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IRUCAA@TDC : 「歯科往診を行ってきて,今,考える事」

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Academic year: 2021

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/

Title

「歯科往診を行ってきて,今,考える事」

Author(s)

加藤, 武彦

Journal

歯科学報, 113(3): 239-242

URL

http://hdl.handle.net/10130/3093

Right

(2)

はじめに 超高齢社会,歯科医院に来院できない患者さんに 対する往診治療が,社会問題化している現在。日本 歯科医師会として,日本の各界を代表する20名の 方々に参集していただき,今後,歯科界がどのよう な方向に進むべきか「生き甲斐を支える,国民歯科 会議」を開催し,以下のような提言をいただきまし た。 『今後,歯科医療が「診察室で完結する」医療に とどまらず,「暮らしの中で,食生活を維持し,患 者の生きがいを支える」医療へと発展していくこと を望みます。そして,地域における全人的医療の一 翼を担い,様々な職種と協働し,新しい医療提供体 制を創る先導的役割を担うことを願っています』 (議長 大島伸一(国立長寿医療センター総長)) さて,東京歯科大学の建学の精神に「歯科医たる 前に人間たれ」という教えがあり,また,戦後いち 早く歯科単科大学としては総合病院を作り,歯科医 師教育に隣接医学の必要性を考え,実践されて来ま した。 このような観点から現代的に言い換えれば「在宅 や施設で食べることで困っている人がいれば,食べ られるようにして差し上げる」このように「患者さ んの痛みを感じられる人間たれ」と校訓は言ってい ると私は思います。是非,歯科医師教育の一環に, この精神を入れてもらいたいと思うのです。 在宅往診に必要と思われる知識や技術について, 以下に記載します。 『患者さんの立場から考えてみると』 義歯に対する苦情が一番多いので,その話で論を 進めて行きます。 「90歳高齢者,顎堤吸収が強く,脳卒中を患い, 認知症も少し始まっている。家では車いすでデイケ アのサービスを受けているが,最近義歯が合わな く,食事に時間がかかり,たまに『むせる』ことが ある」 これは,極ありふれた症例ですが,患者さんに満 足してもらえる治療を行うためには,一つ一つの問 題を理解し,その解決にあたらなければなりませ ん。

臨床ノート

「歯科往診を行ってきて,今,考える事」

Reflecting on a home dental visit

加藤 武彦 加藤塾(全国訪問歯科研究会) 主宰 略歴 昭和36年3月東京歯科大学卒業,昭和39年横浜市にて開業,現在に至る。 趣味:在宅歯科往診 著書:①治療用義歯を応用した総義歯臨床 いま総義歯に 求められるもの;加藤武彦編:医歯薬出版株式会社.2002 ②食べられる口を作 る 口 腔 ケ ア&義 歯;加 藤 武 彦・黒 岩 恭 子・田 中 五 郎 編:医 歯 薬 出 版 株 式 会 社.2007 ③総義歯難症例への対応 その理論と実際−ニュートラルゾーン理論 によるデンチャースペース義歯;加藤武彦・三木逸郎・田中五郎;デンタルダイ ヤモンド増刊号:デンタルダイヤモンド社.2009 Takehiko Kato キーワード:デンチャースペース義歯,口腔ケア,口腔リハ,食べる所まで診る (2012年12月20日受付,2013年2月5日受理,歯科学報 113:239−242,2013.) 239 ― 17 ―

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① 顎堤条件に左右されないデンチャースペース 義歯 90歳高齢者,義歯使用歴20年,下顎顎堤は吸収し 真っ平ら,上顎は,下顎に対して解剖学的歯槽頂の アーチが小さい。今このような条件で往診依頼が あっても,噛める義歯を作ってもらえないという苦 情が多く,とうとう一昨年,NHK が私のところに 取材に来ました。そこで私が記者に説明したところ は… イ)上下顎の顎堤は吸収が強く,その顎堤だけに 頼って義歯を作っても,義歯の維持安定は得られ ない ロ)人がものを飲み込む時は,内側から舌で,外側 から口唇,頬で歯列の方向に加圧しながら嚥下を 行います。その時の内外の圧力は拮抗し,その力 によって天然歯列が維持されているわけです。こ の原理 を 義 歯 の 維 持 安 定 に 利 用 す る 方 法 が, ニュートラルゾーン理論によるデンチャースペー ス義歯です ハ)その力が義歯の維持安定に作用できるために は,天然歯の有る時の歯列,歯槽骨の形態をその まま義歯の形態に置き換えれば良いわけです ニ)デンチャースペース義歯の製作法として,まず 骨面の印象を採り,外斜線や切歯乳頭など模型上 のメルクマールを頼りに,吸収した骨量や,天然 歯時代の歯槽骨形態を想像し,このような形態で あろうと言う基礎床を作ります。この基礎床は, 天然歯列の形態に似せていますので,左右は,ほ ぼ対称で,上下顎の形態の差もそれほどありませ ん。その基礎床にワックスリムをのせた咬合床 で,咬合採得と義歯辺縁の形態の調整を同時に行 います。このときに用いる材料は,舌や頬筋の圧 で形態の厚みを関知できるフローの良いシリコン を用いて,嚥下位をとってもらい,その辺縁,研 磨面の形態を何回も調整してつくりあげます。嚥 下位は,口腔の空間をゼロに近くして食塊を食道 に運ぶ運動ですので,周囲組織が歯槽骨に密着し ているはずです。この原理を義歯の形態に利用す るわけです。 ホ)ですから,最終的に嚥下位で採ったデンチャー スペース印象の研磨面は,技工で加工を加えず重 合をしてもらいます。 ヘ)このようにして出来た,義歯研磨面形態が,周 囲組織の筋圧にマッチしたデンチャースペース義 歯は,口腔機能に適応した維持安定の良い義歯に なります。 ② 器具機材について 歯科往診を応急的に対応の治療と考えているの か,あまりにも道具揃えの不備が目立ちます。患者 さんは,健常者ならば当たり前の,普通食に近い食 事が食べられていないのです。真剣な気持ちで取り かかって欲しいと思います。 在宅往診の講演の時に,よく出る質問の一つに, 咬合採得が上手くいかない,などがありますが,そ の時,私が逆に質問をし,「安頭台付きの椅子で咬 合採得していますか?」と聞くと「いいえ」という 答えが返って来ます。在宅往診だから簡単な器具, 機材でとか,何か簡単な方法でという望みがあるよ うですが,歯科診療の原則から考えて,押さえるべ きところは,しっかり押さえた上での在宅診療であ るべきと思います。私は,往診用の椅子,移動用無 影灯,リベース材の開発など,在宅往診に必要な器 具,機材の開発を真剣に取り組んで来たからこそ, 患者さんに喜ばれる歯科在宅往診が可能になると思 います。 ③ 認知症の患者さんにどう向き合うか 認知症とは,今まで獲得してきた知識などが欠落 し,日常生活に支障を来す病気とされています。常 識を疑われるような言動や行動が見られますので, 認知症患者さんは,何も解っていないのだと思いが 図1 デンチャースペース印象を行った義歯 240 加藤:「歯科往診を行ってきて,今,考える事」 ― 18 ―

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ちですが,それはとんだ誤解です。徐々に知識が欠 落していくので不安でたまらず,だから何回も同じ 事を聞き返し,確認をしているのです。また,過去 の自分に戻り,徘徊などという異常行動も本人に とっては,真っ当な理由があってするものです。こ れらを全部否定して,それはおかしい,間違ってい ると,その人の行動を否定してしまうと,なおさら 殻に閉じこもり,私たちに心を開いてくれません。 歯科往診に行く人は,認知症をよく学習し,その人 の行動を理解して,否定的な言動を避け,ボディー ランゲージなどを通じて,「私はあなたの味方です よ。一生懸命診療しますからね」というメッセージ を伝えながら診療することが患者さんとの信頼関係 を早く結ぶ道だと思います。 ④ 全身疾患の学習と最低限の介護技術の習得 脳血管障害後遺症で片麻痺の方,大腿骨頸部骨折 で寝たきりの方,高齢のため廃用症候群の方,神経 疾患等難病の方など,在宅で介護を受けている患者 さんは,その病状,症状も一人一人違いますので, あらかじめ訪問する前に予備学習をしておくべきで す。なぜかと言えば,麻痺や拘縮,コミュニケー ションなども違うわけです。体位を変更するにして も,患者さんの反応を見ながら安全を確認して診療 体勢に持ち込めないと,診療以前に患者さんとの信 頼関係が築けません。 ベッドから車椅子への移乗,車椅子から安頭台付 きチェア(患者さん宅の椅子でも良し)への移乗が出 来なければ,介護力の乏しい在宅での診療は出来ま せん。ベッド上の診療も無いわけではありません が,なるべく診療室に近い条件で行いませんと,患 者さんに満足のいく結果は望めません。 ⑤ 口腔ケアと他職種との連携 在宅や施設に行って一番気になるのは,口腔ケア の悪さです。「介護における口腔ケア」がいかに大 切であるかと言うことを,歯科界がもっと声を大に して伝えなければなりません。近年「口腔ケアが誤 嚥性肺炎の予防に有効である」事が世間で認められ て来たのですが,未だ看護,介護の方々の口腔ケア が,我々が今到達しているレベルまでは,実現して おりません。看護,介護の方々の職場は,本当に猫 の手も借りたいほど忙しい状況です。そこで,短時 間で効率の上がる口腔ケアは,黒岩恭子先生が開発 された,全方向に毛先が向いている「くるリーナシ リーズ」が最適だと思います。口腔粘膜を清掃する には,この形態より他に無いと思います。軟口蓋や 咽頭後壁にへばりついた痰を湿潤させて軟化し,出 血させないで取ってくるには,モアブラシという一 段柔らかいブラシの出番です。今は,目に見える場 所にある痰だけで無く,咽頭部に隠れ,吸引カテー テルでは取れない,多少固めの痰までが取れるとい う,「咽頭ケア」が出来るところまで発展しまし た。この場所は,医科でも歯科でも手の届かないブ ラックボックス的な部分ですので,この「咽頭ケ ア」が出来ることにより,肩で息をしていた患者さ んの呼吸が楽になり,痰が取れた事で,熱も平熱に 戻るなど,大変な効果が出ると看護師さんや介護の 方々に喜ばれているのが現状です。 ⑥ 歯科にリハビリテーションの学問が必要 A)廃用を起こしている口腔周囲筋のリハビリ 製作した義歯が使ってもらえない一つの原因とし て,口唇や頬,舌など口腔周囲筋が,今まで咀嚼が 行われていないために廃用萎縮を起こしていると考 えられます。このような状態で義歯を装着しても, 咀嚼,嚥下が出来る状態にはなりません。まず口唇 閉鎖のためのリハビリテーション,そして,頬筋の 強化などを行います。一番大切なことは,寝たきり 図2 黒岩恭子氏開発の「くるリーナブラシ」シリーズ 歯科学報 Vol.113,No.3(2013) 241 ― 19 ―

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のために,舌根沈下を起こしている舌の,活動性を 強化するために,外部からのリハビリと口腔内での 舌のリハビリを行い,いわゆる「食べられる口作 り」をします。その上で,義歯を装具として,徐々 に咀嚼力をつけながら,嚥下が出来る能力を確保し ます。 今,摂食・嚥下障害患者に対して,VE で調べた 結果,咽頭期に食物残渣が残るからといって,一段 グレードを下げた嚥下食の指示をされているように 見受けられます。嚥下障害の患者さんの特徴とし て,症状としては咽頭期に出ますが,その原因は, 口腔期に有る症例を多く見ます。今まで軽んじられ てきた「咀嚼」をしないことが,嚥下障害の原因の 一つだと考えられてきています。咀嚼・嚥下を一連 の動きと考え,歯科でなければ出来ない,この分野 をもっと重要視したリハビリテーションがなされる べきだと思います。 B)顎位のリハビリテーション 今まで低位前噛みの義歯を使用していた患者さん に,本来の咬合高径に治して,細心の注意をはらっ て咬合採得を行い,セット時には中心位で咬めてい た義歯が,1∼2週間で顎位が変化することを経験 した人は,多いと思います。 私は総義歯研究会を長く主宰していて,この現象 に気づき「治療用義歯を用いた総義歯製作法」とい う本を医歯薬出版から出版しました。吸着する咬め る義歯が入った途端,咀嚼をすることにより,旧義 歯の悪習癖により位置づけられた顎位が補正されま す。これは,顎位のリハビリテーションが起きたの だと考え,改造義歯,治療用義歯を用いて,顎位を 修正した後に,本義歯を作るテクニックを考え出し ました。 はからずも脳梗塞を患い,医科におけるリハビリ テーションという考え方,学問を体験する事によ り,歯科医学にも,口腔の機能回復を目指すため に,医患の連携を取りながら,リハビリテーション の過程を経て,回復させると言う考え方が必要とだ と感じました。 ⑦ まとめ 往診という医療環境の悪いところで「食べるとこ ろまで見なければ帰ってくるな」と言う事をもっと うにして,診療をしている我々は,今まで述べて来 たような知識,技術を身につけて診療して来まし た。これらすべてを大学で教育しなければならない と言うことは,国家試験のカリキュラムの深化,拡 大に対応しなければならない現在では,不可能に近 いと思います。 私は,どのようにして,在宅往診に必要な学問を 修めたかと言いますと,認知症にしろ介護技術にし ろ,実際に診療に困り,この患者さんには何が必要 かと考え,その道のスペシャリストのところへ伺 い,直接教えを請い,必要な学問を体得してきまし た。 東京歯科大学では,最近チュートリアル方式によ る学習が,実践されていると聞いております。この 学問こそ,往診現場で満足の行かない治療結果に なった時に,自分には何が足りないのか,それを克 服するためには,どうすべきかと言う,問題発見, 問題解決能力を身につけるには打って付けの教育シ ステムです。 「歯科医たる前に人間たれ」という建学の精神を もう一度,臨床に生かせる教育を期待いたします。 文 献 1)治療用義歯を応用した総義歯の臨床:加藤武彦:医歯薬 出版 2002. 2)食べられる口づくり 口腔ケア&義歯:加藤武彦 他編: 医歯薬出版 2007. 3)総義歯難症例への対応 その理論と実際:加藤武彦 他: デンタルダイヤモンド増刊号:デンタルダイヤモンド 2009年10月. 別刷請求先:〒223‐0062 横浜市港北区日吉本町3−32−10 加藤武彦 図3 胃瘻造設のある患者さんへ義歯調整をして口から食べ る試み 242 加藤:「歯科往診を行ってきて,今,考える事」 ― 20 ―

参照

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