村上春樹初期三部作における<僕>の人物像:―『羊をめぐる冒険』を中心に―
2
0
0
全文
(2) 第一章では『風の歌を聴け』を扱った。ここで. と《依存》の間を行ったり来たりすることとなる。. の/僕〉は死への恐怖感を抱き、死はもとより、. この《孤独感》と《依存》をもっ〈僕〉は、時. 生きる意味をも見出せずにいる。延命治療を施さ. 代の変化(六○年代から七〇年代へ)に堪え得る. れて苦しんで死んだ/」人目の叔父〉、戦争終了. だけの人物ではない。そこで彼は《対応力》とい. 直後に自ら仕掛けた地雷によって死んだ〈二人目. う更なる外殻を形成する。この《対応力》は、〈僕〉. の叔父〉、八○年近く生きながらも何も残さず死. が七〇年代を生き抜くために、また他者との関わ. んだ〈祖母〉らの死の挿話は、意味もなく生きて. りの中で必要なものであった。《対応力》を身に. 老い、死を迎えるという恐1有感を生ませ、強める。. 着けた/僕/は、仕事を見事にこなし、他人の言. さらに、恋人であった〈仏文科の女の子〉の自殺. うとおりに動く。しかし、この《対応力》が原因. は、白ら死を選んだとしても、残酷な最期になる. となり、〈僕〉は「羊をめぐる冒険」をする羽目. 可能性を〈僕〉に植え付ける。死後、誰かが自分. になる。冒険が滞りなく、〈鼠〉と〈黒服の男〉. の存在を覚えているのか、生きている意味はある. の思惑通りに進んだのは、何より彼の《対応力》. のか。「存在理由」を宇宙の観点による「ものさ. にある【受動性】を利用されたからだった。. し」で見出そうとした〈僕〉は、『風の歌を聴け』. ただし、その《対応力》は冒険によって、また. テクストを書くことを通して、新たなrものさし」. く鼠〉と〈黒服の男〉によって失われてしまう。. を得ようとしていたのである。. 《対応力》を失った彼がとった行動は、馴染のあ. 第二章では『1973年のピンボール』を扱っ. る〈ジェイ〉と「シェイズ・バー」に依存するこ. た。死亡した恋人〈直子〉のことを忘れられず、. とであった。ここでは単なる《依存》ではない。. その残像を留めようとする〈僕〉は、自己を内に. 七○年代の空気に染まるバーに、rピンボール」. 閉ざす。〈直子〉との記憶、残像を「配電盤」、「ス. と「ジュークボックス」という六○年代のアイテ. ペースシップ(=彼女)」と重ね合わせ、それら. ムの導入を希望し、かつて六〇年代を体現した. を温存しようとする。ただし、/僕〉は機械であ. く誰とでも寝る女の子〉に《依存》していたよう. るr配電盤」「スペースシップ(=彼女)」と一方. に、六〇年代への《依存》を強くしようとする。. 的なコミュニケーションしか図れない。最終面に. また《対応力》は、『羊をめぐる冒険』におい. おいて、〈僕〉はrつんぼ」になって聞こえなく. て《社会性》《歴史性》がはっきりと現われない. なってしまった耳を女医に治してもらい、コミュ. 原因でもあった。この《対応力》によって「三島. ニケーション能力を日復していく、とした。. 事件」『十二滝町の歴史』にある孤独感と〈僕〉. 第三章以降では『羊をめぐる冒険』を扱い、第. の《孤独感》との同調が阻まれてしまい、テクス. 三章は/僕〉の人物像を、第四章は〈僕〉の成長. トに《社会性》の様相が現れなかったのである。. を、第五章は《社会性》《歴史性》を検証した。『羊. しかし、『風の歌を聴け』では生と死、『197. をめぐる冒険』の〈僕〉の人物像は《孤独感》《依. 3年のピンボール』ではコミュニケーション能力、. 存》《対応力》の三層構造によって造型されてい. 『羊をめぐる冒険』では生きて行くための様々な. る。周囲から取り残されたような感覚、疎外感か. 防衛策を見ることができた。これらの試行錯誤は、. ら生まれた《孤独感》が核となり、その《孤独感》. 〈僕〉にとって、真剣な問題であったに違いない。. からの脱却を目指して、他者へ《依存》しようと する。ただし、この《依存》はく僕〉に満足感を. 主任指導教員 前田 貞昭. 与えるものでもなく、依存対象の女性たちは〈僕〉. 指導教員 前田貞昭. の前に現れては消える。結果、〈僕/は《孤独感》. 一241一.
(3)
関連したドキュメント
MRI includes not only MRCP (MR cholangiopancreatogra- phy) but also T1-weighted images, T2-weighted images, steady state images, and contrast enhanced dynamic images. MRI (MRCP)
する愛情である。父に対しても九首目の一首だけ思いのたけを(詠っているものの、母に対しては三十一首中十三首を占めるほ
[r]
長尾氏は『通俗三国志』の訳文について、俗語をどのように訳しているか
長尾氏は『通俗三国志』の訳文について、俗語をどのように訳しているか
79 人民委員会議政令「文学・出版総局の設立に関して」第 3 条、Инструкция Главлита его местным органам, I-7-г 1922.11.「グラヴリット本部より地方局への 訓示」第1条第 7 次、等。資料
ると︑上手から士人の娘︽腕に圧縮した小さい人間の首を下げて ペ贋︲ロ
向老期に分けられる。成人看護学では第二次性徴の出現がみられる思春期を含めず 18 歳前後から