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医療サービスにおける明示的スクリプトとしてのクリティカルパスが患者満足に及ぼす影響に関する実証分析-香川大学学術情報リポジトリ

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香 川 大 学 経 済 論 叢 第74巻 第 1号 2001年6月 101-129

医療サービスにおける明示的スクリプト

としてのクリテイカルパスが患者満足に

及ぼす影響に関する実証分析

藤 村 和 宏

し は じ め に

従来の顧客満足研究では,顧客は満足評価のための基準を持っており,消費 した有体財あるいはサービスの知覚成果がそれを上回るならば,満足が形成さ れると考えられている。しかし,サービス消費の場合,顧客自身もそのデリパ リー・プロセス(生産及び、提供プロセス)に参加し,他の参加者(サービス組織 の従業員及び他の顧客)と協働を行わなければならないために,サービスに対す る顧客満足には「最終的な結果(デリパリーされたもの)Jだけでなく「過程(デ リパリーのされ方)Jも影響を及ぼす。従来の顧客満足研究において基準として 提案されてきた「期待Jr衡平性Jrノルム」などはサービスの結果を評価する 基準としては適用可能であるが,過程を評価する基準としては不十分である。 なぜならば,過程に関する期待にはサービス・デリパリー・プロセスを構成す る一連の出来事とそれらの時間的順序,各出来事に関与する他の参加者の特性 や活動,各活動が行われる状況等に関するものが含まれると考えられるが,こ れまでに提案されてきた基準はこのようなものを評価するには不十分であるか らである(藤村,

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a)。 このことから,過程を評価する基準としては「スクリプト」も用いられてい ると考えられる。スクリプトは出来事が反復的に生起することで学習・保持さ れるため,因果的・時間的順序において関連している一連の行動,性質,対象 から構成される。そのため,規範体系として経験することを評価するための基

(2)

102ー 香川大学経済論叢 102 準を提供するという機能や,将来の出来事に関する予測を容易にするという機 能がある

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。また,スクリプトはデリパリー・プロ セスで従業員と顧客が協働するための台本としての機能も持ち,従業員及び顧 客の参加の仕方と程度を決定すると考えられる。顧客もデリパリー・プロセス に参加し協働を行わなければならないために,顧客の行動も過程品質及び彼自 身の満足に大きくかかわっている。そのため顧客満足の向上には顧客が積極的 かつ適切的に参加及び、協働を行うことを導くものが必要とされるが,スクリプ トが適切に学習され参加者間で共有されているならば,その役割を果たすと考 えられる。また,参加者聞にはデリパリーの結果やそのあり方について認識 ギャップが存在しており,協働を阻害する要因となっているが(藤村,

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)

, スクリプトはそのネガティブな影響を軽減する効果も持っていると考えられ る。 医療サービスの分野で利用が進展しているクリテイカルパスはこのスクリプ トの明示的なものとして機能すると考えられることから,本稿では,クリテイ カルパスの利用の有無が患者満足やその他の評価に及ぼす影響の考察を通じ (1) て,スクリプトの機能について検討したい。

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I

.

クリティカノレノ

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スとは

クリテイカルパスという概念は,

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0

年代のアメリカで発展したオペレー ションズ・リサーチ (OR)の中のプロジェクト管理技法より派生した概念であ る。

1

回限りの事業はプロジェクトと呼ばれるが,この完了までにはほとんどの 場合に時間的制約と資源的制約が存在しているために,プロジェクトを構成す る諸活動を効率的に適切な順序で行っていくことが必要とされる。この問題を 解決するための方法として,

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がほぽ同時期(1

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年)に 開発されている。内容的にほとんど同じでものであるが,開発主体は異なって (1) この研究は,平成11年度 平成12年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(2):課題番号 11630110)を受けて行ったものの一部である。

(3)

103 医療サービスにおける明示的スクリプトとしてのクリテイカルパスが患者満足に及ぽす影響に関する実証分析 -103

おり,

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は,ポラリス型 原子力潜水艦の開発をスケジューリングするために,米国海軍とコンサルテイ ング会社のブーツ・アレン・アンド・ハミルトン社が共同で考案したものであ る。一方,

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は,米国のデュポン社が新製品の研 究開発から生産までの時間と費用のスケジューリングを目的として開発したも のである(小山・森田, 1980)。 両方法とも非常に類似しており,ネットワークの構築とクリテイカノレパス(臨 界経路)の導出については全く同じである。相違点は,

PERT

が主に時間管理 を,

CPM

が主に費用管理を問題としていることにある。これは

PERT

が軍関 係で開発され,そこにおいては費用よりも時聞を重視する傾向があることを反 映するものであった。また,

PERT

が活動時間を確率変数とみなしているのに 対し,

CPM

は確定的なものとして取扱っている点に顕著な差がある程度であ る。 ネットワークの構築とは,プロジェクトを分析し,独立とみなせる構成活動 に分割し,連続関係を示すようなネットワークを描くことである。次にクリテイ カルパスの導出が行われるが,これはプロジェクトの完了時聞を左右する活動 からなる経路を見つけることである。これらの活動の遅れはプロジェクト全体 の遅れを意昧しているので,数多くの活動の中から特にそれらの活動の管理に 集中することが可能になる。 このようなプロジェクトの時間及び費用の管理方法を医療サ}ビスのデリパ リーに応用したものが,ここで分析対象とする「クリテイカルパス」である。 尚,名称については下記のような様々なものが用いられている(武藤, 1998)0 ・クリニカルパス ・クリニカノレノマスウェイ -クリニカル・プログレション -アンティシペイデッド・リカバリー・プラン .ケア・ガイド ・ターゲット・トラック

(4)

104- 香川大学経済論首長 104 -コーディネィティッド・ケア・プラン -ケアマップ 医療界でクリテイカノレパスが用いられ始めたのは

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年代の米国において (2) であるが,その背景には米国における医療費削減・抑制政策の進展があった。 この時期の米国では,

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年代後半に国民医療費が

GNP

7%

を超えたこと もあって, レーガン政権下で本格的な医療費削減・抑制政策が展開されている。 その医療費削減・抑制の中心となったのが医療機関への保険支払い方式の変更, すなわち連邦政府所轄の公的保険(メディケア)の償還を出来高払い方式から 定額払い方式へ変更することであった。定額払い方式には疾患群別予見定額払 い

(DRG/PPS:

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が 採用されたが,これは

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近い疾患グループについて,それぞれの在院日数の 標準とその疾患を扱うことで生じる病院費用(医師費用は除く)に関して,

DRG

料金表から決められた額を支払う方式である。これにより,病院は医療サービ スのデリパリーを決められた入院期間と料金の範囲内で行えば利益を出すこと ができるが, それを超えれば損失を出すという状況になっている。 この

DRG/

PPS

による支払い方式は初め連邦政府の所轄する公的保険のみに適用された ヵ~, その後, 民間の医療保険にも広がり全米の病院の経営全体に大きな影響を 与えるようになっている(武藤,

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)

。 (3)

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年代に入ってマネジドケアの利用が増加しているが,これは保険会社が 契約者(病院や個人・企業)と取り交わす健康保険プランであり,最少の保険 料で最良の医療結果を得るために,医療行為の過程をも保険プランの中で逐一 管理するものである。つまり,保険会社が特定の医師・病院とネットワークを 作ったり,診療内容を審査したりすることで,医療サービスを患者に提供する (2 ) 米国で最初にクリテイカルパスを医療界へ導入したのは,マサチューセツツ州にある ニューイングランド・メデイカル・センターの正看護婦カレン・ザンダー氏で, 1985年の ことであった(武藤, 1998)。 (3 ) 米国の公的な医療保険制度は高齢者,障害者,低所得者が対象で,それ以外の人は勤務 先の会社などを通じて民間の医療保険に入っており,マネジドケアの加入者は全体の 7 割を超えている(朝日新聞, 2001年4月26日)。

(5)

105 医療サービスにおける明示的スクリプトとしてのクリテイカルパスが患者満足に及ぽす影響に関する実証分析 -105 期間,コストを最小限に抑えながら,同時に質の高い医療サービスを提供しよ うとする医療保険プランである。具体的には,病院はHMO(会員制健康医療団 体)と患者の医療費を定額制前払い方式で契約する。これにより公的保険の場 合と同様に,病院は前払いされた医療費の範囲内で医療行為を行えば利益を出 すことができるが,それを超えると病院の持ちだしになってしまう(森山, 1998)

このように公的保険だけでなく民間の医療保険においても,支払方式が出来 高払いから定額払いへの変更が進むことで,ある定められた入院期間内に最少 のコストでデリパリーを行うことが病院の重大な経営課題となっている。そし て,このことが病院におけるクリテイカルパスの導入・普及を促している。尚, 導入過程で,医療界におけるクリテイカルパスは

OR

における元々の考え方と は少し異なるものとなっている。すなわち,オペレーションズ・リサーチにお けるクリテイカルパスはプロジェクトの時間と費用の管理であるが,医療界に 実際に導入されているのは活動の標準化の側面が強いものとなっている。 次に,クリテイカルパスの定義についてであるが,これは論者や視点によっ て少しずつ異なっている。例えば,クリテイカルパスに含まれる情報内容を強 調したものでは r特定の患者集団に対する理想的治療方法の道筋」とか「患者 の病院滞在のアウトライン」と定義されている(森山, 1998)。事実,クリテイ カルパスは,一定の疾患をもっ患者に対する入院指導,入院時オリエンテーショ ン,検査,食事指導,安静度,退院計画などがルーティーン・スケジューノレと してまとめられている。 また,医療サービスのデリパリー・プロセスにおける協働を強調したもので は, Goldwin (1992)の「特定のケースに対し,ケアの質とコストの関係を意図 的にコントロールして目標を達成しようとする多業種共同のケア・プロセス」 という定義がある。笹鹿(1997)は r医療を,医師,看護婦,ソーシャルワーカー, 理学療法士,作業療法士,栄養士,薬剤師,レントゲン技師などの専門家から なるオーケストラ」と捉え rそれぞれのパートが協力しながらよいハーモニー を奏でるためには楽譜が必要であり,その楽譜に相当するものがクリテイカル

(6)

-106ー 香川大学経済論叢 106 パスである」と論じている。森山(1

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8

)

も「クリテイカルパスは,患者のケア に関わるすべての専門職の動き(治療・処置内容)をすべて書き出し,それを一 覧表にし,最大の治療効果を生み出せるように調整したものである」と定義し ている。 後者の定義ではサービス・デリパリー・プロセスを関係者の協働プロセスと 認識しているが,医療サービスの関係者には医療従事者しか含まれず,患者は それらの協働の成果の受け手としてしか認識されていない。しかし,医療サー ビスの消費においても,外部顧客である患者がそのデリパリー・プロセスに積 極的かつ適切に参加し,医療従事者と協働を行わなければ,効果的かつ効率的 なデリパリーの進行と治療成果を期待することはできない。患者が指示された 通りに薬を服用しないとか,自ら疾病からの回復と社会復帰のためのリハビリ に取り組まなければ,治癒が遅れるばかりか,別の疾病を引き起こす危険性も ある。例えば,結核の治療には3種類の薬が組み合わされて提供されるが,患 者がそれら3種類のすべてを指示通りに服用しなければ,耐性菌を生み出し症 状を悪化させてしまうこともあるという。このことから,クリテイカルパスは 患者も協働者の一人として捉え,彼らが遂行しなければならない役割や活動も 明記するとともに,それらを調整するものであることが必要とされるであろう。 このようにクリテイカルパスの定義は論者によって異なるが,その導入に よって期待される効果としては以下のようなことが挙げられている(武藤,

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)

(l) 在院日数短縮 (5) 職員教育

(

2

)

コスト削減

(

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)

診療録の改善 (3) 患者満足の向上 (7) チーム医療の推進 (4) ケースマネジメントの改善 患者満足の向上もクりテイカルパスの効果として挙げられているが,そのよ うな効果が導かれる理由については理論的・実証的に考察されていない。以下 では,クリテイカルパスが患者満足を導くと考えられる理論的根拠を示すとと もに,その効果を患者に対する量的調査により実証的に検討したい。

(7)

107 医療サービスにおける明示的スクリプトとしてのクリテイカルパスが患者満足に及ぽす影響に関する実証分析

I

I

I

. クリテイカルパスの機能と患者満足の向上に

対する効果

-107-日常的に消費されるサービスの場合,多頻度の消費経験と,その評価に専門 的知識を必要としないことによって,顧客はそのサービス消費状況において適 切で目標達成の可能性を高めるような一連の行動,すなわちスクリプトを学習 することが容易である。これは映画におけるシナリオのようなものであり,そ こには消費過程において順次展開される場面とその順序,そこでの登場人物(参 加者)の行動やせりふ,その背景となる物的環境要素などが含まれている。そ して,映画の制作にかかわる人々全てが共通のシナリオを保有し,関係者のそ れぞれがそれに従って与えられた役割を適切に遂行することで,映画が完成す るように,顧客と従業員が共通のスクリプトを保有し,それぞれがそれに従っ てサービス・デリパリー・プロセスに適切に参加し,協働を行うことで,サー ビスのデリパリーと消費は満足なかたちで完結する。逆に言えば,適切なスク リプトが参加者間で共有されていない場合には,参加と協働が適切に行われな いために,サービス・デリパリー・プロセスで問題が発生し,それは参加者そ れぞれにとって不満足なものとなる。 医療サービスの場合には,消費頻度が低く,その評価に高度な専門的知識が 必要とされるために,協働の効果的かっ効率的な展開を促すような共通スクリ プトを患者を含む参加者が学習・保持することは困難である。クリテイカルパ スはこのことがもたらす問題の深刻化を抑制し,さらには患者満足の向上を導 くことがと期待される。なぜならば,クリテイカルパスに関する前述の定義が 示すように,それには医療サービスのデリパリー・プロセスに関与する様々な 人々の活動を調整し,協働を促すような台本機能があるためである。クリテイ カルパスは参加者トに共通の明示的スクリプトを提供するために,各参加者はデ リパリー・プロセスの各段階における彼あるいは彼女の役割を適切に認識・遂 行できるようになるだけでなく,他の参加者に対してどのような行動をどの程 度期待できるのかも理解できるために効果的かつ効率的な協働の展開が可能に

(8)

108- 香川│大学経済論叢 108 なる。 クリテイカルパスは明示的スクリプトとして映画におけるシナリオと同様な 役割を果たし,参加者の適切な参加と協働を促すことを通じて患者満足,さら には職務満足や組織に生産性の向上に重要な役割を果たすことが期待される (藤村, 1997)。また,明示的スクリプトとして,それが保有する予測向上機能 や評価基準機能も発揮することが期待される。 医療サービスに対する患者の満足/不満足を決定するのは治療成果とデリパ リーのあり方(たとえば医療従事者の患者対応のあり方)であるが,両者では用 いられる評価基準が異なっている。治療成果に対する満足/不満足形成には, 期待,衡平性,ノルムといった代替的評価基準のいずれか一つあるいはこれら が組み合わされたものが用いられ,それを上回っている(あるいは下回ってい る)程度によって満足/不満足は決定される。一方,デリパリーのあり方に対 する満足/不満足形成では,期待,衡平性,ノルムといった基準以外にスクリ プトも重要な役割を果たし,それと実際のプロセスとの一致度も決定に大きく かかわっている。すなわち,デリパリー・プロセスのあり方に対する満足は, 顧客が保有しているスクリプトと実際のサービス・デリパリー・プロセスで展 開される消費場面の順序,そこでの登場人物の外観や行動・態度,その場面を 構成する物的環境要素などとの一致度が高く,認知的あるいは実際のコンフリ クトが生じないことによっても高まる。逆に,一致度が低い場合には,認知的 コンフリクトが生じるために,あるいは参加者間でトラブルが発生しデリパ リー・プロセスが遅延あるいは中断するために,不満足が形成されやすくなる。 サービス・デリパリーへの反復的な参加経験によって学習される通常のスク リプトの場合には,デリパリーに関連する参加者やその標準的行動,性質,対 象等に関して非常に広範囲な情報が含まれているが,クリテイカルパスに含ま れる情報は治療行為に関係のあるものに限定されている。そのため,クリテイ カルパスは医療サービスのデリパリーのあり方のすべてに対する満足/不満足 を評価するための基準とはならないかもしれないが,プロセスにおける重要な 出来事の評価基準としては機能するであろう。そして,現実の医療サービスの

(9)

109 医療サービスにおける明示的スクリプトとしてのクリテイカルパスが患者満足に及ぼす影響に関する実証分析 109-デリパリー・プロセスとの一致度の高い適切なクリテイカノレパスの提示は,患 者にデリパリー・プロセスへの参加の仕方に関する適切な情報を提供しそこで の協働を円滑にさせるだけでなく,患者に適切な評価基準を提供し現実との ギ、ヤツプを低減させるために,患者満足にポジティブな影響を及ぼすと考えら れる。しかし逆に言えば,提示したクリテイカルパスに沿ったかたちで医療サー ビスをデリパリーできない場合には,患者満足は大きく低下することになる。 このことから,クリテイカルパスの構築においては実行可能性を重視するとと もに,クリテイカルパスとの一致度の高いサービスのデリパリーを可能にする ように,組織を体系化することが必要とされる。 また,明示的スクリプトとしてのクリテイカノレパスには,患者の治療過程に かかわる予測性を高める機能があると考えられる。予測性の向上は,患者が治 療過程において感じる不安を低減するだけでなく,状況に対する知覚コント ロール水準を高めることによって,患者満足にポジティブな影響を及ぽすであ ろう。 不安は将来において起こるであろう出来事に関する不確実性が高いことから 生じる。患者の場合には,不安は身体的に起こるであろう出来事に関する不確 実性からだけでなく,社会的関係の回復にかかわる不確実性からも生じる。公 的医療制度の中で診断・治療を受けることで人は「患者」という役割を担うこ とになるが,それにより仕事や日常社会における義務から解放される代わりに, 健康な人びとが持つ役害肋〉らはずされたり,権利が奪われることになる。つま り,人は患者となることで,プライパシーを奪われるだけでなく,日常の生活 や行動を維持することや主体的に行動することが制限されるようになる(波平,

1

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9

4

)

。このことは,患者は日常的な社会関係から離脱させられることや日常生 活で用いているスクリプトを放棄しなければならないことを意味している。こ の結果,患者は社会的関係の中に復帰することに関する大きな不確実性を知覚 するだけでなく,治療過程を主体的かつ予測のもとに過ごすことができないた めに,身体的な不確実性と相侯って,大きな不安を感じることになる。 明示的スクリプトとしてのクリテイカルパスには,入院指導,入院時オリエ

(10)

-110ー 香川大学経済論叢 110 ンテーション,検査,食事指導,安静度,退院計画などがまとめられているた めに,これの提示は患者の将来に対する予測性を高めることになる。そして, この予測性の向上は身体的及び社会的不安の低減を通じて,患者満足にポジ ティブな影響を及ぽすことが考えられる。 また,予測性の向上がもたらす知覚コントローノレも,医療サービスのデリパ リー・プロセスにおける患者および医療従事者それぞれの満足に重大な影響を 及ぼすと考えられる。知覚コントロール水準はデリパリー・プロセスを行動的 にコントロールすることで高まるのは当然のことであるが,実際にコントロー ルしていなくてもそうしていると知覚するだけでも高まる。例えば,患者が医 師を指名するとか,治療方法を選択するとか,のようなオプションの存在は行 動的コントロールを可能にするために患者満足を高める。一方,医師から患者 に治療方法や治療期間,その期間に患者自身が行うべきことなどを情報として 提供することは,患者の認知的なコントロールを高めることになる。なぜ、なら ばそのような情報提供によって,患者はそれ以後の医療サービスのデリパ リー・プロセスにおいて起こる出来事や彼自身の役割について理解できるよう になり,将来に対する予測性が高まり,それは状況をコントロールしていると いう感覚を生み出すためである。 このように適切なクリテイカルパスの提示によって医療サービスのデリパ リー・プロセスに対する患者の予測性を向上させることは,患者の不安を低減 したり,知覚コントローノレ水準を高めることになるために,患者満足にポジティ ブな影響を及ぽすことになると考えられる。さらに,予測性の向上により,患 者はデリパリー・プロセスへの参加を必要としない時間を把握できるために, 自由裁量時聞を確保できる。この自由裁量時間の使い方については患者自身が 決定できることも,患者満足の向上に貢献すると考えられる。

I

V

.

クリテイカルパスの効果に関する若干の経験的考察

(1 ) 調査実施概要 明示的スクリプトとしてのクリテイカルパスの機能とそれらの患者満足に対

(11)

111 医療サービスにおける明示的スクリプトとしてのクリテイカノレパスが患者満足に及ぽす影響に関する実証分析 (4) -111-する効果を検証するための初期的調査を実施した。その調査実施概要及び調査 対象者の属性は以下の通りである。 調 査 対 象 者 : 坂 出 市 立 病 院 の 退 院 患 者 調 査 票::

B

4

(裏表) (質問は患者本人の直筆回答を基本として いるが,本人の直筆回答が困難な場合には,看護婦が 質問を読み上げ,聞き取り記入) 調 査 方 法:退院時に配布し,その場で回収あるいは事後回収 調 査 時 期 :2000 年 7 月 1 日 ~1'2月 31 臼 有 効 回 収 数 :

3

7

5

票 有効回収票の属性:有効回収票における患者特性は下記の通りである。 性 別 人 数 構成比(%) 入院日数 人 数 構成比(%) 男 性 l7l 45 6 1~5 日 75 20 0 女 性 196 52.3 6 ~10 日 94 25..1 不 明 8 2.1 11~15 日 40 10..7 合 計 375 100 0 16~20 日 26 6..9 21~25 日 15 4 0 26~30 日 30 8..0 年 齢 人 数 構成比(%) 31~35 日 9 2..4 10歳未満 39 10..4 36~40 日 15 4.0 10{~ 13 3..5 41日以上 58 15..5 20代 42 11.2 不 明 13 3..5 30代 38 10..1 合 計 375 100..0 40代 20 5..3 50代 39 10..4 60代 65 17..3 当病慌の入院経験 人 数 構成比(%) 70代 64 17..1 あ る 199 53..1 80代以上 43 11 5 な い 165 44.0 不 明 12 3..2 不 明 11 2..9 合 計 375 100..0 合 計 375 100..0 ( 4) 調査の実施に際して,坂出市立病院の日根野谷総婦長を中心とする看護婦の方々に貴 重なお時間と労力を割いていただきましたことを,ここに感謝いたします。

(12)

-112ー 香川大学経済論叢 112 尚,今回の分析には, 1O~85 歳の有効回収票を用いた。それは, これ以外の 年齢層では質問内容を理解し, それに対して自分自身の評価を適切に伝えるこ とが困難であると考えられるからである。 さらに, これ以外の年齢層の回収票 の中には家族の代理回答票が含まれているが,患者本人が回答した場合と家族 (5) による代理回答の場合とでは評価構造が異なると考えられるためである。 また, クリテイカルパスの持つ機能とそれが患者満足に及ぼす効果を厳密に 検証するためには,同じ疾病の患者を二つのグループに分けて, 一つのグルー プではクリテイカルパスを用い, もう一方のグループでは用いないこと、で,グ ループ聞での評価の違いを分析する必要がある。 さら』こ, クリティカlレノTスを 用いる場合でも, その内容によって患者評価がどのように変化するのかを分析 しなければならない。 しかし, 今回の調査はこのような詳細な考察を行うため の準備的位置づけにあるために, このような実験的な方法は採用していない。 そのため分析は, クリテイカルパスが用意されいる疾病のためにそれを用いる ことができた患者と用意されていない疾病のために用いることができなかった 患者の評価を比較するというかたちで行っている。 このことが分析結果にもた それらの検討は今後の課題とし らすバイアスも当然予想されることであるが, fこい。 (5 ) 筆者は訪問看護サービスについて利用者満足調査を行ったが,利用者本人が回答した 場合と家族が代理回答をした場合とでは満足/不満足に影響を及ぼす要因は明らかに異 なっていた。すなわち,利用者本人の満足に有意な影響を及ぼす要因は,利用者本人が回 答とした場合には,看護婦の「看護能力」と「態度・対応」であり,家族が代理回答した 場合には,看護婦の「態度・対応」と「時間対応」であった。訪問看護婦の時間対応は, 利用者本人が回答した場合にはほとんど影響を及ぼしていなかった。このような結果は, 利用者本人にとってはサービスのコアである看護技術や援助内容が重要であるのに対し て,家族にとっては訪問看護婦が予定時間通りに訪問してくれることや望む時間帯に訪 問してくれることが重要であることを示していると考えられる。尚,調査実施概要と結果 の詳細については,平成11年度厚生省老人保健事業推進費等補助金研究報告書『介護保 険制度下における訪問看護サービスの質の評価・向上に関する研究』の71-85頁を参照の こと。 この結果が示すように,サービスの利用者本人とその関係者ではその消費によって望 むものが異なるために,満足に影響を及ぽす要因は異なるし,また,望むことが異なるた めに同じデリパリー・プロセスやその成果を観ても,それらに対する評価は異なったもの になることから,両者の評価は分けて分析することが必要とされる。

(13)

113 医療サービスにおける明示的スクリプトとしてのクリテイカルパスが患者満足に及ぽす影響に関する実証分析

113-(

2

)

クリテイカルパスが患者評価に及ぼす影響 前述のように,明示的スクリプトとしてクリテイカルパスには協働のための 台本機能,評価基準機能,予測向上機能があると考えられることから,クリテイ カノレパスの有無によってこれらの機能に関わる患者評価にどのような違いがあ るのかを分析した。 表

1

のクロス集計表は,

1

2

の質問項目について,クリテイカルパスを用いた 患者グループと用いなかった患者グループの評価を比較したものである。尚, 各評価は【 ]内のステートメントに対して

1

= Iそう思わないJ~5 = Iそ う思う」の5点尺度で聴取している。 大部分の質問項目において,クリテイカノレパスを用いた患者グループの方が 評価が高くなっているが,統計的に有意差が見られたのは以下の 4項目であっ た。 質問 4 治療成果を上げるために患者として行うべきことが理解できてい た。 質問

6

'治療や処置は事前の説明通りに行われた。 質問9 入院期間中,予測していなかったような状況が生じるようなこと はなかった。 質問

1

2

:治療成果を上げるために,私は医師や看護婦に十分に協力した。 質問

4

1

2

は患者の協働への参加にかかわる項目であり,質問

6

は評価基準 にかかわる項目,質問

9

は予測性にかかわる項目である。これらの項目におい て有意差が見られることから,クリテイカルパスは明示的スクリプトとして前 述のような3つの機能を備えていることが推測される。 次に,クリテイカルパスの有無が患者満足に及ぽす効果を分析したのが,表 2のクロス集計表である。満足度を異なるこつの尺度,すなわち 1

=

I不満足 である

J

~5

=

I満足である」とする

5

点尺度と

1=

I期待以下である J~5= 「期待以上である」とする 5点尺度で測定したが,どちらの尺度においても, クリテイカルパスを用いた患者グループの方が用いなかった患者グループより も満足評価は高くなっている。特に「期待以下一期待以上」尺度では I期待以

(14)

一114ー 香川大学経済論叢 114 表1・クリテイカルパスの有無による評価の違い 【1.入院期間中のそれぞれの日において,医師がどのような治療を行うのかが予測できた。】 パ¥クス¥リのテ¥有ィ¥無カJV¥¥評』¥¥価¥ そう思わない どちらとも そう思う 小 計 言えない 有 1 2 14 5 29 51 (20) (3 9) (27..5) ( 98) (56 9) ( 230) ー--ー・骨.---ーー---ーーー---司ー ーーーー---働---ーーーーーーーー---・ーーーーーーー・ーー ーーーー・・・・ー---ー ーーーーーー・・----ー 無 6 6 46 41 72 171 (3 5) (3 5) (26 9) (240) (421) ( 770) 小 計 7 8 60 46 101 222 (32) (3.6) (270) (20 7) (455) (100 0) Pearsonのカイニ乗値:6..010 【2.入院期間中のそれぞれの日において,看護婦がどのような処霞を行うのかが予測できた。] 、パク¥ス¥テ¢¥ィ有無カノ?¥¥評、、¥¥価、 そう思わない どちらとも そう思う 小 計 言えない 有 2

13 9 27 51 (3 9) (-) (255) (17 6) (52 9) ( 23 0) ー.幽---ー---・・ー 悼・・ー----ーー.骨骨----ー・ーーーー・曲・・--帯・・ーーーー・ーーーーー ー骨骨---ーーーー ーー・幽岨・ー.骨骨ーーーーー 無 2 3 40 46 80 171 (1.2) (18) (23.4) (26 9) (468) ( 770) 小 計 4 3 53 55 107 222 (18) (14) (23 9) (24 8) (48 2) (1000) Pearsonのカイニ乗値:4.285 【3.入院期間中,安心して治療を受けることができた。】 パ¥クス¥,,0:テ¥有ィ無カノP¥¥評¥¥ ¥ 価 そう思わない どちらとも そう思う 小 計 言えない 有

l 2 9 40 52 (-) (1 9) ( 3 8) (173) (769) ( 22 8) -・---自白ーーー・---凶・---ーー---値・.峰・---ーー 回ーー・・・・・・・・--ーーーー・晶画・---ー・ーーー角田ーー・曲---ーーー曲圃- -無 1 1 19 31 124 176 (06) (0 6) (108) (17 6) (705) ( 772) 小 計 1 2 21 40 164 228 (04) (09) (9.2) (175) (7L9) (1000) Pearsonのカイニ乗値:3476 注1)カッコ無し数値は各セルに該当する人数であり,カッコ付き数値は構成上じである。

(15)

115 医療サービスにおける明示的スクリプトとしてのクリテイカルパスが患者満足に及ぽす影響に関する実証分析 【4.治療成果を上げるために患者として行うべきことが理解できていた。】

¥¥瓦ト竺!

そう思わない どちらとも そう思う 言えない 有 1

7 10 32 (2 0) (ー) (140) (200) (64 0) ----ー曲ー・...・・・..‘ーー---帽 ーーーーーーー. ーーー-ー-ーーー..晶画 無

。 。

37 46 90 (-) (一) (21..4) (266) (52 0) 小 計 l

44 56 122 (04) (-) (19.7) (251) (54 7) Pearsonのカイ二乗値:6.221ホ -115-小 計 50 ( 22 4) ーーー・--- -173 ( 776) 223 (1000) 【5.治療成果を上げるために患者として行うべきことを,私は積極的に行った。]

¥なと!

そう思わない どちらとも そう思う 小 計 言えない 有

l 9 13 27 50 (一) (2 0) (18 0) (260) (54 0) ( 228) ..幽ーー・ーー・ー・ー・..幽・・・・・・・ー・----帽. ..陣伺甲ー・ーーーーーーーー ----.ーーーーーーーー ーー司ーーーーーーーーーー ーーーーーー---_.幽圃』齢 無

3 40 38 88 169 (-) (18) (23..7) (22 5) (52.1) ( 772) 小 計

4 49 51 115 219 (-) (L8) (224) (233) (52..5) (1000) Pearsonのカイニ乗値:0 797 【6.治療や処置は事前の説明通りに行われた。】 ¥パクス¥ノテの¥有ィ無カ 〉 ¥ ¥評¥¥価¥ そう思わない どちらとも そう思う 小 計 言えない 有 l

1 11 39 52 (19) (-) ( 19) (21..2) (75 0) ( 23.2) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ーー・ー幽ー..幽・e・ー・. ー・---・・---・・---・. -・・..骨・--- ----開'・開曹司... 無 1 2 19 22 128 172 (06) (12) (lLO) (12..8) (744) ( 768) 小 計 2 2 20 33 167 224 (09) (0 9) ( 89) (14 7) (746) (1000) Pearsonのカイ二乗値:7..029* 注1)カッコ無し数値は各セルに該当する人数であり,カッコ付き数値は構成比である。 注2)キは15%水準で有意である。

(16)

116 香川大学経済論叢 116 【7.医師や看護婦による治療・処置は,自分の期待遇りに行われた。】 ¥パクスノ¥テ¢、有ィ無カノア¥¥評¥価 そう思わない どちらとも そう思う 小 計 言えない 有

1 5 11 35 52 (-) (1 9) ( 96) (212) (673) ( 230) 帽・..ー---白骨骨.---ーーー ー---・_.--- ---噌押 ーー・ー, ー ・ーーーーーーーーーーー ー岨骨骨・ーーーーーーーー 無

I 29 31 113 174 (-) (06) (16 7) (178) (64 9) ( 770) 小 計

2 34 42 148 226 (-) (09) (15 0) (18 6) (65 5) (100 0) Pearsonのカイ二乗値:2420 【8.入院生活は,自分がコントロール(統制)しているように感じられた。】 パ¥クスリ¥のテ¥有ィ無カP¥¥評¥一¥¥価¥ そう思わない どちらとも そう思う 小 計 言えない 有 7 2 15 15 12 51 (13 7) (3 9) (29 4) (29 4) (235) ( 23 1) ー---・...押司 ー・・ーーーーーーー... ーー・ーーーーーー-ー.. '司---国ー・ーーーーー. ー...・...鴨ーー・ーー ーー.開_.--- -無 9 4 67 44 46 170 ( 53) (2 4) (39 4) (259) (27..1) ( 769) 小 計 16 6 82 59 58 221 ( 7.2) (2 7) (37.1) (26 7) (262) (1000) Pearsonのカイニ乗値:5 634 【9.入院期間中,予測していなかったような状況が生じるようなことはなかった。】

みド

1

1

そう恩わない どちらとも そう思う 小 計 言えない 有 4

3 10 35 52 (7 7) (一) ( 5..8) (19 2) (67 3) ( 23 2) ..ーーーーー幽ーーーー・・・・・・骨事ー...由直 ー・・・ー・・ーーーーーー -・・---ーーーーーー.幽・--- ー---ーーーー・・ ..・ーーーーーーーー・・・ 無 5 3 39 29 96 172 (2 9) (1..7) (22 7) (169) (55 8) ( 76 8) 小 計 9 3 42 39 131 224 (4 0) (1..3) (18 8) (174) (58 5) (1000) Pearsonのカイニ乗値:10..299*** 注1)カツコ無し数値は各セルに該当する人数であり,カッコ付き数値は構成比である。 注2)

*

*

*は5%水準で有意である。

(17)

117 医療サービスにおける明示的スクリプトとしてのクリテイカルパスが患者満足に及ぽす影響に関する実証分析 117 -【10.入院生活については,治療や処置以外のことは自分マ計画を立てて行うことができた。】 ¥パクス¥リテの¥有ィ無カ ? ¥ ¥ 評、¥¥価¥ そう恩わない どちらとも そう思う 小 計 言えない 有 2 2 13 13 20 50 (40) (40) (260) (260) (400) ( 228) 骨司・~---・骨.骨骨輔・ー剖・・・--働ーーーー‘ー ー値価制・・ーーー骨.骨骨. -ー.伺骨--岨剖・a峰・ー.砂 持価値幅値・・ーーーー・・. ーー-ーー----・ーー. 無 10 6 52 32 69 169 (5 9) (3 6) (30 8) (18 9) (408) ( 77 2) 小 計 12 8 65 45 89 219 (5 5) (3 7) (29 7) (20 5) (406) (100 0) Pearsonのカイ二乗値:1 520 【11.入院期間中に不安を感じることはなかった。] ¥パク¥ス¥テ¢¥有ィ無カノア、¥評¥¥¥』価、 そう思わない どちらとも そう思う 小 計 言えない 有 1 3 8 11 28 51 (20) (5 9) (15 7) (21 6) (54 9) ( 227) ーーーーーーーー---ー, ,ー・---司--司-- -無 4 9 36 30 95 174 (23) (52) (20 7) (17 2) (54..6) ( 773) 小 計 5 12 44 41 123 225 (22) (53) (196) (18.2) (54 7) (1000) Pearsonのカイ二乗値:0 968 【12.治療成果を上げるために,私は医師や看護婦に十分に協力した。】 ¥パク¥スノテの¥有ィ 無カパ〉¥¥評¥¥¥価 そう思わない どちらとも そう思う 小 計 言えない 有 (

-) 2 5 13 31 51 (39) ( 98) (255) (60 8) ( 229) --・・・・・・・・・・・・・・・ー・--- -・・---・・---・・---・・---ー---・ 岨--- -無 2 4 42 45 79 172 (12) (2 3) (244) (262) (45 9) ( 771) 小 計 2 6 47 58 110 223 (0 9) (2 7) (21.1) (26 0) (493) (100 0) Pearsonのカイ二乗値:6..718事 注1)カッコ無し数値は各セ1レに該当する人数であり,カッコ付き数値は構成比である。 注 2) 牢は15%水準で有意である。

(18)

-118- 香川大学経済論叢 118 上」あるいは「やや期待以上」と回答した人の割合は,クリティカノレパスを用 いた患者グループで

6

5

..4%,用いなかった患者グループで

4

9

7%

となってお り, 15,,7ポイントの差がある。しかし,統計的に有意ではないために,今回の 結果から「クリテイカルパスの利用は患者満足を向上させる」とは言えなかっ 7 τ, 山」。 表2 クリテイカルパスの有無による満足評価の違い ¥パス¥の有全無体的満¥足¥度¥ 不満足である どちらとも 満足である 言えない 有

。 。

4 16 32 (ー) (-) ( 77) (30,,8) (615) ー岨・・・.-.---ーー・・'-ーーーーーーー・ ,ーーーーーーー・・・-- ーーーー輔---ーーー ーー司値ー・・ーーーーーー ---・---骨・ーーーーー ー.伺--ーーーーーーーー 無

l 22 48 107 (ー) (06) (124) (270) (601) 小 計

l 26 64 139 (ー) (04) (11 3) (27,,8) (604) Pearsonのカイニ乗値:L290

示京?!

期待以下 期待通り 期待以上 である である である

l 17 16 18 有 (-) (19) (32 7) (308) (34 6) ---・・----ーーーー---値・--ー. ・---ーーーー .岨・----ーーー--- -・ーーーーーーーーー・.--ーーーーーー曲---- ---ーー・---1 5 82 42 45 無 (06) (2 9) (46 9) (24 0) (25 7) 1 6 99 58 63 小 計 (0 4) (26) (436) (25 6) (27,8) Pearsonのカイニ乗値:4 137 小 計 52 ( 226) ---ーーー白幽幽・・---178 ( 77 4) 230 (100 0) 小 計 52 ( 229) ーー・ー・・・.ーー.... 175 ( 77. 1) 227 (1000) 注1)カツコ無し数値は各セルに該当する人数であり,カッコ付き数値は構成比である。 (3) クリテイカルパスの有無による満足構造の違い 次に,明示的スクリプトとしてのクリテイカルパスが保有するであろう 3つ の機能が患者満足に及ぽす影響について分析したい。 この分析のための準備としてまず,表lの12の質問項目を用いて因子分析を

(19)

11~ト 医療サービスにおける明示的スクリプトとしてのクリテイ カルパスが患者満足に及ぽす影響に関する実証分析 119 行うことで,スクリプトの持つ基本的機能次元の抽出を行った。表3はパリマツ クス回転後の因子負荷行列を示しているが 3因子が抽出された。因子負荷量 の大きい質問項目の内容から,第l因子は「協働への参加にかかわる次元j,第 2因子は「評価基準の充足にかかわる次元j,第3因子は「予測性の高さにかか と解釈することができる。 これらは明示的スクリプトとしてのクリ わる次元」 テイカルパスが保有していると推論された3つの機能に対応している。 次に,抽出された3つの次元が患者満足に及ぽす影響を明らかにするために, クリテイカルパスを用いた患者グループと用いなかった患者グループに分けて 回帰分析を行った。患者満足としては「全体的満足度j i医師に対する満足度」 その結果が 「看護婦に対する満足度j i治療成果に対する満足度」を用いたが,

1

= i

不満足である

j"-'5=i

満足である」 表

4

である。尚,各満足度とも, の

5

点尺度で聴取している。 表

4

で明らかなように,両グループ聞で満足に対する各次元の影響の仕方に クリテイカルパスを用いていない患者グループでは,明示的 差異が見られた。 スクリプトとしてのクリテイカノレパスが備えているであろう 3つの機能はいず れも患者満足に対して有意にポジティブな影響を及ぼしている。このことから, クリテイカノレパスを提示することでそれが備えている 3つの機能が働くこと, すなわち患者の協働への適切な参加が促されることや,明確な評価基準が示さ れそれが充足されること,治療過程の予測性が高まることにより,患者満足が 高まることが推測される。 クリテイカノレパスが備 えている

3

つの機能の中の「協働への参加」は患者満足に対して有意な影響を 及ぼしていなしh。また i評価基準の充足」の患者満足に対する影響が大きくなっ クリテイカルパスを用いた患者グループでは, 方 このようにクリテイカルパスを用いた患者グループと用いなかった患 者グループで,明示的スクリプトとしてのクリテイカノレパスが保有していると 期待される機能の患者満足に対する影響が異なっていることから, ている。 クリティカ ルパスを用いることは患者満足の構造,すなわち患者満足の向上に重要な役割 を果たす要国に影響を及ぽすことが推測される。

(20)

NN

嚇}一一 U庁特輸相哨叫幹線 スクリプトの持つ基本的機能次元の抽出 一質一問一項一目一一一 一一-一一一一一一一一一一 一一一一一一一 因子 第一因子第二因子第三因子 協働への評価基準 予測位 共通'性 表 s 主 , 加の充足 の高さ 治療成果を上げるために,私は医師や看護婦に十分に協力した。 0.721 0.257 0.080 0.593 治療成果をよげるために患者として行うべきことを,私は積極的に行った。 0.642 0.308 0.159 0.532 入院生活については,治療や処置以外のことは自分で計画を立てて行うことができた。 0.594 0.057 0.294 0.442 入院期間中,予測していなかったような状況が生じるようなことはなかった。 0.496 0.253 0.139 0.329 治療成果を上げるために患者として行うべきことが理解できていた。 0.466 0.351 0.335 0.453 入院生活は,自分がコントロール(統制)しているように感じられた。 0.450 0.163 0.131 0.246 入院期間中に不安を感じることはなかった。 0.365 0.235 0.240 0.247 医師や看護婦による治療・処置は,自分の期待通りに行われた。 0.335 0.791 0.216 0.785 治療や処置は事前の説明通りに行われた。 0.312 0.753 0.180 0.697 入院期間中,安心して治療を受けることができた。 0.231 0.615 0.406 0.597 入院期間中のそれぞれの日において,看護婦がどのような処置を行うのかが予測できた。 0.207 0.181

0.742 入院期間中のそれぞれの日において,医師がどのような治療を行うのかが予測できた。 0.248 0.310 0.634 寄与率 20.4% 17.8% 14.3% 52.5% 表 3 ]-NC 注1)回答は「そう思わない」を r 1 J , r そう思う」を r5J とする 5 点尺度で聴取している。 注 2) 主因子法,パリマックス回転。 注 3 )因子は固有値が 1 以上のものを抽出。

(21)

一一

HNH 自由度調整済み 決定係数 闘鶏牛i

uこれ仙 uq向い温凶

dSU

丹、

J﹂礼 γ H ヤパ見)比可 J﹂吋 4 uさで LUFU句、痴﹄問,訴尚FHNPF問J﹁殺磯FH湿斗が満州閉めヨ R 2=0.139 F 値:3 .525** R 2 =0.101 F 値 2.751 本 交互 =0.233 F{i 直 5.766* 本* 頁吉 =0.317 F{I 直 8.270 件付 表 4 スクリプトの機能が患者満足に及ぼす影響 予測性の高さ 評価基準の充足 0.316 (2.922) 付先 0.298 (2.749) 村* 0.270 (2.690) 日 0.540 (4.913) 材料 【クリテイカルパス有の患者】 項 数 定 4.511 (5 1. 328) **** (N=48) 全体的満足度 4.612 (53.320) 村** (N=48) 医師に対する満足度 4.621 (56.780) 材料 (N =48) 治療成果に対する満足度 (N=48) 4.497 (50.387) 仲村 看護婦に対する満足度

ー同町!

ぷょ¥¥竺竺数 予測性の高さ 自由度調整済み 定数項 協働への参加 評価基準の充足 決定係数 4.500 0.228 0.218 0.235 R 2 =0.285 全体的満足度 (N=160) (93.299) 材料 (4.068) 材料 (3.983)**** (3.957) 材料 F{i 直 22.100** キ* 4.622 0.134 0.348 0.148 R2=0.302 医師に対する満足度 (N=159) (96.129) 向付 (2.343) 料 (6.356) 材料 (2.503) 料 F{i 直 23.763**** 4.631 0.164 0.206 0.145 R 2=0.194 看護婦に対する満足度 (N=160) (97.663) *吋* (2.980) 日本 (3.838) 昨日 (2.487)** F{i 痘 13.747 本*本* 4.480 0.199 0.342 0.287 R2=0.382 治療成果に対する満足度 (N=157) (89.166) 件付 (3 .4 30) 叫** (6.053) 村山 (4.678) 材料 F 値 33.104** 注 1 )回帰係数の下のカッコ付き数字は t 検定量, R2= は自由度調整済決定係数, F は F 検定量, N はサンプル数である。 注 2) ****は 0.1% 水準で,寧*古は 1% 水準で*療は 5% 水準で*は 10% 水準で有意である。 【クリテイカルパス無の患者】

(22)

-122ー 香川大学経済論叢 122 クリテイカJレパスを用いた患者グループにおいて「協働への参加」が有意に ポジティブな影響を及ぼしていないことの理由としては,明示的なスクリプト としてクリテイカルパスが提示され,参加者間でそれが共有されることで,患 者も医療サービスのデリパリー・プロセスにおいて彼ら自身に期待されている 役割を適切に理解し遂行できるようになるとともに,協働が可能になることが 考えられる。すなわち,クリテイカルパスが提示されない場合には理解できな かった役割がその提示により理解でき,それにより適切な参加と協働が可能に なることで,患者にとっての参加と協働に伴う不確実性やトラブルが低減され るために,協働への参加の満足に対する重要性は低下すると考えられる。 一方で r評価基準の充足」の患者満足に対する重要性が高まっているのは, クリテイカルパスにより治療期間や治療内容などが明確に示されることで,そ れは患者が治療過程を評価する明確な基準となっていることが考えられる。治 療過程を評価する明確な基準となることで,それと現実の治療過程の一致度が 高い場合には満足度は高くなり,逆に一致度が低い場合には満足度も低くなる。 このことは,クリテイカルパスを提示したならば,それとの一致度が高いかた ちでデリパリー・プロセスが展開されなければ,患者満足にネガティブな影響 が及ぶことも意味している。従って,クリテイカルパスの利用においてはそれ が実現可能なかたちで構築される必要があるとともに,現実のデリパリー・プ ロセスがそれと一致度の高いかたちで展開されるように組織が体系化されなけ ればならないであろう。

v

.

お わ り に 本研究では,サービスのデリパリーにおいては外部顧客である消費者も積極 的かつ適切に参加し,他の参加者(サービス車邸識の従業員や他の顧客)と協働 を行わなければ,満足できるサービスを消費することはできないという視点か ら,顧客の参加と協働を促すと考えられるスクリプトに焦点を当て,参加者閣 でのスクリプトの共有が外部顧客満足に及ぽす影響について理論的・実証的に 考察を行った。具体的には,医療サービスにおいて利用が進展しているクリティ

(23)

123 医療サービスにおける明示的スクリプトとしてのクリテイカルパスが患者満足に及ぼす影響に関する実証分析 123-カルパスを明示的スクリプトとして機能するものとして捉え,この利用の有無 が患者の満足や評価に及ぽす影響について分析を行った。 分析の結果,明示的スクリプトとしてのクリテイカルパスは理論的に導かれ た3つの機能を備えており,それらは患者満足の構造に対して影響を及ぽすで あろうことは推測された。しかし,クリテイカルパスを用いることが患者満足 の向上に有意にポジティブな影響を及ぽすことについては検証されなかった。 このような結果になった理由としては次のようなことが考えられる。 (1) クリテイカルパスは患者満足の向上に直接的にポジティブな影響を及 ぼすが,その影響は他の要因の影響に比べて小さいために,明確な差異 として現れなかった。 (2) クリテイカルパスはそれが持つ 3つの機能によって直接的に患者満足 の向上に影響を及ぽすのではなく,他の要因を通じて間接的に影響を及 ぽすに過ぎない。

(

3

)

医療関連サービスのような専門サービスではその利用者の満足評価が 高くなる傾向があり,その結果として,クリテイカルパスが患者満足の 向上に及ぼす影響が見えにくくなっている。 理由(1)については,医療サービスの結果としての治療成果やそのデリパ リー・プロセスにおける参加者(特に,患者との接触機会が多い医療従事者) の患者に対する行動・態度が患者満足の向上に及ぽす影響に比べて,明示的ス クリプトとしてのクリテイカルパスの影響は小さいと考えられるためである。 紙幅の関係でここでは詳細な分析は省略するが,表

5

はその一部を示したもの (6) である。入院患者の場合にはその入院日数によって要因の影響度は変化するが, (6 ) 入院日数が短い場合,患者満足にとって看護婦の患者対応が唯一重要な要因であるが, 入院日数が長くなるにつれて,看護婦と向等あるいはそれ以上に治療成果が重要な要因 になっている。このことは,疾患が重大でない場合や治療成果が良くて早期に退院できる 場合には,患者にとっては看護婦の態度がその満足に大きく影響するが,治療期間が長く なるにつれて,すなわち疾患の程度が重大な場合や治療成果が好ましくない場合には,看 護婦の対応よりも治療成果が上がることの方が重要になることを示している。医療サー ビスにおいては医療従事者の患者に対する態度や行動も重要であるが,それは医療サー ビスのコアである治療成果が満足なものであることを前提としたものであることを再認 識させる結果となっている。

(24)

-NN恥11 自由度調整済み 決定係数 R2 =0.353 F{i 直 30.848* キ** (N=274) 全対象者 嚇-一一汁 AW齢制哨劃皆様 R2=0.347 F{I 直 5.040*** 哀吉 =0.431 F{I 直 11. 901 **** 1~5 日の入院患者 (N=39) 6 ~10 日の入院患者 (N =73) R2 ニ 0.307 F{i 直 9.067**** 0.353 (3.704) 日付 1. 495 (3.115) *日 11~30 日の入院患者 (N=92) R 2 =0.274 F{I 直 5.908**** 0.464 (2.859) 付帯 1. 743 (2.110)** 31 日以上の入院患者 (N=66) HNAF 注1)満足は 1

=

r 不満足である J ~5

=

r 満足である」の 5 点尺度で測定。 注 2 )回帰係数の下のカツコ付き数字は t 検定量,豆吉ニは自由度調整済決定係数, F は F 検定量, N はサンプル数である。 注 3) *串本串は 0.1% 水準で,事串本は 1% 水準で,事家は 5% 水準で,事は 10% 水準で有意である。

(25)

125 医療サービスにおける明示的スクリプトとしてのクリテイカルパスが患者満足に及ぽす影響に関する実証分析 125-治療成果と看護婦の患者とのかかわり方が患者満足の向上に大きく影響してい ることが推測される。このことから,クリテイカルパスを用いることで高める ことのできる患者満足は,医療サービスの中心的要素である治療成果や医療従 事者の患者対応のあり方にかかわる品質を前提として,それに付加されるもの に過ぎないとも考えられる。換言すれば,治療成果や医療従事者の患者対応の あり方の質が患者にとって満足できる水準に達していなければ,クリテイカル パスの効果は発揮されないとも考えられる。 理由(2)については,表4において4つの満足度に対するスクリプトの各機能 の影響度を分析しているが,全体的満足度を説明するモデルの説明力はかなり 低く,一方で治療成果に対する満足度を説明するモデノレの説明力が高くなって いることから推測されることである。このことから,明示的スクリプトとして のクリテイカルパスの持つ各機能は医療サービスに対する全体的満足に直接的 に影響するのではなく,治療成果に対する満足度,あるいは今回の調査では聴 取していないがデリパリー・プロセスに対する満足度に直接影響し,それらを 通じて全体的満足に影響を及ぼすとも考えられる。 理由(3)については,医療サービスのような専門的サービスでは,満足評価を 高めるようなバイアスが存在しており,そのバイアスの影響でクリテイカルパ スの効果が隠されていることが考えられることによる。今回の調査でも,満足 度を「不満足一満足」尺度で聴取した場合,クリテイカルパスを用いた患者グ J レープでも用いなかった患者グループでも,約9割が「満足である」あるいは 「やや満足である」と回答している。このように患者の満足評価が高くなって いるのは,一部には調査対象となった病院が品質の高いサービスを提供してい ることの現れであると言えるが,また一部には医療関連サービスの特質がもた らしているとも言えるであろう。ホテルやレストランなどのサービスに比べて, 医療関連サービスのような専門サービスではその利用者の満足評価が高くなる 傾向や苦情が少ない傾向があるが(藤村, 1995; 1996 ; 1999 b),この傾向が今 回の分析結果にも現れていると考えられる。 医療関連サービスにおいて評価が高くなる理由としては,第一に,サービス・

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126- 香川大学経済論叢 126 デリパリーにおいて専門的知識・技能が必要とされるために,利用者において もそれらを保有していなければデリパリーされたサービスを適切に評価できな いということがある。その結果,多くの利用者は提供者を信頼してサービスを 評価せざるを得ないために,そこでの評価は高くなる。あるいは利用している サービス組織が品質の高いサービスを提供しているかどうかを評価できないと いうことの結果として,利用者はどのサービス組織を利用するかの選択意思決 定後に認知的不協和を生じさせやすいということも関係しているであろう。た とえば医療サービスを利用することになり, A, B, Cという 3つの病院を比 較してAを選択した場合,その比較評価を適切かつ確実に行うことができない ために, BあるいはCを選択した方がよかったのではないかという気持ちが生 じやすい。この認知的不協和を解消し,自分の選択は適切であったという確信 を得る簡単な方略としては, Aに関する好ましい情報を積極的に収集し, Aは 優れているという認知的ゆがみを作り出すことがある。そして,このゆがみは Aをポジティブに評価する方向になされるために,満足評価が高くなると考え られる。 第二に,多くのサービス消費においてはサービス組織を利用するか,あるい は自分で生産するかという代替案が存在するが(たとえばレストランで食事す るか,食材を購入して自分で料理をするか),医療サービスでは自己生産が困難 で,提供者に依存する傾向が強いということがある。その結果として,利用者 には,",をしてもらっている」という意識があり,デリパリーされたサービス を高く評価することになる。なお,",をしてもらっている」という意識は,公 共的なサービスの消費においては利用者がその対価を全額負担していないこと からも生じるであろう。 第三の理由として,継続的取引を前提としていることがある。継続的な取引 を前提とするサービス消費の場合,ある時点でその組織や提供者に低い評価を することや苦情を出すことは,利用者にそれ以後のサービス・デリパリーにネ ガティブな影響が及ぶのではないかという不安を抱かせることになる。この結 果として,ネガティブな評価をしないということが起こりやすくなる。

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127 医療サービスにおける明示的スクリプトとしてのクリテイカルパスが患者満足に及ぽす影響に関する実証分析 127 他にも様々な理由が考えられるが,このような要因が複雑に絡み合うことで, (7) 医療サービスではその利用者の評価が高くなる傾向がある。そして,このよう なパイアスが存在するために,満足に影響を及ぼす要因の分析が困難になって いることも考えられる。 以上のような理由が考えられるが,どの理由が確からしいかの考察は今後の 研究課題である。 また,クリテイカルパスの患者満足の向上に対する効果が統計的に有意なか たちで検証されなかった原因は,今回の調査時点で用いられていたクリテイカ ルパスにも求めることができるかもしれない。すなわち,調査時点で用いられ ていたクリテイカルパスの内容が明示的スクリプトとして備えるべき 3つの機 能を十分に発揮するものではなかったことも考えられる。このことから,クリ テイカルパスを活用して患者満足の向上を図るには,第一に試験的なクリテイ カルパスを作成し,第二にそれが患者満足に及ぽす影響を継続的・長期的に把 握し,第三にその影響のあり方からクリテイカルパスを改善,その効果を再評 価していくことが必要とされるであろう。 試験的なクリテイカルパスの作成においては,明示的スクリプトとしてその 3つの機能(台本,評価基準,予測性向上)を効果的に引き出すことが可能な ように行われなければならない。そのためには,クリテイカノレパスは治療に参 加する医療従事者それぞれがどの段階でどのような処置を行うかという視点で はなく,人としての患者の生活や行動の視点、から作成される必要がある。それ は入院期間と予測される治療成果を示すとともに,入院生活という時間的流れ の中で患者はどの時間帯にはどのような医療従事者と相互作用を行いどのよう な処置を受ける必要があり,どの時間帯は自由かつ主体的に行動できるのかも 明示したものである必要がある。 (7) このことから,医療サービスにおいてその質の改善を目的として利用者調査の結果を 用いる場合には,評価を高めるバイアスの存在を認識し,バイアスを前提として調査結果 を分析しなければならない。そのためには単発的な調査ではなく,定期的に調査を実施す る必要があり,サービスの質の改善努力によって調査結果がどのように変化したのかを 時系列的に捉えていかなげればならない。

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128 香川大学経済論叢 128 作成された試験的なクリテイカノレパスは,それが患者満足にどのような影響 を及ぼすのかについて継続的・長期的に調査・分析されなければならない。調 査方法としては,アンケート調査と行動観察が考えられる。アンケート調査で は,作成されたクリテイカルパスがスクリプトとして3つの機能を発揮してい るかどうかを明らかにするとともに

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つの機能が患者満足の向上に及ぽす影 響度とそれらが患者属性により異なる程度を明らかにする必要がある。そして, いずれかの機能が発揮されていない場合や,機能は発揮されているが患者満足 の向上に及ぽす影響度が弱い場合には,クリテイカルパスは改善されなければ ならない。また,患者属性によって機能の発揮の仕方や患者満足の向上への影 響の仕方が異なるならば,患者を属性によりグループ化し,グループごとに適 合的なクリテイカノレパスを作成する必要があるであろう。 また,患者の行動観察によって,患者満足の把握を行うというような試みも 必要であろう。心理学分野の研究では,人が満足な状態にある場合,それがも たらすポジティブな情動のために,ポジティブな行動や援助的行動を行う傾向 があることが明らかにされている。このことから患者の行動や態度の変化を観 察することによっても,患者満足の推測が可能であると考えられる。このよう な行動観察とアンケート調査との結果を分析することで患者満足に対するクリ テイカルパスの有効性を評価し,継続的に改善していくことが患者満足の向上 においては重要である。 最後に,今回の考察の中心はスクリプトの共有が外部顧客満足に及ぽす影響 についてであったが,内部顧客の職務満足に及ぽす影響についても考察を行う 必要がある。デリパリーにおいてサービス・エンアカウンターが時間的あるい は頻度的に多く展開されるサービスにおいては,顧客と従業員との聞に行動的 及び満足的に相互影響関係が存在するために,内部顧客の満足向上の観点から スクリプトの効果を考察することも重要であろう。本研究での理論的及び実証 的考察の過程で多くの検討課題が新たに発見されたが,それらは今後のサービ スの消費者行動及びマーケティングの研究の中で考察していきたい。

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129 医療サービスにおける明示的スクリプトとしてのクリテイカルパスが患者満足に及ぽす影響に関する実証分析 参 考 文 献 Goldwin, D.. R (α19卯92札), Ad:押m仰iniゐstケratiめon,伐Voω1.22(2幻), pp..35-40 129 藤村和宏 (1995),'医療サービス生産の実体j,サービス企業生産性研究委員会編『サービス 企業における生産性・顧客満足・職務満足~,社会経済生産性本部, 53-85頁。 藤村和宏(1996),'顧客満足とその形成に影響を及ぽす要因j,サービス企業生産性研究委員 会編『サービスの品質と生産性j,社会経済生産性本部, 53-82頁。 藤村和宏 (1997),'サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての 理論的・実証的考察一分析枠組みとしての「場面」概念の導入とそれによる医療サービス の分析一j,I香川大学経済論叢h 第 69巻第 4号, 51-126頁。 藤村和宏 (1998),'サービス・デリパリーにおける協働の阻害要因としての認識ギャップj, 『香川大学経済論叢~,第 71 巻第 2 号, 173-210頁。 藤村和宏 (1999a), '日本人のサービス消費における満足形成の特質j,I 香川大学経済論叢~, 第72巻第 1号, 215-240頁。 藤村和宏(1999b), '適切な苦情処理がもたらす効用と抑制される苦情行動j,I香川大学経済 論叢1,第72巻第 2号, 325-366頁。 小山昭雄・森田道也 (1980),I オペレーションズ・リサーチ~,培風館。 森山美知子 (1998),~ナーシング・ケースマネジメント:退院計画とクリテイカルパス.J.医 学書院。 武藤正樹(1998),'クリテイカルパスの基本的知識の理解j,クリテイカルパス研究会編著『基 礎からわかるクリテイカルパス作成・活用ガイドJ,日総研出版, 6 -18頁。 波平恵美子 (1994),I 医療人類学入門~,朝日新聞社。 笹鹿美帆子 (1997),'21世紀の医療に看護はどんな貢献ができるのか(上):クリテイカルパ スというツールで医療がわかるj,I社会保険句報J,No.1974, 17-19頁。

参照

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