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生き方の多様化を支える家族法を目ざして : 選択的夫婦別姓,同性カップル,性別の変更を考える-香川大学学術情報リポジトリ

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Academic year: 2021

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司会者 皆様こんにちは。お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。定刻に なりましたので,香川大学法学会講演会を始めたいと思います。本日は,立命館大学法 学部教授二宮周平先生に「生き方の多様化を支える家族法を目ざして」というタイトル でご講演いただきたいと思います。最初に法学会会長の松尾先生からご挨拶をいただき たいと思います。 松尾 司会の松久先生からご紹介いただきました法学会会長の松尾です。今日の二宮先 生のご講演,松久先生のご尽力もあって,これだけたくさんの方に集まっていただきま した。非常に高名な先生でいらっしゃいますし,また現代的なテーマで,単なる家族間 の問題といいますか,民法の家族法の問題だけでなく,もっと広い社会全体の問題,お そらく世界の動向も含めてお話しいただけるのではないかと思います。そういう意味で 非常にすばらしい先生をお迎えして,法学会の趣旨に合った講演をいただけるというこ とです。皆さんもぜひ期待をし,よく聞いてください。 もうひとつ。お知らせにも書いてあったと思いますが,二宮先生は,愛媛県,四国と 深い関わりを持っておいでの先生でいらっしゃいます。そういう点でも親近感がわくか もしれません。皆さんは民法の授業を通じて関心を持っておられると思います。今日の 講演をきっかけにさらに深く勉強したいという人が出てくるといいと思います。また, 多少の意見交換もできると思います。ぜひ積極的な質問をしてください。あらためて松 久先生から二宮先生をご紹介いただきます。

生き方の多様化を支える家族法を目ざして

―― 選択的夫婦別姓,同性カップル,

性別の変更を考える ――

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司会者 それでは私から本日ご講演をいただきます二宮周平先生をご紹介させていただ きます。先ほどの松尾先生の挨拶の中にもございましたが,二宮周平先生は 年に 横浜にお生まれになりまして,その後は松山でお育ちになりました。大阪大学法学部に 進学されまして,その後大阪大学法学研究科へ進まれました。 年に今の松山大学, 当時の松山商科大学に赴任され, 年に立命館大学に移られて,現在に至っており ます。家族法に関する多くの業績,論文がございまして,岩波新書から出ている「家族 と法」ですとか,「家族法(新世社)」といったテキストも出版されています。先生の書 かれる文章は,非常に分かりやすく,先生の人柄を表すような優しさのあふれるもので, 多くの学生とか大学の授業で教科書として使われています。それでは,先生お話をよろ しくお願いいたします。 二宮 皆様こんにちは。「生き方の多様化を支える家族法を目ざして」と,ずいぶんた いそうなテーマですが,人は多様です。顔かたちが違うように,人の考えも生き方も人 それぞれによって違う。そういう多様性を支えるような法制度であってほしいという願 いからこういったタイトルをつけました。それからタイトルには上がっていませんが, 事実婚から生まれる子どもたち,婚外子の問題を加えてお話しします。 家族の現実の変化 ⑴ 女性のライフスタイルの変化 まず,家族の現実が変わっているということに着目してください。男性の雇用者と無 業の妻という,いわゆる専業主婦世帯がかつては大半でした。皆さんの中にも,お母さ んが家事,育児をしていたというご家庭の方がずいぶんおられると思います。そういう 世帯が減ってきています。 年,今から 年前くらいですと, , 万世帯が今言っ たお母さんが家事,育児という世帯です。それが 年では 万世帯。 年で 万世帯減りました。共働きの世帯,もちろん昔から農業や自営業など,夫も妻も働いて いた家庭がありますが,夫も妻も雇われて働いているという共働き世帯が増え, 年 間で 万世帯から 万世帯,ほぼ , 万世帯になりました。今は共働き世帯のほ うが専業主婦世帯よりも多い世の中になっています。もちろん,女性の場合,正規で働 ける人がまだまだ少ないですけれども,夫も妻も父親も母親も外で働いて給料をもらっ てきている,こういうスタイルが当たり前になっています。

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⑵ 意識の変化∼女性が職業を持つことに対して 意識も変わりました。女性が職業を持つことに対して, 年と 年の 年間 の変化をみますと,「結婚するまでは職業を持つほうがよい」と思っている男性が .% から .%に減りました。女性も .%から .%に減りました。これに対して,「子 どもができてもずっと職業を続ける方がよい」という男性が .%から .%に増え, 女性も .%から .%に増えました。かつては結婚したり子どもができたら仕事を やめるのが当たり前と思われていましたが,今はそうではないのです。 ⑶ 家族の多様化 家族の多様化という現象があります。夫婦と子どもからなる世帯は, 年の国勢 調査では, .%, 割を切りました。 年の国勢調査では, .%と,さらに減 りました。増えているのは 人暮らし世帯です。 年調査では .%でしたが, 年では, .%に増え,とうとう世帯構成の中で最多となりました。様々な家庭生活が ありますが,一番多いのは, 人暮らしなのです。これまで夫婦と子どもから成る家族 が標準的な家族とされてきたのですが,働き方,意識,家族の構成,どの面から見ても, もう標準ではなくなっています。 離婚・再婚も増えました。離婚は 年で 万 , 件, 年では 万 , 件です。結婚する人たちが減っていますから,その分,離婚する人も減っていますが, 毎年 万組前後の離婚があります。そして離婚を経験する子どもたちが毎年 万人前

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後います。また結婚する人たちの / は再婚です。夫婦ともに再婚,どちらかが再婚 の場合も含めてですが,離婚・再婚は日常化しています。 このような現象をさして,ライフスタイルの多様化と言います。 人暮らしの人もい ます。婚姻届を出さない人もいます。性的少数者のカップルの人たちもいます。男女の 雇用形態や賃金の格差はあるにしても,少子高齢化の中で,女性の雇用が後退すること はないと思います。女性の経済的自立はこれからも進んでいくでしょう。家族の生活は 多様化しています。夫婦と子どもという標準的家族像,あるいは「男は仕事,女は家庭」 という性別役割分業を前提とすることから,多様な家族生活の多様なニーズに応える社 会の仕組みに変えていく必要があるのではないかと思います。その中のひとつとして, 家族の法のあり方も変わるべきではないかと考えます。 個人の尊厳∼選択的夫婦別氏制度 それではこれから つのテーマについて,家族法の新しい話題をお話しします。最初 は夫婦別姓の話です。選択的夫婦別氏制度と言って,婚姻するときに夫婦が同じ苗字を 名乗ってもいいし,そのまま従来の自分の氏をお互いに名乗ってもかまわないという選 択制度のことを言います。 氏名とはなんでしょう。氏名とは,まず個人を他人から識別する呼称ですね。氏名で 人が特定されます。でもその氏名で人は学び,働き,生活をしていくのですから,自分 の人格と氏名とが切っても切り離せなくなります。個人個人が自分の氏名に対して思い を抱くようになります。ところが,日本の法制度は結婚をすると夫婦同氏ですから,夫 か妻のどちらか一方が生まれながらの姓を改めて,夫婦が同じ氏を名乗らないといけな いという仕組みになっています。名前は親が自由に付けてくれますが,氏は親の氏を名 乗ります。夫婦は同じ氏を名乗る,親子は同じ氏を名乗るという原則です。自由になら ないのです。なぜでしょうか。 ⑴ 夫婦同氏の法的根拠 まず簡単に氏の歴史についてお話しします。江戸時代には我々庶民には氏はありませ んでした。勝手に氏を名乗る人もいましたが,公には認められません。士農工商の中で 武士は氏を名乗りますが,それ以外で氏を名乗ることができたのは,苗字帯刀を許され た豪農豪商に限られていました。 しかし,明治維新により,四民平等が宣言されます。そのときに華族や元武士,つま り士族には氏があるけれども,庶民に氏がないというのはおかしいではないか,みな平 等になった,また個人を識別する上で氏は必要だということから,平民も氏を名乗るこ

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とが許されるという通達が出ます。氏を名乗ってもいいよと言われても,別に必要性が ないので名乗らない人もたくさんいました。 ところで日本は明治維新後,国民皆兵となる。長男以外の人には兵役を課します。軍 隊に人を集めます。そのときに,「太郎」と呼ぶと,「はい,はい,はい」と,何十人も 手を上げる。これでは個人の識別ができない,何とかしてくれと陸軍省から司法省に伺 いがありました。氏をつけてほしい,そうすれば氏と名前で個人が特定できる。太郎で も山田太郎,佐藤太郎,鈴木太郎と区別がつくようになりますから,氏をつけてもらわ なければならない。「許される」から「名乗らなければならない」という氏の強制に変 わりました。それが 年のことです。 夫婦の氏については,特に定めはありませんでした。結婚したんだから同じ氏を名乗 ろうという人もいれば,士族階級では,昔の伝統から,妻は別氏,元の家の氏を名乗ろ うという人もいました。 年,明治民法が制定されます。そこで家族の基本的な制度として,家制度が置 かれました。戸主が家族の長,リーダーとして家族を統率します。家族は戸主の言うこ とを聞かなければなりません。結婚するには,戸主の同意が必要とされました。その代 わり,戸主は家族を扶養する責任を負わされます。厳しい制度です。そのときに氏は家 の呼称であると定められました。戸主および家族は,家の氏を称する。結婚をして女性 は夫の家に入ります。夫の家の一員となり,夫の家の氏を称します。結果として夫婦は 同じ氏を名乗るということになりました。 年 月,日本は戦争に負け,ポツダム宣言を受諾し,新たに日本国憲法が制定 されます。国民主権,基本的人権の尊重,戦争放棄という 大原則の憲法が成立しま す。家制度は,法の下の平等や男女平等の原則に反することを理由に廃止されます。そ うすると,氏は家の呼称ではなくなります。個人の呼称に純化されます。だから,どん な氏を名乗ってもいいはずです。ところが,立法者は夫婦同氏,親子同氏の原則を維持 しました。夫婦は同じ氏を名乗る,親子も同じ氏を名乗る。しかし,明治民法と違って 根拠となる家はありません。なぜ同じ氏を名乗らないといけないのか。そのときの理由 として,夫婦・親子は同じ氏を称して家族共同生活を営むという,その当時の慣習をあ げました。それは言ってみたら当たり前ですね。家制度の下では,家族はみんな家の氏 を名乗っており,法制度として強制されていたのですから,定着するのは当たり前です が,それを慣習として,同氏の根拠にしています。家族共同生活を営むものは,氏を同 じくする。氏を同じくするものが,家族共同生活を営む。氏を同じくするかどうかを, 家族共同生活の存在と結びつけようとしていたのです。 こうして夫婦は同じ氏を名乗ることとされた。それでは,夫の氏にするのか,妻の氏

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にするのか。日本政府が考えたのは,夫婦はともに夫の氏を称するというものでした。 当然GHQ(連合国軍総司令部)から批判されます。当時の日本は連合国に占領されて いました。法律を作る場合もGHQ のチェックを受ける。GHQ からは,日本人が自分 たちで民主的な社会を作ることができないというように見られていました。だから,法 律はチェックを受けたのです。憲法も,民法も。 GHQ から,なぜ夫婦の氏は夫の氏にするのか,夫婦平等と憲法で定めたではないか と詰問され,当時の司法省の担当者は回答することができませんでした。そこで現行の 条になったのです。夫婦は同じ氏を名乗る,その場合,夫または妻の氏から協議に よってどちらかにする。話し合いをしてどちらかの氏に決めるのであって,夫の氏に決 めているわけではない,だから平等だとして,現行 条によってGHQ の批判をかわ しました。 ところで日本は (明治 )年に戸籍制度を作りました。戸籍は家制度の下では, 家のメンバーを登録し,公証する制度として機能しました。第二次大戦後の民法改正に よって家制度が廃止されても,戸籍制度を維持しました。自分の氏名,出生・死亡の年 月日,国籍,自分の家族は誰かなどを証明する制度として戸籍制度は必要だったのです。 しかし,戸籍の編製原理が変わります。家のメンバー全員ではなく,一組の夫婦および この夫婦と氏を同じくする子を単位として編製されます。民法自体は,夫婦については 夫と妻の権利義務,親子についても親と子の権利義務,親族関係も親族相互の権利義務 として,個人を基本とする制度です。しかし,戸籍が一組の夫婦と氏を同じくする子を単 位とすることによって,戸籍が家族を団体として捉えることを保障しました。一組の夫 婦と子が同じ氏を名乗って家族を作るのだということを目に見える形で示したのです。 さて夫婦の氏は夫,妻のどちらの氏からでもかまわないのですが,現在でも( 年), .%が夫の氏を夫婦の氏に選んでいます。だから夫が戸籍筆頭者になります。 でも夫の氏について,夫個人の氏ではなく,自分たちの家族,夫婦と子どものファミリ ーネームだと意識する人も数多くいます。筆頭者=家族の代表という認識を持つ人もい ます。戸籍自体は一組の夫婦と氏を同じくする子という,抽象的な言い方しかしていま せんが,夫婦と子どもが家族の基本だという意識を私たちに浸透させましたし,戸籍筆 頭者という仕組みが古い意識を残す役割も果たしました。 ⑵ 夫婦別姓論の背景 夫が働き,妻が家庭に入るので,夫婦の氏は外で働く夫の氏にするというのが一般的 でした。こうした家庭生活のあり方があって,日本は高度経済成長を遂げたといえます が, 年代後半くらいから,「夫婦別姓」という声が社会の中に生まれてきました。

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なぜかというと,男女雇用機会均等法ができた影響もあります。それから景気が非常に よかったということもあって,会社が女性を正規の社員としてどんどん採用するように なった。そうすると名刺を持って働く女性が増える。名刺を持って自分で実績,業績を 作る。ところが結婚すると改姓,夫の氏を名乗ることが圧倒的に多いですから,名刺を 作り直さないといけない。パスポート,預金通帳,運転免許証,教員免許などなど,名 義書き換えの面倒もありますし,これまで培ってきた信用とか実績が中断する。恋愛中 は優しかった夫や夫の両親が,結婚して夫の氏を名乗ったとたんに,名前を呼び捨てに したり,嫁扱いをする,これまで対等な夫婦になりたいと思っていたのに,何か上下関 係ができてしまうような印象を持つ人もいました。 これはすべての人がという意味ではありません。結婚して愛する夫の氏に変えること によって,喜びを感じる女性もたくさんいました。結婚改姓は女の証と言われていたの ですから。例えば,田中昌子と田中進一は,同じ田中同士です。でも結婚するときは, どちらかの氏を夫婦の氏にして戸籍筆頭者にしなければなりません。例えば,田中進一 の田中を夫婦の氏にすると,戸籍筆頭者は田中進一となる。妻の昌子さんが,例えば女 子大学の卒業生などの場合,その大学の同窓会名簿では,田中昌子(旧姓田中)と書か れていたりする。氏は変わってないのに(旧姓田中)と。なぜでしょう? それは,結 婚したことの証だからです。旧姓と書いていたら,ああ,結婚したんだなということが 分かるからです。 そして一方では,働いて名刺を持って活躍する女性が出てきました。そういうときに 夫婦別姓が主張され始めた。自分の生き方が氏名に反映している,だから結婚しても氏 を変えたくないという女性たちの主張です。自分の氏名への愛着であり,氏名を自分の 人格の象徴として感じる人たちが出てきたのです。そのときに最高裁が援護射撃をして くれます。 ⑶ 法的な問題∼氏名は個人の人格の象徴,人格権の一内容 在日韓国人の氏名の呼び方の問題がありました。 年代のことです。日本で生ま れ育った韓国,朝鮮の人について,指紋の押捺が義務付けられていました。 年ごとに 指紋の押捺をしないといけなかったのです。ある人が,これは差別的であるとして,指 紋の押捺を拒否しました。そのことがニュース報道されます。当時は韓国,朝鮮の人た ちの名前を日本語読みしていました。彼は,自分は崔昌華(さい・しょうか)ではない, チォエ・チャンホァである,だから民族語で呼んでほしいと,NHK に申し入れをしま した。ところがNHK は,日本語読みで報道したため,彼はあれだけ言ったのに日本語 読みするのはおかしい,日本語読みされたことにより精神的苦痛をこうむったとして損

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害賠償請求の訴えを起こしました。請求額は 円です。お金が目当てではありません。 氏名の読み方について,裁判所に問題提起をしたといえます。 この事件で最高裁が述べた理由が,「氏名は,社会的にみれば,個人を他人から識別 し特定する機能を有するものであるが,同時に,その個人からみれば,人が個人として 尊重される基礎であり,その個人の人格の象徴であって,人格権の一内容を構成するも のというべきである」(最高裁昭 ・ ・ 判決・民集 巻 号 頁)というもので す。氏名は人格権であるということを明らかにした画期的な判決です。 ですから,個人は自己の氏名を正確に呼んでもらえる利益があるとしました。本人が 望む呼び方をしなければならない。しかし,当時は,韓国,朝鮮の人の氏名を日本語読 みする慣行があり,NHK はチォエさんを特別に苦しめてやるという意識でやったわけ ではないから,違法性はないとして,損害賠償は認められませんでした。しかし,最高 裁が上記の判決理由を述べました。以後,メディアでは韓国,朝鮮の人に関しては,民 族語読みするということになっています。イ・ミョンバク前大統領であり,パク・クネ 大統領であり,ノ・ムヒョン元大統領,言うまでもなくペ・ヨンジュンとか,民族語で 表現するようになったのです。チォエさんは,裁判では負けたわけですけれども,実質 は勝ったといってもいいと思います。 私が大事だと思っているのは,氏名は人格権の一内容を構成するということです。結 婚に際して,同じ氏になりたい,例えば,夫の氏に改姓したいと思う人は,それでかま いませんが,夫も妻も,自分の氏名に愛着がある,変えたくないと思っている場合でも, どちらか一方が改姓しなければなりません。変えたくない人にまで改姓を強制するとい うのは,人格権の侵害になるのではないか。法の論理としては人格権侵害だと言うこと ができるようになりました。したがって,選択的夫婦別姓制度の法的根拠が確立された のです。氏名は人格権である,人格権である以上,本人の意思に反して改姓を強要され ない。だから,同氏,別氏が選べる選択的夫婦別姓にしなければならないのだと強い見 方が出てきました。 また結婚改姓を避けるために婚姻することができないとすれば,それは婚姻の自由の 侵害になる可能性もあります。 ⑷ 条約の遵守義務∼女性差別撤廃条約の批准 日本は女性差別撤廃条約を批准しています。この条約の中に,「氏を選択する夫およ び妻の同一の個人的権利」という条項があります( 条 項⒢)。圧倒的多数が夫の氏 を称する結果,女性が自分の氏を名乗ることができない現状は,この条約に違反してい るのではないかという疑問ももたれました。 年 月, 年 月, 度にわたり,

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国連女性差別撤廃委員会から日本政府に対して,夫婦の氏の選択など,民法の中に残る 差別的な条項を削除し,立法や行政実務を条約に適合させることを求める改善勧告が出 されました。 年の勧告では, つのフォローアップ課題の つとして,政府は今 後 年間に改善したかどうかを報告することが義務づけられました。結局,法改正する ことができず,女性差別撤廃委員会に対して,改正できませんでしたという残念な報告 をせざるを得なかったのです。 ⑸ 日本の政策の変化∼男女共同参画社会基本法の制定,基本計画の策定 日本の政策の変化にも注意したいです。 年,男女共同参画社会基本法が制定さ れました。男女共同参画社会とは,男女がともに社会のあらゆる分野に参画することを 可能とする社会です。女性も家庭だけにこもるのではなく,文化的,政治的,経済的, 社会的なことに参画する責任があるということをうたっています。当然男性もこれまで 女性任せにしていた家庭生活に対する責任,介護や育児に対して責任を負う。だからこ そ,両立支援を政策化していこうという法律ができました。 年 月,政府は男女 共同参画基本計画を策定します。これに基づいて各自治体も共同参画基本計画や共同参 画条例を作るようになります。 この政府の基本計画の中で,選択的夫婦別氏制度の導入について,男女平等の見地か ら,国民の意識の動向を踏まえつつ,引き続き検討を進めるとしています。第 次計画, 第 次計画でも選択的夫婦別氏制度を取り上げています。第 次基本計画( 年 月)では,「夫婦や家族の在り方の多様化や女子差別撤廃委員会の最終見解も踏まえ, 婚姻適齢の男女統一,選択的夫婦別氏制度の導入等の民法改正について,引き続き検討 を進める。また,再婚の増加等に伴う家族の在り方の多様化,少子化など時代の変化等 に応じ,家族法制の在り方等について広く課題の検討を行う」とされています。表現の 仕方は,その時々の情勢を踏まえて少しずつニュアンスが違うのですが,男女共同参画 社会とは,個人の多様な生き方を認め合う社会ですから,その実現に向けて,選択肢を 広げる制度が望ましいとの方針があります。したがって,結婚に際しても同氏の夫婦, 別氏の夫婦がいてもいい。多様性を認める見地からは,当然この制度の導入は肯定的に 位置づけられます。 ⑹ 差別をなくす視点 さきほども言いましたように 年の統計で,夫の氏を選択する人は .%です。 妻の氏を選択する人はわずか .%に過ぎません。私のゼミでは,夫婦別姓のテーマで 勉強することがあるのですが,卒業生の多くは夫の氏を夫婦の氏にします。実は私自身

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もそうです。こういうことを言うと,聞いている人たちの熱気が一気に冷めていくのが 分かるのですが,そのときはそのときの事情があって私の氏を名乗っています。ゼミ生 で妻の氏を名乗っている人は,まだ 組だけです。女性が自分の氏を夫婦の氏にするこ とがいかに難しいかを感じます。 つまり,女性が自分の氏を夫婦の氏にするためには,まず結婚相手を,次に夫の両親 を説得しないといけない。自分の両親も,「お前結婚するんやから,夫の氏になるのは 当たり前やないか」と言われるから,自分の親も説得しないといけない。さらには親戚 筋を説得しないといけない。地域の人にも,勤務先にも説明しないといけない。こんな 面倒なことだったら,もういいやとあきらめてしまう。一見中立的なルールが,現実に は女性に不利にはたらいています。 夫婦同氏は日本の伝統文化ではありません。明治以降,家制度の確立の下で実現した ものに過ぎません。でも一緒に暮らすんだから,同じ氏を名乗ろうという感情は分かり ます。だから,制度として夫婦同氏があることを否定しません。しかし,その氏の選択 がいかに困難であるか。一方の姓に不利にはたらくルールは中立的なものではなく,差 別的なものです。他に差別的でないルールがあれば,それに変える必要があります。選 択的夫婦別氏制度を導入したからといって,みんなが別氏になるわけではありません。 夫婦同氏・親子同氏にしたい人は同氏ができるので,何の不利益もありません。制度が 導入されても別氏を選ぶ人は少数でしょう。世論調査によれば,夫婦別氏ができれば, 別氏にしますという人は,選択的夫婦別氏制度の導入に賛成の人の中でも, .%にと どまります( 年 月調査)。でもその少数の人たちにとっては,とても大切なこ とではないかと思います。 ⑺ 世論調査の読み方 世論調査を見ますと, 年内閣府の調査では,別姓に反対が .%,容認が .% という結果から,賛否拮抗と喧伝されました。しかし,この 年調査では, 歳以 上の人が %も回答しています。当時の 歳人口が %くらいですから,この世論調 査は高齢者の回答率がかなり高い,偏った調査結果になっています。 代から 代を 抽出すると, .%対 .%で選択制容認が多くなっています。これに「通称使用に 賛成」という人を加えると, 割以上が何らかの形で夫婦別氏を実現できたらいいと回 答しているのです(この傾向は, 年調査でも同様です。詳細は,坂本洋子「『世論』 は,本当に選択的夫婦別氏制度に反対なのか」時の法令 号( ) ∼ 頁参照)。 世論の動向を,婚姻の当事者になる世代,子どもの婚姻に直面する可能性の高い世代に ついて見れば,かつての政府の答弁とは逆に,法改正は必至だといえるのではないで

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しょうか。 一方, .%の人が夫婦別氏だと子どもに好ましくない影響があると答えています。 ライフスタイルの違う少数派に対して,世間の目が冷たいということを大人たちは感じ ているからでしょう。でも実際に事実婚カップルで両親の名前が違うとか,あるいは離 婚,再婚したので自分とお父さん,お母さんの氏が違うとか,そういう子どもたちが今 もいます。別姓を実践している事実婚カップルの子どもたちは,父母の氏が異なること を自然に受け入れているようです。一番大事なのは自分の両親が楽しく暮らしているこ とですから,氏が同じであろうとなかろうと,楽しく暮らしている家庭で育つ子ども は,それを肯定的に受け止めているのでしょう。大人たちの反応は,自分たちと違うラ イフスタイルに対して非寛容な社会の反映ではないでしょうか。選択的夫婦別氏制度を 法制化することによって,社会的な認知度が上がり,偏見をなくすことができます。多 様性を受け入れることができるのかどうか,大人社会が試されているのです。子どもに 悪い影響があるのではないかというふうに思い込む,大人社会のあり方が問われている のではないかと思います。 世の中には夫婦別姓を実現したいと言って,婚姻届を出さないカップルもいます。事 実婚という言い方をしますが,そこでの最大の問題は,事実婚で生まれた子どもが婚外 子として法的に差別を受けることがあることです。なぜ同じ子どもであるのに,父母が 婚姻関係にあるか,婚姻関係にないかで差別があるのでしょうか。次にこの問題を考え てみましょう。 子どもの平等へ ―― 婚外子差別の廃止に向けて ⑴ 平等化の流れと限界 実はこれまで婚外子に対していろいろな差別がありましたが,少しずつなくなってい ます。ひとつは住民票の世帯主との続柄です。かつては婚内子(父母が婚姻関係にある 子)は,長男・長女型で記載され,婚外子は単に「子」と記載されていました。これは 差別ではないかと裁判で訴えた事実婚カップルがいます。最高裁まで争いました。その 過程で通達が出て,婚内子・婚外子すべて「子」に統一されました( 年 月)。 次は,戸籍の父母との続柄記載です。戸籍には性別欄がないので,長男・長女型の記 載で性別を表す役割も果たしていました。しかし,婚外子は「男」「女」と記載されま す。何人きょうだいがいても「男」「女」と書かれるだけでした。この問題も,先ほど の事実婚カップルが戸籍の続柄記載を平等にすべきであると裁判を起こし,裁判の過程 で通達が出ました。婚外子でも長男・長女型で記載されるようになりました( 年 月)。婚外子の続柄は,父母が結婚していないので,母を基準に,何番目の婚外子か

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で長男・二男,長女・二女などが決まります。 第 に,一定の所得以下の母子家庭に支給される児童扶養手当の問題です(今は父子 家庭についても基準以下の人の場合は支給されるようになりました)。婚外子を生んで 育てている母親も基準を満たせば,児童扶養手当が支給されます。しかし,父親が子ど もを認知すると,認知した父親が子どもの責任を負うべきであるとして児童扶養手当の 支給が停止になりました(児童扶養手当施行令 条の の 号ただし書)。でも認知し たからといって,父親が子どもの養育責任を果たすとは限りません。離婚の場合,事実 婚を解消した場合,これは婚内子であっても婚外子であっても同じように児童扶養手当 は支給されます。なぜ父母が事実婚関係にない婚外子のみ,父に認知されると停止にな るのか,これも差別ではないかということで裁判で争われ,その過程で,この規定は削 除されました( 年 月)。 最後に法律が改正されたものがあります。日本人の父と外国人の母の間に生まれた婚 外子ですが,日本国籍はどういう基準で取得されるのかというと,生まれたときに父, または母が日本人であれば,子どもは日本国籍を取得するのです。婚内子の場合は,妻 が懐胎した子は夫の子と推定されるので(民法 条 項),生まれた時点で日本人の 父がいるので,日本国籍を取得します。ところが婚外子の場合は,父親が認知をしない と法律上の親子関係は認められません。父が子の出生後に認知しても,出生の時点では 認知がないのですから,日本人の父がいない,したがって日本国籍を取得できませんで した。でも,日本人の男性がその子を認知し,外国人の女性(母親)と結婚をすれば, 子どもは婚内子の身分を取得することから,日本国籍を取得できます(旧国籍法 条 項)。これが差別に当たるのではないかと争われたのです。 婚外子の父母には,結婚できる人もいればできない人もいます。出生後に父が認知を した点では同じなのに,父が母と結婚できれば日本国籍を取得できる,結婚できなけれ ば日本国籍を取得できない,つまり子どもにとっては父母が結婚できるかどうか,自分 では選択できないこと,自分では決められないことについて,国籍取得という重大な権 利に差が生じるのです。最高裁大法廷は,こうした差が生じる旧国籍法 条 項を違憲 だと判断しました(最高裁大法廷平 ・ ・ 判決・民集 巻 号 頁)。これを受 けて国籍法が改正され,婚姻要件が削除されます( 年法律 号, 年 月施 行)。生まれたときには,確かに父親は認知していなかった。しかし,その後,父親が 認知をすれば,子どもは日本国籍を取得することができるようになったのです。 こうして婚外子の平等化が進む中で,なお残る差別が相続分差別です。亡くなった人 に婚外子と婚内子がいる場合,婚外子の相続分は婚内子の / になるという規定です (民法 条 号ただし書前段)。こうした権利の違いがあることから,出生届を出す

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ときに,出生届書には,「嫡出子」(婚内子)か「嫡出でない子」(婚外子)のどちらか にチェックする欄が設けられています。これにチェックするのが耐えられないというお 父さんやお母さんがいます。自分の子どもを差別するわけにはいかない。じゃあ結婚し たらいいじゃないかと,皆さんは思うかもしれませんが,結婚できない事情の人もいま すし,自分たちは別姓のために婚姻届をしないという人もいますから,結婚を強制する ことはできません。 それから親権の問題があります。日本は結婚しているときには父母の共同親権です が,離婚すると,父母どちらかの単独親権になります。婚外子の場合も,父親が認知し て法律上の親がいる場合でも,父か母のどちらかの単独親権なのです。事実婚で父母が 一緒に暮らしていても,子どもとの関係では,父か母か,どちらかしか親権者になれま せん。このようなことが,なお残る差別として問題になっています。 ⑵ 立法の動向 典型的な差別として社会的にも法的にも議論されてきたのが,相続分差別です。 年 月,国連の規約人権委員会から婚外子の相続分差別は国際人権規約B 規約に違反 するとして,法改正するように改善勧告を受けます。その後 年, 年と,規約 人権委員会で日本の人権状況が報告されるたびに改善勧告を受けます。 年 月,

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婚外子の相続分を婚内子と平等にする民法改正要綱試案が公表され,パブリック・コメ ントが募集され,それを踏まえて, 年 月,法務大臣の諮問機関である法制審議 会は,相続分差別を廃止する民法改正案要綱を答申しました。こうした流れがあるにも かかわらず,なお平等化は実現していません。 その間, 年当時,婚外子の相続分差別が部分的に残っていたドイツ,フランス では,子どもの権利条約の精神を生かして,平等化を実現しました(ドイツは 年, フランスは 年)。「嫡出」という表現自体もなくなっています。国連の国際人権規 約,子どもの権利条約,女性差別撤廃条約の各委員会から,改善勧告を再三出され,そ のたびに,政府は世論を正当化の理由にあげましたが,人権の問題を世論の多寡で決め ることに対して,厳しく批判されています。先進国でこの差別が残るのは,日本だけと なってしまいました。 ⑶ 相続分差別に関する判例の動向,少数意見・違憲判断の理由 この相続分差別について,東京高裁平 ・ ・ 決定・高民集 巻 号 頁,東京 高裁平 ・ ・ 判決・判時 号 頁は,違憲と判断しましたが,最高裁大法廷平 ・ ・ 決定・民集 巻 号 頁は合憲としました。その理由は,婚外子の相続分 を婚内子の 分の とする規定は,法律婚の尊重と婚外子の保護の調整を図ったもので あり,著しく不合理とはいえず,立法府の裁量判断の限界を越えたものとはいえないと いうことです。ただし,違憲とする少数意見が 名,合憲とする多数意見 名の内 名は,法改正を示唆する補足意見を出しており,実質的には違憲に近いのですが,結論 としては,合憲であり,その後もこの状態は変わっていません。ただし,違憲だという 少数意見が必ず付され,合憲とするものも立法によって早急に改正すべきだという補足 意見を付けています(①最 小判平 ・ ・ 判時 号 頁→合憲( 対 ),② 最 小判平 ・ ・ 判時 号 頁,③最 小判平 ・ ・ 判時 号 頁 →合憲( 対 , の内 は補足意見),④最 小判平 ・ ・ 家月 巻 号 頁 →合憲( 対 , の内 は補足意見)。 少数意見や補足意見の理由を整理すると,次のようになります。第 に,出生につい て何の責任も負わない婚外子に対して,婚姻外で生まれたこと自体を理由に法律上差別 をすることは,婚姻の尊重という立法目的の枠を越えているのではないかということで す。日本は法律婚主義をとっていますから,当然婚姻を尊重しなければなりません。し かし,婚姻を尊重するという立法目的と,婚外子の相続分差別という法的な手段との間 に,実質的な関連性があるとは認められないとします。 第 に,相続分差別の規定は,婚外子を婚内子に比べて劣るものとする観念が社会的

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に受容される余地を作る重要な一原因になっていると認められるとします。民法という 社会生活の根本となる法律の中に,婚外子の相続分は婚内子の / と書いているわけ ですから,何か人間の価値まで / になっているような印象を与える,婚外子自体も そのように受けとめてしまう実態があります。 第 に,憲法判断に当たっては,法律制定後に生じた立法の基礎を成す事実の変化や 条約の趣旨なども加えて検討すべきであるということです。 年の民法改正当時と 今とでは,社会事情が違う,外国の立法も改正され,国連からも改善勧告が出され,日 本の立法作業でも平等とされ,⑴で紹介したような婚外子差別を違憲とする判決や,平 等化の通達や法改正がなされている,このような変化を踏まえると,もはや合憲とはい えないのではないかとします。 ⑷ 最近の下級審判決 最近の高裁段階で,違憲判断が続いています(東京高裁平 ・ ・ 判決・判タ 号 頁〔被相続人の養子と実子(婚外子)の間の相続分差別について,適用違憲とし た。事案は,被相続人が養子に多額の生前贈与をしたため,実子から遺留分減殺請求が あり,遺留分の割合の前提として相続分差別が問題になった〕,同じく遺留分減殺に関 わる適用違憲判決として,名古屋高裁平 ・ ・ 判決・判時 号,法令違憲とし た大阪高裁平 ・ ・ 決定・判時 号 頁)。この中で注目すべきものとして, 大阪高裁を紹介します。 事実婚で暮らしていた男性が子どもをもうけた後,女性(子の母)と別れ,その後, 別の女性と婚姻します。うまくいかなかったので離婚をし,再婚をし,この 度目の婚 姻で子どもが生まれます。だけどうまくいかなくなって離婚し, 度目の婚姻をした後 で,亡くなりました。相続人は, 番目の妻,結婚する前に生まれた婚外子, 番目の 結婚で生まれた婚内子です。この遺産分割事件で相続分が問題になりました。 大阪高裁決定は民法 条 号ただし書前段は憲法違反だとしました。最高裁大法廷 は合憲といっていますね。高等裁判所はそれに反する判断をすることができるでしょう か。確かに違憲立法審査権がありますから,個別の事案について裁判所が自由に判断す ることができます。だから,判例と違うことを言ったってかまいません。言ってもいい のですが,最高裁に行くと覆されてしまう。それでは意味がない。そうならないように, 工夫が何かないのか。大阪高裁が使った手段は, 年,平成 年の最高裁大法廷決 定の時には合憲だったかもしれないが,それから十数年たった,その後,規約人権委員 会からはさらに改善勧告があり,フランスやドイツも法改正をし,日本でも相続分以外 の婚外子差別を違憲とする判決(特に旧国籍法 条 項を違憲とした最高裁大法廷判決

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など)や差別を是正する法令や法改正があり,実態的にも,わずかであるが婚外子の出 生率が増え,家族観も変わってきた,だから本件相続の開始時( 年 月 日) の時点では違憲状態になっていると言える。こういう論理構成をしたのです。最高裁大 法廷に背いているわけではありません。その後の社会の変化,立法事実の変化によって, 現時点では違憲になっていますと,こういう言い方をしました。 なかなか巧みな構成だと思います。これは判例に反してはいないのです。最高裁大法 廷自身,立法当時の状況を鑑みれば,著しく不合理とはいえないといっているわけです から,事情の変化を組み込むことができるのです。最高裁大法廷決定以降の事情の変化 を踏まえましょう,そうすれば,合憲とは言えないでしょうと,問いかけた決定なので す。 この事案を紹介したのは,少し私的な事情もあるからです。実はこの大阪高裁の違憲 決定を獲得した弁護士は,立命館のロースクールの修了生です。まだ弁護士になって半 年しかたっていない。事務所のボス弁から,どっちみち最高裁判例がありますから,負 けるに決まっているが,それでも頑張ってやってみたらどうかと言われ,抗告審から関 わりました。抗告は原審の審判が下りてから 週間以内に理由を書かないといけない。 週間で彼女は頑張って抗告理由書を書きました。それが受理されて審理が始まりまし た。 しかし,遺産分割は家庭裁判所の審判事項ですから,口頭弁論を必要としません。特 に呼び出されることもなく半年くらいたって,決定が下りたから取りに来てくださいと 言われました。でも,負けていると思ってたから,ほったらかしにしていました。そう すると,裁判所から早く取りに来なさいと言われ,行ってみた。そしたら違憲決定なの です。びっくりして。一般的には,違憲判断が出ますと,弁護士会館で記者会見を開い て,記者の前でこんな違憲をもらいましたと報告するのですが,ボス弁もそんな経験が ない。彼女もまだ半年ですから,新米で,そういう知識もありませんので,記者会見を しなかった。私に対して,先生の授業で勉強をして,先生の論文も読んで抗告理由書を 書いて,違憲をもらったので,決定書を見てもらえませんかと連絡がありました。それ で見せてもらいました。そしたら今言ったように,工夫した理由づけなのですね。正面 から子どもの平等に反する,だから違憲だとは言わない。時期の問題です,今の時点で は,違憲であるという言い方をしている。 それは彼女がそういう抗告理由書を出しているからであり,それに裁判官も乗ってく れたのです。私は,こんな立派な決定をもらったのだから,判例時報とか判例タイムズ とかに載せた方がいいのでは,また当事者が了解してくれたら,新聞記者も紹介するよ, 新聞報道に値するよと言いました。彼女が当事者の了解を得,婚外子の問題をずっと

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追っている記者が取材をし,新聞記事にしようという話になりました。忘れもしません, 年 月 日,朝日新聞の一面にトップ記事になりました。「婚外子差別違憲」と。 とても嬉しかったので,紹介させてもらいました。 弁護士になって新米であっても,そういう事件との出会いがあります。出会ったとき にちゃんと文章が書けるということが大事です。法科大学院では判例・通説だけを勉強 しているわけではありません。だって弁護士になったら,原告・被告どちらの立場にな るか分からないのですから,どちらの立場になっても考えられる思考能力を鍛えておく 必要があります。立命館では多少,そういう努力をしていますので,彼女も違憲という 文章を書くことができたのではないかと思います(後注参照)。 最後に,この問題を検討する視点として, つあげておきますので,皆さんで点検を してみて下さい。①婚姻制度の意義,②社会の変化に対応する家族観,特に女性の経済 的自立の傾向,家庭生活の多様化,③「個人の尊厳」の保障,です。 性的少数者の権利保障 ⑴ 性同一性障がい者の性別の取扱いの特例に関する法律 性同一性障がいという言葉を,皆さんお聞きになったことがおありだと思います(以 下,GID〔Gender Identity Disorder〕と略します)。心の性と身体の性が一致しない人た ちのことです。自分は心の中では女だと思っているのに,体つきは男性である,あるい はその逆です。人間の中の何パーセントかは,そういう状態の人たちが存在します。同 性愛も同様に,人間の中の何パーセントかは,自分と同じ性の人を性的に好きになると いうことがあります。大多数は異性愛ですし,心の性と身体の性が一致していますの で,以上のような性的少数者が差別や偏見を受けて非常に生きにくい社会になっていま した。 GID の場合,自分は心の中では女だと思っているのに,体が男性なので,喉仏が出 てくると次第に嫌悪感が出てきて,喉仏を釘でついてみたり,あるいはペニスを傷つけ てみたりとか,自傷行為をしたり,もっと辛くなると自殺を試みたりとか,そういう実 態があったのです。結婚をすれば自分のこの変な気持ちも変わるかもしれない,あるい は子どもができればこういう違和感がなくなるかもしれないと思い,結婚をして子ども をもうけるGID 当事者もいました。その問題性が社会的に認識され,心の性と身体の 性が一致しないのであれば,心の性に身体の性を合わせることを可能にすべきではない かと考える人たちも出てきました。そして法的な取り扱いも,生まれたときの性染色 体,XX,XY かで決めるのではなくて,性別の変更も認めていったらどうかという議 論も出てきました。

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こうして成立した法律が「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」( 年 月制定, 年 月施行)です。最近は,「障害」という表現への抵抗から,GID (Gender Identity Disorder)と称することが増えてきましたが,「Disorder」も,元は医 学用語であり,何かマイナスのレッテルを貼る感じがありますので,性別に違和感を感 じている人たちということで,近時は,端的に「性別違和」と称することが多くなって います。 この法律が施行されてから 年までの 年間で , 人が性別取扱いの変更審判 を受けました。しかし,日本は変更の要件が厳しいです。① 歳以上。これは一度変 更したら元へ戻れないので,一定の判断能力が必要だということから設けられた要件で す。②現に婚姻していないこと。結婚すれば同一性障がいが治るかもしれないと思って, 結婚して家庭生活を営んでいる人は,離婚をすればいいということになりますね。でも 夫婦で平和に暮らしていて,一方が他方の性別取扱いの変更に同意しているのに,離婚 せざるを得ない,離婚を強制されるということは,家庭生活に対する介入ではないかと いう批判があります。 ②は,同性婚を防止するために設けられました。例えば,夫である男性が女性に性別 変更をすると,夫も女性,妻も女性ですから,女同士の同性婚の状態になってしまいま す。同性婚を承認していない国々では,この要件を入れています。しかし,ドイツの連 邦憲法裁判所は, 年にこれを憲法違反だとしました。つまり性別取扱いの変更を 受けるかどうかは,その人自身が決めることのできる事柄であると言うのです。 性的自己決定という言葉を使います。心の性と身体の性が一致しなくて,苦しんで辛 くてたまらない。そういう人が心の性に身体の性を合わせることができる,これが性別 取扱いの変更であり,これは個人の基本的な権利である。性別取扱いの変更の結果とし て同性婚になるが,同性婚を回避することと,性的自己決定を尊重することと,どちら が重要なのか,利益衡量をしました。ドイツ憲法には比例原則があり,利益衡量をしま す。そこで何よりも大事なのは個人の基本権である,結果としての同性婚を回避するこ と以上に,その人の性別変更の権利,性的自己決定を尊重すべきであるとしました。し たがって,この要件は憲法違反とされ,それに基づき,ドイツでは,「現に婚姻してい ないこと」という要件が削除されました。 オランダなど同性婚を認めている国では,もちろんこうした要件はありません。登録 パートナーシップ制度のある国,つまり,婚姻はできないが,パートナーとして登録す る制度を設け,登録すれば共同生活から生ずる権利や義務,社会保障,一方が死亡した 際の財産の分配などについて婚姻と同じような保障をするのですが,イギリスでは,同 性婚を認めていなかった時には(現在は同姓婚を認めています),「現に婚姻していない

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こと」という要件がありましたから,現に婚姻している人は,離婚をしなければ性別変 更はできませんでした。しかし,性別変更をしたときに,登録パートナーシップへの移 行を進めます。性別変更を受けて,その後また登録パートナーシップの申請をしている と,時間が空きます。そのときに死亡したり病気になったときに権利保障がないと困る でしょう,だから性別変更と同時に登録パートナーシップへの登録の手続きもできます よということで,一挙に解決を図る国もあります。それから見ると日本はまだ厳しい状 況にあります。 ③「現に未成年の子がいないこと」。これは日本独特です。法律を設けている国で③ を要件としている国はありません。なぜなら,子は親の苦悩,苦しみを理解しているか らです。性別適合手術を受けるためには,最初に家族に相談して,治療の開始について 同意が求められます。カウンセリング,ホルモン投与,異性装やボイストレーニングな どをして,違う性として社会生活を営んでみる,それで違和感がない,開放された気持 ちになる,こうしたプロセスを経て,ようやく最初の診察から 年後に初めて性別適合 手術になるのです。 ですから,こうした過程で家族と話し合い, 藤があれば 藤を乗り越え,子どもが 消極的であれば,一方と一緒に家を出るかもしれません。でも一緒に暮らしている子ど もにすれば,例えば,男性から女性への変更のケースであれば,お父さんの苦しみは 日々感じますし,お父さんの外形が女性になっていることも認識している。戸籍の性別 変更は,変わった外形に法的登録を合わせるだけなのです。子どもにとっては,現実の 変化を乗り越えることが重要なので,法的登録の変化によって子どもが打撃を受けると いうことはありません。こうしたことから,多くの国ではこの要件を設けていません。 日本は,当初,「現に子がいないこと」だったので,子どもが死ねば登録できるのだが, 子どもがいる以上は性別変更はできないという,当事者にとって苛酷な制度になってい たために,子どもの理解力を考えて,未成年までハードルは下がりました。しかし,未 成年の子がいる場合には,子どもが成年に達するまでは,性別変更は認められないとい う制限がなお残っています。 ④「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」,⑤「その 身体について,他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えているこ と」は,性別適合手術を受けていることを意味します。イギリスやドイツでは,こうい う要件を課していません。性別違和であると複数の医師から診断を受ける,自分の望む 性でこれから一生暮らしていくことへの確信があり,複数の医師がそれを保障するとい うことであれば,外観の形成や生殖腺を絶つ手術などは不要とします。性的自己決定を 尊重するためです。そういう国も出てきています。

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⑵ 性別取扱いの変更をした GID 当事者の婚姻と嫡出推定 性別変更の取扱いをした人が,家族を持つことができるのかという問題です。性別の 取扱いの変更審判を受けた人は,民法その他法令の規定の適用については,法律に別段 の定めがある場合を除き,その性別につき他の性別に変わったものとみなされます(特 例法 条 項)。例えば,女性から男性に変更したGID 当事者は,以後は男性として扱 うということを意味しています。だから,男性として女性と婚姻ができます。養子縁組 も可能です。問題は,生殖補助医療の利用ができるのか,です。 F to M(女性から男性へ性別変更の取扱いをした GID 当事者)で女性と婚姻した人 がいます。恋愛に際して,自分はこういう事情で女性から男性になったことを伝えま す。したがって,自分には男性としての生殖能力がないことも話します。理解をした上 で,婚姻届を出します。やがて自分たちで家族を作りたい,子どもがほしいねという話 になります。F to M ですから,精子はありません。そこで第三者からの精子提供を受 けます。日本はこの生殖補助医療について法律がありません。日本産科婦人科学会とい う学会の自主規制で,法律婚夫婦に限って第三者の精子提供を認めています。このケー スも法律婚をしているのですから,学会も第三者からの精子提供による人工授精を認め ました。そして妻が妊娠し,出産しました。 この夫婦は自分たちの子どもだから嫡出子であるとして出生届を出しに行きました。 さて認められたでしょうか。実は戸籍係はこの出生届を受理しませんでした。民法の規 定からは,妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定する(民法 条 項),ですから, 夫の子と推定されます。戸籍係は嫡出子として出生届を受理しなければならないはずで す。GID 当事者ではない夫婦が第三者の精子提供を受けた人工授精によって子をもう けた場合には,そうしています。 ところが性別取扱いの変更をしたGID 当事者の場合には,戸籍の身分事項欄に【平 成 年法律 号 号による裁判発効日】○年○月○日という記載があることから, 性別取扱いの変更審判を受けたことが分かるのです。戸籍係は,性別取扱いの変更をし た人だから,男性としての生殖能力がない,だから,夫の子ではありえない,夫の子で はありえない子を夫の実子として出生届を受理するわけにはいかない,こういう理屈で した。夫は,GID 当事者ではない場合の人工授精であれば,嫡出子として扱われるの に,たまたま戸籍記載から夫の子ではありえないことがわかったとして,嫡出子として 扱わないのは,差別ではないかと考え,戸籍の父の欄に性別変更をした夫の名前を書い てほしいという裁判を起こしました。 第一審,第二審ともに原告の主張は通りませんでした。東京高裁平 ・ ・ 決定 (現時点では未公表)は次のような理由を述べます。

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「嫡出親子関係は,生理的な血縁を基礎としつつ,婚姻を基盤として判定されるもの であって,父子関係の推定に関し,民法 条は,妻が婚姻中に懐胎した子を夫の子と 推定し,婚姻中の懐胎を子の出生時期によって推定することにより,家庭の平和を維持 し,夫婦関係の秘事を公にすることを防ぐとともに,父子関係の早期安定を図ったもの であることからすると,戸籍の記載上,生理的な血縁が存しないことが明らかな場合に おいては,同条適用の前提を欠くものというべきであり,家庭の平和を維持し,夫婦関 係の秘事を公にすることを防ぐ必要があるということはできない。」 要するに嫡子親子関係は,生理的血縁を基礎としている,だから,戸籍の記載から生 理的血縁がないということが客観的に明らかなのだから,民法 条は適用されない, したがって,夫の子としては扱わないことは差別ではないという理屈です。確かに民法 条は,夫の子として推定するという規定ですから,客観的な事実として夫の子では ないことが明白であれば,もはや推定する意味はない,という理解もあります。 しかし,民法 条はこの条文だけで理解することはできません。夫の子と推定する が,夫の子ではない場合には,誰でも事実を証明してこの推定を覆すことができるかと 言えば,そうではありません。民法 条以下で,夫だけが,子の出生を知って 年以 内に,嫡出否認という裁判を起こさなければならないのです。 例えば,妻が夫以外の男性の子を出産した場合,夫が妻の産んだ子なのだから,自分 たちの子として育てたいと思い,妻の方も申し訳ないけれど,あなたがそういってくれ るなら,そうしましょうと夫婦が合意をすれば,嫡出否認権を行使しなければいいので す。そして 年経過しますと,誰も争うことができなくなり,法律上の父子関係は確定 します。血のつながりがなくても,その子は夫の実子,嫡出子として扱われます。つま り民法は血縁を徹底しているわけではないのです。血のつながりと法律上の親子関係が ずれることを承知しています。夫の子として育てるのかどうか当事者にゆだねました。 否認権を行使するかしないのか,それはあなたたち夫婦が決めてくださいというわけで す。当事者の意思を尊重するという民法の構造を考えると,戸籍係がたまたま戸籍の記 載に気がついて,夫の子でありえないから,嫡出子としての出生届を受理しないという 対応は,夫の子にしておきたいという当該夫婦の意思,否認権を行使しないという機会 を奪うことに等しいです。当事者の意思を,戸籍係が勝手に否定することができるので しょうか。否定する権限を持っているのでしょうか。 もう つ重要な問題は,夫が無精子症,精子の数が少ない,パイプカットしているな どの不妊原因がある場合,提供精子による人工授精については,民法 条を適用して 嫡出子としての出生届を受理しているのですから,なぜGID 当事者の場合だけ異なる 扱いをするのかが問題です。法務省側は,民法 条は自然生殖を前提としており,戸

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籍の記載から明らかに生殖能力がないことがわかる場合には,民法 条の適用は排除 されると言うのですが,そういう場合でも,子の法的地位を安定させるために 条を 適用します,と言うこともできるのですから,結局,法務省の背景にある考え方は, 「性別違和をかかえる人々は子を持つべきではない」という価値観ではないかと思いま す。 私は,血のつながりがなくても,自分たちの子として育てることを民法が認めている 以上,当事者の意思を尊重すべきであり,その機会を一方的に奪うことはできないと 思っています。 ⑶ 同性カップルの生活保障 同性カップルの生活保障については,時間の関係で情報提供にとどまります。同性婚 を認めるという国が徐々に増えてきています。オランダ,ベルギー,スペイン,ポルト ガル,スウェーデン,ノルウェー,デンマーク,アルゼンチン,カナダ,そしてイギリ ス,フランスも最近法改正をしました。次に婚姻とは別のパートナー登録を認める国が あります。フランス,ベルギー,ドイツ,イギリス,オランダ,チェコ,オーストラリ ア,ニュージーランド,アメリカやカナダの州のいくつかなどです。日本の状況はなか なか厳しいです。カップルとして暮らしている人たちはたくさんいますが,パートナー 登録制度や同性婚制度を設けるべきかについて,同性カップルの人たちが一致している わけではありません。それはカミングアウト,自分は同性愛者ですということを社会に 対して言うことを前提としています。カミングアウトすると,友達や家族,職場を失う かもしれない,怖くて言えないという人もいます。他方,カミングアウトしてしまう と,自分らしさを表に出せるので,本当に生きやすくなったという人もいます。 ともあれ,権利獲得運動をしようと思ったら,公にもメディアにも顔をさらしますし, 名前も出すわけですから,リスクは大きいです。生活保障を進めた国々では,当事者の 人たちが権利獲得運動に努力してきました。運動がなければ制度が変わらないというこ とは,少数者には厳しすぎます。私たちもそういう運動に対して支援していく必要があ ると思います。当事者の人がカミングアウトしやすい社会情勢を作っていく必要がある のではないでしょうか。 今後,同性パートナー登録にしろ,同性婚にしろ,法律がそういう制度を作るという ことには大きな意味があります。それは社会的承認という作用があるからです。選択的 夫婦別氏制度の導入や婚外子の相続分差別の廃止もそうです。法は単なる紛争解決の規 範ではありません。その社会が少数の人たちをどう位置づけるのか,その態度表明でも あります。法を作ることによって,社会的な承認が生まれます。戦後,家制度が解体し

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て,夫婦と子どもが家族の基本であるということが浸透しました。戸籍が一組の夫婦と 子を単位として編製され,婚姻届を出すと親の戸籍から除籍されて,自分たち夫婦の新 戸籍を作るということが,家族観の変化を目に見える形で明らかにしたと言えます。従 来の家制度から近代的な婚姻家族へと転換を可能にした つの要因です。 法制度が変わることは,最終的に社会の人たちの意識を変えることに影響を与えま す。法の果たす役割は何でしょうか。今日,取り上げた選択的夫婦別氏制度,婚外子の 差別,GID 当事者や同性愛者などの問題は,少数者の選択保障が課題となります。少 数者に対する差別や偏見を除去して中立化を図る上で,法の果たす役割は大きいです。 法の社会的承認機能に注目したいと考えます。 司会者 ありがとうございました。それでは質疑応答に入りたいと思います。マイクを お渡ししますので,挙手をお願いします。学生の方,ご意見のある方は学籍番号とお名 前を言っていただけると助かります。よろしくお願いいたします。それでは質問がある 方は挙手をお願いします。 質問者 今日は貴重なお話をありがとうございました。民法では夫婦の氏について,夫 または妻の氏を称するとあるのですが,本当に平等を考えるのであれば,例えば,夫の 氏でも妻の氏でもない第 の氏を選択するのでもいいのではないかと思うのですが,そ れについて先生はどういうお考えか少しお伺いしたいです。 二宮 私の本音は,氏名は人格権の一内容を構成するのですから,自分の責任で自由に 名乗ることができるようにすべきだと思います。だから,子の氏も父の氏,母の氏にこ だわる必要はない。夫婦の場合も,夫の氏,妻の氏でない新たに第 の氏を作ったり, あるいはクルム伊達公子さんみたいに,夫の氏と妻の氏をつないだり,何でもいいじゃ ないかと思います。ただ,現実にはなかなかそこまでは徹底できません。戦後の民法改 正のときには,夫婦は同じ氏を名乗り,親子は同じ氏を名乗ることによって共同生活を するみたいな強い固定観念がありました。今もあります。これを崩さない限り,今言っ たようなところにまではいかないですね。アメリカ,イギリス,オーストラリア,ニュー ジーランドという英米法の国々は,基本的には呼称の自由があります。例えば,公民権 登録をするときに,今までと違う氏名で登録したってかまわないのです。その代わり, 社会保障番号で個人の同一性を確認できます。なんらかの形で個人の同一性を把握する 手段が必要です。日本の場合は戸籍制度がありますから,出生届や婚姻届をして戸籍に 登録をするときに,子どもに第 の姓をつけてあげても,夫婦が別氏や結合氏(クルム

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伊達公子さんのように)を選んでも,なんら困らないシステムができています。だから, 私は,夫婦が自分たちでひとつの家庭を作るから同じ氏がいいのだけれど,夫婦平等の 見地から新たな第 の氏にするというのがあっていいように思います。香川大学で出 会って結婚したから,夫婦の氏は「香川」にしようと言うことが認められてもよいと思 います。 質問者 今回のお話の中で,記録が戸籍に残ることによって,いろいろな不具合が出て くるということが出てきたのですが,そもそも戸籍って必要なのでしょうか。というの も,アメリカだと出生証明書というのがあるのですが,それが母親の名前しか書いてい ないことがある。住民登録というのも確かないので,手紙とかが証明になるはずです。 それでも社会は成り立っているので。戸籍制度があるのは確か日本と台湾だけだと思う のですけれども,これを維持しないといけない理由が何かあるのでしょうか。 二宮 話の途中で言いましたが,自分の氏名,出生・死亡の年月日,国籍,婚姻・離婚・ 相続などの家族関係を証明する制度というのは,近代的な国家では,すべて存在してい ます。おっしゃるように欧米では出生証明書,婚姻証明書,死亡証明書と, つの証明 書の制度を持っていて,その証明書で自分の属性であったり,相続の時にはその つし かありませんから,相続人であると自分たちでお互いに保障しあって,相続の手続きを したり,専門家の関与が不可欠です。ドイツやフランスなどでは,家族手帳という仕組 みがあり,婚姻している場合には手帳を作ってくれます。それは証明の便宜になるから です。自分の氏名や出生年月日,婚姻や離婚などの証明が必要である以上,何らかの登 録をして証明する制度がいります。それをどういう仕組みにするかの問題です。 戸籍制度を導入しているのは,日本の植民地下にあった韓国,台湾と日本です。しか し,韓国は 年に改革があり,戸籍制度を廃止し,家族関係登録制度にしました。 自分を基準に,自分の父母,配偶者,子を記載する制度です。戸籍筆頭者や本籍という 概念もありません。韓国型の個人単位化ということは,日本も法改正の方向としてはあ りうると思います。私もそれが望ましいと思いますが,登録して証明する制度自体を全 廃することは,難しいのではないかと思います。 質問者 仮にうまいことに民法が改正されて選択的夫婦別氏制度が導入されたとして, 子どもの氏は誰が選択すればいいのでしょうか。子ども本人はまだ生まれたばかりで, 決める能力はない,でもやはり氏は必要ですし,誰がどんなふうに選択するのが一番よ いと先生はお考えでしょうか。 二宮 年の民法改正要綱案では,夫婦別姓を選ぶ人は婚姻をするときに,生まれ

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