第20巻第1号(1968) 農産物市場の構造と農業経営の対応 桂
瑛 一
Ⅰは じ め に 今日のように,極度に商品経済の発達した経済社会においては,農業生産も商品生産としての性格を強めている・ そうした経済環境のもとでは,もはや,虚業経営といえども,それ自身のわくにとどまっていることは許されない・ 国民経済の中の個別経済として位贋づけられることなしには,虚栄経営問題の解明は,到底なし得ないといっても過 言ではないそれは農薬経営の内部経営問題においても等しくあてはまることであるまして外部経営問題としての 應産物市場問題を,農業経営の立場から直接問題にする場合,こうした点の認識は,余りにも当然すぎることとして 要請されるであろういにもかかわらず,従来の農業経営学では,農業経営を余りに個別それ自体に局限し,それのも っ社会的性質に注意が向けられなか.。たのであるく1〉.そこでほ与件としての価格を前提にして,その限定の中で経 営目標を最大限に追求し得る経営組織のあり方とその運営方法を究明することが主たる課題であり(2),したがって, 虚業経営論としての農産物市場問題も等閑視されて来た.もちろんこうした背景には,わが国の農業経営が自給的性 格を強くもっており,l矧品生産の場としての役割が小さかったという条件があったことは指摘されなければならない小 また農業生遷が,零細な多数の虚業経営によって営まれており,そのため農産物の供給が,純粋競争的性格の強い状 態のもとにおいて行なわれていることも考慮されなければならないこのことは農業経営が農産物市場において消極 的な行勤しかとり得ないということを前提するものである.しかし−・方では,農業経営の立地条件によって,あるい はまた共同化という媒介項を挿入することによって,農業経営が与件を与件とせず,稗極的に行動し得る面があるこ とも指摘されている(8).しかしそうした議論は,しばしば極めて断片的にしかなされておらず,したがって,必ず しも十分な分析も加えられていない状態であり,少なくとも虚業経営の農産物市場に向けての対応原理を追求する姿 勢に乏しい.それは−・つには農産物市場間題を経済学としてとりあげる際の方法論が確立されておらず,模索の段階 にあることも大いに原因していることはいなめないL 以上の点に鑑み,小論ではその一つの試みとして,また同時に,農業経営の立場からの農産物市場対策論の体系を 構築する準備的考察としての観点から,農産物市場における虚業経営の積極的対応の意味について理論的考察を加え ることを課題とするい ∬ 農業経営と農産物市場の相互関係 工場内分業であっても,社会的分業であっても,分柴の利益はアダム・スミスの『国富論.』以来,学説ほ山致して これを認めて来たし,歴史はそれを実証して来た.経済の発展は分光の発展といつても過言ではなく,経済進歩の原 動力として生産性の向上を担って釆たのである‖今日の経済社会においては,分業は例外なく,あらゆる生産をつら ぬく基本原理として一・般化しているり 分業が,極端な・まで進歩を遂げた段階においては,当初,消費と共に同一・の経済単位の内部において行なわれてい た生産が,自給生産から商品生産への展開という変化を通じ,次第に専菜として確立し,もっぱらこれのみを遂行す る生産経営を成立させたのであるい この結果,生産と消費および各種の職業的に異なった生産は,異なった経済単位 によって担われるようになり,企業と家計とが分離して独立したのである.今日においても虚業生産は,家計部門と 完全に分離していない農家経済における農業経営部門において遂行されている.しかし農業経営といえども鹿家経済 の家計部門が必要とするすべてのものを自ら生産しているのではなく,農業経営とて決して社会的分業の例外ではな いしかし社会的分業は,それ独自で成立するものでなく,それが再び結び合わされてほじめてその所期の目的が達 成されるものであるつまり分業は協業とうらはらの関係にあり,分光は協業を前提としてはじめて成立するもので あることを忘れることはできない ところで分光の仕方は,大きく二つに区分することができる一つは,統一された,単一・の意志主体によって分光 が計画され,その意志にしたがって分業が実施され,生産完了後,やはり同じ意志主体によって生産物の分配が行な香川大学農学部学術報雀 われる方法であるエ周内分業は,こうした仕方にしたがって行なわれる点に特徴があるが,社会的分業においても, いわゆる統制経済体制のもとでは基本的にはこの方法がとられているそれに対して自由経済体制のもとにおいては, 分兼の計画と実施ほ,個々の分業遂行主体の自由忠志に委ねられている点に特徴がある1しかし自由経済体制といえ ど,分業主体問に生産物の交換がなければ生活の存続が不可能なことはいうまでもない分光と協菜が表裏一億の関 係にあることほ体制を超越した事実なのであり,ただ分業主体間の結合関係のあり方に違いがみられるにすぎないの であるしかしこの違いこそは統制経済社会と自由経済社会を区別する根本的な要周の一つであり,極めて大きな問 題であるといわなければならない. 自由経済社会における分業主体の結びつきは,個々の経済単隠があるいは供給者,あるいは需要者として市場を形 成し,そこにおける価格形成と商品流適を通じて行なわれる。したがって,農業生産者は農産物について市場を形成 し,農産物価格の形成と農産物の流通を通して他の経済主体と結合し,交換を完了して分業の所期の目的が達成され るわけであるつまり個々の虚業経営ほ,農産物苗場という交換の場を形成し,その場を利用して交換を実現するの である(4) しかし農産物の交換の場としての農産物市場が,多数の農業生産者と農産物需要者によって形成されるものである ことから,もはや特定のどの農業経営も,ただ単にそれ自らの内部の行動原鷲別こしたがって行動することは許されな い・形成された虚産物市場のあり九つまり農産物市場の構造によ。て行動の仕方は大きく制約されざるを得ないの である 農産物市場のあり方が農業経営の行動に作用を及ぼす仕方は後に明らかにするが,それは流通経費と取引力 とを媒介として,農業経営の手取価格として蘭果してくるのである。 しかしながら,−・方でほ農業経営が供給者として農産物市場を構成する要素である以上それが逆に鹿産物市場の あり方灯影響を及ぼす面のあることが考えられることも事実である.したが。て,農産物市場の形成の過程で,虚業 経営にとって都合のよい,高い手取価格を結果するような市場に作り上げることが考えられるわけである1もちろん その可能性についてほ,後に触れるように極めて厳しいものがあり,特に個別虚業経営単独では,ほとんど不可能と いっても決して過言ではない状態である.そこに共同化の問題も登場してくるのであるが,いずれにしても農業経営 の積極的対応というのは,虚業経営と農産物市場のこうした相互規定関係の申で,農業経営が農産物市場を規定する 面を,個別またほ共同で意識的に利用して,農産物苗場を農業経営にとって有利な状態に形成するということなので あるそれでは農菜経営の市場への積極的対応ほ,それが農産物市場に作用を及ぼすどういう機構をどう利用してな されるのであろうか積極的対応の意味をより具体的に解明するためにほ,次にこうした課題に答える必要がある∴ そのためには,農産物市場が市場の構成要累によってどう構成されているのか,すなわち農産物市場の構造はどうな っているのかといった点に関する理論的な解明が必要になってくるいそうすることによって,農業経営が農産物市場 構造のどの部分をどう構成しているのかということも明らかになってくるからである Ⅱ 農産物市場の構造とその特質 苗場ほ,価格が形成され,商品の流通が行なわれて,生産物の交換が実現する場であるが,それは経済学的には, 供給と需要が相い会合する関係であると定義されているしかしここで会合する供給と需要とほ,−・体どういう性格 のものであり,またどんな形で具体的に存在しているのか,そして市場で流通する閥品というのはどう考えればいい のであろうかこれらの点については従来の経済理論では必ずしも明確にされておらず,そのため議論ほ極めて抽象 度の高いレベルで行なわれて釆たといえる1930年代の不完全競争理論(5),独占的競争理論(6)の開発は市場モデル の現実化に大きく貢献し,今日では経済学は従来の不備を少しづつ補いつつある.しかしもっぱら価格形成にのみ注 意を集中する経済学においてほ,とくに市場のもう一つの機能である商品流通について考慮を払うことが少なく,依 然として抽象性を十分ぬぐい去っていない.市場の構造的把握を,本稿の課題を解明する理論的武器とするためには, この点に関する配慮が必要不可欠と考えるのである。 以上の諸点のうち,まず商品についての考え方から検討してみるい ここでわれわれが問題にしている市場ほ,商品 市場としての農産物市場であるが,ここでいう農産物というのは決して個々の農産物を包托した意味としてではなく, あくまでも特定の個別戯産物に限定しているのである.しかし特定の個別農産物といっても,それをどう定義するか となると必ずしも容易でなく,Rl・トリフィンの指摘した産業概念についての疑問にゆきあたらざるを得ない(7).し かしここでは一応一腰に,常識的に同一屈眉とよばれている農産物を同一個別農産物と考えることにするしたがっ
第20巻第1号(1968) て,例えば後に虚産物の同質性,代替性をとりあげ,生産物差別化を議論する場合も,同一品目の農産物について考 えることにする. 農産物市場の発展史をたどってみるならば,農産物苗場の形成以前には,虚産物の処理はすべて自給に供するとい う形で行なわれていた..それが余剰を交換する段階へと変化するに伴なって,農産物市場が形成されてくることがわ かる.しかし当初は生産者自身の手による据売りや苗における取引を通じて,農産物を生産した者と消費しようとす る者とが直接売手,買手として山会うことによって交換がなされていたのである(8)い ところが農産物の流通豊が増 大し,流通領域が拡大してくるにしたがって次節に中間に商人を生み,虚業4慮瑠の原初的供給と農産物消費者の最 終需要が直接会合するという形をとらず,中間の供給と需要とを形成しながら結びつくという形態へと変化していっ たのである以上の考察から,市場は供給と需要の会合関係であるという場合の供給と需要は,農産物を址超してい る農業生感者の原初的供給と農産物を消費する省の最終需要を指すと考えるのが適当であると思われる′ノ それ故,中 間商人の介在による■一日問供給と中間需要の形成は,農産物市場の垂直的分化であるといえるであろうその結果,農 産物苗場は垂直的部分市場を形成し,農産物市場全体は,その連鎖の複合市場として構成されていると理解できるの であるこのように生産者供給と消費者需要が,中間に派生した供給と需要を形成しながら会合する仕方を農産物苗 場の流通構造とよぶことにしよう. ・一腰に,商品の流通愚が増大し,流通領域が拡大してくると,生産と消費の瘍所的,時間的距離が大きくなってくる. そのため生産者と消費者が直接取引によって一緒びつくことが経済効率的に難しくなってくるというのも商品を生産 者から消費者に流通させるに必要な流通機能の遂行は一・つの経済活動であって(9),遂行規模を適正水準に維持する ことが重要だからである‖ そして流通距離が場所的,時間的に拡大するにつれてその最適規模水準は上昇してこざる を得ないその上,供給と需要が場所的,時間的に離れてくることから,−一度で両者が最適な状態で結合し難くなっ て−くるその給果,零細な生産者や消費者に代って流通機能を大規模に,専門的に遂行し,需給の調整を行なうこと を発とする経済主体,すなわち商人が発生してくるのである農産物市掛こおける原初的供給と最終需要とは前者は 虚業経営規模が零細であり,虚業経営が分散して行なわれ,また多角経営的な傾向が強いこと,後者は消費者が少鼻 多数回購買を行なうという行動的特質をもっていることから共に零細で且つ地域的に分散し,また農業生産が有機的 生産であるため虚産物自体が標準化の極めて困難な商品的性格をもっているために,虚産物市場は,一般に掛こ多段 階的な流通構造を有する結果となっている.なぜならば,需給を統轄する範囲が大きくなるにつれて集荷あるいは分 荷の最適規模水準が上昇するにもかかわらず,需給の零細分散性という特質から,その規模を−・気に拡大することが 此来ず,機械化も困難で,規模の経済も作用し難いそのため中間の業者も一・気に大規模になることをしないからで あるそこでは多数の中間業者を介入させて徐々にその規模を拡大させ,最適規模水準の特に高い流通晩能の遂行を 可能にしようとするのであるまた標準化の困難性という特質からは,農産物の規格を統一することが難しく,相当 細かい数鼠単位毎に礪物を見て評価することが要求されるその結果,需給調盤機能も大規模に遂行し得ず,やばり 機械化も困難なため大規模閥人が発生する誘因カに乏しい.需給の大分類から小分類という形で需給調盤が行なわれ, 中間共著の介入が多くなる傾向を示すのである
次に農産物の供給と需要とが会合する場合,需給を担う売手,買手の各々の競争形態がいかなる性格をもっている
かによって,形成される農産物市場の性格も異なってくる農産物市場のこうした側面を,農産物市場の競争構造と よぶことにするL まず需給の競争形態は,売手と買手の数によって左右されるこれについては従来から明らかにされているところ であり,余り困難な問題ほなく,多数の場合の原子的競争,少数の場合の寡占,…人の場合の独占の三つを考えてお けば十分であろう小 農産物市場では原初的供給者と最終消費者は共に既述のように零細且つ多数であり,したがって 原子的競争の状態にあるとみてよいであろうい しかし中間の供給者,需要者については多数の場合と少数の場合とが 考えられる。少数のものとしては農産物加工業者が中間の供給者,需要者になる場合にみられ,ビ・−ル,グルタミン 酸ソーダ,マヨネ・−ズなどのメ・−か−を寡占の典型としてあげることができるであろう(10).それに対して生食用と して供される場合の青果物,畜産物は一・般に零細で多数の中間業者によ1ウて中間の需給が形成されている.. しかしたとえ競争者が複数であっても,売手と買手が,各々売手は買手に対し,買手は売手に対して相手を無差別 と考えて取引関係に入るか,何らかの差別をみとめるかによって競争形態の性格は左右される.無差別に結合する場 合は,競争形態はもっばら競争者の数によって決定されるが,需要と供給が無差別に結合せヂに,売手が特定の買手4 香川大学農学部学術報告 に対して,あるいは買手が特定の売手に対して何らかの理由で選り好みをするならば,需要と供給ほ各々全く同質で はなく異質化し,各々がある程度独自性をもった別々の会合関係を形成する… これは需要者,供給者の−・力もしくは 双方が不完全競争の状態に陥いることを意味している1.この点は,すでに近代価格論において明らかにされていると ころであるが,そこではただ供給の側についてのみ考えられているだけであり,需要側については考察されていない. 市場の構造は,需要側の純粋競争を前提とした,供給者競争の構造としてとらえられてし、る(11).もちろんその背景 には,買手のあいだの競争が純粋だと仮定することば,売手のあいだの競争が純粋だと仮定するより劇屑現実的であ るという認識が前提になつている(12) しかし後に明らかにす・るように,農産物市場においては事情は全く逆であり,供給側を純粋競争,需要側を不完全 競争と認識することの方がより現実的である.そこで理論経済学において従来看過されてきた需要側の競争問題につ いて検討−しておく必要があるい E.H.チェンバリンは,純粋競争の条件として,1)競争者が多数存在すること,2)生産物が同盟であることの二っ をあげている(13〉、しかしこれも明らかに生産物の供給者を念頭においた定義であるといえる.そこでこれに対応し て需要者を念頭においた純粋競争条件を考えるならば,第一・の競争者が多数存在することについ■て−は供給者の場合と 全く同様に考えられるであろうい問題は第二の条件であるい この問題については従罪全く検討されていなかったかと いえばそうではなく,わずかにW.H.ニコルスによって試みられている.ニコルスは需要側の純粋競争の条件として, 1)買手の数が多数であること,2)買手が売手に提供するサ−ビスが同質であることをあげている(14)∩ もちろんサ− ビスの同質といっても,生産物の同質性がそうであったようにこれを広義に解釈すべきであろう.ニコルスも売手に 他の買手でほなくて,ある特定の買手を選択させる何らかの特徴があるときにサ−ビスは差別化されるとしている・ そしてその要素としては,立地条件の便利さ,名声,個性,その他買手側のもっているあらゆる特徴をあげている. 例えば生産物の取扱いや代金支払いの迅速さ,等級・重鼠・昧についての公正な評価,集荷サ−ビス等である(15) これらの原因によっでサービスの同質性の条件がくずれるとき,需要側の競争は競争者が多数であっても純粋競争か らはずれるのである競争者が少数の場合も考え方は全く同様であり,全体として買手寡占を伴ないながら競争は独 占的要素を含んでくるのである‖ 以上から市場の構造を分類すれば第1表のようになる(16〉 罪1表 買手サーゼスの性質と買手の数による分類 生産物,サ一−ビスの一方もしくは双方の差別化が存在することが市場を水平的に分化させ,部分市場を形成するこ とはすでに明らかにされているところである。したがって,こうして形成される部分市場は,水平的部分市場とよぶ ことができるであろう. ところで既述のように農産物市場は一・般に垂直的に分化しているり したがっ■て,戯菜経営は自らが直接に個別また は共同で売手として参加する垂直的部分市場によってその行動が直接的規制を受けるのである,一・方農業経営が虚産 物市場の形成過程において,農産物市場のあり方に影響をおよぽすのも直接には垂直的部分市場である.もちろん部 分市場は他の部分市場と密接に関連し合っており,農業経営はそれらの作用を間接に受けているし,またそれらに対 して間接的に影響をおよぼしているといえるのである.したがって,競争梢造も虚業経営が直接参加している垂直的 部分市場のそれがまず問題になってこようい 農産物は有機的生産であることから,自然環境に強く作用され,標準化が困難である.それは品負に異質性が強い ことを意味するのであるが,その異質性は生産の結果として判明するだけであり,事前に固定化することが不可能で
第20巻第1号(1968) ある同一・時期に,同一慮地で,同一・生産者によウて生産されたものでも品質にバラツヰが大きいばかりでなく,そ の品質の多様性は年によって−・定しない.その上,今日では,農産物のそうした異質性よりも,大畳性の利益の方が 買手にとって大きい状態である、そのため個別生産者段階で農産物の差別化を行なうことが困難である小 その上,新 品種や新用途の開発には長い期間が必要であり,しかもそれを個別農家はもちろん少々の組織で私的に実施すること は困難であり,公的に行なわれることと,その新技術導入に際して多額の資本を必要とする性格のものは少ないこと のため直ちに−・般に.普及してしまう.
数の面でほ多数と考えられる青果物や畜産物の需要の競争形態は,中央卸売市場に委託販売されている青果物の約
50%近くの場合などは別としても,産地仲買人を通じて販売されるものについては,買手側のサービス差別化を無視 することはできない.中央卸売市場制度が発足する以前の実情を歴史的に振返ってみれば,産地仲買人は集荷購買圏 を拡大する一方,農家との取引関係を固定するため種々の集荷対策を講じていた.膏田買や立木賢は資金力の乏しい 農家にとって不可欠のものであり,産地仲買人にとっては,鹿家を掌腰する有力な方法の一つであった.その他資金 の融通を行なったり,価格暴落の時には見舞金を出したり,前渡金を支払ったりするなどして農家との結びつきを強 めたL.そうした農家と業者との関係は長い間に単なる契約関係から人間関係へと発展し,そこからなじみが深いとか, 親の代から世話になっているとか,信用がおけるなどといった売手が買手に選り好みを感ずる要素が生じて来たので あるこの結果,産地仲買人間の競争は独占的要素を醸成し,農産物市場は水平的部分市場を形成していったい そこで はしばしば需要独占にも類似した行動さえとられ,産地仲買人の差別価格の設定さえ可能であったと考えられる(17) このような状態は中央卸売市場の成立と共販の進展によって今日でほ大きく変って来ている.業者間の競争も次第 に激化して水平的部分市場の参入障壁は小さくなって来ているそのことば産地仲買人の手数料商人化という表現で −・般に.いわれているところである1しかし市場の競争構造としてみた場合,供給者の側よりも需要者の側に不完全競 争の条件があることは認められるであろうい とくに肉畜の場合などはその典型と考えて−よいであろう. 競争者が多数でサービスの差別化を伴った上述のような競争構造が中央卸売市場体制の普遍化,共販の発展によっ て純粋化してきているなかで,叩方では加工農産物需要の増大に伴なって,胃変名の寡占化が進んできている〟 さら に小売商の大型化が共販の大規模化と呼応して−,直接取引を行なうケ−スも槌くわずかであるとしても実現されつつ ある.こうした動きは今後の問題としてみまもらなければならないが,需要側の競争の独占イヒとして把握できること はまちがいないであろう. このように虚栄経営が個別または共同で直接供給者として参加する垂直的部分市場は,いずれにしても多かれ,少 なかれ需要側に独占的条件の存在する競争構造的性格をもち,一腰には水平的部分市場を形成している.. したがって,このように農業経営がそれから影響を受け,且つそれに作用をおよぼす農産物市場は,直接的には垂 直的,水平的に分化した部分市場であるといえる−.しかし虚産物諦場と虚菜経営の相互規定関係および虚業経営の積 極的対応を問題にする場合,ただそうした部分市場のみに限定することは意味がない.常にそれを農産物市場全体の 申に位置づけることが壷要である そこでそれでは虚業経営の積極的対応とは具体的にどういう性格のものであろう かぃ 次にそうした点についての基本的な考え方を明らかにしておかなければならない. Ⅳ 農産物市場と農業経営の対応課題 前述の経営と苗場の相互関係から,それを農業経営の対応という観点からとらえるとき,次のように要約すること ができるであろうり すなわち農産物市場は,虚業経営の対応の場であると同時に対応の対象であるということである. このような農産物市場の二面性から,われわれは農薬経営の市場対応を二つに大別して,機能対応と構造対応とに 分類する.前者は農産物市場を虚業経営の対応の場と考えて,その場を与件として価格形成と商品流通という二つの 苗場機能に働きかけて目的を追求する仕方である それに対して後者は虚産物市場を対応の対象と考え,農産物市場 構造の二つの側面に働きかけてより積極的に目的を追求する仕方である.もちろん前者の場合も,市場の構造に作用 を及ぼすことが考えられ,後者についても,構造の変革を通じて市場機能に影響をおよぽすことが明らかであり,両 者に明確な−・線をひいて区別することは不可能ともいえる「しかしここでは力点がいずれにおかれるかによって両者 を区別しようと考えるこの場合の構造対応が虚業経営の黄極的対応に他ならない. ところで市場に対する経営の対応ほ,農産物市場と虚業経営の場合のみに限らず,広く一般に上述の考え方が妥当 するしかし農産物市場の構造的性格から,農業経営の対応には他にみられない特徴がある寡占や独占的競争状態香川大学農学部学術報告 にある企業の場合は,経営の対応は敏感に市場に作用を及ぼし,経営の行動が市場によって規制される側面が弱い. それに対して農産物市場における農業経営のように純粋競争的性格に近い場合には,経営の対応は市場に対して作用 を及ぼすてとが意識的に行ない得ず,個々の経営の対応の総合という形で無意識的に行なわれる.したがって市場が 経営を規制する面が強く,経営の対応は消極的なものになり易い.このことは公共政策としての應産物市場政策が強 く要諭され,またそれが存在する基盤と妥当性があることをも示すものである. これに対する虚業経営の対応手段としては,ほとんど唯一・最大のものとして共販という手段が従来から考えられて いるこれは農業生慮物の販売過程において意志の統一・をはかり,競争主体の数を意識的に減らし,農産物の市場構 造に変革を加えようとするものである.その場合の対応の考え方についてもう少し詳細に検討してみよう. 應産物市場の構造は,農産物市場機能のあり方を規定するが,その関係は,流通構造が商品流通を,そして競争構 造が価格形成を各々直接的に規定するという状態にあるさらに前者は流通経費の多少,後者は取引カの強弱を左右 し,その発現の仕方の総合的結果として鹿家手取価格を左右するわけである. 前項に明らかにしたように農産物市場の競争構造は,需要側に独占的要素のある性格をもっている.しかもその傾 向は加工需要の増大によって一層強化されつつある.このことは虚業経営の取引カが相対的に劣弓看であり,経済的地 位の低いことを示すものであるこのような状態に対しては,基本的には供給側に対抗力(18)を形成し,強化して需 要側の独占力を可能な限り相殺することが要求される.それ故,農業経営の対応としてのその具体的方策は,供給側 に不完全競争条件を醸成することであるといえるところで不完全競争条件を生ぜしめ,価格支配力を生む契機とし ては,1)規模の経済,2)生産物の差別化,3)独占的協調による利潤増大の■可能性という三つのものを考えることがで きる(19〉まず規模の経済については,農業の場合,生産の段階では限界があるが,販売の過程で機能する余地があ る.それ故,これは後述する流通構造の変革とも関連してくる…また生産物の差別化については農業生慮が動植物の 増殖,成長を媒介とする有機的生産であるが故に新製品の開発が非常に困難であることのためその余地は極めて小さ いその姑果,独占的協調についても共同化という方法で達成しようとする努力がなされているのである小 しかしな がら独占的協調も生産と販売が完全に切り離せないという虚共生産および農産物の特質から完全な意志統一・は望めず, 必ずしも有力な契機とはなれない状態である.しかし公共政策の援助を待つとしても,共同化による不完全競争条件 の醸成は,農業経営として追求されるべき問題であろう農産物市場の競争構造は所得の分配を左右するだ桝こ次に 述べる流通構造の変革と合わせてその改普が強く望まれるのである 競争構造の変革は一・般には流通構造の改変を伴って行なわれる.農産物苗場が多段階的構造をもち,多数の中間需 給を介在させているということは,農産物を生産者から消費者に送りとどけるのに必要な流通機能が,多くの人に分 担して営まれているこ・とを意味しているそうしたやり方は流通機能遂行の規模を小さくし,そのため大規模な能率 のよい流通技術を導入することを困難にしているまた売買の回数が多いため余分な流通機能が入り込むことが避け られない,もちろんそ‥うした現実も既述のようにそれを支える条件からくることであり,すぐにこれを大規模化する ことは容易でない.しかし流通に必要な機能を多数の業者が分担して遂行することほ,それだけ流通施設の重複投資 が避けられず,その上,適正操業度を達成することができなくなり,流通経費を高くする結果を生む… それ故,その 操業度を拡大して不必要な流通機能を除去するとともに,流通施設のむだを節約し,能率のよい大規模な流通技術を 導入して,規模の経済にもとづく流通能率の向上をはかり,流通経費を節減することが必要である.農業経営の対応 としては,生産段階における規模の拡大,d三慮の地域的集中化などを進めることが必要であり,共販組放の規模,柄 造,丑地・配置といった点が誼要な課題となる. イポ己 本研究室の森和男教授,菩m博助教授には,草稿に目を通して頂き懇切なコメントを得たここに深く感謝 の意を表します. 注 (1)金沢夏樹:金沢夏樹他編著,虚業経営学の基礎理論 (虚業経営と流通),214−232,東京大学出版会 (はしがき),1,時潮社(1959). (1961). (2)磯辺秀俊:農業経営における費用の論理,23,大明 (4)もっとも貨幣経済の今日においては,直接的には一・ 堂(1962)‖ 般的交換手段としての貨幣を獲得するという形で交 (8)小家竜乳戎野英夫:磯辺秀俊編,日本の虚業経営 換が行なわれることはいうまでもない.
算20巻第1号(1968) AgriculturalIndustries,197,Arnes,Iowa,The IowaStateCollegePress(1949). 那)NICHOLLS,W…H。:Ibid.,198. 8◎なお現実には生産物差別化とサ」−ビス差別化が同時 に存在する市場を考えることが出来る.肉畜市場に おける中間業者間の取引市場,青果物市場における 仲買人と小売商の問の取引市場等はその典型であろ う しかしこうした市場の競争構造については別の 機会に論ずるとしてここでは触れないことにす−る (肉畜市場の中間共著問の取引苗場の構造について は,桂喫十・:肉畜流通市場の問題点と経営の対応, 農業と経済,33(5),33(1967),桂喫一・‥香川県にお ける和牛の流通,40−41,香川應林統計協会(1967) を参周.) 仕切 rtコ間商人のさぎやまんちゃく,下級品の即Pきや上 層農家の優遇等が従来から指摘されているが(たと えば美土路達雄:戦後の農産物市場,261−・264, 全国虚業協同組合中央会(1959),御園喜博‥農産物 市場論,38−39,東京大学出版会(1966)),それら はこうした市場の競争構造に支えられていることが 認識されなけれほならない (摘J..K.ガルブレイス:藤瀬机ミβ訳,アメリカの贅木 主義,時事通信社(1962) (1功熊谷尚夫:経済政策原理,245,岩波苔店(1964) (5)RoBINSON,,.:The Economics ofImperfbct
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(1961)
(6)CHAMBERLIN,E∴H∴TheTheoryofMonopolistic
Competition,Cambridge,Massachusetts,Harvard UniveISityPreSS(1962).
(7)TRlmN,R.:Monopolistic Competition and GeneralEquilibriumTheory,78−89,Cambridge, Massachusetts,HarvardUniversityPress(1962) (8)竹中靖一・,川上雅:日本商業史,ミネルヴァ譜:房 (196‘7) (9)「機能」という語の種々の概念については,小室直 樹:構造機能分析の原理,社会学評論,18(3)ト 24−28(1967),に詳しいが,流通機能という場合 の機能の意味は,ある目標を達成するための活動と いうことである ㈹公正取引委員会:日本の産業集巾,48−49,東洋経 済新報杜(1956)小 (1】)宮崎義一・:篠原三代平仙編,近代経済学講座3価格 の理論(独占・寡占・独占的競争),148,有斐閣 (1965) 的)RoBINSON,.J∴Ibid.,219い (181CHAMBERLIN,E小H∴Ibid”,7. (14)NICHOuS,W巾H、:ImperfbctCompetitionwithin
AgriculturalmarketstructureandthemaIketconductoffarmers
Eiichi KaTsURAIt has been said that underpurecompetitionthefarmer’smarketconductispassivebutsometimesactive・ HoweveI,theconceptof‖passive‖and=active=hasnotbeencompletelyconsideIed・Inthispaper,eCOnOmic meaningoffarmer,smarketconduct,eSPeCiallythemeaningoftheactiveisanalyzedtheoretically AgriculturalmaIketasaneconomicorganizationhasitsstructureandf■unctionandbetweenthemthereisa connectionthatthefbrmerin飢IenCeSthelatter.Thepassiveconductisabehaviorin8uencingonlythemarket fhnctionundeIagivenstructure”Ontheotherhand,theactiveisabehaviorin触encingthemarketstructuIeandin itsturnthemarketftlnCtion Agriculturalmarketregulatesthefarmer,sconduct,butthefarmerisoneofthefactorsoIganizingthemarket〉 andsoitistruethatmoreorlessthefarmerregulatesthemaIketinverselyいSotheactivemarketconductofthe farmerisga9ingasmuchincomeaspossiblebyincIeaSingthefarmer’sindividualand/orco・Operativeregulation againstagriculturalmarket.
Inordertofindthepolicyregulatingagainstmarket,howagriculturalmarketisorgainzedbyitsfactorsmustbe
analyzed.TnthisstudymarketstructureisdividedintotwocategoIies−marketingstructureand competition香川大学應学部学術報蕾