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イギリス・オックスフォードにおける精神障害者支援の取り組み-民間非営利組織による情報提供サービス及び学習支援・職業訓練サービスを中心に-: 沖縄地域学リポジトリ

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Author(s)

小西, 吉呂

Citation

沖縄大学法経学部紀要 = Okinawa University JOURNAL

OF LAW & ECONOMICS(6): 55-66

Issue Date

2006-03-31

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12001/5974

(2)

沖縄大学法経学部紀要第6号 【調査報告】

イギリス・オックスフォードにおける精神障害者支援の取り組み

-民間非営利組織による情報提供サービス及び学習支援・職業訓練サービスを中心に-

小西吉呂 精神保健福祉、民間非営利組織、イギリス・オックスフォード 1.はじめに

ヨーロッパ諸国では、社会サービスの財源と供給の多元化を推進する福祉多元主義や、財源と供

給の分離を通じて創出され、公的にコントロールされる市場によって特徴づけられる福祉の時代を

迎える中で、民間非営利組織が新たな活動の機会を与えられつつある。とりわけ、地域住民によっ

て組織されるそれは、地方自治体などの公共セクターと並んで積極的な役割が期待されている。

イギリスでも、膨大な数の民間非営利組織が各方面において多彩で柔軟な活動を展開している。

精神保健福祉の分野においても同様であり、民間非営利組織は利用者の自由と自主'性を尊重しなが

ら地域に浸透し、利用者に身近な存在となっている。

筆者は2002年から2003年にかけてイギリス・オックスフォードに滞在し、当地の民間非営利組織

による精神保健福祉や精神障害者福祉のためのサービスを詳しく調査する機会に恵まれた。調査か

ら得られた知見は、順次これを学術誌上で報告した')が、本稿ではその一応の締めくくりとして、

情報提供サービス及び学習支援・職業訓練サービスを取り上げ、この方面におけるわが国の現状を

考えるための一助にしようとするものである。 2民間非営利組織

イギリスでは、地域に根づく民間非営利組織と地方自治体の協力によるパートナーシップが積極

的に推進されつつある。その実際の方法というのは、たとえば地方自治体が民間非営利組織のサー

ビスを契約にもとづき購入し、本来行政が提供していたサービスを、これらの団体が提供するとい

うものである。 ここにいう民間非営利組織(Non-ProfitOrganisation)は、ボランタリー組織・ボランティア活 動団体(VoluntaryOrganisation)などとも呼ばれ、非営利性である.非政府組織である.ボラン

ティアが存在する.団体独自の規則を持つ.利益配当がない、などの特色でもって定義される。そ

こで、たとえばわが国の特定非営利活動促進法で規定される特定非営利活動法人もこれに含まれ

る。

教会での救貧活動を支えてきたイギリス・ボランタリズムの伝統は、その奉仕の精神がコミュニ

ティを基盤とするボランタリー活動へと発展し、400年という長い歴史の中で実に膨大な数の民間

非営利組織を育んできた。これらの中には、1960年のチャリティー法(TheCharitiesActs)にも

とづき、チャリティーとして登録されている例が少なくない。これによって、民間非営利組織は財

-55-

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源調達が容易になり、国や自治体による各種の税金に対する控除が認められやすくなるというメ リットがある反面、チャリティー委員会への年次報告義務などを負うのである。 3.地域精神保健福祉サービス 以上に概観したイギリスにおける民間非営利組織の基本的な在り方は、地域精神保健福祉サービ スの分野においても同様である。すなわち、イギリスでは、法律によってサービスの実施主体とし て位置づけられている国営のKHS(NationalHealthService)と地方自治体の社会サービス部門 による地域精神保健福祉サービスの他に、ボランタリーセクターが多数の組織を立ち上げ、本稿で 報告しているような多彩なサービスを精神障害者に向けて展開している2)。これらの民間非営利組 織は、地方自治体からの補助金や独自に募った寄付金などにもとづいて自律的な活動を展開してい る場合もあれば、地方自治体の社会サービス部門からの委託と資金にもとづいて自治体の方針に 沿った活動を展開している場合もある。また、これらの組織は、全国規模で活動する団体の支部と して位置づけられている場合もあれば、その地域に固有の組織である場合もある。さらに、これら の組織は、ボランティアだけで運営されている場合もあれば、有給の専門スタッフを持ち、ボラン ティアを補助的に利用しているだけの場合もある。しかしいずれの場合においても、これらの組織 は、非営利で活動している点やその活動について運営委員会などへの報告義務を負っている点で共 通している。 他方において、イギリスの地域精神医療制度のもとでは、一般医療においてと同様に、まず一般 医(GeneralPractitioner以下「GP」)が初期の診断・治療を担当し、利用者はそこで全般的な助 言や'情報の提供を受けたり、処方やカウンセリングを受けたりする。NHSの地域精神保健福祉 サービスを利用する場合にも、GP受診がその前提になる。しかし、GPに対する不信感や不安感 など様々な理由からGPを敬遠する人がおり、その中に本稿で取り上げている民間非営利組織を 頼ってくる人がいる。さらに、GPからの紹介で専門性の高い精神医療を受診したり精神科の病院 に入院したりする人の中にも、これらの専門医療を終えてから、あるいはこれらと並行して、民間 非営利組織のサービスを利用する人が相当数存在する。とりわけ民間非営利組織のデイサービス利 用者については、このタイプの人が少なくない3)。 以上から、民間非営利組織のサービスは、制度的に見れば公的サービスを補充するという側面が 強いといえよう。民間非営利組織は非常に細分化しており、利用者のニーズに対応しやすいという 点から、こうした補充的な役割は、民間非営利組織の極めて重要な役割の1つとなっている4)。 4.オックスフォードの民間非営利組織 5つのディストリクト(District)から構成されているオックスフォードシヤ(Oxfordshire)は、 イングランドの中心からやや南に位置する。カウンティタウン(CountyToun)のオックスフォー ドシティ(以下「オックスフォード」)は、古くから「大学町」として栄え、そのリベラルでオープ ンな風土も手伝って、民間非営利組織による精神保健福祉サービスが盛んである。その数は、ごく 控え目に見積もっても250以上5)にのぼり実に多種多様であるが、これらを分類・整理すると、お およそ以下のようになる。 -56-

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沖縄大学法経学部紀要第6号 ①精神保健福祉上の助言や情報を提供するサービス ②学習・職業訓練のサービス ③デイサービス(デイセンター)6) ④住居を提供するサービス7) ⑤特殊な利用者を対象にしたサービス(薬物やアルコールの依存者のためのサービス、マイノリ ティーな民族・人種のためのサービス8)、高齢者のためのサービス、児童や年少者のためのサー ビスなど) ⑥利用者の家族のためのサービス 本稿では、以上のうち、すでに報告を終えているものや特殊なサービス(③~⑥)を除いた①と ②について紹介する。 5.情報提供サービス ここでは、オックスフォードの情報提供サービスを担う2つの最も代表的な民間非営利組織の活 動を紹介する。これらのサービスは、わが国の生活支援センターや精神保健福祉センターで実施さ れている相談・指導・助言、関係施設との連絡調整などの業務を充実させたような内容となってい る。 ①オックスフォードシャメンタルヘルスマターズ(○xfordshireMentalHealthMatters) 筆者は、オックスフォドシヤメンタルヘスルマターズ(以下「マターズ」)を3回訪問し(図1)、 スタッフから詳しい説明を受けたり、多数の関係資料を提供していただいたりした。 9人のスタッフと多数のボランティアが勤務するマターズは市街地に位置しており、バスターミ ナルも近く便利である。オープン時間は、火曜日、水曜日、金曜日の午前9時30分から午後4時30 分、木曜日の午後1時から午後6時30分となっている。また、これらの時間外でも、インターネッ トで随時`情報を提供している9)。 マターズは1993年から活動を開始した。それはちょうどイギリスで精神病院が閉鎖され、コミュ ニティケアが発展を遂げた時期にあたる。マターズの主な目的は、精神障害者が地域社会で生活す るための様々なサービスを提供しようとする個人、団体、そして民間非営利組織へのサポートであ る。 マターズは最新のコンピュータデータベースを備えており、そこには、精神保健福祉サービスを 提供する国やオックスフォードを中心にした地方の組織・団体に関する膨大な`情報が記録されてい る。また、精神保健福祉に関する数々のレポートリーフレット、書籍なども完備されている(図 2)。スタッフは、これらの情報や自らの知識・経験にもとづいて、毎月約150件の問合せに応じ、 利用者にきめ細かい助言を行っている。さらに、マターズには、OHP、テレビ、ビデオ、プロジェ クター、コピー機などが設置された関係者のためのトレーニングルームも準備されている。 マターズは、精神保健福祉に関する法律問題、摂食障害・抑うつ症・不安神経症などの症状、薬 物療法やカウンセリングなどの治療法、住居の問題に、とくに力を入れて取り組んでいる。また、 精神保健福祉と黒人・少数民族・貧困者などのマイノリテイーとの関わりについても通じており、 -57-

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この問題でフォーラムを主催したりしている。さらに、マターズは、精神保健福祉に関するチャリ ティーの設置・運営を計画している関係者に対して必要な情報や適切なアドバイスを提供している。 さらに、マターズは、情報提供サービスの一環として「アライズアドヴォカシーサービス(Allies AdvocacyService)」と呼ばれる利用者のための権利擁護サービスを無償で実施している。これは、 オックスフォードに所在する精神科の病院に入院している患者をサポートするものであり、専門の スタッフがこれらの病院に入院中の患者を基本的に毎週1回訪問し、彼らに患者の権利を中心に情 報提供するものである。同時に、患者の家族・世話人・友人などへのサポートも行っている。これ らのやり取りは、もちろん秘密にされる。なお、このサービスは、通訳者や翻訳書によって、英語 を理解できない利用者のためにも配慮されている。 マターズの特筆されるべき活動として、トレーニング(研修)の主催がある。このトレーニング は、「ベイシックス(Basics)」と呼ばれ、精神保健福祉に関係した職種で働く人々やこの分野に関 心のある一般の人々、あるいは精神保健福祉サービスの利用者とその家族や知人など、幅広い層を 対象に1998年から始められ、以来、毎年開催されている。民間非営利組織に欠けている精神保健福 祉の知識を提供する目的で開発されたこのトレーニングは、現在では多くの民間非営利組織がト レーナーを派遣しており、民間非営利組織同士の共同企画といった性格を備えつつある。2002年版 のパンフレットによれば、「精神医学入門」、「メンタルヘルスと法律」、「自傷」、「職場のメンタルヘ ルス」、「メンタルヘルスにおける薬物使用」など34のワークショップが2002年1月から7月にかけ て断続的に開催された。各ワークショップは、午前10時から午後4時まで行われ、参加費は各20ポ ンドである。民間非営利組織のスタッフに福祉や医療の有資格者は少ないが、彼らは、各地で頻繁 に開催される「ベイシックス」その他のトレーニングに積極的に参加することで、自身の能力を高 める努力をしている'0)。 I伊牢 一F■  ̄ 己電癖占 図1マターズの建物(左)と1階内部(右) 58-

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沖純大学法経学部紀要第6号

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腰細.銭豐"!〃 図2マターズに取り揃えられたパンフレットやリーフレット ②オックスフォードシャマインド(OxfordshireMind) 19k46年に創設されたマインド(Mind)は、イギリスを代表する精神保健チャリティー(The MentalHealUlCharity)である。その本部はロンドンにあり、イングランド及びウェールズに200 以上の支部を抱えている。1967年に創設されたオックスフォードシヤマインド(以下「オックス フォードマイド」)も支部の1つである。 筆者はオックスフォードマインドをしばしば訪問し(図3)、また電話でも頻繁にスタッフから話 を伺った。

マターズと同様にオックスフォードマインドも市街地にあり、建物の1階がマインドショップと

Ⅱ平ばれるリサイクルショップ、2階がオフィスとなっている。オープン時間は、月曜日から金曜日

の午前10時から午後4時までである。 1階のリサイクルショップでは、精神障害者自身が店の運営に関わっており、得られた利益はマ インドとオックスフォードマインドで折半される。2階のオフィスには、ミーティングルーム、精 神保健福祉に関する様々なパンフレットや冊子が配置された相談室兼閲覧室、パソコンその他の情 報機器が設置された執務室などが配置されている。ここを拠点にして、オックスフォードマインド は、精神障害者のための15のデイセンターと5つの宿泊施設を運営すると共に、夜間及び休日のク ライシスラインの設置(1週間に約30件の相談が寄せられる)、フォーラムの企画・運営、リーフ レット・パンフレット・ニュースレター・ガイドブックなどの発行、権利擁護の活動、投薬に関す る知識の提供など、精神保健福祉に関する様々な情報提供活動を積極的に展開している。 ところで、オックスフオードマインドは、2002年11月14日に年次総会を兼ねてフォーラムを開催し、 筆者もこれに参加する機会を得た(図4)。会場に利用されたのは、オックスフォードマインドが運営 するデイセンターの1つであった。当日は、役員の選出や年次活動報告などの通常議題の他に、 2002年6月に公表された精神保健法の改正草案(DraftMentalHealthBill)について、講演者を招 -59-

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いた活発な討論が行われた。この草案に対しては、多くの精神科医や関係付1体が懸念を表明し、マ インドも、この草案では現行よりも精神障害(MentalDisorder)の定義が広くなることや強制力・ 強制治療のもたらされる範囲が広がることなどを理由として、批判的な立場を表明してきた。政府 はこうした各界各層の意見を聴取し、2004年9月に新改正草案(NewDraftMentalHealthBill) を公表した。しかし、マインドは、急性期の患者には何よりもケアと同情が必要であることや強制力 は最後の手段とされるべきことなどを指摘し、この2004年草案にも依然として根本的な欠点がある としてる'1)。 オックスフォードマインドのフォーラムで配布された資料でも、この改正が批判的に取り上げら れていた。同様にして、当日の討論でも、参加者から、利用者の声が草案に反映されていないこと への強い不満が繰り返し表明されていた。マインドは1983年の法改正においても大きな役割を果た した経緯があり、当日の活発な討論からは、マインドやその支部の情報提供活動が利用者や一般市 民に及ぼす影響の大きさを垣間見る思いであった。

図3オックスフオードマインドの建物(左)と2階内部(右) 図4オックスフォードマインドの年次総会 60-

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沖縄大学法経学部紀要第6号 6.学習・職業訓練のサービス

オックスフォードで学習・職業訓練を実施する民間非営利組織は10程度あるが、ここでは、隣り

合った建物で活動している2つの組織を紹介する。 ①レストア(Restore)

筆者は、レストアを3度訪問し(図5)、スタッフから資料の提供を受けたり、話を聞いたりした。

レストアは、市の中心部からバスで数分、徒歩なら約30分の距離に位置しており、常時100人程度

の通所者を抱えている。2001年の実績では、10人の通所者が常勤または非常勤として就職し、45人

が手当を支給される仕事やボランティアを体験している。

レストアは、通所者の社会復帰に役立てる目的で、ガーデニング、コンピュータ操作、木工品製

作、印刷、食品加工、マーケティング、セールスなどの活動を通して職業訓練を実施したり、仲間

作りや円滑な人間関係を促進したりしている。また、活動の成果である木工製品(玩具、小物入れ、

ワインラック、CDボックスなど)、印刷製品ルターセット、その他)、鉢植え植物、野菜などが

施設内で展示販売されている(図6)。これらの販売活動を通して通所者の士気が高まり、また、一

般消費者との繋がりができて、施設としての自覚や施設に対する認識が深められている。

レストアの通所者からは「働いているので、ほとんど孤独を感じなくてすむ」、「レストアに通い

はじめて、自信や社交術など、何年も見失っていたものを取り戻すことができた」、「ここの人々は、

私が悩んでいることに関心を持つのではなく、私自身に関心を持ってくれる」などの好意的な感想

が聞かれた。

なお、レストアは、この施設を退所した人に対しても引き続き、雇用、教育、コミュニティ参加

のための情報提供や助言、ガイダンスを随時実施して、アフターケアに努めている。

レストアで現在とくに重視されているのは、ガーデニングである。新しい庭が施設手前に完成し

(図7)、また裏手には園芸場も用意されている。ガーデニングの指導者は次のように語っている。

「ガーデニングに興味のあるグ ループは、オックスフォードで よく育つ植物を昨年1年かけて 調べ上げた。この知識を新しい 庭に植える植物や販売用植物の 選定に役立てたい。植物の販売 が始まれば、私たちが仕事に復 帰しているのを知ってもらえ る」。さらに、レストアは、最近 では、園芸道具や収納箱など ガーデニングに関わる商品の製 作と販売も手がけるようになっ ている。 蕊。顕

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(9)

凶暴函 ■ 図6レストアで展示販売されている木工製品(左)と作業場(右)

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図7レストアの新しく完成した庭 ②ラーニングセンター(TheLearmngCentre) 筆者はラーニングセンターを2度訪問し(図8,図9)、スタッフから話を伺うことができた。 ラーニングセンターは、前述したレストアの隣に、2001年にロッテリーファンデーション(National LotteryCharitiesBoard)からの資金援助で設立された新しい施設である。イギリスでは、このよ うに民間非営利組織に資金の援助を行うトラストやファンデーションと呼ばれる民間の助成団体が 多数存在する'2)。 センターの案内パンフレットは次の一文で始まっている。「勉学を再開し、職を見つけ、あなたの 住んでいる地域にもっと溶け込みたいと思いませんか。あるいは、すでに仕事や学校に通っている なら、それを続けるのにサポートが必要ではありませんか。あなたは、精神保健上の問題を抱えて -62- ヨーー毫憂=富澤三-一四

…;愚=霧i鑓i圏I

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沖純大学法経学部紀要第6号

いませんか。教育、雇用、コミュニティとの関わりについて、情報を得たいと思いませんか。そん

なときには、ラーニングセンターのガイダンスと情報提供サービスが役立ちます」。この-文にあ

るように、ラーニングセンターは精神障害者が教育や雇用を獲得し、コミュニティと関わりやすく

なるように手助けすることを目的にしている。イギリスでは、サービスの利用者を「精神障害者」

とは呼ばず、「精神保健上の問題を抱える人々(Peoplewithmentalhealthproblems,Peoplewho

havementalhealthproblems)」とⅡ平ぶのが一般化している。その主な理由は、精神障害が誰にで

も起こりうる身近な問題であることを示すためと、精神障害に対する世間の差別や偏見をなくすた

めである。どの施設を訪れても、これらの理由を分かり易く解説したリーフレットやパンフレット

が何種類も用意されている。それらには、次のような内容が書かれており、精神障害者に対する差

別や偏見に注意を促している。「精神保健上の問題を抱える人々の47%が職場で差別を体験したこ

とがあります」、「精神保健上の問題を抱える人々の51%が友人からの差別を体験したことがありま

す」、「一般の人々の約3分1が学習障害と精神病との違いを理解していません」「一般の人々の40%

が精神保健上の問題を暴力と結び付けていますが、実際には、アルコールの影響下にある若者のほ

うがずっと暴力的です」。

ラーニングセンターが実施しているプログラム(ワークショップ)には、まず、国語や国文法、

詩や小説などの創作を通しての作文練習、歌や発声、楽器演奏、コンピュータ操作、自己管理術と

いった一般的なものがある。筆者が訪問した際にも、入所者が指導者とともに楽器演奏を楽しむ光

景が見られた。つぎに、これら以外のラーニングセンターの特色あるプログラムとして、ボラン

ティア参加のためのガイダンス、地域社会に溶け込むためのガイダンスが用意されている。とくに

後者は「異なった考えを持つ人々を理解するためのセッション」、「他人を思いやりサポートするた

めのセッション」、「人間的成長を促すためのセッション」、「地方の政治や政策を理解するための

セッション」、「地域の人々とゴルフやバドミントンを楽しむセッション」、「平和運動を理解するた

めのセッション」などに細かく分けられ、実践的である。

ラーニングセンターはまだ若い施設であるので、その評価はこれからであるが、イギリスには、

こうした施設を立ち上げようとする意気込みのある人々や、これをとくに財政的側面から支援する

人々が少なくないことを、今回の施設訪問で再認識する思いがした。 図8ラーニングセンター(手前はレストアが管理する庭) -63-

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図9ラーニングセンター内部 以上に見た学習・職業訓練のサービスは、わが国の通所授産施設や小規模作業所(共同作業所) で実施されている活動に、その役割において類似している。わが国の作業所の場合、生活訓練重視、 就労訓練重視、憩い重視など、施設によって特色が見られるが、今回のオックスフォードの例も、 単に仕事や技術を身に付けさせる場ではなく、利用者の対人交流や社会性を改善し社会参加を促す 場としての色彩もかなり濃厚であった。 7.おわりに イギリス・オックスフォードの民間非営利組織が提供する精神障害者支援サービスの一端を見て きた。わが国でも、中央集中型・行政主導型社会システムから分散・協働型社会システムへの転換 が求められ、また、生きがいのある生活を求めて市民活動やボランティア活動への関心が高まる中 で、民間非営利組織の活動には、これからも一層の期待が寄せられるものと思われる。さらに、公 的サービスでは対処しきれない多様なサービスの供給主体としても、内外の民間非営利組織による 地域精神保健福祉活動に、今後も引き続き注目することは有意義であろう。 注) 1)小西吉呂(2003)では、オックスフォードにおける民間非営利組.織の立地(地理的特徴)、組織 相互の連携、運営資金、スタッフなど、民間非営利組織全般に関わる事柄について報告している。 小西吉呂(200k4J及び小西吉呂(2005)では、精神障害者に住居を提供する民間非営利組織のサー ビスについて報告している。小西吉呂(2006)では、民間非営利組織が運営するデイサービスに ついて報告している。 2)地域精神保健福祉の担い手としては、さらに利益追求を目的とした病院などのプライベートセ クターが存在する。なお、NHSと地方自治体の社会サービス部門は、一般にスタチュートリー セクター(StatutorySector)と呼ばれている。 -64-

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沖縄大学法経学部紀要第6号

3)デイサービスの利用形態については、小西吉呂(2003:66頁)を参照していただきたい。

4)この点につき、福祉多元主義を打ち出したウルフェンデン報告は、行政サービスの限界や隙間

を埋めるという民間独自の役割を、ボランタリーセクターに確認している。WolfendenCommittee:

(1978)及び田端光美(2003:219頁)を参照していただきたい。

5)BowleyA(2001)300頁を上回るこの文献は、オックスフォード地方のメンタルヘルスサービ

スに関する最も包括的なガイドとして、専門家からユーザーにいたるまで、幅広く利用されてい

る。

6)このサービスについては、小西吉呂(2006)を参照していただきたい。

7)このサービスについては、小西吉呂(20M)及び小西吉呂(2005)を参照していただきたい。

8)マイノリティーな民族・人種のためのサービスとは、アジア(とくに中国・インド)やアフリ

カのイギリス連邦諸国といった特定の国や地域からの移民者や生活困窮者で、精神保健上の問題

を抱える人たちに、必要な,情報を提供したり、出会いやくつろぎの場を提供したり、生活を支援

したりするサービスを指す。イギリスは多くの民族・人種を抱える国であるため、このような

サービスの必要性は高い。

9)以下のサイトを参照していただきたい。http://www・oxford-mentalhealthorg

lO)この点については、すでに小西吉呂(2003:67頁)で報告させていただいた。

11)精神保健法の改正に関する最新のマインドの立場については、以下のサイトを参照していただきた

い。http://www・mind,orguk/News+policy+and+campaigns/Policy/Draft+Mental+Health

+Bill+2004.htm

l2)民間の助成団体は、政府による助成制度が確立されていない分野、政府の助成に馴染まない分

野などに助成をしており、時事的な問題や先駆的な問題に重点的に助成を行うことを目的として

いる。助成の種類は大きく2つに大きく大別できる。1つは事業助成(プロジェクトファンド)

で、民間非営利組織がある事業を実施するのに必要な経費を助成するものである。もう1つは運

営費助成(コアファンド)で、人件費や団体の維持・管理・運営にかかる経費を助成するもので

ある。 参考・引用資料

・小西吉呂「イギリスのボランティア活動団体と精神保健サービスーオックスフォードでの調査を

もとに-」日本精神衛生学会にころの健康』18巻2号、2003年、62-79頁。

・小西吉呂「オックスフォードの精神障害者共同住居」沖縄大学地域研究所『沖縄大学地域研究所

年報』18号、2004年、139-144頁。

・小西吉呂「オックスフォードにおける精神障害者の共同生活一民間非営利組織の取り組みを中心

に-」日本精神衛生学会『こころの健康」20巻1号、2005年、70-76頁。

・小西吉呂「イギリス・オックスフォードにおける民間非営利組織の活動一精神障害者のためのデ

イサービスを中心に-」鉄道弘済会社会福祉部『社会福祉研究』95号、2006年(4月発行予定)。

・BowleyA:TheMindGuide2001toMentalHealthServicesinOxfordshire,Oxfordshire Mind,2001. .OxfordshireMind:OxfordshireMindAnnualReport2002.OxfordshireMind,2002. -65-

(13)

・HopeLBowleyA:OxfordshireMindDayServicesMonitoringReport・Oxfordshire Mind,2001. .TaylorP,HopeJ,McDiarmidL:OxfordshireMindDayServices2002Servicedescription OxfordshireMind,2002. ・OxfordshireMentalHealthcareNHSTrust:Annualreportandaccounts2000/2001. OxfordshireMentalHealthcareNHSTrust,2001. .Restore:Annualreport2000-200LRestore,2001. ・PayneM:Socialworkandcommunitycare・Macmilla,1995. .RogersA,PilgrimD:MentalhealthpolicyinBritain:Acriticalintroduction・Macmillan, 1996. .BeresfordP,TrevillionS:Developingskillsforcomnunitycare:Acollaborative approachArena,1995. .MeredithB:TheCommunityCareHandbook・AgeConcern,1993(杉岡直人、平岡公一、 吉原雅昭訳『コミュニティケアハンドブック』ミネルヴァ書房、1997年). ・WolfendenCommittee:TheFutureofvoluntaryorganisations:ReportoftheWolfenden Committee,CroomHelm,1978. .ブリティッシュ・カウンシル『英国の市民社会』TheBritishCouncil、2001年。 ・行政管理研究センター『市民セクターと行政の連携に関する調査研究』日本財団図書館、1996年。 ・斉藤満智子「英国におけるボランタリーセクター(海外事務所特集ロンドン事務所一イギリスの 地方自治制度改革の最近の動き-)」自治体国際化協会『自治体国際化フォーラム』151号、2002 年、12-15頁。 ・田端光美「イギリス地域福祉の形成と展開』有斐閣、2003年。 ・北村麻衣「イギリスのコミュニティケアに関して(京都産業大学ヨーロッパ文化演習Ⅱ2003年度 卒業研究テーマ)」、http://www・kyoto-su・ac・jp/~konokatu/kitamura(04-1-29) -66-

参照

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