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新生児マス・スクリーニングをめぐる論争の再検討 : 女性団体の運動と先天異常モニタリング研究の議論を中心に

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はじめに 日本において新生児マス・スクリーニングは 1977 年から導入された後急速に社会に浸透し, 3 年目には検査の受検率は 90% 以上となった。 現在では,ほぼすべての新生児が受ける検査と して普及している。新生児マス・スクリーニン グは疾病を早期に発見し治療することで障害を 予防できることが公衆衛生上の利点とみなされ, 人々に受けいれられてきた。しかし, Paul & Brosco(2013)はフェニールケトン尿症の保因 者の検出にも研究者が関心を持っていたとし, 新生児スクリーニングが治療のみを目的にして いたのではないことを指摘した。日本では,新 生児マス・スクリーニング制度の導入において 「保因者」の発見と「出生防止」を意図する優生 学的側面があったことが明らかにされている(笹 谷 2016)。しかし,新生児マス・スクリーニン グの導入以降の歴史については記述されていな い。新生児マス・スクリーニングの歴史につい ては,実際に制度の導入や治療に関与した医師 による新生児マス・スクリーニングの発展の歴 史を回顧したものや(北川 1994; 2001, 黒田 2005 など),マス・スクリーニング技術の制度管理の 歴史に着目した成瀬他(2006)にとどまる。関 連分野の先行研究としては 1970 年代の「不幸な 子どもの生まれない運動」に対する兵庫県の政

原著論文

新生児マス・スクリーニングをめぐる論争の再検討

―女性団体の運動と先天異常モニタリング研究の議論を中心に―

笹 谷 絵 里

(立命館大学大学院先端総合学術研究科) 日本では 1977 年から新生児マス・スクリーニングは導入され,現在に至るまでほぼすべての新生 児が受ける検査として普及しているという背景を持つ。しかし,1980 年代半ばに女性団体の運動が 新生児マス・スクリーニングに疑義を呈している。本稿では女性団体の運動が新生児マス・スクリー ニングに疑義を呈すようになった経緯とともに疑義を呈された政府や行政,研究に携わった医師は どのような対応を行ったのかを女性団体の 1 次資料と厚生省の心身障害研究班の報告書,医学雑誌 から歴史的に検証する。結果,女性団体は母子保健法の改正に反対し活動を始めた。そのなかで厚 生省心身障害研究「先天異常のモニタリングに関する研究」で新生児マス・スクリーニングの検査 後の血液ろ紙が無断で使用されていることを指摘した。1986 年度には厚生省心身障害研究が「遺伝」 から「環境」を重視する研究へと変更された。さらに,女性運動側の指摘も「プライバシー」の侵 害や「個人情報」の流用という視点が重視されるようになり,「プライバシー」や「個人情報」が適 切に管理されるという条件のもと「先天異常モニタリングシステム」や「新生児マス・スクリーニ ング」から「遺伝」の視点は排除され研究は継続していくこととなった。 キーワード: 新生児マス・スクリーニング,母子保健法改正反対運動,優生政策,遺伝, 先天異常モニタリング 立命館人間科学研究,No.35,33 47,2017.

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策を詳細に分析した松永(2001)や「不幸な子 供の生まれない運動」が全国的に広がっていく 過程と母子保健が胎児に焦点化していく過程を 記述した土屋(2007; 2009)がある。同じく,優 生学的側面を持つ検査として出生前診断(検査) があげられる。優生学と出生前診断について障 害者運動と女性運動を関連付けながら記述して いる研究として立岩(1997)や森岡(2001)が ある。しかし,これらの研究は優生学と新生児 マス・スクリーニングの関連については明示的 に記述していない。 利光(2012)は受精卵診断の導入をめぐる論 争の経緯を日本産科婦人科学会と障害者運動, 女性運動との論争を中心に分析し,母子保健法 改正反対運動で争点となった新生児マス・スク リーニングの問題についても触れている(利光 2012)。しかし,論争の大部分は受精卵診断が論 争を経ていかに技術的に取り入れられていった かという点に焦点があてられ,新生児マス・ス クリーニングと出生前診断,受精卵診断が遺伝 と関連づけて記述されてはいない。 ま た, 利 光(1991),Lindee(1999) お よ び Bombard(2012)では,新生児マス・スクリー ニングで検査された血液ろ紙の目的外使用を問 題としている。 本稿で着目するのは,1985 年の母子保健法改 正をめぐる議論において,「先天異常モニタリン グ」が争点になったことである。すでに 1970 年 代から厚生省心身障害研究において,先天異常 モニタリングの研究が継続的に実施されてきた が,これは「先天異常」をもつ子どもたちを監 視の対象とすることを意味し,女性団体からの 反発を招いた。この関連において新生児マス・ スクリーニングの問題も提起された。この点に ついて利光(2012)では,断片的な言及にとどまっ ていることに加え,女性団体の視点のみで記述 され,医師や行政側の視点が検証されていない という課題が残る。そこで,本稿では母子保健 法改正に向けた動きに対する女性団体の動向を 先天異常モニタリングに着目して検討する。ま た,先天異常モニタリングと新生児マス・スク リーニングがどのように関連付けられ,女性団 体の行動が行政や厚生省の研究班の研究に影響 を与えたか,言及されずに内在化した「遺伝」 という問題が「遺伝医療」としての側面を隠伏 していく過程を女性団体の一次資料と厚生省の 心身障害研究班の報告書,医学雑誌から検証す る。 Ⅰ. 母子保健法改正反対運動と「母子保健法改 悪に反対する女たち・大阪連絡会」 まず,母子保健法の改正に対する反対運動の 経緯を概観しておく。 1985 年 8 月 25 日,厚生省が 20 年ぶりとなる 母子保健法改正案の提出を予定しているとの記 事が,読売新聞朝刊に掲載された。改正案では, 未婚の若い女性を対象とした母性手帳の交付と 母性健康診査の実施が盛り込まれていた(読売 新聞 1985)。この改正案について,婦人民主新 聞1 )は 1985 年 9 月 13 日に「母子保健法 厚生省, 全面改悪にのりだす 女のからだを生涯管理 障害の 発生予防 狙う」として記事を掲載し た(婦人民主新聞 1985a)。この記事では,「母 性健康手帳の配布」「母性健康診査の実施」「新 生児モニタリングシステムの整備」「1 歳 6 ヵ月 健診の法制化」は,データの収集を目的として いるとし,母子保健法改正を「早期発見・早期 治療」から「発生予防」に重点を移し,優生思 想を強化するものとみて警戒した。 1985 年 9 月 18 日には,母子保健法改悪に反 対する全国連絡会が,厚生省に母子保健法の改 正について「母子保健法の改討の検討経過・内 1 ) 婦人民主新聞は 1946 年 8 月 22 日に「女たちの手 による女たちの新聞」として創刊された。母子保 健法の改正に反対する運動の記事の多くは主に当 時の婦人民主新聞に掲載されている。

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容を明らかにせよ」と申し入れた。これに対して, 厚生省は最終的な改正案はまだできていないと しながらも,障害の発生防止は重要であり実現 したいと明言した。同連絡会は「改悪反対」の 立場で交渉を引き続き要求した(婦人民主新聞 1985b)。 さらに同年 9 月 23 日,朝日新聞は,厚生省が 母子保健対策のひとつとして「先天異常の発生 予防」を重点的に進め,化学物質などの遺伝要 因以外の「異常」の発生を監視するシステムを 作ることが報道された。記事では,厚生省は 1980 年度から「先天異常のモニタリングに関す る研究班」を設置して監視システムの検討を進 めてきており,監視システムの具体案を急ぎ作 成し,早ければ 1985 年 12 月に始まる通常国会 に母子保健法改正案を提出する方針であるとし た(朝日新聞 1985)。 先天性四肢障害児父母の会は,それまでにも, たびたび研究班に要望書を提出してきたにもか かわらず原因解明への展望や意欲が感じられな かった従来の状況と,報道された母子保健法改 正案を聞いて「ギャップにある種のうさん臭さ を感じないわけにはいかなかった」(先天性四肢 障害児父母の会 1985:1)として,1985 年 10 月 25 日に厚生省を訪れ,上田博三(厚生省児童家 庭局母子衛生課・課長補佐,厚生技官)の見解 を聞いている。上田の見解は以下のとおりであっ た。すなわち,モニタリングシステムによる先 天異常の原因究明が出来るかどうかは今後の課 題であるが,疫学体制を作る用意は厚生省には なく,疫学調査ができるとはとてもいえない。 今後の母子保健では,モニタリングにより先天 異常の発生予防対策に力を入れなければならな い。また母性手帳は妊婦への注意を呼びかける ために配布するものであり,遺伝相談は受けな ければならないものではないが,行政として遺 伝相談について情報をきちんと提供していく姿 勢は必要である。さらに上田は,母子保健法の 改正案ができるのは 1986 年 1 月半ばであり,閣 議決定後国会に提出し国民の判断を仰ぎたいと した(先天性四肢障害児父母の会 1985:5)。 こうした状況のもとで母子保健法改正反対運 動が組織され,1985 年 11 月 23 日には,札幌・ 仙台・富山・東京・名古屋・大阪・京都の 7 カ 所で「母子保健法改悪に反対する同時多発大行 動」が実施された。お互いをメッセージでつなぎ, 「厚生省に女たちの声を届かせよう」と全国で数 百人が参加し,改正阻止運動の第一歩となっ た2 )(婦人民主新聞 1985d)。さらに 1985 年 12 月 13 日には , 82 優生保護法改悪阻止連絡会, 日本婦人会議,婦人通信,婦人民主クラブの 4 団体が連名で要請書を厚生省に送付し,「新生児 モニタリングシステム」は「障害」の原因究明 につながらないばかりでなく,企業や行政の責 任をないがしろにし,女の自助努力を促すこと で障害者と女性を圧迫するものであると批判し た。翌日の 12 月 14 日には,東京の文京区民セ ンターで「母子保健法改悪に反対し,母子保健 のあり方を考える全国連絡会」の主催で,「母子 保健法改悪阻止全国総決起集会」が開催された。 (婦人民主新聞 1985e)1986 年 2 月 8 日には,労 働団体,婦人団体,障害者団体主催(婦人民主 クラブ参加)による「母子保健法改悪反対・母 子保健のあり方を考える関西集会」が開催され た(婦人民主新聞 1986a)。 厚生省は 3 月 15 日の国会提出期限までに改正 案,要綱ともに提出せず,母子保健法改正は次 期国会に持ち越されるかたちとなった。婦人民 主新聞は,厚生省が「母性」管理,「障害児・者 の発生予防・早期発見・早期治療」は個人負担 2 ) 母子保健法改悪に反対する同時多発大行動に参加 したのは以下の 7 つの都市である。札幌:ゼッタ イこれはまずい!母子保健法改「正」に反対する 集会。仙台:母子保健を共に考える集い。富山: 母子保健法改「正」案ってなんだ。名古屋:母子 保健法って何だろう。京都:母子保健法改悪阻止 全国同時大行動・京都編。大阪:母子保健法改悪 させへんで!大阪集会。母子保健法改悪阻止全国 同時大行動・東京編(婦人民主新聞 1986c)。

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の増大と考えているため,さらなる反対運動の 拡がりが求められているとの記事を掲載した。 そして,民主婦人クラブも参加している「母子 保健法改悪に反対し,母子保健のあり方を考え る全国連絡会」では,月 1 回の連続学集会や ニュースの発行などの活動を続けるとした(婦 人民主新聞 1986b)。ただし,次期国会に母子保 健法改正案は上程されることはなかった。  以上のように,1985 年 8 月下旬に母子保健法 改正に向けた厚生省の動向が報道された後,複 数の女性団体や障害者団体が連携し,全国規模 で母子保健法改正反対運動を展開した。これら の団体のうち,「母子保健法改悪に反対する女た ち・大阪連絡会」(以下,大阪連絡会)は,新生 児マス・スクリーニングを母子保健法改正によ る先天異常モニタリングシステム導入と関連づ けて争点化した点で注目に値する。 利 光(2012) に よ れ ば,1970 年 代 か ら 1980 年代の優生保護法改正の動きに反対してきた女 性や障害者は,政府による母子保健法改正の動 きを優生政策強化と母性管理の徹底と捉えた。 そこから 1985 年の「母子保健法改悪に反対し, 母子保健法のあり方を考える全国連絡会」の結 成につながっていった3 )。その後,「なくそう優 生保護法・堕胎罪,かえよう母子保健全国連絡会」 と名称を変更し活動を続けていたが,母子保健 法改正反対運動の中で,同様の趣旨で活動する 団体が全国各地に生まれ「母子保健法改悪に反 対する○○連絡会」と名乗るようになっていっ た。1985 年 10 月 に 結 成 さ れ た 大 阪 連 絡 会 は, そうした団体のひとつである。次章以降で述べ るように,大阪連絡会は母子保健法改正反対運 動と関連して,先天異常モニタリングや新生児 マス・スクリーニングに対する疑義を厚生省に 提起し,回答を求める交渉を行っている。その 3 ) 「母子保健法改悪に反対し,母子保健のあり方を 考える全国連絡会」に参加した団体は障害者団体, 女性団体,自治体労働者等である(利光 2012: 100)。 際の基本的な立場は,女性の身体管理および優 生政策の強化への反対であった。 Ⅱ. 新生児マス・スクリーニング検査後ろ紙の 研究利用に対する疑義 大阪連絡会は,「NO !赤ちゃんや私たちの血 液を無断で流用しないで!」と題する 1986 年 1 月 13 日発行のリーフレットにおいて,新生児マ ス・スクリーニングに疑義を呈した。 ここでは,新生児マス・スクリーニングや妊 婦検診等で採取された血液は,本来の検査のた めだけでなく,様々な研究に使われているとし た。さらに厚生省の先天異常モニタリング研究 (1982 ∼ 1984 年度)に言及し,新生児マス・ス クリーニング検査後の血液ろ紙の目的外利用を 指摘した。具体的には大阪府立母子保健総合医 療センターで先天性代謝異常症のマス・スクリー ニング検査を行っており,府下全域の新生児の 血液が集まってくることから検査項目以外のヘ モグロビン変異種を調べ始めたという。1985 年 までに 7000 名について調べ終わり,世界初の新 変異種が 1 人見つけ出されたとした4 )(母子保健 法改悪に反対する女たち・大阪連絡会 1986a)。 後に大阪連絡会は,新生児マス・スクリーニン グの検査後ろ紙の目的外使用をプライバシーに 抵触する問題として批判していくが,この時点 ではまだそうした論点は提示されていない。 プライバシー問題に言及されるのは,大阪連 絡会が 1985 年 12 月から 1986 年 2 月に開催した 「母子保健法改悪阻止連続講座」においてである。 「母性手帳ってなんだ?!」(1985 年 12 月 15 日) に続く「母子保健の現場から」(1 月 15 日)お よび「乳幼児健診って誰のため」(1 月 26 日) では,現場の保健婦や労働者を交えた議論の中 4 ) 大阪のマス・スクリーニングの血液流用とともに, 1982 年に鳥取県の保健所や公立病院で妊婦 1161 人の検診時の血液でαプロテインを測定した問題 を指摘している。

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で,プライバシーへの抵触や無断で個人データ が収集されているといった問題が指摘された。 さらに「モニタリングシステムとは?」(2 月 9 日)では,モニタリングシステムが「環境監視」 には役立っておらず,もっぱら遺伝や母親の生 活態度が原因追及されているとされた。モニタ リングシステムでは,障害児を産むのは悪いこ とという前提で遺伝相談や出生前診断が推奨さ れているが,それは優生思想ではないかという 懸念が示された(母子保健法改悪に反対する女 たち・大阪連絡会 1986b)。 この連続講座ののち,大阪連絡会は 2 月 14 日 に母子保健法改正問題について厚生省との交渉 の場を設定し,同省の母子衛生課担当者に先天 異常モニタリングと新生児マス・スクリーニン グについて質問を行った。次章で詳しく述べる ように,その際大阪連絡会が提示した主要な論 点は,データ収集や検体である血液の利用にお けるプライバシーの侵害であった。 なお,大阪連絡会は 1979 年に開始された厚生 省心身障害研究「先天異常のモニタリングに関 する研究」5 )の動向を強く意識しながら活動して いた。ここで,当時の新生児マス・スクリーニ ング研究に触れておく。 「先天異常のモニタリングに関する研究」のう ち,新生児マス・スクリーニングで収集された ろ紙の血液流用問題に直接関係するのは,1980 5 ) この中で,班長(主任研究者)の山村雄一(大阪 大学学長)は先天異常とは「「あらゆる病気は遺 伝要因と環境要因のからみから生ずる」というの が病気に対する基本的な考え方であるが,この考 えのなかで先天異常を位置付けるとすれば「病気 のなかでもとくに遺伝要因の明らかなモデル疾 患」ということになる」とし,研究班で検討する 先天異常は遺伝性が明らかでなくても遺伝要因の 解析の進んでいる病気はすべて含まれるとした。 具体的には遺伝子,染色体の基礎知識の開発,病 気としての先天異常の診断技術の向上と情報収集 への応用,病態の正確な把握,発生及び発症の予 防,評価と治療法の開発と受け入れ準備である。 「これらのテーマはいずれもこの班の本来の使命 である先天異常のモニタリングに欠くべからずも のである」と,具体的に述べている(山村 1980: 1―4)。 年度に開始された「ヘモグロビン変異種に関す る研究」である。このプロジェクトが開始され たのは,異常ヘモグロビン症が蛋白質をマーカー として研究することが可能な疾患であり,研究 対象として最も理想的でデータの信頼度が高い ためである(林他 1981:124―129)。1981 年度に は,異常ヘモグロビン症ではなく家族性アミロ イドポリニューロパチー荒尾型の遺伝マーカー による解析の遺伝疫学的考察が研究された。こ の疾患は一般に常染色体優性遺伝の形式をとる。 研究では,患者やその血縁者の各種遺伝マーカー を検索して,遺伝学的考察を行っている 6 )(林他 1982:131―138)。また 1982 年度には,遺伝・疫 学面からみても先天異常モニタリングシステム の一つとして重要な意義を持つとして,先天性 代謝異常症のマス・スクリーニングのろ紙乾燥 血をヘモグロビン症のマス・スクリーニングに 応用している(林他 1983:113―119)。1982 年度 から実施されたヘモグロビン変異種のマス・ス クリーニングでは,ヘモグロビン変異種を持つ 新生児が 1985 年 1 月の時点で 63 人が発見され た。大阪では 1100 人に 1 人の割合で検出された という(林他 1985:15―19)。1984 年度に研究が 終了した時点でヘモグロビン変異種のマス・ス クリーニングに関する技術は確立し,新生児マ ス・スクリーニングに取り入れることが可能な 水準にあったといえる。 このように大阪連絡会が注目した先天異常の 6 ) 研究が行われた理由について 1982 年度の報告書 で班長の山村は現在,先天性代謝異常マス・スク リーニングの対象となっている疾患の大部分は常 染色体劣性遺伝病である。この種類の劣性形質は 常識的に発生頻度が大きく変動するとは考えられ ていないので先天異常モニタリングの対象として は不適当である。したがって,対象疾患の選定が モニタリングにおいて重要な意味を持ち,さらに 先天性代謝異常マス・スクリーニング事業は,あ る意味でこれまで自然に淘汰されていた変異遺伝 子を救い上げることになる。これがどういう意味 を持つことになるかを先天異常モニタリングの立 場からも山村は見守っていきたいとした(山村 1983:2)。

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モニタリングに関する研究におけるヘモグロビ ン変異種の研究では,ヘモグロビン症を新生児 マス・スクリーニングに取り込み,蛋白質でよ り精密なスクリーニングを実施することを目的 にしていた。さらに,その他の優性遺伝疾患の スクリーニングも研究されていた。しかし,大 阪連絡会が問題にしたのは新生児マス・スクリー ニングの対象疾患の拡大ではなく,「血液の流用」 であった。 Ⅲ.厚生省との交渉および研究班の動向 1986 年 2 月 14 日,大阪連絡会は「母子保健 法改悪に反対し,母子保健のあり方を考える全 国連絡会」の集会に参加している。翌日の 2 月 15 日厚生省の交渉には大阪連絡会の 3 名の他, 先天性四肢障害児父母の会関係者,ライター, 全国連絡会関係者などが参加した。厚生省から は,児童家庭局母子衛生課課長,課長補佐 2 名 が対応している(母子保健法改悪に反対する女 たち・大阪連絡会 1986b)。 厚生省との交渉で,大阪連絡会は先天異常モ ニタリングを中心に以下の質問を行った7 ) 1. 神奈川,大阪,鳥取で行われている外表奇形 の実態調査では,全出産時のデータを収集し ており,プライバシーの侵害にあたること。 2. 新生児マス・スクリーニングの血液を流用し て研究していること。 3. 鳥取県では調査で追跡が必要となった児の健 診のデータを追跡調査している。大阪でも保 健所のデータを流用して「精神発達遅滞」の モニタリングを実施しているが保健所のデー タの流用は問題とは考えないのか。 7 ) 厚生省への質問と厚生省からの回答は,交渉に参 加した利光惠子氏が作成した交渉メモに基づく。 交渉メモは利光氏から提供された。この厚生省と の交渉は後の大阪府との交渉との課題を一定数網 羅している。 4. 出生前診断,遺伝相談がモニタリング研究に 入っているがなぜか。 5. モニタリングシステムでは何を実施するのか。 6.モニタリング研究会の性格はなにか。 7. 1985 年度のモニタリング研究の研究費の金 額の情報と報告書がほしい。 8. 1986 年度もモニタリング研究は継続するの か,継続する場合の予算,班員,研究計画は 教えてもらえるのか。 9. 1987 年度の健全母子育成事業費 1100 万円の 内容はなにか。 ここでは,事前に問題とされた「血液の流用」 「個人のプライバシー」「モニタリングシステム が優生思想」の他に,母性手帳問題に関連する「健 全母子育成事業」にも言及されている。 これらの問題提起に関して,厚生省側は以下 のように応答した。 1. プライバシーについては今後のテーマである。 何か問題が生じれば研究班をストップする可 能性はある。しかし,現在は問題が起きてお らず,研究者の良心にゆだねている。また, 厚生省は補助金を交付しているのみである。 2. 検査以外の血液の流用は研究であれば問題な い。 3. 各都道府県の衛生部に確認してほしい。厚生 省としてはデータの流用は問題ないと考えて いる。 4. 出生前診断については,さまざまな意見があ るが,研究者には研究する自由がある。厚生 省としては出生前診断をして胎児に異常が あったとき中絶をするということについては 優生保護法に胎児条項がない以上認められな い。モニタリングシステムの中に胎児診断を 入れることは考えていない。遺伝相談も入れ ない。遺伝相談は大事と思っている。現にやっ てはいるがモニタリングシステムには入れな

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い。これらがモニタリング研究に入っており 複雑である。今後は分けることも考えている。 5. 環境要因による胎児の影響をみるため。今の 世の中では色々な化学物質が多くある。最終 的に影響が現れるのはヒトの胎児であるため 先天異常のモニタリングを実施する。 6. 厚生省とは関係なく,今回のモニタリングシ ステムの導入について先天異常学会に属して いる研究者の方もいるので意見は聞いてい る。 7.8. 報告書はまだ出ていない。執行額は議員の 請求があれば提出する。1986 年度について は 5 月末にはわかるので,執行額は議員の 請求があれば渡す。 9. 思春期,その親の性の悩みについて相談する 窓口,詳しくは府県の衛生部に聞いてほしい。 なぜ,こんなことをお聞きになるのですか。 9.について厚生省は健全母性育成事業につい てはモニタリングと関連して考えておらず,「な ぜそんなことをお聞きになるのですか」と回答 している。しかし,母子保健法の改正を反対す る運動の中では「母性強化」も重要な問題であっ た。 この厚生省交渉で提出された論点は,1986 年 度の厚生省研究班の報告書でも言及されている。 1985 年度厚生省心身障害研究「先天異常のモニ タリングに関する研究」研究報告書の巻頭(山 村 1986:1)で,主任研究者の山村裕一はソ連 の原発事故に伴う放射能汚染の影響について触 れ8 ),事故は先天異常のモニタリングの先進国で ある北欧をはじめとするヨーロッパ諸国の近く 8 ) チェルノブイリ原子力発電所の事故が起こったの は 1986 年 4 月 26 日である。報告書はその後に発 行されたと考えられる。1979 年の「先天異常のモ ニタリングに関する研究」では,欧米における先 天異常モニタリングシステムの実情を調査する目 的とし,先天異常の原因の大部分が遺伝子や染色 体とそれを取り巻く環境の相互作用であるとし, 研究班の着手の第一歩として先進諸国の遺伝医学 の実態調査をおこなっている。 で生じており先天異常のモニタリング結果が注 目されるとした。また「各種情報の有効な利用 とプライバシーの保護にからむ問題」という項 では,行政の場合が特に問題であり管轄が変わっ ても有効な情報が利用できるシステム作りが必 要であると述べたうえで,プライバシーの保護 については「種々の場合に問題になることが多 く,利害が絡んで泥沼にはいると間に立つ行政 は身動き取れなくなるのが通例である」(山村 1986:3)とした。 さらに注目されるのが,1985 年度の報告書で はそれまで使われていた「遺伝要因」という用 語に替わり,「遺伝子突然変異」「遺伝子変異」 が使われていることである。林昭らの報告「新 生児ヘモグロビン変異種をモデルとする先天異 常モニタリングの試み」では,研究のテーマと してとり上げたヘモグロビン変異種について「突 然変異原モニタリング」の指標と位置づけられ るとした。新生児マス・スクリーニング検査後 のろ紙については厚生省,大阪府当局の許可が 得られたので新しい技術の開発に踏み切ったと している。さらに,使用後のろ紙をマス・スクリー ニングに応用する研究が実施され,クレチン症 は有効性が認められて 1980 年から国の事業とし てとり上げられたと述べている(林他 1986:22 ―28)。林らは,新生児ヘモグロビン変異種をめ ぐる問題点について以下のように述べている。 現在大阪府における新生児 Hb 変異種のマ ス・スクリーニングは順調に進められてきた が,これを突然変異原のモニタリングに発展 させる道は残念ながら現在のところ閉ざされ ている。その理由は,特定のグループから提 起されたプライバシーをめぐる声にからんで, 行政当局が我々とスクリーニングされた新生 児及びその両親との接触に同意しないからで ある。すなわち,この接触がなければ見出さ れた Hb 変異種が両親から直接伝えられたも

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のか,あるいは突然変異により新しく出現し たものかを区別する事はできない。さらに重 要なことは,一部の医療を必要とする患児が そのまま放置されている可能性もある事で, 臨床医としては誠にやり切れない気持ちであ る9 )(林他 1986:28)。 厚生省は前述の交渉での応答において血液の流 用は問題ないとしたが,林らは血液の流用につ いて「特定のグループ」からの指摘によって研 究の継続が困難になったと述べている。 1986 年度には「先天異常モニタリングシステ ムに関する研究」と研究班名が変更され,主任 研究者は小西宏(神奈川県立子ども医療セン ター)に交代した。報告書の冒頭で小西は,研 究班の性格について「山村班の研究成果を踏ま えつつ,主として外表奇形をマーカーとして先 天異常の要因のうち,主に環境要因(外的要因) の存在を早期に把握するための実用的な方法の 検討を継続して行おうとするものである」(小西 1987:1)としている。 さらに,世界保健機構(WHO)で先天異常 の発生予防に関する検討会議が開催されるなど の国際的な動向も無視できないが,「わが国は 脳死や臓器職提供の問題に見られるとおりデリ ケートな国民感情が作用する風土があるため慎 重な対応が求められている」(小西 1987:1)と した(小西 1987:1―3)。1986 年度の研究班で は林らが実施していたヘモグロビン変異種の研 究は継続されず,林はどの研究班にも属してい ない。また,1980 年度から神奈川,大阪,鳥取 で実施され,大阪班で開始当初から使用されて きた「先天異常モニタリングの実地調査に関す る研究」については,1986 年度に「外表奇形実 9 ) この報告書の林らの意見に対して,「あきれた話 である」とし「彼は反省するどころか,研究がス トップされてしまったことを不服に思っているの です」(母子保健の改悪に反対する女たち・大阪 連絡会 1993:10)と指摘している。 地調査」に名称が変更されメンバーも大幅に変 更された10) Ⅳ.大阪府との交渉および研究班の動向 1986 年 2 月に母子保健法改正阻止のため厚生 省と交渉した際,現行の具体的な問題点につい ては「各府県の衛生部に聞いてほしい」,「各府県 の衛生部の責任でやっていること」との回答を 得ていた。そのため,大阪連絡会は 1986 年 7 月 19 日に大阪府との交渉を開始している。山本健 治(大阪府議会議員)の仲介で,母子保健法の 改悪に反対する女たち大阪連絡会,大阪青い芝 の会,コンピューターによる住民管理に反対す る枚方市民の会などが参加しての交渉となった。 大阪府衛生部からは 4 名が対応した(母子保健 法改悪に反対する女たち・大阪連絡会 1986c)。 質問項目は以下のとおりである。 1.先天性代謝異常マス・スクリーニングにつ いて,2.先天異常モニタリングについて,3. 市町村の保健婦体制等について , 4.出生届の 提出時,母子手帳が必要である理由について。 これに対して,大阪府の担当者からは以下の回 答があった。 1. 1977 年 10 月から 5 項目で国により開始され, 府も実施主体として開始した。親への説明は 各医療機関で口頭の検査希望の有無を聞いて 10) 1980 年の「先天異常モニタリングシステムの統計 的方法の検討」で安田徳一(放射線医学総合研究 所遺伝研究部)は先天異常モニタリングの検討項 目の一つとして,先天異常に遺伝の寄与が大きい かどうかの検討も行うとした(安田 1981)。1982 年度の研究報告書で山村は「外表奇形モニタリン グの真の目標は,最終的には催奇形原をみつけて これを取り除くことにある」(山村 1983:1)とし ている。1984 年先天異常モニタリングの実地調査 に関する研究(大阪班)で母親の年齢が上昇する ほど出生するダウン症候群の児の発生頻度が高く なることが確かめられている(倉智 1985)。「先天 異常に関するモニタリング研究」では,遺伝や染 色体にも着目し,外表奇形のモニタリングが行わ れていたといえる。

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いる。血液の流用は保健センターで検査して いる検査後の廃棄処分のものについてプライ バシーを尊重した上で研究していると聞いて いる。(本人が知らないということはどうな のかという質問に対し)医学の進歩というの は廃棄する血液などを用いて研究されてきた 上に成り立っている。クレチン症の検査も廃 棄処分のものについて研究されてきて実施の 運びとなっている。母子手帳の説明文につい ては言葉足らずの面があれば変更していきた い。マス・スクリーニングの母子手帳の説明 文書は府が考えたもので変更可能とした。 2. 厚生省心身障害研究は 3 年ごとに研究テーマ が設定されている。1986 年度のモニタリン グシステムの内容についても,実地調査が継 続されているかどうかも大阪府は知らない。 1985 年度の大阪班の会計についても関知し ない。大阪班の事務局は大阪大学なので,そ こで聞いてほしい。大阪府立母子保健セン ターはモニタリング研究の全国事務局であ る。モニタリング研究についての報告は府に はない。(調査票は府下で配布しているのに 責任はどうなのかとの質問に)厚生省の研究 で,委託を受けた研究者が行っている。 3. 厚生省で全国衛生係長会議があり,母子保健 法の改正については内容時期とも現時点では わからない。幅広い検討が引き続き必要であ るとの説明があり,この表現は当分の間は改 正がないと考えてよさそうである。大阪府の 保健婦は総勢 120 名で多くない。未設置のと ころはなくなった。 4. 戸籍法上必要ない。母子手帳がなくても法的 問題はない。 残された問題点については,また話し合いを 持つということで交渉は終了した11) 11) 利光惠子氏から提供された利光氏自身が整理,作 成した交渉メモ。大阪府との交渉における質問事 ここでは,厚生省との交渉において国の管轄 でないとされた点を中心に質問されている。し かし,母子手帳における新生児マス・スクリー ニングの文章を変更すること以外は,大阪府で 対応できるとされたものはなかった。また,市 町村の保健婦体制と出生届時に母子手帳が必要 との質問については,母子保健法改正問題の観 点から行われたとみられる。 Ⅴ. 大阪府への公開質問状と回答および研究班 の動向 前回の交渉の問題点を踏まえ,1986 年 9 月 1 日に大阪連絡会は岸昌大阪府知事宛に公開質問 状を提出している。これに対して,1986 年 11 月 22 日に大阪府衛生部保健予防課長からの回答 がなされた。大阪連絡会の質問項目は以下のと おりであった。 1.先天異常モニタリング実地調査について 1- ①.この調査は,著しく人権を侵害し,優生 思想を助長し障害児に対する差別を強化する ものでしかありませんので,即時中止するよ う,府として対処されることを申し入れます。 1- ②.大阪府民の人権とプライバシーを預かる 立場にある府として,このような調査が行わ れていることに対しどのようにお考えなのか, 府としての見解を示していただきたい。また, 府の責任と関与の範囲について具体的に示し ていただきたい。 1- ③.厚生省の研究でありながら,この調査の 集計にあたって厚生省の研究班は大阪府の施 設である府立母子保健総合医療センターへ調 査票を送り,しかも,そこのコンピューター や職員を使用してデータ入力,集計をさせて います。そのことについて府として,どうお 項及び大阪府衛生部の回答も交渉に参加した利光 氏のメモより参照。

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考えですか。 1- ④.この調査の実施にあたり,大阪府医師会 が調査票に拘る情報を医師会が取り扱うこと について,どうお考えですか。 1- ⑤.回収された調査票及びコンピューターに 入力されたデーター(ママ)は,どこに保存 され,誰がどのように利用しているのか。また, その管理責任はどこにあるのかを明らかにし ていただきたい。 2.新生児マス・スクリーニングについて 2- ①.このようなマススクリーニングの弊害及 び疑問について,府の見解を明らかにしてい ただきたい。 2- ②.新生児マススクリーニングの実施にあたっ ては,希望者が医療機関,または保健所に申 し込むという形がとられていますが,実際は 当事者の知らない間に検査されていたという ケースが多くあります。このような状況に対 し,医療機関から妊産婦,保護者への説明, 希望の有無の確認について府の指導方針を明 らかにしていただきたい。 2- ③.大阪府下では新生児の血液をしみこませ たろ紙が本来の目的である検査以外に研究材 料として勝手に流用されています。当事者で ある新生児の両親,保護者に何ら説明がなく, 了解も得ずにこのようなことが行われること は,著しくプライバシーを侵害するもです(マ マ)。大阪府としてはこの事実についてどうお 考えですか。見解を明らかにしていただきた い(大阪府衛生部 1986) この要望項目について大阪府衛生部は以下の 回答をおこなっている。また,回答時に口頭で の補足も行われた。 1.先天異常モニタリング実地調査について 1- ①.調査は,厚生省心身障害研究として実 施されておりますが,貴会のご意見につき ましては,厚生省及び研究会に伝えてまい りたいと考えています12) 1- ②.調査は,厚生省及び研究班の責任のも と実施されており,府として監督指導立場 にありません。しかし,お示しの府民の人 権を守るという観点から,厚生省及び研究 班に対し,プライバシーの保護の,一層の 留意を要望してまいりたいと考えています。 1- ③.本研究は国の研究であり,府立母子保 健総合センター職員が研究班員として参加 していたことから,同センターで調査票の 集計を行うことに協力してきました。 1- ④.調査票の配布は研究班事務局が行い, 回収は府医師会を通じて行っています。府 医師会は,研究班に参加して調査票の回収 を行っているもので,その調査票の管理は 厳重に行われています。今後とも,厚生省 及び研究班に対し,調査票の回収について, 一層プライバシーの保護に留意するよう要 望して参りたいと考えています13) 1- ⑤.回収された調査票及び集計結果は,研 究班事務局で厳重に管理されております。 集計結果は,研究班が研究に使用していま す。これらの管理責任は,厚生省・研究班 にあります。 2. 新生児マス・スクリーニングについて 2- ①.本事業は,先天性代謝異常症及び先天性 甲状腺機能低下症の早期発見,早期治療を 目的として,国の指導により全国的に実施 12) 質問状に対する回答について大阪府衛生部職員と 話し合いを実施時に衛生部職員が口頭で補足的に 述べたことを利光氏自身が整理,作成したメモ。 以下注(15),(16),(17)もこのメモでの補足。 口頭での補足として,今年度大阪班は改組され, 大阪府立母子総合センターの職員は入っていな い。今後の研究については検討中であり,現在は 新生児調査票は回収していない,データ入力も止 まっているとされた。 13) 補足として,府医師会は回収を手伝っただけで医 師会は中は見ていないとした。

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されているもので,意義深いものと考えて います。事業の趣旨から,できるだけ多く の新生児がこの検査を受けるように啓発を 行っていますが,障害に対する偏見を持た れることのないよう一層留意してまいりた いと存じます。また,対象疾病につきまし ては,厚生省で決定したものでありますの で,ご指摘の疑問については厚生省へ伝え てまいりたいと存じます。 2- ②本検査は,希望者を対象に実施しており ますが,保護者の希望の有無の確認につい て,指導を一層強化してまいりたいと考え ています14) 2- ③.マス・スクリーニングの検査後の検体 につきましては,今後,利用目的,方法等, 慎重に検討を行い,プライバシーの侵害に ならないよう配慮してまいりたいと存じま す15)(大阪府衛生部 1986)。 これらの対応に対し,大阪府の姿勢はある程 度評価できるとしてもモニタリング調査は厚生 省と研究班が実施しているというのは責任回避 とも受け取れるとした(母子保健改悪に反対す る女たち・大阪連絡会 1993:5)。この回答では「プ ライバシー」という言葉を頻繁に用いながら, 研究を実施する上で対象者の人権を守るとされ, その後の研究に影響を与えたといえる。 一方,1987 年度厚生省心身障害研究「先天異 常モニタリングシステムに関する研究」研究報 告書では,それまで実地調査で参加した大阪班 が研究を中止し,代わって石川班が先天異常モ ニタリングに参加している16)。また「先天異常モ 14) 補足として,これまでは,希望の有無を確認せず に検査していたこともあったことを認め今後は何 らかの形で確認したいとした。 15) 補足として,これまでは了解を得ずに勝手に血液 を流用していたが,今後は了承を得ずにはしない。 これまで血液流用したデータはすべて破棄すると した。 16) 石川県は厚生省の研究班には参加していなかった ニタリングにおけるプライバシーの保護につい て」という課題が,研究班に新たに設定された。 担当した柳川従道(柳川法律事務所)は,「近時 個人情報のコンピューターによる処理,蓄積, 利用によるプライバシーの侵害またはその不安 が社会問題化して」(柳川 1988:5)おり,現行 法によるプライバシーの保護は社会要請からみ れば不十分であり,部分的に立法化する試みが なされているとしている。モニタリングの機能 を維持しつつ法的要請を超えて社会的要請にも 答えることができるかは困難な問題だが情勢の 推移を見つつ検討する必要があるとした(柳川 1988: 5―9)。 法的対応としては,1988 年 12 月 16 日に「行 政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情 報の保護に関する法律」が制定された。しかし, 1988 年度報告書の冒頭で主任研究者の小西は, モニタリングシステムの研究への影響を「この 法律による規制対象は,当面行政機関による個 人情報のコンピューター処理に限定されており, また,医療情報はその対象から除外されている ので直接この法律の対象として規制を受けるこ とはないと考えられる」とした(小西 1989:3)。 このように,行政機関での個人情報は保護され ることとなったが,医療情報は除外され,研究 の継続に影響を与えることはなかった。 おわりに 1985 年 8 月の新聞報道をきっかけに,政府の 母子保健法改正に向けた動きに反対する運動が 全国的な規模で展開された。この母子保健法改 正反対運動の一環として,大阪連絡会は厚生省 が設置した「先天異常のモニタリングに関する が,1981 年より,県内の産婦人科医療機関や保健 所等の衛生行政機関のもとに先天異常児発生調査 (先天奇形,染色体異常,遺伝性疾患,先天性代 謝異常,その他の先天性の疾患をすべて含む)を 実施していた。詳しくは河野他(1988:37―51)。

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研究班」の活動に疑義を呈した。先天異常モニ タリングが,女性の身体管理と優生政策につな がるとして警戒したのである。1986 年度以降, 母子保健法改正反対運動による批判を受けて, 先天異常モニタリング研究は環境要因による外 表奇形のモニタリングへと重点を移した。この ように大阪連絡会は厚生省や同研究班の調査を 実施していた大阪府を相手に交渉し,同研究班 の活動方針を一部方向転換させるなどの影響を 与えたといえよう。 ここで注目すべきなのは,大阪連絡会が一連 の先天異常モニタリング批判のなかで新生児マ ス・スクリーニングについても問題を指摘して いたにもかかわらず,争点を優生政策批判では なく「プライバシーの侵害」に設定したことで ある。「先天異常のモニタリングに関する研究班」 の林らは,優性遺伝病の保因者の検出も視野に 入れながら,新しい新生児マス・スクリーニン グ技術の開発を目的にヘモグロビン異常症研究 を実施していた。大阪連絡会は,林らの研究に 新生児マス・スクリーニングの血液ろ紙が無断 流用されていたとして,これをプライバシーの 侵害であると批判した。大阪連絡会は母子保健 法改正に反対した他の女性団体とともに,先天 異常モニタリング研究が「遺伝」や「発生予防」 を意図していたという認識を示していた17)。しか し先天異常モニタリングの一角を占める新生児 マス・スクリーニングについては,検体流用に よるプライバシー侵害問題と結びつけられた結 果,優生政策批判の文脈の外側に置かれること となった。こうして新生児マス・スクリーニン 17) 1988 年 7 月 16 日,『母子保健』みんなでしゃべろ う会の資料において,先天異常モニタリング研究 が 1979 年の研究班発足時,遺伝要因の解析,保 因者の検出,比較的単純な発生予防,環境要因の 解析にもとづく発生予防が先天異常の発生要因の 解析を志しながら研究が行われていた。また,治 療不可能であれば優生学的な排除が意図され,発 生予防とは環境の悪化ではなく胎児の出生予防で が意図されていたと記述されている(『母子保健』 みんなでしゃべろう会・資料 1988)。 グ研究は,「遺伝医療」としての側面を内包しつ つ「先天異常モニタリングシステム」として直 接的な批判を免れて継続されることになった。 本研究では大阪連絡会という,ひとつの女性 団体に焦点をあて新生児マス・スクリーニング に対してどのような問題が指摘されたのか,ま たそれに対して政府や行政,研究に携わった医 師らはどのように対応してきたのかを検討した。 大阪連絡会がなぜ新生児マス・スクリーニング を優生政策と結びつけなかったのか,批判が遺 伝情報のプライバシー問題に焦点化されたこと が,今日に至る新生児マス・スクリーニングの 受容にどのように影響したのかについては今後 の課題としたい。 謝辞 本研究では「母子保健法改悪に反対する女た ち・大阪連絡会」メンバーであった利光惠子氏 に多くの貴重な資料をご提供いただきました。 記して感謝申し上げます。 引用文献 朝日新聞(1985)厚生省,先天異常の監視システム導 入へ 発生急増すればすぐ原因究明.9 月 23 日朝刊, 3 面.

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く会ニュース No.2. 母子保健改悪に反対する女たち・大阪連絡会(1993) 異議あり!母子保健 ―なにわやかましレポー ト.母子保健改悪に反対する女たち・大阪連絡会. 『母子保健』みんなでしゃべろう会・資料(1988)主 催自治労大阪本部・大阪医療・年金・福祉抜本改 革大阪運動センター・母子保健法改悪に反対する 女たち・大阪連絡会. 婦人民主新聞(1985a)母子保健法 厚生省,全面改悪 にのりだす 女のからだを生涯管理 障害の 発 生予防 狙う.婦人民主新聞, 9 月 13 日, 3 面. 婦人民主新聞(1985b)母子保健法改悪 厚生省説明. 婦人民主新聞, 9 月 27 日,3 面. 婦人民主新聞(1985c)11.23 母子保健法改悪阻止 全 国同時多発行動.婦人民主新聞, 11 月 15 日, 3 面. 婦人民主新聞(1985d)母子保健法改悪に反対する同 時多発大行動.婦人民主新聞, 12 月 6 日, 1 面. 婦人民主新聞(1985e)改悪阻止にむけ全国に運動広が る 母子保健法.婦人民主新聞, 12 月 27 日, 3 面. 婦人民主新聞(1986a)大阪でも反対集会 母子保健 法改悪 NO !.婦人民主新聞, 2 月 27 日, 3 面. 婦人民主新聞(1986b)母子保健法改悪今国会上程阻止. 婦人民主新聞, 3 月 28 日, 3 面. 林昭・木戸口公一・藤田富雄・松雄清巧(1981)新生 児ヘモグロビン症を対象とする新しいマス・スク リーニング法および 1 次構造決定法の開発.先天 異常のモニタリングに関する研究 昭和 55 年度研 究報告書,124―129. 林昭・和田芳直・鈴木友和・佐古田三郎・比嘉定吉・ 上地正雄・中島明・松本秀雄・宮崎時子・尾本恵市・ 徳永勝士・笹月健彦・西村圭・江上道子(1982) 家族性アミロイドポリニューロパチー荒尾型の遺 伝学的考察:遺伝マーカーによる解析.先天異常 のモニタリングに関する研究 昭和 56 年度研究報 告書,131―138. 林昭・和田芳直・藤田富雄・木戸口公一(1983)新生 児異常ヘモグロビン症のマス・スクリーニング; 方法の確立とその試行.先天異常のモニタリング に関する研究 昭和 57 年度研究報告書,113―119. 林昭・和田芳直・藤田富雄・木戸口公一(1985)大阪 府における新生児ヘモグロビン変異種のマス・ス クリーニング.先天異常のモニタリングに関する 研究 昭和 59 年度研究報告書,15―19. 林昭・和田芳直・藤田富雄・木戸口公一(1986)新生 児ヘモグロビン変異種をモデルとする先天異常モ ニタリングの試み.先天異常のモニタリングに関 する研究 昭和 60 年度研究報告書,22―28. 河野俊一・西正美・伊川あけみ・中川秀昭・田畑正司 (1988)石川県における先天異常モニタリングに 関する研究.先天異常モニタリングシステムに関 する研究 昭和 62 年度研究報告書,37―51. 北川照男(1994)新生児マススクリーニングの 17 年 を回顧して.小児内科,26(12),1951―1954. 北川照男(2001)先天性代謝異常症治療の歴史.小児 内科,33(7),901―910. 小西宏(1987)先天異常モニタリングシステムに関す る研究.先天異常モニタリングシステムに関する 研究 昭和 61 年度研究報告書,1―3. 小西宏(1989)先天異常モニタリングシステムに関す る研究.先天異常モニタリングシステムに関する 研究 昭和 63 年度研究報告書,3. 倉智敬一・大浦敏明・谷村孝・古山順一・今川誠・寺 村定雄・福井雅夫・竹村喬・林昭・佐々木陽・藤 野俊夫・萩田幸雄・末原則幸(1985)先天異常モ ニタリングの実地調査に関する研究(大阪班). 先天異常のモニタリングに関する研究 昭和 59 年 度研究報告書,132. 黒田泰弘(2005)新生児マスクリーニングの歴史と成 果.周産期医学,35(9),1175―1178.

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Original Article

A Review of the Controversy of Mass Newborn

Screening in Japan: Focusing on Discussions of the

Women s Movement and Research on Monitoring

Congenital Anomalies

SASATANI Eri

(Graduate School of Core Ethics and Frontier Sciences, Ritsumeikan University)

Japan introduced newborn screening in 1977 and it has become routine that almost all newborn babies are tested today. But the women s movement began to raise doubts about newborn mass screening by the 1980s. This study focuses why they began to doubt the validity of mass newborn screening and how the goverment and doctors responeded to their opposition. The primary documents, from handwritten notes to published leaflets by the women s movement, as well as research reports from the Ministry of Health and Welfare and medical journals were examined. The results found that women began to oppose revision of the Maternal and Child Health Act, and pointed out that the Dried Blood Spot for mass newborn screening was used for another purpose. The result finds that the Ministry of Health and Welfare s research on the monitoring of congenital anomalies began saying that their focus was more on testing the effects of external factors rather than checking heredity factors around 1986. The women s movement also shifted their focus from heredity testing to the importance of privacy and personal data. Thus, reseach on the monitoring of congenital anomalies has continued while discourse of heredity has been quietly put in the background.

Key Words : newborn screening, The Maternal and Child Health Act, eugenic policy, heredity,

Research on monitoring of congenital anomaly.

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