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民間高齢者施設の機能分化と法規制 : 終の住拠の条件とは-香川大学学術情報リポジトリ

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民間高齢者施設の機能分化と法規制

−終の住処の条件とは−

−目 次− ! はじめに " 民間高齢者施設の現状 # 法的位置付け $ 機能分化 % 施設需要の要因 & 終の住処 ' おわりに ! は じ め に 2000年の介護保険法施行から10年が経過した。制度発足時に厚生労働省が 「走りながら考える」と説明していたように,介護保険の歩みは試行錯誤の連 続であった。 「保険あって介護なし」の状態を避けるため,居宅サービス分野に営利企業 の参入を促したが,コムスンのような一部企業の暴走を招く結果となり規制を 強化せざるを得なくなった。1)ドイツの介護保険が中・重度者を主な対象として いたのに対して,日本は軽度者にまでサービスの対象を広げた。これも「保険 あって介護なし」と批判されるのを恐れたためであろう。しかし,軽度者向け サービスが予想以上に膨らんで保険財政を圧迫し始めると2006年度以降は介 護予防に軸足を移して当該サービスの需給を事実上制限してしまった。 誤算続きといえば,特別養護老人ホーム(以下,特養)などの高齢者施設の ―39―

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取り扱いもそうである。「施設から在宅へ」という掛け声の下,サービスの中 心を措置時代の施設から居宅へと誘導してきた。介護報酬改定時に施設サービ スの報酬を引き下げたのはその一例である。それでも施設サービスへの需要が 根強いと見るや,2005年度後半以降は入居者から居住費と食費を徴収するよ うになった。また,都道府県の介護保険事業支援計画で利用者数が一定基準を 超える場合には増設を認めないとする総量規制2)も行ってきた。こうした対応 は介護保険財政を安定させ保険料上昇を抑えるためであるが,利用者ニーズと の隔たりは大きい。その証拠に2009年12月時点における特養の入居待機者は 約42万人に上る(厚生労働省「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」)。 待機者数の増加を受けて施設整備に対する政府の消極姿勢にも変化が見られ るようになった。これまでの一律の総量規制を撤廃し,地域の事情に合わせた 施設整備を容認する方針を示した(『日本経済新聞』2010年6月5日)。また, 地方との間で解釈に相違のあった新型特養の相部屋設置についても地方の裁量 を認めることにした(『日本経済新聞』2010年9月7日)。しかし,こうした 規制緩和によって特養整備が劇的に進むと考えるのは早計である。なぜなら特 養などの公的施設には多額の補助金が投入されるのが一般的であり,地方政府 に裁量権が移されたといっても積極的に乗り出せるのは財政力のある一部の地 域に限られるからである。 そこで近年,特養待機者の受け皿として注目されてきたのが有料老人ホーム や高齢者専用賃貸住宅(以下,高専賃)などの民間高齢者施設である。実際, それらの市場は右肩上がりで成長している(後述)。介護保険の開始に伴って 有料老人ホームなどが制度に組み込まれたことも追い風になった。先述のよう に特養などの公的施設の整備には多額の公費が必要であるが,民間施設の建築 費用は入居者負担が原則のため安上がりである。国・地方とも財政難の折,民 間資金で高齢者施設を整備できるのは魅力的である。ある程度所得のある軽度 高齢者が民間施設に入居してくれれば,公的施設は低所得者や重度の要介護者 に特化できるので,公私の役割分担という面でも都合がよい。 有料老人ホームなどは民間施設であるがゆえに時代や利用者のニーズに応じ て様々に変化してきた。介護保険が開始されるまでは,主に高所得者を対象に ―40― 香川大学経済学部 研究年報 50 2010

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独自のサービスを様々な契約の下で提供してきた。しかし,介護保険によりそ れらが特定施設として位置付けられると,介護保険法に準じた内容のサービス を提供するようになった。その後,特定施設入居者数の増加を抑えるために民 間施設にも総量規制が導入されると,今度はそれを避ける形で外部の訪問サー ビス受給を前提とした施設が登場しその数を増やしてきた。こうして見てくる と,民間高齢者施設の変化は法規制に強く影響されることが分かる。実際にそ れらに関係する主要な法規制は複数存在し,その分だけ民間高齢者施設は分立 している。 そこで本稿では,特養の代替施設として期待の集まる民間高齢者施設,なか でも有料老人ホームと高専賃について,その展開を規定する主要因となってい る法規制について整理し,各種施設を様々な観点から類型化することを試み る。その際,特に注目したいのが介護機能についてである。富裕で健康な高齢 者が第二の人生を送る場所というイメージの強かった民間施設であるが,本格 的な高齢・無縁社会を迎えて特養の代替施設,つまり終の住処としてのニーズ が急速に拡大しているなかで,それらの施設に対する関心もかつての表面的な 設備の豪華さから現在ではどの程度の介護サービスが受けられるか,要介護度 が進んでも居住し続けられるか否かに移っている。そうした状況で民間高齢者 施設を介護機能の観点から類型化することは意義があると考える。 最後に本稿の語法について説明する。一般的に,施設の設置主体が地方公共 団体や社会福祉法人となる場合を公的施設,それらに限定されない場合を民間 施設とよぶ。将来,別の形態の民間施設が登場する可能性もあるが,現時点に おいて代表的な民間施設となっているのが有料老人ホームと高専賃であり,本 稿では両者を中心に取り上げることにする。 ! 民間高齢者施設の現状 有料老人ホームと高専賃とでは監督する行政機関が異なる。前者は厚生労働 省,後者は国土交通省と厚生労働省が共同で所管している。3)そのため,施設数 などを示す基礎資料も別である。また,それらとは別に介護保険法適用施設に 関する資料もあるので注意が必要である。 民間高齢者施設の機能分化と法規制 ―41―

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伸び率(%) 特養 特養 有料 有料 60 50 40 30 20 10 0 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 2,000 1,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 0 施設数 まず,有料老人ホームについて取り上げる。厚生労働省の「社会福祉施設等 調査」(平成20年)によると,2008年10月1日時点で把握されている有料老 人ホームは3,400箇所,在所者数は140,798人となっている。4)同時点の特養は 6,015箇所,在所者数416,052人(厚生労働省「介護サービス施設・事業所調 査」(平成20年度))なので,数の面ではまだ及ばないが,成長率の面では著 しいものがある。図1と図2は,有料老人ホームの施設数と在所者数を,特養 と比較したものである。図から分かるように,有料老人ホームの伸び率は施設 数,在所者数とも特養を大幅に上回っている。施設数と在所者数の伸び率の平 均値は有料老人ホームが33.3%と23.3%であるのに対して,特養は3.8%と 4.3%に過ぎない。 また,図を見ると有料老人ホームの増え方が施設数と在所者数とで異なって いることが分かる。具体的には,前者に比べて後者の伸び率が相対的に小さ い。これは有料老人ホームの規模(定員数)が相対的に小さいことを示唆して いる。数値的にもそうした傾向は裏付けられる。図3は,有料老人ホームと特 図1:有料老人ホームと特養の施設数比較 出所:厚生労働省「社会福祉施設等調査」,同「介護サービス施設・事業所調査」より筆者 作成 ―42― 香川大学経済学部 研究年報 50 2010

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有料 有料 特養 特養 0 5 10 15 20 25 30 35 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 300,000 350,000 400,000 450,000 0 伸び率(%) 在所者数 養の1施設当たりの在所者数を,累積平均(=累積在所者数÷累積施設数)と 新規平均(=当該年の新規在所者数÷当該年の新規施設数)に分けて示したも のである。それによると,新規に建設される有料老人ホームが年々小規模化し ていることが分かる。一方の特養にはそうした傾向は見られない。その結果, 累積平均で見ると,有料老人ホームの1施設当たりの在所者数が年々減少して いる(2008年は41人)のに対して,特養は69人程度と非常に安定している。 次に,高専賃については,財団法人高齢者住宅財団が都道府県別に登録件数 及び戸数を公表している。それによると,本稿執筆時点(2010年10月末)に おける登録件数は1,582,登録戸数は42,242となっている(1施設当たり戸数 は約27)。経年変化を示す公式資料はないが,国土交通省社会資本整備審議会 住宅宅地分科会(第21回)の資料によると,高専賃の登録戸数は2,331(2005 年),9,986(2006年),18,794(2007年)と猛烈な勢いで増えている。その背 景に特養や有料老人ホームなどに代わる安価な高齢者施設に対する需要があ る。 図2:有料老人ホームと特養の在所者数比較 出所:厚生労働省「社会福祉施設等調査」,同「介護サービス施設・事業所調査」より筆者 作成 民間高齢者施設の機能分化と法規制 ―43―

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有料(累積平均) 有料(新規平均) 特養(新規平均) 特養(累積平均) 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 ! 法的位置付け " 老人福祉法 高齢者施設に対する現行の規制は大別すると,老人福祉法,介護保険法,高 齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)からなる。このなかで 最も歴史が古いのが老人福祉法である。同法には,特別養護老人ホーム(第 20条の5),養護老人ホーム(第20条の4),軽費老人ホーム(第20条の6) などが定義されている。これらは老人福祉施設とよばれ,設置主体が原則とし て地方公共団体や社会福祉法人に限られる公的施設である。一方,有料老人ホ ームは設置主体が制限されない民間施設ではあるが,公的施設と同じく老人福 祉法に規定されている(第4章の3)。当該規定は法制定時にはなかったが, 有料老人ホームで死亡した入所者が2週間にわたり発見されないという痛まし い事件の発生を契機に,当該施設に対する公的監視の必要性から追加された (厚生省社会局長通知「有料老人ホーム等の運営の指導について」)。 図3:有料老人ホームと特養の平均在所者数比較 出所:厚生労働省「社会福祉施設等調査」,同「介護サービス施設・事業所調査」より筆者 作成 ―44― 香川大学経済学部 研究年報 50 2010

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同法は有料老人ホームを次のように定義している(第29条第1項)。「有料 老人ホーム(老人を入居させ,入浴,排せつ若しくは食事の介護,食事の提供 又はその他の日常生活上必要な便宜であって厚生労働省令で定めるもの(以下 「介護等」という。)の供与(他に委託して供与をする場合及び将来において供 与をすることを約する場合を含む。)をする事業を行う施設であって,老人福 祉施設,認知症対応型老人共同生活援助事業を行う住居その他厚生労働省令で 定める施設でないものをいう。)」 認知症対応型老人共同生活援助事業を行う住居とはいわゆるグループホーム のことであり,その他厚生労働省令で定める施設とは後述する適合高専賃のこ とである。重要なのは,有料老人ホームは法律上,老人福祉施設,グループホ ーム,適合高専賃と区別されるという点である。 定義が示すように,有料老人ホームは単なる住宅ではなく,食事から介護サ ービスの提供まで日常生活上必要な便宜が供与されていることが条件とな る。5)平成18年度の法改正までは,人数要件(定員が10名以上であること)や サービス要件(食事を提供していること)のために実態は有料老人ホームであ るにもかかわらず規制から抜け落ちる事例があった。6)しかし,法改正後はそれ らの要件が撤廃され規制対象が拡大した。 規制の具体的内容については第29条の各項で次のように定めている。第1 項,第2項:都道府県への届出,第3項:帳簿の作成と保存,第4項:情報の 開示,第5項:受領前払金の保全措置,第6項,第7項:都道府県による質問 又は立入検査,第8項,第9項:都道府県による改善措置。ここから分かるよ うに有料老人ホームの指導監督は都道府県が行う。長らく国からの機関委任事 務として取り扱われてきたが,1999年の地方分権一括法で自治事務となり名 実ともに都道府県の仕事となった。 機関委任事務時代は,国が作成した「有料老人ホーム設置運営指導指針」に 基づき指導監督に当たってきた。自治事務となった現在は名目上,各都道府県 が地域の実情を反映した独自の指針を作成することになっているが,国の新し い指針「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」(名称に「標準」が追加され ているが内容は以前のものと同じ)を参考にしている点で変わらない。当該指 民間高齢者施設の機能分化と法規制 ―45―

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針は老人福祉法の有料老人ホーム規制の実施要綱的性質を有するので,その内 容を見ると規制の実態がより鮮明となる。 標準指導指針では有料老人ホームを表1のように4つに類型化している。そ れを見ると類型化の基準が3つあることが分かる。まず一次的な基準は,老人 福祉法及び介護保険における特定施設に該当するか否かである。これにより「介 護付」とそれ以外の施設に区別される。次に,「介護付」の施設を分ける二次 的な基準として,介護サービスの提供形態がある。内部の職員が提供する場合 を一般型,外部の事業者に委託する場合を外部サービス利用型とよんで区別し ている。他方,特定施設でない施設を分ける二次的基準もある。それは介護が 類 型 類 型 の 説 明 介護付有料老人ホーム (一般型特定施設入居者生 活介護) 介護等のサービスが付いた高齢者向けの居住施設です。 介護が必要となっても、当該有料老人ホームが提供する特定 施設入居者生活介護を利用しながら当該有料老人ホームの居 室で生活を継続することが可能です。(介護サービスは有料老 人ホームの職員が提供します。特定施設入居者生活介護の指 定を受けていない有料老人ホームについては介護付と表示す ることはできません。) 介護付有料老人ホーム (外部サービス利用型特定 施設入居者生活介護) 介護等のサービスが付いた高齢者向けの居住施設です。 介護が必要となっても、当該有料老人ホームが提供する特定 施設入居者生活介護を利用しながら当該有料老人ホームの居 室で生活を継続することが可能です。(有料老人ホームの職員 が安否確認や計画作成等を実施し、介護サービスは委託先の 介護サービス事業所が提供します。特定施設入居者生活介護 の指定を受けていない有料老人ホームについては介護付と表 示することはできません。) 住宅型有料老人ホーム(注) 生活支援等のサービスが付いた高齢者向けの居住施設です。 介護が必要となった場合、入居者自身の選択により、地域の 訪問介護等の介護サービスを利用しながら当該有料老人ホー ムの居室での生活を継続することが可能です。 健康型有料老人ホーム(注) 食事等のサービスが付いた高齢者向けの居住施設です。介護 が必要となった場合には、契約を解除し退去しなければなり ません。 表1:有料老人ホームの類型 注)特定施設入居者生活保護の指定を受けていないホームにあっては,広告,パンフレッ ト等において「介護付き」,「ケア付き」等の表示を行ってはいけません。 出所:厚生労働省「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」別表より抜粋 ―46― 香川大学経済学部 研究年報 50 2010

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必要になったときにそこを居宅として訪問介護サービスなどを受けられるか否 かである。受けられる場合を住居型,受けられない(受けるには退去しなけれ ばならない)場合を健康型とよんで区別している。 形態はどうであれ単純に介護サービスを受けられる施設を介護型,受けられ ない施設を非介護型とすると,先の類型化では健康型のみが非介護型であり, 残りはすべて介護型となる。有料老人ホームに求められる機能として介護サー ビスの優先順位が高いことを考えると,健康型は時代のニーズに合致しておら ず存在意義に乏しいといわざるを得ない。では,健康型以外の介護型施設であ ればどれでもよいのかというと,わざわざ国の指針において類型化しているほ どであるから,何らかの面で違いがあるはずである。それがどの程度違うの か,高専賃も含めて後節で検証する。 ! 高齢者住まい法 高齢者専用賃貸住宅(高専賃)は,2001年に制定された高齢者の居住の安 定確保に関する法律(高齢者住まい法)によって規定される。同法のそもそも の目的は,様々な理由で入居を拒否されがちな高齢者が安心して賃貸住宅に入 居できる環境を整えることであった。そのために,高齢者の入居を拒まない賃 貸住宅を登録・公表している。こうして登録された物件を高齢者円滑入居賃貸 住宅(高円賃)という。 高円賃が単に高齢者でも入居可能な賃貸住宅という消極的な位置付けである のに対して,2005年に改正された同法施行規則では,専ら高齢者または高齢 者とその配偶者が入居する住宅として高齢者専用賃貸住宅(高専賃)が新たに 定義され,より積極的に高齢者を受け入れる住宅の整備が進められた(施行規 則第3条第5号)。さらに,後述するように2006年4月1日から高専賃のうち 一定の条件を満たすもの(これを適合高専賃という)は介護保険の特定施設の 指定を受けられるようになり,高専賃は高齢者施設の性質も有するようになっ た。 同法には高円賃と高専賃に加えて,高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)が定 義されている。高優賃とは国土交通省の基準に適合した住宅のことで,認定さ 民間高齢者施設の機能分化と法規制 ―47―

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れると整備や家賃低廉化に対して助成が受けられる。高優賃の基準は適合高専 賃の基準と類似しており,高優賃に対する助成措置はそのまま適合高専賃の整 備を後押しする格好になっている。 高齢者住まい法は2009年に改正されたが,主な変更点は,国土交通省と厚 生労働省の共同所管となったこと,高円賃に登録基準が設けられたことなどで ある。従来は高齢者の入居を拒まない住居であれば無条件で高円賃として登録 できたが,法改正によって一定の条件を満たす住居でなければ登録できなく なった。床面積が原則25"以上,各戸に原則として台所,トイレ,洗面所, 浴室,収納を備えるという基準は適合高専賃と同等のものである。したがっ て,これまで必ずしも高専賃のすべてが適合高専賃ではなかったが,これから 少なくとも設備に関しては,高専賃=適合高専賃という関係式が成り立つこと になった。 # 介護保険法 介護保険法では主に特定施設として有料老人ホームや高専賃を規定してい る。同法第8条第11号によると,特定施設とは,「有料老人ホームその他厚生 労働省令で定める施設であって,第19項に規定する地域密着型特定施設でな いものをいい」とある。その他厚生労働省令で定める施設とは適合高専賃のこ とである。介護保険法上,特定施設はさらに介護専用型特定施設と混合型特定 施設に分けられる。介護専用型は入居者が要介護者とその配偶者などに限られ る場合をいう(第8条第19項)。特定施設の指定は特養の場合と同じく都道府 県介護保険事業支援計画に照合して判断される(第70条第3項,第4項)。そ のため,利用者数がある一定の水準(参酌標準)を超える場合は指定されない ことがあった。昨今は総量規制の影響もあり当該事業者指定を絞る傾向にあ る。開設の難度や手続きの煩雑さを嫌う事業者は特定施設以外の形態(住宅型 有料老人ホームなど)を選択することになる。 ! 機 能 分 化 民間高齢者施設に対する法規制とりわけ情報公開に関する規定のおかげでこ ―48― 香川大学経済学部 研究年報 50 2010

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れまで把握するのが困難だったサービスの種類や内容が外部から観察できるよ うになった。従来は,競争市場で取引されるサービスでありながらその情報は 不完全といわざるを得ず,情報の非対称性の問題が指摘されてきた。アメリカ のナーシングホームに関する実証研究ではそれが公的施設に対する需要偏重を 生む要因とされた。7)日本でも公正取引委員会がこれまで幾度となくその問題に 警鐘を鳴らしてきた。8)そうした状況が昨今の法規制によって変わりつつあり, どのような種類のサービスがどの程度提供されているかが表面的ではあるが見 えるようになった(ここでの「表面的」とは,サービスの品質の程度までは分 からないという意味である)。その法規制というフィルターを通して眺めると, 民間高齢者施設の機能分化がある方向に進んでいることが分かる。 高齢者施設の機能は法規制上次の8つに分けられる。これは「有料老人ホー ム設置運営標準指導指針」に基づく分類である。 ! 食事サービス " 相談・助言等 # 健康管理と治療への協力 $ 介護サービス % 機能訓練 & レクリエーション ' 身元引受人への連絡等 ( 金銭等管理 近年の民間高齢者施設において介護サービスの機能分化は,介護保険の法規 制の枠組みに沿って展開してきたといえる。そこで鍵となるのは介護保険法上 の特定施設か否かという点である(表2参照)。歴史的に見ると,当初は特定 施設の指定を受けるのが一般的であったが,最近では総量規制の影響を受けて 特定施設以外の施設が増えている。つまり,高齢者施設の一番の「売り」であ るはずの介護機能が介護保険法の枠組みという限られた範囲内での分化に留 まっており,各施設の自発性が発揮される余地が極めて小さくなっている。 民間高齢者施設の機能分化と法規制 ―49―

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確かに介護保険には「横出し」という全額自己負担の保険外サービスの提供 が事業者に認められており,やり様によっては介護保険のメニュー外のサービ スを提供することも可能である。しかし現実問題として,全額自己負担でそれ らのサービスを積極的に利用する環境にはなく,事業者のサービスも勢い制度 内の基準化された内容になり易い。 特定施設の指定の有無によって受けられる介護サービスにも違いが生じる。 表2に示すように,特定施設では原則として特定施設入居者生活介護となる が,9)それ以外では訪問介護を利用する(ただし,健康型有料老人ホームは除 く)。したがって,狭義の介護機能は制度的にわずか2種類に集約される。で は,この2つの違いはどこにあるのか。 図4は,特定施設入居者生活介護と訪問介護の違いを示したものである。両 者の相違はまず介護サービス受給における契約形態に表れる。前者では入居者 と施設が介護サービス契約を結ぶのに対して,後者では入居者が外部の事業者 と契約を結ぶ形となる。外部サービス利用型の特定施設を例にとると分かり易 い。外部の訪問介護を利用する点では非特定施設と変わらないが,特定施設が 自らの介護方針や介護計画に基づいて外部事業者を選定し,自らの責任で入居 者に介護サービスを提供するのに対して,非特定施設は介護サービスの提供に は関与せず入居者が直接に外部事業者を選定し介護サービスを受ける。 上記の介護サービス提供の特徴から,特定施設は「閉鎖型」,非特定施設は 「開放型」とよぶことができる。閉鎖型は文字通り外に対して閉じており,特 養の場合と同じく介護サービスを含めて多くのことが施設内部で完結する。大 抵のことは施設が面倒を看てくれるため楽ではあるが,すべてが施設との契 介護保険法による区別 利用可能な介護サービス 有料老人ホームの種類 高専賃の種類 特定施設 一般型 特定施設入居者生活介護 (または訪問介護等) 介護付 一般型 適合高専賃 外部サービス利用型 外部サービス利用型 非特定施設 訪問介護等 住宅型 高専賃 健康型 表2:民間高齢者施設の介護機能に注目した類型化 ―50― 香川大学経済学部 研究年報 50 2010

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外部事業者 非特定施設 訪問介護 入居者 特定施設入居者生活保護 (一般型) (外部サービス利用型) 特定施設 入居者 入居者 外部事業者 特定施設 約・交渉で決まるため自分の求めるサービスが受けられるか否かは施設の事業 者としての姿勢や経営方針に左右される。したがって,信頼できる施設を選ぶ ことが何よりも重要となる。一方の開放型は介護サービスに関して施設に過度 に依存せず比較的自由であるが,納得のいくサービスを受けるには自らの責任 で外部事業者を選ばなければならない。これを煩雑ととるか自由ととるかは入 居者の捉え方次第である。しかし実際には,事業者の選択肢が限られるなかで 利便性等の理由から施設併設の事業者を選んでいるのが現状である。 また,施設の種類によって介護報酬の支払い方法が異なる。一般型特定施設 では特養の場合と同じく入居者の要介護状態区分に応じて1日当たりの定額が 支払われる。一方,外部サービス利用型特定施設と非特定施設では自宅で訪問 介護を受ける場合と同じく単位・単価方式で報酬が支払われる。ただし,その 図4:特定施設入居者生活介護と訪問介護の相違 民間高齢者施設の機能分化と法規制 ―51―

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上限は居宅介護サービス費等区分支給限度基準額によって要介護状態区分ごと に予め設定されている。 閉鎖型と開放型では介護サービス受給における特定施設の介在の有無が焦点 となるのは先述のとおりであるが,これにより受けられる介護サービスにどの ような違いが生じるのか。具体的には閉鎖型では基本サービスとよばれるサー ビスが受けられる。基本サービスには,先に述べた施設による介護サービス計 画のほかに,入居者の安否確認や生活相談等が含まれる(「指定居宅サービス 等の事業の人員,設備及び運営に関する基準」第192条の2)。つまり,閉鎖 型では当該サービスが介護保険から給付されるのである(施設にとってはこの サービスに対する介護報酬が支払われることを意味する)。 基本サービスは直接的な介護サービスでないため注目されにくいが,特定施 設を性格付ける重要な要素となっている。同居者のいる自宅で介護を受ける場 合,訪問介護という介護保険からのフォーマルなサービスのほかに,信頼関係 で結ばれた同居者から「見守り」というインフォーマルなサービスも同時に受 けている。このインフォーマルなサービスをフォーマルな形で提供する機能が 基本サービスにはある。ただ残念ながら,それが同居者の見守り機能を完全に 代替できるとは限らない。同居者と長年一緒に生活するのと同じように事業者 と長期的関係を築いて初めてその程度が分かる。また,家族の関係を外から窺 い知るのが難しいのと同様に,基本サービスの実態は外からは容易に判断でき ない。だからこそ直接的な介護サービス以外のこうしたサービスで如何に差別 化するかが各施設とりわけ非特定施設にとって重要となる。 先の標準指導指針による8つのサービスのうち直接的な介護や医療サービス を除くサービスを生活支援サービスという。表2に示すように,介護サービス については介護保険の枠組みにより規定され,施設ごとのさらなる機能分化は 期待できない状況にある。有料老人ホームと高専賃は異なる根拠法によってそ れぞれ発展してきたわけであるが,両者は早晩,介護保険法上の区別にしたが い集約されるであろう。また,訪問介護事業所の併設を認めている状況を考え ると,外部事業者を自由に選べるという建前で外部サービス利用型施設と住宅 型施設を区別するのも無理があるといわざるを得ない。近い将来,両者の区分 ―52― 香川大学経済学部 研究年報 50 2010

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を変更する日が来るであろう。 ! 施設需要の要因 冒頭で特養待機者が42万人を数えるなど施設需要が増加していることを紹 介したが,そうした傾向に影響を与えているのが,単身世帯(資料によって, 単独世帯,一人暮らし世帯という場合もある)の増加という人口動態的要因と 介護経験の一般化という社会的要因である。以下では,各種資料を手がかりに それらと施設ニーズとの関係について考える。 内閣府の「高齢者の日常生活に関する意識調査」(平成21年度)10)によると, 調査対象者の71.9%が将来に不安を感じると答えているが,これは過去最高 の数字である。不安を感じると答えた比率を同居形態別に見ると,単身世帯の 方が子や孫など若年同居人がいる世帯よりも高くなる傾向があった。また,不 安を感じる理由について尋ねると,健康や病気に関する心配が77.8%と最も 高く,次いで介護に関する心配(52.8%),5番目に頼れる人がいなくなり一 人きりの暮らしになる心配(19.1%)となった。これを同居形態別に見ると, 単身世帯では収入や一人きりになることへの不安は相対的に高いものの,意外 にも医療や介護に関する不安はどの同居形態よりも低かった(ただし,平成 17年度の同種調査では逆の結果となっている)。 以上の調査結果から,単身世帯の置かれた複雑な状況が垣間見える。高齢期 に最も心配の種になりそうな医療や介護面に対する不安が他の同居世帯と比べ て低いにもかかわらず(ただし,他の調査ではこの限りではない),全体的な 比率が相対的に高いということは当該世帯が漠とした不安を抱えていることを 示唆している。さらに,単身世帯はすでに独り身であるにもかかわらず,一人 きりの暮らしになる心配を抱えている比率が相対的に高い。これは一人暮らし であるとはいえ,当該世帯の多くが別居親族や近隣住民と同居以外の何らかの 形でつながっていると感じて(または実際につながって)おり,それを失うこ とへの不安を表している。つまり,単身世帯の多くが物理的あるいは心理的に は全くの一人ではない,つまり孤立している状況では決してないということで ある。ということは,それがなくなったとき本当の意味での孤立化が始まり, 民間高齢者施設の機能分化と法規制 ―53―

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これまで一人暮らしを続けて来られた環境が一変することが予想される。 内閣府の「世帯類型に応じた高齢者の生活実態等に関する実態調査」(平成 17年度)によると,介護が必要になったときどの場所で受けたいかという質 問に対して,単身世帯は「自宅」と答える比率(30.1%)が夫婦のみ世帯(54.8%) や一般世帯(53.8%)と比べて低かった。その反面,単身世帯は老人ホームな どの「施設」と答える比率(39.0%)が夫婦のみ世帯(28.9%)や一般世帯(28.9%) と比べて高く,単身世帯の施設志向の強さが窺える。 国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計」(2008年3月 推計)によると,2010年の全世帯に占める単独世帯の割合は31.2%,そのう ち65歳以上の高齢単独世帯は9.26%で過去最高となった。将来的にそれらの 数値は上昇し続け,2030年には高齢単独世帯が全世帯の14.7%を占めると予 測されている。その間,高齢単独世帯数は1.54倍にまで増加する。また,高 齢世帯における単独世帯の割合は2010年の29.7%から2030年には37.7%と なり世帯の単独化が進む。この傾向は年齢が上がるほど強くなる。 以上から,単身世帯の増加が施設ニーズにもたらす影響が見えてくる。単身 世帯の高齢者は将来に対する不安が他の世帯類型と比べて相対的に高く,それ までの一人暮らしを支えてきた何らかの紐帯が切れ孤立化することを恐れてお り,それが自宅での介護よりも施設での介護を選好する大きな要因となってい る。したがって,高齢単身世帯の増加は必然的に施設ニーズの拡大を伴うと結 論付けることができる。 では,単身世帯以外の高齢世帯,具体的には夫婦のみ世帯,子や孫と同居し ている世帯と施設ニーズとの関係はどうであろうか。結論をいうと,単身世帯 とは違った理由で施設ニーズが高まることが予想される。その要因とは,介護 が一般化したことで自宅介護の大変さが社会的に認知され始めたことによるも のである。 株式会社住環境研究所の「介護と同居に関するアンケート調査」11)による と,調査対象者の40%が介護経験ありと答えており(現在介護中13%,過去 に経験27%),その比率は夫婦のみの世帯より同居人(親,子,孫)のいる世 帯の方が,しかも同居人が多くなるほど高くなる傾向があった。また,自身の ―54― 香川大学経済学部 研究年報 50 2010

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介護は誰にされたいかとの質問に介護経験者では家族より介護のプロと答える 比率が高い(現在介護中(家族32%,プロ45%),過去に経験(家族34%, プロ42%))のに対して,未経験者では逆に介護のプロより家族と答える比率 が高かった(家族37%,プロ34%)。さらに,介護される場所についての質問 では,介護経験者が自宅より施設を選ぶ傾向がある(現在介護中(自宅34%, 施設50%),過去に経験(自宅36%,施設44%))のに対して,未経験者は施 設より自宅を選ぶ傾向があった(自宅39%,施設34%)。 この調査結果から,介護経験の有無が介護サービス利用に対する意識に顕著 な違いを生んでいることが分かる。介護経験者は自分が介護で苦労したためで あろうか,自身の介護は家族よりその道のプロにまかせる,すなわち介護サー ビスの利用を躊躇しない傾向がある。同時に自宅介護への執着も強くない。一 方,介護未経験者は家族による自宅介護を相対的に強く望む傾向がある。一 体,この両者の違いは何なのか。 環境さえ許せば家族の手による自宅介護を望まない者はいないであろう。そ れが人情であり介護経験者も本心ではそう思っているはずである。しかし,自 身の介護経験を踏まえた上での結論はそれとは逆,つまり家族への負担を考え てプロの手による介護,自宅よりも施設ということになったのではないか。介 護未経験者が家族の苦労を考えていないわけではないが,もし彼らが介護を経 験すればおそらく同じ結論になったであろう。興味深いことに,先の調査では 介護の主な担い手である女性の方が男性よりも自宅・家族介護にこだわらない という結果が出ている。 高齢化率が23%を突破した現在,自宅で家族の介護を経験した人は確実に 増えている。高齢化が進み社会全体で介護経験が一般化するほど,たとえ家族 と同居していたとしても,いや家族と同居しているからこそ自宅介護・家族介 護以外の方法を選ぶ人が増え,施設ニーズが高まることが予想される。 ! 終 の 住 処 施設入居の動機として最も多いと考えられるのが,現在あるいは将来の介護 に対する備えではないか。つまり,要介護状態になったとき施設を自宅に代わ 民間高齢者施設の機能分化と法規制 ―55―

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る終の住処と考えているのである。では,有料老人ホームなどの民間高齢者施 設は終の住処となり得るか。また,それらが終の住処となる条件とは何であろ うか。 終の住処とは,心身が衰えた状態を近しい人に見守られながら,時に介護を 受けながらその時が来るまで生活できる住まいのことである。そこで鍵となる のは,見守る人,「養護者」の存在である。つまり,養護者がいることが終の 住処の条件といえる。公的施設である特別養護老人ホームは正しくこのために 設けられた施設である。特養と他の施設の違いは,例えるなら保育所と幼稚園 の違いに近い。 保育所は共働き世帯などで保育者不在となる時に幼児を預かる施設であり, 当然保育機能が備わっている。一方,幼稚園は保育者不在を前提としておら ず,教育機能に特化した施設である。広義の保育とは食事,マナー,教育に至 るまで子供の生活にとって必要なあらゆるものを含み,それらを統括するのが 保育者の役割である。もちろん,保育者(両親)が自らそれら全てを担う必要 はなく,外部機関の助けを借りてもよい。しかし,その要としての役割は保育 者が務めなければならない。 特養の最大の特徴は養護者機能を有することである。何らかの事情で身近に 養護者がいない,あるいは自らが養護者となれる自立状態でない要介護者に とって特養は第一の選択肢となる。残念ながら現行の介護保険における訪問介 護などの居住系サービスは,原則として,自立あるいは要介護者の存在を前提 にしなければ成り立たないものである。一方で高齢単身者は今後ますます増加 することが見込まれる。そうした状況を見据えて対策を行う必要があるにもか かわらず,政府はこれまで単なる理念や財政事情から在宅での介護を殊更に強 調してきた面がある。その不満が施設への需要を加速させているように思えて ならない。 では,有料老人ホームや高専賃は終の住処となり得るだろうか。それはそれ らが養護者不在時にその代替サービスを提供できるか否かにかかっている。先 述のとおり,介護保険法上の特定施設には基本サービスが含まれるためある程 度期待できそうではある。また,非特定施設でも差別化を図る目的で生活支援 ―56― 香川大学経済学部 研究年報 50 2010

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サービスの充実を謳う事業者が増えており可能性がないわけではない。しか し,問題は直接的な介護サービスが制度上ある程度基準化されているのに対し て,基本サービスや生活支援サービスは事業者によって千差万別で,何が本当 の意味で養護者不在を補うサービスか見極めが難しいことである。一般的に養 護者不在状態は最晩年に訪れるため入居契約時との時間差が大きく完全な契約 は望むべくもない。したがって,今のままではその時になって終の住処でな かったことが分かり,他の施設への転居を余儀なくされる例が多発する可能性 がある。 ! お わ り に 本稿では,有料老人ホームや高専賃に代表される民間高齢者施設を法規制の 面から見てきた。それらの施設は一見,多様化しているようであるが,介護機 能の観点からするとわずか2種類に類型化できることが分かった。民間施設で あれば介護サービスに創意工夫が求められ公的施設にはない様々な種類のサー ビスの登場が期待されるわけであるが,介護保険の枠組みの範囲内でしか展開 できていないのが現状であり,今後もそうした傾向は変わらないであろう。 一方,特定施設の基本サービスないし生活支援サービスについては,多様化 の余地が残されている。今後,高齢単身世帯が増加し,同居世帯でも施設志向 が強まるなかで有料老人ホームが従来の特養に代わる受け皿となり,養護者に よる「見守り」に代わる機能やサービスが欠かせない。それを備えるか否かが それらの施設が本当の意味での終の住処となれるかどうかの鍵となるのは間違 いない。民間施設のなかには生活支援サービスの充実を謳うところも増えてい るが,入居時にその真贋を見極めるのは困難といわざるを得ない。 これまでの政府の対応は理念先行で在宅介護を推進するのみで,その前提と なる養護者の存在価値や苦労を理解しているとは到底思えないものであった。 それが今般の施設需要を生んだといえる。特養待機者42万人のなかには重複 申し込みやとりあえずの申し込みが多数紛れ込んでいるのは周知のことであ り,むしろその事実が居宅介護をこれまで曲がりなりにも成り立たせてきた養 護者の悲鳴の大きさを物語っているのではないか。保育者の存在を前提とする 民間高齢者施設の機能分化と法規制 ―57―

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幼稚園の相対的地位が低下しているのと同じように,養護者の存在を前提に設 計された現行の居宅介護もこのままでは成り立たなくなるおそれがある。 参考文献 [1]介護保険六法編集委員会(編集)『介護保険六法』(平成22年版) 中央法規出版 2010 年 [2]株式会社住環境研究所「介護と同居に関するアンケート調査」 2010年 [3]株式会社法研『月間介護保険』(2007年8月号) [4]厚生省社会局長通知「有料老人ホーム等の運営の指導について」(1967年9月11日) [5]厚生省社会局老人福祉課長通知「高齢者向け短期滞在型の有料施設について」(1985年 7月18日) [6]厚生省社会局施設課長通知「老人福祉法施行事務に係る質疑応答について」(1973年8 月1日) [7]厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」(各年版) [8]厚生労働省「社会福祉施設等調査」(各年版) [9]厚生労働省「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」(2009年12月22日) [10]厚生労働省老健局長通知「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」(2002年 7月18日) [11]公正取引委員会告示「有料老人ホームに関する不当な表示」(2004年4月2日) [12]国土交通省「改正高齢者住まい法リーフレット」 [13]国土交通省「未届の有料老人ホームに係る調査状況について」(2010年11月22日) [14]国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」(2008年3月推計) [15]小松秀和「アメリカのナーシングホーム規制!−ケアの質をめぐる議論と日本への示 唆−」『香川大学経済論叢』第79巻第4号 pp.131−150 2007年 [16]小松秀和「アメリカのナーシングホーム規制"−ケアの質をめぐる議論と日本への示 唆−」『香川大学経済論叢』第80巻第2号 pp.77−101 2007年 [17]消防庁「未届の有料老人ホームに対する緊急調査結果」(2009年6月18日) [18]内閣府「高齢者の日常生活に関する意識調査」(平成21年度) [19]内閣府「世帯類型に応じた高齢者の生活実態等に関する実態調査」(平成17年度) [20]日本経済新聞社『日本経済新聞』(2010年6月5日朝刊) [21]日本経済新聞社『日本経済新聞』(2010年9月7日朝刊)

[22]Chou, S. Y.,“Asymmetric information, ownership and quality of care : an empirical analysis

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of nursing homes”, Journal of Health Economics, pp.293−311, 2002

[23]Grabowski, D. C., Hirth, R. A.,“Competitive spillovers across non-profit and for-profit nursing homes”, Journal of Health Economics, pp.1−22, 2003

注 1) これは2006年末から2007年にかけて世間を騒がせたいわゆる「コムスン問題」を指 す。詳しい経緯は省略するが,この事件は一部事業所の虚偽申請で指定取り消し処分を 受けたコムスンが連座制の適用により全国の事業所で新規指定と更新が行えない事態と なり介護市場からの撤退を余儀なくされたというものである(『月間介護保険』2007年8 月号 pp.12−17)。 2) 国は施設利用者数を要介護2以上の人数の37%以下にする参酌標準を設けて特養など の施設整備を抑制してきた。 3) 従来,国土交通省の単独所管であったものが,平成21年の「高齢者住まい法」の一部 改正により,高齢者の賃貸住宅に関する基本方針が国土交通省と厚生労働省の共同策定 に変わった。それに伴い賃貸住宅だけでなく老人ホームや高齢者居宅生活支援体制の確 保についても定めることになった(国土交通省「改正高齢者住まい法リーフレット」)。 4)「把握されている」としているのは,無届け施設が少なくないからである。2009年3月 19日,群馬県渋川市の有料老人ホーム「たまゆら」で火災が発生し多数の死傷者が出た が,この施設も無届けであった。事件を受けて実施された消防庁の調査では,446の無届 け施設が確認され,そのうち382施設(85.7%)に何らかの消防法令違反があったとい う(消防庁「未届の有料老人ホームに対する緊急調査結果」)。また,国土交通省による 2010年9月30日時点の調査では,584の無届け施設のうち240施設(41.1%)に建築基 準法違反があったという(国土交通省「未届の有料老人ホームに係る調査状況について」)。 5) 介護等を行う施設であれば滞在期間の長短に関係なく有料老人ホームとなる(厚生省 社会局老人福祉課長通知「高齢者向け短期滞在型の有料施設について」)。 6) 法改正以前の食事要件から,自炊を前提に高齢者を住まわせる老人アパートなどは有 料老人ホームとされなかった(厚生省社会局施設課長通知「老人福祉法施行事務に係る 質疑応答について」)。

7) 代表的な研究として,Chou(2002)と Grabowski and Hirth(2003)がある。両研究で はアメリカのナーシングホーム市場における営利事業者と非営利事業者のケアの質につ いて扱っている。注目すべきは,両研究ともに介護サービスの質に関して情報の非対称 性が存在し,それが主因となって公的施設への需要偏向を生んでいると結論付けたこと

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である。 8) 日本では,有料老人ホームのパンフレットなどの記載内容が実態と異なる事例が多数 報告され,問題視されてきた(公正取引委員会告示「有料老人ホームに関する不当な表 示」)。 9)「原則として」としたのは,入居者は特定施設入居者生活介護のほかに外部の訪問介護 を選ぶことができるからである。ただし,同種のサービスについて両者の重複利用は認 められない。 10) 2009年10月22日から同年11月8日にかけて全国の60歳以上の男女に対して調査が 行われた(標本数5,000,有効回答数3,501)。 11) 2010年2月にインターネットを使って全国の戸建・マンションに居住する55歳から 69歳までの男女690人に対して調査が行われた。 ―60― 香川大学経済学部 研究年報 50 2010

参照

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