1.はじめに
生物多様性条約(CBD)(The Convention on Biological Diversity,1993)および名古屋議定書(NP)(外務省, 2017)の発効により,海外の遺伝資源の扱いは非常に 難しくなったという声をよく聞く.また,その遺伝資 源の取り扱いが国によって異なるので,複雑すぎてど うしてよいものかさっぱりわからないという声も聞 く.本稿では,海外微生物の取り扱いの一助になれば との思いで,2003 年以降アジアにおける海外微生物 探索を行ってきた NITE・NBRC の経験を紹介するも のである.さらに,CBD の第 15 条(環境省,1993) に基づく遺伝資源へのアクセスと利益配分問題の経緯 を概略する.参考にしていただければ幸甚である. 2.CBD-ABS に対する NITE の取り組み 1)バイオテクノロジー戦略大綱 2002 CBD 第 15 条には「利用者に遺伝資源の取得の機会 が与えられるためには,利用者は遺伝資源提供国から 事前の情報に基づく合意(Prior Informed Consent: PIC)を得ることが必要」と述べられているが,産業 界などからは一企業が他国の政府から事前の合意を得 るというのは少々荷が重すぎるという意見が出てい た.NITE は,CBD に対応した海外遺伝資源へのア クセスルートを開拓することにより,この問題解決の 役に立つのではないかと考えていた.2002 年 12 月に 「バイオテクノロジー戦略大綱 2002」が取りまとめら れ,生物遺伝資源の充実の重要性が謳われた(首相官 邸,2002).そして,その詳細行動計画のなかで経済産 業省は 2 つの点を計画した. (1) 難培養微生物,未知微生物等の有用な微生物及び それらからの DNA 等の探索,機能解析研究を行 うとともに,その実用化開発を促進する.さらに, それらを含む有用生物遺伝資源をライブラリー化 し,永続的に保存・供給していく体制を充実させ る.[実施中](経済産業省) (2) 生物多様性条約を踏まえ,海外の国々と生物の移 転に係る包括的な覚え書きや共同研究等により, 我が国の企業や研究者が海外の生物遺伝資源を活 用できる体制を順次整備する.[平成 14 年度着 手](経済産業省) 詳細行動計画のなかで実施中となっているとおり, 2002 年 4 月に千葉県木更津市に生物遺伝資源保存施 設(NBRC)が開所したが,これは上記(1)を受けて のことである.そして,上記(2)は CBD の問題解決 に向けての政策が提案されていたのである.これを受 け,NITE は進行中であったインドネシアとの交渉に 拍車を掛け,2003 年 6 月からインドネシアとの微生 物探索共同プロジェクトを開始したのである. 2)インドネシアとの交渉 事の始まりは,2000 年 5 月にケニアのナイロビで 開催された第 5 回 CBD 締約国会議(COP5)での出来 事であった.インドネシアの代表団の方が「近々ジャ カルタで CBD に関する会議を開くので,皆さん参加
海外生物資源の利用と NITE の取り組み
安藤勝彦
独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足 2-5-8Use of foreign microbes and NITE effort to promote it
Katsuhiko Ando
Biological Resource Center, National Institute of Technology and Evaluation (NITE) 2-5-8, Kazusakamatari, Kisarazu, Chiba 292-0818, Japan
E-mail: [email protected] 特集:海外遺伝資源の利用における
しませんか.一緒にこの問題について議論をしましょ う」と,参加者に呼び掛けたのであった.日本の経済 産業省からの代表はその呼び掛けに即座に反応し,帰 国後,(財)バイオインダストリー協会(JBA)がこの 件に対応し,会議に参加する旨をインドネシア側に伝 えた.ジャカルタでのその会議(国家遺伝資源委員会) は同年 8 月に開催され,インドネシアの CBD 関係者 が多数出席した.日本からは筆者を含め 4 名がオブ ザーバー参加したのであるが,周りを見渡しても日本 以外からの参加者は誰もいなかった.会議終了後,わ れわれはインドネシアとのバイの会合をもち,日本と インドネシアが遺伝資源を用いた共同研究を行うため にはどのようにしたら良いのか今後検討してゆくこと で合意した.2001 年 1 月に再びインドネシアを訪れ, 共同研究はお互いが win-win でなければならないこ とを確認し,日本とインドネシアが微生物資源を研究 材料として共同研究を立ち上げるべく協議することと なった. 先にも述べたが,この頃日本では NITE の中に NBRC を設立する構想が固まっていた.そこで,イン ドネシアと協議してきた微生物資源を研究材料とした 共同研究の実行機関として NBRC が担当することに なった.2001 年 6 月および 8 月のインドネシア渡航 では,NBRC の設立関係者も加わり,インドネシアの 機関と NBRC が共同で研究を遂行するにあたっては, 最初に基本的な原則を規定する覚書き(Memoran-dum of Understanding: MOU)を締結し,その下に各 種プロジェクトを立ち上げるという点で基本合意に達 した.その後,両者で MOU の内容を詰めてゆき, 2002 年 3 月 20 日に「微生物資源の保全と持続可能な 利用に関する共同研究プログラム」に関する MOU が NITE の 理 事 長 と イ ン ド ネ シ ア 技 術 評 価 応 用 庁 (BPPT)議長との間で調印された.このとき,BPPT の議長は研究技術省の大臣でもあった. MOU を締結しても実際の共同研究は始まらない. 共同研究を始めるためには,プロジェクトの目的,活 動の範囲と対象,プロジェクトの管理,実施計画と責 任,微生物資源移動の合意(Material Transfer Agree-ment: MTA),移動微生物の管理,微生物の公開と成 果の公表,知的財産権,利益配分,有効期間等々につ いて決めなければならない.われわれはこれらの項目 について積み木細工を組み立ててゆくように信頼関係 を構築しつつ,地道に議論を重ね,決めていった.そ して,2002 年 5 月のプロジェクトに関する最初の話 し合いを皮切りに,5 回の face to face の会合を経て, 2003 年 4 月 11 日に「インドネシア及び日本における 菌類及び放線菌の分類学的及び生態学的研究に関する 共同研究プロジェクト」に関するプロジェクト合意書 (PA) が NITE の 理 事 長 と イ ン ド ネ シ ア 科 学 院 (LIPI)議長との間で調印された.また,プロジェクト の運営においては Joint Project Committee(JPC)を 組織したが,これはプロジェクトの効率的な運営にき わめて有効であった. PA の会合では,インドネシア側のカウンターパー トをどこにするか,インドネシアでの微生物分離源試 料の採集地をどこにするかが問題となった.最終的に はインドネシア側のカウンターパートは LIPI に決 まったが,このプロジェクトには LIPI だけではなく BPPT,農業省,インドネシア大学,ボゴール農科大 学の微生物研究者も参加した.採集地については,わ れわれはなるべく複雑な問題が発生しないように,で きれば政府の管轄地域を希望したが,この問題は容易 に解決された.というのも,LIPI はボゴール植物園, チボダス植物園(西ジャワ),プルオダディ植物園(東 ジャワ),エカカリア植物園(バリ島)の 4 つの植物園 を管理しており,インドネシア側からもこれら植物園 内での試料採集が提案された.実は,インドネシアの 多くの自然林は林業省の管轄下にあるので,そこでの 試料採集は林業省の許可を得なければならない.しか しながら,ときに省庁間の意思疎通が難しいところが あるようで,なかなか許可が下りない場合があるらし い.したがって,遺伝資源の採集においては,その国 の地域管轄権の状況調査をし,適切な場所の選択が重 要である. われわれは,インドネシアで採集した微生物分離源 試料から現地で微生物を分離しており,分離源試料を 日本に移動することは行っていない.また,先にも述 べたようにプロジェクトにはなるべく多くの研究者を 募った.このことは,CBD 第 15 条 6 項による.そこ には「締約国は,他の締約国が提供する遺伝資源を基 礎とする科学的研究について,当該他の締約国の十分 な参加を得て及び可能な場合には当該他の締約国にお いて,これを準備し及び実施するよう努力する」と述 べられている.これは義務規定ではなく努力規定では あるが,われわれはこの文言を尊重してプロジェクト に当たった. 3)アジア微生物探索プロジェクト インドネシアプロジェクトは,2003 年 6 月から開 始された(安藤,2009a).筆者を含む NITE の研究者
4 名がインドネシアに滞在し,現地の研究者とともに LIPI の管轄する植物園において微生物の分離源試料 を採集し,チビノンにある LIPI の研究室で現地の研 究者とともに採集試料から微生物を分離する.分離し た微生物を純化した後,微生物株を選別し,NITE に 移動する株を決める.これら一連の作業の結果は帰国 前の JPC 会議で詳細に報告され,選別した微生物株 の日本への移動の許可を得る.そのために,JPC 会議 での報告事項や決定事項を議事録に残し,両プロジェ クトリーダーがサインする.そうして,インドネシア の微生物株は成田空港内の横浜植物防疫所を経由し て,NBRC に移動され,再度,純化を確認して保存さ れた.次に,NITE はプロジェクトに参加しているイ ンドネシアの研究者を招聘し,NITE においてそれら インドネシア株の分類学的研究を共同で遂行した.ま た,その年の 12 月にはプロジェクトの年次報告会を インドネシアで開催することで,成果を両者で共有し た.これがインドネシア微生物探索プロジェクトの一 連の流れである.本プロジェクトはインドネシアでも 高い評価を得て,2006 年 3 月にさらに 3 年間延長さ れ,結局,2009 年 3 月末まで続いた. インドネシアでの経験を基に,NITE は 2004 年 3 月にベトナムならびにミャンマーと MOU および PA を締結し,それぞれの国で微生物探索を開始した.残 念ながらミャンマーとは 2004 年に現地探索を行った ものの,翌年国内の政情が不安定となり,2005 年には 渡航できず,そのままプロジェクトは終了してしまっ た.他方,ベトナムとは 2016 年 3 月までプロジェクト は続いた(安藤,2009b).さらに,2006 年 6 月にはモ ンゴルと微生物探索プロジェクトを立ち上げ,このプ ロ ジ ェ ク ト は 2017 年 3 月 ま で 継 続 し た( 安 藤, 2009c).ところで,2012 年の早春に,ミャンマー側か ら尻切れトンボに終わった先のプロジェクトを再開し たいという要望のメールが送られてきた.これを受 け,筆者らはその年の 6 月にミャンマーに渡航し,教 育省副大臣と面談し,プロジェクト再開の環境は整っ たと判断した.そして,翌 2013 年 3 月に MOU および PA を締結したが,このプロジェクトは 2019 年 3 月ま で続くことになっている(安藤,2013). 4)利益配分 CBD 第 15 条 7 項には「締約国は,遺伝資源の研究 及び開発の成果並びに商業的利用その他の利用から生 ずる利益を当該遺伝資源の提供国である締約国と公正 かつ衡平に配分するため……適宜,立法上,行政上又 は政策上の措置をとる.その配分は,相互に合意する 条件で行う」と述べられている.ボン・ガイドライン (バイオインダストリー協会,2011)や名古屋議定書 (外務省,2017)の付属書に明記されているように,利 益配分には金銭的利益配分と非金銭的配分がある. (1)非金銭的利益配分 たとえば,研究成果の共有,遺伝資源に関連する研 修,制度的な能力開発,知識および技術の移転などは, 非金銭的利益配分の一形態として考えられる.われわ れは,共同研究を遂行するなかで以下のような非金銭 的利益配分を実施してきた. 協働:現地で行う試料採集,微生物の分離と純化, 簡易同定などの一連の作業は,常に現地のプロジェク ト参加者とともに行った.そうすることによって,わ れわれの知識や技術が相手側に自動的に移転されて いった.知識の移転や技術の移転にはときに時間が掛 かるが,一緒に働くことによってかなり効率的に移転 がなされたと思っている. ワークショップ:われわれはプロジェクトの仕事で 現地にいる間,微生物の分離,分類,形態による同定, 分子による同定,抗生物質スクリーニング,保存,微 生物保存機関の運営などに関するワークショップを現 地で開催し,相手側の能力構築に努めてきた.この場 合,共同プロジェクトに参加している研究者だけでな く,大学のスタッフや学生,研究機関の研究者などへ の参加を呼び掛けた. NITE への招聘:共同プロジェクトに参加している 相手側の特に若い研究者を中心に NITE に招聘し (1〜3 ヵ月間),現地から NITE に移動した微生物の (主に)同定を NITE の最新機器を活用して一緒に行 い,微生物に関する最新の知識および技術を提供し た.現在まで,インドネシアからは 23 名を,ベトナム から 21 名,モンゴルから 19 名そしてミャンマーから 12 名を招聘している. 研究成果の共有:お互いが常に情報を共有すること に努めた.第 1 は,毎年開催した年次報告会において その年の活動成果を報告し合い,常に情報を共有し た.また,国際科学雑誌などへプロジェクトの成果の 論文を発表する場合には,年次報告会で発表内容を話 し合い,貢献度に応じて著者名を決めていった.さら に,すでにプロジェクトが終了しているインドネシ ア,ベトナム,モンゴルについては,プロジェクトの 最終年度に最終報告会を開催すると同時に,最終報告 書を作成し共有している.その報告書には,年ごとに 採集した試料,分離した微生物株,保存した微生物株,
微生物株の同定結果のリストを掲載すると同時に,微 生物の分離方法や同定方法などの詳細を掲載してい る. (2)金銭的利益配分 現地から NITE に移動し保存されている微生物株 は日本の企業や大学において利用されている.利用者 は,PA に付属している MTA に合意することよって 利用可能となる.もちろん年間の微生物株利用料の支 払いが義務づけられており,そのお金は NITE を経由 して現地に送金される.利用者が,継続してそれら微 生物株を利用したい場合には利用を更新するとともに 利用料を支払うことになる.さらにその利用の中から 有用な発見がなされ,特許取得,商品化,販売などに 進んだ場合は,それらステージごとの金銭的利益配分 が設定されている. 3.生物多様性条約および名古屋議定書 1)CBD-ABS 問題への関わり CBD は,(1)生物多様性の保全,(2)その構成要素 の持続可能な利用,(3)遺伝資源の利用から生ずる利 益の公正かつ衡平な配分を行うという 3 つの目的のあ ることが,その第 1 条で述べられている(環境省,1993). この 3 番目の目的は,本条約が環境条約としてだけで はなく経済条約としての側面をもつことを示してお り,従来,この「アクセスと利益配分(access to ge-netic resources and benefit sharing: ABS)」に関する 問題は ABS 問題と称され議論されてきた.1997 年に JBA に設立された生物資源総合研究所が,1998 年に この ABS 問題を考える生物多様性委員会第一分科会 を組織したが,筆者が CBD-ABS 問題に関わりをもつ きっかけとなったのは,この委員会の委員になったこ とによる.このとき,筆者は当時の協和発酵工業(株) に勤務していた.この委員会は,翌年から「生物多様 性条約アクセスと利益配分委員会」となり,その後, 「生物多様性条約に基づく遺伝資源へのアクセス促進事 業」となったが1,その中で一貫して ABS 問題が議論 され,その成果は 2010 年に日本で開催された COP10 で採択された「名古屋議定書(Nagoya Protocol: NP)」 の議論に反映されている. 2)ボン・ガイドライン 1998 年 5 月にスロヴァキアのブラティスラバで開 催された COP4 において,ABS の問題が初めて COP の正式議題となり,ABS 専門家会合の設置が決定さ れた.そして,1999 年 10 月にコスタリカ・サンホセ で ABS 専門家会合が開催された.44 ヵ国から 44 名 の専門家,12 名のオブザーバー(国際機関,産業界, NGO 等の代表)等が参加したのであるが,筆者は日本 政府からその専門家として推薦され,委員として CBD 事務局から選出された.ABS の最初の会合でも あり,ブレインストーミングから始まり議論を深めて いったが,特に,CBD 第 15 条をわかりやすく理解す るための方策を議論し,そのためのガイドラインを作 ることになった.2000 年 5 月にケニア・ナイロビで 開催された COP5 において,この ABS 専門家会合の 報告が高く評価され,第 2 回 ABS 専門家会合の開催 が決定された.また,同時に COP の下に ABS 作業部 会(ABS Working Group: ABS-WG)を設置すること も決まった.第 2 回 ABS 専門家会合は 2001 年 3 月に CBD 事務局のあるカナダ・モントリオールで開催さ れた.筆者を含め 50 ヵ国 50 名の専門家ならびに国際 機関,企業などから 22 名のオブザーバーが参加し, COP5 での合意に基づき ABS ガイドラインの草案が 作成された.この草案は,2001 年 10 月にドイツ・ボ ンで開催された第 1 回 ABS-WG に送られ,そこでの 議論を経た後,2002 年 4 月にオランダ・ハーグで開 催された COP6 に提出された.COP6 では,この草案 に対し先進国側と途上国側の激しいやりとりがあった ものの,最終的には,この草案が「ボン・ガイドライ ン」として採択された. 3)名古屋議定書 2002 年 4 月に開催された COP6 でボン・ガイドラ インが採択され,今後はこのガイドラインを参考に遺 伝資源の利用が活発化し利益配分が進むであろうと誰 もが期待していた.ところが,2002 年 9 月に,南アフ リカ・ヨハネスブルクで開催された世界サミット (World Summit on Sustainable Development: WSSD)において「CBD の枠組みの中で,ボン・ガイ ドラインに留意しつつ,遺伝資源の利用から生じる利 益の公正かつ衡平な配分を推進し保護するための国際 1 一般財団法人バイオインダストリー協会:─生物多様性条約「アクセスと利益配分」に関するアーカイブ(1991-2011)─ 名古屋議定書採択に至るまでの会議の変遷.http://www.mabs.jp/archives/cbd/h22archive.html (最終訪問日 2017 年 10 月 20 日)
的制度(International Regime: IR)の交渉を始める」 ことが決定された.これは,2002 年 2 月に結成された メ ガ 多 様 性 同 志 国 家(Like-Minded Megadiverse Countries: LMMC)の圧力によるものであったと思わ れる.それを受け 2003 年 12 月にモントリオールで開 催された第 2 回 ABS-WG で IR の議論が開始された が,この会議は 2010 年に名古屋で開催された COP10 で NP が採択されるまで延々と続き(表 1),筆者はこ れらすべての会議に参加したが,IR の草案はそのた びごとに厚くなってゆき,誰もがこの草案はまとまら ないのではないかと感じていた.確かに,COP10 の 最終日前日まで草案がまとまる気配はなかった.とこ ろが,最終日直前に IR の草案に代わるものとして議 長ペーパーが提出され,COP10 の最終日の深夜に 「名古屋議定書(NP)」が奇跡的に採択されたのであっ た(安藤,2011). NP は 50 ヵ国以上の加盟を受けて,2014 年 10 月 12 日に発効した.現在,100 ヵ国が加盟しているが, 日本は 2017 年 5 月 22 日に締結し,同年 8 月 20 日に 締約国になった.また,それに伴い国内措置である 「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益 の公正かつ衡平な配分に関する指針(ABS 指針)」 (平成 29 年 5 月 18 日,財務省,文部科学省,厚生労働 省,農林水産省,経済産業省,環境省 告示第一号) が施行されている(環境省,2017). 4)名古屋議定書と海外微生物株 日本は NP の締約国である.この NP には 2 つの側 面がある.それは他国の遺伝資源を適切に扱うための 利用者としての措置と自国の遺伝資源を適切に提供す るための提供者としての措置である.提供措置につい ては,日本は日本の遺伝資源の利用者に PIC を要求し ていないので,日本の遺伝資源所有者はその遺伝資源 に対する権利を自分で守ることになる.他方,利用者 としての措置については,利用者は各国の遺伝資源利 用関連国内法に従い,その国の遺伝資源を適切に利用 しなければならない.しかしながら,実際問題として 一個人があまたの国の ABS 関連国内法を熟知して適 切に対応することなど可能であろうか.
アジア・コンソーシアム(Asian Consortium for the Conservation and Sustainable Use of Microbial Re-source: ACM)は今年で 14 回目を迎える.今年,2017 年は 12 月 4 日から 6 日まで台湾で開催される.ACM は,2004 年 10 月に筑波で開催された第 10 回世界微 生物株保存会議の会期中に設立された.現在 15 ヵ国 26 機関の主にカルチャーコレクションが参加してい る(製品評価技術基盤機構,2013).毎年ホスト国を変 え年次大会を開催している(表 2).ACM には,生物 資源の移転管理特別専門委員会(MMT-TF)が設置さ れている.MMT-TF の目的は,CBD および NP の下 で微生物株の国際的移動を促進する新しいアイデアを 創造することである.2014 年,最初の成果物として本 委員会は CBD および NP の下でのカルチャーコレク ションを介した微生物株の国際移動に関する新しいモ デル「Network of International Exchange of Microbes under the ACM(NIEMA)」を発表した(Ando et al., 2014).NIEMA モデルは,2014 年 9 月に中国・北京 で開催された第 4 回 WDCM シンポジウムで紹介され た.その後,2014 年 10 月に韓国・平昌で開催された COP12-MOP1 のサイドイベントで,2015 年 9 月にオ ランダ・アムステルダムで開催された MIRRI のワー クショップで,そして 2016 年 9 月に中国・北京で開 表 1 CBD-COP および ABS 作業部会の開催 2003 年 12 月:第 2 回 ABS 作業部会(カナダ・モントリオール) 2004 年 2 月:COP7(マレーシア・クアラルンプール) 2005 年 2 月:第 3 回 ABS 作業部会(タイ・バンコク) 2006 年 1 月:第 4 回 ABS 作業部会(スペイン・グラナダ) 2006 年 3 月:COP8(ブラジル・クリチバ) 2007 年 10 月:第 5 回 ABS 作業部会(モントリオール) 2008 年 1 月:第 6 回 ABS 作業部会(スイス・ジュネーブ) 2008 年 5 月:COP9(ドイツ・ボン) 2009 年 4 月:第 7 回 ABS 作業部会(フランス・パリ) 2009 年 11 月:第 8 回 ABS 作業部会(モントリオール) 2010 年 3 月:第 9 回 ABS 作業部会(コロンビア・カリ) 2010 年 7 月:再開第 9 回 ABS 作業部会(モントリオール) 2010 年 10 月:再々開第 9 回 ABS 作業部会(日本・名古屋) 2010 年 10 月:COP10(名古屋)
催された WDCM 50 周年記念および第 6 回 WDCM シンポジウムでも紹介されてきた.現在,MMT-TF は,NP により密接にそして合理的に対応した第 2 の モデルを創造するべく活発な議論を展開している. 4.おわりに 2000 年から種を播き始め,2003 年からインドネシ アを皮切りに始まった NITE のアジア微生物探索プ ロジェクトであるが,2005 年からはベトナムにおい て,2007 年からはモンゴルにおいて,そして 2013 年 からはミャンマーにおいて,日本の企業や大学の研究 者が NITE のこのプロジェクトに参加し,現地で,み ずから微生物を探索し,分離した微生物株を日本に移 動して,微生物の有用性をスクリーニングしている. お互いの信頼関係が成熟してゆくと,当所厳しかった 制約が徐々に緩やかになってくることもある.確かな ことは,このような国際共同プロジェクトにおいて, 何といっても大切なのはお互いを尊重すること,そし て深い信頼関係の構築である. われわれは,NP に対峙してゆかなければならな い.微生物に関していうならば,今後,海外微生物株 の移動や利用を活発にしてゆくためには,カルチャー コレクションの存在,役割が大きなものになってくる と考える.カルチャーコレクションが NP に真剣に対 峙し,利用者ファーストの仕組みを作ることにより, NP の下でのスムーズな微生物の移動が可能になると 信じている.また,そのためにはカルチャーコレク ションの世界レベルでの連携も必要になってこよう. カルチャーコレクションの CBD/NP に対応した今後 の仕組み作りに期待したい. 本稿は,2017 年 8 月 29 日に東北大学河内北キャン パスで開催された環境微生物系学会合同大会 2017 で のシンポジウム「海外遺伝資源の利用におけるカル チャーコレクションや分類学関連施設の役割」での講 演内容が基となっているが,すべてを網羅しているわ けではない.また,加筆・修正した点もある. 文 献 安藤勝彦 2009a.─新しい微生物資源を求めて①─ NITE の海外微生物探索:インドネシア編.生物工 学 87:298-299. 安藤勝彦 2009b.─新しい微生物資源を求めて②─ NITE の海外微生物探索:ベトナム編.生物工学 87:352-353. 安藤勝彦 2009c.─新しい微生物資源を求めて③─ NITE の海外微生物探索:モンゴル編.生物工学 87:404-405. 安藤勝彦 2011.生物多様性条約第 10 回締約国会議 (COP10)─ABS(Access and Benefit-Sharing)名
古屋議定書の採択.化学と生物 49:66-70. 安藤勝彦 2013.NITE のミャンマーにおける微生物
探索.バイオサイエンスとインダストリー 71: 562-564.
A n d o , K . , J i n , T . E . , F u n a b i k i , R . , W u , L . , Thoetkiattikul, H., Lee, J.S., Techapattaraporn, B. & Changthavorn, T. 2014. Network of International Exchange of Microbes under the ACM (NIEMA) —A transfer and exchange system of microbes for microbial resource centres for non-commercial purposes according to the CBD and the Nagoya Protocol—. Microbiol. Cult. Coll. 30: 85-96.
バイオインダストリー協会 2011.遺伝資源へのアクセ 表 2 ACM の開催 ACM 1:日本・筑波(2004 年 10 月) ACM 2:タイ・バンコク(2005 年 11 月) ACM 3:中国・北京(2006 年 11 月) ACM 4:インドネシア・チビノン(2007 年 11 月) ACM 5:韓国・大田(2008 年 10 月) ACM 6:ベトナム・ハノイ(2009 年 11 月) ACM 7:日本・木更津(2010 年 10 月) ACM 8:マレーシア・クアラルンプール(2011 年 10 月) ACM 9:タイ・チェンマイ(2012 年 10 月) ACM 10:中国・北京(2013 年 9 月) ACM 11:韓国・ソウル(2014 年 10 月) ACM 12:インドネシア・ボゴール(2015 年 10 月) ACM 13:インド・チャンディーガル(2016 年 11 月) ACM 14:台湾・台北(2017 年 12 月)
スとその利用から生じる利益の公正・衡平な配分に 関するボン・ガイドライン(JBA 訳).http://www. mabs.jp/archives/bonn/index.html. 最終訪問日 2017 年 10 月 20 日.
The Convention on Biological Diversity 1993.生物多 様 性 条 約 ホ ー ム ペ ー ジ. http://www.cbd.int/ convention/. 最終訪問日 2017 年 10 月 20 日. 外務省 2017.生物の多様性に関する条約の遺伝資源へ のアクセス及びその利用から生じる利益の公正かつ 衡平な配分に関する名古屋議定書.http://www. mofa.go.jp/mofaj/ic/ge/page22_002805.html. 最終 訪問日 2017 年 10 月 20 日. 環境省 1993.生物の多様性に関する条約.http:// www.biodic.go.jp/biolaw/jo_hon.html. 最終訪問日 2017 年 10 月 20 日. 環境省 2017.国内措置(ABS 指針)について.http:// www.env.go.jp/nature/biodic-abs/consideration. html. 最終訪問日 2017 年 10 月 20 日. 製品評価技術基盤機構 2013.アジア・コンソーシアム (ACM).http://www.nite.go.jp/nbrc/global/acm/ index.html. 最終訪問日 2017 年 10 月 20 日. 首相官邸 2002.バイオテクノロジー戦略大綱.http:// www.kantei.go.jp/jp/singi/bt/kettei/021206/ taikou.html#36.最終訪問日 2017 年 10 月 20 日.