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ミャンマー -- サイクロン被災と図書館 (特集 災害と図書館)

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全文

(1)

ミャンマー -- サイクロン被災と図書館 (特集 災

害と図書館)

著者

小林 磨理恵

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

210

ページ

18-20

発行年

2013-03

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003748

(2)

●はじめに

  巨 大 な サ イ ク ロ ン「 ナ ル ギ ス 」 は、二〇〇八年五月二〜三日にか けてミャンマーを直撃した。暴風 と豪雨はエーヤーワディ・デルタ とヤンゴンを襲い、死者・行方不 明 者 は 一 四 万 人 に も 上 っ た と い う。八〇万戸が倒壊または半倒壊 し、二五〇万〜三〇〇万の人々が 住みかを追われた。被災直後に軍 事政権が、国際社会、とりわけ欧 米 諸 国 の 支 援 を 制 限 し た こ と も、 未曾有の状況を深刻化させる一因 となったとみられている。   ナルギスの猛威は一〇〇〇を超 え る 図 書 館 に も 被 害 を も た ら し た。 多くの人命が危険にさらされ る な か で、 図 書 館 の 被 災 に 対 し、 ミャンマーの現地の人々はどのよ うな行動をとったのだろうか。   サイクロン被災を機に発足した NPO「ナルギス ・ ライブラリー ・ リカバリー」は、サイクロンの猛 威によって失われた図書を提供す るための活動を継続的に行ってい る。サイクロン被災からおよそ五 年を経過した二〇一三年二月現在 もその活動は継続している。それ ばかりか、サイクロンの被災地で はない地域にも活動を展開してい るという。この活動は、当初より ミャンマーにおける教育の普及に は図書館が必要不可欠であると強 く意識されたものだった。活動の 射程を被災図書館の復旧にとどめ ないわけは、図書の提供を通じて 教 育 の 普 及 に 貢 献 す る こ と に 活 動 の 目 的 が あ るためだろう。   本 稿 で は N P O 「 ナ ル ギ ス ・ ラ イ ブ ラ リ ー ・ リ カ バ リ ー 」 の 活 動 の 展 開 を 紹 介 す る 。 な お 、 本 稿 は 、 同 団 体 の ウ ェ ブ サ イ ト に 配 信 され る 活 動 記 録 を ベ ー ス に 、 同 団 体 の 中 心 人 物 、 タ ン ト ・ ト ー ・ カ ウ ン 氏 へ の 聞 き 取 り 調 査 に よ っ て 補 足 し た も の で あ る ⑴ 。

 ナルギス・ライブラリー・

リカバリーの発足

  「 新 し い プ ロ ジ ェ ク ト を 提 案 し たい。 」   サイクロン被災から約三カ月を 経た二〇〇八年八月一七日、ミャ ンマー・ブック・センターの経営 者であるタント・トー・カウン氏 は、アメリカのミャンマー専門家 で元コーネル大学教授・キュレー ターのジョン・バッジリー氏にE メールで呼びかけた。 Eメールは 次 の よ う に 続 く。 「 も し あ な た が 関心を持ってくださり、あなたの ドナーも協力的であれば、図書を 購入して、ミャンマーに送ってほ しいのです。あまりコストがかか らない船便を用意します。ドナー がナルギスからの復興に向けた長 期のプロジェクトに力を貸してく れるのならば、物資でもお金でも 寄付してください。私は、これが ミャンマーに教育を普及させるた め の 方 策 に も な る と 考 え て い ま す。一握りの学生しか私立学校に は行けません。奨学金を受け取る の は ほ ん の わ ず か な 学 生 だ け で す。大部分の学生は、公立学校に 通い、たくさんの良質な本を欲し NLRのタント・トー・カウン氏 (石井美千子氏撮影) NLRから図書を受け取る子どもたち(http://www. nargislibrary.org/2010/05/children-with-books-from-nlr/:2013/1/21最終閲覧)

特 集

  サ

  ―

災 害 と 図 書 館

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ている。このことを忘れないでほ しいのです。 」   このように、タント氏は図書の 寄付を呼びかけるとともに、それ が 教 育 の 発 展 に 寄 与 す る こ と を ミャンマーから訴えた。 タント氏 がこのメッセージを発した時期に は、NGOや国際的な援助団体が 被災地の復興支援プロジェクトに 着手していた。しかし、図書館の 復 旧 は 未 だ 取 り 残 さ れ た 状 況 に あった。 倒壊した図書館の再建と、 失われた図書の提供は、図書の専 門家であるタント氏にはとりわけ 急務に感じられたことだろう。   タント氏の提案を受けて、バッ ジリー氏と、タント氏の父親であ り、ヤンゴン大学図書館情報学部 名誉教授のウー・トー・カウン氏 が構想を打ちたて、サイクロンの 被災地に図書館と図書を届けるた めのNPO が結成された。 それが、 「 ナ ル ギ ス・ ラ イ ブ ラ リ ー・ リ カ バリー」 (以下NLR)である。   早速、 同二〇〇八年一一月には、 ワシントン大学図書館と、新刊書 と中古本を販売するアメリカの書 店「ハーフ ・ プライス ・ ブックス」 によって、八〇〇〇冊の英語の図 書がアメリカからミャンマーに向 けて船便で発送された。これが最 初の図書の寄贈便である。八〇〇 〇冊の図書は、翌年一月に、タン ト氏らによって最も図書を必要と していた六〇の図書館に分配され たという。

●活動の経過

  現在まで続く活動の内容は、寄 贈図書の分配、 図書館の再建、 ワー クショップの開催に大別される。 ①図書館の再建   サイクロンにより倒壊した図書 館の再建が目指され、二〇一〇年 一二月にティンガンゴン・コミュ ニティ図書館が開館した。   テ ィ ン ガ ン ゴ ン は エ ー ヤ ー ワ ディ・デルタに位置し、ナルギス サイクロンの被害に遭った村であ る。被災以前に存在した二つの小 さな図書館は、サイクロン直撃に より破壊されてしまった。新しく 完成した図書館は、数度のサイク ロ ン に も 耐 え う る よ う 設 計 さ れ た。また、十分な光や風を取り入 れ る た め に 三 つ の 窓 が 設 け ら れ、 夜一〇時まで開館できるように電 気も取り付けられた。   この図書館の建設には、高校教 師、市議会議員、医師、ビジネス マ ン 等 か ら 成 る 図 書 館 協 会 な ど、 地 元 の コ ミ ュ ニ テ ィ も 尽 力 し た。 NLRは、図書の寄贈、初年の司 書の給料の四分の三の負担、複数 の雑誌の購読料負担、二〜三名の 司書やボランティアの教育を支援 することに同意している。 一方で、 地元のコミュニティは、書架の設 置や建物のメンテナンス、司書の 選出と監督、二年目以降の司書の 給料の支給を要請された。   サイクロン被災を機に建設され たこの図書館は、コミュニティセ ンターとしての機能をも果たして おり、地方図書館の良いモデルと な る こ と を 目 指 し て い る と い う。 近 隣 の 村 か ら も 利 用 者 が 訪 れ、 人々の集いの場となっている。 ②図書の分配   倒壊した図書館の再建に着手す る以前、NPO結成の当初からN L R が 最 も 力 を 入 れ、 継 続 的 に 行ってきた活動は、寄贈図書の受 け入れとその分配であった。   サイクロンに見舞われた二〇〇 八年末にはすでに八〇〇〇冊の寄 贈 が あ っ た こ と は 先 述 の 通 り だ が、 それに続き、二〇〇九年二月 には中古本を扱うアメリカの書店 「 ス リ フ ト・ ブ ッ ク ス 」 か ら 一 〇 〇万冊もの図書が寄贈された。寄 贈された図書は総額三〇〇万ドル の 価 値 を 持 つ と い う。 ス リ フ ト・ ブックスの最高経営責任者は、 「創 造的な方法でミャンマー人とアメ リカ人は図書館復旧に向けて前進 していくのです。図書館は知を基 盤とする社会において不可欠な存 在 で す か ら。 」 と 言 葉 を 寄 せ た。 さ ら に、 海 運 会 社「 ア メ リ カ ン・ プレジデント・ラインズ」は、寄 贈図書がシアトルからミャンマー のコミュニティの図書館まで効率 的に運ばれるよう支援することを 表明した。   寄贈図書を種類別に分け、適切 な 送 り 先 を 決 定 す る 仕 分 け 作 業 は、タント氏を中心に、約一〇〇 名のスタッフ、 ボランティア、 ミャ ン マ ー 図 書 館 協 会 メ ン バ ー ら が、 引退した司書の助言を受けながら 行った。大量の寄贈図書を仕分け る作業は多くの人手を要し、困難 ティンガンゴン図書館の外観(https://picasaweb. google.com/ahwin2006/NLRTripMyanmar2010?feat= email#:2013/1/21最終閲覧)

ミャンマー

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を極めたという。   また、チャリティフェアにて寄 贈図書の一部を、 「ブック ・ ビュッ フェ」と称して小さいセットは一 万チャット、大きいセットは二万 チャット という比較的安価で販売 した。アメリカからの寄贈図書に ついては、その三〇%を販売する 許可を事前に得ていたという。そ の収益で子ども向けのミャンマー 語図書や参考図書、文具を購入す るための方策である。二〇〇九年 四月には九〇〇〇冊のミャンマー 語の教科書、一〇〇〇冊の英語で 書かれた子ども向け図書がデルタ 地域の図書館に分配され、二七〇 〇名の学生に三冊ずつノートが贈 られることとなった。   同年には、一年間で四回に分け て計一一二万冊がアメリカのスリ フト・ブックスから寄贈され、N LRが図書の分配を通じて支援し た図書館は一五〇にも上った。こ うした活動は継続的に行われてお り、二〇一一年度(二〇一〇年九 月〜二〇一一年八月)には二六一 もの図書館がNLRから図書を受 け取っている。また、翌二〇一二 年度には、 約一四万冊の英語図書、 約 一 万 冊 の ミ ャ ン マ ー 語 図 書 が、 八四の図書館に分配された。   こうして「失われた図書を提供 する」というNLRの最大の活動 は継続的に行われている。寄贈図 書を単に分配するのみならず、そ れらを販売して得た収益で図書館 や学校現場の必需品を新たに購入 するという工夫によって、寄贈図 書は、最も適切な人と場所に届け られ、最大限活かされているとい えるだろう。 ③ワークショップの開催   新たな試みとしては司書らを対 象にしたワークショップの開催が ある。二〇一一年一二月〜翌年一 月に、オーストラリアから訪れた 夫妻を講師として、一七五名の教 師や司書、行政官、修行僧を対象 に し た「 図 書 館 の 読 者 の た め の ワークショップ」をヤンゴンなど 三都市において開催した。出席者 は、読書の初心者が英語に馴染む ための方法について学んだ。海外 から講師を招いて司書らを教育す ることは、今後重点を置かれる活 動のひとつであるという。

●おわりに

  NLRの活動は、当初はサイク ロン被災地の図書館復旧から着手 されたが、現在は被災地ではない 地方も含めて ワークショップの開 催など新たな取り組みを模索しな がら 全国的に拡大している。この 活動の展開は、NLRの生みの親 でもあるタント氏が 「教育の普及」 を図書館の役割と認めていること か ら も 納 得 で き る も の だ ろ う。 ミャンマーの図書館は、被災前の 状態への 「復旧」 にとどまらない、 さらなる発展へと展開をみせてい る。 ( こ ば や し   ま り え / ア ジ ア 経 済 研 究所   図書館資料企画課) 《注》 ⑴  アジ研図書館石井美千子氏に より二〇一三年一月実施。 《参考文献》 ① A s h le y S o u th , S u s a n n e K em p el, M ali n P er h u lt, a n d  Nils Carstensen, 2010. “ My -an m ar -S u rv iv in g th e S to rm : S elf -p ro te ct io n a n d S u rv iv al in th e D elt a, ” L o ca l to G lo -bal Protection. ②  岡 本 郁 子[ 二 〇 〇 九 ]「 ミ ャ ン マー・サイクロン被災(二〇〇 八 年 ): 政 治 化 さ れ た 災 害 と 復 興 支 援 」『 ア ジ 研 ワ ー ル ド・ ト レンド』一五巻六号。 ③ N a rg is L ib ra ry R e c o ve ry  (h tt p :/ /w w w .n a rg is lib ra ry . org/ : 2013/1/21 最終閲覧 ).

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参照

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