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「持続可能なまち」への創生のための復興のあり方と方法に関する研究 -岩手県宮古市田老・三王団地を事例として-

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Academic year: 2021

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「持続可能なまち」への創生のための復興の

あり方と方法に関する研究

-岩手県宮古市田老・三王団地を事例として-

髙村 義晴

1 1正会員 日本大学教授 まちづくり工学科(〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台3-11-2タワースコラ S1211) E-mail:[email protected] 大震災からの復興には,行政の先導的・中心的役割が重要となる.それが「持続可能なまちの形成」に つながるには,その後に,「住民主体のまちづくり」といった地域の主体的行動が欠かせない.けれど東 日本大震災の被災地についていえば,そのような取組みが,全体としては進んでいる状況にはない. 本研究は,被災地である岩手県宮古市田老地区を対象に,このような「住民主体のまちづくり」を停滞 させている原因を明らかにする.また,そこに現在の復興に対する国の考え方や諸制度が深く関わってい ることを指摘する.その上で,持続可能なまちの形成に向け,「行政主導による復興」を受け継ぐ「住民 主体の復興・創生まちづくり」の在り方と方向,解決策を提案するものである.

Key Words : the Great East Japan Earthquake, views on the reconstruction system, community development , solution suggestions

1. はじめに (1) 研究背景 東日本大震災の発生当初,これまでの都市づくりの在 り方そのものが問い直され,近代以降の経済性,開発, 効率性・機能性に対する反省が口々に語られた.復興を 通した取組みを機に,東日本大震災の被災地から,この 国にあった新しい国土づくりへの転換を目指すとの勇ま しい議論も展開された.すでに発災から9年余が経過し, 都市や地域の物的施設という意味では,復興も終わりを 迎えつつある.けれど当時,熱気を帯びて論じられたビ ジョンなり理想は,どれほど実現したのであろうか. 被災地域において,今後,地域の活力を傾斜させるも のとして,「時代の変化」が挙げられる.けれど大震災 により失われたもの,あるいは復興過程で二次的に損な われたものも地域の活力を殺ぎ,「持続可能なまちの形 成」の足かせとなる.大震災により,個人そして地域が どのように変化し,いかなる影響を受けているのか.そ こに国や行政が主導した復興の仕方や制度がもたらした 歪みはなかったのか.さらにそれらを踏まえ,これから 地域はどうしていったらよいのか.右肩下がりに傾斜す る社会では,「行政主導の復興」や「空間復興(インフ ラ・宅地)」ではそもそも限界があるのではないか.地 域に忍び寄る問題の原因を明らかにし,「持続可能なま ちの形成」に向けた処方箋を見出さなければならない. (2) 目的 東日本大震災被災地の三陸沿岸における復興住宅団地 についていえば,一部を除き,すでに行政主体の「行政 主導の復興」は終わりを迎える.これに伴い,その軸足 は「行政主導」から「住民主体」へと移されつつある. 現在進められるコミュニティ支援の動きは,その顕れと いってよい.けれど高台に集団的に移転した住宅団地で は,空間が大きく変貌しただけではない.地域のつなが りは弱まり,生業としての漁業は疲弊し,住民の流出や 高齢化はさらに急速に進行する.地域に対する愛着・誇 り,地域の楽しみなどの「土地・地域との関わり」も変 質し,地域の共同・共助力も弱まる.「持続可能なまち の形成」を目指す「住民主体のまちづくり」となる「住 民主体の復興・創生まちづくり」のための諸要素・環境 や機運は損傷したままとなっている. 本研究は,岩手三陸沿岸被災地である宮古市田老(た ろう)を対象に,岩手県内最大規模の高台住宅移転とし ての三王団地(宅地整備面積;25ha)を取り上げ,住民

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の意識を丹念に掘り起こし,その原因を明らかにし,住 民の意識や認識,思いのなかから,「持続可能なまちの 形成」に向けた「地域の復興・創生のあり方」と「住民 主体の復興・創生まちづくり」の方策を探り出すことを 目的とするものである. 2. 研究方法 (1) 復興の意味と「地域の復興・創生」の概念化 復興に関する議論を大まかに分けるとすれば,従来, 都市のインフラや宅地を中心とする「地域空間の復興」, そして「地域経済の復興」「地域社会の復興」そして 「個(個人)の復興」となろう. しかし本研究では,このような分野を超えて「持続可 能な地域づくり」といった文脈のなかで“復興”という ことを捉えたい.“個の復興”や“人間復興”というこ とを論じるものではない.大災害によって破壊された 「地域の生存の機会」の復興である.それは次のような 内容を柱とする. 東日本大震災被災地を巡り感じることは,地域とはそ こに起居する人たちだけで成っているのではない.そこ に先人たちの想いや願いが溶け込む.それを受け継ぎ自 分たちの営みや意思,願いを溶かし込んで,次の世代に 引き継ぐ.本来,地域づくりとは,そうした営々とした 営みに他ならない.ここでは,第1 に,このような地域 づくりの流れ・営みのなかで復興を位置づけたい. 次に大震災により損傷したのは,物的施設や基盤施設 だけではない.生業が損なわれ,地域のつながり,愛 着・誇り,そして楽しみが失われる.犠牲になった方だ けではなく,若い人を中心に人も流出する.これら壊れ たもの,失われたもの,衰弱したものを元どおりに戻す ことは,もはや不可能である.となれば,新たな価値を 創造し,新たな秩序を創生するしかない.復興というの は必然として創造なり創生を含む.これが第2 の点であ る.このことを特に明らかにしようとするときには, 「復興」とはせず,「復興・創生」という表現を使う. そして第3に,その主人公は,最終的には地域住民で あり,概念的にいえば地域の共同体となる.震災により つながりや結束力を弱めた共同体が,「行政主導の復興」 を受け継ぎ,つながりを結び直し建て直しを図る.そう して,震災の影響や時代の変化に向き合い,自らに「持 続可能な地域づくりの道」を主体的に選び,再び歩み始 める.その道程が復興・創生に他ならない.そのために は,地域自らが「地域との関わり・住民間の関わり」な どを深め,共同・共助の力を花開かせる「新たな生き方」 を追求していく必要がある. このような考え方をするなら,本論で提唱する「復 興・創生の地域づくり」とは「行政主導の復興」とそこ に内包される個々のまちの「住民主体の復興・創生まち づくり」との緊密な連携により構成される.その広がり は,“地域の暮らし・営み”を基軸に「地域空間」, 「地域社会」「地域経済」「地域文化」にまたがり,さ らには「地域の精神性や固有性」までもが入り込む. (2) 研究方法 大震災からの復興ともなれば,行政の役割は大きく, その主導性が問われる.地域や住民が大きく被災し希望 を減退させるなか,まずは行政がたくましく被災者支援 を展開し,地域の空間を再生させ,経済や地域生活の機 能回復の先導役を担う.それにより,住民なり地域に活 力や地域づくりに対する気概,自立的な力を回復させ, あとは地域なり住民に委ねられていく.これが「行政主 導の復興」の基本形となる.行政がやる気になりさえす れば,ほとんどのことができるわけではない.弱者支援 を除けば,「自助・共助」の領域では,行政が為せるの は,基本的に呼び水的な支援に留まざるを得ないのだ. この「行政主導の復興」ののち,行政の協力のもと 「住民主体の復興・創生まちづくり」に引き継がれ, 「持続可能な地域への創生」が図られていく.これが復 興・創生のモデルとなることに,大きな異論はなかろう. けれど果たして現実的であるかどうか,そこにいかなる 課題なり問題が潜むのか.厳しい状況にあるとするなら, どうすべきなのか.三王団地や田老についていうなら, 現在の状況は,「行政主導の復興」は,その後の引き継 ぎの段取りや準備,「住民主体の復興・創生まちづくり」 への移行のための誘導・支援などほとんど考慮されずに, 残された課題いっさい合切が,地域に放り投げられた観 がある. 問題は,「住民主体の復興・創生まちづくり」に影響 する住民の認識・意識や気概,実践力等である.行政主 導の復興過程を通し,それらにいかなる変化が生じたか である.それは地域というものを経済・統計指標,都市 計画的な指標だけで捉えようとしても浮き彫りにはなら ない.地域に入り込み,住民の認識としての地域の諸要 素の変化や相互の関係性に踏み込むしかない. 研究に当たっては,2018年度1)2),2019年度3)の二か 年にまたがって,宮古市田老・三王団地を対象に,「住 民・行政等の丹念なヒリング調査」に取り組むとともに, 「三王団地自治会との意見交換」,さらには「三王団地 住民に対するアンケート調査」を行った.その概要は, 表-1のとおりであり,各年度においてそれぞれ①住民ヒ アリング・自治会との意見交換,②住民アンケートを行 った.

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-1 研究方法1) 2) 3) a) ヒアリング調査 ヒアリング(自治会との意見交換を含む)については, 復興や地域の状況・見通し等について自由に思い・見方 等を語ってもらい,そこで採取された言葉を記録し,内 容別に分類する.その結果を表-2に示す.採取された意 見を,共通する項目で括れば,「震災以降の変化」に対 しては10の項目が,「復興等に関する認識」は,7つの 項目に関する認識や関係性等に整理される.また並行し て行った,行政及び関係団体(社会福祉協議会)からの ヒアリングでも,復興に関連して,それぞれ5つ,4つの 項目が浮かび上がる. これらの項目に該当する内容から,いかなる要素が関 連し合って,「住民主体の復興・創生まちづくり」に向 けた可能性や課題に結びついているのか,その原因・因 果関係を絵解きする.またそこに現下の復興の仕方・考 え方のどこに問題があるのか,そしてその解決のヒント を探り出す. 表-2 ヒアリングから採取された意見項目 b) アンケート調査 さらには,ヒアリング調査の定性的結果を受け,その 程度を定量的に把握するとともに,多変量解析を用い, 地域住民(三王団地住民)の意識構造にも迫る.またそ こから,持続可能な地域の形成に向けた「地域の復興・ 創生策」のヒントを浮き彫りにする.アンケート調査の 項目は,表-3に示すとおりである. 表-3 アンケート調査の項目 (3) 宮古市田老という地域特性 岩手県の宮古市田老(かつての田老町,2005年合併) は,幾多もの甚大な大津波被害に遭い,そのたびに不死 鳥のような神通力で復興を遂げてきた.津波被害への対 応が,まちづくりの全ての起点・規範となり,万里の長 城のごとき二重,三重に張り巡らされた防潮堤で防護さ れ,いちはやく「津波防災の町宣言」をした町として, つとに有名であった.もともとが漁師まちであり,先人 たちの復興の歴史を自分らの誇りとし,それが地域の固 いつながりや絆の靱帯を成してきた. このことが,この間,行政が主導してきた仮設住宅の 建設・運営,防潮堤の建設,復興計画,移転先地の開 発・整備(高台移転)においても大きな力を発揮してきた. 地域一丸となっての合意がすばやく形成された.地域の 誰にお訊きしても,口々に,田老の復興の物語譚,先人 の偉業を誇り,地域の絆や結束力を語った.表-4に,明 治以降の田老における大津波被害の状況を示す4).明治, 昭和と,今般の東日本大震災より甚大な被害を受けたに もかかわらず,人口・家屋等が着実に再生していること が窺える.そこには疑いなく,現在の住民の方が誇りと して語る「住民主体の復興・創生まちづくり」が脈打つ. けれど表-1,表-2のヒアリングからは,このような地 域主体の営みが鮮明には見えてこない.震災及びその後 の復興期を通し,受け継がれてきた地域の堅固なつなが り,共同での強靭な問題対応力,かつての先人たちが誇 った,地域の総力を結集し復興を叶えたような取組みも 姿を現さない. 一方で,「行政主導の復興」により,宅地やインフラ 施設等などの「空間の復興」は着実に進む.2011年4~5 月に順次,「グリーンピア三陸みやこ」に仮設住宅が完

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成.2015年8月には2カ月前倒しして三王団地の宅地造成 が一部を除き完了.10月から住宅建設が開始される. 2015年11月には,三王団地の整備完了を記念して「田老 まちびらき記念式」が行われ,現在に至る. 表-4 宮古市田老の大津波被害の概要4)(明治以降) 3. 現下の地域の状況と不安感1) (1) 地域から失われた光景・シーンとそれがもたらす 影響 すでに三王地区への高台移転の造成が2015年に完了. 海から離れ,良好な住宅団地が形成され,以前に比べれ ば,区画の大きな戸建ての住宅地が実現する.しかし表 -1,表-2のヒアリングからは,これで住民の暮らし,生 きがい,そしてつながり,共助・共同の営みが,戻った ようにも見えない.この間に,住民の流出が起こったが, 変化したものはそれらだけではない.まずは地域から失 われた光景や場面に目を向けたい.このことが,地域住 民にいかなる心理的影響をもたらしているのか.そして この心理的影響が住民の行動にどのような変化を及ぼす のか.この2点を浮き彫りにしたい. 2018年12月に行った住民ヒアリング,自治会との意見 交換のなかで,採取された意見等(表-2参照)をもとに 「①失われた光景・場面」「②それらが地域に及ぼす影 響」に関連する項目として頻出の上位を選定し,該当す ると思われる選択肢を回答してもらった. ①失われた光景・場面としては,大きくは5項目,具 体的に「地域の楽しみ」「居場所」「地域のつながり」 「地域に対する愛着」「地域との一体感」を設定.「つ ながり」については,さらに「先人とのつながり」「家 族・友人とのつながり」「隣人とのつながり」に細分化 を行った.選択肢としては,「A;大いに当てはまる,B; やや当てはまる,C;どちらかと言えば当てはまる,D;あ まり当てはまらない,E;全くそうではない」の5段階を 示した. その結果を一覧にしたのが,表-5である.地域の楽し みや地域の一体感については,7割近くの人が失われた と感じ,隣人とのつながり,地域への愛着に関しても6 割近くがそう感じる.明らかに認識される生活空間が変 貌し,「つながり」「愛着」「楽しみ」の光景や場面が 地域から雲散したことが窺える.表-5の各項目は,ある 意味,「地域の共同体としての感覚」に関連するものと 解される.それがこれらの光景や場面に表れる営みの減 少を通して,「共同体の存在を意識する機会」の減少を 招いているということであろう. 表-5 地域で失われた光景や場面(回答人数) A;大いに当てはまる B;やや当てはまる C;どちらかと言 えば当てはまる D;あまり当てはまらない E;全くそうではない では,このような震災前にあった光景・シーンが地域 から失われ,認識される生活空間が変貌することで,地 域や住民の暮らしに,どのような影響が生じているので あろうか.2018年12月に行った住民ヒアリングのなかで 採取した話しをもとに,「①人のふれあいの減少」「② 地域を盛り上げる活動の減少」「③孤独に感じる人の増 加」「④地域の助け合いの減少」の4項目を設定した. そうしてこれらの項目ごとに,前述と同じく変化の程度 に応じ5つの選択肢を示し回答してもらった.その結果 を整理したのが表-6である. これを見るかぎり,「地域の助け合いの減少」「孤独 に感じる人の増加」「人のふれあいの減少」「地域を盛 り上げる活動の減少」の順に,先行きを不安に感じる人 (当てはまると感じる人)の割合が大きく,これらは割 合にして8~9割にも上る.地域との関わりが大きく損な われる.先ほどの項目(表-5)が「地域の共同体として の感覚」に関わるとするなら,ここでの項目は,「地域 の「共同・共助の営み」に結びつく「住民間のつながり 行動」に関わる.本研究では,①人とのふれあい,②地 域も盛り上げる活動,③住民を孤立させない活動,④地 域の助け合いなど住民相互の関わりを創出する活動/行 動を総称して「つながり行動」ということにする. 「地域の共同体を意識する機会」の減少が,「住民間 のつながり行動」を大きく減退させる方向に作用してい ることが見てとれる. さらに,表-5の各項目(7項目)と表-6の各項目(4項 目)間の相関係数を算出したところ,総じてその数値は 0.2~0.4に留まる.要するに,これら個々の光景・シー

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ンの減少が,「住民間のつながり行動の減少」との間で 必ずしも強い因果関係を有しているわけではない.これ ら個々の項目相互が絡み合い,あるいは他の諸条件が複 雑に影響し合いつながり行動の減少を惹起させていると いうことであろう.表-7,図-1は,2018,2019年度に実 施したヒアリング調査のなかで採取された内容をもとに, それらの関係を整理したものである.われわれは,分析 的なものの見方に慣れ,全体を部分,部分に分けていき, その和集合で全体を理解しようとする.が,被災地とい う衰弱した地域に見られる現象は,多くの要素が互いに 重なり絡み合って生じているとの見方に立つ必要がある (図-2参照). ここでの主題である「地域の共同・共助の営み」を活 性化させ,「住民主体の復興・創生まちづくり」を興す には,「地域から失われた光景やシーン」をとり戻し, 「地域の共同体を意識する機会」を増やすだけではなく, 表-7や図-1に記載される事項を一つひとつ明らかにし総 合的に改善・充実・補充していく必要がある.しかし, そのような方法論は至難であり,地域が生き方を見つめ 直し,新たな価値,魅力,楽しみ,生業等を創り上げて いく,ということがより現実的である.もとにあったも のを復元・再現することに囚われず,新たな“価値創造” によって,失われたものをとり戻していくという発想の 転換が求められる. 表-6 失われたものが地域にもたらす影響(回答人数) 図-1 地域の光景・シーンの喪失がもたらす影響(因 果関係) 表‐7 地域からさまざまな場が失われたことによる地域の 変化 ⑵ 震災以降の地域の変化に対する状況認識 “行政主導の復興”を受け継ぐ“住民主体の復興・ 創生まちづくり”は,“持続可能なまちの形成”を目標 に「総合的な暮らしの場(総合的な定住環境)」づくり に努める必要がある.このことに大きな異論はなかろう. ただ,ここでの「持続可能なまちの形成」については, 若干,補足が要る.地域が損傷し,変化への順応力を減 退させ,右肩下がりの傾斜を帯びていくなかで,現状の 経済指標,空間的指標,その他の統計指標を維持するこ とは,望ましくはあっても,もはや厳しい.以前の状態 に戻そうとすれば,そこに欺瞞なり,無理が入り込む. 地域の生き方を含め,新たな秩序をつくり直さなければ ならない.それでも,そのときに,地域として,何とし ても“こだわりたいもの”,“守りたいもの”がある. 自分たちの思いを籠めて,次の世代に引き継ぎたいもの である.それは物理的な価値に限らない.情緒的価値・ 精神的価値もあり得る.たとえば宮古市社会福祉協議会 では,“誰もが住み慣れた地域で心豊かに安心して暮ら せる地域”を描く. 次に,住民が意識する「総合的な暮らしの場(総合的 な定住環境)」というものの成分に迫りたい.すでに行 政主導で道路・宅地等の「空間の再生(住まい・安全 等)」は達成しており,その上に立って「暮らしやすさ」 「誇りや愛着」「活力」等を充実・補完させ,持続可能 な地域を手繰り寄せるものといってよかろう. 2年間にわたる住民ヒアリング(表-1,表-2参照)を とおし,掘り起こされた意見(50件)から,何となくの 違和感,居心地の悪さ,住みにくさ,さらには地域が生 き長らえていくうえでの隘路や要因として言及されてい るものを抽出し整理するなら,大きくは①暮らし,②仕 事,③地域のつながり,④地域に対する誇り・愛着,⑤

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地域の楽しみにまとめられる.ここで①暮らしとは,生 活の利便性・快適性や安全性等に関係すると考えられる. 住民ヒアリングにおいて,安全性に対する言及が少ない のは,すでに空間の復興(安全性)が実現していること によるものと解してよかろう. これら5項目が,三王団地住民が感じる持続可能な地 域形成に関連する“総合的な定住環境”の構成要素とな り得ることは疑いないが,むろんこれ以外にも考えられ 得る.また,現在不足するもの,減退するものを補完・ 補充するだけで“持続可能な地域”が保証されることに もならない.このため,“持続可能な地域”に必要な要 件の総体を,「⑥全体(生活・地域環境)」として追加 し,これら6要素・項目が,「被災前と比べ(表-7)」 あるいは「今後は(表-8)」,どう感じるか(どうなっ ていくと想うか),これらの表の下部にあるように5段 階で訊いた.表-8,表-9はその結果を示したものである. ここで,「D:悪くなっている」「E:やや悪くなってい る」と答えた人の全体に対する比率を「悪化率」と定義 するなら,「被災前と比べて」では,①暮らし(44%), ④地域の対する愛着・誇り(38%)を除けば,54~60% にも達しており,⑥全体(生活・地域環境)は,60%に もなっている.「今後」については,時を積み重ねるこ とで,③地域のつながり,④地域の楽しみについては期 待するものの,その他については,ほぼ改善が期待され ず,⑥全体(生活・地域環境)も54%に留まる.このま まの状態では,持続可能なまちは大きくは手繰り寄せら れず,総合的な定住環境もさほど改善しない,というこ とである.注目すべきは,④地域に対する誇り・愛着は, ③地域のつながりなどと異なり,時の経過によっても快 方があまり見込まれず,また②の仕事については,唯一, 今後の悪化が懸念されている,ということである. 表-9 今後の暮らし・地域環境の見通し(回答人数) A;良くなっていく B;やや良くなっていく C;変わらない D;やや悪くなっていく E;全くそうではない 次に各要素・項目間の相関関係についてみていく.表 -10は相関行列として整理したのものを示す. 同表から 浮かび上がってくる要点は3点に集約される. 第1は,被災前から現在までと比べ,今後ますます, ②仕事,③つながり,④愛着・誇り,⑤楽しみ-相互の 関係性は相関をみるかぎり強くなっている.これからの まちづくりにおいてこれらの諸要素を関連付け,連鎖的 ・有機的に高めていくことの重要性が透けて見える. この点は,現在,見落とされている大事な視点である. たとえば③つながり・絆を深める取組みだけを単独で考 えず,④愛着・誇り,⑤楽しみ,さらには望ましくは, ②仕事づくりにも,関連付け相互に好影響が出るよう工 夫していくということである.これらを一体的に高めて いく“パッケージ発想”を展開していくということであ る. 第2に大事なことは,②仕事というものが,これまで に比べ,総合的な定住環境との関わりを強め,他の③ つながり,④愛着・誇り,⑤楽しみにも大きな関わりが 見てとれることである.これまで以上に仕事というも 表-8 被災前と比べての暮らし・地域環境(回答人数) A;良くなっている B;やや良くなっている C;変わらない D;あまり当てはまらない E;全くそうではない のが,個々の家庭の生計を超えて,地域づくりにも影響 を強めるということである.岩手県の復興方針(2011年 4月11日決定)では,「安全」「暮らし」「なりわい (生業)」の3本柱がたつが,今後,この生業(仕事) に対する重点的・先導的な取組みが重要となってくる. 仕事づくりを先導役として「地域のつながり」「愛着・ 誇り」「楽しみ」を引っ張り上げていくとのシナリオも 考える必要がある. そして第3に,ここでの総合的な定住環境を構成する 要素は,実は第三者により持続的に供給することが難し く,住民・地域自らの取組みや営みを通して初めて生ま れてくるものであるということだ.仕事はいうに及ばず, 「暮らし」「楽しみ」「つながり」「愛着・誇り」「楽 しみ」,いずれも他から与えられるようなものでなく, 自分たちで生み出していくほかない.それには,「住民

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主体の復興・創生まちづくり」が欠かせないことが示唆 される. 表-10 地域の総合的定住環境に関連する要素・項目間の相関 係数 図-2 地域のつながり行動を衰弱させる原因 出典:筆者作成 4. 現下の状況を招いた原因・条件 震災前と比べ,現在地域から失われたり,衰弱・疲弊 したりするものは,大震災という外力だけに起因するの ではない.住民ヒアリングから浮かび上がるのは,まず は「①時代の変化」である.時代は激しく揺れ動き,そ の影響は大きい.次に,②直接地震に起因して損傷や喪 失し,いまなお失われているもの.そして,はからずも ③二次被害のように,復興の過程で(復興の仕方・制度 により),新たに損傷,失われたものとなる. ちなみに②の「震災の影響」には,直接地震によりも たらされ,その後も軽視され手が付けられずそのままに なっているのものもこれに含まれる. (1) 地域を変貌させる変化要因 では住民は,「地域の活力が弱まっていくとしたら, その原因はどこにどの程度ある」と感じているのであろ うか.「A時代の変化」「B震災の影響」「C復興の仕 方・制度等に伴う諸問題」の3つの選択肢を示し,その 影響度を一対比較により訊いた3).アンケート調査の回 答者は104名(回答率;46.8%)であった.アンケート 用紙には,それぞれ次のような補足を追記した.すなわ ち「A時代の変化」とは,被災地に関わらず,全国的に 進行する少子化などの変化.「B震災の影響」とは,被 災したことによる影響であり,「C復興の仕方・制度等 に伴う諸問題」は,復興の仕方・制度が実情に合わない ことにより生じる諸問題をいう,とした. アンケートの結果を表-11に示す.「B震災の影響」と 「A時代の変化」は,地域の活力低下に際してほぼ同程 度の影響力をもつと認識されている.前章までの結果も 踏まえれば,すでに9年近い時が経過しているにもかか わらず,「震災の影響」が,地域の暮らし,仕事,地域 と住民との関わり,住民間のつながりなど,広範に入り 込み,大きな損傷ゆえの「後遺症的な不具合・不調」と もいえる様相を呈しているということであろう.地域と いうものを機械論的にみるなら,壊れた部品を取り換え れば,また元どおりの動きが再現される.しかし地域を 生命体とみるならそうはいかない.このような“被災地 域の後遺症”にどう向かい合うか,そこには復興という ものに対する新たな考え方,“後遺症”と共生する「地 域の新たな生き方」への一歩が入用となる. 次に,「C復興の仕方・制度等」は,これら「B震災の 影響」「A時代の変化」よりはその影響力は小さい.そ れでも,「C復興の仕方・制度等」が足かせになるとの 意見は,「B震災の影響」と答えた人の約4割,「A時代 の変化」と答えた人の約6割を占める.ここでの復興の 仕方・制度等とは,国が主導する現行の復興の方針・考 え方であり,それを実現させるための仕組みとしての制 度である.国が主導する復興には,合理的理由のもとに 大規模に税金が投入され,その反射的作用としてその後 の利用や運用にルールや規制が設けられる.地域間の公 平性や施策の公正・透明性も求められ,それが独創性や 自由なアイデア,さらには地域の特性に対する考慮の足 かせとなることもある.それは,大きく見れば,薬効に 付随する“副作用”のようなものと見てとれないことも ない. 表-11 今後の地域の活力低下に影響する原因(回答人数)

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このような地域を取り巻く大きな変化に向き合うには, これまでのやり方や考え方に囚われず,地域が生き方を 変える,新たな価値を見出す,新たなやり方に挑む.そ うせざるを得ない.そしてそのためにも地域の共同体意 識と共同・共助の営みによる「環境変化への適応力」の 体得と保持が欠かせない.それは,ここでのヒアリング やアンケート調査の後に起こったコロナ禍にもいえる. そしてそれは「地域が住民主体の取組み」の積み重ねを 通して初めて獲得し得るものであるといってよい. (2) 現行の復興の考え方や制度に潜む問題 「行政主導の復興」においても,現場では様々な不測 の事態,予期せぬことが生じる.右肩下がりの社会ほど, “負の連鎖反応・循環”が起こりやすい.当然,行政の 想像性の希薄さは否めないが,住民の住宅機能の再生, 産業基盤(漁港施設)等が,喫緊に必要とされるなか, 多くの不都合が後回しにされ,そのままにされたものも ある.今回の地域住民ヒアリングから採取された「現在 の復興の考え方・制度等に内在する不都合」は,表-12 に示すとおりである. またヒアリングのなかでの言葉を引用しつつ,高台への 集団的移転における教訓を整理するなら,以下の4点に 整理される. ① 地域を廃れさせずに“持続可能なまちの創生”を図 っていくには,必ず外から人が入ってくる必要があり, そのための仕組みが入用である.住まいだけを抜き出し 集めた単一機能のまちではなく,複合機能の団地づくり が必要であった.結果として,早さ,安全性を重視し土 地をつくることに囚われ,このような総合的な定住環境 という“全体・総合的発想”が置き去りにされた. ② 土地を早くつくるという使命感のみが先行し,“分 業的発想”から,まちをつくるという発想が欠如する. 安全な住まいを早くつくるだけで,暮らしをつくるとい う発想も乏しい.全く周りに商店などもないようなとこ ろに災害公営住宅が先行して建てられた.早さと安全性 以外に必要なものに関しては,あまり考慮されていない. ③ 公平性や分業に囚われ,創造的想像性が欠如してい た面は否めない.地域の特殊性についても配慮が乏しい. このため,取組みが硬直的で,想定していなかった不都 合などへの対応は滞りがちであった. ④ 最終的には住民が主人公であり,住民にとって生業, 暮らし,誇り・愛着,つながり,楽しみのあるまちに創 生しなければ,復興・創生したことにはならない.いろ んな人がいて多様な地域があり,そのやり方は同じでは ない.そこの地域にしか通用しないやり方もある.行政 が為し得るのは“根幹的,そして呼び水的”部分であり, すべてを為せるわけではない. その地域にあったやり方で復興・創生を進めていくに は,最終的には「住民主体の復興・創生まちづくり」に 結びついていく必要があるが,「行政主導の復興後」の 視点が欠けている. 表-12 現下の復興の仕方・制度により生じる諸問題 (3) 空白期間による共助・共同機能の衰弱 三王団地についていえば,高台移転先地の造成が完了 し,概ね住宅再建が概成するまでの 7 年余の間,仮設住 宅での暮らしがつづく.その間,ボランティアや行政に よる懇切な支援がなされ,何から何まで,自分らで助け 合わなければならないことも含め,手助けが行われた 6). このことにより,一時的に共同・共助の取組みが誘導で きたかに思われたが、けっきょくは本格的な実践は停止 を余儀なくされ,その実践能力が大きく損傷し失われる. 人の身体同様,いかに正常な機能を有していても,長期 間,使っていなければ機能は衰える.自治会役員へのヒ アリングのなかからは,避難所・仮設住宅の期間でのボ ランティア・行政支援に伴う,このような影の部分を指 摘する意見が数多く聞かれた.この期間こそ,「住民主 体の復興・創生まちづくり」に向けた機運の醸成が欠か せず,そのための仕組みや取組みが求められる.

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⑷ 地域の固有性・特殊事情 ものごとには原因があり,結果がある.しかしそこに 条件・環境が加わる.このため同じ原因を施しても,同 じ効用が出現することにはならない.条件・環境が異な れば,あることを施した結果は違ってくる(例えば,表 -7参照).そして今回のヒアリングを通して,地域のな かから浮き彫りになったのは,この条件・環境として, 「地域固有の仕組み」があり,美意識や美風,価値基準, そして精神的な作用性・反応性といった「特殊事情」が 見てとれることである. a) 地域の固有性 田老は,住民の地域に対する誇りと愛着,そして結束 力とつながりを誇った地域であった.そこでのつながり は,向こう三軒両隣りに始まり,班,町内会,地区自治 会,自治会連合会へと段階的に組み上げられ,さらには そのうえに子供つながり,漁師つながりなどが重なり合 って,全体として強固なつながり関係が形成されていた. それが田老におけるつながりの秩序であった.それが絶 妙な結束力の原動力であった. 田老では,「向こう三軒両隣り」が基礎となる.これ を切り刻んで,十把ひとからげ的に「まとまった集団」 としての形態を実現させても,田老に引き継がれる強い つながり,結束力は衰弱していく. けれどその絶妙な秩序に気づかず,ぞんざいに扱い, それをバラバラにし,面的整備手法の論理で作為的に組 み立て直した結果,それが徒となる.強固さを誇ったつ ながりは一気に不可逆的に流動化する.若い人たちが流 出し,著しい高齢化も災いする.むろん一般論でいうな ら,子どもが多く,子ども・お母さんつながりや,年齢 層が若く,活力に富む地域であれば,新たなつながりが 自然治癒のように築かれることもあり得ようが,高齢化 が急速に進行する「右肩下がりの傾斜を帯びる地域」で はそうはなりにくい. b) 負の連鎖反応 ヒアリングとアンケートの解析結果から透けて見えて くるのは,田老の住民の心理や意識のなかに,“負の連 鎖反応”ともいえる現象が確認されることである.たと えば,漁業という生業の衰弱は,表-13,図-3 に示すよ うな連鎖反応を起こし,地域に作用する. これにより,いかに強固な住民のつながりを誇る地域 も,この“負の連鎖反応”により,足元を容易に突き崩 されるということであろう.これに対応するには,この 負の連鎖を丹念に明らかにし,その連鎖反応を逆に作用 させるということも確かに考えられる.が,この反応の メカニズムそのものを明らかにすることは厳しい.元に 戻すという考え方に囚われず,新たな正の連鎖反応を起 こす取組みを試行錯誤しながら創造する方法論が入用と なる. 図-3 生業の衰弱に伴う地域の変化(負の連鎖) 出典:筆者作成 表-13 生業(漁業)の衰弱に伴う地域の変化(負の連鎖) 5.新たな地域の復興・創生の仕組みと方法 ⑴「住民主体の復興・創生まちづくり」に対する住民の 想いと問題 「住民主体の復興・創生まちづくりの」内容として, 住民ヒアリングから掘り起こされたのは,「①行政主導 の復興で積み残された地域課題への行政の取組みの働き かけ」,「②住民自らの共同・共助の取組み」,そして 「③他地域・人材との連携」であった.③は,避難所・ 仮設住宅の期間に見られた,たくさんのボランティア・ 社会貢献のなかで生まれた発想であった. これら 3 つの柱をもとに,ヒアリング全体のなかの発 言の断片を組み合わせ,2019年度調査として細かくは表 -14 に示す 10 の選択肢を挙げ,それぞれの「有効性」と 「実現性」を問うアンケートを実施した(表-3参照). その結果は,同表に示すように各選択肢に対し,大き くはそれぞれに概ね 7 割に近い住民が「有効」と感じて

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いる一方で,その「実現性」については数%の住民しか, 可能と判断していない.にもかかわらず概ね 4~5 割の 住民が「挑戦する価値」があると認める. このことをどう解釈するか.田老地区・三王団地住民 の方の意見交換・ヒアリングを通して口々に語られるの は,繰り返される大津波の被害のたびに,たくましく復 興を遂げてきた先人たちをもつことに対する地域の誇 り・愛着であり,受け継がれてきた結束力である.そし てそれは地域を想い地域の先々を考えるという精神的作 用につながってくる.このことは,提示された選択肢に 対する「不明(わからない)」という回答が,総じて低 いこと(4~15%)にも見てとれる.「実現性」に対し ては,全体として実現化とするのは(楽しみづくりを除 けば,10%未満)と少数にすぎず,「挑戦の価値あり」 と「実現は厳しい」が意見を 2 分する.要するにここで の個々の取組みが「有効」であることはわかり,やるべ き(実現可能・挑戦すべき価値)であろうが,実際,ど のようにすればよいのかが見えてこない,ということで あろう. そこには 4 つの問題が透けて見える.1 つは,「住民 主体の復興・創生まちづくり」に対する意識は高く,想 いはあるものの,それを具現化するまでに煮詰まり切れ ていない.2 つめは,その理由の一つとして,実現可能 で有効な方法論そのものが不足していることにある.3 つめには,住民の流出,少子高齢化の急速な進展,住民 間・土地とのつながりなどの衰弱により,地域の共同体 機能が疲弊し,地域住民だけでは,実践・実行しにくく なっている.そして 4 つめに,3 つめに関連し,地域の 空間の復興が概成している今,復興期間に溢れていた 「数多くのボランティア・社会貢献」,「地域のみなら ず全国の行政の貢献・協力」というものを生かす時機を 逸してしまっている,ということである. 前述したように全体として,避難所・仮設住宅暮らし といった「住民主体の復興・創生まちづくり」の最も重 要な仕込みの期間に,結果としてそれが育まれなかった ことである.そして「住民主体の復興・創生まちづくり」 が依然,“刺身のつま”のようにしか扱われず,方法 論・手法論の開発が未成熟なことにある.さらに直截に 言ってしまえば,国・地方行政から,地域の空間の復興 が概成し,ようやく「コミュニティ支援」の話が出てき ているが,それは本来,「住民主体の復興」の先導役と して,復興の初めにおいてこそ行うべきことであった. 表-14 住民の主体的・主動的行動の有効性と実現性 (回答人数) ⑵ 新たな地域の復興・創生の仕組みと方法(提案) 現在の復興の考え方は,まずは「行政主導の復興」を 先行させ,復興を完成させ,その後,「住民主体の復 興・創生まちづくり」に期待するというモデルである. 委ねるといってもよい. しかしこのモデルでは,地域なり住民の位置づけ・使 命が矮小化されやすい.行政復興がなされるまでの間, 住民はわき役的存在に置かれ,「住民主体の復興・創生 まちづくり」に対する使命感・気概を弱め,共同・共助 の取組みの空白による実行力の減退,さらには住民の流 出や高齢化が進むなかでの体制づくりの機会を失うこと にもなる.繰り返しになるが,「住民主体の復興・創生 まちづくり」とは,その取組みすべてを住民が主体とな って実施するということではなく,必要に応じ,行政に 協力を求めたり,他の地域や民間などとの連携も含まれ る.その実践力をいかに高めるか,そのための工夫・挑 戦も含まれる. ここでは,これらの諸点を考慮し,図-4に示す「地域 の復興・創生モデル」を提唱する.注目してほしいのは, 第1に目的は「持続可能な地域の形成と維持」となり, 一貫して主役は,「地域」となる.取組み・対処策は, 一般解のごときものではなく,その地域固有の特殊解と なる.持続可能な地域づくりとは,住民が生き生きとし た人生を送る場であり,想いや願いをもって暮らすこと そのものであり,その主役は地域住民に他ならない.第 2 に,地域が今後も疲弊する原因は,大震災による物的 施設の損傷だけではない.その後遺症的なもの,復興の 副作用的なものなども無視できない.当然にそこに時代 の変化が絡み合う.“行政主導の復興が完了すれば,事 足れり”とはならない.第 3 に,行政主導の復興の期間

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にこそ,他地域・全国から支援・好意も活発化し,住民 が一堂に会する機会が多く,なおかつ今後の地域づくり への議論の機運も高まりやすい.この復興期間の時期こ そが,住民主体のまちづくりの最も大事な時間なのだ. そして第 4 に,大震災により,住民間のつながり,土 地との関わり,地域への想いなど,地域も大きく変質す る.住民が流出し,高齢化も著しく進行,子どもが大き く減少すれば,地域の共同・共助の営みのためのリーダ ー,担い手の確保も思うようにはいかない.地域だけの 力ではいかんともしがたくなってきている.とすれば, 「住民主体の復興・創生まちづくり」をお題目のように 唱えていても仕方ない.地域が生き方・考え方を変える しかない.今回の東日本大震災の特徴は,全国的なボラ ンティア,企業等の社会貢献が大きく開花したことであ り,これまで閉鎖気味であった被災地域も,他所や他地 域とのつながりの有効性・意味を感じ,意識が外に開か れたことである.この関係を生かし,ボランティアを超 えて,経済的なつながり(ビジネス・仕事),共有価値 の創出にまで昇華させ,他所を巻き込み,地域を支えて いく.そのためのプログラムを組み込む7).このプログ ラムについては,他所にとっても意味が必要であり,別 途,「二地域就労」8)という新たなライフスタイルの提 案と,結びつけ,支援などについて提案したい.二地域 就労とは,地域の仕事づくりを,地域と大都市等(地方 での仕事に関心のある人材,企業人材)が連携しいっし ょになって取り組むことで,地域の潜在可能性の発揮, 地域の復興・創生,さらには新たな働き方を目指すもの である. 図‐4 新たな復興・創生モデルの概念図 出典:筆者作成 6.おわりに スティーブン・R・コヴィーは,『命の次に大切なも の』として「選択をする自由」を挙げる 9).動物は, 刺激を与えられれば,反応するが,刺激と反応の間に選 択するということがない.けれど人間は違う.外界から の刺激に対し,選択するという自由が与えられる.「環 境に流される」「環境に抗い一歩でも自分の生き方を見 つけ出そうとする」などいくつもの選択肢を考え,自分 の選択を決めていく自由が与えられているのだ. 現下の復興,そして地域創生の最大の問題は,この 「選択する住民の自由」を真綿で包み込んだようにして 発揮できない状態のままにされていることにある.持続 可能な地域を形成する主人公は地域住民であり,復興・ 創生の仕方は,地域それぞれに異なってくる.そこには, これまでの生き方を変えることも迫られる.まさに地域 が,「住民主体の復興・創生まちづくり」に一歩を踏み 出していける状況や方法論をつくり出していかなければ ならない.行政が果たし得るのは,根幹的,呼び水的な ことであり,全体の一部でしかないのだ.もはや,右肩 下がりの社会においては,破壊されたハード施設を復 旧・再生すれば,地域は再生するなどということにはな らないのだ. 大きく損傷し,疲弊に傾く地域では,様々な要素が複 雑に絡み合い,そこに地域の固有性・特殊事情が入り込 み,問題を顕現させる.問題の因果関係を解き明かし, 原因を一つひとつ取り除いていく方法論は,そこでは使 えない.いま重要とされるのは,地域が新たな一歩を踏 み出し,小さな実践を積み重ね,環境変化への順応力を 高めていくことに他ならない. その際,持続可能な営み・取組みとしていくには,課 題解決や目標追求に,経済の世界を持ち込み,生業づく りや収益性の創出を結び付けていく.そして地域で不足 するノウハウや人材力を,新しい大都市・他地域等との 相利共生により,確保・提供していくことにある.論者 が提唱する“二地域就労8)”はその 1 つの方法となる. 論者自身,地域の復興や創生のための「新たな仕組み」 の提唱とその実践をとおし,いかばかりとも地域の選択 する自由の拡大に寄与できればと願う次第である. 謝辞:最後に,本論は,論者が 2013 年以降,5 年間にわ たり行ってきた被災地の支援活動のなかで痛感してきた こと,温めてきたことが端緒となる.そこでの知見をも とに,日本大学理工学部まちづくり工学科に在籍し,現 在,東京都中野区に勤める山口健斗技師,さらには板橋 区に勤める荒井太陽技師のお二方の卒論研究を通して, 共同でヒアリングやアンケートを行うなかで得られたデ ーター,資料を活用した.新たな解析を進めるとともに, 被災地での寄り添い支援でえられた独自の視点をもとに とりまとめたものである.山口技師,荒井技師に改めて

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謝意を示すとともに,調査にご協力いただいいた三王団 地,田老地区の方々,宮古市,社会福祉協議会の方にも 心からお礼を申し上げたい.また,宮古市を中心に,生 業支援に奔走する坂下裕一氏には,有益な情報を提供い ただいいた.同士にもこの場を借りて深謝する次第であ る. 参考文献 [1]髙村義晴,「三陸沿岸地域における震災復興の住民意 識に関する基礎的研究」,グローバルビジネス学会全 国大会,2019. [2]山口健斗,「被災地の共助・共同の営みによる地域社 会の再生に関する基礎的研究」,日本大学理工学部ま ちづくり工学科卒業論文(指導教員髙村義晴),2018. [3]荒井太陽,「震災被災地の移転先地整備後のまちづく り課題に関する研究-宮古市田老・三王団地を事例と して-」,日本大学理工学部まちづくり工学科卒業論文 (指導教員髙村義晴),2019. [4]田老町教育委員会,『田老町津波編』,2005. [5]田中正人,「災害復興過程におけるコミュニティ維持 の条件とその意味」,追手門学院大学北摂総合研究所 所報 Vol.2,59-73,2018. [6]南正昭,添田文子,平井寛,「壊滅的被災下における住 民主体によるコミュニティ再生の支援に関する実践的 研究」,土木学会論文集 F5(土木技術者実践),Vol. 70,No2,46-55,2014. [7]髙村義晴,「三陸沿岸における起業者特性とその支援 策に関する研究」,グローバルビジネス学会全国大会, 2018. [8]髙村義晴,「二地域就労構想の提唱と実践」,グロー バルビジネス学会全国大会,2015. [9] スティーブン・R・コヴィー,『7つの習慣-成功には 原則があった』,キング・ベアー出版,1996. 2020年9月28日 受稿 2020年12月20日 受理

STUDY ON THE METHODS OF FORMING A SUSTAINABLE CITY THROUGH

RECONSTRUCTION:

A CASE STUDY ABOUT A FISHERMEN SETTLEMENT, HEAVILY HIT BY THE

GREAT EAST JAPAN EARTHQUAKE IN 2011

Yoshiharu TAKAMURA

In reconstruction projects after a great disaster, a leading, central role of the government is crucial. When the aim is building up a sustainable city, it is crucial that the project is led by the government and followed by inhabitants’ actions. In these follow up actions inhabitants play a leading, central role, for example through community development led by inhabitants.

The inhabitants of the area hit by the Great Eastern Japan Earthquake in 2011 do not consider that such series of actions took place, according to interviews held with them.

In this study, the author will identify the cause of the community development led by inhabitants to stagnate. The author is taking a fishermen settlement, heavily hit by the Great East Japan Earthquake in 2011, “Taro village, Miyako city, Iwate prefecture, Japan” as an example. Further,the author will point out how the views and attitude of the Japanese government towards reconstruction and the Japanese recon-struction system result in this stagnation. Finally, the author will propose a method of forming a sustainable city through community development led by inhabitants, following the reconstruction led by the Japanese government.

表 -1 研究方法 1)  2)  3) a) ヒアリング調査 ヒアリング(自治会との意見交換を含む)については, 復興や地域の状況・見通し等について自由に思い・見方 等を語ってもらい,そこで採取された言葉を記録し,内 容別に分類する.その結果を表 -2 に示す.採取された意 見を,共通する項目で括れば,「震災以降の変化」に対 しては 10 の項目が,「復興等に関する認識」は, 7 つの 項目に関する認識や関係性等に整理される.また並行し て行った,行政及び関係団体(社会福祉協議会)からの ヒアリングでも,

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