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古英語における前置詞後置の機能的分析: 沖縄地域学リポジトリ

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Academic year: 2021

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Author(s)

伊藤, 丈志

Citation

沖縄大学人文学部紀要(20): 57-61

Issue Date

2018-01

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12001/22107

(2)

<研究ノート>

古英語における前置詞後置の機能的分析

伊藤 丈志

要約  現代英語では見られない前置詞の後置現象がKing Edmundのような古英語作品に おいてたびたび観察される。本研究では , 古英語においては , 前置詞とその目的語が 隣接していなければならないという制約が緩く , 副詞的な振る舞いをみせていたとい う事実から , 現代英語における不変化詞移動と類似した現象として捉える可能性を示 唆し , 文法組織の違いこそあるものの , 旧い情報から新しい情報へと進行する情報の 流れと同じ原理が古英語における前置詞後置を引き起こしている可能性を提示した。 キーワード:  前置詞後置  不変化詞移動  情報の流れ  自然音韻論 はじめに  現代英語と古英語の統語的相違の一つに前置詞後置がある。この現象は現代ドイツ語にはみら れるが , 現代英語には全くみられないものであり , 英語がその歴史的変化の中で独自の文法を整 え始める先駆けともいえる重要なものである。本研究では , King Edmund 1) における前置詞後 置現象を分析し , この現象が機能的要因によって動機づけられていたのではないかという仮説を 提示し , 言語の歴史的変化の本質を考察する。 Ⅰ.古英語における後置詞  古英語には現代英語には消滅した前置詞後置の用法がある。 (1) þa com þœm Deniscum scipum þeh ær flod to, ær

 ‘Then, however, the tide came to the Danish ship, before...’

( 市河・松浪 1986:59) (2) siþþan hine Niðhad on nede 1egde

 ‘since Nithhad laid fetters on him’

(ibid)

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(3) þam Almightigan to lofe, þe hie on ge-liefdon

 ‘to the glory of the Almighty, in whom they believed’

(Sweet 1882: 57) (4) se manþe we embe specað

‘the man we speak about’

(Mosse 1947: 30) この構造は現代英語でも見られる前置詞残留という現象である。

(5) the house which we live in

しかし , 現代英語と違うところは ,þe 関係詞は倒置語順(前置詞後置)だけが許されるのに対し , 現代英語では (5) のような倒置語順に加えて , 前置詞 + 目的語 ( 関係詞 ) も許される。

(5') the house in which we live

さらに , 前置詞後置は , 前置詞が代名詞もしくは名詞を支配するときにも現れる。 (6) us betweonan  ‘between us’ (7) Freslondum on  ‘in Fries1and’ (ibid) しかし , King Edmundにおいては , 前置詞後置の用法は前者の用法 ( 代名詞支配 )しか見られない。 (8) and cwœþ þa æt nextan cyne1ice him to

 ‘and said to him at last even like a king’

(1.53-4) (9) and me nu 1eofre wære

 ‘and it were now dearer to me’

(1.55) (10) Æfter þysum wordum he gewende to þam ærendracan þe hinguar him to sende  ‘After these words he turned to the messenger whom Hingwar had sent to him’

(1.70) このことから , 前置詞が代名詞を支配しているときに後置する用法が基本であるという予測が可

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能である。しかしながら , この予測とは反対に , 前置詞が名詞を支配している用法だけが , 下記の ように , 長く詩において生き残ることとなった。

(11) a. the table around (Shakespeare)   b. his dames before (Mi1ton)   c. my heart within (W.Scott)

  (Mosse 1947:39) Ⅱ.古英語における前置詞後置の要因  前章において , 英詩では前置詞が名詞を支配している用法のみが残存したことに触れたが , こ の事実を持ってして , 名詞支配の時の前置詞後置の方が基本的であるとすることはできない。と いうのも , 詩においては , 脚韻等の様々な修辞的用法が絡んでくるからである。では , なぜ代名詞 支配の前置詞は後置されたのだろうか。その答は前置詞後置の機能的側面に関わっていると思わ れる。一般的に , 一文中において情報は旧なものから新なものへと流れるのが自然であるといわ れている2)。例えば ,

(12) a. I gave the boy a book.   b.?? I gave a book the boy.

a 文においては旧情報 (the boy) から新情報 (a book) に流れているのに対し ,b 文においては新情 報から旧情報に流れているため , 座りの悪い文となっている。さらに , この原則は不変化詞が代 名詞を支配するときに右方に移動しなければならない事実も説明する。

(13) a. *John pulled out it.   b. John pulled it out.

a 文が良くないのは , 情報が旧情報から新情報に流れていないためで , b 文が良いのは旧情報から 新情報に流れているからである。このようにして考えてみると , いままで見てきた前置詞後置の 現象と不変化詞移動の現象が , 何か類似したところがあるように思われる。実際 , この二つの現象 は同じ要因(旧から新への情報の流れ)によって司られていると考えるのが妥当のように思われる。 不変化詞は一般的に言って副詞的地位を与えられているものであり , 前置詞と副詞という品詞の 違いがあるので , 一概にはそうともいえないという反論も有り得る。しかし , 古英語における前置 詞が果たして現代英語でいうところの前置詞と同じものであるかということは疑問が残る。 (14)a. he him þær wit gefeaht

   ‘there he fought against them’

  (The Ang1o-Saxon Chronicle A 70/12 (an.871))   b. se here him fleah beforan

   ‘the army fled before him’

(5)

(14) の例では , 前置詞とその目的語との間に他の語が介在している。前置詞とその目的語は隣接 していなければならないというのが , 今日われわれが理解しているところの現代英語の前置詞の 文法的特性であるので , (14) のような例は前置詞としてみなすことに抵抗があり , 多くの言語学 者はこれを副詞 , もしくは副詞類とみなしている(中島 1951, 中尾・児馬 1990) 。もしこの考え 方が正しいのであるならば , 不変化詞移動と古英語の前置詞後置現象は類似した現象であるとい うことになる。古英語においては , 既に不変化詞移動が存在していた(中尾 1989:124 参照〉こ とも考え合わせると , この考え方はさほど無理なものではないであろう。  King Edmund中に現れた前置詞を調べてみると , やはり新情報である不定の名詞句を従えて いるときには前置詞は後置されていない場合が多い。

(15) to anum eorþ-fæstum treowe   ‘to an earth-fast tree’

(1.91) (16) ac heold hit wiþ deor

  ‘kept it with other anima1s’

(1.130) なかには代名詞を支配していても前置詞が後置していない例があったが , これは恐らく文脈上重 要であるか , ストレスがおかれて読まれているかのどちらかであると思われるが , その証拠は持 ち合わせていない。

(17) Þa sægde se sceawere, þe hit ær geseah þœt þa f1ot-men hafdon þat heafod mid him   ‘Then said the spectator who previously beheld it that the seamen had taken the head   with them’ (1.114) さらに , King Edmund中には見当たらなかった名詞を支配している前置詞の後置であるが , こ れも旧から新への情報の流れの原則によって説明することができるように思える。すなわち , 当 該の名詞よりも前置詞の方に焦点を当てたいときに , またそのときにのみ前置詞は後置されてい たのではないだろうか。ただし , これを支持する資料も持ち合わせていない。  では , 最後に残る問題は , なぜ古英語では名詞句を支配している前置詞も後置できたのかとい うことである。それは , 上記にも述べたように , 古英語における前置詞は文法的には副詞として 機能していたことに鍵があるように思われる。副詞は通常それが修飾する要素に隣接して生起す るが , このことが転じて格を付与する語として認識されるようになり前置詞としての地位を確立 したのではないだろうか。情報が旧から新ヘ流れるという機能的制約はたぶんに人間の知覚的 , もしくは情報処理上の問題である。こうした制約が言語構造に影響を与えることはいわば言語が 受ける自然な過程であろう。こうした過程に制約を与えるのが文法である。この考え方は音韻論 における自然音韻論3) と呼ばれるものに拠るところが多いが , ここで考察した古英語における前 置詞後置現象を分析するに当たって , この考えが言語の統語的変化にも当てはまるように思われ る。

(6)

1) King Edmund は 1002 年以前にÆlfric によって書かれたと推定される。Ælfric によって書かれたため

Ælfric’s Life of King Edmund ”ともいわれ、イースト・アングリアの王であったエドマンド殉教王を

描いた短編作品である。

2) 情報の流れ (information flow) については Chafe(1994) 等を、情報の流れに基づいた文法分析について は、久野 (1978), Kuno(1987) 等を参照されたい。

3) 自然音韻論については、外池 (1976) などを参照されたい。

参考文献

Chafe, W. L. (1994) Discourse, Consciousness, and Time: The Flow of Conscious Experience in Speaking and Writing. University of Chicago Press.

市河三喜・松浪有 (1986)『古英語 , 中英語初歩』研究社出版 久野暲 (1978)『談話の文法』大修館書店

Kuno, Susumu (1987) Functional Syntax. University of Chicago Press. Mosse, Fernand ( 郡司利男 , 岡田尚訳 ) (1947)『英語史概説』開文社 中島文雄 (1951)『英語発達史』岩波全書

中尾俊夫 (1989)『英語の歴史』講談社現代新書

中尾俊夫・児馬修 (1990)『歴史的にさぐる現代の英文法』大修館 Sweet, Henry (1882) Sweet's Anglo-Saxon Primer. 千城

外池滋生 (1976) 「自然音韻論とはなにか」『言語』Vol. 5, No. 9, pp. 75-81.

A Functional Analysis of Postposing of Prepositions in Old English

Takeshi ITOH

参照

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