アジ研ワールド・トレンド No.251(2016. 9)
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民主主義への移行期以来、メキ
シコで目にする変わった選挙の風
景
の
ひ
と
つ
が「
こ
ど
も
選
挙
」
(
C
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su
lta
I
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til
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en
il 。
一
九
九
七
年
の
み
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である。こどもたちがつま先立ち
になってカラフルな投票箱に票を
入れる様子は微笑ましく、権威主
義時代を知る国民には民主主義の
大きな前進にも映るはずだ。しか
し、その牧歌的な風景とは裏腹に、
「
選
挙
結
果
」
が
浮
き
彫
り
に
す
る
メ
キシコ社会の現実は厳しい。本稿
では、メキシコ政治と選挙の関係
と、こども選挙の展開について簡
単に紹介したい。
●
現
代
メ
キ
シ
コ
政
治
と
選
挙
二〇世紀のメキシコ政治史は選
挙をめぐる歴史とも読める。かつ
て、政治学者サルトーリの分類で
「
ヘ
ゲ
モ
ニ
ー
政
党
制
」
の
代
表
例
と
されたメキシコでは、一九二九年
にその前身が創設された制度的革
命党(PRI)が、二〇〇〇年の
政権交代まで七一年間政権を担い、
権威主義的統治を行った。文字ど
おりの一党独裁とは異なり、反対
派の存在がある程度認められるヘ
ゲモニー政党型のPRI権威主義
体制では、体制維持の装置として
選挙が重要な役割を果たした。た
だしそれは、民主主義体制下で国
民の代表を選出するという意味に
おいてではなく、体制に正統性を
付与し、対外的には民主主義の体
裁をアピールする機能によってで
あった。PRI体制下の選挙では、
PRIの勝利が選挙前からいつも
約束されていたし、PRIの大統
領選候補者は毎回八〇~九〇%台
という信じがたい高得票率で勝利
を収めてきた。こうした選挙にお
ける政権党の圧倒的な強さは、政
府
に
従
属
す
る
選
挙
管
理
委
員
会
や、
PRIのお家芸たる、バラエティ
豊かな選挙不正・票の買収によっ
ても支えられたものであり、PR
I体制下の選挙は当然ながら自由
でも公正でもなかった。
以上のようなPRI体制の特色
から導かれる形で、メキシコでは
権威主義体制からの民主化もまた
選
挙
が
鍵
と
な
っ
た。
と
い
う
の
も、
PRI体制下で少なくとも形式上
は、複数政党による定期的な選挙
が実施されていたため、民主化と
は︱︱比較的長い年月をかけて︱
︱選挙を自由・公正で競争的なも
のに整えていくプロセスに他なら
なかったからである。一九八八年
の大統領選で大規模な選挙不正が
疑
わ
れ
つ
つ
P
R
I
が
辛
勝
す
る
と、
それまで以上に選挙関連の法改正
が進み、一九九七年の時点で民主
的な選挙の基盤がほぼ整ったとい
われている。この年にPRIは史
上初めて下院で過半数議席を失い、
二〇〇〇年大統領選での反対派の
勝利によって政権交代が実現して、
メキシコは民主化を達成したのだ
った。
●
小
さ
な
有
権
者
た
ち
民主的な選挙制度作りに向けた
改革が進むなか、市民教育の一環
として始まったのがこども選挙で
ある。ラテンアメリカではすでに
こども選挙の試みがみられた国も
あったが、メキシコで初めて実施
さ
れ
た
の
は
一
九
九
七
年
の
こ
と
で、
一九九〇年代の一連の改革によっ
て政府から自律的な組織となった
特集
選挙の風景
馬
場
香
織
メ
キ
シ
コ
の
こ
ど
も
選挙
こども選挙の投票所の様子(メキシコ市、2012 年筆者撮影)
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アジ研ワールド・トレンド No.251(2016. 9)
連邦選挙管理委員会(以下、連邦
選管)と、ユニセフの協力の下で
実現した。こども選挙が掲げる目
標には大きく二つがある。ひとつ
は、メキシコの民主主義の将来を
担
う
こ
ど
も
た
ち
と
そ
の
親
世
代
に、
民主的な選挙と市民参加の文化を
広め、根付かせること。もうひと
つは、政府・政党にこどもたちの
声を届け、政策に反映させるよう
促すことだった。
こ
ど
も
選
挙
は
一
九
九
七
年
以
来、
連邦選挙の年に合わせて三年ごと
に、連邦選挙と同日かそれ以前に
メ
キ
シ
コ
全
土
で
実
施
さ
れ
て
い
る。
日程については連邦選管内で意見
が割れており、同理事会で毎回審
議
の
う
え、
決
定
さ
れ
て
い
る。
二〇一五年のこども選挙は連邦下
院
選
と
同
日
に
行
わ
れ、
六
歳
か
ら
一七歳までの二六七万七〇〇〇人
が投票した。こども選挙の投票所
は、住宅地近くの路上や学校、シ
ョッピングセンターなど、こども
がアクセスしやすいさまざまな場
所に設置される。
こども選挙とは、実際のところ
全国規模のアンケート調査で、こ
ど
も
た
ち
は
年
齢
に
応
じ
た
質
問
票
(
た
だ
し、
質
問
の
主
題
は
同
じ
)
に
回
答
を
記
入
し、
投
票
す
る。
二〇一二年からは五歳以下の幼児
も、
「わたしの住んでいるところ」
のようなお題に沿った絵を自由に
描いて投票に参加することができ
るようになった。一五~二〇問程
度の質問票の内容は、家族や学校、
地域社会に関するものなど多岐に
わたるが、連邦選管のそのときど
きの理事たちの意向を強く反映す
る
た
め、
必
ず
し
も
継
続
性
は
な
い。
また、治安についての質問が目立
った二〇一二年のように、世相を
反映した質問が盛り込まれるケー
スもある一方で、二〇一五年の場
合は、連邦選管が主催した成人向
けの直近の世論調査に準じる内容
が、
質
問
の
主
要
な
部
分
を
占
め
た。
こども選挙の結果は連邦選管のホ
ームページで公開されるほか、専
門家によって詳しい分析が行われ、
その報告書も一般に公開されてい
る。
●
こ
ど
も
を
取
り
巻
く
メ
キ
シ
コ
社
会
の
現
実
このように、メキシコの選挙の
風景として定着してきたこども選
挙だが、近年の選挙結果から浮か
び上がる現実は厳しいものである。
二〇一二年のこども選挙では、麻
薬をめぐる暴力に関する質問項目
が
注
目
を
集
め
た。
「
わ
た
し
が
住
ん
で
い
る
と
こ
ろ
で
は
銃
撃
戦
が
あ
り、
死者が出ている」
という項目に
「は
い」と答えた人の割合は、六歳か
ら
一
五
歳
ま
で
の
回
答
者
全
体
の
約
二四%にのぼり、もっとも多かっ
た一五歳では三三
・
五%に達した。
実に三人に一人が、近所で銃弾が
飛び交う環境に暮らしている状況
が示唆される。全国平均を超えた
のは、チワワ州をはじめ、麻薬関
連の治安の悪化が懸念される北部
諸州であった。また、一五歳の回
答
者
の
う
ち
三
〇
・
五
%
が「
近
所
で
麻薬を勧められたことがある」と
答
え、
一
三
・
九
%
が「
犯
罪
組
織
か
らその一員となるよういわれたこ
とがある」と回答している。
一方、二〇一五年のこども選挙
では、年齢が上がるにつれて軍や
行政への不信感が強まるという結
果が注目に価する。軍、警察、政
府を信頼すると答えた人の割合が、
一
〇
~
一
三
歳
で
は
そ
れ
ぞ
れ
七
三
・
九
%、
七
一
・
五
%、
四
四
・
一
%だったのに対し、一四~一七歳
で
は
二
五
・
二
%、
二
一
・
七
%、
五・
二%ときわめて低い。後者は、先
述の成人向け世論調査の結果と比
較しても低い信頼度という結果で
あった。
●
お
わ
り
に
民主化以後も、選挙をめぐるさ
まざまな問題が日常的に紙面を賑
わせているメキシコで、こども選
挙を将来の民主主義への希望とみ
る
の
は
楽
天
的
に
過
ぎ
る。
他
方
で、
こども選挙の結果は、彼らを取り
巻く厳しい現実を大人たちに突き
つけるものである。権威主義体制
下
の
選
挙
が
そ
う
で
あ
っ
た
よ
う
に、
こども選挙を民主主義の進歩をア
ピールする「飾り」に貶めるので
はなく、大人たちがこどもたちの
声と真摯に向き合うこと。この国
の民主主義の将来は、そこにかか
っているのかもしれない。
(
ば
ば
か
お
り
/
ア
ジ
ア
経
済
研
究
所
ラ
テ
ン
ア
メ
リ
カ
研
究
グ
ル
ー
プ)
投票するこども(メキシコ市、2012 年筆者撮影)
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