東日本大震災における水道施設の被害状況分析
㈱東京設計事務所 水道事業部 小原卓朗 1.はじめに 我が国の水道は、阪神・淡路大震災をはじめ、過去に数多くの地震を経験し、災害に強 い水道施設・体制の構築に向け、様々な取組を実施してきた。しかし、2011 年(平成 23 年)に発生した東日本大震災は、これまでの地震よりも広域かつ大規模な被害をもたらし た。 東日本大震災では大規模な地震動、液状化や津波等が発生し、広範囲に及ぶ停電を引き 起こし、断水は広域に及んだ。また、東日本大震災で発生した液状化や津波、停電の規模 は、阪神・淡路大震災をはじめとする過去の地震ではみられなかったことであり、被災現 場では混乱が生じ、応急復旧は必ずしも計画的に進まず、断水期間が長期化した。 東日本大震災水道施設被害状況調査(厚生労働省)で、上記の被害状況を整理し、水道の 機能障害である断水軽減の観点から、水道施設の耐震化やバックアップ対策の強化、応急 対策の拡充等に向けた基礎資料を得ることができたので、その分析の一部を報告する。 2.東日本大震災による被災状況 1)地震動の規模 東日本大震災と近年で最大の 被害をもたらした阪神・淡路大 震災の地震動の規模の比較を表 -1に示す。 東日本大震災は、本震で震度 6 弱以上を記録した市町村数が 阪神・淡路大震災の 13 倍以上であった。また、阪神・淡路大震災では、最大の余震が本震 と同日に発生した震度 4 で、それを記録したのは 1 市であったが、東日本大震災では、震 度 6 弱以上の余震や誘発地震が 6 回発生し、特に 4 月 7 日の余震は 23 市町村で震度 6 弱以 上を記録した。このような余震は、さらに被害を拡大させた。 2)断水状況 図-1に東日本大震災と阪神・淡路大震災の断水事業体(市町村)数、断水戸数の推移を示 す。 東日本大震災は、断水戸数が 256.7 万戸、断水事業体数は 264 事業体(水道用水供給事 業は除く)、断水期間は最長 6 ヶ月となった。断水戸数では阪神・淡路大震災の 2 倍、断水 事業体数ではおよそ 15 倍、断水期間(復旧困難戸数を除く)でおよそ 3 倍である。 東日本大震災 阪神・淡路大震災 本震発生日 2011年3月11日 1995年1月17日 震度7 1市 震度7 4市3町 震度6強 20市15町2村 震度6 1市 震度6弱 36市24町8村 計 106市町村 計 8市町村 本震と同日 6強 3市 本震と同日 4 1市 同年3月12日 6強 1市1町1村 (最大の余震) 同年3月15日 6強 1市 同年4月7日 6強 13市9町1村 同年4月11日 6弱 2市1町1村 同年4月12日 6弱 2市 本震 表-1 地震動の発生規模 余震 (発生日、 最大震度、6 弱以上の市 町村数)※断水事業体数は、水道事業体から厚生労働省に報告があった断水戸数等の調査資料による。 ※福島県第一原子力発電所事故の影響で調査ができない地域は対象から除外している。 ※阪神・淡路大震災の数値は、出典「阪神・淡路大震災調査報告 ライフライン施設の被害と復旧」による。 図-1 東日本大震災、阪神・淡路大震災の断水が発生した 事業体(市町村)数・断水戸数の推移 112 77 50 64 40 30 28 28 24 24 24 24 24 24 24 24 24 24 17 7 5 3 3 250 1 3 11 1 1 1 3 3 3 -50 100 150 200 250 300 発 生 当 初 7 日 後 1 4 日 後 2 1 日 後 2 8 日 後 3 5 日 後 4 2 日 後 4 9 日 後 5 6 日 後 6 3 日 後 7 3 日 後 8 0 日 後 8 7 日 後 9 0 日 後 1 2 0 日 後 1 5 0 日 後 1 8 0 日 後 2 1 0 日 後 2 4 0 日 後 断水戸数(万戸) 0 50 100 150 200 250 300 断水戸数(東日本大震災) 断水戸数(阪神・淡路大震災) 断水事業体数(東日本大震災) 断水市町村数(阪神・淡路大震災) <東日本大震災> 4月7日、4月11日、4月12日に震度6弱以上の余震発生。 これまで復旧を進めてきた地域で再び断水が発生したり、 新たな地域で断水が発生した。 <東日本大震災> 津波浸水等による復旧困難地域を除く断水 の解消はおよそ200日後(9月末)となった 津波浸水地域等の 給水困難地域の 断水戸数4.5万戸 総断水戸数 断水発生事業体数 東日本大震災 256.7万戸 264事業体 阪神・淡路大震災 126.6万戸 17市町村 事業体(市町村)数 3.調査方法 東日本大震災では、断水とその要因の把握、影響の分析が課題となり、水道施設の被害、 断水および地震対策の関係について整理した。 水道施設の被害は地震(地震動、液状化、津波等)の規模と施設の耐震性に大きな影響 を受け、断水(断水率・断水期間)は水道施設の被害とともに、バックアップ対策、応急 対策に影響される。それにより、図-2に示す断水とその要因の関連を設定した。 水道施設の被害 (拠点施設・管路) 震災後の断水状況 (断水率) 水道の地震対策 図-2 水道の機能障害(断水)とその要因 施設の耐震化 (ハード対策) 断水状況 (断水期間) バックアップ対策 (ハード対策) 応急対策 (ソフト対策) 地震 ・地震動 ・液状化 ・津波等 図-2の関係に基づき、図-3に示す分析を行っ た。 東日本大震災は、被災事業体が多く、事業規模や 水道システム、地震対策等が様々であることから、 全体的かつ局所的に分析する必要があり、次に示す 全体調査、詳細調査に分けて段階的に行うこととし た。 ①全体調査(マクロ調査):国に提出された被災水道 事業体の被害状況、断水状況資料、災害査定資料(被 災事業体による国への災害復旧費補助申請書類)を 図-3 調査フロー 水道施設の被害状況とその要因の分析 (マクロ調査) 水道施設の被害と断水(断水率、断水期間) の関係の分析 (マクロ調査) 応急復旧対策における課題の抽出 (マクロ調査) 断水に影響を与えた要因の分析及び評価 (ミクロ調査)
整理、分析するとともに、断水が発生した水道事業体に対して応急対策状況等を把握する ための事項を整理し、アンケート調査を行った。 ②詳細調査(ミクロ調査): 断水期間が概ね1か月以上の事業体を対象とし、ヒアリング 調査、電話確認等を直接行い、被害状況や被害による施設の供給停止状況、応急対策状況 等についての詳細を確認した。 4.水道施設の被害状況とその要因の分析(マクロ調査) 水道施設を水源、浄水場、ポンプ場、配水場等の拠点施設と導送配水管、給水管等の管 路に分け、被害要因を地震動、地盤崩落・液状化と津波に分類して、被害要因における水 道施設の被害状況を分析した。停電は水道施設に対して直接的な被害は及ぼさないが、水 道の機能被害に大きく影響を及ぼしたため、被害要因に含めた。 1)地震動、地盤崩落、液状化による被害 ①拠点施設(水源、浄水場、ポンプ場、配水場等) 拠点施設は震度5強以上で被災し、土木構造物、建築構造物、設備、場内連絡管、造成・ 外構等で被害が生じた。配水池等の土木構造物では、構造損壊に至った施設がみられたが、 それらはほとんどが古い耐震基準(1979 年以前)で建設されたものであり、阪神・淡路大 震災以降の耐震基準に基づく施設に被害はなかった。 液状化が発生した浄水場においては、構造物や場内連絡管等に甚大な被害が生じ、構造 物の耐震化とともに地盤対策の重要性が改めて明らかとなった。 また、水源(特に地下水、湧水)において濁りの発生が多くみられた。これは、地震に より地下の採水層付近の地盤が動いたことが原因と考えられるが、濁りの解消に 100 日を 超える水源もみられた。 ②管路(導送配水管、給水管) 東日本大震災における導送配水管の震度別の被害率は図-4に示す。 管路の被害は、震度 6 弱以上から急激に増える傾向が明らかになった。一方、今回の被 害率は全体で 0.08 件/km、震度 6 弱以上の水道事業体の被害率でも 0.10 件/km であり、阪 神・淡路大震災の被害率(表-2参照)と比較すると非常に小さい。 また、液状化が発生した地域は、同等の震度の液状化の発生していない地域と比較する と、被害率が著しく高く、被害への影響が大きいことが明らかとなった。 配水管 延長 (km) 配水管 被害件数 配水管 被害率 (件/km) 兵庫県下 9市5町 8,832 4,142 0.47 大阪府下 26市2町 15,597 488 0.03 計 24,429 4,630 0.19 ※出典:「阪神・淡路大震災調査報告 ライフ 表-2 阪神・淡路大震災における 配水管被害 図-4 東日本大震災における ※東日本大震災水道施設被害状況調査(厚生労働省) で算出。 0.004 0.00 0.05 0.10 0.08 0.00 0.05 0.10 0.15 4以下 5弱 5強 6弱以上 全体 被害率 (件/km)
2)津波による被害 ①拠点施設(浄水場、ポンプ場、配水場等) 拠点施設では、沿岸部や河川の下流域およびその周辺に設置されていた浅井戸が津波に より塩水障害を受けた。また、ポンプ場もその機能上、低地に配置されるため浸水被害を 受け、電気・機械設備が水没による全損となった。 ②管路(導送配水管、給水管) 津波被災地域の沿岸部や河川周辺部の歩道等において、道路や護岸が津波により破壊さ れ、管路が露出して被害を受けた。また、津波遡上範囲内の水管橋、橋梁添架管も、多く が流出する被害を受けた。津波は、押し波、引き波のどちらも破壊力が大きく、橋梁添架 管は、橋梁の下流側、上流側とも被害を受けていた。 3)停電の状況 阪神・淡路大震災では地震発生当初22 市 17 町の 39 市町で停電(一部の地域の停電も含 む)が発生したが、地震発生当日で80%、1 日後には 90%近くが解消し、残りの 10%が地 震発生から6 日後に解消した。一方、東日本大震災では、地震発生当初、203 水道事業体で 停電が発生し、1日後に60%が解消されたが、3 日後も 43 事業体で停電が続き、1 週間後 も8 事業体で停電が解消せず、多くの水道事業体で停電が長期に及んだ。 その結果、設備等や監視機能が長期間停止する事態となった。また、燃料調達が困難と なり、自家発電設備の稼働もままならず、浄水場の供給停止に陥る事業体も発生した。 4)水道施設の被害のまとめ 上記の水道施設の被害状況から、断水に大きく影響した被害を表-3にまとめた。 拠点施設 ・浄水場、配水池等の被害・水源の濁りの発生 ・水源の塩水障害・機械・電気設備の全損 管路 ・震度6弱以上急増した被害 ・液状化発生地域の被害 ・配水管網全域からの津波 被災区域の分離作業 ・津波被災地域の給水栓の 位置と使用可否の確認作業 ・設備等稼働停止 ・集中監視設備による監視 機能の停止 ・自家発電設備の燃料不足 表-3 水道施設の被害状況のまとめ 施設区分 地震動・液状化・地盤崩落 津波 長期の停電 5.水道施設の被害と断水の関係の分析(マクロ調査) 断水が発生した水道事業体(264 事業体)を対象として断水に大きく影響したと考えられ る被害を抽出し、被害別に水道事業体を区分し、各水道事業体の被害と断水(断水率、断 水期間)の関係を集計し、それぞれの被害の断水への影響を分析した。 1)拠点施設の被害による断水の影響 津波による被災、非被災で区分し、それらを断水への影響が高い被害で細分した。表-4 に拠点施設の被害と断水の関係を示す。なお、表-4 の復電2日後の断水率は、後述する停 電の影響を除いた断水戸数(水道施設の被害による断水戸数)から算出し、分析した。(表 -5も同様)
津波非被災事業体は、土木構造物被害の有無により、断水率、断水期間に大きな差が生 じている。津波被災事業体では、①水源被害あり、②拠点施設被害あり(水源被害なし)、 ③拠点施設・水源被害なしの 順で水道施設被害断水率は高 くなり、断水期間は長くなっ ており、特に断水期間の差が 顕著である。 これらにより、拠点施設の 被害は断水に大きな影響を及 ぼし、特に津波浸水による水 源被害は断水期間等に甚大な 影響を与えることが確認された。 2)管路被害による断水の影響 管路被害と断水の関係を把握するため、 津波被災事業体、拠点施設の被害を受けた 事業体を除き、管路被害のみを受けた事業 体を対象に管路被害率と断水率、断水期間 の関係を整理した。表-5 に管路の被害と 断水の関係を示す。 管路被害率が高くなるほど断水率は高くなる傾向があることが確認された。一方、断水 期間については、断水率ほど明確な傾向は確認できなかった。この理由としては、断水期 間は応急復旧の対応が大きく影響すると考えられた。 3)停電による断水の影響 東日本大震災では停電による断水が多いと考えられた。そのため、次式により水道事業 体毎に停電による断水戸数を求めた。 停 電 に よ る 断 水 戸 数 (停 電 の み が 原 因 )= 全 断 水 戸 数 - 水 道 施 設 の 被 害 に よ る 断 水 戸 数 ここで、「水道施設の被害による断水戸数」は、停電の影響を除いた断水戸数であり、本業 務では各事業体について復電後の断水戸数の減少状況を確認して、復電2日目の断水戸数 とした。 その結果、今回の断水戸数に対する断水の影響としては、全体の断水戸数(復旧困難戸 数を除く)252.2 万戸に対し、停電による断水戸数は 76.3 万戸と推定された。 次に、自家発電設備による断水軽減の効果を把握するため、自家発電設備の使用と断水 率の関係を分析した。その結果、自家発電設備の使用ありの事業体の断水率41.2%に対し、 使用なしの事業体の断水率58.7%で 17.5 ポイント断水率が低くなっており、自家発電設備 の使用による断水軽減の効果は少なからずあったものと推察された。 復電2日後 の断水率 断水期間 (日) ①被害なし 18 21.8% 6.8 ②0.00超0.1以下 19 31.8% 10.2 ④0.1超0.2以下 6 54.8% 14.2 ⑤0.2超0.3以下 3 76.2% 30.0 ⑥0.3超 5 93.7% 23.0 表-5 管路の被害と断水の関係 対象事業体の平均 事業体数 管路被害率 (箇所/km) 復電2日後 の断水率 断水期間 (日) 255 27.7% 12 212 20.7% 6 ①土木構造物被害あり 15 63.3% 16 ② 〃 なし 197 17.4% 6 43 62.5% 39 ①水源被害あり 7 75.6% 92 ②拠点施設被害あり(水源被害なし) 20 73.7% 37 ③ 〃 なし 16 42.9% 18 表-4 拠点施設の被害と断水の関係 全 体 津波非被災事業体 津波被災事業体 事業体数 対象事業体の平均
6.応急復旧対策における課題の抽出(マクロ調査) 東日本大震災において、これまでに類のない被害(津波、長期の停電等)を受け、それ が広域に被害が及んだことは、これまでの応急復旧対策における課題を明らかにした。 ここでは、アンケートにより断水の長期化に影響したと考えられる要因を抽出した。結 果は、7.断水に影響を与えた要因の評価で示す。 7.断水に影響を与えた要因の評価(ミクロ調査) ミクロ調査では、停電や施設、管路被害のほかに用水供給停止やバックアップ対策、応 急対策の有無による影響について時系列で整理し、影響の程度を評価した。断水戸数/断水 率、断水期間に対する要因と影響の程度を表-6に示す。 水道施設等の被害では、断水に影響を与えた要因として特に管路被害が非常に大きかっ た。管路被害の断水期間は、10 日超から 3 ヶ月と差が大きく、これは、被害の規模もある が、それ以上に管路復旧作業人員の確保や支援事業体の受け入れ状況、資機材/燃料の確保 等の応急対策が断水期間に大きく影響し、復旧に要する期間の長期化につながっていた。 表-6 断水戸数/断水率、断水期間に対する要因と影響の程度 断水戸数・断水率等 ()内は要因の影響項目断水期間等 影響の程度* 停電 ・断水戸数 76.3万戸 (全体の30%) ・停電期間:3日以内(80%)/ 4~7日(15%)/8日以上(5%) ○ 用水供給停止 ・受水事業体における受水の依存割合が影響 ・供給停止期間:長い地点で20~39日 (受水を主とする(自己水源なし)事業体では復 旧不可) △ 津波浸水による水源被害 ・断水率56% 供給停止期間:概ね1~2か月 △ 拠点施設被害(津波浸水以外)・断水率46% 供給停止期間:概ね3日~1か月 ○ 管路被害 ・管路被害率0.1箇所/km 増で、断水率は25%増 断水期間:10日超~3か月 × 自家発電設備 ・断水率を17% 低減 ・停電に対応・燃料の確保日数 ○ 系統間連絡管等の整備 - ・用水供給停止、水源被害、拠点施設被害に対 応 △ 2系統管、ループ管の整備 - ・管路の早期復旧 ・復旧の優先順位が明確となる。 △ 初動体制の確保 - (事業体の規模) △ 支援事業体の受け入れ - (支援要請状況/受入れ体制の確保) △ 管路復旧等の作業人員 - (通水及び漏水調査班数・修理班数の確保が影 響) × 資機材・燃料等の確保 - (津波被災地域の復旧により重機不足/応急復旧管材の備蓄状況/広域被災による燃料不足) △ 台帳の整備・保管 - 管路図等の情報管理(複数部数、箇所での保管、マッピングシステムの停電による使用不可) △ 現場状況(施工の困難性) - (津波被災による瓦礫の撤去/配水システム/液 状化憤砂によるバルブ等位置探し/下水被害に よる洗管水排水先なし等) △ *断水に及ぼす影響の程度 ○:大きい △:かなり大きい ×:非常に大きい 直 接 的 な 要 因 の 影 響 対 策 の 有 無 に よ る 影 響 応急対策 水道施設等の 被害 バックアップ対策 要因 8.おわりに 断水影響の評価は、要因によっては仮定した条件の下での評価や定性的な評価に留まっ ているが、全体としては概ね行うことができたと考えている。 断水の軽減という観点からは、特に応急対策が大きく影響していた。 今後の地震等の災害に強い水道システムを構築する上では、ハード面の被害発生の抑制、 影響の最小化とソフト面の復旧の迅速化、応急復旧の充実をうまく組み合わせていく必要 があり、特にソフト面は早急に対策を施し、実施していく必要がある。