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次世代グローバルリーダー育成プロジェクトにおけるアカデミック・コーチング実践の可能性と課題 アカデミック・コーチング研究の深化と挑戦

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67 [ 論考 ]

次世代グローバルリーダー育成プロジェクトにおける

アカデミック・コーチング実践の可能性と課題

-アカデミック・コーチング研究の深化と挑戦-

Academic Coaching to Enhance the Next Generation Global Leaders Project – huge potential and some challenges –

菅原 秀幸(北海学園大学経営学部教授) SUGAWARA Hideyuki, professor of Hokkai-Gakuen University [email protected] アカデミック・コーチングは、それ自体が目的ではなく、22 世紀教育のインフラストラクチャー(下支え する下部基盤)である。アカデミック・コーチング学会は、コーチングのプラットホームとしての役割を果 たすことが期待されている。特に22 世紀脳思考をもった次世代グローバルリーダーの育成こそが、22 世紀 日本繁栄の切り札となる。 そこで20 世紀脳から 22 世紀脳へのパラダイムシフトを加速させるために、体系化・標準化・一般化した アカデミック・コーチングへの関心と期待がますます高まっている。 ハード・パワーが凋落する21 世紀にあって、22 世紀繁栄の日本へ向かうシナリオは、ソフト・パワーの 強化以外にないだろう 。つまり世界に貢献し尊敬される次世代グローバルリーダーの輩出に活路を見出す ことが出来る。アカデミック・コーチングは、そこに大きく貢献しうる可能性を秘めている。 キーワード:アカデミック・コーチング、次世代グローバルリーダー、パラダイムシフト、22 世紀脳、高潔 Academic coaching is the infrastructure for the basement of the 22nd century education. The Academic Coaching Association would be a platform to enhance the potential of coaching. The next generation global leaders with the 22nd brain thinking will be key players in Japan’s prosperity in the 22nd century. To accelerate a paradigm shift from the 20th century brain to the 22nd century brain, academic coaching would be one of key factors.

Prosperity of Japan in the 22nd century will be brought by strengthening a soft power outside Japan, while Japan’s hard power is decreasing in the 21st century. The next generation global leaders who get respect around the world will contribute to the Japan’s prosperity in the 22nd century. Academic coaching has a huge potential to succeed in the global leader training program.

Keywords : academic coaching, next generation global leaders, paradigm shift, the 22nd century brain, nobility

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68 はじめに 日本におけるアカデミック・コーチング研究のこれまでの歩みを、フレームワーク「3 つの目」(伊藤元重: 2014)に依拠して概観し、現在の方向性を明らかにすることが本稿の第 1 の目的である。続いて第 2 の目的 として、アカデミック・コーチングを22 世紀教育のインフラストラクチャーとして活用し、次世代グロー バルリーダー育成に、どのように役立てることができるかについて論じる。最後に、「他己実現」を目的とす る理論化・体系化・実証化されたアカデミック・コーチングが、次世代グローバルリーダー育成に活用され ることで、22 世紀、日本の繁栄につながるという仮説について検討することが、第 3 の目的である。 図1 フレームワーク「3 つの目」 高橋雄次(北海学園大学経営学部菅原秀幸研究室卒業生)作 1.「虫の目」「魚の目」からのアプローチ 2013 年 5 月 11 日に「第 1 回アカデミック・コーチング研究会設立準備会合」が、株式会社コーチングバ ンク銀座オフィスにて開催されてから、はや5 年1。この間、同研究会は「アカデミック・コーチング学会 (会長:本間正人京都造形芸術大学副学長)」へと発展し、本年2018 年 9 月 24 日には、第 3 回年次大会を 北海学園大学で開催するまでに至っている。 国際経営学者である菅原は2005 年頃、米国のグローバル企業の調査分析を行っていた際、たまたま多く のCEO(Chief Executive office=最高経営責任者)にコーチがついていることを知った。このことがきっか けとなって、コーチングが経営者にとって役立つならば、教育でも役立つに違いないと関心を寄せるように なった。これがアカデミック・コーチング研究の端緒となった。とはいえ、菅原の専門分野とかけ離れてい たので、本格的な研究に着手することはなかった。

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69 そのような中でも、データベースによる既存研究の検索は容易にできるので、研究の第一歩を踏み出し、 それまでの研究水準の把握を試みた。日本国内の研究状況を把握するために、国立情報学研究所が運営する 学術論文データベースCiNii で検索してみたところ、2005 年当時はコーチングに関する研究論文は 1 本も なかった2。さらに、英語の研究論文を検索するために、学術雑誌論文を中心とした統合データベースである EBSCOhost と、電子ジャーナルを中心とした全文データベース ProQuest で検索を試みたものの、ヒット したのは学術論文というよりは、雑誌記事の域をでないものばかりであった。 さらにコーチング関連書籍のサーベイを継続し、2009 年には、その時点でのコーチング関連の主たる書籍 (英書、和書)を、北海学園大学図書館にほぼ揃え、主だった著書にはすべて目を通した。その結果、コー チングに関するスキルを中心に論じているものがほとんどで、コーチングの学術研究書は皆無であることが 分かった。理論的な研究成果や実証的な研究成果を探し出すことは出来なかった。 ここからは、これまでのアカデミック・コーチング研究の推移について、フレームワーク「3 つの目」に 依拠して、それぞれの視点から検討していこう(図1 参照)。これまでの研究で、コーチングに対して「虫の 目」と「魚の目」からのアプローチが行われ、一定の成果をあげてきていることがわかる。2011 年 4 月 25 日には一般社団法人日本支援対話学会が発足。学会誌「支援対話研究」創刊号が2012 年 5 月 28 日に発刊さ れ、現在、コーチング研究に関する論文の主たる投稿先となっている。 ではまず「虫の目」からアカデミック・コーチング研究を概観しておこう。「虫の目」とは、ミクロの視点 に焦点を合わせたアプローチである。アカデミック・コーチング研究の黎明期では、もっぱら「虫の目」か らの議論が中心であった。コーチング研究の第一歩として、コーチングのスキルとマインドセットの学術的 な分析が行われた。数あるコーチング流派の横断的な分析から、標準化・理論化・体系化を進め、アカデミ ック・コーチング論確立への端緒が切り拓かれた(菅原秀幸:2013a, 2013b, 2013c, 2015)3。コーチングに関 して基礎研究が、そもそも行われておらず、玉石混交のコーチング界の全体像の把握に5 年以上の時間を費 やした。このような状況であったのでアカデミック・コーチングとは何かの議論から始めねばならなかった。 こうしてスタートしたコーチング研究であったが、2013 年からはコーチング実践者であるプロコーチと 研究者が手を組んで、コーチングの成果について実証的なアプローチが試みられ始めた。その最初の一歩と して、菅原とプロコーチの原口佳典が産学連携プロジェクトとして、「グローバル時代に活きるコーチング 力」ワークショップを開始。西垣悦代関西医科大学心理学教授の研究協力も得て、2014 年 10 月 9 日から 11 月27 日にかけて全 8 回にわたって実施された(原口佳典:2016)。この共同研究プロジェクトが、アカデミ ック・コーチング研究の先駆けとなった。 次に「魚の目」からアカデミック・コーチング研究をみると、どのような成果が挙げられてきたのであろ うか。時代の流れ、トレンドに着目するのが「魚の目」からのアプローチ。菅原は、学産連携パートナーシ ップ 4のもと、2 人のプロコーチと共同研究に着手5。コーチング界の最先端の潮流はどこに向かっているの かの探求を開始した。 具体的には、石川尚子コーチと、オランダのコーチングを柱とする研究(菅原 秀幸・石川 尚子:2015)、 宮越大樹コーチとは、アドラー心理学をベースとする研究を、それぞれ進めてきている。分析対象は、小学 校(ISK 札幌インターナショナルスクール)、高校(手稲高校女子バスケットボール部)、大学(北海学園大 学)と3 層におよび、それぞれにおいて実証分析に着手した。札幌学院大学人文学部臨床心理学科の森直久 教授の参加を得て、石川尚子コーチ、宮越大樹コーチとの連携で、アカデミック・コーチングの主たる対象 となる①大学、②高校、③小学校での実証的効果測定の体制が整いつつある(図2 参照)。

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70 対象 実施内容 研究者 大学生(1) 北海学園大学で 3 人の学生を対象に、1 カ月に 1 回、3 か月にわたって 1 対 1 のコーチングセッション (90 分)を実施。セッションを動画と音声で記録。一つの動作、一つの言葉について詳細に検討。そ の分析から、どのようなメカニズムで変化が表れているのかについて分析。現在、論文執筆中。 宮越大樹 森 直久 菅原秀幸 大学生(2) 北海学園大学で 50 人の学生を対象に、1 カ月に 1 回の講義(90 分)で、コーチング教える。3 か月に わたって 3 回実施。開始時と終了時で、自己肯定感・自己効力感に、どのような変化が現れるかについ て調査。現在、実施中。 宮越大樹 森 直久 菅原秀幸 大学生(3) 北海学園大学で 7 人の学生を対象に、一回(120 分)のワークショップを 10 回にわたって実施。開始 時、中間時、終了時の変化を質問紙で計測。現在、実施中。 石川尚子 森 直久 菅原秀幸 高校生 手稲高校女子バスケットボール部生 14 人を対象に実施。1 グループと 2 グループに分け、一方のグル ープにはコーチングを教え、もう一方のグループにはコーチングを教えているように装いつつ、実際は コーチングを教えない。この 2 つのグループの変化を定量的に測定し、両グループのパフォーマンスの 違いを明らかにする。現在、実施前の最終準備段階。 宮越大樹 森 直久 菅原秀幸 小学生 ISK 札幌インターナショナルスクールで、教員を対象にコーチング・ワークショップを 1 カ月に 1 回 (120 分)を実施。その後、各教員がクラスでコーチング主体型授業を展開、児童のパフォーマンスの 変化を計測。現在、実施前の準備段階。 宮越大樹 森 直久 菅原秀幸 図2 2018 年アカデミック・コーチングの実証的効果測定プロジェクト 2.「鳥の目」からのアプローチ このように「虫の目」、「魚の目」からのアプローチが軌道に乗りつつあり、一定の成果が期待される状況 になった。こうして今後の研究の主眼は、「鳥の目」からのアプローチへと移りつつある。鳥の目とは、全体 を俯瞰するアプローチのことをさす6。つまり時代の流れの中で、アカデミック・コーチングは、どのように 位置づけられるのであろうか、が問われる。2020 年の大学入試改革を念頭におき、これまでのティーチング 一辺倒の教育が問い直される中にあって、アカデミック・コーチングのはたしうる役割は何なのであろうか。 本稿では我々の生きる21 世紀は、20 世紀教育の中核であるティーチングから、22 世紀教育の主柱コーチン グへ向かって、パラダイムシフトの時にあるという仮説のもとに論を進めていく。 アカデミック・コーチングは、それ自体が目的ではなく、22 世紀教育のインフラストラクチャー(下支え する下部基盤)であり、OS であると考えられる。つまりアカデミック・コーチングは、それぞれの目指すゴ ールに向かって、やる気・能力・可能性を引き出す手段だ。教育を表すeducate の語源は、ラテン語の「外 に引き出す」にあり、本来の教育はコーチングなのだ。アカデミック・コーチングをインフラストラクチャ ーとして、その上に、それぞれが本来、目的とするゴールを掲げ、その達成が目指される。可能性を秘めて いるアカデミック・コーチングではあるものの、教育の現場に実際にどのように導入して活用していくかに ついては、チャレンジが始まったばかりといえる。 別な表現をすると、アカデミック・コーチングを教育OS として活用し、その上に、各自のゴールを達成 するためのアプリを走らせる段階に来ており、このアプリ開発が課題となっている。菅原にとっては、22 世 紀教育インフラとしてのアカデミック・コーチングを活用して、次世代グローバルリーダー育成で成果をあ げることが目的である。比喩的に言うならば、次世代グローバルリーダー育成アプリを、どのようにしてア カデミック・コーチングOS の上で開発していくかが課題となっている。 このような背景のもとで、2015 年に発足したアカデミック・コーチング学会のはたす役割を考えてみよ う。重要なミッションの一つは、玉石混交の日本のコーチング界を、学術的な研究成果を基盤に、一定水準 以上に引き上げ、コーチングを平準化、標準化、体系化し、教育の現場で活用しうる知見を提供しようとす

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71 るものである。いわば、アカデミック・コーチング学会は、コーチングのプラットホームとしての役割を果 たすことが期待されている。このようなコーチングをとりまく環境整備がすすむにつれて、近い将来の学習 指導要領改訂では、「アクティブ・ラーニング」、「主体的で対話的で深い学び」から、「アカデミック・コー チング」へとキーワードがシフトしていくと予想される。そうなると、現在のスクールカウンセラーに加え てスクールコーチが活躍するようになり、マイナスの状態からゼロに引き上げるカウンセリングと、ゼロか らプラスの状況へと後押しするコーチングが同時に学校教育の現場で実践され、自己評価の低い日本の若者 たち(図3 参照)の現状改善に大きく寄与することが期待される。 3.次世代グローバルリーダー教育の背景 ここで次世代グローバルリーダー教育が求められる背景を考えてみよう。未来の予測はほぼ不可能な中で、 人口動態の推移はもっとも依って立つ論拠となりうる。これによると日本は、歴史上たった1 回しかない大 変化に直面していることが明らかとなる。これまでの100 年で急増した人口が 2010 年をピークに、今後 100 年で急減するという大転換期にあるのだ(図4 参照)。 図4 日本の人口推移(筆者作成) 自己評価(「そうだ」「まあそうだ」と回答した者の割合) 図3 高校生の自己評価に関する国際比較 国立青少年教育振興機構「高校生の心と体の健康に関する意識調査」2018 年 3 月 30 日より筆者作成 http://www.niye.go.jp/kanri/upload/editor/126/File/report.pdf

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72 これを、総務省の統計で、さらに詳細にみていくと、70 年後、日本の人口は 50%に減少し、多くの都市 が消滅、経済規模は半分に縮小すると予想される(図5 参照)。 図5 日本の人口推移の予測 総務省統計局 日本の統計 第2 章 人口・世帯 2- 1 人口の推移と将来人口(エクセル:42KB) http://www.stat.go.jp/data/nihon/02.html より筆者作成 このように縮むパイ(=縮小する日本経済)の中で、全員がどう取り分を増やすか。新たな挑戦に迫られ ている。20 世紀型ビジネスは、拡大するパイ(=右肩上がり経済)の中での競争。これからの縮小するパイ (=右肩下がり経済)では勝手が異なる。いまも日本で繰り広げられているビジネスの多くは、20 世紀型ビ ジネス。縮小するパイのなかで、取り合いをしているに過ぎず、どうやっても全員のパイ(=取り分)は縮 む。「地方創生」が流行っていても、やはり縮むパイの取り合で、20 世紀型ビジネスにとどまっている。や がては一時の流行で終わるのではないだろうか。 このような課題を克服するための答えは単純明快。パイ全体を大きくして、みんなで大きくなったパイを 仲良く分け合うということ。そこにあるのは、競争ではなく、「共創」。人口増加(=パイ拡大)の続く世界 をフィル―ドとして、そこに営利・非営利双方の領域で新しい価値を創造することだ。そのために、22 世紀 脳思考をもった次世代グローバルリーダーの育成こそが、日本繁栄の切り札となるだろう。「世界に出る」の が22 世紀日本繁栄への道だ。 4.20 世紀脳から 22 世紀脳へのパラダイムシフトの時 日本の歴史を人口動態の推移からみると、シンプルに3 つのステージとして特徴づけられる(図 6 参照)。 1 万 5000 年にわたって続いた人口の定常状態がステージ 1。その後、人口が急増した 100 年間のステージ 2。さらに今後、急減する 100 年間のステージ 3 だ。こうしてみると、いまわれわれの過ごしている 21 世紀 は、20 世紀から 22 世紀へと向かって大きな転換期にあることが分かる。20 世紀脳から 22 世紀脳へのパラ ダイムシフトの真っ最中なのだ。

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73 図6 日本の人口動態推移からみる 3 ステージ(筆者作成) このパラダイムシフトとは、「その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体 の価値観などが、革命的にもしくは劇的に変化することをいう」7。もっともよく知られた例としては、それ まで優勢であった天動説が、コペルニクスが唱えた地動説へとパラダイムシフトをした歴史がある。 人口が急増する100 年間と、急減する 100 年間では、まったく思考方法が異なってくるのは当然であろ う。たとえて言うと、急坂を登るときの筋肉の使い方と、下るときの筋肉の使い方が全く異なるようにだ。 簡潔にいうと、ステージ2 での 20 世紀脳思考とはまったく異なる、これからのステージ 3 での 22 世紀脳思 考が求められるのだ。 このような非連続の転換期にあって、現在を起点として過去の延長線上で、未来を考える「フォワード・ キャスティング(forward casting)」の手法は役立たない。未来のある時点に目標を設定して、そこから現在 を振り返る方法、つまり、「バックキャスティング(back casting)」が有効なのだ(図 7 参照)。 図7 フォアキャスティング(20 世紀脳思考)とバックキャスティング(22 世紀脳思考)(筆者作成)

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74 22 世紀脳思考とは、22 世紀に生きる人々は、現在とは異なる思考の仕方をしているであろうと推測し、 一体どのように脳を回転させているのかを考えることに他ならない。「鳥の目」の俯瞰力、中でも深さを俯瞰 すると時代の深層では、「マネーエコノミー(money economy)」から、「ミッションエコノミー(mission economy)」へのシフトが進んでいることが分かる。その証左として、経済的価値よりも非経済的価値を重視 するプロボノ活動の世界的広がりが着目される。またクラウドファンディングの隆盛も顕著である。2012 年 に米TIME 紙は、全世界でも最高のクラウドファンディング・プラットフォームを説明し評価する記事を掲 載している8。2012 年、クラウドファンディングの市場規模は前年比 2 倍の 28 億ドルと見積もられている 9。このようなトレンドにあって、非経済的リターンを経済的リターン以上に重視する人々の増大がうかがい 知れる(図8 参照)。 ここで20 世紀脳から 22 世紀脳へのパラダイムシフトを加速させる具体的な術の一つがコーチングであ り、体系化・標準化・一般化されたものをアカデミック・コーチングと呼んでいる。 図8 22 世紀脳と 20 世紀脳の比較(筆者作成) 5.アカデミック・コーチングが22 世紀脳へのドライビング・フォース コーチングの定義は数多あるものの、アカデミック・コーチング論の視点からは、簡潔に定義づけられる。 コーチングとは「他己実現」に他ならない。これは、マズローが唱えた欲求5 段階説を超えるもので、菅原 が提唱する「欲求6 段階説」の最上段に位置する(図 9 参照)。人は、自己実現を図る過程にあって、他の人 のゴールを支援するようになる。自分だけの幸せ、自分だけの満足は、究極のゴールではないのだ。物質的 に豊かになった人々は、精神的な満足・幸せの追求に主眼をシフトさせ、それが、他の人のミッションやゴ ールの追求を支援するという行動に出させるのだ。かくして、マネーエコノミーからミッションエコノミー へのシフトが深層で進んでいる。 この欲求6 段階の最上位に位置する「他己実現」欲求は、経済的な支援という形をとる場合が分かりやす いが、精神的な支援という形になってあらわれる場合も多くある。その具体的な手法が、コーチングだ。な ぜならばコーチングとは「他己実現」であり、他の人のゴール達成を目的として、そこにいたる道のりを伴 走するからだ。したがって、ミッションエコノミーでは、理論化・体系化・実証化されたアカデミック・コ ーチングが主役の一つとなるであろう。

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75 図9 菅原秀幸の欲求 6 段階(筆者作成) ここで、マズローが晩年、提唱した5 段階の欲求階層の上にもう一つある「自己超越(self-transcendence)」 と「他己実現(other-actualization)」との違いに言及しておこう。マズローのこの概念の中心はあくまでも自 己(self)にあり、他方、他己実現の中心は他己(other)にある。前者は自分が中心という 20 世紀脳的発想の中 にとどまっており、後者は他者に重きを置く22 世紀脳的発想に依拠している(図 10 参照)。 図10 20 世紀脳から 22 世紀脳へのパラダイムシフト(筆者作成)

6.「青年よ、高潔であれ: Girls and boys, be nobility.」

「22 世紀脳思考をもった次世代グローバルリーダーの育成こそが、日本繁栄の切り札」を実現するために

は、どのような方法が効果的であるのか?その有力な答えの一つは、「アカデミック・コーチング」にある。

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76 リーダー育成に活用され、22 世紀脳思考をもって、世界で活躍し貢献する日本人が輩出されることが、日本 の新たな繁栄のシナリオではないだろうか。 人口の急減と経済の縮小によって、日本は経済的には凋落の一途をたどる可能性が高い。それだけではな く、国際政治の場における政治力もしかり、軍事力もまたしかりだ。このようにハード・パワーが凋落する 21 世紀にあって、22 世紀繁栄の日本へ向かうシナリオは、ソフト・パワーの強化以外にないだろう10。つ まり世界に貢献し尊敬される次世代グローバルリーダーの輩出に活路を見出すことが出来る。 孔子が『論語・為政』で「五十にして天命を知る」というように、自らの使命を覚るには長い年月をかけ た習練を要する。物質的に豊かな日本にあってハングリー精神ゼロの若者たちに、大志を抱けと言っても心 に火をつけることはないだろう。世界から尊敬される日本人こそが最大の強みになる。

20 世紀の「Boys, be ambitious」から、22 世紀の「Girls and boys, be nobility (青年よ、高潔であれ)」へ。 参考文献 伊藤元重(2014)『経済を見る3つの目』日経文庫. 菅原秀幸(2013a)「アカデミック・コーチングによる大学教育変革の試み : ティーチング主体型講義か らコーチング主体型講義への進化」北海学園大学開発論集第92 号, pp1-13. 菅原 秀幸(2013b)「大学生の主体性・能動性を引き出すアカデミック・コーチングへの挑戦」支援対話研 究第1 巻, pp49-57. 日本支援対話学会. 菅原 秀幸(2013c)「学生を主体的・能動的にするアカデミック・コーチングの可能性と課題 」第 10 章『創 造性を育てる教育とマネジメント』佐藤大輔編著、同文舘出版. 菅原秀幸(2015)「大学教育改革へのアカデミック・コーチングの挑戦 : 教育 OS から学習 OS への転換」 北海学園大学経営論集第12 巻第 4 号, pp1-15. 菅原秀幸(2017)「21 世紀の主流、コーチング主体型教育」支援対話研究第 4 巻, pp.53-62. 日本支援対話学 会. 菅原 秀幸・石川 尚子(2015)「アカデミック・コーチングが教育イノベーションを実現する可能性: オラン ダのコーチング主体型教育から考える」北海学園大学開発論集第95 号, pp.13-28. 原口 佳典(2016)「大学生のためのアカデミック・コーチング・ワークショップ実践報告」 支援対話研究第3 巻, pp108-118. 日本支援対話学会. 註 1 この研究会の目的は「大学教育にコーチングを導入することで、従来のティーチングでは成し得なかった、 大学教育の質的転換を図り、グローバル時代に求められる資質を備えた学生を育成する。」というものであ った。具体的には、次の3 つをゴールとした。(1)大学教員がコーチングを身につけて、講義・演習で活 用する。(2)職員がコーチングを身につけて学生の対応に活用する。(3)学生同士がコーチングを身につ けて切磋琢磨しあう。 2 現在、CiNii で「アカデミック・コーチング」を検索すると 10 本がヒットし、そのうち 7 本は菅原による ものである。 3 この時点では、原口佳典コーチの調査によると少なくとも 23 のコーチング流派が日本には存在している ことが分かっている。その後も今日に至るまで増え続けていると推測される。

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77 4 一般的には「産学連携」と広く使われているが、「学(研究教育)」の隆盛があってはじめて「産(ビジネ ス界)」の繁栄が成り立つので、語順としては「学産連携」が適切である。 5 コーチは、その活動フィールドに応じて、①ローカルコーチ、②ナショナルコーチ、③グローバルコーチ に大きく3 分類できる。菅原は、多くのコーチと知己を得る中で、5 人のナショナルコーチとパートナー シップを組み、学産連携で共同研究を進めている。 6 「俯瞰」には 3 種類ある。①時間の俯瞰、②空間の俯瞰、③深さの俯瞰である。本稿では、まず①時間の 俯瞰という視点から論じる。 7 Wikipedia の「パラダイムシフト」の定義。 http://business.time.com/2012/10/22/how-to-crowdfund-your-creative-project/slide/how-to-pick-the- right-crowdfunding-site/ 8 Wikipedia の「クラウドファンディング」から。 9 Wikipedia の「ソフト・パワー」http://bit.ly/2L0A33A を参照。

参照

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