総括報告書
JCOG0602:「III 期/IV 期卵巣癌、卵管癌、腹膜癌に対する
手術先行治療 vs. 化学療法先行治療のランダム化比較試験」
[2018 年 10 月 1 日] 研究事務局:恩田 貴志(北里大学医学部産婦人科) 研究代表者:吉川 裕之(茨城県立中央病院産婦人科) 婦人科腫瘍グループ代表者:八重樫 伸生(東北大学医学部産科婦人科学講座) 0. 試験概要 ・ 試験の目的:III/IV 期の卵巣癌、卵管癌、腹膜癌に対して、手術の前後にパクリタキセル+カルボプラチ ン併用化学療法(TC 療法)を行う「化学療法先行治療」が、標準治療である、手術後に化学療法を行う 「手術先行治療」よりも全生存期間において劣らず、かつ侵襲が軽減されるか否かを検証すること(非 劣性試験)。 ・ 対象:画像診断(CT、MRI)、穿刺細胞診により診断され、腫瘍マーカー(CA125>200 U/mL、CEA< 20 ng/mL)を満たす III/IV 期の卵巣癌、卵管癌、腹膜癌で、初回腫瘍縮小手術(primary debulking surgery:PDS)の対象となり得る患者。年齢 20 歳以上 75 歳以下。PS:0-3。・ 治療の概要:
手術先行群:PDS の後、TC 療法を 8 コース。ただし、TC 療法 4 コース後にインターバル腫瘍縮 小手術(interval debulking surgery:IDS)の適格規準を満たせば IDS を行う。
化学療法先行群:TC 療法 4 コース後に IDS を行い、さらに TC 療法 4 コースを追加する。 ・ Primary endpoint:全生存期間 ・ Secondary endpoints:完全腫瘍消失割合、無増悪生存期間、奏効割合(化学療法先行群のみ)、有害 事象、手術侵襲指標(開腹手術回数、総開腹手術時間、出血量、総輸血量、総血漿製剤使用量)、手 術先行群における術前 Stage の正診割合、手術先行群における病変部位ごとの画像による検出割合 ・ 予定登録数:300 名、予定登録期間:.5 年間、追跡期間:登録終了より 6 年 1. 背景 III/IV 期卵巣癌に対する標準治療は、まず PDS を行い、術後に化学療法を行なう方法である(手術 先行治療)。最初の手術の目的は、原発臓器、組織型の診断、進行期の診断および転移巣の可及的 切除であり、子宮、付属器、大網の切除に加えて、肝、脾、腸管合併切除、後腹膜リンパ節郭清など、 侵襲の大きな手術を要する。進行卵巣癌においては、PDS 後の最大残存腫瘍径が予後と関連するこ とが示されたことから、可及的腫瘍切除を目指して最初に手術を行い、化学療法を追加する治療が 標準となった。しかしながら、良好な予後が期待できる、最大残存腫瘍径が 1 cm 未満となる手術 (optimal 手術)が達成できるのは一般には 30-40%程度で、進行卵巣癌の 5 年生存割合は 20-30%程 度と予後不良である。 一方、全身状態不良で侵襲の大きな手術が困難な患者、optimal 手術が困難と考えられる患者、 PDS で試験開腹に終わった患者に対しては、化学療法で腫瘍の縮小を図った後、IDS を行いさらに化 学療法を追加する化学療法先行治療が行われていた。これらの患者では、標準治療を行った患者と 比較して高い割合で optimal 手術が達成でき、遜色のない治療成績が得られること、手術侵襲が軽減 されることなどが多数の後方視的検討で示された。以上より、化学療法先行治療は、進行卵巣癌に 対する有望な治療と認識され、手術先行治療との第 III 相比較試験が欧州や日本で検討された。 JCOG 婦人科腫瘍グループでは本試験(JCOG0602)に先立ち、化学療法先行治療の第 II 相試験 (JCOG0206)を行った 1)。JCOG0206 では、画像診断、穿刺細胞診で診断され、腫瘍マーカーの条件
を満たす III/IV 期の卵巣癌、卵管癌、腹膜癌を登録し、診断的腹腔鏡で原発診断、組織診断、進行期 診断を行った後、化学療法先行治療を行った。JCOG0206 の結果、化学療法先行治療は手術先行治 療と比較するに足る有用な治療であり、術前の臨床診断で、化学療法先行治療の対象患者を正しく 診断可能であることが示された 2)。以上より、JCOG0206 とほぼ同じ適格規準を用いて、手術先行治 療と化学療法先行治療の比較試験である本試験が計画された。JCOG0206 の結果より、化学療法先 行群では登録後腹腔鏡による診断確認を行うことなく、化学療法を開始する設定となった。また、試 験治療では、手術回数が 2 回ではなく 1 回で済む可能性が高いことも含めて手術に関連した侵襲が 軽減されると期待されることより、試験デザインは非劣性試験とした。 2. 試験経過 2006/11/17 より登録を開始し、2011/10/7 までに予定登録数 300 名のところ、301 名が登録され登 録終了となった。当初、登録期間 3 年の予定であったが、登録ペースが想定より遅かったため、2 年 間の登録期間延長を行い、最終的に 4 年 11 か月を要した。追跡期間は 5 年の予定であったが、イベ ント数が見込みよりも少ないため、1 年延長して 6 年間とした。また、中間解析は 2 回行っており、当初 予定していた予定登録数の半数登録時の第 1 回解析に加えて、登録期間を延長し、かつ、追跡期間 も延長が見込まれたため追跡 2.5 年の時点で第 2 回中間解析を行った。なお、新たな解析として術前 画像診断による進行期診断と、病変ごとの検出割合に関する解析を試験途中で追加した。 <プロトコール改訂> 第 1 回 (2010/1/8 承認 2010/1/15 発効):登録期間・総研究期間を 1.5 年延長した。 第 2 回 (2011/11/14 承認 2011/11/17 発効):「A 群(手術先行群)における術前 Stage の正診割 合」、および、「A 群(手術先行群)における病変部位ごとの画像による検出割合」を Secondary endpoint に追加した。 第 3 回 (2014/5/7 承認 2014/5/12 発効):第 2 回中間解析の実施を追記し、また Secondary endpoint に「A 群(手術先行群)における病変部位ごとの画像による検出割合」を腫瘍径別 に算出することを追記した。 第 4 回 (2016/8/16 承認 2016/8/19 発効):主たる解析前の追跡期間を 1 年延長した。また、安全 性の評価項目のうち CRF で収集していなかった血栓症/血栓/塞栓症、横隔膜損傷の 2 項 目を削除した。 3. 登録状況 登録ペースは当初の見込みよりも低調で、登録期間 3 年の予定であったが、患者登録完了には 4 年 11 か月を要した。施設毎の登録数では、34 施設から登録があったが、筑波大学、九州がんセンタ ー、国立がん研究センター中央病院、愛知県がんセンター中央病院の 4 施設が 30 名以上の登録で、 合わせて半数近い 140 名の登録を占めた。他の施設は、10-17 名が 7 施設、10 名未満が 23 施設 であった。途中脱退、途中参加施設を含めて、7 施設は登録 0 であった。 登録時不適格を 2 名(手術先行群 1 名、化学療法先行群 1 名)認めた。いずれも、他臓器癌の合併 を登録前に除外できなかった患者であった。誤登録や重複登録など、登録上の問題点はなかった。
4. 背景因子 背景因子のうち進行期では IV 期が 31.9%、年齢は中央値 60(30-75)歳、PS2-3 が 13.3%であった。 本試験の先行試験である JCOG0206 の IV 期:32.1%、年齢中央値:55(33-73)歳、PS2-3:17.9%に比 べて、年齢はやや高め、PS はやや良好であった。データの欠損は認めなかった。統計的な比較は行 っていないが、両群間で背景因子の分布に明らかな差は認めなかった。 5. 治療経過 手術先行群 149 名のうち、147 名が PDS を実施、138 名が術後に TC 療法を受けた。そのうち、49 名が IDS を受け、プロトコール治療完了は 99 名(66.4%)であった。手術先行群のプロトコール治療中 止理由は、有害事象(21 名)と原病の悪化(13 名)、次いで、有害事象に伴う患者拒否(5 名)であっ た。 化学療法先行群 152 名のうち、150 名が術前に TC 療法を受け、130 名が IDS を受けた。このうち、 126 名が術後に TC 療法を受け、プロトコール治療完了は 103 名(67.8%)であった。これは手術先行群 とほぼ同等であったが、プロトコール治療中止理由は、有害事象(26 名)、有害事象に伴う患者拒否 (10 名)、原病の悪化(6 名)と、有害事象に関連するプロトコール治療中止が手術先行群よりもむしろ 多くみられた。 6. プロトコール遵守 本試験におけるプロトコール逸脱は以下の表のとおりである。概して、「7. コース開始規準不遵守」、 「10. 減量規定不遵守」、「12. 投与予定日より-1 日~+3 日を超えてコース開始」、「13. 効果判定時 期に関する逸脱」に関して、逸脱がやや多く認められたが、両群間で大きな差は認めなかった。「7. コ ース開始規準不遵守」、「10. 減量規定不遵守」の逸脱で最も多かったものは、「神経障害:感覚性 Grade 2 を認めたもののコース開始延期や減量していない」であった。また、「13. 効果判定時期に関 する逸脱」では、病院の病床の事情と患者都合による逸脱が多かった。 「9. 化学療法投与量不遵守例」は手術先行群で多く認めたが、8 コース連続して化学療法を行う場 合が多い手術先行群では、化学療法 5 コース目以降も 1-4 コースと同量で投与している場合が多く 見られた。また、「3. IDS 施行前に規定の検査が行われていない」、「8. IDS 開始規準不遵守」、「14. 効果判定検査規定の逸脱」は、主に IDS と効果判定が行われた化学療法先行群で多く認められた。 しかし、安全性や有効性の比較に影響すると考えられる問題点はなかった。 表 プロトコール逸脱の詳細 手術先行群 化学療法先行群 合計 1. 治療開始日の逸脱 0 名/0 件 1 名/1 件 1 名/1 件 2. プロトコール治療開始前検査 に関する逸脱 8 名/8 件 7 名/9 件 15 名/17 件 3. IDS 施行前に規定の検査が行 われていない 18 名/22 件 40 名/47 件 58 名/69 件 4. コース開始前検査欠測 15 名/21 件、うち やむを得ない逸脱 1 件 11 名/13 件 26 名/34 件、うち やむを得ない逸脱 1 件 5. コース開始前検査・有害事象 に関する逸脱 20 名/30 件 17 名/23 件 37 名/53 件 6. コース中検査欠測 23 名/28 件、うち やむを得ない逸脱 1 件 16 名/17 件 39 名/45 件、うち やむを得ない逸脱 1 件 7. コース開始規準不遵守 29 名/64 件 30 名/61 件 59 名/125 件 8. IDS 開始規準不遵守 2 名/2 件 13 名/13 件 15 名/15 件 9. 化学療法投与量不遵守 49 名/62 件、うち 臨床的妥当 1 件 25 名/30 件 74 名 92 件、うち 臨床的妥当 1 件
10. 減量規定不遵守 31 名/63 件 35 名/64 件 66 名/127 件 11. 中止規準不遵守 24 名/28 件、うち 臨床的妥当 2 件 やむを得ない逸脱 2 件 21 名/30 件 45 名/58 件、うち 臨床的妥当 2 件 やむを得ない逸脱 2 件 12. 投与予定日より-1 日~+3 日を 超えてコース開始 36 名 67 件、うち やむを得ない逸脱 31 件 臨床的妥当 5 件 37 名 66 件、うち やむを得ない逸脱 43 件 臨床的妥当 1 件 73 名 133 件、うち やむを得ない逸脱 74 件 臨床的妥当 6 件 13. 効果判定時期に関する逸脱 32 名/37 件 39 名/47 件 71 名/84 件 14. 効果判定検査規定の逸脱 (-) 8 名/8 件 8 名/8 件 15. その他、効果判定に関する逸 脱の可能性 0 名/0 件 1 名/1 件 1 名/1 件 16. 後治療に関する逸脱の可能性 5 名/5 件 2 名/2 件 7 名/7 件 7. 安全性 本試験では、安全性に関する検討として、手術侵襲の比較、有害事象(手術中の有害事象、術後 の有害事象、化学療法後の有害事象)の比較を行った。手術侵襲の比較では、化学療法先行群では、 手術先行群と比較して、1 名あたり総手術回数の減少(B 群(化学療法先行群)vs. A 群(手術先行 群):0.86 回 vs. 1.32 回、p<0.0001)、総手術時間の短縮(273 分 vs. 341 分、p<0.0001)、手術時出血+ 腹水排液量の減少(619.5 mL vs. 3,447 mL、p<0.0001)、周囲臓器合併切除割合の減少(23.7% vs. 37.6%、p=0.0121)、遠隔転移巣切除割合の減少(3.9% vs. 10.7%、p=0.0272)、赤血球輸血割合の減少 (52.7% vs. 66.0%、p=0.0247)、新鮮凍結血漿輸血割合の減少(16.7% vs. 28.6%、p=0.0180)が認められ た。 有害事象の検討では、治療関連死は手術先行群 2 名(周術期死亡 1 名、化学療法後 1 名)、化学 療法先行群 1 名(化学療法後 1 名)に認めたが、許容範囲内の頻度と考えられた。両群間に差は認 めなかった(p=0.62)。手術例における術中の有害事象では、手術先行群と化学療法先行群で Grade 3/4 の全ての有害事象割合に差は認めなかった(1.4% vs. 0.8%、p=1.00)。また、術後 Grade 3/4 の全 ての有害事象割合では化学療法先行群で有意な減少を認めた(4.6% vs. 15.6%、p=0.0029)。化学療法 施行例における化学療法後の Grade 3/4 の全ての有害事象割合に関しては両群間に差は認めなか った(20.3% vs. 18.0%、p=0.65)3)。 8. 有効性 有効性に関して、本試験では有効性の primary endpoint として全生存期間を設定し、手術先行群お よび化学療法先行群の 3 年生存割合を 25%、30.3%と設定し、化学療法先行群の 3 年生存割合におけ る非劣性マージンを 5%と設定し、化学療法先行群のハザード比の許容限界 1.161 の設定で、300 名を 対象に試験を行った。また、secondary endpoint として無増悪生存期間および完全腫瘍消失割合を設 定した。 結果として、手術先行群の生存期間中央値 49.0 か月(95%CI:38.7-56.2 か月)、化学療法先行群の 生存期間中央値 44.3 か月(95%CI:35.8-52.5 か月)で、化学療法先行群のハザード比は 1.05 (90.8%CI:0.84-1.33)で、化学療法先行群のハザード比の上限が事前に設定した許容限界を超えたた め、対象集団全体での化学療法先行群の全生存期間における非劣性は示されなかった。無増悪生 存期間の比較では、手術先行群の無増悪生存期間中央値 15.1 か月(95%CI:13.4-18.1 か月)、化学 療法先行群の無増悪生存期間中央値 16.4 か月(95%CI:15.0-18.8 か月)で、化学療法先行群のハザ ード比は 0.96(95%CI:0.75-1.23)であった。また、完全腫瘍消失割合は、手術先行群 43.0%(64/149、 95%CI:34.9-51.3%)、化学療法先行群 49.3%(75/152、95%CI:41.2-57.6%)で、両群間に明らかな差は 認めなかった。 サブセット解析の結果、患者の全身状態に関わる因子(PS ≧2、Alb ≦2.5)、化学療法の感受性に
関わる因子(血清 CA125 >2000、組織型(Clear/mucinous)など)が化学療法先行群のハザード比に 影響を及ぼす因子として抽出された。これらの因子の分布は、いずれも両群間で大きな差は認めな かった。また、施設の activity もハザード比に影響を与えていた。患者登録の activity が高い施設と低 い施設の比較においては背景因子のうち Alb の違いが化学療法先行群のハザード比に影響したと考 えられた。手術の activity が高い施設と低い施設の比較においては、化学療法先行群のハザード比 に差を認め、Optimal 手術割合は化学療法先行群のハザード比に影響すると考えられるが、本試験 内の比較ではハザード比への影響は少なかった。 9. 考察 本試験の主たる研究仮説は、「化学療法先行群が手術先行群に対して、全生存期間にて劣ってい ないことが統計的有意に示され、治療侵襲の総合的評価により、侵襲が少ないと判断された場合、試 験治療を、より有用な治療法と判断する」であった。以下に治療侵襲と有効性に関して考察する。 <治療侵襲> 本試験の手術侵襲の比較において、化学療法先行治療では手術先行治療に比べて、1 名あたり 総手術回数の減少、総手術時間の短縮、手術時出血+腹水排液量の減少、周囲臓器合併切除割合 の減少、遠隔転移巣切除割合の減少、赤血球輸血割合の減少、新鮮凍結血漿輸血割合の減少、術 後 Grade 3/4 の全ての有害事象割合で侵襲の軽減が示された。周術期死亡は手術先行群 1 名、化 学療法先行群 0 名で、両群に差を認めなかった。この結果は 2016 年に報告した3)。 本試験と同様の卵巣癌に対する手術先行群と化学療法先行群におけるランダム化試験は、これま でに、欧州で行われた 2 つの多施設第 III 相試験の結果が報告されている。
2010 年に報告された EORTC(European Organization for Research and Treatment of Cancer)試験
4)では、統計的比較は行われていないが、化学療法先行群において周術期死亡(0.7% vs. 2.5%)、出血
Grade 3/4(4.1% vs. 7.4%)、血栓塞栓症(0% vs. 2.5%)、感染(1.7% vs. 8.1%)、消化管瘻(0.3% vs. 1.0%)で 治療侵襲の軽減傾向が示された。
また、2015 年に報告された CHORUS(Chemotherapy or Upfront Surgery)試験5)では、化学療法先
行群において周術期死亡(<1% vs. 6%、p=0.001)、術後 Grade 3/4 の全ての有害事象(14% vs. 24%、 p<0.01)の有意な減少と、術後 2 週間以内の退院割合(93% vs. 80%)の有意な増加が示された。 治療侵襲の軽減に関して、先行する 2 試験(EORTC 試験、CHORUS 試験)に比較して、本試験で は、より詳細に検討を行ったため化学療法先行群の治療侵襲の軽減を明確に示すことができたと考 えられる。 <有効性> 有効性に関して、対象集団全体での化学療法先行群の全生存期間における非劣性は示されなか った。 一方、EORTC 試験では 670 名を解析し、手術先行群の生存期間中央値 29 か月、化学療法先行群 の生存期間中央値 30 か月、化学療法先行群の HR は 0.98(90%CI:0.84-1.13)で、事前に設定した許 容限界 1.25 を下回り、化学療法先行群の非劣性が示された4)。また、CHORUS 試験では、550 名を解 析し、手術先行群の生存期間中央値 22.6 か月、化学療法先行群の生存期間中央値 24.1 か月、化学 療法先行群の HR は 0.87(95%CI:0.72-1.05)で、事前に設定した許容限界 1.18 を下回り、化学療法先 行群の非劣性が示された5)。 本試験の結果が先行する 2 試験とは相反する結果であった理由には、以下が考えられる。1)検出 力の不足(計算上はβエラー27%の可能性)、2)初期設定(化学療法先行群が 3 年生存割合で 5%上回 る)の違い、3)手術 effort の違い、4)患者登録におけるバイアス、5)化学療法抵抗性患者割合の違 い、6)化学療法(特に術前化学療法)のコース数の違い、7)再発後の生存期間(post-progression survival; PPS)の違いなどである。化学療法先行群は、手術先行群に比して実際には非劣性であるが
本試験ではその結果が示せなかったとするならば、その理由として 1)や 2)が考えられる。ただし、本 試験の化学療法先行群のハザード比は 1.05 であり、先行した 2 試験の 0.98 や 0.87 とは逆の傾向を 示していることから、一部に NAC が有効な集団も存在するが、3)~7)の理由によって、本試験全体の 対象において化学療法先行治療は非劣性ではないとの解釈が妥当と考えられる。3)については、本 試験と先行する 2 試験において、PDS における手術完遂度に大差は認めないが、本試験では手術先 行群の 1/3 に IDS を追加していること、長時間かけて腸管切除やリンパ節郭清が高頻度に行われた などの違いがあったことが原因である可能性が考えられる。また、4)、5)については、いずれの試験 においても、患者登録の少ない施設ではより進行した患者や全身状態不良の患者が登録された可能 性が示唆されており、本試験において化学療法抵抗性の患者の割合が高いことと合わせて、患者登 録におけるバイアスの大小、患者背景因子の違いも原因のひとつと考えられる。さらに、6)について は、化学療法先行治療における、薬剤耐性獲得の可能性も指摘されているが、本試験で術前化学療 法のコース数が多い(本試験:4 コース、先行する 2 試験:3 コース)ことが、化学療法先行群の予後に 影響した可能性も考えられる。7)については、本試験では先行する 2 試験に比して予後が良好であり、 PPS が長いことによる予後のばらつきが異なる結果となった原因である可能性も考えられる。 先行 2 試験における手術先行群と化学療法先行群の手術完遂度別の予後では、PDS で完全切除 症例の予後が最も良好であり、完全切除可能であれば手術先行治療が推奨されているが、本試験 においても同様の結果が示された。また、本試験におけるサブセット解析では、PS 2-3、Alb ≦2.5 、 血清 CA125 >2000)、患者登録の activity が低い施設では化学療法先行群で良好な結果が得られた。 逆に、組織型(Clear/mucinous)では化学療法先行群が不良な結果であった。患者登録の activity に 関しては患者登録におけるバイアスが原因と考えられるが、組織型が Clear/mucinous でなく、PS 2-3、 Alb ≦2.5 、血清 CA125 >2000 などの因子を有する集団に対しては、化学療法先行治療の有効性が 高い可能性があると考えられる。手術の activity の影響に関しては、現在参加施設を PDS の完全切 除割合≧50%を維持できる施設に限定した第 III 相試験が AGO(German Arbeitsgemeinschaft Gynäkologische Onkologie ) ( NCT02828618 ) や 、 SGOG ( Shanghai Gynecologic Oncology Group ) (NCT02859038)で進行中である。また、患者登録におけるバイアスの影響については、AGO 試験で 各施設における III/IV 期患者の全例登録を原則としており、これらの試験により、有用な情報が得ら れることが期待される。 10. 結論と今後の方針 化学療法先行治療は、進行卵巣癌、卵管癌、腹膜癌に対する治療として、より安全な治療ではあ るが、有効性においては、手術先行治療に対する非劣性は示されなかった。治療開始前に、切除可 能性、全身状態、化学療法感受性を評価し、切除困難、全身状態不良、化学療法感受性が想定され る患者に対しては、化学療法先行治療の有効性が高い可能性がある。 11. その他の考察 <診断の正確性> 本試験では、有効性、安全性評価の他に、術前診断の正確性(特に進行期分類)についても解析 を行った。通常卵巣癌の FIGO(International Federation of Gynecology and Obstetrics)進行期分類は 画像診断によって、遠隔転移が有るものを IV 期と診断し、手術の所見で骨盤外の腹膜播種ならびに /あるいは後腹膜または鼠径リンパ節転移を認めるものを III 期と診断する。さらに、III 期では、骨盤外 の腹腔内腫瘍の大きさあるいはリンパ節転移の所見により IIIa 期、IIIb 期、IIIc 期の亜分類が診断され る。
本試験では、PDS を行わない化学療法先行治療における治療前の画像による III 期病変の診断の 正確性を、本試験の手術先行群の術前画像診断と手術所見を比較することにより検討した。手術先 行群で、実際に手術が行われた 147 名を解析し、術前診断による III 期病変の PPV(positive
predictive value)は施設診断、中央診断とも 99%と良好であったが、IIIb 期に相当する 2 cm 以下の病 変の PPV は不良で、施設診断は病変部位毎に 17-89%、中央診断は 14-63%であった。特に大網病変 は両者とも低い PPV(17%、14%)であった。化学療法先行治療が適応される患者において III 期の診断 は可能であるが IIIb 期亜分類の診断は困難と考えられた。 <神経毒性> 本試験では、減量規定不遵守が 66 名/127 件、コース開始規準不遵守が 59 名/125 件と比較的多 くの逸脱が認められた。これらのうちの多くが、化学療法による神経障害に関する逸脱であった。神 経障害をリアルタイムであるいは十分に評価しないまま治療が継続されたことが原因と考えられる。 神経障害の評価はそもそも grading が困難で、この傾向は JCOG0206 の時から指摘されており、神経 障害の grading を行う grading scale を作成し、プロトコール遵守を促進したが十分な効果が得られな かった。治療変更や中止の規準は、通常 Grade 3/4 の有害事象で設定されるが、本試験では、「神経 障害に関しては Grade 2 以上」を減量/中止規準に含めていたこと、「脱毛以外の非血液毒性 Grade 1 以下」をコース開始規準に設定(Grade 2 は要延期)していたことが、他の臨床試験よりも厳しい規準 となっており、見過ごされやすい原因のひとつであったと考えられる。今後、神経障害が起こり易いパ クリタキセルを長期間投与する治療をプロトコール治療として規定する臨床試験では、対策が必要と 考えられる。 以上
1. Onda, T. et al., Feasibility study of neoadjuvant chemotherapy followed by interval
cytoreductive surgery for stage III/IV ovarian, tubal and peritoneal cancers: Japan Clinical
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2. Onda, T. et al., Feasibility study of neoadjuvant chemotherapy followed by interval debulking
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Study JCOG0206. Gynecol Oncol 113: 57-62, 2009.
3. Onda, T. et al., Comparison of treatment invasiveness between upfront debulking surgery
versus interval debulking surgery following neoadjuvant chemotherapy for stage III/IV ovarian, tubal, and peritoneal cancers in a phase III randomised trial: Japan Clinical Oncology
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4. Vergote, I. et al., Neoadjuvant chemotherapy or primary surgery in stage IIIC or IV ovarian
cancer. N Engl J Med 363: 943-53, 2010.
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advanced ovarian cancer (CHORUS): an open-label, randomised, controlled, non-inferiority