もし言葉が役立たないなら『ヘンリー六世・第二部』
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(2) もし言葉が役立たないなら. 『ヘン--六世・第二部』. て、その見世物的効果が増幅されている。しかも両者とも政治的裁判 であるという共通の性格を付与されており、ヘンリ-六世の統治する イングランドの政治的および社会的な混乱状態を集約して呈示する役 割をになってもいる。エ-ナ-の置かれた状況を述べると、まず王位. され、法廷に引き立てられる。. 彼女が「法に照らして」裁かれる日は、ホ-ナ-とピ-メ-も「判. 二二. 例により」申しつけられた決闘の日でもあり、先端に砂袋をゆわえつ. けた棒で命をかけて「正直と.潔白とを示め」そうと闘うが'それは、. 見世物であり、二人とも酒に酔って棒をふりまわす芝居を演じ'ホ-. 王すらも「この目で見ようと宮廷からわざわざ」出かけてきたほどの. リスの王位わ推定相続人」でありながら「邪魔な首はどんどん切り落. ナ-が謀坂を白状して死亡するという思いがけない結果となってその. 継承について、夫が「血すじからいっても陛下にもっとも近く、イギ. して、平らな道を通す」だけの野心をもたず、一方、王が結解するこ. 幕を閉じる。観客は王をはじめ貴族たちと親方の隣人たちと徒弟仲間. を持ったエリナ-が、「涙でよごれた目でみじめなあれの姿を見てや. だろう。この場面に続いて、ほだLで白衣をまとい、≠に燃える蝋燭. そのまま舞台上の芝居のなかの芝居の観客役をつとめたと考えてよい. たちであり、その他の民衆は-書にほないものの、芝居小屋の観客が. とによって、宮廷での第一人老の位置をマ-ガレットに譲らざるをえ. ず、「王妃の父親の領地を全部合わせても、わたしのいちばん粗末な、 マ-ガレットに次ぐ地位に満足できな 着物の裾だって苧えやしない」. い「野心の腫物」に冒され絶望的な状況にある。そしてエリナ」と同 じように「野心の腫物」の疹-痛みをじっと「時節が-るまでのしん. 登場し、その恥辱を次のように夫に打ちあける。. 想像してそのつらさを案じているところに、エリナ-が前述の装束で. でおまえの蘇をじろじろ眺めまわして、その恥辱をあざ笑う」様子を. のあとを追いかけていたような賎民どもが、今度ほ意地の悪い目つき. ロスタ-ぶ「町を糞々し-練りまわしていたころ、いまをときめ-辛. ど見世物としての刑罰の演劇性を強調する場面は他にみられない。グ. ぼう」と「ほかのやつらが枕窒向-して眠っている」うちに密かに目ろう」と喪服を着たーグロスタ-と会う場面が演じられる。この場面ほ をすえているヨークの置かれた状況と対照されており、さらに、エリ. ナ-の野心をみすかし「茂みに鳥もちを仕かけ'降りて-ればもう二 度と舞いあがれない」ように企んでいるサフォ-クが、「いやなやつ. は全部引き技いて、最後に幸福な舵」を王妃と二人でとろうとする野 心とも結びつけられている。こうして'エ-ナ-の野心ほ、宮廷のい. たるところに蔓延している野心のひとつの表れにしかすぎないことが. 背中に紙をほりつけられて、恥辱に-るまれ、. 訴願人の請願書を引き裂き、「けがらわしい-」と追い返すマ-ガレ ットとサフォ-クは、やがてその下司下郎に仕返しをうけることにな. 無情の石だたみはやわらかい足を傷つけ、. はやしたてる。. わたしの涙を、わたしの深いうめき声を. 暴露され、野心家たちは、「おのれの立身出世のことだけ」考えてお り、国家のためを考える余裕を失い為政者として民衆の存在を忘れ、. る。彼らより先きに、エ-ナ-も腹心の従者ヒユーム(僧服はまとっ. 引き廻される。あとからは弥次馬どもが、. ていても民衆のひ.とりである)に裏切られ、皮肉にも、ヨ-クに遺構.
(3) 痛さで思わずとびあがろうものなら、あの老たちほ意地悪-あ ざ笑って、 気をつけて歩け、などと、まるで命令です。(二幕四場). 彼女が、「あさましい見世物になって、下司下郎の見物人になぶら れている」のをだまって見ていたと夫を非難しながら、夫にもやがて 彼女と同じように仕組まれた敵の琵が待っていることを警告する。エ リナーは、たしかに、「運命の神さまの大芝居」に一役かってでようと したのだが'1方でそれは仕掛けられた「鳥もち」の民に陥ちたにす ぎないともいえるのだ。「罪も犯さぬのに、罪人にされるほずがない」 と答えたグロスタ-に対して、ユ-ナⅠの予告どうり、すでに殺害す る謀議が進行していたのである。 エリナ-の裁判が作品世界で占める位置は、どのようなものであろ うか。ひと▲つにほ、彼女の謀叛事件ほ、作者によって意図的にこの作 品に持ち込まれた事件(歴史上、マ-ガレットが王妃となる以前の出 来事)であることを考慮に入れると'統辞構造に不可欠の要素である というよりも'物語を結合しているある一部(この場合は、グロスタ. ほ、いつまセも生徒のように、気むずかしいグロスタ-からいちいち 指示を受け、わたしは王妃というりっばな肩書きをもちながら、たか と嘆き'「だれがいやだ が公爵の家来になっていなければならない」. っていって、摂政夫人ほどいやな人はいません」と告白するとき、彼. 皇后さま」. のような態度のエリナ-に対して、その捌口を求めて、非. 難の言葉となり、仕返しの願望とないまぜになって表現されているこ. とが読みとれる。この場合も、マ-ガレッ.-の心理状態を表現するた. めの引き立て役をエリナ-は演じていることになり、物語にとって必. 然的な役割を割り当てられているとほいいがたいだろう。. のひとつの例証としての登場であり、「おまえだけ. したがって、彼女の作品世界への登場は、なによりも野心の蔓延す 「危険な時代」. か、夫もろとも、名誉の頂上から恥辱の足もとまで転落」する範例と. し七呼び出されたものであろう。だが、それのみではな-、刑罰の見. 世物としての演劇的可能性の利用という側面も見逃がせにできない。. この見世物としての系列でいえば、もう一組の夫婦シンコックスが奇. 蹟を演じょうとしてグロスタ-に見破られてしまう場面がまずあげら. れるが、後にふれることにしたい。つづいて、ウィチェスタ-の死の. 場面も、審問の苦痛を逃れようと、毒薬で自殺したいとうわごとをい. う枢機卿の姿は、ひとつの見世物であるし、更に、サフォ-クの殺害. の場面もその仲間に入るだろう。そして、サフォ-クの首ほ、宮廷に. にされることになろう。それら. 届けられ、やがて、セイ卿の首も竿の先に突っ立てられ、彼の女婿の. 「角ごとにキスさせて晒しもの」. とをやめて、作品世界のまがまがしい祝祭に参加することになる。. ところで、なぜこの作品に裁判が繰り返し描かれ、しかもそれらが. シンコックスの場合を例外に、すべて謀叛の罪で訴えられるのであろ. うか。この累積効果が示唆しているのは、権力の弱体化である。その. 二三. 女の夫への不満や苛立ちが、グロスタ-夫妻に対して、特に「まるで もし言葉が役立たないなら 『ヘソリ-六世・第二部』. 三. にエリナ-が必要であったと考えられる。マ-ガレットが「ヘンリ-. きる。準正、マ-ガレット王妃の宮廷での不安定な地位を示めすの を「目ひき袖ひき」じろじろ眺めている民衆が、単なる観客であるこ. -の転落)の因果関係を明確にし、予告する機能を持つことが指摘で. る. 首と.
(4) にょれば、. もし言葉が役立たないなら. 『ヘソリ-六世・第二部』. あんな小僧のちっちゃな手で、なにが王第だ、. あいつの抹香-さい性質じゃ、王冠なんか似合いやしない。. ヘソ--のやつは、王妃を高値で買いこんで'. 新婚の喜びにむせかえっている。. 件で、公的な場面では他の貴族たちも含めてこのような非難を口にす. るものはいない。そして、ヘソ--王の言行は、ヨ-クとマ-ガレッ. トの証言をカ、なり裏付けるものであることIi6やがて判明する。しかし、. 彼らの評価がまた1面的であることもグロスタ-の死を境に毅然たる. 態度を示めすヘンリー王を見ることで知ることができる。. ー王の性格に加えてもうひとつ権力の衰退を招いた要因に、これまで. の英仏戦争がまがりなりにも貴族たちを結束させ「兄へソリ-の獲得. した額土を保持しょうと、その政策に才知のかぎり」をつ-すことを. 要請してきたのに、ここで休戦和平という事態を迎えて、貴族たちを. 一同団結させる粋が失なわれたことである。和平の立役者となったサ. フォークが王と王妃とともに退場した直後、屈辱のあまり「目がくら. んで先が読め」なかったグロスタ-が他の貴族の退場をおしとどめ. その勇気を、その財貨を、さらに尊い国民の岳を、おびただし. ああ、わたしの兄へンリ-は、長い戦役に、その青春を、. カリスマが通用しな-なっている。. の基盤を揺がせる。もほや貴族たちには、ヘンリ-五世の武勲による. てゆき、新しい和平の到来による党派の争いが対立を生みだし、王権. 武勲詩の時代は、グロスタ-の怒りの感情をうつろに響あせて去っ. かけておく」ことで本心は別にあることを明らかにする。. 他方、ヨ-クは、「思いあがったハンフリ-にも、一応の好意を見せ. の椅子からほうり出す」ことで意見の一致をみる結果に終ってしまう0. くあしらわれ、ランカスタ-派の貴族たちは逆にグロスタ-を「摂政. を弁ずることで一致団結の必要を説くにもかかわらず、枢磯卿には軽. て「悲痛な胸のうち」を激しながらも切々と過去の栄光と今日の屈辱. この王への非難ほ、ともに内密な場面での告白であることが重要な条. ほり王自身の性格に統治する能力が欠けている様子がうかがえよう。. とその想像していた期待の裏切られたことを口に出していうとき、や. 数珠をつまぐってお祈りをささげるだけなの。(一幕三場). ところがあの人ときたら、ただもう神さまのことばかり、. いな方だろうと、. わたしほそのとき思ったのです、きっとへン--もあなたみた. る台詞も割引いて受けとる用心が必要だが'. マ-ガレットがサフォ-クに対してポールと親しみを込めて呼びかけ. ヨ-クの台詞は、彼の行為を正当化しょうとする意図があるから額面. (1幕一場). 二四. から相当割引いて理解しなければならないだろう。それと同じように. イギ-スも駄目になったのだ.. 本なんかに夢中になってるやつが支配しているから、美わしの. 一. 王の性格に由来するもので、みずから王冠を狙っているヨ-クの独自. 要田は、ふたつ考えられる0ひとつには、権力の中心であるへンリ-. 勇気があって、優雅で、様子がよ-って、!.
(5) く費されたのではなかったか。 きびしい冬の寒さのなかで、身をこがす夏の暑さのなかで、い くたびも野営されたのではなかったか。. (一幕一場). それも'正当な継東権をもつフランスの国を手中に収めるため だった。. 貴族たちが、彼らの手柄や名誉をへンワ-五世の勝利とともに「記 録の帳簿から削除し、抹消す」ることに異議を示めさないのと対照的 に、民衆はいつまでもへソリ-五世の勝利を記憶し、「恥ずべき条約」 の責任者を許すことがないであろう。この点においても、国家の利益. を考えることな-、野心に駆りたてられて狂奔する貴族たちの有様が はっきりとする。彼らは、フランスの領土の保持という共通の目標が 失せたいま'新し-発見した獲物が摂政グロスターであり、この狩猟 のため、一時的にそれぞれの思惑を隠しながら一致団結する。しかも 皮肉なことに、グロスタ-の顔こそ「名誉と真実と忠誠の縮図」であ るとへソリ-王が認めており、「それに民衆も彼を救おうと蜂起する おそれ」さえあるりっばな公爵を、「買でよし、網でよし、計略でよ し」方法を選ばずに殺すことに専念するのであるから、権力の衰退は. のだから。. 覆いようもな-加速してい-のみである。なにしろ「犬をたたく棒な らすぐ見つかる」. グロスタ-の殺害にいたる経過は、統辞構造の要点であるからここ では省略することにする。彼の死が、物語の転回点となって'1時的. のがいちばんよいにもかかわらず、「ただ. 物語の転回点に、「あの男を殺すのには、なにか口実が必要」 「法律によって死刑にする」. の嫌疑だけでは死刑にできない」とすれば暗殺に振るより他に方法が. ないグロスタ-殺害の謀議とその実行をすえることで、作品世界の裁. 判のイメ-ジが暗転し、法律によらない私刑が民衆の名により横行す. 「りっばな行為」)の模倣であり、パロ. ることなる。それほなによりも、権力の腐敗が手本を示めしたグロス タ-殺害事件(主謀老たちには ディとして表現される。. 民衆が舞台に登場するのほ、まずシンコックス奇跡事件である。こ. の事件は、統辞構造から逸脱したエビソ-ドであり、作品世界に組み. 込れた理由はおそら-グロスタ-の裁判官としての資質を披露してみ. せることだけにあるのではな-、民衆の生活が人を編さな-てはその. を行い、「二人を宿場ごとに鞭. 「奇跡だ」. 日も暮せな小ほど困窮している実情を垣間見る横会を提供しょうとし. たのではないかと思われる。王の一行が鷹狩りに興じながら、王の耳. にも達する醜い争いを続けていると、突然聞えてきたのが. という叫び声であり、その奇跡を不審に思ったグロスタ-がその場を. 法廷に変えて、芝居の中の芝居を演出してみせる。生れながらの盲目. 「奇跡」. であったという偽りを暴いたあとで、歩けないと主張するのを鞭で打 つことで走り出させてしまう. で打って、故郷のベリックまで送り返せ」と厳罰を課して、舞台上の. 観客ばかりか、芝居小屋の観客まで楽しませる。見世物興行としてほ、. 二重の効果であろうが、すでに訴願人たちを登場させて、共有地の囲. にへソリ-王が王者らしい言動をするものの、それも束の間'いまま でにもまして、混乱状態が混沌の極に達してついに無政府状態にいた. い込みや有力者による土地家屋の横領の訴えがなされた後であるため、 『ヘソリ-六世・第二部』. 二五. ってしまう。 もし言葉が役立たないなら. で、. 四.
(6) もし言葉が役立たないなら. 『ヘンリ-六世・第二部』. 民衆の暮しむきのよ-ないことも示唆されているといえよう。しかし この場面のもっと重要な意義ほ、「奇跡」を行うことのできるグロス メ-が、彼の判決直後妻エ-ナ-の逮描を知らされ、「法と恥辱とに その身をゆだねさせるつもり」であるといわぎるをえない立場に追い 込まれる仕掛けである。それまで背景に退いていたものが一瞬にして 前景へと移動し、素地であったものが図形に変貌する並置の仕掛けで ある。人を偏すことで、しかも民衆が待望している世直しの前兆とも. 報活動のみごとな成果だと鳴覚を働かせる観客も混じってはいよう。. 廷に居合せたような錯覚を持つだろう。ただし、ヨ-ク一派の宣伝情. 客がいままで月撃してきたものと一致することから、まるで観客ほ法. た私刑の始りであるが、後のケイドの反乱の場合とは違って、サフォ ークの罪状としてあげられるものは、一部耳新しい項目を除いて、観. 前も与えられていない海賊船の船長である。この場面がすでに言及し. 出来事である。また彼を掃えて、弾劾し、斬首の刑を命ずるのほ、名. 二六. 変る。したがって、この奇跡事件ほ物語から逸脱していると同時に、 いくつもの点において、物語に関与し、その進行を中断させながら、. 民衆が直接物語のなかに入って-るのは、グロスタ-殺害後である。. 物語に生気を吹き込む役割を果している。. それは、この事件に加担した者たちには、悪夢のような形(枢機卿ほ 実際舞台の上で悪夢にうなされ息たえる)で突然登場して-る。. 平民どもは、指導者を失って 怒り狂った蜂の群れのように四方に乱れ飛び、 その復讐にだれかれの見さかいな-鋭い針を見舞おうとする。 (三業二場). その平民たちの要求を伝える役割を果したソールズべ--を「たかだ か、鋳かけ屋どもの派遣した大使閣下」と咽けって呼んだサフォ-ク は、王から国外追放の刑に処せられてしまう急転回が待っていた。権 力の中心に位置し国家の舵を握ることにほぼ成功したと思った瞬間の. 実際は、ヨ-クの限に見えない糸に経つられた影の影にしかすぎない. とも考えることができよう。したがって、ケイドの反乱も含めて物語. の主流に樟さしたとほいえないだろう。民衆の力は侮ることはできな. いものの、またエビソ-ドとしては四幕のほとんどを占めるにもかか. わらず、統辞構造からみるとやほり逸脱とみるべきであろう。. れてくる。サフォ-クが殺害された場面に続いてケイドの反乱が舞台. 反宮廷感情を表現する合い言葉になっていることが次第に明らかにさ. である。このグロスタ-が冒頭で使用した言葉が民衆の間でほ一種の. 目的なそれ)による「痕ずべき条約」、「忌わしい結婿」に対する反発. しているものが、愛国的感情(素朴な勝ち負けの次元で鼓吹される盲. の謀叛が起ったのも」彼の責任とされている。これら弾劾の基盤をな. 宮には恥辱と困窮が忍びこんでいる」ことなどであり、「ノルマソ人. ンジュ-とメ-ヌをフランスに売った」こと、「あれやこれやで、王. もたぬ貧乏人の娘を、り、っばな殿さまに縁づけようとした」こと、「ア. サフォ-クの罪は'「王とは名ばかり、臣下も、財産も、王冠さえ. 五. スの姿が、今まで登場した野心に目が改んだ貴族たちと重なり、入れ. その意味でほ、この一連の出来事の重要な影の主役とみえる民衆も、 受けとれる奇跡であると偽ることで生計空止てようと企むシンコック. ■.
(7) で演じられるが、彼らの行動基準のひとつは、この盲目的愛国感情で あ∨り,もうひとつほ統治の道具である読み書きの能力、その能力を備 えた法律官僚に対する憎悪の感情であろう。この反乱の首謀者がヨクに教唆されている操り人形にすぎないと予告されているにもかかわ. らず、彼ら謀叛人の言動には、単なる操り人形でほない、民衆の生の 感情が躍動しているのを感得せざるをえない。「学者、法律家、廷臣、 地主たちを、すべて不正な害虫呼ばわりし」ているのも、彼らの日頃. の体験に裏打ちされており、例えば、「罪もない小羊の皮で羊皮紙と. かいうの作ってよ'その紙の-えになんか書きなぐると、それで人間 お陀仏とくらあね。まったくむごたらしい話じゃねえか」という実感 のこもった憎悪の感情が文字に対して、法律を操る老に対して向けら れているのだ。 ケイドもグロスタ-のように裁判官の役割を演ずる。グロスタ-が 「判例によって」裁-のとは違う。「彼の口がイギリスの議会」となり、 国の記録である判例集はすべて焼いてしまうよう命令を出し、法学院 も焼打ちするよう指示する。まずケイドの前に引き出されるのは「読 み書きができ'それに算術もできる」チャタムの書記である。ケイド の尋問中、傍聴者から邪魔の入る騒々しい裁判であるが、「証拠があ. もし言葉が役立たないなら. 『ヘソリ-六世・第二部』. なっており、二つの場面に共通するものほ潔白であればなにもおそれ. 「筋書きのほんの序. る必要がないと信ずるかつての裁判官が、理不尽な裁判にかけられる. ことである。グロスタ-の場合ほ、権力闘争の. にすぎないと彼自身が裁判の意図を見破っていたように、セイの. 「あのセイってやつの育. 場合もまた、叛徒たちが彼を特定して引き渡しを要潔していることを. 承知で、逃亡しょうとはしない。ディックが. は、どうしてももらうってな。なにしろあいっあメ-ヌの領土を売り. やがったんだから」というのを受けて、ケイドの主張する罪状は、. もっともな理由だ。おかげでイギ-スは片輪になってよ、おれ. が支えてやらなきゃ杖がいる始末だ。いいか、あのセイってや. つあこの国の玉を抜いて官官にしちめえやがったんだ。それに. フランス語をしゃべりやがる。あいつほ謀叛人だ。(四幕二場). やがて掃えられて無法な取調べが行なわれる。ここでもセイほ堂々と. というのだ?. (四幕七場). このわたしを殺すなどと、いったいわたしがだれに害を与えた. 見るにたえぬほど華美な服装をしたことがあったか?. 無理にとりたてた金で私腹をこやしたことがあったか?. 1度でも富や名誉をねらったことがあったか?. わたしのいちばんの罪はなにか言って-れ。. 身の潔白を主張し、誤解をただそうとし、最後には次のように命乞い をする'. 「謀叛人だ⊥との叫び声に、「ペンとインクつぼを-びにぶら下. がらねえようなら生かしておこう」とつぶや-裁判官も、傍聴者一同. 幕」. ロスタ-が裁かれる場面を紡沸させ、セイとグロスター埜一重写しに. なかでも、かつて裁判官を勤めたことのあるセイを裁-場面ほ、グ. である。. 次の犠牲者ほ、彼をジャック・ケイドと呼んだぼかりに殺される兵士. げて、しばり首だ」と判決を下す。理由は、名前を字で書-からだ。. の.
(8) もし言葉が役立たないなら 『ヘソリ-六世・第二部』 ケイドはこの見事な修辞疑問の連続に答えることが小瞬できな-なり、 この命乞いの雄弁こそ悪魔のとりついている証拠と自らを納得させな ければならない破目に陥る(このLe品世界ではこのような弱気なた■め らいをみせるのは、ヘン--王を除いて、ケイドのみである)にもか かわらず、ひとたび謀叛人とされて助かるものでない。グロスタ-の. 場合と同じである。口実さえあれ、ほ、実体ほ必要でないのがこの作品 世界の裁判であり、他人の罪であっても犠牲に供される老にすべてが. 着せられる。セイの修辞疑問にきっぱりと否定できる貴族が、為政者 がいるであろうか、という疑念が打ち消しょうもな-生じて-るほど 混乱している時代、グロスタ-が「危険な時代」と呼んだ徴侯がすべ て顕在化してここにあるといえないだろうか。. ああ、陛下、危険な時代になりました。. 慈愛は悪意の手に追いのけられる。. 徳は邪悪な野心に息の根をとめられ、. 罪におとし入れる声のみかまびすし-、 公正は陛下の土地から追放されてしまいました。(三幕一場). おそらく'グロスターとセイの場合も、彼らの雄弁の背後に他人に害 を与えたと自覚していな-とも何らかの罪を背負っていないのかとい う疑いは、このような時代にあっては、さけられないものであろう。 すでに述べたように、このセイの裁判も統辞構造に直接組み込まれ ているのではなく、ケイドの反乱という逸脱のなかのエピソードにす ぎない。しかし、この裁判は'貴族たちの自覚していない罪状を、そ れがいかに無知にもとづ-見当違いであっても、明らかにしてくれる. 二八. ことにょって、国を統治することが彼らの樽権でもあると同時に責任. でもあること、りっばに振舞う義務のあることを改めて確認している. ことになろう。滑括にして悲惨なエビソ-ドが物語の核心に突き刺さ るのだ。. る法律も、その無力さをさまざまな形で露呈する有様はすでに述べて. ヤ-ドの無気味な台詞へと結晶する。また一方、言葉で成り立ってい. ス軍侵攻を口実に民衆の説得に成功する)を経て、ヨークの息子リチ. (皮肉にもク-フォ-ドが、ヘン--五世の名を借りて偽りのフラン. ながり、ホ-ナ-の偽証やシンコックスの奇跡を含み、ケイドの無念. 約の言葉に始まり、グロスタ-の大演説における武勲詩の空虚さにつ. 無力さ、それほ統辞構造の深層に板を張っており、1幕一場の和平条. つける戦場の嵐を巻き起す。相手を説得する道具であるほずの言葉の. なる。互いに相手を謀叛人と呼び、「言葉で駄目なら武器」で決着を. 小屋のなかへ熊と野良犬の役をそれぞれ演じょうと入っていくことに. しながらついに裁判の形式を調えることができず、熊いじめの見世物. 神の「公正なるお裁き」の象徴を前にして、法律用語をしばしば乱用. たヨ-クと、その政敵サマセットとの対立抗争は、ケイドの首という. 解散させずに、「陛下のお許しもな-、宮廷の近-まで兵を進め」てき. る仕組みに結びつけられていると考えられる。アイルランド遠征軍を. の効用を享受する余裕がまった-失なわれてしまう極限点へと収束す. 大さの誇示、さらには、見世物の政治的興行など、裁判のもつすべて. いて、裁-ことのもつ儀式的秩序確認の悠長さ、あるいほ、権力の強. 裁判に関連した累積的なエビソ-ドの連合は、やがて統辞構造にお. 六.
(9) きたとおりである。 それにもかかわらず'あるいはそれゆえにでもあろうが、「立て板 に水の雄弁ぶりを示めそうとの口上役」を誰もが演じょうと舞台に登 るのが、この作品世界の登場人物たちである。それは、秘策を練り' 好意のみせかけ演技をするヨ-クも例外でないことに表れている。し かし、その雄弁は舞台の観客に向うよりも、芝居小屋の観客に向けら れ、二度にわたる長い独自に加えて、ネゲィル親子相手に王朝の系譜 を説明するときも、本当の相手は小屋の観客である。彼は政治の世界 でほ言葉の効用を信じていない人物でありなぶら、雄弁の魅力から解 放されていない特異な存在である。言葉より企みで、謀議よりは武器 でが物語の骨格である.ヨ-クの雄弁は、この骨格を観客に伝えるた めの「取次ぎ」の働きをしているといえるだろう。この「取次ぎ」役 の仮面を脱ぎ捨てるときこそ、武器が表面に出てくるときなのである0. 『ヘソリー六世・第二部』. そして同時に、裁きの効用が無視されるときでもある。. もし言葉が役立たないなら. 元.
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