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-平成 29 年度 細胞検査サーベイ報告
細胞(フォトサーベイ)
【はじめに】 今回の細胞検査は例年どおりフォトサーベイを行った。昨年度同様、各設問につき判定区分と推定病 変を設け、回答していただくようにした。また回答状況をよりよく把握するために、わからないとした 理由や細胞所見などを書いていただける欄を設けた。 【サーベイ参加施設】 申し込み 51 施設に対し回答総数 51 施設(100%)であった。 【設問について】 今回のフォトサーベイはパパニコロウ染色、ギムザ染色を用い、設問にある検体、年齢、性別、およ び臨床所見を参照して回答していただいた。回答は判定区分と推定病変に分け、判定区分では陰性、陽 性の 2 つから 1 つを選択、また子宮頸部にはベセスダシステムの判定基準を採用し、乳腺については乳 癌取り扱い規約に準じた判定とした。 推定病変では写真の細胞に最も適当と思われる疾患、あるいは細胞を記述していただくことにした。 さらに、わからないとした理由や細胞所見なども書いていただけるようにした。 また配点は、各設問において判定区分 7 点、推定病変 3 点の合計 10 点として、最終的に分かり易い ように全問正答を 100 点として換算しなおした。 【第 37 回サーベイ成績の概要】 設問4について、正解率が 78.2%と低く【臨床検査精度管理調査フォトサーベイ評価法に関する日臨 技指針】による正解率 80%の基準に満たなかったため本設問は評価対象外とする。問題不適の原因は、 設問の正解と解説、フォトサーベイに関する講評にて述べる。 回答総数 51 施設における正答率は判定区分では 99.4%、推定病変では 98.5%、合計では 99.2%であっ た。今回、日臨技フォトサーベイに準ずる許容正答(正しい思考過程に基づき鑑別すべき病変まで考え が及んでいる回答)を設けた。表1に設問別正答数および正答率を示した。 判定区分では設問で 8 問中 5 問が 100%と高い正答率を示した。正答率の低かったのは設問 4 の 84.3% であった。 推定病変では設問1、設問2、設問6の正答率が 100%であり、典型的な細胞所見であったと思われ る。設問 3 では鑑別が必要なイロヴェチと回答した施設が 2 施設あった。設問 7 では乳腺の粘液産生す る腫瘍の鑑別が1施設見られた。設問 8 は印環細胞癌や低分化腺癌が多かったが、形質細胞腫や反応性 中皮細胞の記載があった。いずれの設問も鑑別については正解と解説を参照されたい。設問 4 の解答は 判定区分:陽性 43 件(84.3%)陰性 8 件(15.7%)、推定病変:腺癌・粘液性腺癌 31 件(60.7%)肺 胞上皮癌 2 件(3.9%)粘表皮癌 9 件(17.6%)異型腺腫様過形成 1 件(2.0%)良性 8 件(15.7%)で あった。腺癌・粘液性腺癌:10 点。肺胞上皮癌は肺癌取扱い規約第 8 版より上皮内腺癌に変更されてい るため 9 点。粘表皮癌、異型腺腫様過形成 7 点、良性は 0 点として評価した結果、平均 7.7 点(正解率 78.2%)となった。【臨床検査精度管理調査フォトサーベイ評価法に関する日臨技指針】による正解率222
-80%の基準に満たなかったため本設問は評価対象外とした。 以下の集計に関して、設問 4 を除いた結果を報告する。 なお表 2 に設問別回答数を、表 3 に施設別正答率を示したので参考とされたい。 今回のサーベイより 10 点を A 評価、7 から 9 点を B 評価、6 点以下を C 評価として判断した。 【設問の正解と解説】 設問1 正解: 判定区分 NILM 推定病変あるいは細胞 トリコモナス、トリコモナス原虫、トリコモナス症、 トリコモナス膣炎、トリコモナス感染 好中球主体の炎症性背景に、西洋梨形あるいは不整形を呈し、灰緑色に染まったトリコモナス原虫を 多数認める。 以上の所見より、トリコモナス感染と考える。 設問2 正解: 判定区分 SCC 推定病変あるいは細胞 (角化型)扁平上皮癌 弱拡大で、壊死性背景に、角化を示す細胞の集塊を認める。強拡大で、bizarre な角化異型細胞と傍 基底型の異型細胞を認める。細胞質はライトグリーンからオレンジ G 好染で重厚感がみられる。核所見 は多彩で、主に濃縮状のクロマチンを認める。以上より(角化型)扁平上皮癌と考える。 設問3 正解: 判定区分 陰性 推定病変あるいは細胞 クリプトコッカス症(cryptococcosis) 組織球に貪食されたライトグリーン好性の縁取りをもった円形の胞子が認められ、クリプトコッカス 症の典型と考える。 ニューモシスチス・イロヴェチとの鑑別は、クリプトコッカスが組織球に貪食され、円形またはコン タクトレンズ状と称される淡い胞子が認められることに対し、ニューモシスチス・イロヴェチでは菌体 が特徴的な泡沫状の球状集塊として認められることで可能と考える。 β-D グルカンが上昇する感染症:カンジダ感染、アスペルギルス症、ニューモシスチス肺炎 設問4 正解: 判定区分 陽性 推定病変あるいは細胞 腺癌 核腫大、クロマチンは微細顆粒状で増量、核小体明瞭な異型細胞が結合性の低下した集塊や孤立散在 性に見られる。核は偏在し細胞辺縁は不明瞭である。またピンク色に染まる粘液を認め、印環型の異型 細胞も認める。以上のことから腺癌を考える細胞像である。本症例はALK陽性肺腺癌であった。AL K陽性肺腺癌は腺房型や充実型の組織型をとり、豊富な粘液を持った印環細胞型が見られるのが特徴で ある。223
-問題となるのは粘表皮癌との鑑別だが、ライトグリーン好性の厚い細胞質を持った細胞が粘表皮癌の 中間細胞と判定されたと思われる。核偏在や 1 つの核小体、細胞辺縁が不明瞭など腺癌の所見と考える が、フォトサーベイでは鑑別の難しい症例と思われる。 今回は【臨床検査精度管理調査フォトサーベイ評価法に関する日臨技指針】による正解率 80%の基準 に満たなかったため本設問は評価対象外としたが、今後の問題作成に生かしたいと考える。 設問5 正解: 判定区分 陰性 推定病変あるいは細胞 多形腺腫 左図のパパニコロウ染色では粘液状の物質とともに、円形から類円形の核を持つ上皮性細胞集塊を認 める。核クロマチンは均等分布しており核小体は不明瞭である。また、紡錘形核を有する非上皮成分が 混在している。 右図のギムザ染色では、左図と同様な細胞が認められ、また粘液はピンク色に染まり異染性を示して いる。 以上のことから、本症例は多形腺腫と考えられる。 設問6 正解: 判定区分 陽性 推定病変あるいは細胞 腺様嚢胞癌 弱拡大では比較的結合の強い大型集塊が採取されている。集塊には篩状、球状構造を思わせる濃淡を 示している。強拡大では腺様嚢胞癌に最も特徴的な多数の粘液球(偽管腔)が見られ、周囲はN/C比 の高い短紡錘形核の腫瘍性細胞で囲まれている。腺様嚢胞癌の典型的な像と考える。本症例のパパニコ ロウ染色では明らかな球状硝子様物質とは言えないが、ギムザ染色ではメタクロマジーを示す球状物を 認める。この篩状、球状タイプの腺様嚢胞癌は鑑別が比較的容易であるが、管状型や充実型の場合は、 組織型の鑑別が困難な場合がある。 設問7 正解: 判定区分 悪性 推定病変あるいは細胞 粘液癌 粘液を背景に細胞集塊を認める。核の大小不同、配列や極性の乱れなどが見られる。また筋上皮が見 られず、悪性を疑う所見である。Mucocele-like lesion(Mucocele-like tumor)との鑑別は難しいが、粘液癌と比較して、Mucocele-like lesion の細胞は、①核の異型が見られず、②筋上皮が顕著で、③採取細胞数が少ない。また Mucocele-like lesion の粘液は間質粘液なので、ムチカルミンが染まらないという特徴がある。
今回の標本を見ると、筋上皮の存在が不明で、配列や極性の乱れが目立つ。このことより、粘液癌を 一番に考える。