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まちづくりカフェの実践から考えた大学の役割

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Academic year: 2021

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(1)Title. まちづくりカフェの実践から考えた大学の役割. Author(s). 齋藤, 征人; 金, 鉉善; 根本, 直樹. Citation. 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 71(1): 79-92. Issue Date. 2020-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/11371. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第71巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Humanities and Social Sciences)Vol. 71, No.1. 令 和 2 年 8 月 August, 2020. まちづくりカフェの実践から考えた大学の役割 齋藤 征人・金 鉉善*・根本 直樹** 北海道教育大学函館校社会福祉学研究室 *. 北海道教育大学函館校法学研究室. **. 北海道教育大学函館校地域学研究室. The Role of the University in Community Development(Machizukuri Cafe) SAITO Masato, KIM Hyunsun* and NEMOTO Naoki** Department of Social Welfare, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education *Department of Law, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education **Department of Regional Studies, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 人口減少および少子高齢化にともなう社会の変化とどのように向き合うべきかが喫緊の課題 となっているなかで,「地域の力」「地域住民の主体性」がその対策のカギとして注目されつつ ある。 「地域のことは地域で対応する力」「自治の力」をどのように引き出していくか。これま での行政依存から脱皮すると同時に,住民主体による地域組織化活動がこれまで以上に求めら れるようになったといえよう。そこで,本稿では,ないものねだりではなくあるもの探しをそ の根底に置いている「地元学・地域学」から「これからの地域のありよう」を模索するために, 江差町の「まちづくりカフェ」のケーススタディを通して,多様な住民をエンパワメントする 地域の互助体制づくりを試みた。そこから, 「地域住民」「行政」「大学」の関係性を再発見し, とりわけ,これからの大学の役割は,大学生の育成のみならず社会人学習や生涯学習という「学 び合い」を通した「場づくり」であることを確認した。. はじめに 1 2 3 近年, 「地方創生」 「一億総活躍社会」 「地域共生社会」 などの施策が次々と出されているが,これらの施. 1  地方創生の引き金となったのは,いわゆる「増田レポート」ないし「増田ショック」であるといわれている。 2  詳細については,首相官邸のホームページを参照。 3  詳細については,厚生労働省「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部(2017)の「 「地域共生社会」の実現に向けて(当. 79.

(3) 齋藤 征人・金 鉉善・根本 直樹. 策の背景には,加速する日本の人口減少および少子高齢化がある。さらに,2025年は団塊世代が75歳以上の 後期高齢者になる年でもあるため,人口減少社会および少子高齢化社会とどのように向き合うべきかが喫緊 の課題となっている。 このような人口構造の変化のなかで,「地域の力」「地域住民の主体性」が注目されつつある。とりわけ, 2016年の厚生労働省の「『我が事・丸ごと』地域共生社会実現本部」の設置により本格化された「地域共生 社会」施策が, 「制度・分野ごとの『縦割り』や『支え手』『受け手』という関係を超えて,地域住民や地域 の多様な主体が『我が事』として参画し,人と人,人と資源が世代や分野を超えて『丸ごと』つながること で,住民一人ひとりの暮らしと生きがい,地域をともに創っていく社会」(厚生労働省「我が事・丸ごと」 地域共生社会実現本部 2017:2)の実現を目指していることからも理解できる。 「地域のことは地域で対応する力」をどのように引き出していくかが問われている。言い換えると,これ までの行政依存から脱皮すると同時に,住民主体による地域組織化活動がこれまで以上に求められるように なった。これは,ないものねだりではなくあるもの探しをその根底に置いている,地元学・地域学4からヒ ントを得ることができると考えられる。 そこで,本稿では,「これからの地域のありよう」を模索するために,ケーススタディを通して,「地域住 民」 「行政」 「大学」の関係性を探る。 第1章(金)では, 「地元学」から見る「地域福祉」を取り上げる。地域が抱える最優先課題の一つとして, 地域福祉が挙げられる。それは,地域住民の生命と暮らしにかかわる事柄であるためであろう。そして,両 者は, 「地域のことは地域で」という共通の認識のもとで,地域にいる人びとが地域の課題を正確に把握す ることを第一とする。 第2章(齋藤)は,多様な住民をエンパワメントする地域の互助体制づくりを試みた「ケーススタディ」 の実践報告である。地域が「地域福祉」を担うためには, 「住民と行政との連携」および「住民同士の連携」 が求められるといわれているが,これらの連携をどのように図るべきか。筆者らが所属している北海道教育 大学函館校(以下, 「函館校」という)は,2015年6月に「国立大学法人北海道教育大学函館校と江差町と の相互協力に関する協定書」を取り交わしたことを契機に,2016年度から地域協働推進センターの活動の一 つとしてソーシャルクリニック事業をスタートさせた。ここでいうソーシャルクリニックとは,地域課題を 診断し,その課題解決のための処方箋を検討,課題解決策を実施し,必要であれば処方箋の修正を行うといっ た一連のプロセスを想定した試みである。本章では,このソーシャルクリニック事業の一環として行われて いる江差町のまちづくりカフェを取り上げて,事業開始から3年間の取り組みをまとめる。 第3章(根本)では,江差町のまちづくりカフェの実践を振り返ることで,函館校がどのような役割を果 たしたのかを客体視し,これからの地域における大学の役割を模索する。 最後に, 江差町のまちづくりカフェの実践による成果と課題をまとめることで, 「地域住民」 「行政」 「大学」 の関係性を探る。. 第1章 「地元学」から見る「地域福祉」 1. 「地元学」とは 地元学は,吉本と結城によって始められ,その後,全国のまちづくりやまちおこし等に広がりつつある。. 面の改革工程)」を参照。 4  筆者らは,「地元学」と「地域学」を同義として捉える。以下同じ。. 80.

(4) まちづくりカフェの実践から考えた大学の役割. 吉本による地元学は,水俣病問題の解決と水俣病で疲弊した町の再生を環境からはじめようと水俣病患者 もいっしょになってみんなで取り組んだ「水俣地元学」がその始まりである(吉本 2008:2)。 水俣病のことを外の人たちが調べてくれた。でも,住んでいる私たちはくわしくならなかった。だか ら,下手でもいいから自分たちで調べていこう。まず自分たちで調べて,どうしてそうなのか考え,い まに役立てていこう。そのためにはまず自分たちで調べないとだめだ。自分たちのことは自分たちでや るという自治する力を根本にすえないかぎり,持続的な取り組みは不可能だ。 . (吉本 2008:3). 結城(2009:14)は,地域とはさまざまな思いや考え方,そして多様な生き方と喜怒哀楽を抱える人々の 集まりであり,誰もがその暮らし,その地域をよくしたいと思っているが,それらを出し合う場が失われて いるのも地域の現実であると指摘したうえで,以下のように述べる。 「地元学」とは,そうした異なる人びとの,それぞれの思いや考えを持ち寄る場をつくることを第一 のテーマとする。理念の正当性を主張し,押しつけるのではなく,たとえわずらわしくとも,ぐずぐず とさまざまな人びとと考え方につき合うのである。暮らしの現場はいっきに変わることはない。ぐずぐ ずと変わっていくのである。わが町にはほかに誇れるものは何もないと嘆き,「ないものねだり」の愚 痴をこぼすより,暮らしの現場の足元の「あるもの探し」をしてみよう。 . (結城 2009:14). 吉本による地元学にも,結城による地元学にも,上述の「地域のことは地域で」という考え方がその根底 にあるといえよう。そして,その構成員である地域住民に対して何かやってみようと呼びかけている。この ような地元学の考え方は, 「地方創生」「一億総活躍社会」「地域共生社会」のさまざまな施策だけではなく, 地域が抱える地域福祉の課題においても注目に値するであろう。 2. 「地元学」から見る「地域福祉」 2000年に改称された社会福祉法第1条は,「この法律は,社会福祉を目的とする事業の全分野における共 通的基本事項を定め,社会福祉を目的とする他の法律と相まつて,福祉サービスの利用者の利益の保護及び 地域における社会福祉(以下『地域福祉』という。)の推進を図るとともに,社会福祉事業の公明かつ適正 な実施の確保及び社会福祉を目的とする事業の健全な発達を図り,もつて社会福祉の増進に資することを目 的とする」と定めている。すなわち,「地域福祉の推進」を初めて明文化したのである。 そもそも, 「地域福祉」とは何か。宮城(2010)は,その源流は,19世紀後期のロンドンにおける慈善組 織化運動やセツルメント運動などにうかがえるという。さらに,これらの運動は,アメリカに渡り,社会改 良運動の広がりのなかで慈善組織協会が設立され,1910年代にケースワーク,30年代にグループワーク,40 年代にコミュニティ・オーガニゼーションが理論化・体系化されたという(宮城 2010:2)。なお,日本に おいて,地域福祉という用語が使用され始めたのは1960年頃からで,一般的に使用されたのは1970年以降で ある(山本 2017:2) 。 「多様なニーズを持つ人々が地域の中で生活していけるように支援していく」こと を掲げていたイギリスのコミュニティケアの概念から,日本の地域福祉が生み出されたという(山 本 2017:2) 。 このように誕生した日本の地域福祉は,当初は個人の問題として取り扱われる傾向が顕著であった。つま. 81.

(5) 齋藤 征人・金 鉉善・根本 直樹. り, 「各法制度は,金銭的な援助,身体的自立への支援,就労支援が中心で,高齢者・障害者へのケアなど も家族内による『自立・自助』が基本であって,それが不可能な場合に,行政が援助するということが原則 であった」 (山本 2017:4) 。それが日本経済の急成長と共に「施設福祉」へと変化し,その後,ノーマラ イゼーション理念5の影響から「在宅福祉」へとさらに変化した。しかし,上述したように,日本社会の少 子高齢化とそれに伴う変化により, 「在宅福祉」はさらに変化を余儀なくされたのである。いわゆる,老老 介護(あるいは老老看護)や認認介護からシングル介護といったさまざまな問題が複雑に絡み合い,現在は 地域福祉における「住民主体の地域づくり」が注目されつつある。 同時に,地域福祉という概念が社会福祉法に盛り込まれてから20年が過ぎた現時点で,「地域」の重要性 について改めて振り返る必要性が一段と高まっている。具体的には,どのように住民と行政をつなげるか, そして,そのなかで住民同士の連携をどのように図るべきかが問われている。その答えは,それぞれのアク ターが地域社会の変化についてリアリティ6を持つことから始まるといえよう。そのためには,話し合いの 場を設けることが必要不可欠であるし,さらに,そこから小さくても「下手でもいいから」何かをやってみ ようという行動へのつながりが大切であろう。つまり,上記の吉本および結城による地元学は,地域福祉の 活動において重要なヒントを与えている。 3.話し合いの場づくり 前節で述べたように,地域福祉における「住民主体の地域づくり」が注目されているなか, 「住民と行政」 「住民同士」の話し合いの場をどのように設けるのかが第一のテーマとなっている。 岩崎・高野(2010)は, 「場の教育」について,土地に根ざした教育のプロセスから,以下のように述べる。 土地に根ざした教育とは,地域に学び,学びの主体が変えられ,今度は地域づくりの広い意味での担 い手として,地域に働きかけ地域を変える。そして変わった地域から再び学び,自分の認識の更新を通 して, その思いが再び地域にはねかえる。こうしたフィードバック・システムが繰り返されるところに, 土地に根ざした教育の特色がある。この土地に根ざした教育のプロセスが〈場の教育〉である。 . (岩崎・高野 2010:134-135). 井上(2011)は, 「地域住民が地域への『誇り』を醸成するためにはどうすればいいのか」について以下 のように述べる。 地域に暮らす人は地域のことを当然知っていると思いがちだが,身近にあることだけに,ただ何とな く知っているつもりでいるだけで,深くは知らないことが多い。外の人から尋ねられることで知ってい ると思っていたが実は説明できなかったり,外の人から誉められることで,当たり前の風景がとても素 晴らしいものであることを知ったり,地域の歴史を知ったりするという場面がよくある。 地域に関わる住民が自らの地域に目を向けて,実際に地域を歩いたりしながら,自分の住む地域の歴 5  デンマークは,社会福祉の理念「ノーマライゼーション」の発祥の国である。 「障害のある人も普通の住居で普通の暮ら しをする権利があり,社会がそのための環境を整えなければいけない」という思想で,知的障害者行政に携わった行政官で あったバンクミケルセン(1919〜1990)が提唱し,1959年に法律に盛り込まれた(「デンマークの社会福祉」朝日新聞2013 年01月31日朝刊)。 6  筆者のうち根本および金は,別稿において, 「地域住民のリアリティ」 について強調している。詳細については, 根本 (2006) および金・根本(2018)を参照。. 82.

(6) まちづくりカフェの実践から考えた大学の役割. 史や文化,産業,自然などを見つめ直し,あるいは地域で長年暮らしてきた人々に地域の魅力や可能性 を発掘する「地域学」や,地域の将来を担う子どもたちが,地域の「名人」と呼ばれる職人さんやお年 寄りなどにインタビュー形式で地域の暮らしの知恵・技や彼らの生き方を取材・記録する「聞き書き」 に取り組むことが,地域住民の地域への「誇り」を取り戻し,地域再生の担い手を育成する上でとても 有効な手法と考えられる。 . (井上 2011:100-101). 言い換えると,土地に根ざした教育のプロセスから表される「場の教育」は,結局のところ,自分の認識 の更新であり,主体性をもつ地域の担い手の育成へとつながっているといえよう。加えて,ここで求められ るのは,異見に耳を傾けること,そこから自らの「まち」の物語を創生していくことである。 そこで,筆者らは,地元学の観点から江差町の「まちづくりカフェ」に関わり,多様な住民をエンパワメ ントする地域の互助体制づくりを試みた7。. 第2章 多様な住民をエンパワメントする地域の互助体制づくり 1.江差町のまちづくりカフェに向けての展開:まちづくりカフェの3段階 第1フェーズは,地域のニーズ(とりわけ地域で暮らす高齢者の困りごと)と向き合い,互助による解決 可能性について情報交換・検討する段階である。まずは,地域住民に,自分たちが暮らすまちの現状や地域 の生活課題に向き合ってもらう。これら地域生活課題への対策を「予算ゼロ」で,地域住民相互の工夫によっ て解決できる手立てを考えてもらうアイディア出しを試みる。 第2フェーズは,地域のニーズを解決・低減するための互助の体制や仕掛けについて,具体的な対策を検 討し,解決に向けた取り組みを試行する段階である。第1段階は,地域生活課題の洗い出しと,それへの対 策についてアイディア出しをする段階だったが,ただ話し合っているだけでは,せっかく湧き出た課題解決 へのモチベーションを維持することが難しい。住民意識の中には「いつも行政の話し合いだけに駆り出され, 課題解決には進まない」などという慢性的な徒労感のようなものがある。課題解決への取り組みに地域住民 たちの手で取り組んでもらい,予算ゼロでも課題解決への一歩が進みだせる実感をもってもらうために,こ の「試行」段階の設定は極めて重要なポイントである。 第3フェーズは,互助体制の試行結果を踏まえた改善を進め,一部地域(局所的)であっても,地域課題 を解決するためのシステムを構築する段階である。この段階に移行するには,大きなエネルギーを要する。 試行段階では,試行を試みたプロジェクトチームのいわば「サークル」的な意識で事業(ないし試行)を済 ませることはできるが,これを互助による地域の課題解決システムに昇華させるためには,プロジェクトチー ムがチームの構成員以外の第三者の暮らしや困りごとにも目を向け,寄り添って行こうという意識が必要で ある。 こうした志の高いプロジェクトチームの「団体化」も必要となろうから,この段階へ一歩踏み出すために は,まさに行政のバックアップも重要だろう。ただ,従来,行政が成果を求めるあまり,住民にサービスし 過ぎてきたのとは異なり,住民の主体的な互助システムづくりに黒子としてサポートするという立場になっ. 7  筆者のうち齋藤は,大学によるソーシャルクリニック事業の一環として行っている「江差町のまちづくりカフェ」の責 任の一旦を担っている。これに筆者の根本と金も参観した。なお,この江差町のまちづくりカフェの中間報告として齋藤に よる論文が存在するが(齋藤 2018),本稿の第2章はその続編となっている。. 83.

(7) 齋藤 征人・金 鉉善・根本 直樹. ていることが重要であり,これまでとは全く異なる立ち位置なのである。 2.江差町のまちづくりカフェの実践:まちの力が集結する3年間 江差町は北海道の南西部に位置し,人口はおおよそ8千人である。そのうち,65歳以上の人口割合は30% 程度である。主な産業は,農業,林業,水産業などで,かつてはニシン漁に賑わった港町でもある。 江差町の「まちづくりカフェ」は,自分たちが暮らしやすい町にするにはどうしたらいいか,地域の互助 体制の強化のためには何が必要か,多様化する地域の生活課題を住民の互助によって対応していくための学 習と意見交換の場として誕生した,ソーシャルクリニック事業の一つである。4グループに分かれて,ひと グループ当たりの人数は6~10人程度,議論の時間は60分。参加者は町内会の役員や民生委員といった人に 限らず,中高校生から,大学生,現役世代,シニア世代と幅広い。会場には落ち着いた雰囲気のBGMを流し, コーヒー,紅茶,ジュースなどの飲み物やスナック菓子を用意して,誰でも気軽に立ち寄って話せるカフェ 形式で行った。 グループ1のテーマは「自給自足」。食事を通じた住民同士の交流を目指した。グループ2のテーマは「も のづくり」 。昔ながらの技術を子どもたちに伝承しながら世代間交流を目指した。グループ3のテーマは「江 差ウォーカーズ」。「健康づくりはまちづくり」を合言葉に町内のウォーキングやラジオ体操を通じた互助体 制づくりを目指した。最後のグループ4のテーマは「蔵」。3年目のまちづくりカフェの会場となった「皐 月蔵」をより活用しやすい拠点にしようと検討を始めた新しいグループである。話し合いのテーマは,参加 者自らが決める。同時に,コーディネーターは,その話し合いで互助が意識できるよう働きかける。この3 年間の活動で,われわれは町の可能性をともに感じることができたといえよう。 以下では,実践報告,とりわけ,まちの力が集結する3年間の取り組みについて年度ごとにまとめた。 ⑴ 2016年度 Season-1 まちづくりカフェは,当初1~2回のみの開催予定だったものが,地域住民や地域包括支援センターの職 員との意見交換を重ねるうち,3回→5回→6回と回を重ねてきた。これまでは全町的な議論を重ねても単 年度の事業が多く,開催当初,一部の住民からは後ろ向きの発言も聞かれた。そのため,次年度以降も継続 して取り組んでいくことと地域協働の意義を繰り返し伝えることで,徐々に地域住民の主体性に「着火」す ることができた。 また,こうした住民の主体的な声から,地域の子どもたちにも議論に参加してもらおうと,地域包括支援 センターの職員が町内の中学校・高校を回り,丁寧な説明と生徒の参加(教員の引率を含む)をお願いに回っ たことも大きい。子どもたちが参加することで世代間の交流も進んだばかりでなく,議論の内容も豊かに, 前向きになったことは意義深い。 まちづくりカフェという「イベント」は,最終回の成果報告会を経て,参加者によるマザーグループとし ての「まち部」へとステップアップした。世代を超えた「部活動」によって,些細な困りごとを支え合える 地域住民の関係強化と,互助の体制強化を図る狙いがある。この「まち部」発足を記念して,ささやかな「パー ティー」をしようという住民の声から「まち部発足記念パーティー」も開催されるに至った。道内の地域食 堂の草分けである「かあちゃん食堂たまりば」の店主もそうした声を上げた一人である。 このように主体性を取り戻しつつある地域住民の鋭い反応に,地域包括支援センター職員とともに筆者ら が「育てられている」ことを実感する。同じ目標に向かって,持ちつ持たれつ,教えたり教えられたりしな がら,たとえささやかであっても,今まさに芽生えつつある地域協働の歩みを止めないことが肝心である。 上記の結城(2009)も述べているように,地域課題は一朝一夕に解決できる問題ばかりではない。だからこ. 84.

(8) まちづくりカフェの実践から考えた大学の役割. その歩みにしっかり寄り添っていく,関わる者の愚直さと覚悟が求められる。 ⑵ 2017年度 Season-2 まちづくりカフェがスタートした1年目のワークショップでは,身近な地域生活課題にはどんなものがあ るかを自己診断し,それらを住民の手で解決するためにはどんなプロジェクトが考えられるか,いわば地域 生活課題解決のための処方箋づくりを,地域住民×地域包括支援センター×大学の三者による協働によって 試みてきた。ここでいう地域住民には,地元の中高生も含まれ,毎回の議論に広がりと前向きな雰囲気をも たらした。 2年目の主な取り組みは,前年度からの参加者が考えた地域生活課題解決のためのプロジェクト(処方箋) を,実際に試行(治療)してみることで,地域の互助体制の強化に近づけているか,またそれらが住民たち の主体的な声や手によって進められたかについて,自己評価してきた1年であった。 またこの年は, 「カフェ」当日にも毎回多数の見学者が訪れた。世代を超えた活発な意見交換はもちろん, 何より楽しそうな取り組みの様子が印象的だったようである。町内外からの多数の見学者に注目され,メディ アにも取り上げられるようになると,参加者のモチベーションにも少なからず好影響をもたらした。自分た ちが社会的に意義ある活動をしていること,先進的な取り組みの主人公であることを自認するようになると, 活動自体の前向きに活性する。見学した側は,どのようにまちづくりカフェという「道具」をわがまちに使 えば,住民の互助意識を活性できるかについて考えることができ,結果,複数の町で同様の取り組みが試み られている。このことは,まちづくりカフェという方法の汎用性を測る意味でも重要なプロセスといえよう。 ⑶ 2018年度 Season-3 3年目は,会場をこれまでの役場から,町内の「皐月蔵」や「江差中学校」に移行した。住民の主体性や エンパワメントを促進するための仕掛けとしてまちづくりカフェを開催してきたわけだが,その会場設営や 飲み物の準備などは地域包括支援センターのスタッフが総出で行ってきた。役場を飛び出し,あえて不便な 会場で開催することで,トイレは隣の店舗を借りなければならず,駐車場も近隣宅などに協力を求めなけれ ばならない。会場設営・撤収や飲み物の準備にも参加者の協力を得なければならなくなり一見手間だが,そ うした機会を通じて,自分たちのできることで誰かのためになれる取り組みを具体的に実感でき,互助活動 の理解の一助にもなったと思われる。 地域の生活課題を出し合い,互助による解決策を議論するところから始まったまちづくりカフェも,住民 が主体的にかつ楽しみながら活動を展開する過程で,住民主体の互助の仕掛けを考えるという基軸から話題 が逸れることもしばしばであった。3年目の2018年度は,他の住民グループ(地域支え合い協議体等)から の指摘や助言,意見交換等さまざまな機会を通じて,まちづくりカフェでの取り組みがどのように地域生活 課題に関わり,住民の互助活動促進に貢献し得るかについての再確認が迫られ,あらためて「互助」とは何 かを多くの参加者が考えさせられた。 これまで,地域課題を診断し(生活ニーズを分かち合うブレーンストーミング),課題解決のための処方 箋を描き(プロジェクトチームの形成),それに向けた治療(プロジェクトチームの試行)までを,ソーシャ ルクリニックの手法に沿って展開してきたまちづくりカフェだったが,3年目は試行結果を踏まえた再診断 (プロジェクトは住民の互助促進に貢献できているかについての再評価)と,さらに効果的な解決策を実践 するための処方箋修正(地域の生活課題と互助促進に肉薄できるプロジェクトへの修正)へと,ソーシャル クリニック・モデルが提唱する過程を着実に積み重ねてきた。. 85.

(9) 齋藤 征人・金 鉉善・根本 直樹. 3.江差町のまちづくりカフェの振り返り まちづくりカフェの3年間を振り返って,まちづくりカフェ展開のポイントをまとめてみたい。 なぜ「互助」か。既に述べたように,単身独居の高齢世帯が増え,地域暮らしの困りごとを家族や地域で 吸収できなくなりつつある。また,行政も多様なニーズへの対応に限界があるためである。それらの地域生 活課題を地域の互助によって吸収できないとき,公助やより重篤な介護ニーズや生活支援に対して十分な人 手と財源を充てられなくなることが懸念されるからである。 もちろんだが,現役世代,子どもたちなど,できるだけ多様な地域住民に参加してもらえるよう,動員努力を惜し なぜ「多様性」か。同じ属性の人のできる(できない)ことは似ているが,異なる属性の人のそれは異な まない。一定数の動員を維持することは,互助の拡充には必要不可欠である。 るため,支え合える可能性が拡がる。まちづくりカフェでは,地域の互助活動の「主力」となっている高齢 なぜ「主体性」か。従来の行政からのやらされ感・頼まれ感に依存した活動は,行政からの財源が尽きたときそ 世代の参加者はもちろんだが,現役世代,子どもたちなど,できるだけ多様な地域住民に参加してもらえる の活動は停滞する。将来にわたる持続可能性を考えたとき,住民が主体的に互助に取り組みたいと思う,文化のよ. よう,動員努力を惜しまない。一定数の動員を維持することは,互助の拡充には必要不可欠である。. うなものの醸成が必要である。他方,主体者となる側の健康効果は大きく,参加者自身の介護予防にもつながる。. なぜ「主体性」か。従来の行政からのやらされ感・頼まれ感に依存した活動は,行政からの財源が尽きた 困ったことを減らし,自身も将来の「困る人化」を防ぐこともできる。. ときその活動は停滞する。将来にわたる持続可能性を考えたとき,住民が主体的に互助に取り組みたいと思 なぜ「関係づくり」から始めるか。まちづくりカフェは,互助のシステム化を急がない。参加者の馴染み感や,. う,文化のようなものの醸成が必要である。他方,主体者となる側の健康効果は大きく,参加者自身の介護 参加者相互の信頼感を最も重要な基盤としている。その理由は,第一としては互助の意識,文化づくりにあるが,. 予防にもつながる。困ったことを減らし,自身も将来の「困る人化」を防ぐこともできる。 もう一つは,住民の総意と信頼が脆弱な互助システムは,善意はお節介に,見守りや支援も余計なお世話になり, なぜ「関係づくり」から始めるか。まちづくりカフェは,互助のシステム化を急がない。参加者の馴染み 些細なトラブルをきっかけに,その互助システムだけでなく,地域住民間の関係性をも壊す恐れがあるためであ 感や,参加者相互の信頼感を最も重要な基盤としている。その理由は,第一としては互助の意識,文化づく る。 そして最も重要なのは,住民の力を信じることである。地域住民たちは,言うまでもなくその地域の専門家集団 りにあるが,もう一つは,住民の総意と信頼が脆弱な互助システムは,善意はお節介に,見守りや支援も余 である。地域住民たちがそれぞれの持つ得意分野を分かち合えば,可能なことは無限に広がる。必要なのはそれら 計なお世話になり,些細なトラブルをきっかけに,その互助システムだけでなく,地域住民間の関係性をも をマッチングするための場と仕掛けなのである。従来の行政や福祉的な支援は,住民にサービスしすぎてきたと思 壊す恐れがあるためである。 う。住民ができることまでサービスを供給し,もちろん住民に感謝されてきたが,しかし,その結果,地域住民の. そして最も重要なのは,住民の力を信じることである。地域住民たちは,言うまでもなくその地域の専門 できる力を発揮するためのモチベーションやその機会を阻害し,奪ってきたのではないだろうか。. 家集団である。地域住民たちがそれぞれの持つ得意分野を分かち合えば,可能なことは無限に広がる。必要 地域の生活課題を中心に据え,住民と行政が立場を越えて,一人の住民としての立場でしっかりと話し合い,. なのはそれらをマッチングするための場と仕掛けなのである。従来の行政や福祉的な支援は,住民にサービ 各々の得意なことで誰かのためになる役割を分担することができれば,行政にしかできないことは自ずと限られ. スしすぎてきたと思う。住民ができることまでサービスを供給し,もちろん住民に感謝されてきたが,しか てくるだろう。そのことで,限られた人材・財源にあっても,公助を必要としているさまざまな要支援者に,今後. し,その結果,地域住民のできる力を発揮するためのモチベーションやその機会を阻害し,奪ってきたので ともしっかりと行政サービスを届け維持していくことにつながるのではないか。 表1.まちづくりカフェの開催経過(2016~2018年度) 表1.まちづくりカフェの開 催経過(2016~2018 年度) 2016 年度 Season-1 開催日 第1回. 参加者数. 一般 23. 一般 24,学生 18. 第5回 11/22㈫ 第6回 12/13㈫. 一般 20,学生 10. 9/8㈮ 第4回. 計 30 一般 19,学生 16. 10/13㈮ 第5回. 計 35 一般 24,学生 14,見学 26 計 64. ※「学生」には,中学生・高校生・大学生を含む。. 86. 7/14㈮ 第3回. 計 42. 10/17㈫. 6/9㈮ 第2回. 計 23. 9/20㈫ 第4回. 第1回. 計 28. 7/26㈫ 第3回. 開催日. 一般 28. 6/7㈫ 第2回. 2017 年度 Season-2. 11/10㈮ 第6回 12/12㈫. 2018 年度 Season-3. 参加者数. 開催日. 一般 30,学生 13,見学 2 計 45 一般 25,学生 11,見学 2 計 38 一般 30,学生 4,見学 9 計 43 一般 27,学生 9,見学 11 計 47 一般 22,学生 13,見学 8 計 43 一般 20,学生 8,見学 20 計 48. 第1回 5/9㈬ 第2回 6/13㈬ 第3回 7/11㈬ 第4回 10/10㈬ 第5回 11/14㈬ 第6回 12/12㈬. 参加者数 一般 20,学生 7,見学 1 計 28 一般 23,学生 6,見学 1 計 30 一般 20,学生 3,見学 5 計 28 一般 27,学生 2,見学 3 計 32 一般 29,学生 10,見学 15 計 54 一般 23,学生 7,見学 44 計 74.

(10) まちづくりカフェの実践から考えた大学の役割. はないだろうか。 地域の生活課題を中心に据え,住民と行政が立場を越えて,一人の住民としての立場でしっかりと話し合 い,各々の得意なことで誰かのためになる役割を分担することができれば,行政にしかできないことは自ず と限られてくるだろう。そのことで,限られた人材・財源にあっても,公助を必要としているさまざまな要 支援者に,今後ともしっかりと行政サービスを届け維持していくことにつながるのではないか。. 第3章 地域における大学の役割 1.地方創生時代における大学の役割 大学と地域との関係性の重要性は,天野(2003)による「国立大学と地域貢献―新しい展開」の講演から も理解できる。 国立大学は今,法人化を巡って大きな転換期に立っておりますが,その中で重要なテーマの一つになっ ているのが地域社会との関係ではないかと思います。考えてみれば,地域社会に支えられない,地域社 会の支援を受けられない大学というのは,地域に存在しないのと同じです。地域の中に生きている大学 の強さが,これからますます重要視される時代になっていくのではないかと思います。 . (天野 2003:12). また,小松(2006:14,18,41-42)は,「大学としては,地域を軽視したり,無視したりすることがで きなくなっている。大学は地域の支援,協力を必要とし,同時にその支援,協力に応える意味でも,教育も, 研究も学費を納める学生のみでなく,また既存のキャンパス認識を越えて,地域や住民をも視野に入れて対 応する時代になっている。」と大学地域論についての認識を示し,「研究も教育も,しばしば教員の観念・理 念のなかで描かれた図式や全体認識の下で,地域や地域住民を欠いたまま,主に全体や中央への関心からと り行われてきた面が強くみられた」これまでの現状の変更を求めると同時に,教員が「研究・教育の私物化 を克服して自らを越えて大学と地域を重視できるか」について問いかけている。 さらに香川(2016:46)は,地方創生時代の大学開放の視点から「大学が地域社会の課題解決に取り組む ことは,国民の生活の身近な問題の解決に取り組むことであり,特に地方創生の時代においては,大学開放 にはこれまで以上に積極的な役割が期待されてくることになる。」との考えを示唆するとともに,より具体 的な内容として「大学開放の一番の目的は知識の習得による人間性の向上にあり,社会構造の変革はそれに 付随するものであると考えるならば,大学開放が生活問題に主体的に対応する市民としての自覚を涵養する ことは,地方創生における地域社会の活性化の核となりうるものである。」と生涯学習社会を基盤としたシ チズンシップ教育による市民力の向上に大学の役割があることを説明している。 また,2015年には, 「地(知) 」の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)が発表され,大学COC事 業による「地方創生」という国家的課題に大学が地域社会と連携し,対応していくことへの期待が明確に含 まれたことも解説している。つまり,これまで以上の大学の教育・研究における社会性を求めているのであ る。 柳澤(2019)は,福島県玉川村での実践から,地方創生事業における大学の連携について,以下のように 述べる。 地域づくりの主体はあくまで地域住民である。大学はあくまでも住民による地域づくりをサポートす. 87.

(11) 齋藤 征人・金 鉉善・根本 直樹. るものでしかない。大学が行う調査や提言はあくまで「参考」であり,何を実行するのかは,地域住民 が立案し,決定しなければならない。そして,それを実行するにも地域住民自身である。 地域づくりを行うためには,①地域支援を目的とした調査と実態把握の実施,②調査結果の公表と地 域を主体とした対策の検討,③地域住民による意思決定と実行,④行政による計画の評価と支援,が必 要であり,これらがかみ合うことによって初めて効果的な地域づくり活動を行うことが可能となる。こ のうち,①と②の役割を期待されているのが大学であると考える。 . (柳澤 2019:167-168). すなわち,地域づくりにおける大学と地域住民との距離感と地域住民の自律性を求めるとともに,大学の 役割分担を説明している。 2.ソーシャルクリニックから見えてきた函館校の役割 上述の地方創生時代における大学の役割を踏まえながら江差町の「まちづくりカフェ」の実践の振り返り を客体視する。 萩原(2016)は,文部科学省による2013年のCOC事業の通達について,これまでの大学の問題点を以下 のように紹介している。 ・大学等の教育研究が,地域の問題解決に十分応えていない。 ・地域と教員個人のつながりはあっても,大学等が組織として地域との連携に取り組んでいない。 ・学生が大学等で学んだことが,地域に出てから役立っていない。 . (萩原 2016:21-22). 函館校のソーシャルクリニックは,これらの問題点に応えるべき内容を意識したものである。筆者らが特 に江差町のまちづくりカフェで注目した大学の役割の具体例は,次の3点である8。 一つ目は,地域協働推進センターを設置した際の事業として個人から組織化を誘発した点である。つまり 大学の事業が「国立大学法人北海道教育大学函館校と江差町との相互協力に関する協定書」をとおして具現 化したことの意味でもある。この点について参加者は,「教育大という大学が地域づくりに関わることが新 鮮でした」や「まちづくりカフェのスタッフと先生が何度も話し合いをしながら,これまでの成果とこれか らの課題を確認し合いながら進めていたようで,大切なことですが,そんなことをしていただける教育大の 存在が魅力的です。」との感想を得ている。 二つ目は,筆者らのうち,まちづくりカフェの助言に当たった社会福祉を専門とする教員は,ソーシャル クリニックの治療について積極的ではなかった。社会福祉学において専門家としての治療はしないことが定 説になっているからである。この課題を,住民の主体性を優位とする「セルフクリニック」という対処法に よって克服したのである。つまり,専門性の拡張性が地域貢献によって教育・研究に期待されることが理解 できる。この点について敷田(2010:54)は,「地域づくりにおけるゆるやかな専門性とは,あくまで地域 資源の観点を持って,つまり地域資源やそれを擁する地域社会側に立って,資源と利用者の関係性を構築す ることである。 」と専門性の変容形態を求めている。 三つ目は,萩原(2016:45)が指摘している,「地域の自治体の計画立案や施策の中に,大学の位置づけ 8  江差町のまちづくりカフェに対する感想および意見等は,筆者らの聞き取りによった。以下同じ。. 88.

(12) まちづくりカフェの実践から考えた大学の役割. が明確にされていることも必要です。 」とのまちづくりにおける大学(教員)の立ち位置の明確化である。 それとともにその事業の運営を支援することが大切である。つまり,コーディネート力である。行政の担当 者のひとりは, 「まずは,地域包括支援センターへの影響です。この生活支援体制整備事業は,どの市町村 も行ったことがない初めての事業であり,更に各市町村にその裁量は任せるという道標がない事業でした。 そんな中,事業の趣旨に合わせて,江差町に合う独自の手法を考えていく上で多くのヒントを頂くことがで きました。 」とその計画性での支援とともに,「継続的に『まちづくりカフェ』を実施していく中で,どのよ うにしたら町民の皆さんは自ら考え,実行することができるのか?という議論にもなりました。そんな中で, ワークショップの方法やルールの整理等も助言頂き,また前進していくために先生(大学教員)から講義を 頂くことで,次へのステップアップを図れたと感じます。」との事業運営での支援の効果を指摘している。 3.ソーシャルクリニックから見える地域大学のこれから 前述した柳澤(2019)の大学と地域住民との距離感や大学の役割分担についての解釈は理解できる。しか し,まちづくりにおいて理念的な形で上手くいっている地域は限定的である。「まちづくりカフェ」の担当 者のひとりは, 「住民も行政もお互いに,自分ではない見えない誰かが動いてやってくれると思っていて, 見えない存在に依存していると思います。 」と主体的な地域住民が最初から存在することには否定的な見解 を示唆している。 ソーシャルクリニックで大切な要件は,行政と住民との関係性の成熟であろう。その理由は,結城(2009: 13)による, 「都市であれ地方であれ,そこに住む人びとがいつのまにかバラバラになっていて,地域づく りの役割を行政に丸投げしてしまっていて,そのクセから抜け出せないでいる。一方,住民から託された地 域づくりの専従者である行政も,そこに暮らす人びとの声に耳を傾けることは少なく,有識者や霞ヶ関など の暮らしの現場からもっと遠い人びとの考えや思惑に支配され,画一的なものを押しつける結果になってい るような気がする。」との指摘にあるように,関係性の修復がそれ程進展していないのである。 つまり, 「まちづくりカフェ」の担当者のひとりの「地域包括支援センターが思っていた以上に町民の皆 さんの反応が良かったことやプラス思考の考え方が多かったことが継続していくきっかけになったと思いま す。要するに町民の皆さんのことを真に理解できていなかったのではないかと思っています。」との振り返 りや,参加者のひとりの「この取り組みには今社会が抱えている多くの課題についてどのように取り組んで いったらいいのか,そんなヒントが隠されていることに気が付きちょっとビックリしました。」との意識の 高さなど行政サイドの住民への理解不足が検知できる。その原因は,行政と住民との対話が十分ではなかっ たことの証左でもある。 さて,まちづくりカフェの事業の関連から「地方創生時代における大切なことはなにか」について質問し た。その応答として担当者のひとりは「一つの分野が充実しても地方は創生されません。先人の知恵から生 まれる新たな物を作ったり,工夫したり,相互に刺激し合うことで,地方が活性化されると思っています。」 や,参加者のひとりは「江差の文化や歴史に面白さを感じ行動する人間が多くいる。地域に対するアイデン ティティーが高い地域,そこから何かが始まるような気がします。」と応えてくれた。このような姿勢は, 地域学の考え方でもある。廣瀬(2007:81-82)は,地域学・地元学について「教わるものというよりは, 一貫して学びを通じて自分の暮らしやこの地に生きることの意味を問い直し,そのことを通じて地域を変え ていく主体を形成しているはたらきと考えることができる。」と説明している。 このような地域学を基盤とした生涯学習社会の必要性を認知するとともにその達成に大学が支援すること が求められている(図1参照)。このことは,萩原(2016:23)が指摘している「大学と地域連携が『連携 協定書』 という書類だけのものに終わらせないためのコーディネーターの発掘と育成は,国家的な課題と言っ. 89.

(13) 図1 ソーシャルクリニックのイメージ 齋藤 征人・金 鉉善・根本 直樹 図1 ソーシャルクリニックの イメージ. 課題. 地域社会 課題. 地域社会. 実践. ⼤学. 実践. ⼤学. 調査・研究. 市⺠. 市⺠. 調査・研究. 市⺠. 市⺠. ⾏政. 課題. ⾏政 課題. ⽣涯学習社会. 市⺠. ⽣涯学習社会. 市⺠. 図1 ソーシャルクリニックのイメージ 図2 大学(教 員)のコーディネーターのイメージ. 図2 大学(教員)のコーディネーターのイメージ 教員 研究軸 教員 研究軸. 教 育 軸. コーディネータ 教 育 軸 コーディネータ 学生 地域 学生. 地域. 地域連携軸 地域連携軸. 図2 大学(教員)のコーディネーターのイメージ. 最後に担当者のひとりは, 「まちづくりカフェのこれまでの歩みとこれからということでは,どう進ん て過言ではないと思う。」 との文言とも関連し,担当者のひとりは 「専門性の高い先生方から効果的なアプロー. きかについては理解しているのですが, なかなか思うように進まない憤りみたいなものがあります。思っ チを受けた上で,町として総合的に高めていくには,総合的にコーディネートする役割の任務を担う人や係 最後に担当者のひとりは, 「まちづくりカフェのこれまでの歩みとこれからということでは,どう進んでいくべ 動かない…悩みます。 」と事業の進展からくる苦悩を吐露している。ここに筆者らは,リカレント教育の や課等が,町の中には必要だと感じています。 」との期待感とも一致している。もちろん大学においても教 きかについては理解しているのですが, なかなか思うように進まない憤りみたいなものがあります。思ったように. ソーシャルクリニックの往診の重要性も確認したのである。 また,参加者のひとりは「担当課の仕事とし 員の同様な育成も求められている(図2参照) 。 動かない…悩みます。 」と事業の進展からくる苦悩を吐露している。ここに筆者らは,リカレント教育の必要性と かりでなく地域の一員としてまちづくりに関わる方が多くなってほしい。それは役場ばかりでなく多く 最後に担当者のひとりは, 「まちづくりカフェのこれまでの歩みとこれからということでは,どう進んで ソーシャルクリニックの往診の重要性も確認したのである。 また,参加者のひとりは「担当課の仕事として行うば. ついて言えることですが,今の社会,働き方改革と言いながら幅広く地域との関わりを推奨する職場態勢 いくべきかについては理解しているのですが,なかなか思うように進まない憤りみたいなものがあります。 かりでなく地域の一員としてまちづくりに関わる方が多くなってほしい。それは役場ばかりでなく多くの職場に していかなければなりません。 」とのシチズンシップ教育を想起させる考え方を提示している。 思ったように動かない…悩みます。 」と事業の進展からくる苦悩を吐露している。ここに筆者らは,リカレ ついて言えることですが, 今の社会,働き方改革と言いながら幅広く地域との関わりを推奨する職場態勢へと改善 ント教育の必要性とソーシャルクリニックの往診の重要性も確認したのである。また, 参加者のひとりは「担 していかなければなりません。 」とのシチズンシップ教育を想起させる考え方を提示している。 当課の仕事として行うばかりでなく地域の一員としてまちづくりに関わる方が多くなってほしい。それは役 場ばかりでなく多くの職場について言えることですが,今の社会,働き方改革と言いながら幅広く地域との 関わりを推奨する職場態勢へと改善していかなければなりません。」とのシチズンシップ教育を想起させる 考え方を提示している。. 90.

(14) まちづくりカフェの実践から考えた大学の役割. おわりに 地方創生の時代とは,地方で生き抜いていくことの難しさを表象している。だからこそ,地域学の理念の 「自分たちのことを自分たちでやるという自治する力」が問われている。戦後の混乱した社会から高度経済 成長期を経験して誰もが目指した豊かな平準化した生活を手に入れることができた。現在はそこに内包され た負の要素によって社会問題の解決を難しくしている。まさに分断された社会の「自治の力」の衰退に対す る処方箋を模索しているのであり,江差町のまちづくりカフェはその実践でもある。この実践による成果と 課題について触れることにする。 成果の一つは,地域住民と行政と大学との連携を土台にした「信頼の醸成」による住民の成長である。4 年目において,参加者のひとりは「俺たち方向間違っていたかもしれない。まちづくりカフェにたくさんの 人を増やそう増やそうとして外ばかりに目が向いていたけど,せっかく集まっている仲間がこんなにいたこ とに気が付いた。まずは,ここにいる仲間が手と手を繋いで力を合わせること。そして,小さい活動でも地 道にやっていくこと」の気づきを見出している。担い手としての可能性である。 二つめは参加者の感想に,「まちづくりの企画を実行する。そのことを面白がっているところに江差の良 さを感じます。また,そこに中学生や高校生も自然に参加する。年配者はその参加に元気をいただくという 世代間交流が自然と行えている。江差のコミュニティづくりの土台がそこにあるような気がします。」と, これからのまちづくりの多様性を具現化した行政の役割に担い手としての希望が見える。 三つめは, これらの住民の成長を支援したのが大学教員である。齋藤は,江差町のまちづくりカフェのコー ディネーターとして「信頼」を得るばかりでなく,現場でのリカレント教育の実践者でもあったのである。 加えて,根本は地域学の観点から,金は法学の観点から3人で現場での経験を踏まえ議論を重ねて本論をま とめたのである。このことは単に実践を研究にまとめることだけに留まらず,地域住民・行政の考えをアー カイブする意味合いも重要だと思われる。担い手としての大学がある。 課題についてもふれておきたい。最近多くの分野で「主体性」が問われている。江差町のまちづくりカフェ でも住民の主体性をどこに見いだすかは意見が分かれる。実践に伴う自主性と主体性の違いに留意したい。 仮にここでは, 「自主性を基盤にまちづくりの担い手になること」と提起しておきたい。具体的に言えば, 2章の最後でふれた「新しい公共性」の内容を見出し実践することで主体性を獲得できるのではと想像して いる。 最後に,大学の役割は地域が求めるニーズによって異なるし,地域の特色によっても違ってくる。大切な 要点は,大学と大学教員が地域課題の解決に向けて「新しい公共性」を共に創りあげる姿勢が求められてい る。同時に,積極的に大学開放を通して,それを地域住民ないし行政と共有することであろう。そのために は,大学生の育成のみならず社会人学習や生涯学習という「学び合い」を通した「場づくり」が求められる のである。江差町のまちづくりカフェは,そのリアルな表現であったのである。. 引用・参考文献 天野郁夫(2003)「国立大学と地域貢献―新しい展開」 『地域貢献推進大学シンポジウム 国立大学の地域貢献における課題と 展望 講演録集』国立大学地域貢献ネットワーク,12頁。 井上健二(2011)『地域の力が日本を変える』学芸出版社,100-101頁。 岩崎正弥・高野孝子(2010) 『場の教育―「土地に根ざす学び」の水脈(シリーズ地域の再生) 』農山漁村文化協会,134-135頁。 香川重遠(2016)「地方創生時代の大学開放」『大学はコミュニティの知の拠点になれるのか』ミネルヴァ書房,46頁。 金鉉善・根本直樹(2018)「日本の地方創生の現況-今後の韓国地域政策への示唆を中心に-」翰林大學校日本學研究所『翰. 91.

(15) 齋藤 征人・金 鉉善・根本 直樹. 林日本學』第33輯,5-27頁。 小松隆二(2006) 「大学にとって地域とは何か-大学と地域関係の基礎」 『大学地域論-大学まちづくりの理論と実践』論創社, 14,18および41-42頁。 厚生労働省「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部(2017) 「 『地域共生社会』の実現に向けて(当面の改革工程) 」 (https:// www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000150632. pdf)(最終確認2020年3月25日)。 齋藤征人(2018) 「多様な住民をエンパワメントする地域の互助体制づくりの展開:まちづくりカフェとソーシャルクリニッ クの試み」『地域福祉サイエンス』第5号,47-54頁。 敷田麻美(2010) 「地域づくりにおける専門家にかんする研究「ゆるやかな専門性」と「有限責任の専門家」の提案」『Jimcts 11』国際広報メディア・観光ジャーナル,54頁。 根本直樹(2006) 「『創造的コニュニティ』をデザインするまちづくりセンター」函館市企画部政策調査課『サリュート・函館』 第6号,13-22頁。 萩原誠(2016)『地域と大学 地方創生・地域再生の時代を迎えて』南方新社,21-22頁。 廣瀬隆人(2007)「地域学・地元学」『農村文化運動』184,81-82頁。 宮城孝(2010) 「第1章第1節 地域福祉の発展過程」社会福祉士養成講座編集委員会(編集)『新・社会福祉士養成講座〈9〉 地域福祉の理論と方法 第2版』中央法規出版,2頁。 柳澤敏生(2019)「地方創生事業における大学の連携 福島県玉川村」 『地域連携活動に実践 大学から発信する地方創生』海 青社,167-168頁 山本美香(2017)「第1章 地域福祉とは何か」山本美香編著ほか『地域福祉の理論と方法 第3版(社会福祉士シリーズ 9)』 弘文堂,2頁および4頁。 結城登美雄(2009)『地元学からの出発―この土地を生きた人びとの声に耳を傾ける(シリーズ地域の再生1) 』農山漁村文化 協会,13-14頁。 吉本哲郎(2008)『地元学をはじめよう』岩波ジュニア新書,2-3頁。. 謝 辞 最後に本論をまとめるに際し,まちづくりカフェを担当した江差町役場高齢あんしん課地域包括支援係の 皆さんと参加された町民の方々に感謝いたします。本論がまちづくりカフェでの地域包括支援係の希望や町 民の頑張りを少しでも表現できていれば幸いです。. 92. . (齋藤 征人 函館校准教授). . (金 鉉善 函館校講師) . . (根本 直樹 函館校教授) .

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