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気相成長ダイヤモンド薄膜で超伝導を発見

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Academic year: 2021

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同時発表: 筑波研究学園都市記者会(資料配付) 文部科学記者会(資料配付) 科学記者会(資料配付)

気相成長ダイヤモンド薄膜で超伝導を発見

<ダイヤモンド超伝導デバイスへの第一歩> 平成16年 8月 4日 独立行政法人物質・材料研究機構 概要 独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:岸 輝雄)ナノマテリアル研究所 (所長:青野 正和)ナノ量子エレクトロニクスグループ(アソシエートディ レクター:羽多野 毅)の高野 義彦主任研究員らは、早稲田大学理工学部の 川原田 洋教授らと共同で気相成長ダイヤモンド 1)にホウ素を大量に添加する ことにより、超伝導2)が出現することを世界で初めて発見した。 気相成長ダイヤモンドは、比較的簡便な装置でデバイス開発に適した薄膜状の ダイヤモンド試料が得られるため、この20年間盛んに研究されている。純粋 なダイヤモンドは良質な絶縁体であるが、ホウ素やリンを僅かに添加すると半 導体的な性質を示すことが知られている(ホウ素の濃度にして0.0001%程度)。 このダイヤモンド半導体は、現在主流のシリコンなどと比べてバンドギャップ 3)が大きいため、次世代の高周波高出力デバイスや紫外線発光素子などの開発が 期待されており、現在、世界的に研究が進められている。しかし、高濃度にホ ウ素を添加した例は少なく、電気化学用電極などとして一部に応用されている に過ぎず、殆ど研究されていなかった。 今回、ホウ素を炭素に対して2%と非常に高濃度で添加したダイヤモンドを合 成したところ、絶対温度約8.7K(摂氏約マイナス264.5度)で超伝導 を示すことを発見した。今回の発見により、ダイヤモンド薄膜に超伝導という 新しい機能が付加されたことで、発熱の極めて少なく環境に優しい新デバイス の実用化が期待される。 本研究は、9月に仙台で行われる応用物理学会やイタリアで行われる国際会議 Diamond2004 にて発表の予定である。 研究の背景 美しい輝きを持つダイヤモンドは宝石として人々を魅惑し続けてきた。ダイヤ モンドは美しいだけではなく、様々な興味深い特徴を備えている。まず、ダイ ヤモンドは最も硬い物質であることはよく知られている。そして、熱伝導率が

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非常に高いこと、バンドギャップが大きいため大変広い波長域で透明であるこ と、物理化学的に安定であることなどの特性を有しているため、半導体デバイ ス、電子放出デバイス、紫外線発光素子、バイオセンサー等への幅広い応用が 期待されている。 ダイヤモンドは水素やメタンのガスから比較的容易に合成することができ、こ れを気相成長ダイヤモンドと呼んでいる。この気相成長ダイヤモンドは、純度 の制御や、ホウ素・窒素・燐などのキャリアドーピングが容易である。さらに、 デバイス利用に適した大型の薄膜状やウェハー状の結晶が得られるなど、様々 な応用の可能性があるため、世界中で研究開発が盛んに行われている。 天然のダイヤモンドと同様の高温高圧下で合成した多結晶ダイヤモンドにお いては、これまでに超伝導が確認されている。しかし、試料の形状が小さな固 まり状の多結晶試料であるため、デバイス化は難しく、さらに超伝導転移温度 も非常に低温であったため、超伝導転移温度の上昇と試料の薄膜化が求められ ていた。 現在主流のシリコンやゲルマニウムなどの半導体では、これまでのところキャ リア濃度を増やしても超伝導は現れていない。さらに、デバイス作製の際に用 いる絶縁体にはシリコンとは別の化合物が一般に用いられているため、異なる 化合物を積層させる場合、格子のマッチングや材料同士の相性などを考慮する 必要があり、一般にプロセスは複雑になってしまう。このように、シリコンや ゲルマニウムなどの半導体では、同一の材料系で、超伝導体、半導体、絶縁体 状態を得ることはできない。 研究の成果 本研究の気相成長ダイヤモンドは、マイクロ波プラズマCVD法4)で作製した。 これは、水素とメタンガスをプラズマ状にし、シリコン基板上に堆積させる手 法で、薄膜状のダイヤモンド試料が得られる。ホウ素を添加するために、さら にトリメチルボロン(ホウ素の化合物)ガスを導入し、上記の手法で気相成長 ダイヤモンド試料を作製した。(図1、2) ホウ素を添加すると、ダイヤモンドにホールのキャリアが導入される。ホウ素 の濃度を徐々に増加させると、ダイヤモンドは青色から黒色になり、高い電気 伝導性を示すようになる。ホウ素の濃度を0.2−2%(ホウ素の濃度:キャ リア濃度から換算した値)の範囲で変化させた試料を作製し超伝導特性を評価 した。 超伝導転移温度は、ホウ素の濃度が増えるに従い上昇する傾向を示した。(図 3)もっともホウ素が高濃度に添加された試料で、超伝導転移開始温度、約8.

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7K(Tc onset)、ゼロ抵抗温度、約5K(Tc offset)が観測された。さらに、高 濃度にホウ素を添加した試料が作製されれば、超伝導転移温度はさらに上昇す るものと思われる。 このように、マイクロ波プラズマCVD法を用いて、超伝導を示す気相成長ダ イヤモンドを作製することに成功した。超伝導とは、電気抵抗が全く無い状態 であり、電流を流しても一切発熱しない。このため超伝導状態を利用したデバ イスは、シリコンなどの半導体デバイスに比べ、発熱が極めて少ない。今後、 この気相成長ダイヤモンドの超伝導を応用した、発熱の極めて少なく環境に優 しい新デバイスの実用化が期待される。 今後の展望 気相成長ダイヤモンドは、ホウ素の添加量を人為的にコントロールすることで、 超伝導体、半導体、絶縁体の三つの状態を任意に作製することが可能となった。 これら三つの状態はすべて同じダイヤモンド構造を持つため、お互いの結合は 良好であり、重ねて積層することも可能である。このことは、ダイヤモンド以 外の材料を殆ど使わずにデバイスを作製できることを示しており、装置やプロ セスが単純化され、デバイス作製上大変有利である。最近、飛躍的な進化をみ せるナノテクノロジーを応用することで、超伝導体、半導体、絶縁体の複合デ バイスも開発可能である。現在使われているシリコンなどの半導体は、電気抵 抗があるため、多くの熱が発生し、地球を暖めている。これは、結果として温 暖化や異常気象などの環境破壊につながっている。それに対し、超伝導体は電 気抵抗がなく、全く発熱せずに電流を流し続けることが出来る。よってエネル ギー節約や地球環境保護という非常に大切な課題に対応しうる、このような超 伝導を利用した発熱の少ない地球環境に優しいデバイスの開発が重要になると 思われる。

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用語解説 1)気相成長ダイヤモンド 人工ダイヤモンドの作製手法には、高温高圧法と気相成長法がある。高温高圧 法は、天然のダイヤモンドが地球内部の高温高圧下で生まれるように、人工的 に高温高圧環境を作りダイヤモンドを合成するものである。特に高圧環境をつ くるために大がかりな装置が必要であり、大きな試料の作製も難しい。それに 対し、気相成長法は、水素やメタンのガスからダイヤモンドを合成する手法で、 比較的簡便な装置で合成できる。さらに、大面積化や薄膜化が容易であるため、 デバイス作製に適している。 2)超伝導 1911 年にオランダの物理学者 H. Kamerlingh Onnes により水銀が超伝導を示す ことが発見された。超伝導状態では、電気抵抗はなくなり、電流は発熱するこ と無く永久に流れつづけることができる。この特徴を利用して、超伝導マグネ ット、リニアモーターカー、電力輸送、電力貯蔵、コンピューター素子など、 様々な分野への応用が期待されている。 3)バンドギャップ 結晶中の電子は、エネルギーの低い価電子帯とエネルギーの高い伝導体に存在 することができるが、それらの間にある電子の存在できない領域をバンドギャ ップという。このバンドギャップが大きいと、その物質は絶縁体になり、これ が比較的小さいと半導体になる。電流が流れるということは、価電子帯にある 電子が伝導帯に飛び移ることに相当するが、バンドギャップが大きいほど飛び 移りにくいため、電気抵抗は大きくなる。 4)マイクロ波プラズマCVD 法 気相合成ダイヤモンドの作製手法の一つ。マイクロ波で水素とメタンガスをプ ラズマ状態にし、基板にダイヤモンドを堆積させる方法。CVD とは Chemical Vapor Deposition の略で、化学気相成長法のことである。気相成長法では比較 的小型の真空装置を用いて、大面積に薄膜状のダイヤモンドを形成でき、純度 もドーピングも反応ガスで制御できるなどの利点がある。

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3 µm 図1.気相成長ダイヤモンド薄膜の電子顕微鏡写真 表面に三角形に成長した特徴的な結晶粒が見られるが、これは、{111}方向に 成長したダイヤモンドである。良好な超伝導状態を得るためには、{111}方向に 成長することが望ましい。 20 µm 図2.シリコン基板上に成長したダイヤモンド薄膜の破断面の電子顕微鏡写真 写真上半分に、薄く平面状に成長したダイヤモンド薄膜が見られる。下半分は、 シリコン基板である。

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超伝

移温

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キャリア濃度 [cm

-3

]

転移開始温度

ゼロ抵抗温度

図3.超伝導転移温度とキャリア濃度の相関 キャリア濃度が増加するに従って、超伝導転移温度は転移開始温度、ゼロ抵抗 温度共に増加する傾向にある。この関係より、さらにキャリア濃度の高い試料 が作製されれば、超伝導転移温度もより高くなるものと予想される。 (問い合わせ先) 独立行政法人物質・材料研究機構 広報室 TEL:029-859-2026 FAX:029-859-2017 (研究内容に関すること) 独立行政法人物質・材料研究機構 ナノマテリアル研究所 ナノ量子エレクトロニクスグループ 主任研究員 高野 義彦 TEL:029-859-2842

参照

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