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懲罰的損害賠償の現代的展開

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Academic year: 2021

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懲罰的損害賠償の現代的展開 151 成する可能性が一定程度存在していると考える。 ︻参考文献︼   ﹁人体の処分の法的枠組み︵一︶∼︵八・完︶ ﹂法学協会 雑誌一三一巻四号七二五頁、五号九九二頁、六号一一八一頁、八号 一五四七頁、九号一七八三頁、一〇号一九九二頁、一一号二一七五 頁、一二号二五一四頁︵以上、二〇一四年︶ ※   本研究は、科研費︵二六七八〇〇四七︶の助成を受けたものであ る。 ︵北海道大学准教授︶

懲罰的損害賠償の現代的展開

一   は じ め に   ⑴   伝統的通説・判例によれば、不法行為に基づく損害賠償 制度の目的は、不法行為によって被害者に生じた損害を塡補す ることにあるため、加害者制裁や一般予防は刑事法や行政法の 役割として考えられてきた 。しかし 、特に公害が社会問題と なった時期に、損害賠償の制裁・抑止機能を正面から再評価す る学説が主張された。   この時期の学説は通説を揺るがすには至らなかったが、その 後の議論に影響を与えた。例えば、近時の学説の中には、フラ ンス法の議論を受けて、慰謝料という枠組みを超えたレベルで 制裁・抑止機能を検討する見解が主張されている。また、現実 の訴訟においては、違法な利益を吐き出させるために制裁的慰 謝料を請求することで、不法行為の抑止を求めるケースも見ら れる。さらに、立法論としても、例えば知的財産法関係におい て損害賠償の強化のために一種の懲罰的損害賠償︵以下、懲罰 賠償とする︶である三倍賠償が検討項目のひとつとして挙げら れた。   このように様々なところで損害賠償の制裁・抑止機能を検討 する動きが見られるが、当事者間の対等性や互換性を前提にし ていない、特に利益獲得を目的とする不法行為との関係で、不 法行為制度が実質的かつ実効的に公平な解決をもたらす制度と して存立するためには、損害賠償における制裁・抑止機能を何 らかの形で積極的に認めていくことが必要であるように思える。   ⑵   こうした議論において基本的には民刑峻別に関する理論 面を中心にして議論されてきた。しかし、この議論における重 要な問題はそれだけでなく、さらにその先にある難解な現実的 問題、すなわち実損害を超える制裁・抑止としての損害賠償金 をどのように判断していくのか、その賠償金を誰に帰属させる のか、さらに多数の原告がいる場合に全体としてその賠償金を どのように調整するのか、といった問題も予め視野に入れてお

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研 究 報 告 く必要がある。   この現実的問題に関して、例えば、制裁的慰謝料を主張した 三島宗彦教授はその判断要素などについて言及している。また ﹁私人による法の実現﹂という観点からアメリカの懲罰賠償に 着目した田中英夫 = 竹内昭夫教授もその賠償額の算定困難と いう問題に対して法定賠償化による対応を示すなど一応の言及 をしている。しかし、現代の不法行為が被害の大規模性など複 雑な特徴を備えていることからすると、それだけでは不十分で ある。そこで、その現実的問題に関する検討をしていくための 前提として、まずはその参考となる一例を見ておく必要があり、 この点に関してアメリカ法が参考になる。   ⑶   アメリカでは実際に制裁・抑止としての懲罰賠償を認め てきたが、比較的最近までその現実的問題を検討してこなかっ た。そのため、懲罰賠償は広く利益を獲得するために為される 不法行為︵以下、利益獲得型不法行為とする︶との関係を中心 にして独特の展開をしてきたものの、二十世紀後半には特に大 規模被害を起こす利益獲得型不法行為との関係でその現実的問 題が重大な問題として顕在化した。その結果、様々な改革を通 じて懲罰賠償を現代的な形へと展開させていくことになった。   このようなアメリカ法の動きを見ることによって、懲罰賠償 は現実的問題を抱えつつも、利益獲得型不法行為に対する必須 の抑止的制度として揺るぎなく確立し、また現実的問題に直面 する中でより洗練された形で懲罰賠償を運用していくために 様々な方法を通じて現代的な形へと展開してきている、という 一例を示すことができる。そしてこれを通じて将来的には新た な議論へとつなげていくことができるだろう。なお、本報告は 日本における懲罰賠償の導入について具体的な検討をするもの ではなく、そのような検討をしていくための前提的な作業の一 つとして位置付けられるものである。 二   アメリカ法   懲罰的損害賠償の形成過程 ︱︱ 十八世紀後半から二十世紀中頃まで   ⑴   アメリカでは、主に独立戦争後にイギリスの懲罰賠償の 継受が始まり、十九世紀中頃には懲罰賠償は確立した法理とし て認められるに至った。この時期の懲罰賠償は、無形損害の塡 補と加害者への制裁という二つの原理に基づいて正当化されて いた。   しかしながら、十九世紀中頃から法の形式主義化が求められ る中で懲罰賠償は当然にその論争対象となり、これを契機に各 州裁判所において懲罰賠償原理の再編が始まった。この論争中 に新たに合衆国に加盟した州の裁判所では問題となっている懲 罰賠償をコモン・ローとして認めることを否定したが、多くの 州の裁判所ではそれを何らかの形で存続させた。懲罰賠償を加 重的塡補や訴訟費用・弁護士費用の塡補として解釈することで 存続させた州裁判所も少数あった。しかし、大多数の州裁判所 では法の形式性を貫徹するよりも、むしろ懲罰賠償の有用性を 評価すべきとの考えから、懲罰賠償を制裁・抑止へと純化させ、

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懲罰的損害賠償の現代的展開 153 存続させた。   南北戦争後にアメリカは鉄道事業などの発達を中心にして世 界一の工業国家へと急成長していったが、その反面、安全管理 を怠ったことによる列車脱線事故や鉄道従業員による乗客への 侮辱・暴行・権力濫用事件など、鉄道会社関係の不法行為事件 が多発していた。こうした状況の中、使用者責任を通じて使用 者である会社に対して懲罰賠償を課すことで、自社の管理体制 を改善・強化するように強制していった。このような形で不法 行為への抑止力をさらに高めようとした点に懲罰賠償の新たな 意義があったと言える。   ⑵   二十世紀初頭には、自由放任主義を基盤とする社会経済 構造が強く批判される中、形式主義法学に対する批判も強まっ た。この影響を受けて懲罰賠償への批判も沈静化していったが、 それと同時に懲罰賠償は利益獲得型不法行為を中心にして発展 し て い っ た 。 例 え ば 、 事 件 ︵ 222 Pa. 18 ︵ 1908 ︶.︶は 、鉄道路線建設において被告にとって費用のかか る安全な方法を採るよりも、費用のかからない危険な方法を採 用した上で、損害が生じた場合に損害賠償を支払っていく方が 経済的合理性を有していたというものであるが、不法行為の抑 止を重視する点から懲罰賠償が認められた。その他、詐欺や不 実表示の事例において、契約法として懲罰賠償を認める裁判所 も見られるようになった。この時期には塡補賠償責任の限界が 意識されるようになったが、その限界を補いかつ不法行為を抑 止していくために、懲罰賠償を広く利用していくことが定着し ていった。   懲罰的損害賠償の改革過程 ︱︱ 二十世紀後半以降   ⑴   不法行為制度改革の背景   しかしながら、一九六〇年代に、製造物責任訴訟のような大 規模被害を起こす不法行為 ︵ mass tort ︶訴訟の中で懲罰賠償 を認めたことにより、それが抱える問題が顕在化した。その問 題について初めて裁判所によって表明されたのは 、 MER/29 という医薬品の副作用で白内障になった被害者が提訴した 事件︵ 378 F. 2d 832 ︵ 1967 ︶.︶におい てであった 。その中で 、一つの行為過程 ︵ a single course of conduct ︶に対して反復的に懲罰賠償を課すことにより合理的 に必要と考えられる制裁・刑法上の制裁のレベルを超える可能 性があるという問題、懲罰賠償の総額を効果的に制御する仕組 みがないという問題、陪審の意思決定に対する有意義な指針に 関する仕組みもないという問題が指摘された 。また同じく MER/29 による別の被害者が提訴した 事件︵ 251 Cal. App. 2d 689 ︵ 1967 ︶.︶では、懲 罰賠償が罰の機能を果たしているため、それを課される被告に も刑事上の被告人に与えられる憲法上の権利を認めるべきなの かどうかが問題となった。   その一方、懲罰賠償の有用性は依然として評価されていた。 このことを示すものとして 事件 ︵ 174 Cal. Rptr. 348 ︵ 1981 ︶.︶が挙げられる。本件は、 Y 社 製 造の車 A に乗っていった X らが後続車に追突された時に、 A 車

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研 究 報 告 の後部に付けられていたガソリンタンクが炎上し、これにより X らが死傷したため、 Y に損害賠償を求めたというものである。 本件では Y は追突により大惨事が起きることを知っていたこと、 及び既に市場に出された車を回収して安全対策をするよりも被 害者が現れた際に損害賠償を支払った方が安くつき 、会社に とって有利であるということが明らかにされた。また、 Y 社 の 組織的精神は ﹁ 公衆の安全性﹂に対して冷淡な無関心さ ︵ cal-lous indiff erence ︶を示すものであるとの認定の下で 、懲罰賠 償を課すことが認められた。本件陪審は懲罰賠償額の算定にお いて一台あたりの安全対策費用に A 車の総数をかけて一億二五 〇〇万ドルの懲罰賠償額を答申したが、最終的には事実審裁判 官によって三五〇万ドルに減額された。本件では懲罰賠償額の 算定方法が明確に示されている。本来、懲罰賠償額は単純な損 害額の掛け算方式で決まるわけではないが、それも踏まえて総 合的に考えると、本件のような社会全体に影響を及ぼす利益獲 得型不法行為に対する懲罰賠償は、社会全体を考慮した上での 利益吐き出し賠償として位置付けているとも言える。なお、こ の他にも同様の見解を述べたケースは多くある。   このような状況の中、産業界を中心に、特に製造物責任訴訟 における﹁訴訟件数の増加﹂と﹁賠償額の高額化﹂によって競 争力が衰退したため、懲罰賠償を含めた不法行為制度全体を改 革して競争力を取り戻すべきとの主張がされた。そして当時の 共和党政権がこれを受けて、本格的に全米レベルでの改革へと 押し進めていった。そこで、次にその問題を受けて、州議会及 び連邦最高裁がどのように懲罰賠償を改革していったのか、そ の内容を見る。   ⑵   各州議会の立法による改革   まず主要な州立法改革の一つ目として、裁判官による懲罰的 損害賠償額の算定が挙げられる。一般的に、損害賠償の金銭的 判断は事実問題であるため、陪審に委ねられている。しかし、 素人である陪審は金額算定において感情に流されやすいことか ら懲罰賠償額を高額化させているとの批判がされてきた。そこ で少数の州において、有罪・無罪の判断を陪審に委ね、量刑の 判断を裁判官に任せるという刑事訴訟における手続構造を参考 にして、懲罰賠償を課すかどうかの判断は陪審に委ねるものの、 その金額の判断については裁判官によるとする法律が制定され た。   二つ目が分離審理方式の導入である。被告の財産状況に関す る証拠や被告によってなされた悪質行為に関する証拠など懲罰 賠償を判断するために提出される証拠は、一般的に塡補賠償を 判断する段階においては陪審を混乱させ、陪審に偏見を抱かせ る原因となる。その結果、塡補賠償の精神的賠償を高額化させ るおそれがあり、その塡補賠償額が懲罰賠償額の判断にも影響 することから、それらの手続を分離することが求められた。な お、多くの州では分離審理方式に併せて、次に見る証明基準も 手続ごとに使い分けることで、陪審の混乱をさらに避けようと している。   三つ目が証明基準の高度化である。そもそも民事訴訟では原

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懲罰的損害賠償の現代的展開 155 告も被告も対等の関係にあるため 、その証明基準は 、通常 、 ﹁証拠の優越﹂で足りるとされている 。しかし 、懲罰賠償を請 求する場合においては、その性質上、刑事制裁に類似した過酷 さがあることから、その基準では不十分であると考えられた。 その結果、多くの州では民事法と刑事法の証明基準の中間レベ ルにある﹁明白かつ確信を抱くに足る証明﹂基準が採用された。 なお、この改革法は一連の改革法の中で大多数の州で採用され ている。   四つ目が懲罰賠償額への上限設定である。そもそも懲罰賠償 は金銭的判断基準が曖昧であり、またその上限もないため、莫 大な金額が出されるとの批判を受けて、上限立法が制定された。 もっとも、この改革法は金額に直接結びついた改革であるため、 例えば消費者と大企業との政治的対立などによる影響を受けや すく、その影響によって立法の成立や存続が左右されるという 不安定さがある。   五つ目が懲罰賠償金の基金への分配である。懲罰賠償は原告 に不法行為の抑止を追求するインセンティブを高める反面、そ れによる棚ぼたを得ることができるとの期待を生じさせるため、 結果的には﹁濫訴﹂を招いているとの批判がされてきた。そこ で懲罰賠償金の一部を州の一般財源や特別基金に分配する改革 法が制定された。なお、この改革法は﹁過大な罰金条項﹂及び ﹁公用収用条項﹂といった憲法上の問題が活発に議論された。   各州における懲罰賠償の立法改革の全体的状況を見ると、そ の改革に対する積極性は州ごとに差があり、十分に進んだとま では言えない。しかし、アメリカのほとんどの州においては、 何らかの改革法を採用することで、その法整備に着手している と評価することはできる。   ⑶   連邦最高裁の判例法による改革   その一方、連邦最高裁においても一九九〇年代から合衆国憲 法を通じて州法上の懲罰賠償を規制していく動きが見られた。 当初は第八修正条項の﹁過大な罰金﹂が私人間の民事訴訟にお ける懲罰賠償に適用されるかどうかが問題とされたが、後には 第十四修正条項の﹁デュー・プロセス﹂を通じて懲罰賠償の認 定過程やその金額の適正さに争点が移行していった。その理由 は、デュー・プロセス条項が﹁一般条項﹂であるため、時代の 要請に応じて伝統的法理を制限することができるという利点、 また過大な罰金条項が文言上﹁過大な﹂金額のみを制限するの に対して、デュー・プロセス条項は懲罰賠償金の認定・算定と いう根本的問題を扱うため柔軟に対応できるという利点があっ たからである。   こうした事情のもと、実体的デュー・プロセスの観点から懲 罰賠償額の過大性を初めて審査したのが一九九六年の 判決︵ 517 U. S. 559 ︵ 1996 ︶.︶である。本件は、製造・輸 送過程で損害を受けた車の修理費用が小売価格の三 % 以下であ る場合にはそれを新車として売るという Y の方針のもと、実際 にそうした車を新車として購入した X が後に再塗装された車で あったことを知ったため、重大な事実の隠蔽にあたるとして Y に懲罰賠償を請求したというものである。本件連邦最高裁は懲

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研 究 報 告 罰賠償額の過大性を審査していく前提として、まず連邦が州法 上の問題に介入していくための理由に加えて、 Y には制裁の対 象行為とその厳しさに関して ﹁フェア ・ノーティス ︵ fair no-tice ︶﹂を受ける権利があることについて言及した 。その上で 州によって課される懲罰賠償の厳しさについて本件 Y が十分な ノーティスを受けていたかどうかは、①被告の行為に関する非 難可能性の程度、②塡補賠償額と懲罰賠償額の比率関係、③比 較可能な違法行為に対する民事又は刑事制裁との比較という三 つの指針から判断するとし、その結果、二〇〇万ドルの懲罰賠 償額が憲法上許される範囲を超えるものと判断した。   この Gore 基準をさらに詳細にしたのが二〇〇三年の 判決︵ 538 U. S. 408 ︵ 2003 ︶.︶である。本件 は、交通事故で他人を死傷させた X が保険会社 Y に保険金の支 払いを求めたものの、 Y は十分に保険金を支払うことを拒絶し たため、 X は Y に対して不誠実や詐欺などを理由として懲罰賠 償を請求したというものである。本判決では、まず第一指針の 被告の非難可能性を判断するための具体的判断基準を明示した。 これに加えて、被告の他州での合法行為が故意や有責性を示す 場合、その行為が原告の被った特定の損害に関係するならばこ こでの証拠としうるとして、それに一定の制限を加えた。第二 指針の塡補賠償額と懲罰賠償額との比率に関しても、その比率 が一桁を超える場合にはデュー・プロセスをほとんど満たさな いだろうが、特に甚だしい行為によって少額の財産損害が惹き 起こされた場合には一桁以上の比率が許されるということ、ま た塡補賠償額が十分な場合には塡補賠償より低い金額、おそら く塡補賠償と同じ金額が上限となるということを明らかにした。   そして二〇〇七年の 判決︵ 549 U. S. 346 ︵ 2007 ︶.︶は 、喫煙によって死亡した A の夫人 X が タバ コ製造会社 Y 対して過失及び欺瞞を理由に損害賠償請求をした というものである。本判決では、被告を罰するために第三者に 惹き起こした損害をもとにして懲罰賠償を課すことは認められ ないと判断した。もっとも、被告が第三者に惹き起こした損害 を非難可能性の証明という側面から考慮することは許されると している。しかしながら、その一方で、その非難可能性を考慮 することで懲罰賠償金が増額するのであれば、結局は第三者損 害をもとに被告を罰することになるとの反対意見が出されてい る。   なお、連邦海事コモン・ロー事件ではあるが、大型石油タン カーの座礁により原油を流出させ、甚大な環境被害を及ぼした という二〇〇八年の 判決 ︵ 554 U. S. 471 ︵ 2008 ︶.︶において 、連邦最高裁は 、懲罰賠償を規制する 手段として﹁言葉によるアプローチ﹂には限界があるため﹁数 式の制限アプローチ﹂が主軸となると述べた上で、塡補賠償額 と懲罰賠償額の比率を一対一とした。   以上の事件類型には違いはあるが、連邦最高裁判決の全体的 傾向を見ると、懲罰賠償の判断指針を明確化していく中で、懲 罰賠償額の判断において社会的利益を広く考慮するとしていた ものを、当該原告との関係に焦点を当てて考慮していく方向へ

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懲罰的損害賠償の現代的展開 157 と移行しているように思える。 三   お わ り に   本報告のまとめとして、アメリカにおける懲罰賠償の現代的 展開について次のようにまとめることができる。第一に、従来、 懲罰賠償は﹁私人個人への不法行為﹂を念頭におき、当事者間 における利益のバランスを調整してきた。しかし、大規模被害 を惹き起こす利益獲得型不法行為の場合、懲罰賠償を判断する 際に広く被告の違法行為の社会的有害性を考慮したことで社会 全体の利益を調整していく措置へと変化させていった。これに より、懲罰賠償の社会的意義が拡大していった。第二に、従来、 懲罰賠償額の問題は、陪審に委ねられた事実問題として考えら れていたが、懲罰賠償の社会的意義の拡大に伴って被告の権利 を保障するための法的問題として議論されるようになった。第 三に、本来、不法行為事件は州法上の問題として位置付けられ ていた。しかし、被告の権利を保障するために、合衆国憲法の デュー・プロセスが適用されるようになったことで、連邦最高 裁が州レベルの懲罰賠償の問題に介入し、最終的にその判断方 針を決定するようになった。   このようなアメリカ法の動向を見るならば、様々な点で現実 的問題への対応を求められながらも、懲罰賠償が利益獲得型不 法行為に対する必須の抑止的制度として揺るぎなく確立し、そ してより洗練された形で運用されるように展開してきている、 ということを示しているものと言える。   日本においても、利益獲得型不法行為に対して実効的かつ公 平に対応していくことは、不法行為制度さらには法制度全体に とっての一つの課題である。本報告の﹁はじめに﹂で述べたよ うに、現実の社会において不法行為制度が実質的かつ実効的に 公平な解決をもたらす制度として存立するためには、少なくと も利益獲得型不法行為との関係で懲罰賠償の導入を検討するこ とも必要であるように思える。もっとも、本報告には、多数の 原告が関係する場合における懲罰賠償の調整など残された検討 課題が多くあるため、今後、さらに慎重に検討していく必要が ある。 ︻参考文献︼   拙稿﹁十九世紀アメリカ合衆国における懲罰的損害賠償 の形成過程 ︱︱ 近代損害賠償法における ﹃懲罰的﹄要素の意義 ︱︱ ﹂龍谷法学四〇巻三号一〇八頁 ︵二〇〇七年︶ 、同 ﹁二十世紀 アメリカ合衆国における懲罰的損害賠償の改革過程 ︱︱ 現代損害賠 償法における﹃懲罰的﹄要素の意義と課題 ︱︱ ﹂龍谷法学四二巻二 号五六頁 ︵二〇〇九年︶ 、同 ﹁日本不法行為法における民事制裁論 の歴史と展望 ︱︱ 損害賠償法における ﹃制裁﹄の実体に着目して ︱︱ ﹂龍谷法学四三巻二号一九八頁 ︵二〇一〇年︶ 、同 ﹁近年の日 本における懲罰的賠償論﹂比較法研究七二号一二九頁 ︵二〇一一 年︶ 。 ︵弘前大学准教授︶

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