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序説 人を不幸にする技術とは  1-1 エネルギー問題 1-2 廃棄物問題 コラム1:未利用エネルギー 1-3 制御システムが抱える問題 1-4 情報システムが抱える問題 コラム2:個人情報保護法 この章では、科学技術の発展により人類を繁栄させてきた一方で、 研究開発に携わってきた科学技術者さえも、その科学技術が人類 や他の生物に対し、予想することができなかった負の影響をもた らしてきた事象について見ていきます。

人を不幸にする技術:

これまでの技術の問題点

第    章

1

(2)

人を不幸にする技術とは

   科学技術の進歩によって、過去に謎とされてきた現象や、畏敬の対象であっ たものごとの仕組みが徐々に明らかにされてきました。この結果、不治とされ ていた病が治療可能となるなど、我々人類の生活は衛生的で便利なものになっ てきました。 つまり、科学技術の進歩は、確実に人類の繁栄に貢献しているといえます。 しかし、負の影響をもたらしたことはないのでしょうか。本章はこの点に着目 してこれまでの技術の問題点について概観します。 皆さんはフロンという化合物をご存知でしょうか。開発当時は「奇跡の流 体」や「夢の化学物質」などともてはやされました。 1920年代は、冷蔵庫の冷媒としてアンモニアが使用されていましたが、 もっと扱いやすい代替品が求められていました。このとき開発されたのがフロ ンです。 フロンは、炭素、フッ素、塩素からなる化合物で、無色・無臭で毒性がな く、熱的・化学的に安定、という性質が優れていることから、冷媒に限らず、 洗浄剤、発泡剤、噴射剤にも使われていました。 ところが、オゾン層破壊の原因物質ならびに温室効果ガスであることが明ら かとなり、今日ではさまざまな条約・法律で大幅な制限がかけられています。 オゾン層は有害な紫外線から地上の生物を保護する役割を有していますが、 このオゾン層が破壊されると生物に悪影響がでてきます。 開発当初は、誰もフロンがこのような地球環境に悪影響を及ぼす化合物であ るとは想像ができませんでした。 今度はプラスチックについて考えてみましょう(「1-2 廃棄物問題」を 参照)。 現在人の生活でプラスチックは欠かせないものとなっています。例えば、身 近な食品の保存においては、真空パックが必要ですし、保湿状態で保存するに はタッパーウェアやラップフィルムがないと非常に不便です。

序 説

▪ 10

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また、プラスチックという素材は、高分子化するときの仕方や重合の度合い で、しなやかなポリエチレンの袋の材料にもなる一方で硬い断熱材にもなりう るという特徴があります。このため、工業製品ではよく使われており、ほかの 素材に置き換えることは困難です。 プラスチックは我々の生活を大きく変化させ、便利にしてくれました。しか し、プラスチックの物理的、化学的に安定であるという性質が裏目に出て、廃 棄された場合には分解されず、燃焼した場合には毒性を有するダイオキシンが 発生するということがわかってきました。 人類は、さまざまな自然に存在する材料を利用してきました。また、目的、 用途に応じて、自然に存在しない人工材料を創造して利用してきました。これ らの材料を有効に利用することを目的にするのが「材料工学」であり、その基 礎となるのが「材料科学」、その基礎を支えるのが「物質科学」です。 これらの科学技術を有効に活用して人工材料を創造して使用していくことで 人類にとって便利な生活が確保されていきます。しかし、その結果、予測不可 能な負の結果を導くことがあることは事実です。材料の持つ物理的性質、化学 的性質のみならず社会的性質を考慮していくことが重要となってきています。 特に社会的性質は、物理的性質や化学的性質と異なり不変ではないため、使用 の仕方によっては、善にも悪にもなるという側面があります。 技術者は、現時点で研究開発しているものがどんな影響力を持つのかを考 え、プラス面だけではなくマイナス面に関しても社会に対して説明する責任が あると思います。 つまり、技術が個人、社会、経済に与える副次的な影響も検討していくスタ ンスが必要不可欠であり、技術者自身がみずからの与える影響について責任を 持たなければならないと考えられます。 今後、科学技術はさらに重要になり、さらに変化していくことは確実です。 なぜなら、エネルギー危機、環境問題、都市問題などを解決していくうえにお いて、技術こそが道具となり、結果に対して責任を取る唯一のものだと考えら れるためです。 第1章 人を不幸にする技術:これまでの技術の問題点

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エネルギー問題を考える前にエネルギーの歴史について少し見ていきたいと 思います。私たちのエネルギーの利用はさまざまな形で変化し、それにより生 活も変化してきました(「表1-1-1 エネルギーの歴史」を参照)。 人類は「火」のエネルギーを使用し、農耕文明を築き上げました。そして、 第2、第3の火としての「電気」、「原子力」のエネルギーを手に入れ、近代か ら現代への工業文明に発展させてきました。新しいエネルギーが新しい文明を 築いてきたといえます。 これまでの一次エネルギーの供給構成は、資源制約や産業構造変化などに よって推移してきました。エネルギー効率の向上を中心に新しいエネルギーを 開発してきたといえます。 このため、人・環境を考慮した開発がおざなりになっていた面があります。 50 万年前 人間が火を使用する B.C.5000 年 ころ、てこの利用 B.C.4000 年 動物エネルギーの使用 B.C.3000 年 帆船の登場 B.C.100 年 水車の登場 800 年 炭焼きが始まり、炭が燃料の中心となる 1100 年 風車の登場 1720 年 蒸気機関の発明 1799 年 電池の発明 1840 年 水力発電機の発明 1881 年 石炭火力発電所完成 1891 年 風力発電の登場 1951 年 原子力発電の成功 1954 年 シリコン太陽電池の発明 表1-1-1 エネルギーの歴史 50 万年前 人間が火を使用する B.C.5000 年 ころ、てこの利用 B.C.4000 年 動物エネルギーの使用 B.C.3000 年 帆船の登場 B.C.100 年 水車の登場 800 年 炭焼きが始まり、炭が燃料の中心となる 1100 年 風車の登場 1720 年 蒸気機関の発明 1799 年 電池の発明 1840 年 水力発電機の発明 1881 年 石炭火力発電所完成 1891 年 風力発電の登場 1951 年 原子力発電の成功 1954 年 シリコン太陽電池の発明 表1-1-1 エネルギーの歴史 1次エネルギー: 石油、石炭、天然ガス、バイオマスを含む自然エネルギー、原子力など 2次エネルギー: 液体燃料、ガス燃料、燃料電池、電気、熱など KEYWORD 1次エネルギー: 石油、石炭、天然ガス、バイオマスを含む自然エネルギー、原子力など 2次エネルギー: 液体燃料、ガス燃料、燃料電池、電気、熱など KEYWORD ▪ 12

エネルギー問題

1-1

(5)

1-1-1

トリレンマ問題

資源は、エネルギー自然資源、非エネルギー自然資源、文化資源の3つに区 分することができます。 これらはそれぞれ、 エネルギー(Energy)、 環境(Environment)、 経済 (Economics)に対応します。 経済発展や人口増加を許容するためにはエネルギーが必要ですが、エネル ギーの大量消費は環境破壊につながります。このため環境保全意識が高まり、 経済抑制や食糧危機を誘発します。 経済発展、資源・エネルギーの確保、環境の保全の三つの目標が、互いに対 立し、せめぎあうトリレンマの状態にあります(「図1-1-1 エネル ギー・環境・経済のトリレンマ問題」を参照)。 トリレンマ問題を克服するためには、新しい変化の途を探し、新しい生活や 社会、産業、技術、価値観にまで発展させることが必要です。いい換えれば、 高い次元に発想を変え、価値観を変えることによって、再び三つの目標がバラ ンスを保ち、持続可能な地球文明にまた巡り帰ってくるというプロセスを見い ださなければなりません。。 ジレンマ(dilemma):ある問題に対して2つの選択肢が存在し、そのどちらを選んでも何らか の不利益があり、態度を決めかねる状態。 トリレンマ(trilemma):どれも好ましくない三つのうちから、一つを選ばなければいけない、 という三者択一の状態。 KEYWORD ジレンマ(dilemma):ある問題に対して2つの選択肢が存在し、そのどちらを選んでも何らか の不利益があり、態度を決めかねる状態。 トリレンマ(trilemma):どれも好ましくない三つのうちから、一つを選ばなければいけない、 という三者択一の状態。 KEYWORD 経済 環境 エネルギー 環境悪化による食糧危機 経済抑制 経済活動の拡大や人口 増加に伴うエネルギー 消費拡大 エネルギー消費による 環境破壊 図1-1-1 エネルギー・環境・経済のトリレンマ問題 経済 環境 エネルギー 環境悪化による食糧危機 経済抑制 経済活動の拡大や人口 増加に伴うエネルギー 消費拡大 エネルギー消費による 環境破壊 図1-1-1 エネルギー・環境・経済のトリレンマ問題 第1章 人を不幸にする技術:これまでの技術の問題点

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1-1-2

化石エネルギーの枯渇と二酸化炭素の排出

エネルギーは大きく分類すると「太陽エネルギー」と「人間が開発したエネ ルギー」の二つに分類できます(「図1-1-2 エネルギー分類」を参照)。 人間以外の動植物は、太陽からのエネルギーを利用して生きています。一 方、人間は太陽以外のエネルギー、つまり、人間が開発したエネルギーも利用 して生きています。 人間が開発したエネルギーには、化石エネルギーと非化石エネルギーの二つ があります。 化石エネルギーには、石炭、石油、天然ガスなどがあります。一方、非化石 エネルギーには、原子力、水力、地熱、バイオなどがあります。 最初は、薪炭が使用されましたが、薪炭に比べて一箇所で大量に採掘ができ る石炭に移行していきました。特に表1-1-1で示したように、18世紀に 始まった産業革命時から蒸気機関の発明により石炭を利用した火力エネルギー の大量使用時代に突入しました。このため石炭消費による煤塵や硫黄酸化物の 発生が問題となりました。 産業革命以後は、石炭から、使いやすい液体の化石資源である石油に代わっ てきました。石油は液体であり、単位発熱量当たりの運搬や貯蔵の点で石炭よ り優れており、燃焼後の灰処理問題もなくなりました。自動車や航空機の普及 が石油依存度への動きに大きく傾きました。 現在は、燃焼時に発生する二酸化炭素や窒素酸化物の排出量が石油や石炭に 比べて少ないなどの特徴があることから、天然ガス利用が進められています。 非化石エネルギー 化石エネルギー 人間の開発エネルギー 太陽光 水力 地熱 海洋 バイオ 原子力 石油 石炭 天然ガス 地球を支える根源的エネルギー 現代を支える4大エネルギー 太陽エネルギー 図1-1-2 エネルギーの分類 非化石エネルギー 化石エネルギー 人間の開発エネルギー 太陽光 水力 地熱 海洋 バイオ 原子力 石油 石炭 天然ガス 地球を支える根源的エネルギー 現代を支える4大エネルギー 太陽エネルギー 図1-1-2 エネルギーの分類 ▪ 14

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化石エネルギーの可採年数の試算は、各機関によって若干の違いがあります が、おおむね、石油40年、天然ガス60年、石炭120年となっています。化 石エネルギーは、遅かれ早かれ枯渇することには異論がありません。 化石エネルギーの大量消費で20世紀以降には、地球温暖化物質である二酸 化炭素排出量の急増で地球環境を破壊するおそれが出てきています。 (木材、石炭、石油、天然ガス)+酸素         →二酸化炭素+水+エネルギー 二酸化炭素の大半は海水中に溶け込んでおり、全体の約2%が大気中に存在 します。近年化石エネルギー消費により年間に約0.3%(50億トン)ずつ増加 しています。このような急激な温室効果ガスの排出は抑制する必要がありま す。 温室効果ガスの排出量削減のためには、以下に示したようないろいろな方策 が必要です。 ・非化石エネルギーの使用 ・発電効率の向上による発電時の二酸化炭素ガスの発生抑制 ・省エネルギーによる発生抑制 ・発生した二酸化炭素の化学吸着法・物理吸着法による回収 ・海洋や地中への処分 ・生物を利用した二酸化炭素ガスの固定技術 ・炭素税などの導入  など 第1章 人を不幸にする技術:これまでの技術の問題点

参照

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