第 7 回日本LCA学会研究発表会講演要旨集(2012 年3月)
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B1-06
地熱開発における利害関係者間の認知ギャップと相互理解に向けた方策
An efficient utilization strategy of geothermal energy for bridging a perception gap among
geothermal stakeholders
○窪田ひろみ*1) 2)、稗貫峻一2)、海江田秀志1)、本藤祐樹2) Hiromi Kubota, Shunichi Hienuki, Hideshi Kaieda, Hiroki Hondo
1) 電力中央研究所, 2) 横浜国立大学 * [email protected] 1. はじめに 全国調査~精査 開発調査 建設 運用 減衰リスク 経済性・財務(開発・運用コスト) FIT法 政策的支援(自然公園法・温泉法の規制緩和、環境アセス等の手続き短縮化等) 国の資金支援 開発スピード 開発リスク 法規制・制約 地域での受容性(自治体、温泉) 図2 地熱技術開発に係る主な障壁と支援動向 地熱発電 技術支援、熱水・温水供給 温泉モニタリング 作業員宿泊 税納入 電源三法交付金(5年間) 地元雇用、観光資源(PR館) 運転・点検等での地元消費 温暖化対策(CO2削減)、道路等整備 温泉管理費 軽減 地域全体の 便益向上 直接的便益 間接的便益 温泉事業 立地地域 図1 地熱発電開発による温泉事業、および地域への便益 近年、エネルギーの自給率と安定供給の向上、および 気候変動対策に資する発電技術の一つとして地熱発電開 発が世界的に急増している1)。国外では開発促進に資する 政策等の支援に加え、住民との相互理解が進んでいる2,3)。 一方、国内でも、固定価格買い取り制度(Feed-in Tariff) の法案可決、3.11以降のエネルギー政策の見直しもあり、 国の政策・経済・法制度的な支援の改善、新規開発の動 きがみられる。既設発電所では、温泉との共生実績や地 域便益が報告されている4,5)(図1)。しかしながら、地熱 開発に係る調査・立地の際に地元反対による開発中止・ 延期の事例もあり、今後、温泉事業との利害調整、共生 が重要課題の一つとなるであろう。 そこで本研究では、地熱発電開発に係る問題の全体構 造と利害関係者間の認知ギャップに基づき、地域共生と 相互理解に資する方策を明らかにすることを目的とする。 2. 方法 地熱と温泉の共生研究に関連する地熱専門家 3 名 (2010/11、2011/1、2012/1)、温泉事情や管理に詳しい温 泉専門家2 社 4 名(2011/5, 8)、既存発電所の開発事業者 (蒸気生産、発電)7 社8 名(2010/6, 2 社, 2011/6-12, 5 社)、 温泉事業者7 社 7 名(2011/11, 1 社(非立地地域)、2011/12, 6 社(立地地域))へのヒアリング調査、および文献調査を 実施した。その結果に基づき、温泉影響に係る科学的な リスク評価・管理情報の齟齬、リスク・便益認知を整理 し、相互理解と地域共生に資する方策を検討した。 3. 結果と考察 3.1 わが国の地熱発電開発に係る全体構造 わが国の地熱発電開発に係る主な障壁とされている 「開発・運用コスト」、「開発リスク」、「法規制・制約」「受 容性」等の相互関係の全体構造について、専門家の確認・ 修正を経てとりまとめた(図2)。図 2 の各項目の下には、 既述した国の開発促進支援を記す。地熱発電のライフサ イクルの各段階において、複数の要因が因果関係となっ ている。今後、開発事業者向けの国の支援が進むと、経 済性や開発スピードが改善され、障壁の上流に位置する 「受容性」が律速段階となりうる。特に、各段階で必要 な地熱井の掘削許可権限は、温泉法にて規定され、自治 事務あること、および国の資金支援を得るには自治体の 賛成が条件となるため、新規調査・開発候補地域では、 自治体の意向と主体性が要となることが示唆された。 3.2 地熱発電に対する温泉事業者のリスク・便益認知 自治体が地元の理解や合意を得るには、利害関係者の 意向が重要となるため、温泉事業者側のリスク・便益認 知、および開発事業者側との相違点を明らかにした。以 下に主な結果を記す。 1) リスク認知 温泉への影響:一部の温泉事業者は、全国の立地地域周 辺での温泉枯渇事例は地熱発電開発が原因との信念が強 く、地熱井と温泉井は地下で繋がっているために、地熱 発電での大量の蒸気や熱水利用が源泉枯渇に至ると考え ている。温泉への影響があった場合の不利益として、湯 量・温度減少による管理費増、成分変化による風評被害 や顧客減少等を懸念している。また、開発事業者の過去 の強引な開発に対する感情的な不信やゼロリスク志向が 強いと、科学的データへの不信も強い傾向がみられた。 リスク対策:一部の温泉事業者は、万一、温泉に影響が あった場合の補償や対策の不備を懸念している。
第 7 回日本LCA学会研究発表会講演要旨集(2012 年3月) - 37 - 一方、地熱専門家・開発事業者側は、温泉に影響がな い地下構造、かつ持続可能な利用量でしか開発許可が下 りないこと、および温泉への継続的なモニタリング調査 により、(降雨など交絡因子を除き)温泉影響との因果関 係が認められたとしても、将来的に温泉事業に影響を及 ぼすまでには時間的猶予があるため、対処可能であると している(図3)。これは、温泉事業への被害よりも厳し い基準、例えば、モニタリング指標が自然変動範囲から 統計的に有意に逸脱する変化がある場合を温泉影響と定 義し4)、このような科学的な徴候を早期に検知することで、 温泉事業者の懸念する温泉枯渇に至るようなことはない との認識であった。しかしながら、万一温泉に影響があ った場合、影響の内容(湯量、温度、成分等)や程度、 地下構造の状況により技術的対策は異なるため、リスク 管理に係る統一的な対策ガイドラインや技術的な対策マ ニュアル、補償・保険制度等は備わっていない。 以上の結果より、温泉への影響の程度や範囲について、 科学的な定義と温泉事業者の認識にギャップがあり、共 通理解が得られていないこと、および温泉井へのリスク 管理対策について情報共有や備えが不十分であることが 示唆された。また、温泉事業者の価値観だけでなく、源 泉の性質や利用状況、顧客層の違い等によって、リスク・ 便益認知や利害が大きく異なることが明らかとなった。 2) 便益認知 モニタリングや技術支援:一部の温泉事業者は、地熱発 電開発により、温泉井へのモニタリングや技術支援を期 待し、温泉の維持・管理コストの低減や持続可能な温泉 資源の管理向上を便益と感じていた。一方、立地地域周 辺に温泉事業者数が多い場合、モニタリング箇所は限ら れることや、全ての温泉事業者に同等な技術支援ができ るとは限らない。また、豊富な温泉が供給されている場 合や温泉井にスケールがつきにくい場合、日常的な技術 支援の必要性を感じていない温泉事業者もみられた。 熱水供給:温泉事業者によっては、地熱発電開発による 熱水供給支援を期待している。一方、源泉(鉱泉権)を 保有する温泉事業者のうち、他の温泉事業者に温泉を販 売している場合、発電所からの熱水供給は顧客の競合と なるため、懸念材料(反対要因)の一つになっていた。 作業員の宿泊:一部の温泉事業者は、地熱発電開発によ り、建設や定期点検時の作業員の宿泊を便益として期待 している。一方で、高級温泉旅館や、地理的に離れた旅 館では作業員の宿泊が見込めないため、作業員の宿泊を 全く便益と認知しない温泉事業者もみられた。 地域振興:一部の温泉事業者は、地熱発電開発が地域の 経済効果やまちおこしのきっかけになることを期待して いる。一方、発電所が主な観光ルートから離れている場 合や、電源立地三法交付金が立地地域から離れた場所で 使われることもあるため、立地地域周辺の住民が直接的 な便益を感じにくいという懸念もあった。 以上の結果より、開発事業者側が温泉への直接的な便 益と想定している内容(図1)は、温泉事業者や地域状況 により大きく異なり、一概に便益になるとは限らないた め、公平性の確保が重要であることが示唆された。 図3 地熱発電開発による温泉への影響判定プロセス例 地熱井、温泉井の モニタリングと予測 影響評価 リスク評価 リスク対策 指標に 有意な変化 因果関係 交絡因子の排除、 リスク判定 温泉の日常的な維持・管理 源泉 浴用利用 温泉に影響を及ぼす交絡因子 ・自然変動(季節、降雨、地震等) ・人為的変動(井戸の状況、工事等) 適温に調節し、 顧客に提供 温度、成分 湧出量 (高温の場合、加水・さます等、 低温の場合、加温など) 技術的対策 4. まとめ 本調査結果により、利害関係者間には様々なリスク・ 便益認知ギャップが存在することが明らかとなった。特 に、温泉への将来的なリスクの懸念に対応していくには、 影響の有無に関する科学的な共通理解だけでは解決でき ない点が示唆された。このため、万一影響があった場合 の具体的なリスク対策オプション(低減・回避・保険等) を予め情報共有・協議し、相互理解と信頼関係の向上が 必要である6)。地域共生の必須要件としては、温泉事業な ど地域固有の状況と公平性を十分考慮した上での開発が 重要と考えられた。 今後、新規調査・開発では自治体の役割が重要となる ため、自治体側のリスク・便益認知や開発手続き上の問 題と改善策を明らかにしていく。また、今回の調査では、 対象地域や温泉事業者数が限られるため、対象者数を増 やした調査により結果を検証する。 謝辞 ヒアリング調査や資料提供等に多大なるご協力を頂い た関係者の皆様に深謝の意を表する。 参考文献 1) Bertani, R., Geothermics, 41 (2012) 1-29.
2) Kelly G., Renewable and Sustainable Energy Reviews, 15 (2011) 2501-2509. 3) 飯島浩樹, NICHIGO ONLINE, (2011) http://nichigopress.jp/nichigo_news/goleaks/25946/ 4) 松山一夫ら, 地質ニュース, 665 (2010) 28-35. 5) 日本地熱学会報告書, (2010). 6) 窪田, 地熱資源開発に係る温泉・地下水への影響検討会(第 3 回) (2011) http://www.env.go.jp/nature/onsen/council/chinetu/03/mat_03.pdf