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IRUCAA@TDC : 「顎骨疾患プロジェクトからの情報発信」 6.ファブラボ、口腔感覚と脳機能

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,

Available from http://ir.tdc.ac.jp/

Title

「顎骨疾患プロジェクトからの情報発信」 6.ファブラ

ボ、口腔感覚と脳機能

Author(s)

後藤, 多津子

Journal

歯科学報, 119(2): 83-87

URL

http://doi.org/10.15041/tdcgakuho.119.83

Right

Description

(2)

はじめに

顎骨疾患プロジェクトからの情報発信シリーズに

おいて,ファブラボグループは研究内容が広範囲な

ためファブラボと脳機能と2つのシリーズでお届け

する。3D プリンタなどのデジタル機器を駆使して

あらゆるものを作るラボすなわちファブラボの詳細

に つ い て は,シ リ ー ズ3(第118巻 第5号2018年10

月)も参照いただきたい。

その他には,歯科医師と医師が連携して薬剤関連

顎骨壊死

1)

や顎骨腫瘍

2)

などについて臨床画像の解

析,工 学 部 出 身 者 や 歯 科 技 工 士 と 組 ん で CT や

CBCT を用いての眼窩

3)

,歯科補綴

4)

,口腔外科系

の臨床支援

5,6)

,放射線技師と共に口内法 X 線画像

(デンタル画像)を用いての人工知能研究も行ってい

る。軟組織については,MRI により咀嚼筋と機能

の関連

7−9)

,また,脳機能画像による口腔感覚の可

視化など,様々な研究を行っている。この中から,

今回は,口腔から脳へ機能を可視化:ヒトの口腔感

覚と脳機能について紹介する(図1)。

脳機能研究は臨床にどう生かせるのか

食べること,話すことは,生活 の 質(Quality of

Life)に 深 く か か わ る。し か し 目 に 見 え な い「感

覚」は,患者と歯科医師の間で症状の相互理解が難

しい(主治医は治っていると思うが患者さんはまだ

マヒしていると訴える,など)。脳機能画像などで

客観的に症状を可視化することは,患者と歯科医師

の相互のコミュニケーションに有効であるし,ま

た,画像で治癒経過を示すと患者さんはとても励ま

され安心する。このような医療を求めている患者も

実は多くおられ,遠方からも依頼がある。

東京歯科大学顎骨疾患プロジェクトでは,現在,

口腔感覚に関わる脳領域と,それら領域間のネット

ワークを解析している。まずは正常者のデータを蓄

積し脳活動領域と神経回路の「地図」を描くことを

目的としている。将来,脳出血や外傷で失われた機

能に対し,どこを再生し,どうリハビリすればよい

のかの基本的な,重要な指標になると考える。

口腔と脳機能

私達が感覚刺激を受けたり,運動すると,脳全体

ではなく担当する一部の領域が活動する。歯科医師

が関わる口腔顎顔面領域は,脳において非常に大き

な範囲を活動させており,全身からみても非常に重

要な領域であることがわかる。かつ,口腔の解剖学

歯学の進歩・現状

「顎骨疾患プロジェクトからの情報発信」

6.ファブラボ,口腔感覚と脳機能

後藤多津子

1)2)3) キーワード:私立大学研究ブランディング事業,顎骨疾患 プロジェクト,脳機能,口腔感覚,臨床,医 用画像(MRI,CT,単純 X 線画像) 1)東京歯科大学口腔科学研究センター 2)東京歯科大学研究ブランディング事業 3)東京歯科大学歯科放射線学講座 (2019年3月13日受付,2019年3月29日受理) http : //doi.org/10.15041/tdcgakuho.119.83 連絡先:〒101‐0061 東京都千代田区神田三崎町2−9−18 東京歯科大学歯科放射線学講座 後藤多津子

Tazuko K. GOTO: Report by the Jaw Bone Disease Pro-ject 6 : Fabrication laboratory, oral sensation and brain function(1)Oral Health Science Center, Tokyo Dental

Col-lege,2)Tokyo Dental College Research Branding Project, 3)Department of Oral and Maxillofacial Radiology, Tokyo

Dental College)

83

(3)

的・機能的特徴から,脳における担当領域は細かく

分かれていて複雑である

10)

現在,食事の減塩,減糖のために,濃度が異なる

味を味わう時の味強度の認知を年代別に解明する

た め の デ ー タ 取 得 を 続 け て い る。具 体 的 に は,

sensory evaluation(カップに入れた溶液を味わう),

time-intensity data(味の強さを時系列とともに計測

する),そして脳機能 MRI(fMRI)を用いて味覚認

知の脳内ネットワークを解析している(図2)。MRI

を用いるため,被曝がなく,また他の脳機能画像よ

りも細かく観察できる,脳全体の診断ができるとい

う利点がある。現在は東京大学の MRI を使用させ

ていただいている。後藤が2015年に東京歯科大学に

赴任が決まってからただちに関東の様々な MRI を

調べ,以下の条件に合うものがこの装置であった。

1.味覚による脳活動は弱いため強い磁力を必要と

する,2.味覚は一日のうち時間帯や食事時間によ

り感受性が異なるため日中の一定の時間に fMRI を

行える,3.専門の MRI 技師やスタッフが立ち会

うため最新の技術を安全な環境で用いることができ

る,4.大きな実験器具・溶液運搬や人員移動が東

京歯科大学からタクシーで10分以内で行える,な

ど。これら条件が整ったことより,難病を抱えなが

らもがんばっていた東京歯科大学卒業の大学院生も

共に研究ができた。「外部の者が使用するのは初め

て」とのことであったが,大変な手続きと支援を快

くひき受けていただいた東京大学の方々のおかげ

で,東歯−東大 fMRI 連携はスタートした。

図2 fMRI を用いた味覚・嗅覚に関わる脳内ネットワークの研究法

Sensory evaluation(カップで溶液を味わう),time-intensity data(後藤 が独自に開発したシステムで感覚の強さを時系列とともに計測),fMRI による脳活動の解明,の3実験から成る。さらに末梢と中枢の相関を知る ことができるように構築してある。 図1 ファブラボ TDC 顎骨疾患プロジェクトファブラボグループの機構と役 割,研究目的を示す。 後藤:機能を可視化−ヒトの口腔感覚と脳機能− 84 ― 2 ―

(4)

味覚の fMRI の特殊性

次に,味覚の fMRI ならではの難しさとその解決

策について述べる。過去の先行研究では,口にくわ

えたチューブから味溶液と味を洗い流す溶液が口腔

に与えられその溶液を何度も飲み込んでいた。しか

しこれでは飲み込むたびに頭が動いて画像が乱れ

データに支障がでるし,消化管の味蕾も刺激されて

しまう。そこで後藤が開発した taste solution

deliv-ery system(味 覚 溶 液 供 給 シ ス テ ム)

11,12)

を 設 置 し

た。味覚提示のための口腔内装置は歯科医師が被験

者ごとに作成し,これに接続した長いチューブを

MRI 室の外へ 出 し,室 外 で 口 腔 外 装 置 に 接 続 す

る。MRI 室内には電気系統は持ち込めないため,

室外に設置したコンピュータで,味溶液や水が一定

量かつ一定速度で流れるようにコントロールした。

これらのシステムは香港大学工学部卒の大学院生

Justin Suen が東京歯科大学歯科放射線学講座に1

年半滞在し,東京大学の國松医師と協力して設置に

尽力してくれた。

こうして,多分野の人々の力のおかげで,様々な

fMRI 研究を行う基盤を構築できた。後藤自身が,

味覚

13−16)

,嗅覚と風味,スポーツ歯科

17)

,嚥下リハ

ビリ

18)

,心理

19)

,にかかわる脳活動領域を研究して

きた経験を有効に生かして,今後も顎骨疾患プロ

ジェクト:口腔の脳機能を追及したい研究者の方々

ならびに若手の支援をしていきたいと考えている。

fMRI による味覚の脳機能についての結果の紹介

健康長寿のためのひとつの課題に高血圧予防のた

めの減塩があげられる。塩味の強さとおいしさを失

わない減塩について2つの論文を紹介する。いずれ

も被験者は,健康な若者であった。

1.ヒトは脳において塩味濃度の違いをどう認知し

ているのか?

15)

1)カップによる官能試験

fMRI 撮像の前後に,被験者に濃度は隠した状態

で,0.

001M,0.

3M,0.

5M の NaCl 溶 液2mL を

カップにいれ,口底部や咽頭には液を送らず舌のみ

で味わってもらい,塩味の強さと pleasantness を

0から10の visual analog scale にて評価してもらっ

た。被験者はそれぞれの濃度を有意に識別してい

た。また濃度が濃くなるにつれ,pleasantness は低

くなった。

2)fMRI

方 法

味覚溶液供給システムを用いて0.

001M,0.

3M,

0.

5M の NaCl 溶液を,順番はランダムに舌全体に

流し,それぞれ計45回ずつ味わってもらった。被験

者は fMRI で撮影されている間アイマスクをして,

塩味強度を感じることに集中した。データ解析で

は,個人個人の脳活動を確認した後,若い健康成人

一般集団としての活動の検索を行った。視床と島皮

質,そして食塩水を味わったときに活動する中心後

回(いずれも右側)の3つを関心領域に設定し,統計

学的に多重比較を考慮した family-wise error rate

で p<0.

05のものを有意な活動とみなした。

脳活動領域

0.

3M,0.

5M の 濃 度 の NaCl 溶 液 に よ り,島 皮

質,視床,中心後回が活動した。一方,味がほとん

どしない0.

001M では活動は有意でなかった。

私たちの知る限り,ヒトの塩味強度の認知に関連

しヒトの視床が活動すること,かつ,脳内ネット

ワークが初めて示された。また塩味濃度は島から視

床へ(高次脳機能から下位へ)の信号伝達を変化させ

ることがあり得ると示した

(図3)

(後藤多津子:うま味による脳賦活:ヒト functional MRI による研究, 日本味と匂学会雑誌,24:77−80,2017改変転載) 図3 ヒトが塩味強度を認知する際の脳内ネットワーク 塩味強度の認知に関連して視床,島皮質,中心後回は 領域間結合を形成している。また塩味濃度の違いは島か ら視床への信号伝達を変化させることがあり得る。 歯科学報 Vol.119,No.2(2019) 85 ― 3 ―

(5)

塩味については,成人若者47名のデータ取得が終

了し,現在60歳以上の被験者を解析している。未だ

高齢者の人数が少ないが,高齢者はカップによる検

査では20歳代と比べ,塩味認知が低めであった。今

後も被験者を増やして検討する予定である。

2.ヒトの脳におけるコク味の認知機構

16)

少ない塩分でおいしく食べるには,コク味を加え

ることが有効である。味覚増強物質,コク味物質の

1つであるグルタチオンは,舌において基本味の知

覚を増強させることが sensory evaluation(カップ

内の溶液の味の強さを調べる研究)において知られ

ている。しかしながらグルタチオンがヒトの脳にど

のような影響を及ぼしているのかは不明であった。

・fMRI

方 法

味覚溶液供給システムを用い,ラーメンスープに

相当する塩味(NaCl)とうま味(MSG)の溶液と,そ

れにグルタチオンを加えた溶液を舌に供給した。

脳活動領域

グルタチオンのみによる脳活動は,左側の腹側島

皮質に抽出された。うま味に関する先行研究が少な

く直接比較することはできないが,本研究における

脳活動領域は,グルタチオンにより,味が強く感じ

ることのみならず,味の質の変化の効果がおこるこ

とを反映していると思われた。

今後,異なる濃度,温度,味の組み合わせにおけ

る効果を調べることでグルタチオンの添加物として

の適正濃度が判明する。コク味物質を加えることで

脳は味の強さ増強のみならず,むしろ味の質の変化

を認知していることがわかったことは興味深い成果

であった。

3.まとめ

以上2つの研究は,「減塩食」を脳のどこがどの

ように認知するのかを示唆している。今後は,様々

な味質,濃度について被験者の年代別に研究するこ

とで,ヒトが日々どのように味濃度を認知している

かの生理学的基盤の理解に役立つと思われる。また

その成果は健康によい食品開発や,病気の診断・治

療・リハビリに利用できる。また,おいしさを保ち

つつどれくらいの塩を減らせるのか目に見える客観

的な知見のひとつになると考えられ,さらなる研究

が期待される。

臨床家として,おいしい味を感じなくなった人が

どんなに精神的に落ち込むかも診てきた。ヒトが一

生おいしく食べて生き生きと暮らすことができる,

日本の健康長寿のために研究すべきことは山積みで

ある。脳機能や味覚,嗅覚の研究のために,国際共

同研究を推進し,また,企業の研究者など,東京歯

科大学の研究者達を指導できる人材を受け入れ,研

究体制作りを進めている。

付録:もうひとつのneuroscience −歯科医師による

アルツハイマー病予防のための脳神経系学−

最近の新たな進展としては,アルツハイマー病予

防のための MRI や PET を用いた脳神経系学につ

いてヒトで解明していくための研究者ネットワーク

を構築している。基礎研究(マウス)では成果が出て

おり,ヒトにおける画像診断成果としてまとめてい

ける体制作りを試みている。MRI,PET の双方ま

たはいずれかの画像解像度を上げることができる

か,それを用いてヒトでも生理学的エビデンスを発

見できるのか,臨床的な診断ができるか,の検討を

始めたところである。

まとめ

ヒトが対象の研究は,良質なコミュニケーション

に基づく,地道なデータ蓄積が基本となる。今後も

東京歯科大学顎骨疾患プロジェクトは,「基礎を大

事に」「質の高い研究」「挑戦を続ける」をモットー

に研究を推進していく。興味のある先生方の共同研

究,また被験者としての積極的なご参加により東京

歯科大学の若手支援をいただければ幸いである。

本研究は「文部科学省私立大学ブランディング事業」の助 成を受けたものです。 著者の利益相反:開示すべき利益相反はない。 文 献

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86

(6)

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歯科学報 Vol.119,No.2(2019) 87

参照

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