「北方
4 島での共同経済活動」に関する論考
望月喜市
2016 年 12 月 15,16 日の日ロ首脳会談では、日ロ経済協力案件は非常な拡大
を見せたが、領土問題と平和条約締結交渉の進展は見られなかった。唯一の手
がかりとしてクローズアップされたのは「北方
4 島での共同経済活動」に関す
る日ロの合意であった。
この問題について
東京新聞外報部デスク(前モスクワ支局長)常磐 伸 氏の講演を以下で要約した(JCA ニュースレター17 年 2 月 28 日付け)
問題の複雑さは、「『北方
4 島での共同経済活動』をどちらの法制度のもと
で実施するかという点だ」。斎藤大輔氏は「特別な制度のもとで行われるとさ
れるが、ロシアの法制度が適用されて日本が従うような事態になれば、ロシア
の主権を認めたことになりかねない。多くの国家機能を共同運営会社に移譲し
て、日本企業が北方
4 島で経済活動を行うに当たって、名目上、主権問題を回
避することも考えられる。」(ロシア
NIS 調査月報 2017 年 3 月号 97 頁)と
書いている。
筆者(KM)の私見では、国後・択捉はその経済的・社会的・軍事的価値か
らも、ロシアは日本に引き渡すつもりは絶対にない。さらに、日本としても、
サ条約でも
56 年共同宣言でも、4 島を日本は放棄したのだから、4 島返還を要
求する法的根拠は日本にはない。とすれば、国後・択捉での日本企業の経済活
動はロシアの法制下で実施することは当然ではないか。歯舞・色丹での活動に
ついては、斎藤氏の「共同運営会社」のもとでの企業活動が妥当であろう。
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★北方4 島での共同経済活動について プーチン大統領は、2016 年 12 月 15 日 11 年ぶりに日本を公式訪問し、15 日は安 倍首相の地元山口県長門市、翌 16 日は東京と首相官邸で、それぞれ首脳会談を行っ た。今回の会談は安倍首相が 2012 年末に首相に再登板して以来、積極的に推進して きた対ロ外交の総決算として位置付けられていた。しかしながらどうやら北方四島 の帰属問題についてはプーチン大統領と協議しなかったようだ。双方の合意は「共 同経済活動」に関するプレス向け声明として、日ロ双方が調整の上、別々に発表し た。このプレス声明の一番重要なポイントは(日本政府の説明によれば)、北方領 土での共同経済活動が「平和条約に向けた重要な一歩になり得ることに関して、相 互理解に達した。かかる協力は、両国間の関係の全般的な発展、信頼と協力の雰囲 気の醸成、関係を質的に新たな水準に引き上げることに資するものである」と強調 して、その上で「平和条約問題を解決する自らの真摯な決意を表明した」ことにあ る。 共同記者会見で首相は、「過去にばかり囚われのではなく、北方四島の未来図を 描き、その中から解決策を見いだすアプローチ、未来志向の発想が必要であり、そ のアプローチこそが最終的な結果に続く道と確信している」と述べている。 問題は「共同経済活動」が領土問題の解決と、平和条約締結にどう結び付くかで ある。安倍・プーチン会談は第一に安倍政権の時も含めて今回で 16 回となった。第 3 次 安倍政権発足後、2013 年 4 月にモスクワを訪問して以来、プーチン大統領と首脳会 談を行うために安倍首相は計 5 回もロシアを訪問した。特に安倍首相のロシア訪問 のペースは突出している。2016 年だけでも 5 月にソチ、9 月にウラジオストクを訪 問し、首脳会談を行い、プーチン氏訪日準備を重ねてきた。日ソ時代を含めて首脳 同士がこれほど頻繁に首脳会談を重ねたことは、おそらく前例がないかと思う。 し かし今回の首脳会談結果については「厳しい言い方ですが、やはり領土交渉の大き な後退と言わざるをえないと思う」。 その理由はプーチン大統領本人が国家主権にかかわる北方四島の帰属をめぐる交 渉を自ら主導して、袋小路に陥った北方領土問題打開しようという意思が伺えない ことにある。一方北方領土交渉とは裏腹に、経済協力に関しては今回ご承知のよう に多くの合意が達成された。今回の措置の首脳会見で提案された 8 項目の経済協力 案を具体化して政府当局間で、政府間レベルで 12 件、民間で 68 件もの事業計画の 合意がなされた。さらに今後その実現の進捗状況を監督するという仕組みまで出来 ている。安倍首相は共同経済活動こそ平和条約に至る道であると力説して大きな成 果だと言っています。 常磐伸氏は共同経済活動についてつぎのように述べています。以下、常磐氏の講演 の引用である。(東京新聞外報部デスク(前モスクワ支局長、JCA ニュースレター No.334、第 148 回研究会、2017 年 2 月 288 日) <さて北方四島での共同経済活動ですが、これはソビエト時代から政治家を含め て学者レベル等でも提言してきた構想です。具体的に形になってきたのは、1998 年 に訪ロした小渕首相に対して、エリツィン政権が正式に提案して、両政府で法律的 な条件などを検討したのですが、日本が参加する前提として特別の法制度を求めた ことに対して、やはりどうしてもロシア側が折り合うことができず、日ロ双方の溝 がうまらず、頓挫しました。・・・その後、プーチン政権でも常にロシアが日本に 働き続けて、日本側でも何度か積極的な姿勢を示したことがありましたが、同様の 理由で一度も実現していません。ではなぜ今回、そのような経緯のある共同経済活 動を日本から提案したのでしょうか。それは、プーチン政権がこの四島の帰属をめ ぐる交渉、主権問題に対して非常に強硬なために、まずロシアが受け入れそうな入 口から入り直して、そこから突破口を見出したいということだと思います(下線は KM による)。その狙いは、ロシアを実効支配する北方四島の中にロシアのいわば主 権の及ばない領域を作り、それと同時に並行的にロシア人の島民との様々な形の相 互理解・相互交流を図っていって、日本の存在感を高めながら平和条約交渉につな げたいということでしょう。一方、ロシア側は、日本の願望、狙いは百も承知です。 百戦錬磨のプーチン政権は日本のそのような思惑は当然のように折り込み済みで、 日本が期待するような柔軟姿勢に転じる可能性ほとんどないでしょう。」 「今回の首脳会談について、ロシア政府紙の「ロシア新聞」は、日本が共同経済 活動に踏み込むとは予想してなかった、日本がロシア領前提とした南クリールの経 済発展計画に参画すると予測していなかったとまで書いているほか、概ね首脳会談 はロシア外交の勝利だと受け止めています。ロシアの日本専門家、極東研究所のキ スタノフ氏なども日本側ここまで譲歩すると予想しなかったと言っています。キス タノフ氏はロシアの立場を強化するものとして、北方領土での日本との共同経済活 動を以前から非常に重視していましたので、今回の決定は北方領土問題を質的に違 う次元にすると評価しています。
それからこれが非常に重要な点ですが、ロシア側自身にとって共同経済活動を今 度こそぜひとも具体化したい事情があるのです。ロシアが北方四島で進める開発計 画が資金面で再び苦境に陥っているということです。 ロシアでは新たに 2016 年から 2025 年までに、 700 億ルーブルを投じて開発を進 める「クリール社会経済発展計画」が始まっています。実際には、相当の財政難で 早くも計画の実現が困難な状況であることがいろんな事情から明らかになっていま す。ですから日本との共同開発がますます必要になっているのです。 実際にトルトネフ副首相は首脳会談で合意した分野以外についても、住宅の建設、 ゴミ処理、道路整備などのインフラ整備への参加を日本側に求めていきたいという 意向も明らかにしています。しかしながら、可能性は低いが、仮に主権問題を玉虫 色のかたちでなんとかクリアし、日本企業が参加する特別な枠組みができたとして も、難題は山積みです。北方領土四島の非常に劣悪なインフラ状況や、地元行政当 局の根深い汚職、その他にもさまざまな問題があり事件、事故も少なくなくないの です。・・・プーチン大統領は訪日の少し前に行われた日本テレビと読売新聞との 会見で、「ロシアに領土問題は存在しない。あると考えているのは日本だ」と強硬 な発言をしました。・・・ それでも日本政府は今回の日ロ首脳会談の大きな成果として、プーチン大統領が、 経済協力だけを進めるのではなく、平和条約締結が最も大事である、と明言したこ とを重視しています。しかしながらプーチン政権にとって、領土交渉と平和交渉の 意味は、本質的に異なっています。日本側からしたらナンセンスですがそれが現実 です。・・・ それではロシア側は、平和条約までの行程をどう想定しているのか、私の想定で はおおむね次のようになると思います。 日本が第1段階でロシアの主権下での北方領土開発へ本腰を入れる。また経済協 力をしっかりやる。経済協力や北方領土開発が活発化していく中で日ロの信頼醸成 が出てきたあたりで日本は四島の帰属交渉を取り下げて、北方四島が「第二次大戦 の結果、ロシア領となった」ことを認めて、平和条約を締結するということです。 つまりこれは本来の意味では領土交渉とは言えないでしょう。 それを受けて、ロシアは歯舞、色丹両島の主権問題など、実際の引き渡し条件に ついて、日本との交渉に入る。これがロシアのいう領土に関する交渉だと思います。 最大ならば2島の主権の移転もあり得る。こういう論理だと思います。・・・プ ーチン大統領は今年に入って記者会見などで、引渡し明記された 2 島について主権 がどこに属するか共同宣言では明記してないと再び、何度も言っています。しかも ロシア側は、首脳会談の直前には日本との協議で、日米安保条約の北方領土への適 用の問題を取り上げるなど、日本の安全保障、日米関係の問題も絡めるという、さ らに困難な条件を打ち出してきています。・・・ 内政的には、 2018 年には大統領選が控えています。プーチン大統領の支持層で ある保守愛国層を考慮し、領土問題で譲歩する可能性は極めて低い。そういう中で 安倍首相が過去に固執せずロシアとの共存共栄を訴えているのです。 新しいアプローチは目先の日ロ関係の改善に役立ちますし、私自身もこれを全て 否定するものではありません。日露関係の改善に資すること、それ自体は意義があ ると思います。しかし両国の間のトゲを抜くための、根本的な問題としての四島の 帰属交渉を真剣に行うこと、このことこそが、最も重要なのであり、現在の状況で はこの帰属交渉が本道に戻るには不透明な情勢だと思います。・・・> ここまで常磐氏の講演の引用。
★以上の議論に関連した最近の若干のニュース
→北方領土通信網に中国企業選定 敷設調査でロシア(D170111)(要約)ロ政府系通信 大手ロステレコムは、サハリンと択捉、国後、色丹3島の中心集落を結ぶ海底光ファイ バー敷設の調査設計事業に中国の通信大手、華為技術(ファーウェイ)を選定したと発 表。北方領土でロ政府が進めるインフラ整備事業に中国の大手企業が直接参加するのは 初。日ロ首脳会談で合意した「共同経済活動」の具体化に向けた協議にも影を落としそ うだ。日本政府は北方領土で中国や韓国など第三国の企業が活動することを警戒してき たが、ロシア人住民の間では低速なインターネット環境への不満が根強く、ロ政府は対 応を急いできた。 →参院北方特別委、根室で懇談 元島民「財産権保護を」 返還運動後継者育成も (D170113)(要約)根室市で 12 日に行われた参院沖縄・北方問題特別委員会の懇談会で、北 方領土元島民や自治体関係者らが首相の現地視察実現や隣接地域の振興対策の充実、今後 の返還運動を担う後継者育成への支援などを訴えた。委員側も領土問題に重点的に取り組 む姿勢を強調。千島歯舞諸島居住者連盟の脇理事長は北方四島での共同経済活動に関し、 「元島民の財産権の保護に十分な配慮を求めることが必要」と訴えた。また、北方領土復 帰期成同盟の川村事務局次長は「元島民の高齢化が進み、返還要求運動の活動低下が心配」 と述べ、修学旅行誘致や領土に関する教科書の記述を増やすなど領土教育の拡充強化を求 めた。 →日ロ中間ライン、緊張の日々 根室海保が哨戒を初公開(D170118)(要約)根室海保は 17 日、北方領土と北海道の中間点を結ぶ根室海峡の「日ロ中間ライン」付近での巡視船の 哨戒業務を報道機関に公開。北方四島に接する根室海保の日常業務を知ってもらうことが 狙い。中間ライン付近で報道各社を巡視船に同乗させるのは初。 →北方領土、共同経済活動実現へ 岸副大臣、ロ外務次官と協議(D170118)(要約)岸外 務副大臣は 17 日、モルグロフ外務次官と会談、北方領土での共同経済活動や元島民の北 方四島訪問手続き簡素化の実現に向けて協議。マントゥロフ産業貿易相とも会談し、プー チン氏訪日時に日ロ企業が多くの合意文書に署名したことを挙げ「日ロ関係発展の潜在力、 双方の意欲が強いことの証し」と強調。合意案件の着実な実施やロシアのビジネス環境改 善について意見交換した。 →択捉 進む観光地化 ツアー集客本格化 日本の投資期待も(D170201)(要約)択捉島 の観光地化が進んでいる。島で最大企業ギドロストロイは昨年から島内ツアーの販売に取 り組み、旅行業専門の子会社「ギドロストロイツアー」を設立。今年は 500~千人を目標 に、観光客誘致を進める。日ロ両政府が検討する共同経済活動を見据え、関係者には日本 からの集客や投資に期待も。 →「北方領土の日」2 月 7 日 返還への思い、次世代へつなぐ道(D170207)(要約) ■根室 領土交渉、進展見えず 揺れる元島民/根室市で、運動の進め方を巡り揺れて いる。四島返還を強く訴え続けるべきか、協議の後押しに運動の軸足を移すべきか―。元 島民の高齢化が進む中で「時間がない」との焦燥感もある。日ロ首脳会談で領土は動かな かった。元島民の間で意見の相違は折に触れて表面化する。根室市の長谷川俊輔市長は 「共同経済活動の実現を北方領土の返還に結びつけていく道筋を見いだしていかねばなら ない」。 ■「語り部」の島民 2,3 世 体験継承へ試行錯誤/北方領土の元島民の高齢化が進む中、 千島歯舞諸島居住者連盟は元島民が島での体験などを語り継ぐ「語り部」の後継者育成に 力を入れる。後継者は 2,3 世が中心で「何をどう伝えるか」に試行錯誤を続けている。実 際には知らない島での体験をどう生き生きと伝えるかが後継者たちの共通した悩み。 ■弁論大会に取り組む札旭丘高 高校生の主張に変化/北方領土をテーマにした高校生弁 論大会(北方領土復帰期成同盟主催)は、若い世代が領土問題への認識を深め、解決を訴える機会になってきた。中でも札幌旭丘高は 2001 年度から毎年応募し本年度、北方領土 返還要求運動推進功労者として政府から表彰された。多くの高校生にとって、北方領土問 題は取っ付きやすいテーマではない。大会準備は知識がほとんどない状態から始まる。成 田教諭は「北方領土問題は政治や国際情勢に理解を深める入り口になる」。 ■豆記者 40 年 南北の絆/北方領土を望む根室の納沙布岬を、函館と沖縄の小中学生が毎 年訪れている。両地域で希望して派遣される「豆記者」たち。有志の主催でそれぞれ 40 年以上続いており、息長い活動は少しずつ広がりを見せている。 →〈社説〉北方領土の日 返還の願いに沿う道を(D170207)(要約)1855 年 2 月 7 日、日本 と帝政ロシアが日露通好条約を結び、国後、択捉、歯舞、色丹の北方四島を平和的に日本 領と確定した。安倍首相は先の衆院予算委員会での答弁で、ロシアとの平和条約を「私の 手で締結したい」と言明。だが昨年の日ロ首脳会談では島の帰属の問題が先送りされ、元 島民らの間には政権の交渉姿勢に対する不信感がくすぶる。ロ側主導に陥った交渉を立て 直し、四島の帰属の確認という原則に引き戻さねばならない。当面は共同経済活動が交渉 の中心になるのだろう。しかしロ側は、自国法制下での運用を主張。「特別な制度」の実 像は見えず、実効支配追認を招く懸念が残る。首相は「平和条約締結への一歩」と位置づ けるが、ならば帰属確認につなぐ道筋を示すべき。 →空路「共同経済活動で」 四島訪問巡りロ外務次官(D170211)(要約)モルグロフ外務 次官は 9 日、北方領土の元島民の墓参拡充で日本側が求めている航空機による訪問につい て、両国が検討している四島での共同経済活動のために検討する考えを示した。同氏は、 実現には「ロ側の空港に国際的な地位を与えるための法律や技術的な手続きが必要」と述 べた。日本側は、高齢化が進む元島民の負担軽減を理由に早ければ今年からの空路活用を 目指しているが、具体的な開始時期は明言を避けた。その上で同氏はロ側が、サハリン州 と北海道間のビザ免除制度の創設を提案していることを強調。「近隣住民のビジネスや人 道的な往来が可能になる」として、実現を求めた。四島での共同経済活動を巡る今後の交 渉については、実現の可能性がある事業の一覧を決めた上で、ロシア法に反せず、日本側 も受け入れ可能な法的基盤を調整する方針を示し、「困難な課題だが、創造的アプローチ をとれば可能」と話した。 →経済活動 作業チーム 北方領土 政府、週内にも設置 (M170207)(要約)北方領土で の共同経済活動の交渉開始に向け、日本政府は週内にも関係省庁による作業チームを設置 する。外務、農林水産、厚生労働、環境などの関係省庁が参加して初会合を開き、具体的 な活動分野について本格的に検討する。共同経済活動は、日本企業が漁業や養殖、医療な どの分野で北方領土に進出することを想定している。ロシア極東地域などでの「8 項目の 経済協力プラン」の交渉が先行しており、プランの一部を北方領土の拡大できるかも検討 する。 →大統領選 来年 3 月 11 日 ロシア プーチン氏の出馬確実 (M170222)(要約)ロシア の大統領選が来年3 月 11 日に実施される見通しとなった。ロシアのメディアが 21 日、一 斉に「大統領府筋」が語ったと報じた。 →北方領土に新師団方針 ロシア国防相 日本政府は反発 (M170223)(要約)ロシアの ショイグ国防相は 22 日、今年中にクリル諸島に新たな師団を配備する考えを露下院で明 らかにした。露国防相は 1 昨年から国後、択捉の両島で軍駐屯地に宿舎などの施設整備を 活発化させており、両島が配備先となるとみられる。師団の規模は 5000 人以上を想定し ている模様だ。