることも確かでしょう。わたしの見立てでは、国 家債務の克服に成功したときに初めて、今後も語るに足る進歩が期待され得 ると言うしかありません。こうして、統合の過程の初期とでは前提状況が現 在は完全に異なっています。ヨーロッパ経済共同体設立は最終的には、第二 次世界大戦の惨禍はなにを措いてもヨーロッパという考え方(ⅳ)を活かすことに よって克服すべきものであり、また確固たる法的基盤に立つ共同経営は平和 構築に資するのだ、という認識から生まれたものでしたが、今日、ヨーロッ パ連合は、自らが、国家債務危機を生じせしめることに一役買ってしまった のだという負い目に苦しんでいます。市民や政治家の多くが共有する懐疑、

そしてヨーロッパの立法者が

EU

の拡充にあたって謙抑的であること、これ らはここに述べたような背景に照らすならば、容易に理解できます。ただ、

こうした所見は、ヨーロッパという考え方は危機が長期的に克服されれば再 生しまた開花することがあり得るかもしれないという希望へのきっかけをも 提供します。この所見にとって、そのようになればたいへん望ましいことな のです。ご清聴に感謝いたします。

(22)

訳注

(ⅰ)本稿においては、Harmonisierung とAngleichung とを特に区別することなく用いているので、

調和化と平準化、というように訳語を区別することなく、両方を「調和化」と訳し、

Vereinheitlichung すなわち「統一化」との技術的な区別を明瞭にすることとした。

(ⅱ)ここではエディンバラ大学で習得した法学修士号LL. M. をドイツで提示することが許される かが問題になった。

(ⅲ)「比例性原則による審査」が専門的には流布する訳語だが、意味が分かりにくいので村上淳一 が、『結果志向の法思考』グンター・トイブナー編/村上淳一・小川浩三訳(0)、の75頁 で提案する訳語に従う。なお、訳語については全体に、村上=守矢/マルチュケ著『ドイツ法 入門』第8版(0)、を踏襲した。

(ⅳ)ヨーロッパという考え方は、国家的な対立を乗り越えるという意味合いを持った。またヨーロッ パの根柢に人文主義の伝統に根ざした、人権の如き、簡単に相対化し得ない基本的価値がある、

という含意もあった。

参照

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