• 検索結果がありません。

原著論文(鈴木).indd

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "原著論文(鈴木).indd"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

大相撲の巡業におけるビジネスモデルの変容

武 藤 泰 明

Change of Business Model of Local Tour of ‘Grand Sumo’

Yasuaki MUTO

Abstract

  The Nihon Sumo Kyokai has been making local tours in addition to holding its regular tournaments. Until 2001, the tours were sponsored by companies and operated by the Kyokai itself. In 2002, the Kyokai lost the sponsors and it became difficult to maintain the business model of the tour. So, from 2003, the Kyokai decided to change the business model and began to sell each event of the tour to local promoters.

  In this paper the background and purposes of the change of the business model are examined, and the influence of this change is considered.

  As the result of the change, the Kyokai became free from the financial risk of the tour. But at the same time, the number of events of the tour decreased because the number of local promoters who had ability to take the financial risk of the event was not enough.

  The Kyokai has a philosophy of trying to popularize sumo, and local tours are one of the means to attain it. But it seems there is a trade-off between this philosophy and financial risk of local tours. If the Kyokai wants to hedge the risk, the number of events of the local tours will decrease, so the Kyokai will not be able to attain the philosophy. If the Kyokai has a strong will to attain the philosophy and to hold more events, its financial risk will become larger.

Key words:Grand Sumo, Local Tour, Business Model

1.緒     言  大相撲は日本を代表するプロスポーツの一つ だが,そのマネジメントは,これまであまり研 究対象として取り上げられていない.この理由 としては,経営情報開示が比較的少なかったこ ともあるが,ビジネスモデルに一見変化がない ことも一因ではないかと思われる.  たしかに本場所は年6 回,ほとんど大きな変 更もなく開催されている.しかし,大相撲を催 行する(財)日本相撲協会(以下では「相撲協会」 あるいは「協会」と略記する)の重要な活動の 一つである地方巡業には,最近大きなビジネス モデルの変更があった.それは自主開催から「売 り興行」への変更である.  本研究は,この変更が ・何を背景とするのか ・何を目的とするのか ・巡業活動にどのような影響を与えたのか という観点からの検討を行い,あわせて,今後 どのような影響を与えると予想されるのかを展 望することを目的とする.  †原稿受付 2008 年 8 月 20 日  2008 年 7 月 日本スポーツ産業学会第 17 回大会(札幌大学)にて発表  *早稲田大学 〒202-0021 東京都西東京市東伏見 3-4-1

 *Waseda University, 3-4-1, Higashifushimi, Nishitokyo, Tokyo, Japan (202-0021)

(2)

2.資 料 と 方 法  資料としては,協会の各年度の事業報告書お よび収支計算書(平成9 年度~ 18 年度.なお 協会の事業年度は暦年である)を用いる.研究 方法は,収支計算書による財務分析が主なもの であるが,これと,事業報告書に記載されてい る地方巡業の記録とを照らし合わせることに よって,財務上の成果とビジネスモデル変更と の関係を明らかにする.  なお,このテーマについての先行研究はない ものと思われる(注1).本稿が大相撲のマネ ジメントに関する研究の活発化に資すものとな れば幸いである. 3.巡業におけるビジネスモデルの変容 3.1 巡業収入の大幅な減少とその理由 (1 )巡業収入の減少  相撲協会は,国技である相撲の普及を目的と する公益法人であり,主たる事業活動は力士の 育成であるが,その活動は財務上「本場所事業」, 「巡業事業」,「貸館事業」,「広報事業」,「診療 所事業」,「海外公演事業」に区分して収入が計 上されている.  この中で最も収入規模が大きいのは本場所事 業である.平成18 年度には約 88 億円の本場所 事業収入があり,これは総事業収入(約97 億円) の90% 以上を占めている.本場所事業に次い で収入規模が大きいのは広報事業(337 百万 円),以下,貸館事業(296 百万円),巡業事業(239 百万円)である.本場所事業と比較すると,い ずれも収入規模が小さい.  しかし,平成9 年度の決算書では,事業収入 総額137 億円のうち,最も収入額が大きい事業 は本場所事業収入の102 億円であるが,これに 巡業収入の30 億円が続く.各年度の事業収入 の推移は表1のとおりである.この期間におい て,最も事業収入が低下しているのは巡業事業 であり,9 年度から 18 年度に,30 億円から 2 億円余まで収入が減少しているのである.した がって,事業収入の減少総額の約70% は,巡 業事業によるものである.金額だけを見るなら, 協会の巡業事業は,ほとんどなくなりかけてい ると言ってもよいような状態に思える. (2 )収入減少の理由  では,この収入減少は何に拠るものなのか. 表2は,平成9 年以降の巡業事業の日数と収支 を,事業報告書から転載したものである.まず 巡業日数に着目するなら,平成13 年度までは 毎年60 日以上の興行が開催されていたのに対 して,14 年度には 28 日に急減している.最も 日数が少ないのは17 年度の 13 日である.した がって,巡業収入の減少は,一つには,巡業日 数の減少によるものであると言える.  しかし,平成17 年度の巡業日数(13 日)は, 平成9 年度の 66 日の 5 分の 1 であるのに対して, 17 年度の巡業収入は,9 年度の 20 分の 1 以下 である.このことは,巡業収入の減少が,巡業 日数の減少以外の要因によってももたらされて ᐕᐲ㩿ᐔᚑ㪀 䇼੐ᬺ෼౉⸘䇽 ᧄ႐ᚲ੐ᬺ෼౉ Ꮌᬺ੐ᬺ෼౉ ⾉㙚੐ᬺ෼౉ ᐢႎ੐ᬺ෼౉ ⸻≮੐ᬺ෼౉ ᶏᄖ౏Ṷ੐ᬺ෼౉ 㪐 㪈㪊㪃㪎㪏㪋 㪈㪇㪃㪉㪇㪋 㪊㪃㪇㪍㪈 㪈㪐㪏 㪉㪏㪎 㪐 㪉㪌 㪈㪇 㪈㪊㪃㪏㪎㪈 㪈㪇㪃㪋㪐㪊 㪉㪃㪏㪏㪏 㪈㪏㪏 㪉㪍㪏 㪏 㪉㪌 㪈㪈 㪈㪊㪃㪊㪈㪎 㪈㪇㪃㪊㪐㪎 㪉㪃㪌㪈㪋 㪈㪎㪍 㪉㪉㪈 㪏 㪇 㪈㪉 㪈㪊㪃㪉㪇㪌 㪈㪇㪃㪈㪋㪋 㪉㪃㪊㪏㪏 㪉㪇㪍 㪋㪌㪏 㪐 㪇 㪈㪊 㪈㪉㪃㪊㪉㪇 㪐㪃㪎㪋㪐 㪈㪃㪐㪇㪎 㪉㪉㪊 㪋㪍㪇 㪉㪏 㪇 㪈㪋 㪈㪇㪃㪎㪌㪌 㪐㪃㪋㪌㪐 㪍㪐㪍 㪈㪍㪈 㪋㪈㪉 㪉㪎 㪇 㪈㪌 㪈㪇㪃㪇㪉㪇 㪐㪃㪇㪉㪋 㪊㪋㪎 㪉㪉㪊 㪋㪇㪊 㪉㪋 㪇 㪈㪍 㪐㪃㪐㪇㪎 㪏㪃㪐㪉㪉 㪉㪊㪉 㪉㪇㪉 㪋㪉㪌 㪉㪈 㪈㪇㪌 㪈㪎 㪐㪃㪌㪉㪌 㪏㪃㪎㪉㪏 㪈㪋㪈 㪉㪉㪋 㪊㪏㪈 㪈㪐 㪊㪊 㪈㪏 㪐㪃㪎㪋㪎 㪏㪃㪏㪌㪎 㪉㪊㪐 㪉㪐㪍 㪊㪊㪎 㪈㪏 㪇 Ⴧട㪆ᷫዋ㗵 㩿㪈㪏ᐕᐲ䋭㪐ᐕᐲ㪀 㪄㪋㪃㪇㪊㪎 㪄㪈㪃㪊㪋㪏 㪄㪉㪃㪏㪉㪉 㪐㪏 㪌㪈 㪐 㪄㪉㪌 ੐ᬺ෼౉䈱ᷫዋ㗵 䈮ኻ䈜䉎ነਈᐲ 㪈㪇㪇㪅㪇㩼 㪊㪊㪅㪋㩼 㪍㪐㪅㪐㩼 㪄㪉㪅㪋㩼 㪄㪈㪅㪊㩼 㪄㪇㪅㪉㩼 㪇㪅㪍㩼 ⾗ᢱ䋺ᣣᧄ⋧ᠡදળ෼ᡰ⸘▚ᦠ䇮ฦᐕ 䉋䉍૞ᚑ න૏䋺㪈㪇㪇ਁ౞䇮䋦 表1 相撲協会の事業別事業収入の推移

(3)

いることを示している.  同表では1 日あたりの巡業収入を示してい る.これからわかるのは,9 年度から 14 年度 までと,15 年度以降とでは,収入額が大きく 異なっているという点である.13 年度までの 1 日あたり巡業収入は,9 年度以降趨勢的に低下 し,13 年度には 3000 万円強となった.これが 14 年度には 2400 万円強とさらに低下するが, 15 年度以降は 1000 万円前後なのである.また 総巡業経費および1 日あたり巡業経費も,収入 と同様に低下している. (3 )協賛契約の解除とコストダウン  平成14 年度報告書によれば(注2),同年度 に巡業収入が急減した理由は「巡業実施日数の 減および㈱電通との協賛契約解除に伴う協賛金 収入の減による」(注3).協賛収入は13 年度 が4 億 9000 万円余,10 ~ 12 年度が毎年 5 億 5600 万円,9 年度は 8 億 4000 万円であった.  ここで,協賛金収入を除いた収入と収支を 計算してみると,表2最下段のとおり平成9 ~ 13 年は毎年赤字である.もちろん,この期間 の支出計画は協賛金収入を前提として策定され ているはずなので,巡業事業は「構造赤字が協 賛金によって補填されている」というわけでは ない.実態としては,協賛金収入を前提として, イベント会社への業務委託が行われていた.  このコスト構造が維持されていたのだとすれ ば,平成14 年度の巡業事業は協賛金がなくなっ たことにより,赤字になったはずである.しか し実際には黒字を計上している.これは,経費 を削減したことによる.  表3は,平成13 ~ 15 年度の巡業経費(給料 手当,賞与,退職金,法定福利費,福利厚生費 を除く)の中で,平成13 年度において費用が 大きい項目について比較したものである.費用 は巡業日数や巡業地数で変動する.平成14 年 度の巡業日数,巡業地数は,前年度を100 とす 表2 巡業日数と収支の推移 ⴫㪉㩷㩷Ꮌᬺᣣᢙ䈫෼ᡰ䈱ផ⒖ න૏䋺ᣣ䇮ජ౞ ᐕᐲ䋨ᐔᚑ䋩 㪐 㪈㪇 㪈㪈 㪈㪉 㪈㪊 㪈㪋 㪈㪌 㪈㪍 㪈㪎 㪈㪏 Ꮌᬺᣣᢙ 㪍㪍 㪍㪍 㪍㪍 㪍㪍 㪍㪈 㪉㪏 㪊㪍 㪉㪉 㪈㪊 㪉㪈 ੐ᬺႎ๔ᦠ Ꮌᬺ෼౉ 㪊㪃㪇㪍㪇㪃㪐㪎㪍 㪉㪃㪏㪏㪏㪃㪉㪐㪊 㪉㪃㪌㪈㪋㪃㪇㪏㪋 㪉㪃㪊㪏㪏㪃㪏㪍㪐 㪈㪃㪐㪇㪎㪃㪊㪎㪇 㪍㪎㪌㪃㪍㪉㪈 㪊㪋㪎㪃㪇㪉㪈 㪉㪊㪈㪃㪎㪉㪋 㪈㪋㪈㪃㪈㪊㪊 㪉㪊㪏㪃㪎㪍㪍 Ꮌᬺ⚻⾌ 㪉㪃㪋㪎㪇㪃㪌㪏㪈 㪉㪃㪋㪎㪏㪃㪌㪊㪈 㪉㪃㪊㪍㪊㪃㪎㪈㪉 㪉㪃㪊㪊㪎㪃㪇㪐㪉 㪈㪃㪎㪊㪊㪃㪌㪍㪏 㪍㪋㪌㪃㪈㪇㪍 㪉㪉㪈㪃㪏㪌㪈 㪈㪏㪋㪃㪇㪇㪉 㪐㪋㪃㪊㪍㪇 㪈㪎㪎㪃㪉㪎㪌 ෼ᡰ 㪌㪐㪇㪃㪊㪐㪌 㪋㪈㪋㪃㪎㪍㪉 㪈㪌㪇㪃㪊㪎㪉 㪌㪈㪃㪎㪎㪍 㪈㪎㪊㪃㪏㪇㪈 㪊㪇㪃㪌㪈㪋 㪈㪉㪌㪃㪈㪎㪇 㪋㪎㪃㪎㪉㪉 㪋㪍㪃㪎㪉㪉 㪍㪈㪃㪋㪐㪇 㩿㪈ᣣ䈅䈢䉍㪀 Ꮌᬺ෼౉ 㪋㪍㪃㪊㪎㪏 㪋㪊㪃㪎㪍㪉 㪊㪏㪃㪇㪐㪉 㪊㪍㪃㪈㪐㪌 㪊㪈㪃㪉㪍㪏 㪉㪋㪃㪈㪉㪐 㪐㪃㪍㪊㪐 㪈㪇㪃㪌㪊㪊 㪈㪇㪃㪏㪌㪍 㪈㪈㪃㪊㪎㪇 Ꮌᬺ⚻⾌ 㪊㪎㪃㪋㪊㪊 㪊㪎㪃㪌㪌㪋 㪊㪌㪃㪏㪈㪋 㪊㪌㪃㪋㪈㪇 㪉㪏㪃㪋㪈㪐 㪉㪊㪃㪇㪋㪇 㪍㪃㪈㪍㪊 㪏㪃㪊㪍㪋 㪎㪃㪉㪌㪏 㪏㪃㪋㪋㪉 Ꮌᬺ෼ᡰ 㪏㪃㪐㪋㪌 㪍㪃㪉㪇㪐 㪉㪃㪉㪎㪏 㪎㪏㪌 㪉㪃㪏㪋㪐 㪈㪃㪇㪐㪇 㪊㪃㪋㪎㪎 㪉㪃㪈㪍㪐 㪊㪃㪌㪐㪏 㪉㪃㪐㪉㪏 ද⾥㊄䉕㒰䈒 Ꮌᬺ෼౉ 㪉㪃㪉㪉㪇㪃㪐㪎㪍 㪉㪃㪊㪊㪉㪃㪉㪐㪊 㪈㪃㪐㪌㪏㪃㪇㪏㪋 㪈㪃㪏㪊㪈㪃㪏㪍㪐 㪈㪃㪋㪋㪍㪃㪏㪐㪋 ห䇮㪈ᣣ䈅䈢䉍 㪊㪊㪃㪍㪌㪈 㪊㪌㪃㪊㪊㪏 㪉㪐㪃㪍㪍㪏 㪉㪎㪃㪎㪌㪍 㪉㪊㪃㪎㪉㪇 ෼ᡰ㩿੐ᬺႎ๔䊔䊷䉴䋩 㪄㪉㪋㪐㪃㪍㪇㪌 㪄㪈㪋㪍㪃㪉㪊㪏 㪄㪋㪇㪌㪃㪍㪉㪏 㪄㪌㪇㪌㪃㪉㪉㪊 㪄㪉㪏㪍㪃㪍㪎㪋 ⾗ᢱ䋺ᣣᧄ⋧ᠡදળ෼ᡰ⸘▚ᦠ䇮੐ᬺႎ๔ᦠฦᐕ 䉋䉍૞ᚑ 表3 平成13~15年度の主な巡業経費の比較 㪈㪊ᐕᐲ 㪈㪋ᐕᐲ 㪈㪌ᐕᐲ 㪈㪋ᐕᐲ㬭㪈㪊ᐕᐲ 㩿䋦㪀 㪈㪌ᐕᐲ㬭㪈㪊ᐕᐲ 㩿䋦㪀 ⾌↪䋨ਥ䈭䉅䈱䇮ජ౞䋩 ᣏ⾌੤ㅢ⾌ 㪋㪋㪊㪃㪐㪏㪊 㪈㪐㪇㪃㪎㪇㪉 㪏㪍㪃㪊㪈㪏 㪋㪊㪅㪇 㪈㪐㪅㪋 ᬺോᆔ⸤⾌ 㪉㪏㪇㪃㪎㪎㪈 㪏㪋㪃㪉㪎㪎 㪋㪃㪌㪈㪎 㪊㪇㪅㪇 㪈㪅㪍 ⸳༡⾌ 㪉㪌㪈㪃㪎㪌㪉 㪈㪇㪐㪃㪊㪌㪏 㪉㪃㪍㪉㪊 㪋㪊㪅㪋 㪈㪅㪇 ⻉ᚻᢙᢱ 㪈㪌㪐㪃㪎㪎㪊 㪍㪌㪃㪈㪋㪌 㪇 㪋㪇㪅㪏 㪇㪅㪇 ㆇㅍ⾌ 㪈㪌㪐㪃㪉㪈㪈 㪍㪋㪃㪉㪇㪈 㪈㪈㪃㪉㪏㪎 㪋㪇㪅㪊 㪎㪅㪈 ශ೚⾌ 㪏㪍㪃㪎㪊㪌 㪈㪉㪃㪉㪈㪊 㪋㪃㪌㪍㪊 㪈㪋㪅㪈 㪌㪅㪊 㙚૶↪ᢱ 㪍㪋㪃㪇㪋㪎 㪈㪏㪃㪐㪎㪏 㪇 㪉㪐㪅㪍 㪇㪅㪇 Ꮌᬺᣣᢙ 㪍㪈 㪉㪏 㪊㪍 㪋㪌㪅㪐 㪌㪐㪅㪇 Ꮌᬺ࿾ᢙ 㪋㪏 㪉㪉 㪊㪊 㪋㪌㪅㪏 㪍㪏㪅㪏 ⾗ᢱ䋺ᣣᧄ⋧ᠡදળ෼ᡰ⸘▚ᦠ䇮੐ᬺႎ๔ᦠฦᐕ 䉋䉍૞ᚑ

(4)

るといずれも約46 であった.したがって,こ の割合より費用が低下していれば,コストダウ ンが実現されたと評価することができる.結果 としては,どの項目も46 を下回っている.と くに業務委託費,印刷費,館使用料において, コストダウンがなされていることがわかる.コ ストダウンの額がとくに大きいのは業務委託費 であり,13 年度の 2 億 8 千万円が 14 年度には 84 百万円となっている.協会はイベント会社 との13 年度までの業務委託を 14 年度には更新 しなかった.これにより,14 年度に業務委託 費の大幅な削減が実施されている. 3.2 「売り興行」へのビジネスモデルの変更 (1 )ビジネスモデルの変更とその背景  このように,平成14 年度の巡業事業は協賛 金収入がなくなったことに対処するため,コス トダウンを実施することにより黒字(約3000 万円)を実現したのだが,15 年度からは巡業 事業の方式が変わることになる.すなわち,「売 り興行への変更」である(注4).  14 年度までの興行は,協会が実施主体とし て行っていたものである.したがって,入場券 収入などが主催者としての収入に計上されてい る.そのかわり,経費の支払い主体も協会であ る.したがって,1 日あたりの巡業収入は,協 賛金を除外しても高額である.これに対して, 15 年度以降は 1 日あたりの巡業収入は激減す る.最高は18 年度の 1137 万円であり,最低の 15 年度は 1000 万円を下回っている.15 年度以 降の1 日あたりの巡業収入は,14 年度以前に 比べて半額以下になったということである.  支出も低下している.平成15 年度の巡業は, 13 年度に比べて日数が 59%,巡業地数は 69% に低下しているのだが,主要な経費の低下は極 めて大きい.手数料,館使用料はゼロになって いる.  このことが示しているのは,巡業について, 協会は主催することをやめ,巡業という興行を 売ることによって,収入と費用を興行の「購入 者」に委ねたということである.もちろんこれ に伴い,収支だけでなく,興行に伴う多様な活 動も購入者に委ねられている.マネジメントの 用語を使うなら,アウトソーシングを行ったと いうことができるだろう.  すなわち,協会は平成13 年度から 15 年度に かけて,2 回のビジネスモデル転換を行ってい る.そしてその結果として,同じ期間に,毎年 異なる3 つのビジネスモデルを経験したことに なる.具体的には以下の通りである.  平成13 年(以前):ビジネスモデル 1 -協賛 金収入を前提とする自主興行  平成14 年:ビジネスモデル 2 -協賛金収入 を前提としない自主興行  平成15 年(以降):ビジネスモデル 3 -売り 興行  ビジネスモデル2 は,平成 14 年度だけしか 実施されていない.これは実施してうまくいか なかったわけではなく,ビジネスモデル1 から 3 への過渡的な形態として,予め認識されてい たものである.報道によれば経緯は以下のとお りである.  日本相撲協会は三十一日,東京・両国国技 館で理事会を開き,収支の悪化で形態の見直 しを進めている巡業を,二〇〇三年から売り 興行に戻すことを決めた.  売り興行は各地の興行主に,興行を一括し て売却する方法で,一九九四年まで行われて いた.大相撲人気の高まりで,九五年からは 相撲協会がイベント会社とともに自主興行に していた.ことしいっぱいはこの方法を続け, イベント会社との契約が切れる来年は,同協 会だけによる自主興行として行う.  相撲協会は当初は二〇〇三年以降も完全な 自主興行を目指していたが,採算が合わない ため断念した.(日本経済新聞2001 年 6 月 1 日朝刊,41 面)  「採算が合わない」との判断の意味は,以下 から理解することができる.

(5)

 現在,イベント会社に一部委託する形態に なっている運営方式も見直し,協会が独自で 取り仕切ることを模索する.ただ,煩雑な業 務をすべて協会で担うことは,「(協会の陣容 から見ても)現実には無理だろう」との声も あり,今後,詳細を再検討する考えだ.(日 本経済新聞2001 年 5 月 8 日朝刊,37 面)  すなわち,「協賛金なし,イベント会社への 業務委託は従来どおり」というビジネスモデル では赤字になる危険が大きい.これに対して 「協賛金なし,イベント会社への業務委託なし」 というビジネスモデル(ビジネスモデル2 であ る)では,協会が自ら巡業にかかわる多様な業 務を実施しなければならない.協会の人的資源 からしてこれは困難だと認識されたことが,平 成15 年以降のビジネスモデル 3 の選択の理由 である. (2 )売り興行のメリットとデメリット  ではこのアウトソーシングあるいはビジネス モデル転換は,協会にとってどのようなメリッ トがあったのか.おそらく最大のメリットは, 財務リスクの低下である.  13 年度までのビジネスモデル 1 とは,予め 巡業日数を決めておき,これに対する協賛社を 募集するというものである.巡業日数が先に 決められているのは,協賛社にとってのスポン サー・メリットを確定するためである.この方 式の場合,巡業費用は巡業日数が決まっている ため,固定的であるといえる.これに対して巡 業収入は,限界的には協賛社がどれだけ集めら れるかによって決まるので,変動的である.収 入が変動し,費用が固定的であれば財務リスク は大きい.  これに対して売り興行であれば,巡業地ごと に収入は予め確定することができ,支出の予測 可能性も高まるので,適切な価格で興行を売れ ば,財務リスクは低下することになる.もちろ ん,予想をはるかに上回る入場者がある等に伴 う収支の上振れのメリットは巡業の購入者にも たらされ,協会はこれを享受することはできな くなるが,巡業収支の安定という観点からのメ リットは大きいといえるだろう.  デメリットとして想定されるのは興行地数及 び日数の減少である.協会がアウトソーシング を実現したということは,アウトソーサー,す なわち興行の購入者が存在するということであ る.巡業は従来から勧進元と呼ばれる地元の巡 業招聘者の大きな協力によって成立してきた が,協会が巡業の興行権を売り,興行に伴うリ スクを低下させたということは,このリスクが 興行の購入者である勧進元に転嫁されたことを 意味している.したがって,勧進元のリスク, およびマネジメント負担は大きくなる.この結 果として,これまで勧進元になっていた主体の 中で,勧進元を継続することが困難な主体が増 えたということが想定できるのである.  なお,地方巡業について,平成13 年度まで と同様の自主興行方式が採用されたのは平成7 年度であり,それ以前は勧進元による興行,協 会にとっては売り興行であった.中島1)によれ ば,自主興行への変更は,いわゆる若貴人気に よって,巡業の収入増が見込めたためである(注 5).収入増は観客の増加と協賛金によっても たらされる.協賛金は広告代理店が獲得する. また巡業の運営はイベント会社の役割である. すなわち,協会は自らの経営資源(巡業の運営 や協賛金獲得のための営業活動を担当する人員 など)を拡充することなく,自主興行を実施す ることができたのだといえるだろう.  この点については,否定的な評価も肯定的な 評価も可能であるように思われる.経営資源の 拡充が実現されなかったことについては,否定 的な評価があり得るだろう.しかし一方で,巡 業収入が相撲人気によって変動するという予見 の下では,人気が高い期間はアウトソーシング によって事業規模を拡大し,将来の人気低下を 考慮して経営資源の拡充を行わないという選択 も合理的なものである.  協会が何を予見したのかは定かではないが, 事実としては,経営資源の拡充は行われていな

(6)

い.すなわち,自主興行の期間においても,協 会はリスクを負わない施策を選択し,売り興行 への円滑な移行を実現しているのである. 3.3 管理会計の観点から見た巡業の財務特性  ところで,一般的には事業は活動量が減少す ると採算が悪化する.この理由は,コストには 固定費と変動費とがあり,固定費は活動量にか かわらず支出されるので,活動量が減少しても 固定費部分の削減ができないためである.  しかし,売り興行方式の巡業は,巡業日数(す なわち活動量)が減少しても採算が悪化しない. この理由は,力士の報酬のうち,固定費部分を 巡業事業が負担していないためである.力士が 巡業に参加することに伴う手当は支払われてい るが,給料は力士が巡業に参加したかどうか, あるいは巡業の回数によって変わらない.手当 以外の経費についても,協会が巡業で負担する のは変動費,限界費用なので,巡業の活動量に 応じて増減する.さらに言えば,自主興行方式 においても,巡業事業が力士の固定費を負担し ていないという点は同じである.力士の固定費 は,本場所事業収入によって負担されている. これが意味するのは,巡業が,協会が事業報告 書で採用している管理会計の方式の下では,自 主興行方式でも売り興行方式でも,そもそもリ スクの低い事業なのだということである.  協会は公益法人であり,国技である相撲の普 及を主たる目的としている.この目的に照らせ ば,地方巡業は,本場所が開催されない地域に おいて相撲競技を公開するものとして,意義の 大きい活動である.新弟子の獲得という観点か らも有意義だと言えるだろう.そして協会は, 上記の管理会計方式の下では,このような意義 を持つ活動を,あまり財務リスクなく実施する ことができるのである.またしたがって,巡業 を売り興行方式にしたことは,もともと財務リ スクの低い活動のリスクをさらに低くしたもの と評価することができる.  ここで留意しておかなければならないのは, 管理会計の方式には絶対的なものはないという 点である.たとえば,力士の給料や賞与,ある いは福利厚生費などを,力士の活動日数等に応 じて巡業事業が負担するという方式がある.事 実,協会が公表している収支計算書における事 業別収支ではこのような方式が採用されてい る.この方式では,現在の巡業は管理会計上赤 字になっている.すなわち,現在の売り興行方 式の巡業が黒字でかつリスクが少ないのは,そ ういう活動であると位置づけたいと考えている 協会の意思によるものなのだということができ る.言い方を変えるなら,協会は,相撲の普及 のために不可欠な活動であると考える巡業を, 黒字であると認識したいと考えるが故に,現行 の事業報告書に示された管理会計方式を採用し ているのである. 4.結 論 と 考 察  協会は巡業について,財務リスクの顕在化を 回避するために,自主興行方式をとりやめ,売 り興行方式を採用した.これに伴い,協会のリ スク負担は所期の目的どおりに解消されたが, このリスクは勧進元に転嫁され,興行日数の減 少に帰結している.巡業は協会の理念を実現す る手段なので,ここに生じているのは,「リス クと理念とのトレードオフ」という問題である ということができるだろう.巡業が新弟子の開 拓に奏功しているとするなら,これは「リスク と将来の成長とのトレードオフ」の問題でもあ る.また,巡業を相撲普及と新弟子開拓のため の先行投資と考えるなら,巡業事業はコスト部 門でよく(赤字でもよく),投資の回収は本場 所事業等で実現されるというビジネスモデルに なり得る.このビジネスモデルにおいては,巡 業の赤字は理念とのトレードオフ関係にはなら ない.換言すれば,巡業事業の収支を問題視し たことによって,トレードオフ問題が生まれて いるのである.いずれにせよ,財務リスクを問 題視し,これを回避したことによって,協会は それまで享受していた「巡業日数=理念の実現」 という成果を失ったとみることができる.  また現在協会が事業報告書において採用して

(7)

いる管理会計方式は,巡業が力士の固定費を負 担していないという点において,巡業事業の拡 大を支持するものであるといえる.固定費を負 担する方式であれば,巡業はそもそも赤字だか らである.しかし,巡業が売り興行方式となっ たことによって,この管理会計方式に基づく巡 業収支は,巡業日数によらず黒字となった.す なわち,巡業日数の増加を支持するためのもの であったはずの管理会計方式が,巡業日数の減 少をも支持しているのである.現在の管理会計 方式は,巡業日数の減少を,少なくとも財務的 には問題視しない.協会は,巡業の従前の方式 について,財務リスクを認識した.そして,放 置すれば財務上の損失が確実だったために,巡 業の方式を変更した.しかし現在の売り興行で は,財務上のリスクを認識することはない.管 理会計方式が黒字を保証しているためである.  財務リスクの回避によってあらたに生じてい るのは,上述の理念上のリスクである.しかし このリスクは,認識し適応行動を採ることが難 しい.財務リスクなら,たとえば黒字か赤字か という,外形的かつ単純な指標でその顕在化を 認識することができる.しかし,理念上のリス クの指標になるであろう巡業日数については, 減少を認識することはできるが,たとえば何日 未満ならリスクが顕在化しているのかについて は,外形的な基準はなく,経営上の判断や意思 によるものである.その意味では,巡業のビジ ネスモデルを変更したことによって,協会は理 念上のリスクの認識と適応という,難易度の高 い経営課題を抱えることになったということが できるのである. (注1)厳密に言えば先行「研究」ではないが,中 島1)は,研究者によるものであり,信頼性の高い 解説書である.巡業についても一部言及されて いる. (注2)相撲協会平成14 年度事業報告書 , p.33. (注3)巡業の協賛金は㈱電通から協会に支払われ ているが,電通は広告代理店であり,協会に対 する協賛社ではない.協賛社は別にあり,これ らの支払う協賛金が電通を介して協会に支払わ れている. (注4)相撲協会平成15 年度事業報告書,p.32. (注5)中島(2003),p.162. 参考文献・資料 1 )中島隆信;大相撲の経済学,東洋経済新報社, 2003. 2 )相撲巡業改革 企業協賛を廃止 運営の民間委託 も縮小,日本経済新聞,2001 年 5 月 8 日朝刊, p.37. 3 )相撲協会 2003 年巡業から売り興行に戻す,日 本経済新聞,2001 年 6 月 1 日朝刊,p.41. 4 )日本相撲協会;事業報告書(平成 9 年度~ 18 年度). 5 )日本相撲協会;収支計算書(平成 9 年度~ 18 年度).

参照

関連したドキュメント

基準の電力は,原則として次のいずれかを基準として決定するも

これからはしっかりかもうと 思います。かむことは、そこ まで大事じゃないと思って いたけど、毒消し効果があ

・私は小さい頃は人見知りの激しい子どもでした。しかし、当時の担任の先生が遊びを

2016 年度から 2020 年度までの5年間とする。また、2050 年を見据えた 2030 年の ビジョンを示すものである。... 第1章

自分ではおかしいと思って も、「自分の体は汚れてい るのではないか」「ひどい ことを周りの人にしたので

を負担すべきものとされている。 しかしこの態度は,ストラスプール協定が 採用しなかったところである。

もうひとつ、今年度は安定した職員体制の確保を目標に取り組んでおり、年度の当初こそ前年度から かしの木から出向していた常勤職員 1