CODEN:HSKGAZ
広島県立総合技術研究所
食品工業技術センター
研 究 報 告
第26号 平成23年
広島県立総合技術研究所 食品工業技術センター
BULLETIN OF
HIROSHIMA PREFECTURAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
FOOD TECHNOLOGY RESEARCH CENTER
広島県立総合技術研究所食品工業技術センター研究報告
第26号 平成23年
目 次
報 文
でんぷん分解性乳酸菌
Lactobacillus plantarum A305 株の培養特性およびマルトオリゴ糖の生成
……… 藤原朋子・山内慎也・土屋義信 …… 1
酒母製造に利用可能な乳酸菌の選抜 ……… 藤原朋子・藤井一嘉・外薗寛郎 …… 7
超音波画像解析によるゆで卵の異物検出
……… 渡邊弥生・塩野忠彦・橋本顕彦・青山康司 …… 17
ノート
県内酒造場の山廃酛から分離した乳酸菌とその性質 ……… 藤原朋子 …… 23
超音波画像解析によるカキ異物検出法の開発
……… 橋本顕彦・渡邊弥生・塩野忠彦・青山康司 …… 29
抄 録
……… 33
BULLETIN OF HIROSHIMA PREFECTURAL
TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
FOOD TECHNOLOGY RESEARCH CENTER
Contents
NO.26 2011
Originals
Cultural characteristics of amylolytic
Lactobacillus plantarum A305 and
production of maltooligosaccharides
……… Tomoko Fujiwara, Shinya Yamauchi and Yoshinobu Tsuchiya …… 1
Selection of lactic acid bacteria suitable for producing
shubo or sake starter
……… Tomoko Fujiwara, Kazuyoshi Fujii and Hiroo Hokazono …… 7
Ultrasonographic detection of foreign bodies in boiled eggs
… Yayoi Watanabe, Tadahiko Shiono, Akihiko Hashimoto and Yasushi Aoyama …… 17
Notes
Lactic acid bacteria isolated from
Yamahai-moto of the sake brewer
in Hiroshima Prefecture and their characteristics
……… Tomoko Fujiwara …… 23
Development of a method for using ultrasonography to detect foreign bodies in oysters
………… Akihiko Hashimoto, Yayoi Watanabe, Tadahiko Shiono and Yasushi Aoyama …… 29
1 Bulletin of Hiroshima Prefectural Technology Research Institute Food Technology Research Center No. 26(2011)〔報文〕
*広島県西部厚生環境事務所
* Hiroshima Prefecture Western Office of Health, Welfare and
Environment 維持すると報告している.さらに,可溶性でんぷんからの 分解生成物は,グルコース(G1),マルトース(G2)も存 在するが , 主要なものはマルトオリゴ糖のマルトトリオー ス(G3),マルトテトラオース(G4),マルトペンタオー ス(G5)であることを報告している. マルトオリゴ糖は,低甘味,高粘性を示し,G3や G4は 特にでんぷんの老化抑制効果を有する9).また,人に対す る機能性として,G4の摂取により腸内環境を改善する効 果が認められている10).一方,乳酸菌そのものは,整腸作 用や血中コレステロール低減作用,血圧降下作用など人の 健康に役立つとされている11). 著者らはこれまでに,小麦フスマから,可溶性でんぷん を単一炭素源とした培地で増殖する L. plantarum A305株 を単離している12).本菌株について,可溶性でんぷんを炭 素源とした培地で,マルトオリゴ糖の生成がみられた. そこで,本研究では,食品,飲料等に利用可能な,マル トオリゴ糖を高含有する乳酸発酵物製造を目的に,L. plantarum A305株を用い,でんぷんを原料としてマルト オリゴ糖を高生成する培養方法について検討した. 近年,乳など動物由来資源での発酵に関わる乳酸菌の他 に,野菜,果物など植物資源で増殖可能な乳酸菌を用いた 発酵が注目され,様々な発酵食品やリキッド飼料などの開 発に利用されている1).また,植物資源の中で重要な位置 を占めるでんぷんを分解・利用できる乳酸菌として, Lactobacillus 属では , L. amylovorus2), L. manihotivorans3), L. cellobiosus4), L. plantarum5) 6)などが報告されている. 特に,Giraud7)らは,発酵キャッサバから分離した L. plantarum A6株が,生でんぷんを分解すると報告してい る.この A6株は,pH6を保持すると菌体外で高いα - ア ミラーゼ活性を示すが,乳酸の生成に伴い,培養液の pH が3.5に低下すると,α - アミラーゼ活性が低下し,ほとん どでんぷんを分解できなくなると報告されている.一方, Minerva ら8)は,魚と米の発酵食品から分離された L. plantarum L137株のでんぷん分解酵素を精製し,その酵 素の至適温度と至適 pH は,それぞれ35℃および pH3.8~ 4.0であり,20~45℃および pH3.5~5.0の範囲で高活性を
でんぷん分解性乳酸菌 Lactobacillus plantarum A305株の培養特性
およびマルトオリゴ糖の生成
藤原朋子・山内慎也
*・土屋義信
Cultural characteristics of amylolytic Lactobacillus plantarum A305 and production of
maltooligosaccharides
Tomoko Fujiwara, Shinya Yamauchi* and Yoshinobu Tsuchiya
Lactobacillus plantarum A305, an amylolytic lactic acid bacterium isolated from wheat bran, produces maltooligosaccharides in soluble starch culture media. We examined conditions in which maltooligosaccharides were produced from soluble starch in the culture using the A305 strain, with the aim of producing maltooligosaccharides in high content. MRS medium in which the carbon source was replaced by soluble starch was used as the culture medium. The A305 strain was cultured at 37℃ in 900 ml of MRS medium, inoculated with 100 ml of A305 preculture medium. The mixture was agitated at 100 rpm. In the pH 6.5-controlled culture, growth stopped at an early culture stage, due to the low activity of amylolytic enzymes; no accumulation of maltooligosaccharides was observed. In the pH 4.5- and 5.0-controlled cultures, growth continued until the soluble starch added as the carbon source was completely consumed. As for the production of maltooligosaccharides, some amounts of G3, G4 and G5 were produced, but they disappeared as the A305 strain increased. In the presence of viable A305 in the culture medium, G1 and G2 were consumed by viable A305; the remaining maltooligosaccharides were mostly G3 and G4. To accumulate G3 and G4 as major maltooligosaccharides in the culture medium, we needed - after promoting the increase of the A305 strain and the production of amylolytic enzymes - to maintain the pH at the level low enough to suppress A305 growth but high enough for the strain to remain viable.
培養液中のでんぷん分解酵素活性の存在画分を明らかに するために,MRS- 可溶性でんぷん培地で37℃,24時間, pH 無制御で A305株を培養した培養液について,菌体を 含む培養液,培養液の遠心上清および遠心回収菌体を用い てでんぷん分解酵素活性を測定した.酵素活性測定の反応 液は,100mmol/L 酢酸緩衝液(pH5.0)5ml,2%(w/v) 可溶性でんぷん水溶液4ml,検体1ml の全量10ml とした. pH4.5~4.6,37℃で6時間または30分間酵素反応させ,沸 騰水中で5分間加熱することにより酵素反応を停止し,反 応液中の残存でんぷん量と,マルトオリゴ糖およびグル コース量を測定した.残存でんぷん量は,ヨウ素-でんぷ ん結合色により測定し,30分間で10mg の可溶性でんぷん を分解する酵素量を1unit とし15),これにより酵素活性を 比較した.マルトオリゴ糖およびグルコース量は,既述の 培養液の成分分析と同様に,高速液体クロマトグラフによ り 行 っ た. な お, 培 養 液 の 遠 心 分 離(KUBOTA6900, RA-400ロータ)は,4 300× g,4℃で10分間行った. ⅱ)でんぷん分解酵素反応におよぼす pH の影響 でんぷん分解酵素反応に及ぼす pH の影響を明らかにす るため,酵素反応液の pH を緩衝液の変更により調整した. す な わ ち, 反 応 液 の pH を pH2.2~3.0と す る た め に 100mmol/L グリシン-塩酸緩衝液を,pH4.0~5.5とする ために100mmol/L 酢酸緩衝液を,pH6.5~8.0とするため に100mmol/L リン酸緩衝液をそれぞれ用いて調整した. 実 験 結 果 1.pH 無制御培養(初発可溶性でんぷん濃度20g/L) 初発可溶性でんぷん濃度を20g/L とした,pH 無制御下 での A305株の培養結果を図1に示した.培養開始後,pH は,初発の6.7から乳酸の生成とともに低下した.培養9時 間後には pH4.1となり,24時間後には pH3.7に低下した (図1- ⅰ).菌体濃度は,培養9時間で静止期に達し,2.5g/ L となり,その後は増加しなかった.一方,全糖は,培養 9時間後には8.3g/L に低下し,24時間後には全て消費され た.乳酸は,9時間後には18g/L,24時間後には25g/L に 達した(図1- ⅲ).また,培養中期では,培養液中に,マ ルトトリオース(G3),マルトテトラオース(G4),マル トペンタオース(G5)が検出されたが,24時間後にはす べて消失した(図1- ⅱ).グルコース(G1),マルトース (G2)およびマルトヘキサオース(G6)からマルトデカ オース(G10)のマルトオリゴ糖(G6~G10)は検出され なかった. 2.pH 制御培養 ⑴ pH6.5での培養 初発可溶性でんぷん濃度20g/L とし,培養液の pH を6.5 に維持した培養結果を図2-a に示した.A305株の増殖速度 は小さく,また,培養7時間後には,培地中の全糖が約 18g/L 残存しているにもかかわらず,菌体の増殖および糖 実 験 方 法 1.供試乳酸菌
小麦フスマから分離した Lactobacillus plantarum A305 株(以下,A305株とする)12)を,供試乳酸菌として用い た.A305株は,可溶性でんぷん,α化でんぷん,生小麦 でんぷん,米粉およびパン粉等のでんぷん源を発酵して乳 酸を生成する.本菌株は,10%グリセロール中に菌体を懸 濁後,-80℃で凍結保存し,随時復元して試験に供した. 2.培地および培養条件 供試培地には,MRS 培地13)の炭素源をグルコースから 可溶性でんぷん(和光一級でんぷん(溶性))に代えたも の(以下,MRS- 可溶性でんぷん培地とする)を用いた. なお,培地は,調製時に可溶性でんぷんも同時に溶解し, pH7.0に調整後,120℃15分間オートクレーブ殺菌した(殺 菌培地とする).培養は,全容量2L のジャーファメンター (三ツワ MINI-JAR-FERMENTOR KMJ)を用い,実容量 1L,37℃,無通気で,pH 制御あるいは pH 無制御の回分 方式で行った.pH 制御を行う場合は,pH コントローラー により,2mol/L 水酸化ナトリウム水溶液を添加し,所定 の pH,すなわち pH6.5,pH5.0および pH4.5に維持した. なお,培養中は,培養液を均一にするため100rpm で穏や かな攪拌を行った.前培養は,MRS- 可溶性でんぷん培地 (可溶性でんぷん20g/L)100mL を入れた300mL 容三角フ ラスコを用いて,30℃,24時間の静置培養で行った.実容 量の10%(v/v)量の前培養液100ml を殺菌培地900ml へ 接種した.培地 pH は5.5程度に低下したため,水酸化ナト リウム水溶液の添加で,初発 pH を約6.5に調整して培養を 開始した. 3.分析方法 ⑴ 培養液の成分分析 マルトオリゴ糖の生成条件について検討するため,各種 条件で培養中の培養液をサンプリングし,光学的濁度(以 下 O.D.),乾燥菌体量,乳酸量,全糖量,マルトオリゴ糖 量およびグルコース量を測定し,経時変化を調べた.O. D. は,波長660nm で,サンプリングした培養液を殺菌培 地により希釈して測定した.また,乾燥菌体量は,あらか じめ作成した O.D.660nmと乾燥菌体濃度との関係より求め た.乳酸量は,F-kit L- 乳酸 /D- 乳酸測定キット(J.K. イ ンターナショナル)を用いて測定し,全糖量はグルコース 量としてフェノール - 硫酸法で測定した14).マルトオリゴ 糖 お よ び グ ル コ ー ス 量 は, 高 速 液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ (HITACHI L-6000型)により,Shodex Asahipak NH2P-50
4E カラム(4.6×250mm),HITACHI L-3300 RI Monitor, 溶離液アセトニトリル / 水(60/40),流速1.0mL/min,温 度30℃で測定した.
⑵ でんぷん分解酵素活性
3 藤原・他:乳酸菌によるマルトオリゴ糖生成 の消費,乳酸の生成ともほぼ停止した(図2-a- ⅲ).マル トオリゴ糖は,G3,G4,G5が培養3,4時間後までわずか に検出された(図2-a- ⅱ).pH6.5の中性域では,でんぷん を基質とした乳酸発酵は,全糖が初発濃度の半分以上残存 した状態からほとんど進まなかった. ⑵ pH5.0での培養 次に,培養液の pH を酸性域に制御した A305株の培養 について検討した.A305株は,pH 無制御培養において, 乳酸の生成に伴い pH が低下したときには,でんぷんを分 解した(図1)ことから,酸性域では分解がすすむことが 予想されたため,でんぷんの消費量が大きくなることを想 定し,初発可溶性でんぷん濃度を40g/L に増加して培養実 験を行った. 初発可溶性でんぷん濃度を40g/L とし,前培養液接種 後,2mol/L の水酸化ナトリウム水溶液の添加による pH 調整を行うことなく,pH5.6で培養を開始し,pH5.0に低 下後は,pH5.0で維持して培養を行った結果を図2-b に示 した.pH は,培養3時間後に5.0となった.培養24時間後 には全糖は全て消費され,乳酸は46g/L に,菌体濃度は 4.8g/L に達した(図2-b- ⅲ).このように,pH を5.0に制 御した条件下では,A305株の増殖は停止することなく, 糖を全て消費した.培養液中には,培養初期に G1と G2が わずかに検出され,培養中期に G3,G4,G5が多く検出さ れ,培養5時間後のマルトオリゴ糖濃度は,G3が3.6g/L, G4が4.4g/L,G5が2.2g/L であった(図2-b- ⅱ).しかし, 図1 Lactobacillus plantarumA305株の pH 無制御培養 (初発可溶性でんぷん濃度20g/L) ⅰ pH の変化 ⅱ マルトオリゴ糖濃度の変化 ⅲ 全糖,乳酸および菌体濃度の変化 ◆,マルトトリオース (G3);■,マルトテトラオース (G4); ▲,マルトペンタオース (G5);□,全糖;△,乳酸; ●,菌体 . 図2 LactobacillusplantarumA305株の pH 制御培養 (a) pH6.5制御(初発可溶性でんぷん濃度20g/L) (b) pH5.0制御(初発可溶性でんぷん濃度40g/L) (c) pH4.5制御(初発可溶性でんぷん濃度40g/L) ⅰ pH の変化 ⅱマルトオリゴ糖濃度の変化 ⅲ全糖,乳酸および菌体濃度の変化 +,グルコース(G1);×,マルトース(G2);◆,マルトトリオース(G3); ■,マルトテトラオース(G4);▲,マルトペンタオース(G5);□,全糖;△,乳酸;●,菌体 .
れたこと(図2-b,2-c)から,実現場を想定して pH 制御 を行わない培養を行うこととした.その結果を図3に示し た.初発可溶性でんぷん濃度20g/L の培養(図1)と同様 に,pH は,初発の6.5から,乳酸の生成とともに低下し, 24時間後には3.7となった(図3- ⅰ).菌体濃度の推移から, 菌体の増殖は培養10時間後にほぼ停止した.培養24時間後 には,全糖の低下および乳酸の生成は共にほぼ停止し,以 降,菌体濃度,全糖および乳酸濃度は,培養48時間後まで ほとんど変わらず横ばいで推移した(図3- ⅲ).初発可溶 性でんぷん濃度100g/L でも,増殖速度に影響は認められ なかった.しかし,増殖がほぼ停止した培養10時間以後 も,G3,G4は増加し,24時間後にはそれぞれ14g/L およ び12g/L に達した.また,G5は,培養10時間後までは増 加したが,その後減少した.一方,G1,G2は,培養8~10 時間にわずかに検出されたのみであった.培養48時間後に は,マルトオリゴ糖は,G3が21g/L,G4が13g/L まで増 加したが,G5は逆に0.7g/L まで減少した(図3- ii). 4.でんぷん分解酵素活性 ⑴ 培養液中のでんぷん分解酵素活性とマルトオリゴ糖 の生成 A305株の生成するでんぷん分解酵素の活性画分を検討 するため,菌体を含む培養液,培養液の遠心上清および遠 心回収菌体について,でんぷん分解酵素活性を測定した. 37℃で6時間反応させたときの,反応液中のマルトオリゴ 糖量を図4に示した.遠心回収菌体をでんぷん分解酵素反 応に用いると,G1~G5は検出されなかった.一方,菌体 を含まない遠心上清をでんぷん分解酵素反応に用いると, G1~G5が生成された.すなわち,供試した A305株のでん ぷん分解酵素活性は,菌体ではなく菌体外に認められた. しかし,菌体を含む培養液の場合には,G3~G5が検出さ れたが,G1および G2は検出されなかった. ⑵ でんぷん分解酵素反応に及ぼす pH の影響とマルト オリゴ糖の生成 24時間後にはマルトオリゴ糖は全て消失した. ⑶ pH4.5での培養 初発可溶性でんぷん濃度を40g/L とし,培養を pH5.6で 開始し,培養5時間後に pH4.5に低下後は,pH4.5に維持し た培養結果を図2-c に示した.菌体の増殖量は,pH5.0とし た培養に比べて小さく,培養24時間後の菌体濃度は4.2g/L であった(図2-c- ⅲ).一方,培地中の全糖は,培養24時 間後でも,約8g/L 残存し,乳酸は42g/L となった.培地 中のマルトオリゴ糖は,培養9時間後では,pH5.0で培養し た場合に比べ多く生産され,G3が7.1g/L,G4が6.8g/L, G5が0.3g/L 検出された.しかし,24時間後には,G3は1.4 g/L,G4は0.4g/L まで低下した(図2-c- ⅱ).また,G2は 培養初期にわずかに検出されたのみであった. 3.pH 無制御培養(初発可溶性でんぷん濃度100g/L) 既述のように,pH6.5に制御した培養に比べ,pH5.0お よび pH4.5の酸性域での培養では,でんぷんの全てあるい は大部分が分解され,また,培養5時間または9時間後に, マルトオリゴ糖の大幅な増加が認められた.しかし,それ 以後は,いずれの場合もマルトオリゴ糖は減少した.そこ で,培養液中に過剰なでんぷんが存在する環境下で,マル トオリゴ糖の生成の推移をみるため,初発でんぷん濃度を 100g/L とした培養を行った.なお,pH5.0以下4.0付近の 範囲の酸性領域では,効率的なマルトオリゴ糖生産がみら 図3 LactobacillusplantarumA305株の pH 無制御培養 (初発可溶性でんぷん濃度100g/L) ⅰ pH の変化 ⅱ マルトオリゴ糖濃度の変化 ⅲ 全糖,乳酸および菌体濃度の変化 +,グルコース (G1);×,マルトース (G2);◆,マルトト リオース (G3);■,マルトテトラオース (G4);▲,マルト ペンタオース (G5);□,全糖;△,乳酸;●,菌体 . 図4 LactobacillusplantarumA305株の培養液中のでんぷん分解 酵素活性とマルトオリゴ糖の生成 (可溶性でんぷん0.8%(w/v),37℃,pH4.6,6時間反応) N.D. は不検出を示す.定量下限0.05g/L(0.005%).
5 藤原・他:乳酸菌によるマルトオリゴ糖生成 は,でんぷんを炭素源として消費し終えるまで増殖可能で あった.すなわち,この pH 域は,菌体の増殖には最適な pH 域ではないものの,増殖が停止する pH ではないため, でんぷん分解酵素の働きによりでんぷんは G1,G2にまで 分解され,菌体はこれらの糖を取込んで増殖したものと考 えられた.pH5.0と pH4.5での培養を比較すると,pH5.0で 増殖量が多かったのは,pH5.0の方がより菌体の増殖に適 する pH であったためと考えられた.マルトオリゴ糖につ いては,pH5.0および pH4.5において,培養中期では顕著 な生成がみられていたにもかかわらず,その後は減少し, 24時間後にはほぼ全量が消費された.G3~G5のマルトオ リゴ糖も,でんぷん分解酵素による作用が進行すると分解 され,菌体により消費される.すなわち,G3~G5の生成 には,菌体の増殖とでんぷん分解酵素活性のバランスを考 えた pH 制御が重要であることが示唆された. 可溶性でんぷん100g/L とした高濃度の炭素源で pH 無 制 御 培 養( 図3) し た 場 合,pH が3.7ま で 低 下 す る と, A305株の増殖はほぼ停止したが,G3,G4の生成量は増加 していった.菌体量の増加により,でんぷん分解酵素が十 分に生産されるとともに,pH の低下で増殖がほぼ停止し た後も,でんぷん分解酵素が作用する pH 域は十分維持さ れたものと考えられた. 培養液中に含まれる菌体を取除いた遠心上清による酵素 反応(図4)では,生成される G1,G2はそのまま存在す るが,菌体が共存する培養液による酵素反応では消失し た.上記,菌体の増殖がほぼ停止していた場合(図3)に も,菌体の増殖は停止していたが,菌体が死滅していたわ けでない.そのため,でんぷん分解酵素の作用は持続し, 生成した G1,G2は菌体に取込まれて維持代謝に消費され, マルトオリゴ糖として,ほぼ G3と G4のみになったと考え られた. このようにでんぷん分解酵素が生産され,かつでんぷん が供給されている場合,菌体の増殖が停止し,生菌体が存 在している環境,すなわち pH4程度の酸性域の条件下で は,でんぷんから生成した G1,G2は,維持代謝のため, 菌体により取込まれて消費され,その結果,G3,G4の蓄 積が可能になると考えられた.したがって,A305株を用 いて,回分培養系で可溶性でんぷんからマルトオリゴ糖を 蓄積するには,以下の条件が必須である.pH 中性域から 培養を開始し,培養前期で菌体増殖を図り,でんぷん分解 酵素の生産を促すと同時に,乳酸生成させることにより pH を4程度に低下させる.これにより,菌体の増殖を抑 え,マルトオリゴ糖量が最大になった時点で,加熱等によ り酵素反応を停止させることである. Lactobacillus 属のでんぷん分解酵素による分解産物と して,マルトオリゴ糖が生成されることは,Minerva ら によっても報告されている8).しかし,培養によってマル トオリゴ糖の蓄積を示した例はない.食品製造に利用され 培養液の遠心上清中に含まれるでんぷん分解酵素につい て,反応液の pH を調整し,酵素反応に及ぼす pH の影響 を調査した結果を図5に示した.でんぷん分解酵素活性は, pH4.5~5.0で最も高く(図5-a),G3~G5のマルトオリゴ糖 も多く生成された(図5-b).なお,この反応に用いた培養 液の遠心上清の酵素活性は,0.3unit/mL であった. 考 察 本研究において,A305株を用いた培養試験における増 殖停止(図1,図3)の要因は,炭素源の欠乏または pH の 低下,およびその両方と考えられた.乳酸の生成により, pH が3.7程度に低下すると,糖が存在しても増殖が停止し た(図3). 培養液の pH を中性域(pH6.5)に制御して培養を行っ た場合(図2-a),菌体の増殖が遅く,糖が残存しているに もかかわらず培養8時間後に増殖が停止した.この培養に おいて,でんぷんの分解産物であるマルトオリゴ糖量をみ ると,培養初期に少し検出されたのみであった.本培養で 維持した pH6.5においては,でんぷん分解酵素活性が低い (図5)ため,グルコースおよびマルトオリゴ糖の供給が追 いつかなかったものと考えられた.これら少量の糖は,培 養液中に存在する菌体によって消費されたため,菌体の増 殖には適する pH にもかかわらず,炭素源の欠乏で増殖が 停止したと考えられた. これに対し,酸性域の pH5.0および pH4.5といったでん ぷん分解酵素の至適 pH を維持した培養(図2-b,2-c)で 図5 LactobacillusplantarumA305株のでんぷん分解酵素反応に 及ぼす pH の影響とマルトオリゴ糖の生成(可溶性でんぷ ん0.8%(w/v),37℃,30分間反応) (a) 最大酵素活性を100としたときの相対活性 (b) 反応液中のマルトオリゴ糖生成量 ×,マルトース (G2);◆,マルトトリオース (G3);■,マ ルトテトラオース (G4);▲,マルトペンタオース (G5).
G3とG4を主なマルトオリゴ糖として蓄積するためには, まず菌体の増殖を図り,でんぷん分解酵素を多量に生産さ せてでんぷんを分解し,次いで菌体により生成される乳酸 で菌体の増殖を抑え,生菌体が生存可能な,pH4程度の低 pH にすることが必要であった. 文 献 1) 岡田早苗,植物性乳酸菌世界とその秘める可能性,日本乳 酸菌学会誌 , 13(1), 23-35 (2002).
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14) 根岸由紀子,全糖の定量,「新 食品分析ハンドブック」,第 1版,菅原龍幸,前川昭男監修,(健帛社,東京),pp.103-104(2000).
15) Giraud, E., L. Gosselin, B. Marin, J. L. Parada, and M. Raimbault., Purification and characterization of an extracellular amylase from Lactobacillus plantarum strain A6. J. Appl. Bacteriol., 75, 276-282 (1993).
16) 鈴木綾子,新しい食品糖質と調理・食品加工,「糖質の科 学」,第1版,新家龍,南浦能至,北畑寿美雄,大西正健編, (朝倉書店,東京),pp.141-145(1996). ているマルトオリゴ糖は,でんぷんを原料としてα - アミ ラーゼで液化反応を行った後,特定のマルトオリゴ糖を生 成するアミラーゼと,プルラナーゼやイソアミラーゼ等の 枝切り酵素を併用して糖化反応を行い,その後,濾過,脱 色,脱イオン精製,膜濾過,濃縮工程等を経て製造される ものが多い9).このようなマルトオリゴ糖シロップを,菓 子の保湿効果や,貯蔵による老化防止に利用する場合,砂 糖の25~30%代替が可能である16).パンやスポンジ生地へ の利用は,粉の量に対し,6~7%の利用となる9).今回の 検討結果では,マルトオリゴ糖の蓄積は,G3と G4を合わ せても,培養液中で3%程度が最大であった.今後,G3, G4を主とするマルトオリゴ糖を高含有する乳酸発酵物を, 食品,飲料等の製造へ利用するためには,さらなるマルト オリゴ糖の高濃度生成が必要となり,培養条件の検討を要 する. 要 約 マルトオリゴ糖を高含有する乳酸発酵物製造の基礎とす るために,でんぷん分解性乳酸菌 Lactobacillus plantarum A305株を用いた培養による可溶性でんぷんからのマルト オリゴ糖生成条件の検討を行った. pH 無制御で,可溶性でんぷんを炭素源とした培養では, 培養液中にマルトトリオース(G3),マルトテトラオース (G4),マルトペンタオース(G5)が一時検出されたが, その後,培養液から消失した. 培養液の pH を中性域(pH6.5)に制御すると,A305株 の増殖は培養早期に停止し,マルトオリゴ糖の蓄積も認め られなかった.pH6.5では,でんぷん分解酵素の作用が不 十分なため,グルコースやマルトオリゴ糖の供給不足によ り増殖が停止したと考えられた. 培養液の pH を酸性域の pH4.5および pH5.0に制御した 培養では,炭素源として可溶性でんぷんを消費し終えるま で,A305株は増殖可能であった.一方,マルトオリゴ糖 は,G3,G4,G5が途中である程度生成したが,菌体の増 殖に伴い培養液から消失した. 高濃度に可溶性でんぷんを投入した pH 無制御下での培 養では,A305株の増殖は,pH3.7程度に低下した時点で停 止した.しかし,その後もでんぷんの分解酵素の作用は続 き,G3,G4の蓄積が進行した. A305株を用いた培養液の,遠心上清中に含まれるでん ぷん分解酵素による可溶性でんぷんの分解では,G3,G4 を主として G1~G5までのマルトオリゴ糖が生成された. 一方,でんぷん分解酵素反応液中に,生菌体が存在する条 件下では,ほぼ G3と G4のみが検出され,G1,G2は菌体 により取込まれて消費されたと考えられた.また,A305 株のでんぷん分解酵素活性は pH4~5の範囲で高かった.
7 Bulletin of Hiroshima Prefectural Technology Research Institute Food Technology Research Center No. 26(2011)〔報文〕
清酒醸造では,醪の雑菌や野生酵母汚染を防止し,健全 な発酵を行なうために酒母が製造される.酒母は,優良清 酒酵母を高密度に含むことと,多量の乳酸を含むことが備 えるべき重要な条件となる.酒母製造法は二つに区分され る.蒸米,米麹を仕込み水に仕込み,微生物叢の遷移の中 で,乳酸菌により乳酸を生成させる,伝統的製法である生 酛系酒母と,仕込み時に乳酸と酵母を同時に添加して酒母 を速成する,現在主流の速醸酛系酒母である. 生酛系酒母製造では,自然由来の硝酸還元菌や乳酸菌の 増殖を促し,雑菌のいない良好な環境を作り出す.しか し,使用する麹,水の菌叢や菌数が大きく影響するため, 安定性に乏しい.このため,微生物の遷移を不確定な自然 増殖の制御によらず,人為的に硝酸還元菌や乳酸菌を添加 することにより,生酛系酒母製造を安定化させようとの試 みがなされてきた1)~5).これらの試みは,生酛系酒母製造 を行っている酒造場においては,硝酸還元菌や乳酸菌が順 調に増殖しない場合に有効な手段と考えられる.しかし, 伝統的な生酛系酒母の製造方法は,時間と手間がかかるこ とには変わりがない. 生酛系酒母における乳酸菌の役割は,乳酸を生成するこ とが第一であるが,それ以外の効果についても研究が進ん でいる.例えば,乳酸菌が死滅する過程で溶出する,細胞 壁成分のテイコ酸が,蒸米溶解を促進すると報告されてい る6)7).また,乳酸を直接添加する速醸酛系酒母に対して, 生酛系酒母では,乳酸菌の増殖に伴う乳酸生成がおこるた め,酒母の pH 経過が異なり,アミノ酸含量が高いと報告 されている8)9).このため,生酛系酒母による製成酒では, 酒母由来の高含有アミノ酸により,酵母によるペプチド取 込が抑えられ,ペプチド含量が高いと報告されている10). さらに,生酛系酒母中の酵母は,アルコール耐性が強いた め,醪末期までよく発酵し,細胞死滅に伴う細胞成分の漏 出が少ないとされている.このアルコール耐性の強さは, 酵母の細胞膜の特徴的なリン脂質組成によるもので,これ は生酛由来の乳酸菌の増殖に起因することが報告されてい る11)~13).このように,生酛系酒母の特徴は,乳酸菌が増 殖して生成する乳酸だけによるものではないことが示され てきた. そこで,本研究では,速醸酛系酒母製造方法で,従来の 乳酸添加の代わりに,乳酸菌により乳酸を生成させ,併せ て乳酸菌の乳酸生成以外の効果を発現させる利用の仕方を 検討することとした.すなわち,生酛系酒母製造におけ る,低温仕込みや硝酸還元菌の増殖は省いて,乳酸菌の増 殖により酒母製造を行うものである.添加する乳酸菌に求 められる培養特性は,酒母成分に近いと考えられる麹汁成
酒母製造に利用可能な乳酸菌の選抜
藤原朋子・藤井一嘉 *・外薗寛郎 **
Selection of lactic acid bacteria suitable for producing shubo or sake starter
Tomoko Fujiwara, Kazuyoshi Fujii* and Hiroo Hokazono**
To select lactic acid bacteria strains that can be substituted for lactic acid to be added in the process of producing shubo or sake starter in the sokujo-moto method, a modern procedure for sake brewing, we cultivated 103 strains of lactic acid bacteria possessed by our Research Center on four different culture media. After the selection, shubo preparation and pilot-scale sake brewing were performed, using selected strains. The ingredients of the prepared shubo and brewed sake were then evaluated.
Fifteen strains were selected that met the following four criteria: viable in koji extract, not viable in 10% alcohol, viable in 20% glucose and can be cultured with koji extract alone.
In shubo producing method in which lactic acid bacteria strains were added before yeast inoculation at 20°C, five Lactobacillus strains (L. sakei NBRC3541, L. curvatus B1, L. brevis 021101A, L. manihotivorans LMG18011 and L. plantarum 011029A) were selected. One more strain (Leuconostoc mesenteroides A2) was selected in the method in which lactic acid bacteria and yeast were added simultaneously. With these strains, we were able to produce shubo and sake of the same quality to those produced with the sokujo-moto method.
* 広島県立総合技術研究所農業技術センター
* Hiroshima Prefectural Technology Research Institute
Agricultural Technology Research Center
**広島県東部農業技術指導所
** Hiroshima Prefecture Eastern Center for Agricultural
表1 供試した乳酸球菌株および麹汁調整培地における生育性
麹汁調整培地生育性 選抜 菌株 属種 分離源 形態 発酵形式 10℃ 20℃ 30℃ NBRC102481 Leuconostoc mesenteroides subsp. sake 酒母 球 hetero + + - ※ *A1 Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides 山廃もと 球 hetero + + + ※ *A2 Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides 山廃もと 球 hetero + + + ※ *A3 Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides 山廃もと 球 hetero + + + ※ *23G-3 Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides ナシ皮 球 hetero + + ++ ※
JCM6124 Leuconostoc mesenteroides fermenting olives 球 hetero - + - b10 Leuconostoc mesenteroides タイ発酵食品 球 hetero + - - b41 Leuconostoc pseudomesenteroides タイ発酵食品 球 hetero + + - NBRC12007 Lactococcus lactis 球 homo - - - k1-1 Lactococcus lactis タイ発酵食品 球 homo - + + ※ Sa-13 Lactococcus lactis タイ発酵食品 球 homo - + - 68 Enterococcus faecalis タイ発酵食品 球 homo - - - b8 Enterococcus gallinarum タイ発酵食品 球 homo - - - Sa-6 Enterococcus gallinarum タイ発酵食品 球 homo - - - JCM8729 Enterococcus hirae 球 homo - - - Sa-5 Enterococcus hirae タイ発酵食品 球 homo - - - JCM20119 Pediococcus acidilactici 球 homo - - - Sa-2 Pediococcus acidilactici タイ発酵食品 球 homo - - + Sa-1 Pediococcus acidilactici タイ発酵食品 球 homo - - + JCM20109 Pediococcus pentosaceus Dairy products 球 homo - + - *4G-1 稲わら積上げ 球 hetero - + - *17G-1 埋土カリン 球 - - - *18G-5 埋土カリン 球 - - - *19G-6 埋土ハッサク 球 - - - *20G-21 イチジク皮 球 hetero - - + *25G-1 ミニトマト 球 - - - *29G-1 比治山土 球 - - - *30G-1 ドングリ 球 - - - *34G-1 米白ぬか 球 - - - *35G-1 精米 球 - - - *42G-1 埋土果皮 球 - - - *48G-1 ブドウ葉 球 - - - *67G-1 稲わら 球 - - - *73G-1 稲刈り後青葉 球 - - - 乳技510 球 - - - *54122 球 - - - *54123 球 - - - *は,当センター分離株を示す.他は微生物資源保存施設から入手あるいは分譲にて入手した株を示す. 生育性は,30℃で1日,20℃で2日,10℃で7日以内で増殖がみられた場合に ++,30℃で2日,20℃で3日,10℃で14日以内で増殖がみら れた場合に+,増殖にそれ以上の日数を要した,または増殖しなかった場合に-と判定した. ※は,選抜株(生育性および分離源,属種から選択)を示す.
9 藤原・他:酒母製造に利用可能な乳酸菌選抜 分中での生育が可能で,火落ちの原因菌となり得ないよう アルコール感受性を有し,酒母の濃糖環境で増殖できる特 徴を有することと考えられる.さらに,酒母へ添加する際 に望ましい麹汁での培養可能性を調査することとした。以 上の条件を満たす乳酸菌株を,当センターが保有している 様々な分離源由来の乳酸菌株の中から選抜し,酒母作製試 験および清酒小仕込試験での適性について検討した結果を 報告する. 実 験 方 法 1.供試菌株 様々な分離源から当センターにて分離した乳酸菌株,あ るいは微生物資源保存施設から入手した株(NBRC 株, JCM 株)および他所からの分譲株を含む,乳酸菌103株を 供試した(表1,2).乳酸菌株は,10%グリセロールに懸 濁し凍結保存したものを随時復元し,以下の培養試験に供 した. 2.培地および培養法 培地は,M.R.S.broth 培地(関東化学)を1/2濃度で調製 した培地(以下,1/2MRS 培地とする)および次に示す麹 汁培地あるいは麹汁調整培地を用いた.麹汁培地は,乾燥 麹(徳島製麹)3 500g に水15L,酵素剤グルコアミラー ゼ・アマノ4g を加え,55℃で1晩おき,ろ過により固形分 を 除 去 し た 麹 汁(Brix16.1 %, グ ル コ ー ス 濃 度12.9 %, pH4.8)をそのまま培地とした.麹汁調整培地は,麹汁を 2倍希釈し,リン酸水素二カリウムで pH7.2に調整した培 地とした. 麹汁成分中での生育性試験には,麹汁調整培地を試験培 地として用いた.アルコール感受性試験には,エタノール 0,2.5,5,7.5および10%を添加した1/2MRS 培地を用い た.濃糖耐性試験には,グルコース濃度を2,10,20,25, 30および35%とした1/2MRS 培地を試験培地として用い た.麹汁での培養可能性をみるための麹汁のみでの生育性 試験には,麹汁培地を用いた. 以上の各生育性試験は,各試験培地10ml に,各菌株の 前培養液0.1ml を接種して,30℃にて3~14日間静置培養 した.前培養は,10%グリセロール凍結保存菌株を滅菌つ まようじを用い,1/2MRS 培地2ml に接種して,30℃で3 日間静置培養した.なお,麹汁成分中での生育性試験(麹 汁調整培地における生育性試験)は,30℃に加えて,10℃ および20℃の各温度でも培養した.生育性の判定は,培地 の濁度により増殖量を判断し,生育に要した日数と合わせ て行った.すなわち,麹汁調整培地における生育性試験で は,30℃,20℃および10℃それぞれで,1日,2日,7日で 増殖がみられた場合に ++,2日,3日,14日で増殖がみら れた場合に+,それ以上の日数を要する場合を-と判定し た.アルコール感受性試験,濃糖耐性試験および麹汁のみ での生育性試験(麹汁生育性試験)では,30℃,3日間培 養で,1/2MRS 培地(エタノール0%,グルコース2%)と 同程度の増殖がみられた場合に+,増殖の抑制あるいは遅 延がみられた場合に±,増殖がみられなかった場合を-と 判定した.麹汁生育性試験における酸生成は,培養液の 0.1mol/L 水酸化ナトリウムによる中和滴定量(ml)で示 した. 3.酒母作製および清酒小仕込試験 前記の麹汁調整培地における生育性,アルコール感受 性,濃糖耐性,および麹汁生育性の各試験により選抜した 乳酸菌株を用いて,酒母作製と,これによる清酒小仕込試 験を行い,酒母製造への利用可能性について検討した. ⑴ 小規模酒母作製試験 総米90g(蒸米60g,乾燥麹27g,汲水110ml)で酒母の 小仕込製造を行った.醸造用乳酸0.75ml 添加区を対照区 とし,乳酸を入れないで乳酸菌培養菌体を添加する試験区 (乳酸菌添加区)を設けた.なお,乳酸菌は,麹汁培地で2 日間30℃静置培養したものを,汲水として10ml 添加した. すなわち,乳酸菌添加区の汲水110ml は,水100ml と乳酸 菌培養液10ml とを合わせたものである.また,酵母はきょ うかい酵母701号(日本醸造協会)を次のように培養して 添加した.すなわち,麹汁を Brix10%に希釈し,これに グルコース13g/L,乳酸0.7ml/L,パントテン酸カルシウ ム0.017g/L を添加した酵母用麹汁培地で,30℃,3日間振 とう培養したものを2ml 添加した. 試験区は,表3に示すように,仕込み後20℃で,2日間乳 酸菌を増殖後,3日目に酵母を添加するⅠ区乳酸菌添加区 (乳酸菌増殖後酵母添加:20℃区),仕込み時に乳酸菌と酵 母を同時に添加し20℃で培養するⅡ区乳酸菌添加区(乳酸 菌・酵母同時添加:20℃区),および速醸酛製造と同じよ うに12℃で仕込みを開始する速醸モデルのⅢ区乳酸菌添加 区(乳酸菌・酵母同時添加:速醸モデル区)を設けた.Ⅲ 区乳酸菌添加区は,Ⅱ区と同様に乳酸菌と酵母を仕込み時 に同時添加した.ⅡおよびⅢ区には,対照区として,乳酸 菌の代わりに,酵母添加と同時に醸造用乳酸を添加するⅡ 区対照区およびⅢ区対照区を設定した.各試験区とも7℃ においた後に,次の清酒小仕込試験に供した. なお,作製した酒母については,遠心分離(5 000rpm, 10分間)上清について次の項目を分析した.アルコール度 はアルコメイト(理研計器)を用いて,また,酸度および アミノ酸度は国税庁所定分析法に準じて測定した.酵母数 は YPD 寒天培地(1%酵母抽出物,2%ペプトン,2%グ ルコース,1.5%寒天)を用い,平板塗抹法により計測し た.細菌数は標準寒天培地に真菌抑制剤シクロヘキシミド を10ppm 添加した培地を用いて,混釈法により計測した. ⑵ 清酒小仕込試験 表4に示す仕込み配合で,清酒小仕込試験を行った.掛 米は50%精白米を用い,麹は徳島製麹製70%精米の乾燥麹 を使用した.酒母は,7℃においていた前記小規模酒母作
表2 供試した乳酸桿菌株および麹汁調整培地における生育性
麹汁調整培地生育性 選抜 菌株 属種 分離源 形態 発酵形式 10℃ 20℃ 30℃ NBRC15893T Lactobacillus sakei 酒母 桿 homo - - -
NBRC3541 Lactobacillus sakei 酒母 桿 homo + + + ※ *B1 Lactobacillus curvatus 山廃もと 桿 homo + + + ※ *B2 Lactobacillus curvatus 山廃もと 桿 homo + + + ※
JCM1125T Lactobacillus amylophilus sweet waste-corn
fermentation 桿 homo - - - JCM1126T Lactobacillus amylovorus cattle waste-corn
fermentation 桿 homo - - - JCM1559 Lactobacillus brevis green, fermenting Sevillanovariety olives 桿 hetero + ++ ++ ※ NBRC3345 Lactobacillus brevis green, fermenting Sevillanovariety olives 桿 hetero - + + *010925A Lactobacillus brevis キムチ 桿 hetero - + - *020823A Lactobacillus brevis イカキムチ 桿 hetero + + - *021101A Lactobacillus brevis 海鮮キムチ 桿 hetero + + + ※ *021101B Lactobacillus brevis 海鮮キムチ 桿 hetero + + + *021202A Lactobacillus brevis キュウリ漬け 桿 hetero + + - *021202B Lactobacillus brevis キムチ 桿 hetero - + - *103 Lactobacillus brevis 桿 hetero + ++ ++ ※
JCM1134 Lactobacillus casei cheese 桿 homo - - - JCM1560 Lactobacillus fermentum 桿 hetero - - - LMG18011 Lactobacillus manihotivorans cassava fermentation 桿 homo - + + ※ JCM1149 Lactobacillus plantarum Pickled cabbage 桿 homo + + ++ ※ *A305 Lactobacillus plantarum 赤フスマ 桿 homo + ++ ++ ※ *SHI3032 Lactobacillus plantarum 白フスマ 桿 homo - + ++ ※ *A3051 Lactobacillus plantarum 赤フスマ 桿 homo + ++ ++ ※ *1730・3 Lactobacillus plantarum 桿 homo + ++ ++ ※ *1830・28 Lactobacillus plantarum 桿 homo + ++ ++ ※ *1823 Lactobacillus plantarum 白菜キムチ 桿 homo + ++ ++ ※ *3802 Lactobacillus plantarum キムチ 桿 homo - + + ※ *3902 Lactobacillus plantarum キムチ 桿 homo + ++ ++ ※ *3930 Lactobacillus plantarum キムチ 桿 homo + ++ ++ ※ *6110 Lactobacillus plantarum 広島菜漬け 桿 homo + ++ ++ ※ *6113 Lactobacillus plantarum 広島菜漬け 桿 homo + ++ ++ ※ *011002A Lactobacillus plantarum 広島菜漬け 桿 homo + + ++ ※ *011009A Lactobacillus plantarum 広島菜漬け 桿 homo + ++ ++ ※ *011029A Lactobacillus plantarum 広島菜漬け 桿 homo - + ++ ※ あ1 Lactobacillus plantarum タイ発酵食品 桿 homo + ++ ++ ※ b46 Lactobacillus plantarum タイ発酵食品 桿 homo + ++ ++ ※ *36I -1 Lactobacillus plantarum 市販キムチ漬汁 桿 homo + ++ ++ ※ JCM1136 Lactobacillus rhamnosus 桿 homo - + - ※ k5 Lactobacillus rhamnosus ケフィア 桿 homo - - + JCM6014 Sporolactobacillus inulinus Chicken feed 桿 - + ++ ※ *1I -2 家ぬか床 桿 + + - *11G -11 市販ぬか漬液 桿 + ++ ++ ※ *11I -1 市販ぬか漬液 桿 + ++ ++ ※ *34I -10 米白ぬか 桿 + ++ ++ ※ *36G -1 キムチ漬汁 桿 + ++ ++ ※ *46G -1 酒粕自然発酵 桿 + ++ ++ ※ *70G-1 ヒガンバナ花 桿 + + + ※ *74G-1 埋土果皮 桿 + ++ ++ ※ *75G-2 埋土果皮 桿 + ++ ++ ※ *81I-1 市販サバなれずし 桿 + + - *82I-1 市販サバなれずし 桿 + + -
11 藤原・他:酒母製造に利用可能な乳酸菌選抜 製試験で作製した酒母のうち36g を本試験に用いた.本試 験における試験区は,小規模酒母作製試験で選抜した区に 対応して設定した.添仕込温度を15℃,踊15℃,仲仕込温 度10℃,留仕込温度8℃とし,留後1日1℃昇温,最高品温 15℃で5日間,12日目以降1日0.5℃下降し19日以降11℃と した.醪重量が,留仕込み時から,60g 減量時に発酵終了 とした.上槽は遠心分離法で行い,製成酒について,日本 酒度は密度比重計 DA-520(京都電子工業)を用いて,ア ルコール度はアルコメイト(理研計器)を用いて測定し, 酸度およびアミノ酸度は国税庁所定分析法に従って測定し た.また,製成酒の香味の優劣について,当センター職員 表2 供試した乳酸桿菌株および麹汁調整培地における生育性 麹汁調整培地生育性 選抜 菌株 属種 分離源 形態 発酵形式 10℃ 20℃ 30℃ *83I-1 市販サバなれずし 桿 + + - *84I-1 市販サバなれずし 桿 + + - *84IK-1 市販サバなれずし 桿 + + - *84K-11 市販サバなれずし 桿 + + - *85I-1 市販サバなれずし 桿 + + - *85IK-1 市販サバなれずし 桿 + + - *85K-11 市販サバなれずし 桿 + + - *NA-1 ナシ果汁自然発酵 桿 + ++ ++ ※ *NB2 ナシ果汁自然発酵 桿 + + - *NB-3 ナシ果汁自然発酵 桿 - ++ ++ ※ *1830・25 桿 - - - *③1830 桿 - - - *ト30・6L 桿 + ++ ++ ※ KE04 桿 ? - - - FG-1 桿 ? + ++ ++ ※ 滅効 桿 ? - - - *は,当センター分離株を示す.他は微生物資源保存施設から入手あるいは分譲にて入手した株を示す. 生育性は,30℃で1日,20℃で2日,10℃で7日以内で増殖がみられた場合に ++,30℃で2日,20℃で3日,10℃で14日以内で増殖がみら れた場合に+,増殖にそれ以上の日数を要した,または増殖しなかった場合に-と判定した. ※は,選抜株(生育性および分離源,属種から選択)を示す. 表3 小規模酒母作製試験における試験区設定 試験区名 温度管理 日 数 添加時期 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 Ⅰ区乳酸菌 添加区 20℃一定 20℃ 20℃ 20℃ 20℃ 20℃ 20℃ 20℃ 20℃ 7℃ 7℃ 7℃ 7℃ 7℃ 使用* 乳酸菌増殖 後酵母添加 乳酸菌 酵母 Ⅱ区乳酸菌 添加区 20℃一定 20℃ 20℃ 20℃ 20℃ 20℃ 20℃ 7℃ 7℃ 7℃ 7℃ 7℃ 7℃ 7℃ 使用* 乳酸菌・酵 母同時添加 ・酵母乳酸菌 Ⅲ区乳酸菌 添加区 速醸モデル 12℃ 12℃ 14℃ 16℃ 18℃ 20℃ 20℃ 7℃ 7℃ 7℃ 7℃ 7℃ 使用* 乳酸菌・酵 母同時添加 ・酵母乳酸菌 Ⅱ区対照区 20℃一定 20℃ 20℃ 20℃ 20℃ 20℃ 20℃ 20℃ 20℃ 7℃ 7℃ 7℃ 7℃ 7℃ 使用* 乳酸・酵母 同時添加 乳酸・酵母 Ⅲ区対照区 速醸モデル 12℃ 12℃ 14℃ 16℃ 18℃ 20℃ 20℃ 7℃ 7℃ 7℃ 7℃ 7℃ 使用* 乳酸・酵母 同時添加 乳酸・酵母 *清酒小仕込試験に供したことを示す. 表4 清酒小仕込試験における仕込み配合 酒母※3 初添 仲添 留添 合計 総米(g) 16 27 61 96 200 蒸米(g)※1 11 18 49 82 160 乾燥麹(g)※2 5 8 10 13 36 汲水(ml) 20 37 91 143 291 ※1 掛米は50%精白千本錦を使用した. ※2 乾燥麹は精米歩合70%,徳島製麹社製を使用した. ※3 小規模酒母作製試験により作製した酒母36g を使用した.
3名で官能評価した. 実験結果および考察 1.培養特性による乳酸菌の選抜 ⑴ 麹汁成分中での生育性 麹汁調整培地は,麹汁成分中での各菌株の生育を試験す るために,pH を調整した培地である.供試103株の麹汁 調整培地生育性の結果を表1,2に示した.乳酸球菌は本培 地で生育可能な株が少なく,乳酸桿菌は生育できる株が多 かった.生育良好な株として,生育判定が ++ である株全 てを選抜した.さらに,生育判定が+であっても,分離源 が酒母である株,および生育判定 ++ 選抜株と属種が異な る株などから追加で数株を選択し,乳酸球菌37株から6株 を,乳酸桿菌66株から39株の,表1,2中※で示した計45株 を選抜した. ⑵ アルコール感受性 麹汁調整培地で選抜した45株について,アルコール感受 性を評価した結果を表5に示した.エタノール5%では供試 した全ての株が生育し,7.5%では球菌の4株と桿菌の1株 が生育しなかったが,他の菌株は生育可能であった.エタ ノール10%で生育しない乳酸菌株は,清酒醸造の火落菌, 腐造乳酸菌となり得ないと期待されるため,エタノール 10%で生育しない球菌5株と桿菌10株,計15株を選抜した. ⑶ 濃糖耐性 アルコール感受性で選抜した15株の濃糖耐性を評価した 結果を表6に示した.グルコース25%以上では,生育遅延 を示す株が多かったが,20%では NBRC102481株以外の14 株は全て生育遅延することなく,1/2MRS 培地と同様に生 育した.酒母は濃糖環境であり,グルコース濃度が高いと きには20%程度になるとされている.そのため,グルコー ス20%で生育可能な供試15株は全て,酒母製造中に生育可 能と考えられる. ⑷ 麹汁生育性 酒母製造時に乳酸菌を添加する場合,添加乳酸菌を培養 する培地は,人工培地ではなく,米あるいは麹から作製し たものが望ましい.添加酵母用の培養にも用いられる麹汁 で培養可能であれば,麹汁を添加乳酸菌用の培地としても 利用できることから,アルコール感受性で選抜した15株に ついて,麹汁生育性を評価した結果を表6に示した.使用 した麹汁は pH4.8で,酸性からの培養開始であった.生育 に差はみられたが,15株とも麹汁による培養が可能であっ た.酸生成量は,生育に遅れがみられた株で1~2ml,生 育良好な株で2~8ml であり,菌株によりかなりの差がみ られた. 以上の結果,麹汁成分で生育可能,アルコール10%で生 育不能,濃糖グルコース20%で生育可能および麹汁のみで 生育可能の4条件から,酒母の製造に利用可能性のある乳 酸菌として,乳酸球菌では供試37株中5株,乳酸桿菌では 表5 麹汁調整培地での生育性により選抜した乳酸菌45株のア ルコール感受性 エタノール生育性 選抜 菌株 5% 7.5% 10% 球 菌 NBRC102481 + - - ※ A1 + ± - ※ A2 + - - ※ A3 + - - ※ 23G-3 + - - ※ k1-1 + + + 桿 菌 NBRC3541 + ± - ※ B1 + + - ※ B2 + + - ※ JCM1559 + + - ※ 021101A + + - ※ 103 + + ± LMG18011 + ± - ※ JCM1149 + + + A305 + + ± SHI3032 + + + A3051 + + ± 1730・3 + + + 1830・28 + + + 1823 + + + 3802 + + + 3902 + + + 3930 + + + 6110 + + + 6113 + + + 011002A + + - ※ 011009A + + ± 011029A + ± - ※ あ1 + + + b46 + + + 36I-1 + + - ※ JCM1136 + + ± JCM6014 + - - ※ 11G-11 + + + 11I-1 + + ± 34I-10 + + ± 36G-1 + + + 46G-1 + + + 70G-1 + + + 74G-1 + + + 75G-2 + + + NA-1 + + + NB-3 + + + ト30・6L + + ± FG-1 + + + 生育性は,30℃で3日間静置培養後に,1/2MRS 培地(エタ ノール0%)と同様な生育がみられた場合に+,生育抑制がみ られた場合に±,生育がみられなかった場合に-と判定した. ※は,選抜株(エタノール10%で非生育)を示す.
13 藤原・他:酒母製造に利用可能な乳酸菌選抜 表6 アルコール感受性で選抜した乳酸菌15株の濃糖耐性および麹汁生育性 濃糖(グルコース)生育性 麹汁生育性 * 選抜 菌株 属種 10% 20% 25% 30% 35% 生育 酸 生 成** 球菌
NBRC102481 Leuconostoc mesenteroides subsp. sake + ± ± ± - ± 1 ※ A1 Leuconostoc mesenteroides subsp.mesenteroides + + ± ± - + 2 ※
A2 Leuconostoc mesenteroides subsp.mesenteroides + + ± ± - + 2 ※
A3 Leuconostoc mesenteroides subsp.mesenteroides + + ± ± - + 2 ※
23G-3 Leuconostoc mesenteroides subsp.mesenteroides + + ± ± - + 4 ※
桿菌
NBRC3541 Lactobacillus sakei + + ± ± - ± 2 ※ B1 Lactobacillus curvatus + + ± ± - + 3 ※ B2 Lactobacillus curvatus + + ± ± - + 3 ※ JCM1559 Lactobacillus brevis + + + + ± + 8 ※ 021101A Lactobacillus brevis + + ± ± ± + 5 ※ LMG18011 Lactobacillus manihotivorans + + ± ± - ± 2 ※ 011002A Lactobacillus plantarum + + + + ± + 6 ※ 011029A Lactobacillus plantarum + + + + ± + 6 ※ 36I-1 Lactobacillus plantarum + + ± ± ± + 6 ※ JCM6014 Sporolactobacillus inulinus + + ± ± ± + 3 ※ * 麹汁培地は,Brix16.1%,グルコース12.9%,pH4.8であった. ** 酸生成は,30℃で2日間培養した培養液10ml に対して中和に必要な0.1mol/L 水酸化ナトリウムの量(ml)で示した. 生育性は,30℃3日間静置培養後に,1/2MRS 培地(グルコース2%)と同様な生育がみられた場合に+,生育遅延がみられた場合に ±,生育がみられなかった場合に-と判定した. ※は,選抜株(グルコース20%および麹汁のみで生育可能)を示す. 表7 小規模酒母作製試験における添加乳酸菌数および作製した酒母の成分 酒母 酒母作製時に 添加した乳酸菌数 * (logCFU/ml) 作製した酒母 選抜 試 験 区 乳酸菌添加区で添加し た菌株および乳酸添加 酸度 (ml) アミノ酸度(ml) アルコール(%) (logCFU/g)酵母数 (logCFU/g)細菌数 ** Ⅰ NBRC102481 5.7 5.3*** 2.8 15.7 8.3 0 A2 8.3 11.8 2.5 8.2 7.4 0 23G-3 8.7 10.8 2.1 10.9 7.5 0 NBRC3541 5.1 8.3 2.5 14.9 8.1 0 ※ B1 7.7 10.7 2.4 14.4 8.0 0 ※ JCM1559 8.0 15.7 1.9 12.0 7.9 0 021101A 7.5 12.7 1.6 14.7 8.0 0 ※ LMG18011 6.9 8.6 1.4 13.7 8.1 0 ※ 011002A 8.3 16.4 2.7 7.2 7.3 6.7 011029A 8.0 12.5 2.0 13.8 8.0 0 ※ 36I-1 7.6 13.4 2.6 12.9 7.9 0 ※ JCM6014 8.0 15.2 3.8 10.2 7.7 0 Ⅱ A2 8.3 9.7 1.9 12.7 7.7 0 ※ NBRC3541 5.1 2.7 1.8 17.3 8.2 0 乳酸添加(対照) - 6.9 1.6 15.7 8.2 0 Ⅲ A2 8.3 8.3 2.1 11.4 7.9 0 ※ NBRC3541 5.1 2.8 1.8 13.8 8.1 0 乳酸添加(対照) - 7.3 1.2 14.3 8.1 0 * -は乳酸菌を添加していないことを示す(対照区として乳酸添加). ** 菌が不検出の場合,菌数を100とした. *** 下線の数値は,酸不足・過多,アルコール不足,酵母生育不良を示し,酒母として不適格性を示す. ※は,選抜株(酸不足・過多,アルコール不足,酵母生育不良,および細菌検出に該当しない株)を示す.
た.アミノ酸度は,乳酸菌添加区は各菌株とも,対照区 (乳酸添加区)に比べて,同等かそれ以上であった. アルコールおよび酵母数についてみると,対照区と同等 のものがほとんどであったが,Ⅰ区乳酸菌添加区の A2株 と011002A 株ではアルコールが10%より低く,酵母数も少 なかった.011002A 株では,作製した酒母中に細菌が 106CFU/g と多く存在し,酸度が16.4と高いことから,検 出された細菌は,添加した乳酸菌011002株が生残したもの と考えられた.すなわち,011002A 株の生育に伴う酸生 成量過多により,酵母の生育が抑えられたと考えられる. 以上の結果から,本試験で作製した酒母について,次の ものは酒母として適さないと考えられた.酸度が15以上と 高いⅠ区の JCM1559株,011002A 株,JCM6014株および 酸 度 が 対 照 区( 乳 酸 添 加 区 ) よ り も 低 い Ⅰ 区 の NBRC102481株とⅡ区およびⅢ区の NBRC3541株である. さらに,アルコールが10%よりも低いⅠ区の A2株と 011002A 株,酵母数が5×107CFU/g よりも少ないⅠ区の A2株,23G-3株,011002A 株および細菌が検出されたⅠ区 の011002A 株である.したがって,酒母製造に適してい る乳酸菌は,乳酸菌を先に増殖させておく方法(Ⅰ区乳酸 菌 添 加 区 ) で は,NBRC3541株,B1株,021101A 株, LMG18011株,011029A 株および36I-1株の6株,乳酸菌と 酵母を同時添加する方法(Ⅱ区およびⅢ区の乳酸菌添加 区)では, A2株の計7株と考えられた. ⑵ 清酒小仕込試験 前記の小規模酒母作製試験で選抜した7株および乳酸添 加により作製した酒母を用いて,総米200g の小仕込試験 を行った結果を表8に示した.醪日数は,Ⅰ区乳酸菌添加 区の36I-1株使用の酒母を除き,対照区(乳酸添加区)の 29日よりも短かった.製成酒の成分は,酸度,アミノ酸度 およびアルコールについて,対照区とほぼ同等であった. 日本酒度は,醪日数が短かったⅠ区 NBRC3541株および B1株とⅡ区 A2株では,少し低めの傾向であった.Ⅰ区の 36I-1株以外は,醪日数で対照区よりも優れていた.製成 酒の官能評価では,各区とも対照と同等であり,乳酸菌添 加による際立った違いはなかった. 麹菌のα-アミラーゼによる蒸米の溶解促進が,乳酸菌 の細胞壁成分に起因する6)7)との報告があり,本試験でも 蒸米溶解促進効果が同様に働いている可能性が考えられ る. 本試験で作製した酒母のアミノ酸量は,対照区(乳酸添 加区)に比べ,乳酸菌添加区で少し多いものもあった(表 7)が,生酛系酒母での増加8)9)14)ほど多くなかった.生酛 系酒母でのアミノ酸の増加要因は高濃度のグルコースの存 在と,pH4.5前後の限られた pH 条件にさらされること8)9) であり,また,アミノ酸度の増加は酸度の増加と並行し, その最高量は酸度の増加の緩慢な方が多い1)とされてい る.本試験の乳酸菌添加区で製造された酒母では,添加乳 供試66株中10株の計15株を選抜した.選抜した乳酸球菌 は,清酒酒母から分離された NBRC102481株,A1株,A2 株,A3株,およびナシ皮から分離された23G-3株で,いず れも Leuconostoc mesenteroides であった.選抜した乳酸 桿 菌 は, 清 酒 酒 母 か ら 分 離 さ れ た Lactobacillus sakei NBRC3541株,L. curvatus B1株,B2株と,キムチなどの 発酵物から分離された L. brevis JCM1559株,021101A 株, L. manihotivorans LMG18011株,L. plantarum 011002A 株,011029A 株,36I-1株 お よ び 鶏 飼 料 か ら 分 離 さ れ た Sporolactobacillus inulinus JCM6014株であった. 2. 選抜乳酸菌を利用した酒母作製および清酒小仕込試 験 ⑴ 小規模酒母作製試験 前項において選抜した乳酸菌15株のうち,分離源が同一 で,同様の性質を示した(研究ノート「県内酒造場の山廃 酛から分離した乳酸菌とその性質」参照)A1株,A2株, A3株から A2株を,また B1株,B2株から B1株の各1株ず つを使用することとし,12株について,Ⅰ区乳酸菌添加区 の酒母を作製した.また,Ⅱ区およびⅢ区については,対 照区(乳酸添加区)のほかに,乳酸菌添加区として乳酸球 菌の A2株と乳酸桿菌の NBRC3541株を供試した. これら供試菌株について,酒母作製時に添加した麹汁培 地培養液中の乳酸菌数と,作製した酒母の成分を表7に示 し た. 添 加 し た 麹 汁 培 地 培 養 液 中 の 乳 酸 菌 数 は, NBRC102481株,NBRC3541株および LMG18011株で105~ 106CFU/ml と,他の菌株に比べて少なかったが,菌数の 調整は行わずに,いずれも培養液10ml をそのまま仕込ん だ.すなわち,添加した麹汁培地培養液の乳酸菌数が 105CFU/ml の場合でも,添加後の乳酸菌数は104CFU/g 程度となる.生酛系酒母製造時に乳酸菌を添加する場合に は,添加後の乳酸菌数は103CFU/g が最低限確保されてい ればよいであろうとされている2).今回は製造法が異なる が,添加後の乳酸菌数としては,十分な数が確保されてい たと考えられたため,菌数の調整は行わなかった. 作製した酒母についてみると,Ⅰ区乳酸菌添加区の NBRC102481株とⅡ区およびⅢ区の NBRC3541株で,酒母 の酸度が,Ⅱ区およびⅢ区の対照区(乳酸添加区)よりも 低く,酒母として必要な酸度に達していないと考えられ た.NBRC102481株は麹汁培地で培養時の酸生成も少なく (表6),酸生成能が低いと考えられた.また,NBRC3541 株は,Ⅰ区では対照区の酸度に達しているが,Ⅱ区および Ⅲ区では酸度不足となった.更に,A2株においても,Ⅱ, Ⅲ区で対照区以上の酸度であったが,Ⅰ区よりⅡ区,Ⅲ区 のほうが酸度は低い傾向がみられた.乳酸菌添加による酒 母製造においては,乳酸菌株により,酵母添加時期の調整 の必要性が示唆された.また,JCM1559株,011002A 株, JCM6014株では,酸度15以上であり,生酛系酒母でも酸 度10~12程度であること14)から,酸生成過多と考えられ