マンション敷地の用地取得事例について
伊藤 良倫
1 1新潟国道事務所 用地第一課 (〒950-0912 新潟県新潟市中央区南笹口2丁目1番65号) 当所施行事業に伴い道路用地として必要となるマンション敷地の取得事例について報告する. マンション敷地は,建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号)により分離処分禁 止の原則が規定され,専有部分から切離して敷地のみの取得は原則として認められないこと, また,用地取得手続の相手方となる権利者・利害関係者が多数である等の特徴を有する.そう いった中で,当所がマンション敷地を円滑に取得した経過等について報告するものである. キーワード 共有地 区分所有法 分離処分禁止1.はじめに
本事例は,当所施行一般国道○号○○道路工事(以下 「本件事業」という.)に伴い,○○階建区分所有建物 (以下「本件マンション」という.)の前面敷地が事業 用地として必要となり,また,本件マンションの工作物 等の一部が支障となる案件であり,100 名以上の権利者 が存したものの,当所が円滑に取得した事例である.2.事業の概要
一般国道○号は,新潟県新潟市を起点とする主要幹線 道路である.このうち,当該事業区間は,既成市街地を 通過していることなどから,地域住民による地域内交通 と物流等の通過交通に広く利用されており,自動車交通 量が多いにもかかわらず,車線数等が不足していること などから,交通混雑,交通事故等が発生している. 本件事業は,車線数の増加等により慢性的な交通混雑 を解消し,安全かつ円滑な自動車交通の確保に寄与する ことを目的として計画された事業である.3.事例の概要
今回取得する土地の概要は次のとおりである.(図-1) 敷地面積:約 4,000 ㎡ 取得面積:約 200 ㎡ 残地面積:約 3,800 ㎡(残地割合 95%) 構造用途:鉄筋コンクリート造○○階建マンション 総世帯数:約 100 世帯(区分所有者 100 名以上)4.補償の概要
本事例の補償対象者を特定するため,当該土地及び建 物の登記簿を取得したところ,本件マンションは 100 名 以上の権利者が存する区分所有建物であり,持分割合に 応じた所有権としての敷地権が登記されていることが確 認できた. 区分所有建物の敷地は,区分所有者の共有地であるこ とから,土地に関する契約は,区分所有者全員と締結を することになる.一方で,物件の移転に関しては,国土 交通省損失補償取扱要領別記三「区分所有建物敷地取得 補償実施要領第 3 条第 3 項」に基づき,管理組合(管理 組合については後述.)と契約を締結することとした (図-2).なお,管理組合と契約を締結するにあたって は,管理組合臨時総会(以下「総会」という.)におい て,管理組合理事長に契約権限を委任することを議決す る手続を経た. 図-1 本件マンションイメージ図 補償区分 補償内容 契約相手方 土地 土地代金 (200 ㎡) 区分所有者 物件 工作物移転料 (ブロック塀,玄関アプローチ等) 立竹木補償金 移転雑費補償金 立体駐車場の補償 管理組合理事長 (総会決議で委任) 図-2 補償概要以下,マンション敷地の特徴と取得手続について記述 する.
5.マンション敷地の用地取得の特徴
(1) マンション敷地の形態 建物の区分所有等に関する法律(昭和 37 年法律第 69 号.以下「区分所有法」という.)の対象である区分所 有建物は,居住用マンションをはじめ,リゾートマンシ ョン,タワーマンション等と様々な形態の建物が存する. 敷地の利用形態については,地主の単独所有の場合, 区分所有者全員の共有の場合,それぞれの区画毎の区分 所有者の所有の場合等いくつかあるが,本件マンション は区分所有者全員の共有の場合に該当する. (2) 共有地であることの特徴 区分所有者全員の共有であるマンションの敷地は,民 法(明治 29 年法律第 89 号)の原則が適用されるだけで なく,区分所有建物として特別法の区分所有法も適用さ れることとなる.(区分所有法の規定は後述.) 契約にあたっては,共有持分全ての取得を要すること から,区分所有者全員と契約締結する必要があり,区分 所有者の数に比例して権利関係が複雑であることが特徴 として挙げられる. さらに,マンション敷地においては,「共有者が多く、 かつその共有関係は主観的結びつきが薄い関係である」1) ことも特徴の一つとして挙げることができる. (3) 区分所有法による規定 a) 区分所有権 区分所有法では,一棟の建物に構造上区分された数個 の部分で独立して住居,店舗,事務所又は倉庫その他建 物としての用途に供することができるものがあるときは, その各部分は,この法律の定めるところにより,それぞ れ所有権の目的とすることができる(区分所有法第 1 条) と規定しており,構造上・利用上独立している部分(共 用部分を除く)を目的とする所有権を区分所有権として いる.(区分所有法第 2 条第 1 項) 図-3 区分所有建物の構成図 b) 区分所有建物の構成要素 区分所有建物は,区分所有法の規定により,専有部分, 共用部分,建物の敷地によって構成される(図-3). 専有部分は,区分所有権の目的たる建物の部分(区分 所有法第 2 条第 3 項)と規定される. 共用部分は,専有部分以外の建物の部分,専有部分に 属さない建物の附属物及び規約の定めにより共用部分と された附属の建物(区分所有法第 2 条第 4 項,第 4 条第 2 項)と規定され,主に,廊下,階段室,建物の玄関, エレベーター室,電気配線,ガス等の配管,消防設備, 貯水槽等が該当する. 建物の敷地は,建物が所在する土地及び規約の定めに より建物の敷地とされた土地(区分所有法第 2 条第 5 項, 第 5 条第 1 項)と規定されている. また,区分所有法は,専有部分を所有するための建物 の敷地に関する権利を敷地利用権(区分所有法第2条第 6項)と規定している(図-3)2).なお,敷地利用権は 登記されることにより,敷地権と呼ばれる(不動産登記 法第 44 条第1項第 9 号). c) 分離処分禁止の原則 区分所有法では,原則として,敷地利用権が数人で有 する所有権その他の権利である場合には,区分所有者は, その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権と を分離して処分することができない(区分所有法第 22 条第 1 項)3)と規定しており,当該処分とは,「譲渡、 抵当権の設定、質権の設定などのように専有部分と敷地 利用権とについて一体的にすることができる法律行為と しての処分である。信託、出資、遺贈、遺産分割も同様」 4) 5)であるとされている. 区分所有法は,土地建物をそれぞれ独立の不動産とす る民法の原則とは異なり,専有部分とマンションの敷地 利用権を一体として取引することを規定している. d) 規約による別段の定め このように,専有部分と敷地利用権との一体化が図ら れているが,区分所有法は,分離処分を可能とする旨も 規定している. すなわち,区分所有法では,規約に別段の定めがある ときは,この限りではない(区分所有法第 22 条第 1 項 但し書き)と規定しており,区分所有者及び議決権の各 4 分の 3 以上の多数による集会の決議により規約の変更 6)を行い(区分所有法第 31 条第 1 項),分離処分をする ことが可能となる. 区 分 所 有 建 物 構成部分 定義等 例 権利 専有部分 構造上区分された,独立して住居, 店舗等に供するもの 各住居、店舗等 区分所有権 共用部分 専有部分以外の建物の部分,専有部 分に属しない附属の建物 廊下、階段、エレベーター等 共有持分権 建物の敷地 建物の所在する土地等 駐車場等を含む建物敷地全体 敷地利用権本件マンション敷地の取得にあたっては,敷地の一部 のみが事業により支障となっているため,当該規定に基 づき,本件マンションの規約の変更を行うことにより, 事業用地の分離処分を可能とすることとした. e) 管理組合 区分所有法では,区分所有建物にあっては,区分所有 者全員により構成される管理組合が存在し,その団体が 建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うことを規 定している(区分所有法第 3 条).これは,区分所有者 である限りは,建物の共用部分等を共同で管理すること が必要であることから,各区分所有者は当然に管理組合 の構成員の一員であることを意味している. (4) 不動産登記法による規定 不動産登記法(平成 16 年法律第 123 号)では,専有 部分と敷地利用権との一体化により,建物登記(専有部 分)の表題部に敷地権を登記することとされ,建物と土 地との登記記録も一体化されている. つまり,所有権移転等の権利変動は,建物登記(専有 部分)の登記記録に記載されることとなり,土地の登記 記録には何も記載されないこととなるが,これは「土地 の登記記録は言わば「休眠状態」に入ったようなもの」7) とも言える.
6.用地取得にあたっての取り組み
本件用地取得では,相手方との用地交渉開始から約 2 年 6 か月で契約締結まで至ることができた(手続の流れ は図-4 参照).約 2 年 6 か月のうち,総会までの間に 約 2 年を費やし,その後,総会からの 6 か月間で,主に 区分所有者との土地売買契約締結を行った. 用地交渉開始から総会までの 2 年間は,主に区分所有 者を対象にした説明会,アンケート等を実施し,補償方 法の周知,各区分所有者からの意見集約,当方の補償案 の検討等を行った. 当所が,本件用地取得にあたって心がけたことは,相 手方に対して「十分な事前説明」を行うことと,管理組合 と協議した事項等について各区分所有者と「情報共有」を 行うことであった.これは,本件用地取得の相手方は 100 名以上の区分所有者であり,最終的に区分所有者全 員から理解を得たうえで,契約締結する必要があったた めである. また,各区分所有者との個別の用地交渉にあたっては, 業務委託を活用することで迅速な対応に努めた. 結果的には,これらを徹底して用地交渉を行っていた ため,事前に情報収集をしていた他機関での同様のマン ション取得事例と比べて,約 2 年 6 か月という短期間に おいて,用地交渉開始から土地売買契約締結まで至るこ とができたものと考えられる. 図-4 手続フロー (1) 交渉にあたっての留意点 a) 区分所有者全員からの理解 本件用地取得を進めるためには,まずは,区分所有者 及び議決権の各 4 分の 3 以上の多数による集会の決議に よる規約改正が必要ではあるものの,用地取得を行うた めには,共有持分全ての取得を要することから,区分所 有者全員との契約締結が必要となる. そのため,すぐに規約改正手続を行うのではなく,補 償の考え方,補償案等について,説明会方式により相手 方への周知を図るとともに,説明会での質疑応答,当該 マンションで毎月開催される理事会への参加,アンケー トの実施により相手方との交渉を重ねた. b) 自動車保管場所の補償 相手方との用地交渉の中での大きな争点は,自動車保 管場所の機能回復方法であった. 国土交通省損失補償取扱要領(平成 15 年 8 月国総国 調第 58 号)別記 5 自動車保管場所補償実施要領(以下 「自動車保管場所要領」という.)によると,本件のよう なマンション敷地は自動車保管場所要領の適用外とされ ているものの,「分譲マンション敷地内に存する保管場 所の一部又は全部が支障になる場合には、本要領のうち 参考となる事項については、これに準じて、個別に機能 回復の必要性、回復方法等について検討し、適正に運用 するもの」8)とされ,参考となる事項については,自動車 保管場所要領に準じた取扱いとすることが認められてい る.本件マンションは,都市部に所在しているものの,当 該地域は自動車が生活上不可欠であり,自動車を 1 世帯 あたり 1 台保有していることが一般的であることなどの 特徴を有している.本件マンションにおいても,建物と 機能的に一体利用されている一団の土地内に,全戸に 1 台分の自動車保管場所が割り当てられている. 以上のことから,本件マンションでは,自動車保管場 所要領に準じ,機能回復の必要性,回復方法等について 検討を行った結果,残地内に立体駐車場を設置すること で機能回復する方法が妥当であると判断した.この立体 駐車場の設置による機能回復の方法についても,区分所 有者への説明,設置位置に関するアンケート実施により, 相手方からの理解を得られるよう努めた. (2) 交渉経緯 平成○○年 1 月 用地交渉開始 ・管理組合と説明会について事前打合せ 1 月 住民向け説明会 ・支障状況及び今後の予定について説明 2 月 住民向け説明会 ・支障状況及び今後の予定について説明 3 月 住民向け説明会 ・支障状況及び今後の予定について説明 9 月 説明会等で意見を受け対案を検討 11 月 駐車場の機能回復方法について住民 向けアンケート実施 平成○○年 1 月 アンケートとりまとめ (回収率 50%) 3 月 アンケートとりまとめ (回収率 70%.回答数のうち 80%以 上が敷地内での機能回復を希望) 6 月 住民向け説明会 ・当所の補償内容等について説明 7 月 個別説明開始 11 月 個別説明完了 11 月 管理組合による自動車保管場所に関 するアンケート実施 11 月 住民向け説明会 ・自動車保管場所及び今後の予定につい て説明 12 月 今までの経緯等について回覧 平成○○年 1 月 管理組合による保管場所等に関するア ンケート実施 (約 80%から賛成を得る) 1 月 補償の考え方について回覧 1 月 定期総会 分離処分可能決議 3 月 調印式実施 (約 70%の区分所有者と調印) 4 月~5 月 残りの区分所有者との個別調印 6 月 管理組合との契約締結 (3) 区分所有者意見の収集等について 上記でも述べたとおり,各区分所有者からの理解を得 ることを最優先と考えたため,用地交渉開始から住民向 け説明会を 5 回,区分所有者向けのアンケートを 3 回実 施した.その他に,毎月開催される本件マンションの理 事会へ原則毎回参加し,現状報告及び今後の予定等につ いての説明を行った.また,説明会,アンケート,理事 会で挙げられた意見を基に,各区分所有者が疑問を抱い ている点に対する説明文書を作成し,各区分所有者宛へ の文書投函及び掲示板を使用しての周知を 2 回実施した. これらを時間をかけつつも繰返し行ったことにより, 当所と各区分所有者との間で良い関係性を築くことがで き,各区分所有者からの理解を得ることに繋がったと考 えられる.また,幅広く住民意見を収集することで,当 所が補償案を検討するにあたり,立体駐車場の設置位置 等を考える際の参考とすることができた.
7.登記手続について
(1) 登記手続の流れ 登記手続は,土地分筆登記,区分所有建物表示変更登 記(敷地分筆)及び区分所有建物表示変更登記(敷地権 抹消)を同時申請で行い,その後,所有権移転登記を行 う.これらの登記の登記原因は,土地売買契約に基づく 所有権移転登記請求権とされている. (2) 土地分筆登記 土地分筆登記は,一筆の土地を分筆してこれを2筆以 上の土地とする登記である.この手続は「建物の区分所 有等に関する法律により、区分建物の所在する土地が敷 地権の目的となっている場合において、この土地を分筆 するときの登記手続は、一般に土地を分筆する場合の登 記申請手続と大差はない」9)ものである. (3) 区分所有建物表示変更登記 土地分筆登記がなされると,マンション一棟の建物登 記記録の表題部中「敷地権の目的たる土地の表示」欄の 登記事項に変更が生じることとなり,これについて変更 登記を行うものである. 本件マンションでは,土地分筆登記により「敷地権の 目的たる土地の表示」欄の地積が変更されるため,当該 登記が必要とされている.(4) 区分所有建物表示変更登記(敷地権抹消) 敷地権抹消登記は,当該取得地の敷地権の抹消を行う ものである.分離処分可能規約の設定により,不動産登 記令(平成 16 年政令第 379 号)第 3 条に基づく分離処 分ができることとなった規約を証する書面(総会議事録) を添付することを要する.また,その総会議事録には, 議事録に議事録署名人として署名捺印した者の印鑑証明 書の添付が必要となる. (5) 所有権移転登記 土地が分筆され,敷地権が抹消されると,「休眠状態」 に入っていた土地の登記簿が復活し,土地の登記簿の権 利部に,敷地権でなくなった権利(本件事例においては 所有権)及びその権利者とその持分が表示される. この権利者に関して,名義人の変更がなされている場 合には「所有権登記名義人表示変更」を行う必要がある. その後,「共有者全員持分全部移転登記」を行うことに より,当該取得地を国の名義へと変更することとなる. 8.おわりに 本事例は,100 名以上の区分所有者がいる中で,総会 から全区分所有者との契約締結まで 6 か月と短期間で進 めることができた事例である. このように短期間での契約が可能となったのは,総会 までの 2 年間で実施した,説明会,回覧,アンケート, 理事会を通じた情報共有等により,当所と区分所有者と の間で良い関係性を築くことができたためであると考え られる.また,本件マンションの管理組合,管理会社, 区分所有者等の関係者の協力姿勢があった点も早期に契 約締結に至った大きな要因である. 最後に,本事例の取得にあたり多大なる協力を頂戴し た関係者に対して,この場を借りて感謝申し上げたい. 1)平松弘光「マンションの敷地と用地取得」用地ジャー ナル平成 27 年 11 月号 43 頁参照 2)敷地利用権は,昭和 58 年の区分所有法改正により, 「区分所有建物とその敷地の一体的な管理を図り、か つ、区分所有建物に関する登記の合理化をはかるため、 専有部分と敷地権とは、原則として、分離して処分す ることができないこととした。」水本浩・遠藤浩・丸 山英気編「基本法コンメンタール」(日本評論社、平成 18 年)4 頁参照 3)分離処分の禁止は,「不動産登記法上の問題(区分所 有建物の敷地の登記簿の混乱)および実体法上の問題 (専有部分と敷地利用権を分離して処分することがで きることに伴う不都合)を解消し、併せて、区分所有 者と敷地に関する権利者とが合致しないことによって もたらされる管理上の不便を解消することを目的とし て、専有部分と敷地利用権の一体性の制度を創設し た。」稻本洋之助・鎌野邦樹「コンメンタールマンシ ョン区分所有法」(日本評論社,平成 9 年)115 頁参 照 4)稻本・鎌野・前掲 118 頁参照 5)他方,土地収用法(昭和 26 年法律第 219 号)に基づ く取得では,当該規定の例外と位置づけられており, 「土地収用のように公権力の行使に基づく権利変動 は・・・本項の処分には当たらない」濱崎恭生・建物 区分所有法の改正 174 頁 6)ここでいう規約の変更には,書面または電磁的方法に よる決議(区分所有法第 45 条第1項),区分所有者 全員の書面または電磁的方法による合意(区分所有法 第 45 条第2項),最初に専有部分の全部を原始的に 取得し所有するものが公正証書によって設定すること もできる(区分所有法第 32 条). 7)平松弘光「マンションの敷地と用地取得」用地ジャー ナル平成 28 年1月号 35 頁参照 8)平成 25 年 3 月土地・建設産業局地価調査課課長補佐 通知 9)中村・中込・Q&A 表示に関する登記の実務第 1 巻 210 頁参照