課 題名 RFb-1103 大 気 微 小 粒 子におけるハロゲン化 芳 香 族 類の発 生源 と二 次的 形 成 能の解 明 課 題代 表 者 名 大 浦 健 (名 城 大 学農 学 部 ) 研 究実 施 期 間 平 成23~24年 度 累 計予 算 額 15,396千 円 (うち24年 度6,842千 円) 予 算額 は、間 接経 費を含 む。 本 研究 のキー ワード(5~10個 以 下程 度 ) ハロゲン化PAHs、未 規 制 物質 、光 塩 素 化 反応 、発生 源、PMF法 研 究体 制 (1)ハロゲン化芳 香 族 類の標 準 品合 成ならびに環境 分 析評 価 (名 城 大 学) 研 究協 力 機 関 高 崎経 済 大 学、慶 応 大学 、名 古 屋 市 環 境調 査 センター 研 究 概 要 1.はじめに(研 究背 景 等 ) 現 在、大 気、水、土 壌 といった様々な環境 媒 体において多くの化 学物 質に規 制が施 されているが、それらは環 境 リスク因 子 として十 分 であるとは言い難い。とくに、国 内 外における急 激な産 業 の発 達 ・多 様 化 は、今 まで明ら かとされていなかった新たな環 境リスク因 子を生み出 す可 能 性を有 している。 多 環 芳香 族 炭 化 水 素(PAHs)は代 表 的な環 境発 がん物 質 群 であり、有 機 物 の不 完 全 燃 焼 時 に容 易 に生 成 されることが 知 られている。そ のためPAHsは環 境 中 に 広 く拡 散 し、その曝 露 に よ る 生 体 影 響 が 懸 念 さ れ て い る 。 こ れ ま で に 環 境 中 の PAHsモ ニタリングに 関 する研 究 は数 多 く行 われている。日 本 においては大 気 中 の PAH 濃 度 が減 少 傾 向 である一 方 、中 国 をはじめとした 新 興 国 の PAHs汚 染 が深 刻 な問 題 に なりつつ あり、今 後 の動 向が注 視 される。さらに、 PAHsのニトロ化 体や 酸 化 体 などPAH誘 導 体 に関 する実 態 調 査 も盛 んに行 われて おり、その生 成 機 構 や毒 性 なども明 らかとなってきた 。近 年 、 新 た なPAH 誘 導 体 と して 塩 素 原 子 や 臭 素 原 子 が PAHsに 置 換 したハロゲン化 PAHsが大 気 粒 子 中 に存 在 することが見 出 された(図 1)。とくにハロゲン化 PAHsは、PAH骨 格 上 に複 数 の塩 素 原 子 が置 換 した構 造 を有 しており、分 子 構 造 的 にダイオキシン同 等 の毒 性 リスクが懸 念 される。 しかしながら、ハロゲン化 PAHsの環 境 研 究 の報 告 例 はPAHsやダイオキシン類 に比 べ極 めて少 ないのが現 状 で ある。この最 大 の要 因 としては、ハロゲン化 PAHsの標 準 品 がほとんど市 販 されていないことが挙 げられる。その 結 果 、ハロゲン化 PAHsによる大 気 汚 染 の実 態 、その生 成 機 構 や発 生 源 など未 だ未 解 明 な点 が数 多 く残 されて いる。これらの検 討 課 題 を明 らかにすることは、ハロゲン化 PAHs以 外 の未 規 制 リスク因 子 の実 態 解 明 に繋 がる ものであり、今 後の環 境汚 染 物 質に対する施 策にも重 要な知見 を与 えることが期 待できる。 2.研 究 開 発 目 的 最 近 、新 たな未 規 制 環 境 リスク因 子 としてハロゲン化 PAHに関 する研 究 がいくつか報 告 されてきたが、その生 成 機 構 を始 め未 解 明 な部 分 は未 だ 数 多 く残 されている。とくに一 般 大 気 中 のハロゲン化 PAHs濃 度 に 関 する情 報は、世 界でも数 例、日 本 では静 岡 市 のみの観 測 結 果 しかない。また、前 処 理 法や分 析 機 器 による測 定 精 度 と いった測 定 技 術 の面 においても精 査 されていない。とくに、簡 便 な分 析 手 法 の確 立 は、今 後 のハロゲン化 PAHs 調 査 、評 価 の発 展に大 きく貢 献 できると思 われる。さらに、大 気 中 のハロゲン化 PAHsは、これまでの研 究 成 果 よ 図1.代 表 的なハロゲン化 PAHs 右:1-chloropyrene (1-ClPy), 左:6-chlorobenzo[a]pyrene (6-ClBaP)
た。しかしながら現 在 までハロゲン化 PAHsの光 反 応 を検 討 した事 例 はなく、このような光 反 応 機 構 を検 討 するこ とは、ハロゲン化 PAHsの大 気 動 態 を明らかにする上 で極めて重 要であると考えられる 。そこで本 研 究 では、初め にハロゲン化 PAHsの標 準 品 を合 成 し、最 適 な分 析 条 件 を確 立 した後 、年 間 を通 じた大 気 汚 染 調 査 を実 施 する。 このとき、重 金 属 や炭 素 成 分 といった影 響 因 子 成 分 も併せて測 定 を行う。さらに、大 気 粒 子 表 面 を模 したモデル 反 応 系 でのハロゲン化 PAHの生 成 ・変 質 機 構 を検 討 する。これらClPAHsの大 気 汚 染 調 査 と光 化 学 反 応 の結 果 を基に、統 計的 解 析であるPMF法を用いて発生 源の推 定を行うことを目 的とした。 3.研 究 開 発の方 法 (1)ハロゲン化 芳 香 族類 の標準 品 合 成ならびに環境分 析 評 価 1) ハロゲン化 PAH標 準品 の合 成
ハ ロ ゲ ン 化 PAHs の 標 準 品 の 合 成 は 、 骨 格 と な る PAH に 塩 素 化 す る 方 法 で 行 っ た 。 骨 格 と な る PAH に は 、 pyrene(Py, 4環 系 )、benzo[a]pyrene(BaP, 5環 系 )を選 択 した。塩 素 化 剤 には、N-クロロコハク酸イミドもしくは 塩 化スルフリルを用 いた。これらPAHと塩 素 化 剤をそれぞれ所定 量 炭 酸 プロピレンもしくはクロロホルム中 に添 加 し、還流 下、100℃で反 応を行った。反 応生 成 物は再 結 晶ならびにHPLCで分 離 精 製を行った。 2) 大気 浮 遊 粒 子の採取 大 気 浮 遊 粒 子 の捕 集 は、総 浮 遊 粒 子 状 物 質 (TSP)を採 取 する方 法 と粒 径 毎 に 分 けて採 取 する方 法 で行 った。TSPの捕 集 は、都 市 部 (名 城 大 学 内 校 舎 屋 上 地 上 約 20m)と工 業 地 帯 (名 古 屋 市 環 境 科 学 研 究 所 屋 上 地 上 約 20m)にハイボリュームエアサンプラーを設 置 して行 った (図 2)。 TSPは秤 量 した 石 英 繊 維 フィルター(東 京 ダ イレック社 製 )上 で、吸 引 流 量を600L/minで1週 間 連 続して採 取 した。一 方、大 気 粒 子の分 粒 捕 集は、 名 城 大 学 屋 上 に(都 市 部 )に分 粒 捕 集 用 サンプラー( HV-1000R、柴 田 科 学 )を設 置 して行 った。捕 集 方 法 は、吸 引 流 量 を 566L/minとして粒 径 を5 段 階 (1.1μm以 下 、1.1―2.0μm、2.0―3.3μm、3.0―7.0μm、7.0μm以 上)に分け、粒 径 1.1μm以下 を捕集 するバックアップフィルター(石 英 繊維 フィルター、東 京 ダイレック社 製 )は1週 間 連 続 、そ れ以 上 の分 粒 フィルタ ー ( 石 英 繊 維 フ ィ ル タ ー 、 東 京 ダ イ レ ック 社 製 ) は 2 週 間 連 続 で 行 っ た 。 TSPの捕 集 は 2011年 4月 12日 より開 始 され、2012年 8月 27日 まで継 続 的 に 都 市 部 、 工 業 地 帯 の 両 地 点 で 同 時 に 行 わ れ た 。 ま た 、 分 級 捕 集 は 2012年 8月23日 から2012年12月23日 まで、都 市 部のみで行った。 3) ハロゲン化 PAHsならびにPAHsの分 析
分 析 対 象 としたハロゲン化 PAHsは3~5環 系 のPAHsに1~4塩 素 が置 換 した 24種 を用 いた。一 方 、 PAHsは16 種の優 先PAHs(16 USEPA Priority PAHs)を含 む2~6環 系 24種のPAHsとし、AccuStandard Inc (USA)から混 合 溶液 として購 入 した。 4) 光化 学 反 応 試験 光 照 射 を行 う際 の光 源 として、高 圧 水 銀 ランプ( UM-452、450W、ウシオ電 機 )および低 圧 UVランプ(ULO-4DQ、 6W、ウシオ電 機 )を使 用 した。反 応容 器 として、いずれの光 源においても13×100mmの石 英 試 験 管を使 用した。 4.結 果 及 び考 察 (1)ハロゲン化 芳 香 族類 の標準 品 合 成ならびに環境分 析 評 価 1) ハロゲン化 PAHs標準 品の合 成 塩 素 置 換 数 が3以 上 の高 塩 素 化 Pyの合 成 は、Py 200mgをクロロホルムに溶 解 し、塩 素 化 剤 としてN-クロロコ ハク酸 イミド4000mgを逐 次 添 加 し、60℃にて反 応 を行 った。3日 間 反 応 させた後 、溶 媒 を除 去 し、反 応 生 成 物 を メタノ ール/水 で再 結 晶 を試 みた ところ、 3塩 素 化 Pyと4塩 素 化 Pyがそれぞれ分 別 でき、純 度 はそ れぞれ 98%、 95%であった。2塩 素 化BaPの合 成は、BaP 100mgを炭 酸プロピレン5mlに溶 解させ、塩 素 化 剤 としてN-クロロコハ ク酸 イミド100mgを添 加 し100℃、2時 間 反 応 を行 った。反 応 終 了 後 、メタノ ール/水 で再 結 晶 を行 い、ガラスフィ ルターでろ過 後 、反 応 生 成 物 を得 た。更 に反 応 生 成 物 をクロロホルムに溶 解 させ ODSカラムを用 いてHPLCによ る分 取 を行 った。分 取 後 の生 成 物 の純 度 は 96%であ った。 3塩 素 化 BaPの合 成 は、塩 素 化 剤 に 塩 化 スルフリル 図2.サンプリング地 点
収し、GC/MSで分 析 したところ、推 定される分子 量に由 来するマスフラグメントが確 認でき、その純 度は 99%であっ たため、HPLCによる生 成を行わず、再結 晶 物を乾 燥 させ、Cl3BaP標準 品 とした。 2) 前処 理 条 件の検 討 分 析 試 料 の前 処 理 として、今 回 4種 類 の前 処 理 カラム(Silica gel、Sulfoxide、Alumina、Active-Carbon)を用 いて、溶 出 試 験ならびに夾 雑 物の除 去性 能について検 討した。 Silica gel、Sulfoxide、Aluminaの各カラムの溶 出 溶 媒にはヘキサンもしくは10%ジクロロメタン/ヘキサンを用いてハロゲン化 PAHsの保 持力 の違いを検 討 した。 Silica gel を担 体 としてヘキサンを溶 出 溶 媒 にして上 記 化 合 物 の溶 出 試 験 を行 った ところ、何 れもヘ キサンを 12ml通 液させることで完 全に溶 出 された。このとき、各 化 合 物 の回 収 率は 86%~97%と良 好 な結 果であった。次に Sulfoxideカラムによる溶 出 試 験 を検 討 した。ヘキサンを溶 出 溶 媒 にしたときには全 ての化 合 物 が溶 出 するのに 22ml の通 液 量 を要 した。また、この時 の回 収 率 は 82%~116%であった。次 にAluminaカラムに よる溶 出 試 験 を検 討 した。ヘキサンを溶 出 溶 媒 にしたとき、40ml 通 液 しても対 象 の化 合 物 は全 く溶 出 されなかった。一 方 、溶 出 溶 媒に10%ジクロロメタン/ヘキサンを用いた時 は、全ての化 合 物 が溶 出 するのに 8mlの通 液 量 を要 した。この時の 回 収 率 は89%~107%であった。最 後に、Active-carbonカラムを検 討 した。被 験 試 料 をactive-carbonに添 加 後ヘ キサン、もしくは10%ジクロロメタン/ヘキサン10mlを通 液 させ、カラムを反 転 させトルエンにて溶 出 を行 った。その 結 果、トルエン16mlで目 的の化 合 物は全て溶 出された。この時の回 収 率は89%~124%であった。 3) 大気 粒 子 中のハロゲン化 PAHs濃 度 これまで確 立された分 析 条 件 を 用 い て 、 環 境 大 気 中 の 浮 遊 粒 子 に お け る ハ ロ ゲ ン 化 PAHs 濃 度 の 測 定 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 本 研 究 で は 対 象 と し た 24 種 全 て の ハ ロ ゲ ン 化 PAH が 検 出 さ れ た 。 測 定 期 間 に お い て、 工 業 地 帯 、 都 市 部 、 両 地 点 と も に 夏 季 に 比 べ 冬 季 に ハロゲ ン 化 PAHs 濃 度 が 増 加 す る 傾 向 が 見 られた ( 図 3 )。 また 、 工 業 地 帯 で は 11 月 か ら 2 月 にかけて突 発 的 に 高 濃 度 に なる週 が観 測 されたが、この よう な 傾 向 は 都 市 部 で は 認 められなかった 。 こ れらの 結 果 、ハロゲン化 PAHsに 特 有 で 季 節 的 な 発 生 源 が 工 業 地 帯 に 存 在 す る こ と が 推 察 された。 次 に 、 両 地 点 に お け る ハ ロゲン化 PAHsの組 成 比につ い て 検 討 し た 。 ハ ロ ゲ ン 化 PAHs の 中 で 6-ClBaP の 濃 度 組 成 比 が 最 も 高 く 、 工 業 地 帯 と 都 市 部 で そ れ ぞ れ 35% 、 32% で あ り 、 次 い で 1-ClPy が 高 い 割 合 ( 14 ~ 15%)で存 在 していた (図 4)。 本 研 究 で は 、 BaP の 2 ~ 3 塩 素 置 換 体 ( Cl2BaP, Cl3BaP ) を 初 め て 大 気 中 か ら検 出 し、それらと6-ClBaP(1塩 素 置 換 体 )と合 わせると大 気 ハロゲン化 PAHsの主 要 成 分 (全 体 の45~48%)で 図3.TSPにおける総ハロゲン化 PAHs濃 度の時 系 列 変 化 図4.TSPにおけるハロゲン化 PAHs濃度 組 成 比(A:工 業 地帯 、B:都 市 部)
の 組 成 比 を 比 較 す る と 、 工 業 地 帯 の方 が都 市 部に 比 べて組 成 の変 動 が大 き い傾 向 が見 られた。すなわ ち 、 工 業 地 帯 で は 都 市 部 よ り も ハ ロ ゲ ン 化 PAHs の 発 生 源 に 強 く 影 響 を 受 け て い る と 思 わ れ る 。 さ ら に ハロゲン化 PAHsの濃 度 結 果 と 比 較 す る と 、 濃 度 が 上 昇 する冬 季 にはCl2BaP や Cl3BaP の 割 合 が 増 加 する傾 向 が見 られた。よって、これらBaP塩 素 置 換 体 は季 節 的 な発 生 源 から排 出 され、全 体 のハロゲン化 PAHs 濃 度 上 昇 を引 き起 こしていると思 われる。そこで、BaP塩 素 置 換 体 が両 地 点 における大 気 ClPAHsの濃 度 差にど の程 度 寄 与 しているかを検 討 した。図 5には、横 軸に工 業 地 帯 から都 市 部 の総ハロゲン化 PAHs濃 度を差 し引い た値 を示 し、縦 軸 には工 業 地 帯 の BaP 塩 素 置 換 体 濃 度 ならびに1-ClPy濃 度 の値 でプロットした 結 果 を示 す。こ の結 果、両 地 点におけるハロゲン化 PAHsの濃度 差 は工 業 地帯 のBaP塩 素 置 換 体 濃 度と有 意な相 関を示 すが、 1-ClPyは有 意 な相 関を示 さなかった。このことは、工 業 地 帯におけるハロゲン化 PAHsの濃 度 変 動 はBaP塩 素 置 換 体 が大 きく寄 与 していることを示 唆 している。言 い 換 えれば、 BaP塩 素 置 換 体 の発 生 源 を明 らかにし、大 気 濃 度 を制 御 することができれ ば、大 気 ハロ ゲン 化 PAHs 濃 度 低 減 に 大 き く 貢 献 で きると思われる。 さ ら に 工 業 地 帯 か ら 都 市 部の総ハロゲン化 PAHs 濃 度 を 差 し 引 い た 値 を 時 系 列 で 示 し た と こ ろ 、 2012/1/10 ~ 17 ま で 捕 集 された 大 気 試 料 で 最 大 差 が示 された (図 6)。この期 間 の工 業 地 帯 の試 料 では 最 もBaPの 塩 素 置 換 体 の 割 合 が 大 きい こ とから も、 BaP塩 素 置 換 体 は局 所 的 な汚 染 を引 き起 こしている こ とが 推 測 され る 。 実 際 、 最 大 濃 度 差 を示 した週 (2012/1/10~17)の前 後 1週 間 の後 方 流 跡 線 解 析 を行 ったところ、何 れも気 塊に大 きな 違いは見られなかった(図 6)。よってBaP塩 素 置 換 体 は越 境 汚 染によるものではなく、工 業 地 帯 特 有 な発 生 源に よって排出 されるが、その汚 染は局 所 的であることが明らかとなった。 4) 各粒 径におけるハロゲン化 PAHsの測 定 都 市 部においては、大 気粒 子 を5段 階で分 級 捕 集し、粒 径 別 毎のハロゲン化 PAHsの存 在 形 態を調べた。粒 径 毎の総 ハロゲン化 PAHs濃 度を比べると、粒 径が小 さくなるにつれて濃 度が増 加 する傾向 が見られた。とくに総 ハ ロゲン化PAHsはPM1.1以 下 の微 小 粒 子に全 体 の60%近 く含 まれていることが明 らかとなった(図 7)。微 小 粒 子は 主 に人 為 的 活 動 による発 生 源 由 来 とされていることから、大 気 ハロゲン化 PAHsの発 生 源 もまたPAHs同 様 に人 為 的 活 動 由 来 であると思 われる。さらに、各 粒 径 毎 の濃 度 組 成 比 をみると粒 径 が小 さくなるにつれて高 分 子 量 ハロゲン化 PAHs(5環 系 )の比 率 が増 加 する傾 向 が見 られた(図 7)。また、興 味 深 い点 として、塩 素 置 換 数 が増 加 するにつれPM1.1中 の比 率 が増 加 する傾 向 が見 られた (図 8)。これは、高 塩 素 化 PAHsを含 む微 小 粒 子 の発 生 源 が存 在 することを示 唆 しているか、微 小 粒 子 中 でPAHの塩 素 化 が進 行 していることが推 測 される。このよう な粒 径 別 の組 成 変 動 を考 慮 することはハロゲン化 PAHsの環 境 動 態 や曝 露 リスクを考 慮 する上 で極 めて重 要 な 点だと思われる。 図5.工 業 地 帯と都 市 部の総ハロゲン化 PAHs(ClPAHs)濃 度 差と工 業 地 帯にお ける6-ClBaP濃度 (左)と1-ClPy濃 度 (右 )の関 係 図6.工 業 地 帯と都 市 部の総ハロゲン化 PAHs(ClPAHs)濃 度 差の時 系 列 変 化と後 方 流跡 線 解 析
5) 光塩 素 化 反 応によるハロゲン化 PAHsの生成
大 気 粒 子 中 のハロゲン化 PAHの環 境 動 態 を考 察 する上 で、光 化 学 反 応 は主 要 な反 応 機 構 である。 PAHsの 同 族 体 の一 種 であるニトロ化 PAHsの一 部 は大 気 中 でOH ラジカルやNO3ラジカルといったラジカル種あるいはオ ゾンが関 係 した 反 応 により二 次 生 成 されることが報 告 されている。 このような 二 次 生 成 反 応 を 考 慮 すると、光 反 応 により大 気 中 の塩 素 とPAHsが反 応 することで、塩 素 原 子 が置 換 したハロゲン化 PAHsが二 次 的 に生 成 される 可 能 性 が考 えられる。そこで本 研 究 では 光 反 応 装 置 を用 いてPAHの光 塩 素 化 反 応 に与 える影 響 について検 討 した。 a 高圧 水 銀ランプによる光 塩素 化 反 応 PAHにBaP、塩 素 源 として塩 化 ナトリウムをpH2に調 整 した水/ メタノ ール溶 液 に 溶 解 させ、 高 圧 水 銀 ランプによる可 視 光 照 射 を 行 った。そ の結 果 、光 照 射 前 に 確 認 されなかった 6-ClBaPのピー クが光 照 射 後 に確 認 された(図 9)。これらのことから、塩 素 イオン 存 在 下 、可 視 光 を照 射 することに より BaPが塩 素 化 されることが わかった。さらにpHの影 響 を明 らかに するため、pHを2~5に調 整 して2分 間 光照 射を行った結 果、pH2およびpH3において光 照 射後 6-ClBaP の 生 成 が 確 認 さ れ た が 、 pH4 お よ び pH5 に お い て は 6-ClBaP の 光 生 成 は 確 認 さ れ な か っ た 。 ま た 、 pH2 と pH3 の 6-ClBaPの生 成 量 を調 べたところ、pH2において9.28nM(BaPの初 期 濃 度 の 1.12 % ) 、 pH3 に お い て は 2.79nM ( BaP の 初 期 濃 度 の 0.34%)であり、pH2において多 くの6-ClBaPが生 成 されていた。こ れらのことから、 6-ClBaP の可 視 光 に よる光 生 成 に はpHが大 きく 影 響 することが示 唆 された。次 に、高 圧 水 銀 ランプを用 いた Pyの 光 塩 素 化 反 応 に ついて も検 討 したところ、 B aP 同 様 に酸 性 条 件 下において1塩 素 化 体 である1-ClPyの生 成 (塩 素 化 効 率 :<5%) が確 認 された 。 これらの結 果 より、 PAH は塩 素 イ オン 存 在 下 、 酸 性 水溶 液 中で光 塩 素化 が進行 することが示 唆された。 図7.各 粒 径における総ハロゲン化 PAHs濃 度 図8.PM1.1とTSPにおけるハロゲン化 PAHの存 在 割 合 図9.光 照 射によるBaPの光反 応 生 成 物 のHPLC・GC/MSクロマトグラム
から反 応 機 構 を検 討 した 。Py、塩 化 ナ トリウムの 初 期 濃 度 をそ れぞれ29.67μM、1.28mMとし、塩 酸 を用 いてpHを2に調 整 し光 照 射 を行 った。その結 果 、照 射 時 間 10分 で1-ClPyの生 成 量 が 最 大 に 達 し、そ の後 徐 々に 1-ClPy濃 度 が減 少 する 結 果 となっ た(図10)。そこで、逐 次 反 応 素 速 度 式 (1)を用いて1-ClPyの生 成 濃 度 を代 入 した ところ理 論 値 と実 験 値 の傾 向 がほぼ一 致 す る結 果が得 られた(図 10)。このような傾 向 はBaPの光 塩 素 化 反 応 でも同 様 に観 測 された。よって、PAHの光 塩 素 化 反 応 は反 応 初 期 段 階で速 やかに進 行 し、その後 徐 々に分 解するといった逐 次 反 応 的 に進 行 することが示 唆 された。しかしながら、 PAHから 塩 素 化 PAHに 変 換 した 割 合 は最 大 で1.4%であった ことから、実 際 の 大 気 環 境 中 に お い て PAH の 光 塩 素 化 に よ る ハ ロ ゲ ン 化 PAH生 成 の寄 与 は極 めて低 い ことが予 想 される 。今 後 は気 相 におけるPAHの光 塩素 化 反 応など、実 環 境に則した実 験モデルを構 築 する必 要があると思われる。 6) PMF法によるハロゲン化 PAHsの発 生源 解 析 大 気 粒 子 中 のハロゲン化 PAHsの発 生 源 を推 定 するためにレセプターモデルの一 つであるPMF法 により解 析 を 行った。Positive Matrix Factorization (PMF)法は因 子分 析の一 つであり、多 成 分の変 動 要素 から複数 のパタ ーンを抽 出 する統 計 モデルである。抽 出 された因 子 のプロファイルに着 目 することで、その因 子 の由 来 を推 定 す ることができる。また、測 定 値 に対 する各 因 子 の寄 与 も求 められる。CMB(Chemical Mass Balance)法 との違い は発 生 源に関 する情 報を必 要としない点である。 PMF法による計 算には、工 業 地 帯 ならびに都 市 部 における粒 子 、ハロゲン化 PAH、PAH、炭 素 成 分 、イオン成 分、金 属 成 分 の各 濃 度データを用いて行 った。また、因 子 数は PMF解 析の繰 り返し計 算により得られたQの分 散 が小 さく、且 つ理 論 値 に近 くなる値 から因 子 数 6に決 定 した。図 11には因 子 数 6で計 算 した場 合 に導 出 された代 表 的 な各 因 子 のプロファイルを因 子 間 の相 対 比 で示 した。因 子 1はOC1の負 荷 が大 きく、夏 季 に負 荷 が小 さくな る傾 向 を示 したことから、冬 季 の燃 焼 系 の寄 与 を表 す因 子 として解 釈 した。因 子 2はアンモニウムイオン、硫 酸イ オンの負荷 が大 きいことから、硫 酸 系 二 次 生 成の寄 与を表 す因 子として解 釈 した。因 子 3はCr、Znの負 荷 が大 き いことから工 場 の寄 与 を表 す因 子 として解 釈 されたが、 EC、Cuの負 荷 も認 められることから自 動 車 等 交 通 関 係 図10.光照 射による1-ClPyの生 成 量 (1) 図11.PMF法による各因 子 の相 対 比
較 的 大 きかったことからバイオマスや廃 棄 物 燃 焼 の寄 与 を表 す因 子 として解 釈 した。因 子 6はNa+、Cl-、Ca2+、Ti の負 荷が大 きかったことから越 境 汚 染 による黄 砂の寄 与 を表 す因 子 として解 釈 した 。 次に、抽 出 された各 因 子 に対 するハロゲン化 PAHsならびにPAHsの寄 与 率 を算 出 した。その結 果 、最 も大 きなハロゲン化 PAHsの発 生 源 は冬 季 燃 焼 系 であり、その寄 与 は全 体 の39%と見 積 もられた(図 12)。次 いで、工 場 ・自 動 車 の寄 与 が21% 、バイ オマス・廃 棄 物 燃 焼 が17%の順に高 い寄 与を示 し、これら人 為 的な燃 焼 由 来 の発 生 源が全 体 の約 80%を占 めて いた。一 方、PAHsの最も大 きな発 生 源 寄 与は重 油 燃 焼 ・鉄 鋼 業 由 来であり、次いで工 場・自 動 車 、冬 季 燃 焼 系 の順 になった。PAHsの発 生 源 の寄 与 率 はハロゲン化 PAHsの場 合 とは若 干 異 なる傾 向 を示 した ことから、両 者 にはそれぞれ特 有の発 生 源が存 在 することを示 唆している。しかしながら、微 小 粒 子においてはハロゲン化 PAHs と親 PAHs濃 度 に有 意 相 関 が認 められたことから、一 部 の発 生 源 では PAHsの生 成 過 程 でハロゲン化 PAHsもま た生 成 されていると思 われる。また、ハロゲン化 PAHsは局 所 的 かつ季 節 的 な発 生 源 の影 響 が大 きいことから、 今 後 の低 減 対 策 においては冬 季 燃 焼 系 の特 定 やハロゲン化 PAHsの生 成 機 構 の解 明 が肝 要 であると思 われる。 これまでに、大 気 ハロゲン化 PAHsの発 生 源 について言 及 した 研 究 例 は少 なく、大 気 PAHsと共 通 した 発 生 源 に 起 因 し て い る と 認 識 さ れ て い た 。 す な わ ち 、 大 気 ハ ロ ゲ ン 化 PAHs の 発 生 源 や 寄 与 率 の 推 定 が 本 研 究 に お い て 初 め て 遂 行 さ れた 。 本 研 究 を 通 じ、 都 市 大 気 の ハ ロ ゲ ン 化 PAHs の 環 境 動 態 な ら び に 発 生 源 寄 与 率 が 推 定 され 、 ハ ロ ゲ ン 化 PAHs と PAHsの主 要 な発 生 源 は 互 い に 異 な る こ と が 明 ら かになった。 5.本 研 究により得られた主な成 果 (1)科 学 的意 義 本 研 究 では、芳 香 族 塩 素 化 合 物 の新 たな環 境 リスク因 子 として注 目 されているハロゲン化 PAHsの合 成 法 を 確 立 し、24種 の標 準 物 質 を作 製 するとともに、比 較 的 低 価 格 な分 析 機 器 である四 重 極 型 GC/MSを用 い た高 感 度 分 析 法 を確 立 した。これらの成 果 によって、これまでほとんど明 らかにされていなかったハロゲン化 PAHsの環 境 動 態 の解 明 に大 きく進 展 することが期 待 される。また、本 研 究 では都 市 大 気 におけるハロゲン化 PAHsの長 期 観 測 を実 施 し、季 節 変 動 や地 域 特 性 を明 らかにすることができた。とくに、高 分 子 量 のハロゲン化 PAHs(BaP塩 素 置 換 体 ) が 局 所 的 なハ ロ ゲ ン 化 PAHs 濃 度 の 変 動 要 因 であ る こと を 突 き 止 めた 。そ のた め 今 後 ハ ロ ゲン 化 PAHsの環 境 汚 染 低 減 化 には、BaP塩 素 置 換 体 の生 成 機 構 や発 生 源 、大 気 安 定 性 を解 明 することが重 要 であ ると思 われる。また、大 気 中 のハロゲン化 PAHsは塩 素 置 換 数 が増 加 するにつれて、微 小 粒 子 中 の存 在 割 合 が 増 加 することがわかった。微 小 粒 子 と高 塩 素 化 PAHs生 成 の関 係 は現 在 のところ明 らかとなっていないが、曝 露 リスクの観 点 からも今 後 明 らかにする必 要 があると思 われる。さらに PAHの光 塩 素 化 反 応 について検 討 したとこ ろ、酸 性 (<pH3)ならびに塩 素 イオン存 在 下 でPAH が逐 次 的 に光 塩 素 化 することがわかった。よって、大気 のハ ロゲン化PAHsは一 次発 生 源だけではなく、大 気 中の二 次 的な反 応によっても生 成 される可 能 性 がある。また、リ セプターモデルであるPMF法 から初 めて大 気 ハロゲン化 PAHsの発 生 源 解 析 を行 った。ハロゲン化 PAHsはPAHs とは異 なる発 生 源 寄 与 を示 しており、冬 季 燃 焼 系 が最 大 の発 生 源 因 子 で あ ることが推 定 された。この知 見 は、 今 後のハロゲン化 PAHs低 減対 策において極めて重 要であると思われる。 (2)環 境 政策 への貢 献 <行 政が既に活 用した成 果 > 特に記 載 すべき事項 はない。 <行 政が活 用 することが見 込まれる成 果> 本 研 究ではPOPs規 制 物 質であるPCDD/DFや候 補 物 質であるPCNと類 縁 構 造を有 するハロゲン化 PAHsに関 する大 気 環 境 動 態 を捉 えるとともに発 生 源 を推 定 した。現 在 のところハロゲン化 PAHsに関 する研 究 例 は限 られ ており、本 研 究 で得 られた成 果 は今 後 ハロゲン化 PAHsがPOPs追 加 候 補 物 質 に加 えられた際 の情 報 提 供 や討 図12.大気 ハロゲン化 PAHsならびにPAHsの発生 源 寄 与率
東 日 本 大 震 災 の津 波 によって打 ち上 げられたヘドロ上 でも進 行 することが懸 念 される。本 知 見 は今 後 の津 波 被 害による曝 露 リスク影 響 評価に貢 献できると思われる。 6.研 究 成 果の主な発 表 状 況 (1)主な誌 上 発表 <査 読 付き論 文 > 1) 神 谷優 太,今 中 努 志,池 盛文 数,西 脇 さゆみ,安 藤 正 典, 大浦 健 :名城 大 学 総 合研 究 所 紀 要,17,19- 22,(2012) “未 規 制 リスク因子 の環 境 動 態 解 析ならびに生 体 影 響 評価 —塩 素 化多 環 芳 香 族類 の大 気 汚 染 実 態調 査とダイオキシン受容 体 活 性 化 能 —” (2)主な口 頭 発表 (学 会 等) 1) 大 浦健 、小島 光 博、雨 谷 敬史 、堀井 勇 一:第 20回 環境 化 学 討 論 会(2011) 「都 市 大 気における塩素 化 多 環 芳 香族 炭 化 水 素類 の日 内 変動 」 2) 三 輪良 、大浦 健 :第 20回 環 境化 学 討 論 会(2011) 「塩 素 化 多環 芳 香 族 類の光 分解 挙 動 と遺 伝 毒 性に関する研 究」
3) T. Ohura, M. Kojima, Y. Horii: The 23rd International Symposium on Polycyclic Aromatic Compounds. Münster, Germany (2011)
“Diurnal variation of chlorinated polycyclic aromatic hydrocarbons in urban air, Japan” 4) 三 輪良 、大浦 健 :日 本 化 学 会第 92春 季 年 会(2012) 「紫 外 線 照射 下における塩 素 化 多 環芳 香 族 類の動 態 解析 」 5) 神 谷優 太 、大 浦 健:日 本 化 学会 第 92春 季 年会 (2012) 「GC/QMSによる塩 素化 多 環 芳 香族 炭 化 水 素 類の高 感 度分 析 法の開 発 及び環 境 分 析への適 用」 6) 神 谷優 太 、池 盛 文 数、大 浦健 :日 本分 析 化 学 会 第 61年 会 (2012) 「名 古 屋 市大 気 中におけるハロゲン化 芳 香族 類 濃 度 の年 間 変動 」 7) 神 谷優 太 、大 浦 健:都 市 大 気のPM2.5研 究 会(2013) 「名 古 屋 市の大 気浮 遊 粒 子 中における塩素 化 芳 香 族 類の年間 変 動および粒 径 分布 」 8) 大 浦健 :薬 学シンポジウム —大 気(空 気)と健 康 —(2013) 「ハロゲン化 多 環 芳 香 族 炭 化 水素 の環境 動 態と生 体 影 響」 9) 神 谷優 太 、池 盛 文 数、飯 島明 宏 、奥 田 知 明、大 浦 健:第 22回 環 境 化 学 討論 会 (2013) 「都 市 大 気における塩素 化 多 環 芳 香族 炭 化 水 素類 の環 境 動態 ならびに発 生 源解 析 」
10) Y. Kamiya, F. Ikemori, T. Ohura: SETAC Europe 23rd An nual Meeting, Glasgow, Scotland (2013) “Environmental factors affecting the concentrations of c hlorinated polycyclic aromatic hydrocarbons
associated with particulate matters” 7.研 究 者 略 歴
課 題 代 表者 :大 浦 健
埼玉 大 学 大 学 院修 了 、博 士 (学 術)、静岡 県 立大 学 助 手、現 在、名 城大 学 准 教 授
RFb-1103 大気微小粒子におけるハロゲン化芳香族類の発生源と二次的形成能の解明 (1) ハロゲン化芳香族類の標準品合成ならびに環境 分析評価 名城大学 大浦 健 〈研究協力者〉 名古屋市環境調査センター 池盛 文数(平成23~24年度) 高崎経済大学 飯島 明宏(平成24年度) 慶応大学 奥田 知明(平成24年度) 平成23~24年度累計予算額:15,396千円 (うち、平成24年度予算額:6,842千円) 予算額は、間接経費を含む。 [要旨] 本研究では未規制化学物質ではあるが環境リスク因子として懸念されているハロゲン化多環芳 香族炭化水素(ハロゲン化PAHs)に焦点を当て、その大気環境動態と発生源の解明を目的とした。 はじめにハロゲン化PAHs合成を行い、最終的に24種のハロゲン化PAHsを標準物質として揃えるこ とができた。大気粒子試料は2011年4月から2012年9月にかけて、名古屋市の2地点(工業地帯と都 市部)で採取した。ハロゲン化PAHsの分析を四重極型GC/MSを用いて分析した結果、対象とした全 てのハロゲン化PAHsが大気粒子中から検出された。また両地点のハロゲン化PAHs濃度を比較した 結果、工業地帯におけるベンゾaピレンの塩素置換体によってハロゲン化PAHs全体の濃度が変動す ることがわかった。また、ハロゲン化PAHsの同属体毎で見ると塩素置換数が増加するにつれて微 小粒子中の存在比率が増加する傾向が見られた。そこで、微小粒子中でPAHが高塩素化体に変化す るかどうかPAHの光塩素化反応を検証した。水/メタノール溶媒中にPAHと食塩を所定量溶解させ、 光照射を行ったところ1塩素置換体のPAHが生成された。このPAHの光塩素化を速度論モデルで解析 したところ、光塩素化反応から光分解反応が逐次的に進行していることが明らかとなった。しか しながらPAHの光塩素化生成物の収率は5%未満であったことから、実際の大気中のハロゲン化 PAHs は光化学的な生成よりも発生源からの直接的な排出によるものと推測した。そこで、ハロゲン化 PAHsの発生源をリセプターモデルであるPMF法を用いて環境データから推定した結果、6種の因子 が抽出された。指標成分から各因子の発生源を推定し、ハロゲン化PAHsの発生源寄与率を算出し たところ、冬季燃焼系、工場、自動車由来で約80%を占め、局所的な発生源の影響が大きいことが 示唆された。本研究では、これまで未解明であった大気ハロゲン化PAHsの発生源ならびにその寄 与率を初めて推定することができた。 [キーワード] ハロゲン化PAHs、未規制物質、光塩素化反応、発生源、PMF法
1.はじめに 環境中に蔓延した化学物質を管理・規制することは、安心安全な社会の実現や生態系の保全など 持続可能な社会の構築に向けて必要不可欠である。現在、大気、水、土壌といった様々な環境媒 体において多くの化学物質に規制が施されているが、それらは環境リスク因子として十分である とは言い難い。とくに、国内外における急激な産業の発達・多様化は、今まで明らかとされてい なかった新たな環境リスク因子を生み出す可能性を有している。 多環芳香族炭化水素(PAHs)は代表的な環境発がん物質群であり、有機物の不完全燃焼時に容易 に生成されることが知られている。そのためPAHsは環境中に広く拡散し、その曝露による生体影 響が懸念されている。これまでに環境中のPAHsモニタリングに関する研究は数多く行われている。 日本においては大気中のPAH濃度が減少傾向である一方、中国をはじめとした新興国のPAHs汚染が 深刻な問題になりつつあり、今後の動向が注視される。さらに、PAHsのニトロ化体や酸化体など PAH誘導体に関する実態調査も盛んに行われており、その生成機構や毒性なども明らかとな ってき た。近年、新たなPAH誘導体として塩素原子や臭素原子がPAHsに置換したハロゲン化PAHsが大気粒 子中に存在することが見出された。とくにハロゲン化PAHsは、PAH骨格上に複数の塩素原子が置換 した構造を有しており、分子構造的にダイオキシン同等の毒性リスクが懸念される。しかしなが ら、ハロゲン化PAHsの環境研究の報告例はPAHsやダイオキシン類に比べ極めて少ないのが現状で ある。この最大の要因としては、ハロゲン化PAHsの標準品がほとんど市販されていないことが挙 げられる。その結果、ハロゲン化PAHsによる大気汚染の実態、その生成機構や発生源など未解明 な点が数多く残されている。これらの検討課題を明らかにすることは、ハロゲン化PAHs以外の未 規制リスク因子の実態解明に繋がるものであり、今後の環境汚染物質に対する施策にも重要な知 見を与えることが期待できる。 2.研究開発目的 最近 、 新た な 未 規制 環 境リ ス ク 因 子 と して ハ ロ ゲン 化 PAHに関 す る研 究 がい く つ か報 告 され てきたが 、その 生成機構 を始め 未解明 な部分は 未 だ数多く残 されて いる。とくに 一般大 気中の ハロゲン化 PAHs濃 度に関す る情報 は、世界 でも数 例、日本では 静岡市 のみの観 測結果 しかな い。 また、前処理法や分析機器による測定精度といった測定技術の面においても精査されていない。 とくに、簡便な分析手法の確立は、今後のハロゲン化PAHs調査、評価の発展に大きく貢献できる と思われる。さらに、大気中のハロゲン化PAHsは、これまでの研究成果より焼却施設など特定の 発生源から由来するものと、大気中の光化学反応によって二次的に生成するものがあることが推 測されている。一般的に大気中の芳香族有機化合物は、光反応による分解が主反応だと考えられ ていた。しかしながら現在までハロゲン化PAHsの光反応を検討した事例はなく、このような光反 応機構を検討することは、ハロゲン化PAHsの大気動態を明らかにする上で極めて重要であると考 えられる。そこで本 研究で は 、初 めに ハ ロゲン 化 PAHsの標 準品を合 成し、 最適な 分析条 件を確 立した後、年 間を通じ た大気 汚染調査 を 実施 する 。このとき、重金 属や炭 素成分と いった 影響 因子成分も 併せて 測定を行 う。さら に、大気 粒子 表面を模し たモデ ル反応系 でのハ ロゲン 化 PAH の生成・変質機 構を検討 する 。これ らハロゲ ン化 PAHsの大気 汚染調 査と光化 学反応 の結果 を基 に、統計的 解析で ある PMF法を用い て発生 源の推 定を行うこ とを目 的とした 。
3.研究開発方法 (1)ハロゲン化芳香族類の標準品合成ならびに環境分析評価 1)ハロゲン化PAH標準品の合成 ハロゲン化PAHsの標準品の合成は、骨格と なるPAHに塩素化する方法で行った。骨格とな るPAHには、phenanthrene(3環系)、pyrene (4環系)、benzo[a]pyrene(5環系)を選択 した(図-1)。塩素化剤には、ラジカル塩素 化剤であるN-クロロコハク酸イミド、求核反 応 に よ る 塩 素 化 剤 で あ る 塩 化 ス ル フ リ ル を 用いた。これらPAHと塩素化剤をそれぞれ所定量炭酸プロピレンもしくはクロロホルム中に 添加し、 還流下、100℃で反応を行った。所定時間反応終了後、再結晶を行い反応生成物の単離を行った。 さ ら に 純 度 を 高 め る た め に HPLC に よ る 分 取 を 行 っ た 。 HPLC 分 取 の 条 件 は カ ラ ム に は Shimadzu-Shim- Pack-ODS(H)(250mm X 10mm)、遊離液にはメタノール(1級、Wako製)を用い、流 速10ml/minで溶出し、UV(254nm)による吸収が見られた各フラクションを回収し、標品を得た。 また、反応生成物はGC/MSにて純度と構造の確認を行った。 2)大気浮遊粒子の採取 大 気 浮 遊 粒 子 の 捕 集 は 、総 浮 遊 粒 子 状 物 質 ( TSP) を 採 取 す る 方 法 と 粒 径 毎 に 分 け て 採 取 す る 方 法 で 行 っ た 。 TSPの 捕 集 は 、 都 市 部 ( 名 城 大 学 内 校 舎 屋 上 地 上 約 20m) と 工 業 地 帯 ( 名 古 屋 市 環 境 科 学 研 究 所 屋 上 地 上 約 20m) に ハ イ ボ リ ュ ー ム エ ア サ ン プ ラ ー を 設 置 し て 行 っ た 。 サ ン プ リ ン グ 地 点 と 捕 集 の 様 子 を 図 2 と 3 に そ れ ぞ れ 示 す 。 TSPは 秤 量 し た 石 英 繊 維 フ ィ ル タ ー ( 東 京 ダ イ レ ッ ク 社 製 ) 上 で 、 吸 引 流 量 を 600L/minで 1 週 間 連 続 し て 採 取 し た 。採 取 し た 石 英 繊 維 フ ィ ル タ ー は 、秤 量 し た 後 、捕 集 面 を 内 側 に し て 2 つ 折 り に し 、ア ル ミ ホ イ ル で 包 み 、 抽 出 操 作 を 行 う ま で - 35 ℃ の 冷 凍 庫 に 保 管 し た 。一 方 、大 気 粒 子 の 分 粒 捕 集 は 、名 城 大 学 屋 上 に ( 都 市 部 ) に 分 粒 捕 集 用 サ ン プ ラ ー ( HV-1000R、 柴 田 科 学 ) を 設 置 し て 行 っ た 。 捕 集 方 法 は 、 吸 引 流 量 を 566L/minと し て 粒 径 を 5段 階 ( 1.1μ m以 下 、 1.1― 2.0μ m、 2.0― 3.3μ m、 3.0― 7.0μ m、 7.0μ m以 上 ) に 分 け 、 粒 径 1.1μ m以 下 を 捕 集 す る バ ッ ク ア ッ プ フ ィ ル タ ー ( 石 英 繊 維 フ ィ ル タ ー 、 東 京 ダ イ レ ッ ク 社 製 ) は 1週 間 連 続 、 そ れ 以 上 の 分 粒 フ ィ ル タ ー ( 石 英 繊 維 フ ィ ル タ ー 、 東 京 ダ イ レ ッ ク 社 製 ) は 2週 間 連 続 で 行 っ た 。 TSPの 捕 集 は 2011年 4月 12日 よ り 開 始 さ れ 、 2012年 8月 27日 ま で 継 続 的 に 都 市 部 、工 業 地 帯 の 両 地 点 で 同 時 に 行 わ れ た 。ま た 、分 級 捕 集 は 2012年 8月 23日 図1. 標準品作製に用いたPAH 図2.サンプリング地点
か ら 2012年 12月 23日 ま で 、 都 市 部 の み で 行 っ た 。 大 気 捕 集 さ れ た フ ィ ル タ ー か ら の イ オ ン 成 分 、 炭 素 成 分 、 重 金 属 の 各 分 析 は 、 フ ィ ル タ ー か ら ベ ル ト ポ ン チ( 直 径 2.5cm)を 用 い て 一 部 く り 抜 い た も の を 使 用 し た 。ハ ロ ゲ ン 化 PAHsな ら び に PAHs 分 析 に は 残 り の フ ィ ル タ ー を 全 て 使 用 し た 。 3)前処理条件の最適化
前処理カラムにはSilica gel (Supelco)、Sulfoxide (Supelco)、Alumina (Wako Pure Chemical)、 Active-Carbon (Supelco)がそれぞれ 0.2~3g充填されたものを用いた。上記各担体に溶出溶媒で 予 め 通 液 さ せ コ ン デ ィ シ ョ ニ ン グ を 行 い 、 そ の 後 被 験 物 質 と し て benz[a]anthracene 、 1-chloropyrene 、 7-chlorobenzo[a]anthracene 、 6-chlorobenz[a]pyrene と 内 部 標 準 物 質 と し て perylene-d12ならびにfluoranthene-d10が所定量含まれた混合溶液を担体上に添加し、溶出溶媒に て溶出を行った。添加した化合物の溶出プロファイルを作製するために、溶出量2ml毎に分画した。 分画された溶出液は濃縮後、シリンジスパイクとして phenanthrene-d10を所定量添加し、その後 GC/MSに供した。 Silica gel、Sulfoxide、Aluminaを担体に用いた時には溶出溶媒としてヘキサンならびにジク ロロメタンを用い、それら溶媒の混合比によるハロゲン化PAHsの溶出の変化を検討した。また、 Active-Carbonを担体に用いた時はトルエンを溶出溶媒に用いた。 クリーンアップの有効性を確認するために実際の環境大気サンプルを各前処理カラムに供し、 夾雑物の影響を比較した。大気試料は名古屋市環境科学研究所の屋上にてハイボリュームエアサ ンプラーを用いて、石英繊維フィルター(QFF)上に一週間(2011年10月18日~2011年10月25日) 連 続 捕 集 し た 。 分 析 試 料 の 前 処 理 は 、 QFF に ク リ ー ン ア ッ プ ス パ イ ク ( fluoranthene-d10及 び perylene-d12)を添加し、トルエンで16時間ソックスレー抽出し、その後エバポレーターならびに N2パージによって約50μLまで濃縮した。さらにその濃縮液をシリカゲル及び活性炭を用いてクリー ンアップを行い、濃縮した後に、シリンジスパイク(phenanthrene-d1 0)を添加し、GC/MSに供し ハロゲン化PAHsを測定した。 4 ) ハ ロ ゲ ン 化 PAHsな ら び に PAHsの 抽 出 ・ 前 処 理 大 気 試 料 か ら の ハ ロ ゲ ン 化 PAHsな ら び に PAHsの 抽 出 は 以 下 の 通 り に 行 っ た 。 抽 出 を 行 う フ ィ ル タ ー に ク リ ー ン ア ッ プ ス パ イ ク と し て Fluoranthene-d1 0及 び Perylene-d1 2( 和 光 純 薬 製 ) を 添 加 し 、 ジ ク ロ ロ メ タ ン ( 残 農 用 5000、 和 光 純 薬 製 ) で 16時 間 ソ ッ ク ス レ ー 抽 出 し た 。次 に 抽 出 液 を エ バ ポ レ ー タ ー に よ っ て 減 圧 下 で 約 2mLに 濃 縮 し た 後 に 、さ ら に 窒 素 気 流 下 、 40 ℃ で 約 50μ Lま で 濃 縮 し た 。
夾 雑 物 を 除 去 す る た め に 前 処 理 (ク リ ー ン ア ッ プ )は SUPELCO製 SupelcleanTM LC-Si SPE 図3. 名城大学(左)ならびに名古屋市環境研究所(右)
Tubes 6 mL(1 g)を n-ヘ キ サ ン ( 残 農 用 5000、 和 光 純 薬 製 ) 20 mLで コ ン デ ィ シ ョ ニ ン グ し た 後 、 カ ラ ム チ ュ ー ブ に 濃 縮 し た 抽 出 液 を 注 入 後 、 n-ヘ キ サ ン 10 mLに て 溶 出 さ せ た 。 溶 出 液 は 窒 素 気 流 下 、40 ℃ で 約 100 μLま で 濃 縮 し た 。さ ら に 濃 縮 し た 試 料 を イ ソ オ ク タ ン 100 µL に 転 溶 後 、 phenanthrene-d1 0 (50 ng/mL、 和 光 純 薬 製 ) を 100 µLを シ リ ン ジ ス パ イ ク と し て 添 加 し 、 四 重 極 型 GC/MSに 供 し ハ ロ ゲ ン 化 PAHsな ら び に PAHs濃 度 を 測 定 し た 。 5 ) ハ ロ ゲ ン 化 PAHsな ら び に PAHsの 分 析 分 析 対 象 と し た ハ ロ ゲ ン 化 PAHs は 3 ~ 5 環 系 の PAHs に 1 ~ 4塩 素 が 置 換 し た 24種 を 用 い た ( 図 5) 。 ま た 、 こ れ ら 測 定 対 象 物 質 を 本 文 中 で は 、 表 1に 示 し た 略 語 で 明 記 し た 。 ハロゲン化PAHsならびに PAHsの分析は、ガスクロマトグラ フィー-四重極型マススペクトロメトリー (GC/MS: 7890AGC (Agilent)-Jms Q-1000GC (JEOL)、図4)を用いて行った。ハ ロゲン化PAHsの分析条件は表2に示す。MSのイオン化方法はEI 法(電子イオン化法)ならびにNCI法(化学イオン化)を用い、 SIM法にて定量した。SIM設定の条件を表3に示す。 図4. 本分析に用いたGC/MS
Compound Abbraviation Compound Abbraviation
ClPAHs PAHs
9-Chlorophenanethrene 9-ClPhe Naphthalene Nap 2-Chloroanthracene 2-ClAnt Acenaphthylene Acy 9-Chloroanthracene 9-ClAnt Acenaphthene Ace 3,9-Dichlorophenanthrene 3,9-Cl2Phe Fluorene Fl 9,10-Dichloroanthracene 9,10-Cl2Ant Phenanthrene Phe 1,9-Dichlorophenanthrene 1,9-Cl2Phe Anthracene Ant 9,10-Dichlorophenanthrene 9,10-Cl2Phe Fluoranthene Fluor 3-Chlorofluoranthene 3-ClFlu Pyrene Py 8-Chlorfluoranthene 8-ClFlu Benzo[c]phenanthrene BcPh 1-Chlorpyrene 1-ClPy Benz[a]anthracene BaA 3,9,10-Trichlorphenanthrene 3,9,10-Cl3Phe Chrysene Chry 1,3-Dichlorofluoranthene 1,3-Cl2Flu Benzo[b]fluoranthene BbF 3,8-Dichlorofluoranthene 3,8-Cl2Flu Benzo[k]fluoranthene BkF Dichloropyrene Cl2Py Benzo[j]fluoranthene BjF 3,4-Dichlorofluoranthene 3,4-Cl2Flu Benzo[e]pyrene BeP 6-Chlorochrysene 6-ClChry Benzo[a]pyrene BaP
7-Chlorobenz[a]anthracene 7-ClBaA 7,12-Dimethylbenz[a]anthracene 7,12-DMeBaA Trichloropyrene Cl3Py 3-Methylcholanthrene 3-MC
6,12-Chlorochrysene 6,12-Cl2Chry Indeno[1,2,3-cd]pyrene IP 7,12-Dichlorobenz[a]anthracene 7,12-Cl2BaA Benzo[g,h,i]perylene BghiP Tetrachloropyrene Cl4Py Dibenzo[a,h]anthracene DBahA 6-Chlorobenzo[a]pyrene 6-ClBaP Dibenzo[a,l]pyrene DBalP Dichlorobenzo[a]pyrene Cl2BaP Dibenzo[a,i]pyrene DBaiP Trichlorobenzo[a]pyrene Cl3BaP Dibenzo[a,h]pyrene DBahP
用いた分析カラムは微極性カラムであるVF-5MS (0.25 mm x 30 m x 0.25μm; Agilent)もしくは Inert Cap 5MS/NP (0.25 mm x 30 m x 0.25μm; GL Sciences Co. Ltd.)とした。
図5.ハロゲン化PAH標準物質
表2.GC/MSによるハロゲン化PAHsの分析条件 GC注入口温度 300℃
注入方法 Pulsed splitless, 2μL
GC昇温条件 100℃ (1 min) → 25℃/min (200℃) → 5℃/min (300℃) → 300℃ (5 min) キャリアガス ヘリウム(99.999%)
流速 1.0 mL/min イオン化法 EI or NCI
イオン源温度 300℃ (EI), 160℃ (NCI) 測定モード SIM (EI, CI)
GCインターフ
ェイス温度 280℃ (EI), 200℃ (NCI) イオン化エネ
ルギー 70eV (EI, CI)
検出器電圧 -1150 V (EI), -1200V (CI) イオン化電流 200 μA
表 3. ハ ロ ゲ ン 化 PAHの SIM設 定 条 件
一 方 、 PAHsは 16種 の 優 先 PAHs ( 16 USEPA Priority PAHs ) を 含 む 2~ 6環 系 24種 の PAHsと し 、 AccuStandard Inc (USA)か ら 混 合 溶 液 と し て 購 入 し た ( 図 6) 。 PAHsの GC/MS分 析 条 件 な ら び に SIM設 定 条 件 を 表 4な ら び に 表 5に 示 す 。
表4.GC/MSによるPAHsの分析条件 表 5. PAHの SIM設 定 条 件 6 ) 水 溶 性 イ オ ン 成 分 の 分 析 水 溶 性 イ オ ン 成 分 の 分 析 は IC-8020シ ス テ ム( 東 ソ ー 製 )を 用 い て 行 っ た 。分 析 対 象 物 質 は ア ニ オ ン 成 分 と し て Cl-、 NO 3-、 SO42 -、 (COO-)2、 カ チ オ ン 成 分 と し て Na+、 NH4+、 K+、 Mg2 +、 Ca2 +の 9種 類 と し た 。ア ニ オ ン 成 分 と カ チ オ ン 成 分 の 分 析 で は 使 用 す る カ ラ ム が 異 な る た め 、 別 々 に 測 定 を 行 っ た 。 カ ラ ム な ら び に 分 析 使 用 し た 溶 媒 組 成 を 表 XXに 示 す 。 な お 、 グ ル コ ン 酸 カ リ ウ ム 、 四 ホ ウ 酸 ナ ト リ ウ ム 、 ホ ウ 酸 は 和 光 純 薬 工 業 製 特 級 品 を 用 い た 。 グ リ セ リ ン は 米 山 薬 品 製 特 級 品 、 ア セ ト ニ ト リ ル な ら び に 硝 酸 は 関 東 化 学 製 特 級 品 を 使 用 し た 。 分 析 試 料 の 調 整 は 、 捕 集 後 冷 凍 保 存 か ら 解 凍 さ れ た 石 英 繊 維 フ ィ ル タ ー か ら ベ ル ト ポ ン GC注入口温度 300℃ 注入方法 Pulsed splitless, 2μL
GC昇温条件 70℃ (3 min) → 20℃/min (240℃) → 5℃/min (310℃) → 310℃ (10 min) キャリアガス ヘリウム(99.999%) 流速 1.0 mL/min イオン化法 EI イオン源温度 300℃ 測定モード SIM GCインターフ ェイス温度 280℃ イオン化エネ ルギー 70eV 検出器電圧 -1000 V イオン化電流 200 μA
チ ( 2.5cmφ ) を 用 い て 一 部 を く り 抜 き 、 短 冊 状 に 裁 断 し た も の を 用 い た 。 こ の 試 料 を シ リ ン ジ レ ス フ ィ ル タ 内 に 入 れ 、 超 純 水 を 1.00mL添 加 し た 後 、 フ ィ ル タ ー ろ 過 し 抽 出 液 を イ オ ン ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー 分 析 に 供 し 、 ア ニ オ ン 成 分 な ら び に カ チ オ ン 成 分 を 分 析 し た 。 7 ) 炭 素 成 分 の 分 析 熱 分 離 ・ 光 学 補 正 法 に よ る 炭 素 成 分 の 分 析 は 、 Sunset社 製 カ ー ボ ン ア ナ ラ イ ザ ー を 用 い て IMPROVE法 に よ っ て 行 い 、 透 過 強 度 に よ っ て 補 正 し た 。 温 度 は IMPROVE法 に 従 い , ヘ リ ウ ム 雰 囲 気 下 で 室 温 ~ 120℃ ( OC1) , 120℃ ~ 250℃ ( OC2) , 250℃ ~ 450℃ ( OC3) , 450℃ ~ 550℃( OC4),ヘ リ ウ ム: 酸 素( 98: 2)に お い て , 550℃( EC1),550℃ ~ 700℃( EC2), 700℃ ~ 800℃ ( EC3) へ と 上 昇 さ せ た 。 ま た , 光 学 補 正 に よ り 補 正 さ れ た 炭 素 を 補 正 炭 素 ( PyOC) と し た 。
8 ) 重 金 属 分 析
重 金 属 成 分 の 分 析 は エ ネ ル ギ ー 分 散 型 蛍 光 X 線 分 析 装 置 ( EDXRF)を 用 い 、定 量 方 法 は FP 法 に て 行 っ た 。 詳 細 な 分 析 条 件 を 表 6に 示 す 。 測 定 物 質 は S、 K、 Ca、 Ti、 V、 Cr、 Mn、 Fe、 Ni、 Cu、 Zn、 Pbの 12種 と し た 。 な お 、 精 度 管 理 と し て EDXRFと ICP-AESで 同 試 料 を 定 量 し た と こ ろ 、 EDXRF値 / ICP-AES値 の 比 は 0.7( S) ~ 2.5( Mn) で あ っ た 。
表6. EDXRFの分析条件
Instrument Rigaku EDXL300 X-ray Source Pd-50W
Detector SDD (Silicon Drift Detector) X-Ray Irradiation Area 20 mm-i.d.
Measurement Pressure Vacuum (1 Pa) Secondary targets
Mo: 50 kV - 1 mA (auto), 400 sec Cu: 50 kV - 1 mA (auto), 400 sec RX9a: 25 kV - 0.7 mA (auto), 100 sec Quantification Method FP (Fundamental Parameter): RPF-SQX
(Rigaku Profile Fitting - Spectra Quant X) a. RX9 is a graphite crystal. 9 ) 光 化 学 反 応 試 験 光 照 射 を 行 う 際 の 光 源 と し て 、 高 圧 水 銀 ラ ン プ ( UM-452、 450W、 ウ シ オ 電 機 ) お よ び 低 圧 UVラ ン プ ( ULO-4DQ、 6W、 ウ シ オ 電 機 ) を 使 用 し た 。 そ れ ぞ れ の 光 源 の 輝 線 ス ペ ク ト ル を 図 7に 示 す 。高 圧 水 銀 ラ ン プ は pyrexガ ラ ス 製 の 冷 却 管 を 使 用 す る こ と に よ り 、290nm以 下 の 波 長 の 光 を 遮 断 し 、 主 に 可 視 域 の 光 を 照 射 し た 。 一 方 、 低 圧 UV ラ ン プ は 石 英 冷 却 管 を 使 用 し 、 紫 外 光 の 照 射 を 行 っ た 。 反 応 容 器 と し て 、 い ず れ の 光 源 に お い て も 13×100mmの 石 英 試 験 管 を 使 用 し た 。
PAHの 光 反 応 試 験 は 、 Pyも し く は BaPを そ れ ぞ れ 2.4mg、 2.1mg を メ タ ノ ー ル ( 特 級 、 和 光 純 薬 ) 25mLに 溶 解 し た 後 、 さ ら に メ タ ノ ー ル を 用 い て 所 定 濃 度 に 希 釈 し て か ら 実 験 に 使 用
し た 。 塩 化 ナ ト リ ウ ム ( 特 級 、 和 光 純 薬 ) は 所 定 濃 度 と な る よ う milli-Q100mLに 溶 解 し た 。 塩 化 鉄 ( Ⅱ ) を 使 用 す る 際 は 、 作 成 し た 塩 化 ナ ト リ ウ ム 水 溶 液 100mL に 対 し 2mgを 溶 解 し た 。 作 成 し た Py溶 液 あ る い は BaP溶 液 と 塩 化 ナ ト リ ウ ム 水 溶 液 を 1:3の 割 合 で 混 合 し た 後 、 塩 酸 あ る い は 硝 酸 を 用 い て pH調 整 を 行 っ た 。 pH調 整 を 行 っ た 溶 液 か ら 4ml を 石 英 試 験 管 に 移 し 、 水 温 を 25 ± 1 ℃ に コ ン ト ロ ー ル し た 反 応 水 槽 内 で turntable photoreactorを 用 い 、一 定 時 間 光 照 射 を 行 っ た 。反 応 槽 の 構 成 を 図 8に 示 す 。 光 照 射 後 、 反 応 溶 液 か ら 200µLを 分 取 し 、 100µLを HPLC-蛍 光 検 出 器 ( 島 津 製 ) に 供 し た 。 ま た 、 光 反 応 生 成 物 を 同 定 す る た め 、 反 応 溶 液 に 対 し 、 n-ヘ キ サ ン 1mLを 添 加 し た 後 、ボ ル テ ッ ク ス を 用 い て 撹 拌 し 、遠 心 分 離( 3,000rpm、5分 )を 行 っ た 後 、 上 層 を 回 収 し 、必 要 に 応 じ て 窒 素 気 流 下 で 濃 縮 後 2µLを GC/MS( Varian 450-GC/Varian 240MS、 scanモ ー ド ) 分 析 に 供 し た 。 1 0 ) PMF解 析
発 生 源 解 析 は 、 各 分 析 成 分 濃 度 デ ー タ を Positive Matrix Factorization ( PMF) 法 に て 解 析 し 、算 出 さ れ た 各 因 子 成 分 か ら 推 定 し た 。本 解 析 は フ リ ー ソ フ ト ウ エ ア EPA-PMF3.0( 米 国 環 境 保 護 庁 ) を 用 い た 。 検 出 下 限 値 未 満 の 成 分 濃 度 は 検 出 下 限 値 の 半 値 に 置 き 換 え 、 検 出 下 限 値 未 満 の 割 合 が 20%以 上 の 成 分 は モ デ ル か ら 除 外 し た 。ま た 、誤 差 デ ー タ は 各 成 分 に お け る 検 出 下 限 値 及 び 相 対 標 準 偏 差 を 用 い た 。 4.結果及び考察 (1)ハロゲン化芳香族類の標準品合成ならびに環境分析評価 1)ハロゲン化PAHs標準品の合成 現在、ハロゲン化PAHsとして1~2塩素原子が置換したPAHが数種市販されている。今後ハロゲン 化PAHsの環境調査や生体毒性など環境・生体影響 を明らかにするためにはより多くの物質の定量 が不可欠である。そこで本研究ではより高塩素置換体の合成に着手した。塩素化反応は所定のPAH 図8.光化学反応装置の概略図 図7.高圧水銀ランプ(右)と低圧UVランプ(左)の輝線スペクトル
に塩素化剤を投与し、PAH骨格上塩素原子を直接置換する方法を採用した。塩素化剤には塩素ラジ カルを生成するN-クロロコハク酸イミド、もしく は求核置換反応で進行する塩化スルフリルを用 いた。塩素置換数が4以上の高塩素化Pheの合成は、Phe 100mgをクロロホルムに溶解し、塩素化剤 としてN-クロロコハク酸イミドを添加(100 mg)し、60℃にて反応を行った。3塩素化Pheまでは 数時間の反応で進行したが塩素置換数4以上のPheは数日間反応させても合成されなかった。そこ でN-クロロコハク酸イミドを逐次添加(~5000mg)させ、反応を継続した。その結果、反応が2週 間を過ぎたあたりから4塩素置換体の生成が始まり、最終的に4週間反応させたところ、4~6塩素 置換体のPheが合成された(図9)。反応終了後、溶媒を除去し反応生成物をメタノール/水で再 結晶を試みたが、結晶の成長は確認されなかった。そこでODSカラムを用いてHPLCによる分取を試 みた。その結果、4塩素化Pheと5塩素化Pheが分取されたが、複数の異性体を除去することができ ず、純度は何れも80%以下であった。そのため4塩素以上の塩素化Pheは標準品から除外した。 図9.Pheの塩素化反応生成物のGC/MSクロマトグラム 次に、塩素置換数が3以上の高塩素化Pyの合成は、Py 200mgをクロロホルムに溶解し、塩素化剤 としてN-クロロコハク酸イミド4000mgを逐次添加し、60℃にて反応を行った。3日間反応させた後、 溶媒を除去し、反応生成物をメタノール/水で再結晶を試みたところ、3塩素化Pyと4塩素化Pyが それぞれ分別でき、純度はそれぞれ98%、95%であった。GC/MSで反応生成物を確認したところ、そ れぞれ推定される分子量に由来するマスフラグメントが確認できた(図10、図11)。これらの化 合物は電子密度計算より1,3,6-trichloropyreneならびに 1,3,6,8-tetrachloropyreneと推定した。 2塩素化BaPの合成は、BaP 100mgを炭酸プロピレン5mlに溶解させ、塩素化剤としてN-クロロコ ハク酸イミド100mgを添加し100℃、2時間反応を行った。反応終了後、メタノール/水で再結晶を 行い、ガラスフィルターでろ過後、反応生成物を得た。更に反応生成物をクロロホルムに溶解さ せODSカラムを用いてHPLCによる分取を行った。各フラクションをGC/MSで確認したところ、推定 される分子量に由来するマスフラグメントが確認できた( 図12)。分取後の生成物の純度は96%で あった。電子密度計算より本化合物は1,6-dichlorobenzo[a]pyreneと推定した(図12)。 3塩素化BaPの合成は、2塩素化BaPの合成と同様にN-クロロコハク酸イミドを塩素化剤に用いて 反応を行った。しかしながら1週間以上反応を継続しても3塩素置換体まで進行しなかった。そこ
で、塩素化剤を塩化スルフリル(700 mg)に変 えて、BaP100mgをクロロホルムに溶解した溶液 に 滴 下し 室 温 に て 反 応を 行 っ た と こ ろ極 め て 短時間(約10秒)で3塩素置換体が生成された。 反応溶液をメタノール/水で再結晶を行い、反 応生成物を回収し、GC/MSで分析したところ、推定される分子量に由来するマスフラグメントが確 認できた(図13)。電子密度計算より本化合物は1,3,6-trichlorobenzo[a]pyreneと推定した(図 13)。また、その純度は99%であったため、HPLCによる生成を行わず、再結晶物を乾燥させ、Cl3BaP 標準品とした。 以上の結果より、塩素化剤としてN-クロロコハク酸イミドは1~2塩素置換体の合成、塩化スル 図11.1,3,6,8-tetrachloropyreneの GC/MSクロマトグラム 図10. 1,3,6-trichloropyreneのGC/MS クロマトグラム 図12.HPLC分取によって得られた 1,6-dichlorobenzo[a]pyrene 図13.1,3,6-trichlorobenzo[a]pyreneの GC/MSクロマトグラム
フリルは短時間で高塩素置換体の合成に有効であることが示唆された。 2)分析条件の検討 ハロゲン化PAHsの分析条件の確立に当たり、はじめに分析カラムの性能評価を行った。分析カ ラ ム に は 5% ジ フ ェ ニ ル - 95% ジ メ チ ル ポ リ シ ロ キ サ ンで 統一 し た 低極 性カ ラム を用 い、 各社 相当 品で 比較 した 。上 記GC条件 にお いて ハロ ゲ ン 化 PAHs混合 標 準溶 液を GC/MS に供 し た とこ ろ、 Inert Cap 5MS/NP ( GL サ イ エン ス社 製) では 全て の分 析対 象物 質に 対し 良好 な分 離 を 示 し た が 、VF-5MS(バ リア ン製 ) で は分 離が 不十 分で あり 、ま たノ イズ によ る ピ ー ク 強 度 の 低 下 が み られた(図14)。よって以 降 の 実 験 で は 分 析 カ ラ ム にInert Cap 5MS/NP を用いて評価した。 次 に 、 GC/MSに お け る MS の 設 定 条 件 を 検 討 し た。はじめに、MS側の検 討項目として、EI法(電 子イオン化法)における イ オ ン 化 エ ネ ル ギ ー と ハ ロ ゲ ン 化 PAHs 分 析 の 感 度 変 化 に つ い て 検 討 した。イオン化エネルギ ー の 設 定 値 を 26eV ~ 70eV の 間 で 比 較 し と こ ろ、イオン化エネルギー の 違 い に よ る ハ ロ ゲ ン 化 PAHs の ク ロ マ ト グ ラ ム の 感 度 に 大 き な 違 い は 見 ら れ な か っ た ( 図 15)。 次に、検出器電圧の変 図14.Inert Cap 5MSカラムならびにVF-5MSカラムによるハロゲン 化PAHsのGC/MSクロマトグラム(クロマト上の数字は表3参照) 図15.イオン化エネルギー変化におけるハロゲン化PAHsのGC/MSクロ マトグラムの比較
化による感度変動について 検 討 し た 。 検 出 器 電 圧 は -1100 ~ -1300V に お い て 変 化させたところ、 ハロゲン 化PAHsにピーク強度の変化 が見られた。 とくに検出器 電圧を-1150Vにした時、 最 も 多 く の 物 質 が 最 も 高 い S/N 比 を 示 す こ と が わ か っ た(図16)。よってGC/MSを 用 い た ハ ロ ゲ ン 化 PAH 分 析 において、イオン化電圧 が その分析感度に大きく影響 を与え ることが判明し、本 研 究 で は GC/MS の 最 適 条 件 として検出器電圧を-1150V、イオン化エネルギーを70eVに設定した。 次に、MSのイオン化法として、塩素化合物など電子親和性を有する化合物を選択的かつ高感度 に分析するイオン化法としてNCI法(負化学イオン化法)を検討した。NCI法におけるMSの設定項 目として上記EI法と同様に検討したところ、NCI法ではイオン化エネルギーならびに検出器電圧の 違いで感度に大きく影響を与えることはなかった。そこでNCI法では検出器電圧を-1200V、イオン 化エネルギーを70eVに設定した。一方、CIガス(メタン)の流量で感度は大きく変動した。しか しながら本装置ではMSの真空度の変化に伴うCIガスの流速が変動を厳密に制御することが不可能 であったため、初期設定値を60%とし、CIガス流量による感度変動の検討は省略した。これらMSの 条件を種々検討したところ、一部のハロゲン化PAHではEI法に比べ感度が上昇する物質も見られた が、反対にイオン化されない物質もあることが明らかとなった(図17)。しかしながら、実際に 大気試料をEI法とNCI法で分析したところ、EI法では夾雑物の影響を受けているCl2PyがNCI法では 夾雑物の影響を受けずに高感度で測定できた(図18)。よって、EI法では全てのハロゲン化PAHs を検出することが可能ではあるが、夾雑物の影響を受けやすく、その一方で、NCI法では測定でき るハロゲン化PAHsが限られるが、高感度に測定できる特徴があることがわかった。今後、ハロゲ ン化PAHsの分析においては低濃度試料や土壌などの夾雑物を多く含んだ試料にはNCI法、多成分分 析を行うにはEI法といった、分析試料で分析法を選択することが必要だと思われる。 次に、分析法の精度管理として検出下限値を算出した。検出下限値はS/N=10程度の標準混合溶 液を6回分析し、その標準偏差より求めた。その結果、EI法では0.07 pg (9-ClPhe)~3.3 pg (Cl3BaP)、 NCI法では0.02 pg (1,3-Cl2Fluor)~4.4 pg (9-ClAnt)であった(表7)。EI法の場合、測定物質 の分子量が増加するにつれて、感度が低下する傾向が見られた。一方NCI法では、塩素置換数と感 度に関連性は認められなかったため、分子構造によって大きくイオン化が左右されることが示唆 された。また、検出下限値で比較すると、以前に報告された高分解能GC/MSの結果よりも高感度に 検出される物質が存在した1)。すなわち、夾雑物の除去を的確に行えば四重極型GC/MSを用いても 十分に測定可能であることが示唆された。 図16. 検出器電圧変化におけるハロゲン化PAHsのGC/MSクロマト グラムの比較
図17.EI法ならびにNCI法におけるハロゲン化PAHsのGC/MSクロマトグラムの比較
表7.EI法ならびにNCI法によるハロゲン化PAHsの検出下限値
3)前処理条件の検討
分 析 試 料 の 前 処 理 と し て 、 今 回 4 種 類 の 前 処 理 カ ラ ム ( Silica gel 、 Sulfoxide 、 Alumina 、 Active-Carbon)を用いて、溶出試験ならびに夾雑物の除去性能について検討した 。Silica gel、 Sulfoxide、Aluminaの各カラムの溶出溶媒にはヘキサンもしくは10%ジクロロメタン/ヘキサンを 用いてハロゲン化PAHsの保持力の違いを検討した。 Silica gelを担体としてヘキサンを溶出溶媒にして上記化合物の溶出試験を行ったところ、何 れもヘキサンを12mL通液させることで完全に溶出された。このとき、各化合物の回収率は86%~97% と良好な結果であった。また、同担体において、溶出溶媒に 10%ジクロロメタン/ヘキサンを用い た時には上記化合物の溶出時間は若干早まり、10mlの通液量で完全に溶出された(図19)。また この時の回収率は87%~100%と良好な結果が得られた。両者の溶出パターを比較すると、ヘキサン のみでは通液量によって各物質によって溶出パターが異なっていたが、10%ジクロロメタン/ヘキ サンを溶出溶媒に用いると通液量が4ml未満で対象としたすべての化合物が溶出することがわか った。夾雑物を除去する目的からしても、silica gelを前処理カラムに用いる際はヘキサン100% で溶出することが望ましいと思われる。 次にSulfoxideカラムによる溶出試験を検討した。ヘキサンを溶出溶媒にしたときには全ての化
合物が溶出するのに22mlの通液量を要した(図19)。また、この時の回収率は82%~116%であった。 一方、溶出溶媒に10%ジクロロメタン/ヘキサンを用いた時は、全ての化 合物が溶出するのに14ml の通液量を要した。この時の回収率は82%~125%であった。Sulfoxideカラムをsilica gelカラム 同様に10%ジクロロメタン/ヘキサンを溶出溶媒に用いると対象としたハロゲン化 PAHsの保持力 が低下することがわかった。本実験の結果から、Sulfoxideカラムにおいてもヘキサン100%で溶出 することが望ましいと思われる。 次にAluminaカラムによる溶出試験を検討した。ヘキサンを溶出溶媒にしたとき、40ml通液して も対象の化合物は全く溶出されなかった(図19)。一方、溶出溶媒に10%ジクロロメタン/ヘキサ ンを用いた時は、全ての化合物が溶出するのに8mlの通液量を要した。この時の回収率は89%~107% であった。Aluminaカラムはヘキサンに10%ジクロロメタンを溶解させるだけでハロゲン化 PAHsの 溶出は劇的に変化するため、クリーンアップ操作に用いるときは溶媒の調整に十分配慮する必要 があると思われる。 最後に、Active-carbonカラムを検討した。被験試料をactive-carbonに添加後、10%アセトン/ ヘキサン、もしくは10%ジクロロメタン/ヘキサン10mlを通液させ、カラムを反転させトルエンに て溶出を行った。その結果、トルエン16mlで目的の化合物は全て溶出された(図19)。この時の 回収率は89%~124%であり、溶出パターンは、はじめにヘキサン、もしくは10%ジクロロメタン/ ヘキサンの溶媒を用いた場合において何れも大きな違いは見られなかった。 各前処理カラムによるハロゲン化PAHsの溶出挙動が確認されたため、次に実際の環境大気試料 を用いてクリーンアップの効果を検討した。クリーンアップはsilica gel単独、もしくはSilica gelとSulfoxide、Alumina、Active-carbonの組み合わせで評価を行った。その結果、 充填剤の違 いによる各ハロゲン化PAHsのSIMクロマトの差はほとんど確認できなかった(図20)。その一方で、 TICクロマトにおいてSilicaとActive-carbonを充填剤に使用したクリーンアップ法は低分子化合 物の夾雑物が除去された(図21)。これらの結果から、大気試料中のハロゲン化PAHs分析におい 図19. Silica gelカラムによる溶出パターン
てはSilica gelのみのクリーンアップでも効果的であり、この操作に加えてActive-carbonを用い てクリーンアップを行うことでさらに低分子物質由来の夾雑物除去に効果があることが示唆され た。 図20.クリーンアップ後の大気粒子SIMクロマトグラム(m/z=236) 図21.クリーンアップ後の大気粒子TICクロマトグラム 以上の結果、大気試料におけるハロゲン化PAHsならびにPAHsの分析は、クリーンアップはSilica gelを用いn-hexaneにて溶出後、それぞれの物質群で構築されたGC/MS条件にて行った。また、ク ロマトグラムによる確認後、必要に応じてActive-carbonによるクリーンアップを追加することに した。 4 ) 大 気 粒 子 中 の ハ ロ ゲ ン 化 PAHs濃 度 これまでの分析条件の検討により確立されたGC/MS分析条件を用いて、環境大気中の浮遊粒子に おけるハロゲン化PAHs濃度の測定を行った。表 8に は サ ン プ リ ン グ 期 間 に お け る 工 業 地 帯 と 都