Title
マングローブと沖縄
Author(s)
馬場, 繁幸; 志茂, 守孝
Citation
沖縄農業, 28(1): 46-57
Issue Date
1993-12
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/1292
Rights
沖縄農業研究会
マングローブと沖縄
馬場繁幸・志茂守孝
(琉球大学農学部)
などの自給率は、わずか25%である。 熱帯降雨林は、熱帯林の重要な森林であるが、図-2 のマングローブの分布域が示す通り、マングローブ林 も極めて重要な熱帯林の ̄っである。しかも、住民の 生活との関わり(後述)の観点からみると、マングロー ブ林は、熱帯降雨林以上に、住民の生活と密接に関わっ ている森林といえよう。 1はじめに 今日の地球規模での環境問題の一つに熱帯林の消失 が挙げられる。熱帯林の面積は17億haと見積られてい るが、毎年その1%に当たる1,700万haが消失している (沖縄県全体の面積が22万haなので、その77倍に相当)。 熱帯林という場合、樹高40m以上にも達するフタバ ガキ科(Dipterocarpaceae)の樹木が主体となって 構成される熱帯降雨林(熱帯雨林:tropicalrain forests)をイメージすることが少なくない(図-1)。 この熱帯降雨林で伐採されたフタバガキ科の樹木が、 ラワン(1auan)の名称でベニヤ合板や製材品として、 わが国に輸入され、多くの家の内装材に使われている。 ちなみに、わが国は、国土の約67%(沖縄県は約50%) が森林に覆われていることから、世界有数の林野率を 誇っているが、薪炭材などを除いた製材品や製紙用材 2マングローブの分布 マングローブは赤道を中心に、北限を鹿児島県喜入 町のメヒルギ(Kmzderiacα"CM)、南限をニュージー ランド北島のヒルギダマシ(Aujce"njamarmα)と し、アジア、アフリカ、南米など世界各地に分布して いる(図-2)。その面積は1,600万~1,700万haと推定 され、面積的には熱帯林の約1%しか占めていない。こ のマングローブ林、バングラデシュにおいては100万M が失われ、タイでは1961~1989年の間に50.9%の18万 haが消失している。タイでの消失面積の64%は養殖池」::::
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20 数15 10 5 0 種 数 踊釦溺釦巧、50鍵
1501209060300306090120150 西経東経 フタバガキ科の樹木が主体となって構 成されている熱帯降雨林の伐採現鳩 (インドネシア・東カリマンタン州) 図-1 図-2マングローブの分布と経度ごとの分布種数 (TomIinsonl986より引用)馬場・志茂:マングローブと沖縄 47 の建設であり、26%は沿岸地域の開発によるものであ る(AksornkoaeeMZ、1993)。 構成植物の総計は66属112~114種に達する(表-1,2)。 マングローブ構成植物の中で、沖縄県内に分布する主 要な構成種と副次的な構成種をまとめたのが表-3であ る。この表-3に示された通り、ヒルギと名前がつくの は、メヒルギ、オヒルギ、ヤエヤマヒルギ、ヒルギモ ドキ、ヒルギダマシの5樹種のみである。しかしながら、 マヤプシキ、シマシラキ、ミズガンピ、サキシマスオ ウノキ、ヤシ科(Palmae)のニッパヤシ、シダ植物 でワラピ科(Pteridaceae)のミミモチシダも、マン グローブを構成する植物である。決してヒルギだけが、 マングローブを構成している植物ではない。また、付 随的な植物まで加えるとミフクラギ(オキナワキョウ チクトウ)、コバテイシ(モモタマナ)、ヤエヤマコク タン(クロキ)、ヤラポ(テリハポク)、サガリバナ、 クロヨナ、シイノキカズラ、オオハマポウ(ユウナ)、 サキシマハマポウなどをはじめ、更に多くのものが含 3ヒルギのみがマングローブか? 沖縄県では、マングローブを構成する樹木を、ヒル ギの名称で呼び親しんでいる。しかしながら、ヒルギ のみでマングローブが構成されているのであろうか? マングローブ(mangrove)とは、潮の干満の影響 を受ける立地、すなわち潮間帯(intertidalzone)に
分布する植物群落(plantcommunity)、あるいはそ
の植物群落を構成している植物を指し示す言葉(word) として解釈されることが多い(Tomlinsonl986)。 Tomlinson(前出)によると、マングローブを構成する植物は、主要な構成種(majorcomponents)、副
次的な構成種(minorcomponents)、付随的な構成 種(associates)に区分され、この三つに区分される 表-1マングローブの主要な構成植物と副次的な構成植物 科名 Combretaceae 属名 LagLmcuZa7ja Lum"jtzera MUDa Brugujera CbrjOps KmzdeZja RhjzOpho7a Sbmzeratia AUjce7mia 9 Cbzmptostemo〃 E2ccoecarja PmDphjs XjLoca叩us Aegiceras Os6omia PセZZjciera AegjaJjtjs Acrostichum SCyphiphora Hbrjtjera u j j 0 2 2 数 く121622858別2Ⅱ1221123139
1 種 気根の有無 + + 胎生種子 主要な構成種 Palmae Rhizophoraceae十升HHH
++ ++ ++ ++ +十 Sonneratiaceae Verbenaceae 小計 Bombacaceae Euphorbiaceae Lythraceae Meliaceae Myrsinaceae Myrtaceae Pellicieraceae Plumbaginaceae Pteridaceae Rubiaceae Sterculiaceae 小計 + + 副次的な構成種 ++ + ++ 53(-54) 合計 20 ++:よく発達している+:発達している-:発達していない Tomlinson(1986)から引用(一部改写)。なお、TomlinsonではAuicemzia属をAvicenniaceae (ヒルギダマシ科)に分類しているが、ここでは従来通りのVerbenaceae(クマツヅラ科)とした。沖縄農業第28巻第1号(1993年) 48 表-2マングローブの付随的な構成種 マングローブを構成 しているかあるいは 海岸に分布する種数 陸上の植物群 落に分布する およその種数 科名 属名 j j j W W P
ⅧMMMⅨⅦⅧⅦⅧⅧⅧⅦMMMⅧⅧⅧⅧⅧjⅧⅧⅧⅧMMMMMjⅦⅦⅧⅧⅦMMMⅦMMMⅧⅧⅧ
OCCN一NNOoNONOoNOooOoPONOOONOPNPooOoooooooNOOOo くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく 3131111111121111212221211111112111111111211112 Acanthaceae Anacardiaceae Apocynaceae ACα'zthus GJuta Cbr6era Rha6dadema Batjs Amphjtec"α A〃emopaegma DoZichaJzdro7De Cczssme Conoca7】Dus T12rminaJja TⅢbe7osbノZjs DioSlDy7os GJochjdjon HiPpomane ScoZOpm ScaeuoJa CbZophyZ此m Barrmgtonja Cynometra CbzesaZpmja Aga7zope DaZ6e'百ja Derrjs hocamus htsja MOra Pongamja Hi6jscus Ptzuoma Thespesja Octhocharjs Amoora Myristjca Ardjsia Myrsme qzZamus Ozcospe7ma P/toe"此 Rqpma PmZda7Lus Rustia Mb7ope AIJOp/MZus Pbuteria BroumZouノia 0033 32 Batidaceae Bignoniaceae 380 109010 2 Celastraceae Combretaceae COmpositae Ebenaceae Euphorbiaceae 400 300 F1acourtiaceae Goodeniaceae Guttiferae Lecythidaceae Leguminosae 70000060038,2NN妬5別別別mN4皿nNⅢ 39547405 2 3 22 124 3 Malvaceae Melastomataceae Meliaceae Myristicaceae Myrsinaceae Palmae Pandanaceae Rubiaceae Rutaceae Sapindaceae Sapotaceae Tiliaceae 190 50 30 合計 46 59(~60)0W:旧世界;NW:新世界;P:汎世界Tomlinson(1986)から引用(-部改写)
,馬場・志茂:マングローブと沖縄 49 表-3沖縄県内に分布するマングローブの主要な構成種と副次的な構成種 科 名 種 名 ヒルギモドキ(LUmnjtzeraracemosaWilld) ニッパャシ(MUDaかuticans(Thunb.)Wurmb.)
オヒルギ(Bruguje7agym几o7rhjza(L、)Lamk.)
メヒルギ(KmzdeZjacα"CM(L)Druce) ヤエヤマヒルギ(RhizOpho7astyJosaGriff.) マヤプシキ(SomzeratjaaJ6aJ・Smith) ヒルギダマシ(Aujce""jamaJma(Forsk.)Vierh) シクンシ科(Combretaceae) ヤシ科(Palmae) ヒルギ科(Rhizophoraceae) A マヤプシキ科(Sonneratiaceae) クマツヅラ科(Verbenaceae) シマシラキ(E,ccoecarjaagaZZochaL.) ミズガンピ(PemphjsacjcMaGForst.) ミミモチシダ(AcrostichumaureumL.)サキシマスオウノキ(HeritieJaJittoraJisDryand)
トウダイグサ科(Euphorbiaceae) ミソハギ科(Lythraceae) ワラビ科(Pteridaceae) アオギリ科(Sterculiaceae) B A:主要な構成種;B:副次的な構成種 注)Sonneratiaceaeは、初島(1975)ではハマザクロ科としているが、本田(1982)ではマヤプシキ科としてい るので、後者に従った。 まれる。このように多くの植物によって構成され、潮 間帯、すなわち潮の影響を受けているので感潮帯 (荻野1991)に成立する植物群落がマングローブとい うことになる。 マングローブを構成しているいくつかの樹種につい て、それらの花粉の媒介者を表-4に示したが、風で花 粉が媒介される樹種は少なく、蜂や蛾、蝶などによっ て花粉が媒介されている。多くの昆虫などの動物がい なければ、マングローブ構成樹種は種子が生産できず、 子孫も残せないのである。したがって、最近では、マ ングローブを植物群落や植物のみにではなく、動物、 昆虫、水生生物や土壌、水なども含めた生態系、すな わち「マングローブ生態系」の意味に解釈している場 合もしばしば見受けられる。 哺乳動物の特徴とされている。私達が知っている陸上 植物(terrestrialplants)の多くは、種子が地上に落 ちてから発芽するので、胎生ではない。果実をつけて いる木(母樹)に種子がついたままの状態で、種子が 発芽・伸長成長し、ある程度大きくなってから地上に 落ちてくることはないのである。しかしながら、マン グローブを構成している樹種のいくつか、特にヒルギ 科(Rhizophoraceae)では、母樹上で種子が発芽し、 伸長成長する(表-1参照)。伸長成長した種子の大き さは、長さ20cm以上、樹種によっては70cm以上の長さの散布体(propagules)となって地上に落下する。
このように、母樹がある程度にまで発達した子を生産 するので、哺乳動物の胎生と同じように考え、その種 子を胎生種子(viviparousseeds)と呼ぶ。ちなみに、 メヒルギやヤエヤマヒルギの胎生種子では、子葉が伸 長し、果実の外から確認できる段階にまで発達したも のは、概ね完熟した種子である(図-3の5)。 4胎生種子(viviparousseeds) 胎生とは「子が母体内で養分を受け、ある程度に発 達を遂げた後、生まれること」であり、人間のような沖縄農業第28巻第1号(1993年) 50 表-4主なマングローブ構成種の雌雄性花粉の媒介様式 単性花 属名 両性花 雌雄同株雌雄異株 花粉の媒介様式 ○○○○○○○○○○○○○○ RhizOphora Bmguje7a Cbriops KundeZia Auicemzja Son"e7atm Lummtzera Os6omia Pempハis Aegjce7as AegjaZitis Scyphipho「α PbZJjcie7a Camptostemo几 」viypa Hbrjtjera X)'Zoca7pus LaguncuZa7ia Ercoecarm 風媒 虫・鳥媒 虫媒 虫・鳥媒 虫媒 虫・鳥媒 虫・鳥媒 虫・鳥媒 虫・鳥媒 ○○○ 媒 鳥 媒・媒 虫一虫一風 △△ △:常に雌雄異株とは限らない
雌雄性についてはTomlinson(1986)より引用(-部改写)、媒介様式についてはC1ough(1982)よ
り引用(一部改写)した。 5気根(aeriaIroots) マングローブの構成植物は潮間帯に生育するが、潮 といっても厳密には海水のみであることは少ない。河 川が供給する淡水(真水)や湧水が混ざって塩分濃度 が薄まった水、汽水(brackishwater)につかってい ることが多い。潮の干満の影響を受けているので、満 潮時には大部分の根が水につかり、空気が供給されに くい(ガス交換が行われにくい)状態になっている。 このような水(汽水)につかり、空気が供給されにく い生育立地条件に適応した-つの形態として、気根を 発達させた樹種もある。 沖縄県内に分布するマングローブ構成樹種の気根は、支柱根(stiltroots)、通気根(pneumatophores)、
膝根(rootknees)、板根(buttresses)の四つに大 きく分類される。緋を支える支柱のように見えること から、支柱根と呼ばれる根を発達させるのはヤエヤマ ヒルギである(図-4)。私達が膝を折曲げた状態と似 た形態の根であることから、膝根と呼ばれる根を発達 させるのはオヒルギ(図-5)、細い竹の子が地上に伸 びてきたような根、通気根を発達させるのはヒルギダ マシとマヤプシキ(図-6)、平たい板のような根であ ることから、板根と呼ばれる根を発達させるのは、サ傘
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図-3 ヤエヤマヒルギの仲間であるRhizOphom mα"gZeの胎生種子の発達(TomIinsonl986 より-部改写して引用)数字は発達の順番を示す馬場・志茂:マングローブと沖縄 51 キシマスオウノキである(図-7)。通常の場合、ヤエ ヤマヒルギが、通気根や膝根を発達させたり、オヒル ギが支柱根や通気根を発達させることはないので、根 の形で樹種が特定できる。 この形態的な特徴をもっている根のいくつかは、機 能的にも他の植物にはみられない特徴がある。例えば、 ヤエヤマヒルギの支柱根、ヒルギダマシとマヤプシキ の通気根では、表皮下の組織に葉緑素が含まれており、 光合成が行われている(矢吹1985)。一般に、根は養 分吸収と呼吸を行っている。しかし、光合成が行える 機能を有する根は、日中の干潮時に光合成によって産 出した酸素で根の周りの酸素濃度を高め、夜間の干潮 時の呼吸にその酸素を利用している。また、夜間の干 潮時の呼吸によって産出した二酸化炭素で根の周りの 二酸化炭素の濃度を高め、それを日中の干潮時の光合 成に利用するというような潮の干満に適応した効率的 な光合成と呼吸を行っていると考えられている(矢吹 前出)。 e塩類HiMsaItgIands) マングローブは、潮の干満の影響を受ける生育立地 条件に分布しているので、当然のことながら塩分濃度 も、その分布を規定する要因の一つである。マングロー ブ構成樹種の中には、塩分濃度が高い汽水域という特 殊な生育立地条件に適応して、塩を排出する排塩機能 を備えた樹種もある。沖縄県内に分布する樹種では、 ヒルギダマシがそれにあたり、葉の表面(向軸面)と 葉の裏面(背軸面)の両方に塩類腺を発達させ、そこ から塩が排出されている(図-8)。 葉の表面と裏面とのみ書かず、括弧内に向軸面と背 軸面と書いたのは理由がある。ヒルギモドキとマヤプ 図-5オヒルギの膝根 ヤエヤマヒルギの仲間の 支柱根 (オーストラリアにて) 図-4 サキシマスオウノキの板根 オーストラリアにも沖縄と同じ種が 分布している 図-7 図-6マヤプシキの通気根
沖縄農業第28巻第1号(1993年) 52 シキの葉は形態学的にみると表面と裏面の区別がつき にくく、図-9に示されたように柵状組織や海綿状組織 などの同化組織が葉の両面に分布している。植物形態 学的には、裏表の区別のない葉を等面葉と呼び、表面 を向軸面、裏面を背軸面と称している。 越えることもある)の木であるから、村や樹皮には色を な用途がある。一般的な用途としては、薪、炭、建築 材、船材、染料などである(表-5)。樹種ごとの用途 をみると、多様な目的で利用されている(表-6)。用 途の中で特に注目したいのは、オヒルギ(Brugujerα) 属で、上質の炭が生産できることから、炭材としての 利用割合が高いことである。また、タンニン含量の高 いオヒルギ属やヤエヤマヒルギ(R/tjzOphorα)属の 樹皮は漁網、帆布、衣類などの染料として利用される。 染料としての利用は、沖縄県内でも行われており、特 にオヒルギやヤエヤマヒルギ、サキシマスオウノキの 樹皮などが利用されている。また、かって西表島には、 マングローブの樹皮を煮つめたもの(カッチと称する) を生産していた工場があり、それを漁網や布地の染料、 舟の防腐剤、漏水防止剤などとして利用していたこと はあまり知られていない(筆者らの聞き取り調査)。 同様に西表島では、古い家のたるき(垂木)にオヒル ギが使われていた例もある。沖縄島内でも、幹の通直 なオヒルギの村が、マングローブ林に隣接した農地で 稲を干すための支柱や鳥脅しの飾り付けの支柱などに 使用されていることを見かけることがある。 7マングローブの用途 私達が日常目にしている沖縄のマングローブ林を構 成している樹木の高さは、高いものでも10~15mであ る。熱帯の国灸のマングローブ林とは、高さ30m以上 に達する樹木が生い茂った森林である。国内で最大の 面積のマングローブ林は、西表島の仲間川のマングロー ブ林で、その面積は約300haと推定されている。しかし、 タイですでに消失してしまったマングローブの面積は 18万haであるから、仲間川のマングローブ林の面積の 600倍(沖縄県の全面積の82%)、バングラデシュでは 沖縄県全面積の4.5倍の100万haが消失している。した がって、沖縄のマングローブ林の木の大きさや面積で 世界のマングローブ林をイメージし、木材の利用や森 林の機能を考えると、大きな間違いを犯すことになり かねない。 木の高さが30m以上、太さが数十cm(時には1mを ヒルギダマシの葉(裏面)に析出した塩 野外ではこの写真のようなきれいな塩の析出 が観察できないことが多いので、写真を撮る ためにガラス室内で塩を析出させた。なお、 塩類腺は葉の表面にも分布している。 図-8 CO■。■00●の。⑪●0■■ ?。?.:。;.:0:。:。:。?.?。?.?.?.:。;。 図-9マヤプシキの葉の断面 葉の両面に柵状組織と海綿状組織が発達している
馬場・志茂:マングローブと沖縄 53 表-5マングローブの主な用途 燃料:燃料、木炭、アルコール採取用など 染料:漁網、衣類、帆布の染色 飼料:ヤギ、ラクダの飼料 用材:建築用材、家具材、船材、パルプ材、足場材、枕木、マッチ用材など 食用:蜂蜜生産、野菜、果物、ジュース、酒の製造、薬剤(下痢止め)、調味料など その他:屋根葺き材、壁葺き材、巻タバコの紙の代用、家畜の寝ワラ、魚毒(魚採り用)、 塩の生産、皮なめしなど 表-6マングローブ構成種の利用 種 名 用 途 ACα"t/ZusZZZc(/bZjusα"dA・e6racteatus果実の軟らかい果肉は、おできや蛇に咬まれた時の解毒剤や軟膏と して用いられる。葉を調合したものは、リューマチの鎮痛剤として 用いられ、葉の汁は養毛剤として利用される。 AcrostjchzLmaureum 家畜の寝ワラ、屋根葺き材料。ゼンマイ状の若芽は食用。 AegicerascomicUJatumandA/Zo7idum良質ではないが燃料材として利用され、樹皮は魚毒として用いられ る。木炭を作る時の燃料材として一般に用いられることもあるが、 特に燃料材が不足する時には良く用いられる。 Auicemzjaspp・ 良質な燃料材ではない。粗末な内壁材。レンガや木炭製造時の燃料 材。鷲口瘡の治療薬として広く用いられる。種子からの樹脂や軟膏 は潰瘍や腫れものに用いられる。樹皮は皮膚の寄生虫や化膿した傷 の治療薬として利用される。 A・marma A.α化a 若い葉は野菜のように用いられる。蜜蜂の巣の支柱。 樹皮や種子には魚毒が含まれる。樹脂状の鯵出物は避妊薬に用いら れる。種子の軟膏は庖瘡の潰瘍の痛みを軽減する。種子には毒があ ると伝えられる。 種子や実生苗は食用。養蜂への利用。木炭。木灰から塩の生産。 タンニンの生産のための樹皮の利用。柱材、木炭、燃料材。レンガ や木炭製造のための燃料材として利用される。 燃料材や木材として利用される。 AqノグZcjnaZis Bruguje7aspp. B・cyZmdrica B・gym"o7「hizaandB・sera72guZa 魚採取のための各種の支柱、幼根は野菜のように利用される。果実 から目薬、膝根から香水、樹皮から薬味、樹皮から接着剤を採取。 果実は、ピンロウの代用品として噛まれる。 樹皮はタンニンや染料として用いられる。レンガや木炭製造の燃料 材として利用。 木材、燃料材、タンニン、良質の染料として利用される。樹皮の煎 じ薬は大量出血を止めると伝えられる。樹皮から接着剤やネットの 保護剤を採取。ろうけつ染めやマットの材料として利用。 果実でこすることにより、リューマチを和らげる。種子には薬効の あるオイルが含まれる。樹皮や樹液には便通効果。 CbrjOpsspp. CtagaZ Cbr6e「αma70ghas
沖縄農業第28巻第1号(1993年) 54 表一sマングローブ構成種の利用(つづき) 途 種 名 用 弱い魚毒。 製紙用パルプ材。樹液や材には便通効果あり。樹液は魚毒。マッチ 材、箱材、燃料材として利用される。 船材、木材、燃料材として用いられる。地上に落ちた種子には、下 痢の治療効果ありと伝えられる。樹液には毒性あり。 木材、柱材として利用。燃料材としては良質ではない。葉の煎じ薬 は鷲ロ瘡に用いると伝えられる。 葉は屋根葺き材。若い葉は、巻タバコを巻くのに用いられる。樹液 は、砂糖、アルコール、酢の生産に利用される。 くい(杭)、家の支柱、床材、魚採取のための各種の支柱、花は米 飯に調味料(シーズニング)として加えられる。若い果実は砂糖煮 とされ、芽は野菜として利用される。 DerrisハeterOphyJZa ErcoecarjaagaZZocha Hb7jtjeraJZttoraJjs LumnZtzeraspp. ZViypα/Mjccms OncoSpermatjgiZJa7ium 木材、魚採取用のステッキ、杭、坑道の支柱材、燃料材、木炭、タ ンニンとして利用される。R・mucro7zataの樹皮の煎じ薬は、血腫 下痢、赤痢、ハンセン氏病に用いると伝えられる。支柱根の樹皮と 果実の汁は、蚊の忌避薬(リペレント)として利用される。果実か らワイン、蜜が生産される。 RhjzOphoraspp. 柵の支柱、道具の柄、燃料材として用いられる。 Sbyp/Djpho「αhydrop/Z)'ZZacea Sbnneratjaspp・ SaJ6a 厚い板材、箱材、壁材、燃料材として用いられる。 良質ではない木材や燃料材として利用。通気根は、魚釣りの浮きと して利用される。葉は家畜の飼料。 果実は食用。樹液は化粧水。葉は山羊の飼料。良質のパルプ材。 果実は食用。また、果実は捻挫の湿布薬としても用いられる。発酵 したジュースは、大量出血の抑制効果があると言われる。
木材(特にXmoJuccensisは高価)。燃料材としては良質ではない。
家具材、タンニン。種子からのオイルは、ローソク油や整髪料。樹 皮の煎じ薬はコレラに用いられる。鉛筆材。根は天然の彫刻品。 ScaseoZarjs Souata 】MocaM4sspp. SAksornkoae(1987)より引用(-部改写) 8マングローブ林の機能 高さ30m以上の樹木が、密林を形成するマングロー ブ林であるから、強風から住宅や農地の被害を防ぐ役 割(防風機能)、高潮から住宅や農地を防ぐ役割(防潮 機能)、海岸の砂の移動による被害から住宅地や農地を 守る役割(飛砂防備機能)、波による海岸線の侵食を防 ぐ役割(海岸侵食防止機能)をはじめとして、水路の 保全、水産資源の酒養など多くの機能を果たしている (表-7)。しかし、実際にマングローブ林がこのような 機能を果しているということを目にすることはできな い。そこで、海岸線に道路が建設される場合を例に挙 げ、マングローブ林の機能と効果を説明してみよう。 海岸線に沿って道路が建設される時、現在の工法で は、台風時などの道路の冠水防止と海岸線の土壌の侵馬場・志茂:マングローブと沖縄 55 食防止などのためにコンクリートの護岸が構築される。 この時にマングローブが生育していると多くの場合は 伐採され、建築されたコンクリート護岸の内陸側に道 路が建設される。しかし、コンクリートの護岸提は永 久構築物ではないので、耐用年数がくると、再建築し なければならない。最初にコンクリート建築物を建築 表-7マングローブ林の機能 資源生産:森林資源の生産、製塩(製塩場所の提供と製塩) 水産資源の酒養:水産資源(カニ、エビ、稚魚、貝など)の生育の場と餌場の提供 災害防止機能:防風、防潮、飛砂防備、海岸侵食防止、土壌侵食防止、水路の保全、 土壌の堆積促進 森林風致機能:観光、レクリエーションの場の提供 地球環境:沿岸生態系の保全、気候緩和 その他:野生動物の棲息の場の提供、渡り鳥の休息の場の提供、動物・植物の ジーンプール(遺伝子源)の提供 するのに莫大な費用がかかり、それを維持するのにま た費用がかかる。しかも耐用年数が過ぎたら、建築し 直さなければならないのである。そのコンクリート建 築物の代わりにマングローブ林を仕立てるとどうなる のであろうか? マングローブ林の造成に費用が必要とされる。その 手入れのためにも費用がかかる。しかし、マングロー ブ林が-度成林すると、そのマングローブ林は、種子 を生産し、世代交代を繰り返しながら、半永久的に防 潮林、防風林として機能する。また、材や樹皮は前述 のように利用可能である。それにも増して、潮の流れ とともに稚魚がマングローブ林域を出入りし、多くの 鳥・多くの昆虫が棲家や餌場としてマングローブ林を 利用し、生態系を形成する。それが、図一10に示され た沖縄のマングローブが分布する河口域の食物連鎖で はないのだろうか?そう考えると、果して、どちら の方法が得策なのであろうか? すべての海岸線にマングローブを植えることができ るとは思っていない。マングローブを残すことができ る場所、積極的にマングローブが植栽可能で、マング ローブ林を仕立てることができる場所では、コンクリー トの護岸を建設する必要はないであろう? 今は)Ⅱの両岸がコンクリート堤防となり、ドプ川の
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図一10沖縄のマングローブが分布する河ロ域での食 物連鎖(矢印は食物の流れを示す) 1:ヤエヤマヒルギ、2:葉、3:破片、4:細菌類、5:原 生動物、6:微小底生生物〈メイオベントス)、7:動物プラ ンクトン、8:河川起源の有機物、9:昆虫類、10:スネナガ エピ、11:テッポウエビ類、12:シオマネキ類、13:ミナミア シハラガー、14:ツメナガヨコバサミ、15:多毛類、16:キバ ウミニナ、17:シレナシジミ、18:藻類、19:ノコギリガザミ、 20:ゴマアイゴ、21:リュウキュウドロクイ、22:ボラ類、 23:ユゴイ類、24:ミナミクロダイ、25:ミナミトビハゼ、 26:サメ類、27:シギ類(Shokital989より一部改写して引用)沖縄農業第28巻第1号(1993年) 56 ようになってしまった那覇市の国場川の河口にも、糸 満市の報得川の河口にも、西表島の浦内)'1や仲間川に 負けないようなマングローブ林が成立していた時代が あったのかもしれない。その時代には那覇の海岸にも、 糸満の海岸にも、溢れるばかりの魚が群来(くき)て いたのではないだろうか? マングローブ林があると、それに隣接した農地では 塩の害は小さかったであろう。マングローブ林が飛塩 を遮ってくれていたからである。コンクリート護岸に 打ち砕ける波は飛塩を農地にもたらす。それを防ぐた めに防風ネットを設置する。コンクリート護岸の前面 にマングローブ林が造成できたのなら、否、かってあっ た自然のマングローブ林のように、コンクリート護岸 の代わりにマングローブ林が造成できたのなら、景観 的にも、実用的にも私達に限りない恩恵をもたらすは ずである。 来る事」ではないのだろうか。 10おわりに 私達は日常的にマングローブを見ていることから、 それに馴れてしまい、海水が侵入する立地に成立する マングローブ林に何も疑問をもたなくなってしまって いる。しかし、陸上の植物は海の中では生育できない のであり、葉に海水をかけると葉はしおれてしまうの である。そんな陸上植物が生育できない立地に、植物 が生育し、森林が形成されることは、極めて非常識的 なことである。毎日見慣れているから、当り前になっ てしまったのではいけないのである。 周りを海に取り囲まれた小さな島国、沖縄。沖縄の 人灸は生活の中で森林の大切さを知っていた。それが 沖縄の古い格言「山ヌ劃ギイヌ、海ヌ剥ギイヌ」では ないのだろうか。それが一時的な快適さ、短期的な利 益だけを優先したために森林が失われ、海の森林、マ ングローブ林を失い、延いては豊かな海も失いつつあ る。流行言葉で表現すると「持続可能な利用(sustain‐ ableutilization)と合理的な管理(rationalman-agement)」、古から森林の大切さ、マングローブと海 の結び付きを生活の中で体験し、知っていたはずの沖 縄の人をなのに・・・◎ g沖縄とマングローブ 沖縄県内には約400M前後のマングローブしか分布し ていないが、わが国で広汎にマングローブが分布して いるのは沖縄県のみである。したがって、国内でマン グローブの研究を行うには、沖縄は最も恵まれた地理 的条件を備えている。 沖縄県には、マングローブに関するNGO(非政府機 関)として、国際マングローブ生態系協会(略称ISM E)と沖縄国際マングローブ協会(略称OKINAM) がある。前者のISMEは国連広報センター(UNDPI) に登録され、世界で最大の学術機関である国際学術連 合会議(ICSU)に認められた国際NGOであり、1993 年4月現在、世界57カ国に会員をもつ機関にまで発展し てきている。このことは、ISMEがマングローブに関す る世界の情報の発信源として機能できることを意味し ている。これまでの沖縄県は情報の輸入県であったが、 これからはISMEを通じてマングローブに関する情報の 発信源として機能できることになる。ISMEを機能させ、 マングローブを通じて、世界の人灸と手をつなぐネッ トワークを作り上げることは、私達がすぐにでも「出 引用文献 Aksornkoae,S1987MangroveVegetationand Utilization,ProcUNESCORegionalSeminar oftheChemistryofMangroveP1ants:1-9. Aksornkoae,S,N・PaphavasitandG.Wat‐ tayakornl993MangrovesofThailand:Present statusofconservation,useandmanagement, ISMEmangroveecosystemstechnicalpapers l:83-133. C1ough,Bedl982MangroveEcosystemin Australia,302ppAustralianNationalUniver‐ sityPressCanberra・
初島住彦1975琉球植物誌(追加・改訂版),l002pp.
馬場・志茂:マングローブと沖縄 57 沖縄生物研究会.那覇. 本田正次監修1982現代生物学大系第7巻C(高等植物 C),316pp、山中書店.東京. 荻野和彦1991マングローブ林の生態系と保全,創造の 世界9:48-67. Shokita,S1989MacrofaunalCommunityStruc‐ tureandFoodChainattheMangals,Appendex ofReportofTrainingCourseonLifeHistory ofselectedSpeciesofF1oraandFaunainMan‐ groveEcosystem(UNDP/UNESCO):1-46 Tomlinson,P・B1986Thebotanyofmangroves, 413ppCambridgeUniversityPress・NewYork・ 矢吹万潟1985植物の動的環境,200pp・朝倉書店. 東京.