希求(依頼)について
著者
坂本 幸博
雑誌名
日本文藝研究
巻
55
号
2
ページ
17-38
発行年
2003-09-10
URL
http://hdl.handle.net/10236/10173
津軽方言の命令表現
―― 命令形 と丁寧命令形お よび希求
(依頼
)に
ついて一―
坂
本 幸 博
1口 は じ め に 命令 表現 は聞 き手 の動作 を話 し手 が 要求す る もので あ り,そ
れ は「命 令」 と「依頼」 とに大 き く三分 され る。それ らの違 い につ い て安 達 太 郎 (2002)では, 両者 は裁然 と区別 され る もので はな く連続 す る ものであ るが,〈命 令 〉が 聞 き手 にその行為 の実行 を強制す るの に対 して,〈依 頼 〉には 聞 き手 に対す る強制力が欠 けてお り,あ
くまでその実行 の諾否 につい て は聞 き手 に決 定権 が あ る とい う違 い を認 め る こ とが で きる。(p. 43) と聞 き手 に対 して強制 力 を持 つ か持 た ない か とい う観 点 か ら分 類 され てい る。 また阪 田雪子 (1989)では, 話 し手 が相 手 に要 求 す る事 柄 と して は,大
き く分 け て命 令 す る もの と依頼するもの とになるであろう。つ まり,「命 じる 0言 いつける・ 指令する・禁 じる」 などの言葉 に象徴 される もの と,「頼 む・願 う・ 乞 う」 などの言葉 に象徴 されるものとである。 しか しなが ら,こ
の区 別は前述 したように話 し手の心理的な要因によって左右 される面が大 きく,本
来,前
者の命令 に属するものであって も,相
手 を立てる場合 などには,控
え日で丁寧 な表現が用い られ,依
頼表現 に近づ く。(p. 310)の ように命令 と依頼の違いは表現の差であると述べている。 これ らの共通語 を対象 とした研究では
,命
令表現 を広い意味での要求 と 捉 え,動
詞の命令形 に限定せず,疑
問表現や動詞終止形+断
定 といったさ まざまな形式 を対象 として考察を行 っている。 一方,津
軽方言 を対象 とした研究で,命
令表現 を中心 に論 じた ものは管 見の限 りでは存在せず,概
説書で部分的にふれ られている程度である。そ こで本稿では,津
軽方言の命令表現 を,坂
本幸博 (2003)で設定 した命令 形 と丁寧命令形 を使用 した表現 とそれ らに対応する禁止表現,さ
らに希求 (依頼)表
現(1)を含め,そ
れ らを包括 的 に述べ る こ とを目的 とす る。な お,以
後本稿で使用す る活用形の名称 は,特
に断 りがない限 り坂本幸博 (2003)に おいて設定 した活用形の名称である。2.調
査 法 とイ ン フ ォ ー マ ン ト 調査は質問形式 による面接調査 を行 った。 インフォーマ ン トは以下の通 りである。 ●A氏
:男性 (50代)南
津軽郡大鰐町在住 父親の出身地 青森県五所川原市 :母 親の出身地 青森県南津軽郡大 鰐町 ●B氏
:女 性 (50代)南
津軽郡大鰐町在住 父親の出身地 青森県黒石市 :母 親の出身地 青森県弘前市 二名 ともに津軽方言のネイテ イブスピーカーである。 3。 得 られ た形 式 形式の収集 に当たっては,ま
ず動詞の命令形 を示 し,そ
れ を中心 とし て,上
下関係や柔 らかさ,厳
しさといったニュアンスを付加することによ り,さ
まざまな形式 を導 き出 した。その後,補
足 として阪田雪子 (1989)津軽方言の命令表現
19
で取 り上げている共通語の形式。)を示 し,津
軽方言であればどのように表 現す るかを質問 した。その結果,(1)∼ (8)の形式が導 き出 された。)。 以 下「カグ(書く)」 を例 にして示す。 また,命
令形や丁寧命令形 といった活 用形が,ど
の ような活用語尾 をとるか ということは,「4。 活用形」 にて示 す。(1)命
令形(活用形)で
表 されるもの カゲ(+ジ
ヤ/ヤ
) (2)禁止形(活用形)で
表 されるもの カグナ(+ジ
ャ/ヤ ),カ
ギスナ (十ヤ/ノ
) (3)禁止(禁止形以外)で
表 されるもの カゲバマネ(+ジ
ャ/ヤ
) (4)丁寧命令形(活用形)+へ
(助詞)で
表 されるもの カゲヘ (十ジャ/ヤ /ノ ),カ
ゲヘ ンガ (+ノ) (5)希望形(活用形)十へ(助動詞命令形)で
表 されるもの カギヘ(+ジ
ャ/ヤ /ノ ),カ
ギヘ ンガ (+ノ) (6)丁寧命令形(活用形)+へ
(助詞)+ス
(丁寧助動詞)+ナ
(禁止)で
表 されるもの カゲヘスナ (+ヤ/ノ
) (7)希望形(活用形)+へ
(助動詞命令形)+ス
(丁寧助動 詞)+ナ
(禁止) で表 されるもの カギヘスナ (+ヤ/ノ
) (8)希求(依頼)で
表 されるもの カイデケ (十ジャ/ヤ /ノ ),カ
イデケロ (+ジャ/ヤ /ノ
) カイデケ レ(+ジ
ャ/ヤ /ノ ),カ
イデケヘ(+ジ
ヤ/ヤ /ノ
) カイデケネ(べ)ガ (+ノ),カ
イデケラエネ(べ)ガ (+ノ) カイデケヘ ンガ (+ノ),カ
イデホス(+ジ
ヤ/ヤ /ノ
) それぞれの形式 に後続 しうる助詞 も付属する形で記述 した。津軽方言の 命令表現 に後続 しうる終助詞 は,「ジャ・ヤ・ノ」の3種
類である。佐 々木 隆次 (1988)ではそれぞれ を次 の ように記述 してい る。
③ 〈
軽い断言〉ジヤ
基本的には自分の判断したことを軽 く断言するときに発する語であ
る 。(p.679) ⑭ 〈詠嘆・念押 し・同意希求 〉ネシ・ノ・ナ これ らは相手に詠嘆的に念 を押 した り,同
意 を期待 して発する語で ある。(中略)「ノ」は「ネシ」に比 して丁寧度は少 し弱いが,親
愛性 を持 っていて,中
待遇である。本来,女
性語 と思われるが,現
在は男 性 も多 く使用する。(中略)「ナ」は下待遇である。(p.683) ⑫ 〈言い きかせ 〉ヤ(上)・ ヨ・イア(下) これ らは相手に自分の考えていることを言いきかせるために発する 語 であ る。 (p.684) 佐 々木隆次 (1988)がここで述べ ている ように,ノ とヤはそれぞれ交替 す る要素 を持 つ。本稿ではそれぞれ,ノ とヤで代表 させ てい るが,交
替 さ せ る こ とも可能である。その場合 には,位
相差 との関わ りが生 じるが,本
稿 で は形式 的 な こ とを中心 に述べ るため,こ
の ことには深 入 りしない。)。 また,(4)丁
寧命令形 (活用形)で
表 され る もの,(8)希
求で表 され る もの,に
関 して は,次
に示 す通 り,動
詞 基 本 形 の部 分 (カ グ)が
否 定 形 (カガネ ァ)に
交替す る こ とも可能であ る。その場合 (2)丁寧命 令 形(活 用形)で
あ らわ され る もの,は
断定 の 「デ(基本形 ダ)」 を介 してそれぞれ の要素 を後続 させ る。 (4)カゲヘ→ カガネ ァンデヘ (8)カ イデケ→ カガネ ァンデヶ 以下の ものは,阪
田雪子 (1989)で示 されている共通語 の形式 を示 した が,津
軽 方言 にお い て,そ
れ に対 応す る形式 が得 られ なか つた もので あ る。 しか し,中
には,形
式 で は対応 しないが,意
味 的 には (1)∼ (8)で示 した形式 に該 当す る と思 われる ものが存在す る。 それ らと (1)∼ (8)の対応 関係 も示 してお く。津軽方言の命令表現 阪 田雪子 (1989)の形式 本稿 の形式 終止形 (しっか り見 る) ∼た (さあ
,書
いた書いた・ち よつ と待 った) (1)に対 応 ∼なさい/お
∼なさい (お食べ な さい) ∼ ごらんなさい (やつて ごらんなさい) (4)に対応 お∼ください (お書 きください) (5)に対応 連用形+て
(電話 して) ∼てお くれ (来てお くれ) ∼いただ きたい (やつていただ きたい) ∼ もらいたい (見て もらいたい) ∼て頂戴 (読んで頂戴) お∼願 え ませ んで しょうか(お書 き願 え ませ んで しようか) (8)に対応 次の5形
式は意味的に対応する形式 も存在 しない と思われるものである。 ●∼たまえ/∼
くれたまえ (早く書 きたまえ/書
いて くれたまえ),●
終 止 形+こ
と (入れ てお くこ と),●
∼ しま し ょう (静か に歩 き ま し ょ う)修),●
語の意味 にゆだねるもの (一時停止 ・天地無用),●
反語的な用 法 (馬鹿いえよ)4.活
用 形 以下,本
稿では動詞の活用形が問題 となる項 目が存在するため,動
詞の 活用表 を示す。例 として「I-1型動詞 アガル 'のar―u」 の ものを示す。左か ら
,語
幹,活
用語尾,後
続形式の順 に並 んでいる。具体的な語形は, 「語幹+活
用語尾+後
続形式」の順 に並べ ることによつて得 られる。ほ と ん ど変化 しない部分 を語幹 とし,変
化 にあずかる部分 を活用語尾 と考 え る。活用語尾の後ろにそれぞれ活用形の名称 を示す。語幹 を「ほとんど変 化 しない」 とい うように述べたのは,語
幹末の子音 を複数設定 したためで ある。通常 は語幹末の子音 はrであるが,活
用語尾 との対応 に よつてQ やzに 交替す る とい うように考 える。語幹末の子音 と活用語尾 との対応は
,活
用語尾 に/a∼i∼u∼e/を とる場合 には/r/と な り,一z―の場合 には, 否定形 ・禁止形 ではzと な り,過
去形 では/Q/と なる。 4。 1。 活用表 “ )【
表
1】 ―a― (志向形) 意志 ・勧誘1 受 け身,使
役,自
発(可能) 打 ち消 し(―ba―後続で義務) 希望 願望 丁寧 継続 過去 並列 動詞 に続 く(―mそm― 後続 で 完了,―ke_後続 で希求) 進行 言 い切 り,名
詞 に続 く 断定 (―ba…後続 で条件1) 様態 ・比況 ・推定 推量 意志 ・勧誘2 疑問 接続 (―haNde―は原 因・ 理 由,一baQte―は逆接) 禁止 可能 条件2 命令 丁寧命令 ■―(希望形) ☆―z― (過去形) ―u― (基本 形) ―z― (禁止形 ) ☆☆―Z― ―c― (仮定形) ―e― (命令形) ―c― (丁寧命令形) Z―,-8-'ertl― ,―hertl―,― sarll―
n8- t8-teDaru― su― naOara― ta― tarl― te―
te―ra(可aa)―
(否定形) 'aDa{r― , (☆ Q‐,☆ ☆ o―)} ・na. ・ni¨, ba. ” he¨
津軽方言の命令表現 23 5。
命
△13 5。1.命
令形 ここでは,命
令形(活用形)に
よって表 される命令表現 を検討する。 (1)ミ ンナ アズマ レ (みんな集 まれ) (2)ワ モ イグハ ンデ オメモ イグ (私も行 くか ら君 も行け) (3)コ ッカラデネァクテ ソズガラ ミレ (ここか らではな くて,そ
ち らか ら見 ろ) 基本的に共通語 と同 じであるといえる。(1)のように号令 をかける場合 (上か ら下 に)に
使用 した り,(2)の
ように仲間 (同等)に
対 して使用す ることがで きる。 これ らのことか ら,津
軽方言の命令形(活用形)に
よつて表 される命令 表現は,同
等以下 に対 して使用す ることがで きるといえる。A氏
(男性) はほとんどこの形式 を使用するが,B氏
(女性)は (1),(2)の
ような場 合で も,丁
寧命令 の形式 を使用する。 この ことか ら,命
令形(活用形)に
よって表 される命令表現 と丁寧命令形によつて表 される命令表現 には位相 差が存在することが伺われる。 この位相差 に関 しては,「6.丁
寧命令」で 詳 しく述べる。 なお,(3)で
示す ように,共
通語の一段動詞系 に属す る動詞(I-2型
動詞)の
命令形が, ミロ (見ろ)や
オギロ (起きろ)で
はな く, ミレ (見 ろ)・ オギ レ (起きろ)に
なる こ とは,加
藤・三井・大西・志村 (1988) │こ, 一段動 詞 「起 きる」 の命 令形 には,オ
キ ロの他,オ
キ レが見 られ る。 オキ レが用 い られ るの は,深
浦,鯵
ケ沢,板
柳,中
里,青
森 の5地点で,こ のうち西津軽郡に属する前の
2地′
点 【
深浦と鯵ケ沢】だけ
は,オ
キ レ専用 だが,あ
との3地点 はオキ ロ との併用 であ る。一段動 詞 レ語尾 の命令形 は秋 田方言 で盛 ん に行 われてお り,西
津軽郡 のオキレはこれ と連続するもの と思われる。(p.39) と述べ られている他
,此
島正年 (1968)や 日野資純 (1955)な ど,多
くの 先行研究で報告 されている。 加藤 ・三井・大西 ・志村 (1988)の 調査 は本稿の調査地点である,大
鰐 町で も行われている。 しか し,本
稿の調査結果 とは異な り,命
令形はオキ ロのみが行われているとされている。本稿の調査では基本的には,「レ形」 を使用す るが,場
合 によ り,「口形」 も使用す る との回答が得 られてお り,「レ形」 と「口形」は,待
遇性 などニュアンスが異 なっていることも 推察 される(7)。 5。2.禁
止形 共通語で助詞「な」 によって表 される禁止の表現は,津
軽方言において も同型の「ナ」 によって表 される。 (1)ワ モ イルハ ンデ クスナ (私もいるか ら′亡、酉己するな) (2)アンブネァハンデ カワバダサ イグナ (危ないか ら川岸へ行 くな) 意味的には共通語 と同 じである。 しか し,活
用形が共通話(終止形)と
は異 な り,専
用の活用形(禁止形)を
持 っている。 この ことについて此島 正年 (1968)では, 禁止のナは動詞及び動詞的な助動詞 を受けるだけだが,共
通語ではそ れ らの終止形 を受けて「行 くな・起 きるな・来るな」 となるのに対 し て,【津軽】方言では,四
段活用の語 には同様だが,一
段活用や変格 の語 には(起 )オキナ・(見)ミ ナ 0(来)キナの ように連用形 に付 くの が,普
通で,一
見京阪の言い方 を思わせるけれ ども,(中
略)【京阪は もともと連用形 を受けるのに対 し】 こちらはオキルナ・ ミルナのルが 脱落 した結果であろうと思 う。(p.156) と述べ るにとどまり,活
用形の問題 にはふれ られていない。 ここでは,脱
落 した結果,形
として連用形に後続 していると述べ られている。 しか し, 「ル」の脱落 としてみるのであれば,「連用形 に付 くのが,普
通で,」 とす津軽方言の命令表現
25
るの は問題 である。本稿 の筆者 は坂本幸博 (2003)で示 した ように
,禁
止形 を活用形 と して設定す るので
,此
島正年 (1968)と は立場 を異 に している。ただ,「ル」の脱落と見る立場は同じであ り, ミルナ→ ミンナ→ ミナ
(mirllna→miNna→ miNna→mina)の ような変化をたどったと考えられる侶)。
これは
,共
通語においても「来んな」,「見んな」等がみられることからも 推察できる。 次に,疑
間の「∼ナ」/na/との違いについてふれる。津軽方言では疑問 の形式 として「∼ナ」/na/が存在する。)。 これは基本形に後続することか ら, I-1,2型
動詞及びⅡ-2型
動詞では,基
本形 と禁止形の活用語尾が異 なるため,形
態上 区別 され る。 しか し, I-3∼6型
及 び Ⅱ-1型
動 詞 で は基 本形 と禁止形 の活用語 尾 が 同 じにな るため,形
態 面 か らは区別 が で きな い。 ただ し,ア
クセ ン トの うえでは区別す る ことがで きる(10。 ●無核語に後続 した場合(I-3型
動詞)・
'igu(行く
)→'iguふ(疑問
)行くか→
'iguttd。 (十伝間の助詞「ド」
)・
'igu(行く
)→'iguふ(禁止
)行くな→
'iguittdo(十伝聞の助詞「ド」
)●有核語 に後続 した場合
(I-3型
動詞) ・kagu(書 く)→
kaguna(疑問)書
くか ・kagu(書 く)→
kaguna(禁止)書
くな 上野善道 (1986)では,禁
止 の「ナ」 に関 しては,無
核語 に後続 した場 合 は 自ら核 を持 ち,有
核語 に後続 した場合 は,動
詞基本形 の核 をその位置 の まま保持す る との記述がみ られ る。 これは本稿 の記述 と一致 している。 ただ し,疑
間の「ナ」 のアクセ ン トについては扱 われてい ない。 本稿 の筆者 の調査 で は,疑
間の「ナ」 は,無
核語 ・有核語 の どち らを後 続 させ た場合 に も,自
ら核 を持 つ とい える。 ここで問題 になるのは,無
核 語 に後続 した場合 には,疑
問 ・禁止共 にアクセ ン ト核 を持 つ ため,区
別す る こ とがで きな くなることである。 しか し,そ
の場合 に も,さ
らに助詞 を 後続 させ た場合 には,両
者 の間 にア クセ ン トの高 さの程度 に よる違いが認 め られる。簡単 にいえば,疑
間の場合 は高 くな り,禁
止 の場合 は中程度 の高 さになる とい うことである。 また
,希
望形+ス
(丁寧助動詞)十ナ(禁止)で ,丁
寧 な禁止 を表す。 (3)アンマス イソギ スナ (あまり急がないように) (4)アンマス オヘ ァグ ナ リスナ (あまり遅 くならない ように) 此島正年 (1968)では, 津軽では禁止 をていねいに言 うには,助
動詞 シ(11)を挿入 して行 キシ ナ0起キシナ・見 シナ・来 シナ とい う形が主 として女性 に用 い られ る。(p.156) とされている。 この記述 にあるとお り,B氏
(女性)は
この形式 を多用す るの に対 し,A氏
(男性)は
上待遇 な どの限 られた条件が ない と,こ
の 形式 を使用 しない。 これについては「6.2。 丁寧命令形/希
望形+丁
寧+
禁止」で詳 しく述べ る。6.丁
寧 命 令 6。1.丁
寧命令形 助詞 「へ」 は丁寧命令形 に後続 して,丁
寧 な命令表現 を形成す る。 (1)ハエ ァグ イゲヘ (早く行 きなさい) (2)ハエ アグ オギヘ (早く起 きな さい) 「5.1.命
令 形」 で述べ た ように,丁
寧命令 形 は女性 が 多用 し,上
か ら 下 に もの をい う場合であって も,女
性 は丁寧命令形 を使用す る との意識が あ り,A氏
・B氏
共 に,意
識 の面 で は女性 語 と認識 して い る。 こ こか ら 津軽 方言 においては,命
令形 と丁寧命令形 との間に明確 な位相差が存在す る こ とが伺 われ る。 しか しなが ら,実
際 の言語運用 をみ てみ る と,A氏
(男性)も
丁寧命令形 を使 用 し,そ
の場 合 「和 らげ表現」 と して,意
識 的 に使用 している。 (3)コ ッチ ャ コイヘ コイヘ (こっちに来 な さい)(A氏
か ら子 ど も (幼児)に
)津軽方言の命令表現
27
これらのことから
,命
令形と丁寧命令形との間には次のような関係を認
めることができる。
命令形 丁寧命令形 男 性 通常使用 和 らげ として使 用 女 性 使用 しない(10 通常使用 この丁寧命令形 について此島正年 (1968)では, 津軽で も動詞の命令形 にはやや丁寧な言い方がある。すなわち,女
性語 としての∼への形式,た
とえばヨミヘ・オキヘ・ミヘ・キヘ・シ ヘがある。四段活用・変格活用の場合は命令形にへをつけてヨメヘ・ コイヘ・セヘ とも言 うようだが,こ
れは後の転化で,連
用形 にへが付 くのが本来の形であろう。(p.126) と述べている。 この ように此島正年 (1968)では,連
用形 に後続する「へ」 と命令形 に 後続す る「へ」 を同 じもの として捉 えている。 しか し,坂
本幸博 (2003) で設定 した活用体系全体か ら考察 を加えると,こ
れ ら2つの「へ」は別の もの として考 えることがで きる。 (1')イ グ (行く)(I-3型
動詞)●希望形 (連用形)………・'ig―i―he(13){←'ig―i―
sc(命
令形)←
'ig―i―su(助動詞基本形)}
●命令形 (命令形)… …………″ig― c―Z ●丁寧命令形 (命令形)¨ ……・'ig― C―
he(助
詞)(2')オ ギル (起きる
)(I-2型
動詞)●希 望 形 (連用 形)… …………・'ogi Z― Z―
he{←
'ogi Z― Z―sc(命
令 形) ←'ogi Z―Z―su(助動詞基本形)}●命令形 (命令形)¨…………0'ogir―
c―Z
●丁寧命令形 (命令形)… ……・'ogi Z― Z―
he(助
詞)命令形の3つである。ここでは
,動
詞「イグ(行 く)」 と動詞「オギル(起 きる)」 を例 として考察する。この2つの動 詞 を選 定 したの は
,共
通 語 で の五段 系 (I-1型 , I-3 型, I-4型 , I-5型 , I-6型 )と
一段系 (I-2型)に
お いて,命
令 形 と 丁寧命令形の活用語尾 に違いが認め られるためである。(註4【表2】 参 照)。 (1')で は命令形 と丁寧命令形の活用語尾が同 じであるため,丁
寧命令 形 を特立せずに,丁
寧命令の助詞「へ」 は,命
令形 に後続すると説明する ことがで きる。 しか し,(2')に
おいては,命
令形 と丁寧命令形の活用語 尾が違 うため,丁
寧の助詞「へ」 は,命
令形 に後続すると説明することは で きない。 また,(2')で
は,希
望形 と丁寧命令形の活用語尾が同 じであ るため,丁
寧命令形 を特立せずに,丁
寧命令の助詞「へ」は,希
望形 に後 続する, もしくは,こ
の「へ」は助詞ではな く,丁
寧の助動詞「ス」が活 用 し,命
令形 をとった と説明す ることがで きる。 しか し,(1')に
おいて は,希
望形 と丁寧命令形の活用語尾が違 うために,希
望形 に後続する, も しくは,丁
寧の助動詞「ス」が活用 して命令形 をとったと説明することは で きない。 次 にⅡ型動詞の場合 を見てい く。此島正年 (1968)で は,「四段活用及 び変格活用の場合は命令形に付 く」 との記述がみられるが,そ
の場合「Ⅱ-1型
動詞 クku」 が説明で きな くなる。此島正年 (1968)では,活
用体 系 を共通語 の体系 で捉 えてい るので,「クku」 (食う)は
四段動詞 であ る。その命令形は「ケke」 (食え)で
あるが,そ
れに「へ」 を後続 させた 「ケヘ」は「食 い な さい」の意味 では成立 しない。これ を,津
軽 の「ク ku」 は変格活用化 しているためであると説明 しようとして も,「四段活用 及び変格活用」 と記述 されていることか ら,変
格活用化 とい うことで説明 することはで きない。 次 に後続形式の面か ら,丁
寧命令の「へ」 を考察する。動詞「カグ (書 く)」 を例 として見てい くと,希
望形か らは,「カギス」(丁寧)や
「カギ津軽方言の命令表現
29
ヘ ン」(丁寧否定),「 カギス タ」(丁寧 過去),「 カギス ナ」(丁寧 禁止)と
い った さまざまな形式 を後続 させ ることがで きる。そ こか ら,希
望形 に後 続 してい る「へ」 は助動詞 「ス」 が活用 して命令形 を とった ものであ る と 考 える こ とがで きる。 一方,丁
寧命令形 に後続す る「へ」 は,助
動詞 「ス」 が命令形 を とった ものだ と考 える と,丁
寧命令形 (活用形)か
ら「*カゲヘ ン」 や 「*カゲス タ」,「*カゲス ナ」 の ように「ス」が活用 した形式 が成立 しない こ とを説 明で きな くなる。以下,参
考 として,助
動詞 「ス」 の活用表 を簡略化 した 形 で示す。 ス (丁寧)活
用表 語 幹 志向形 否定形 希望形 過去形 基本形 禁止形 仮定形 命令形命令形丁寧○ ―u― ―u― ―u― ―C― ―C― ○
これ らの ことか ら
,希
望形 に後続す る「へ」 は丁寧 の助動詞 「ス」が活 用 して命令形 を とった ものであ り(И),丁
寧命令 形 に後 続 す る もの は,丁
寧命令 の助詞 「へ」 である と,別
に考 えるべ きである(15)。 以上,津
軽方言 の活用体系 で は,通
常 の命令形 とは別 に活用形 として, 丁 寧命令 形 を特 立 す るべ きで あ り,助
詞 の「へ」 は,丁
寧 命 令 形 (活用 形)に
後 続 す る と規 定 す るべ きで あ る と考 え られ る。 そ うす れ ば, I-2 型動詞 (一段動詞系)も
含 めた形 で,整
合性 の とれた説 明 を与 えるこ とが で きる。 6。2.丁
寧命令 形/希
望形十丁寧+禁
止 「5.2.禁
止 形」 でふ れ た よ うに,津
軽 方 言 で は禁 止 を丁 寧 にい う に は,希
望形+ス
(丁寧助動詞)+ナ
(禁止)と
い う形式 を とるが,さ
らに丁 寧 にい う禁上 の表現が存在す る。 (1)アンマス バ ス ラギ ヘスナ (あま り騒が ない ように しな さい) (2)アンマス ノ ミニ アサギヘスナ(あまりお酒 を飲みに出歩かないように しなさい)
(1),(2)の
ように (希望形+ス
(丁寧助動詞)+ナ
(禁止))の
希望形の 部分 を「へ」の形式 (希望形+へ ,丁
寧命令形+へ )に
入れ替えることに よ り,さ
らに丁寧 な禁上の表現 となる。 これは完全 な女性語 とな り,A
氏 (男性)は
どのような状況で も全 く使用せず,B氏
(女性)も
かな り丁 寧 さを意識 したときのみ使用する。 津軽方言 において禁止 を丁寧 にい う場合 には,「カギスナ」の ように, 希望形+ス
(丁寧助動詞)+ナ
(禁止)の
形式 をと り,「*カゲスナ」は成 立 しないのは「6。1.丁
寧命令形」で もふれたとお りである。 ところが, 次 に示す ように,「へ」の後からさらに,「スナ」 という形式 を後続 させた 場合 には,動
詞部分の活用形が希望形であって も丁寧命令形であって も成 立する。 (1')ア ンマス バスラゲヘスナ (あま り騒がないように しなさい) (2')ア ンマス ノミニ アサゲヘスナ (あまりお酒 を飲みに出歩かない ようにしなさい) この「スナ」の形式は,ス
(丁寧助動詞)+ナ
(禁止)で
ある と推測 され るため,「6.1.丁
寧命令形」 において,丁
寧命令形 に後続す る「へ」は 助詞であると規定 した以上,「バスラゲヘスナ」や「アサゲヘスナ」 を解 釈するには,助
詞 に助動詞が後続するとい うことを,認
めなければならな くなって しまう。 しか し,こ
れは,基
本 には「バス ラギヘ スナ」や「ア サギヘスナ」など,希
望形+へ
(助動詞命令形 ・基本形ス)が
あ り,そ
こ か ら「アサギヘ」 と「アサゲヘ」等の語形お よび意味の類似から,類
推で 導 き出されたものだと解釈で きる。 6。 3。 丁寧命令形十へ(助詞)+ン
ガ 0希 望形十へ(丁寧助動詞命令形・基 本形ス)十ンガ 「6.1.丁
寧命令形」で述べた2つの形式,丁
寧命令形+へ
(助詞)お
よ び,希
望形+ス
(へ)(丁
寧助動詞命令形 ・基本形ス)に
「ンガ」 を後続 さ津軽方言の命令表現
31
せ る と,相
手 を促 す表現 となる。 (1)ズブ ンデ エ ランビヘ ンガ/エ
ランベヘ ンガ (自分 で選 びな さい よ) (2)イ キテ アホズサ イギヘ ンガ/イ
ゲヘ ンガ (行きたい方 に行 きな さ い よ) 相手を促す命令表現は,命
令形に助詞「ジヤ」を後続させ,「エランベジ ヤ(選べ よ)」,「イゲジャ(行けよ)」,の
ように表現するが,命
令形+「ジ ヤ」は押 しつけが強い表現 となるため,通
常促す場合には,「へ」+「ンガ」 の形式が使用される。7.希
求 (依頼) 津軽方言の希求 (依頼)表
現 は,過
去形 (活用形)に
「ケ」 を後続 して 形成 される。 (1)コサキテ テズダッテケ (こ こに来て手伝 って くれ) (2)ソズガ ワ タナイデケ (そっち倶Jを持 って くれ) 「3。 得 られた形式」で示 したように,さ
まざまな終助詞 を後続 させるこ とが可能である。また,「ケ」 と同 じく過去形 (活用形)に
「ホス」 を後 続 させ て希求 (依頼)表
現 を表す こともで きるが,こ
れは共通語的であ り,伝
統的な津軽方言では使用 されない。 (1')コ サキテ テズダッテホス (こ こに来て手伝 ってほ しい) (2')ソ ズガ ワ タナイデホス (そっち側 を持 ってほ しい) また,共
通語では「∼て」 と止めることも可能だが,津
軽 では「∼テ」 と止めることがで きず,必
ず「ケ」が必要である。(3)ゴ
ンッコロ ェサ イデケ (五時頃家 にいて くれ) (3')*ゴンッコロ ェサ イデ (五時頃家 にいて くれ) 7。1.動
詞「ケル」 との関わり (1)アンダモ ミデケ/ケ
レ/ケ
ロ (あなた も見て くれ)(2)ヒ ロサギマンデ ィッテヶ
/ケ
レ/ケ
ロ (弘前 まで行 って くれ) この ように,過
去形 (活用形)か
ら動詞「ケル (呉れる)」 を後続 させ る表現 も成 り立つ ことか ら,こ
の「∼ケ」は,動
詞「ケル (呉れる)」 の 活用形であると考 えることも可能である。 しか し,「ケル」はI-2型動詞 であ り,そ
の活用形 において「ケ」単独の形になる活用形が存在 しないこ とか ら (註4参
月1),「テ ズ ダ ツテ ケ」の「ケ」 と「テ ズ ダ ッテ ケ レ(ケ ロ)」 の「ケ レ(ケロ)」 は,別
の もの として考える必要がある。 「テズダッテケ レ(ケ ロ)」 は動詞「ケル(呉れる)」 が,い
わゆる補助動 詞 として働 いた もの と考 えることがで きる。それ に対 して「テズ ダッテ ケ」は,上
記のように動詞「ケル(呉れる)」 が活用 した形ではないため, 別に設定する必要が出て くる。 ここでは,こ
の「ケ」 を命令形のみの動詞「ケ」 として設定(10するこ とにより,こ
の現象を解釈する。動詞「ケル(呉れる)」 と比較 して,以
下 の表に示 したように活用する動詞であると説明する。 ●動詞「ケル (呉れる)」・動詞「ケ」活用表 語 幹 志 向形酸
形
希望 形 過去 形 基本 形瓢
形
厳
形
命令 形 丁寧 命令形ke{rL(☆ z―)) ―Z… ☆―Z― ☆―Z― ―u― ☆―Z― ―e― ―C― ☆―Z―
k ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ このことか ら考 えると,「ケヘ」の形式 (カイデケヘ, ミデケヘ
)は
, 命令形のみの動詞「ケ」 に助詞「へ」が後続 したのではな く,動
詞の過去 形 (活用形)に
「ケル」がいわゆる補助動詞 として後続 し,そ
の「ケル」 が丁寧命令形 十「へ(助詞)」,も
しくは希望形+「へ(助動詞命令形・基本形 ス)」 の形式 をとったと考 えるべ きである。そ うしなければ,例
外的に命 令形 に助詞 「へ」が後続す ることを認める必要が出て くる。また,「ケ」 を丁寧命令形のみの動詞であると認めて しまうと,「ケ」で終止す る形が 得 られな くなって しまう (【表1】 参照)。 これ らの ことか ら,動
詞「ケ」津軽方言の命令表現 の活用表は丁寧命令形 を空 き間にして
,命
令形のみの動詞であると解釈す る(17)。 また,「ケヘ」の形式 に,6.3。 で も述べ た「ンガ」 を後続す る と,相
手 を促す表現 となる。 (3)ホンコ(10ゴ ト(1" ョンデケヘ ンガ (本を読んであげなさい よ) (4)イ ッシヨニ アソンデケヘ ンガ (一緒 に遊 んであげなさい よ) 共通語では相手が 自分 に何 らかの行動 を与 えて くれる場合 には,「やつ て もらう・やって くれる」 とな り,自
分が相手 に何 らかの行動 を与える場 合 には,「やってやる・やってあげる」 とな り,両
者 は区別 される。 しか し,津
軽方言 においてはどちらの場合 も「ヤ ッテケル(やって くれる)」 と なるため,「ケ」+「へ」十「ンガ」で「∼あげな さい よ」 とい う表現 にな る。 本目手 か ら自分 自分しか ら本目[手 土 ハ 通やってもらう・やってくれる
やってやる・やってあげる 津軽方言 ヤ ッテ ケ ル ヤ ッテ ケ ル 7。2.よ
り丁寧な希求 (依頼) 津軽方言の通常の希求 (依頼)表
現 は,「ケ」お よび「ケ レ(ケロ)」 で あ り,丁
寧 な希求 (依頼)表
現 は,「ケヘ」である。 しか し,そ
れ以上 に 丁寧 に依頼する表現 も存在する。 (1)ハエ ァグ キテケネ(べ)ガ/キ
テケラエネ(べ)ガ (早 く来て くれない(でしょう)か) (2)コ ズモ カッテケネ(べ)ガ/カ
ッテケラエネ(べ)ガ (こっちも買って くれない(で しょう)か) 「∼ケネ(べ)ガ」 は,共
通語訳 で示す とお り,「∼て くれない (で しょ う)か
」 となる。「べ」は着脱可能であるが,付
けた方が より丁寧 さが増 す。「∼ケネラエ(べ)ガ」は,「∼ケネ(べ)ガ」 に可 能 の「エ ルO①」が付い た こ とに よ り
,さ
らに丁寧 にな り,「 ∼て くれる ことはで きない (でしょう
)か
」となる
(21)。 8。 ま と め 結論 として以下の点が明らかになった。①津軽方言では,動 詞の活用形として
,命
令形と丁寧命令形とを別に設
定するべ きである。 ②津軽方言では,動
詞の活用形 として,禁
止形 を (基本形 とは別に)設
定するべ きである。 ③丁寧命令 を表す「へ」は,前
接する活用形の違いか ら,丁
寧の助動詞 「ス」が活用 して命令形 をとった もの と,助
詞「へ」 とを別 に設定す るべ きである。 ④希求 (依頼)を
表す「ケ」 は,命
令形のみの動詞であ り,活
用の型は I-2型動詞 に分類 される。 ⑤丁寧命令形は女性語 と意識 されているが,実
際の言語運用 としては男 性 も使用する。その際 には,「不日らげ表現」 として使用 される。 言主 (1)本稿 で は希求 と依頼 の違 い につ いては扱 わない。 (2)阪田雪子 (1989)で示 されてい る共通語 の形式 は以下 の通 りであ る。 ●命令 と して 1。 語 の意味 にゆ だね る もの,2.活
用語 の命令形 を用 いた もの,3.活
用 語 の終止形 に よる もの,4.活
用語 の連用形+た,5。 ∼な さい/お∼な さ い,6。 ∼た まえ,7.∼
ないか,8。 文末 (終止形)+こと ● 禁止 と して 1.活用語 の連体形+な,2。 ∼ じゃない,3。 ∼てはいけない,4。 ∼な さ んな,5.反
語 的 な用法 ●依頼 と して 1。 語 の意 味 にゆ だ ね る もの,2.∼
て くれ/∼て くだ さい/∼て頂 戴, 3。 活用語 の連用形+て,4。 ∼てお くれ,5。 ∼て くれ た まえ,6.お
∼ く津軽方言の命令表現 35 ださい,7。 ∼ていただきたい,8。 ∼て くれないか/∼て くれませんか
/
∼て くださいませんか,9。 ∼て もらえませんか/∼ていただけませ んか /お∼願 えませんで しょうか (3)津軽方言 において命令表現 に関わるものでは,本稿で扱 ったもの以外 に,以 下の 4つ の形式が存在する。 (1)ナ ガ・ネガで表 されるもの カガナガ (+ヤ/ノ),カ ガネガ (十ヤ/ノ),カ ギスナガ (+ノ) (2)断 定で表 されるもの ヵグンダ (+ャ) (3)断 定の否定で表 されるもの ヵグンデネァ(十ヤ) (4)義 務で表 されるもの カガネァバ (十ノ) これらの ものに関 しては稿 を別に述べ る。 (4)こ れ ら待遇性お よび地域差 に関わる事象 は,稿を別 に述べ たい と考 えてい る。 (5)津軽方言においては,この ような勧誘型の命令表現は使用 されない。 16)【表2】 として,(1)I-1型
動詞から(8)Ⅱ-2型動詞までの活用表を簡略化 した形で示す。なお,語幹末の子音が交替 した場合の活用語尾 との対応 を, ☆の有無ならびに数で示 した。 (1)I-1型 'aOaru アガル (上がる) (2)I-2型 'aDeru アグル (上げる) (3)I-3型 'inOgu イノグ (動く) (4)I-4型 'as05u アソンブ (遊ぶ)(5)I-5型
mazu
マズ (待つ)(語幹 末/z/は /u/の場 合。/d/は/a∼e/の場合。) (6)I-6型 'uzusu ウズス (移す) (7)Ⅱ-1型
ku
ク (食う) (8)Ⅱ-2型 kurtl クル (来る) 【表2】 語 幹 志 向 形 否定 形 希望 形 過去 形 基本 形 禁止 形 仮定 形 命令 形 丁寧 命令形 (1)I-1型 '印 {L(☆Qち☆☆0‐)} ☆☆―Z― ☆―Z― ☆☆―Z― (2)I-2型 'aDe{r…,(☆ z―)} ☆―Z― ☆―Z― ☆―Z― ☆―Z― ☆―Z― 型 I-3 'ho{gЪ ぼ'卜)} ☆―Z―(4)I-4型 'aso(3Ъ(☆N―)} ☆―Z―
I-5型 ma{z―,d―,(☆Q―)} ☆―Z― ―e―
(6)I-6型
Ⅱ-1 型 ―az― ―uQ― ―uz― ―uz― ―ez― ―CZ―
型 -00- -lZ― ―uz―
(7)註(4)に同 じ。
(8)こ の変化は大西拓一郎 (1995)及 び小林隆 (1996)に おいて示 されている,
否定形 の場 合 に「ラ」が 脱落す る過程 と して説 明 され てい る,取る 三to―
ranε>tONn8>tONnε>tOn8の ような変化 と同 じような説明 を与 えることがで き
ると考 えられる。 (91 津軽方言 においていわゆ る疑問詞 と捉 え る こ とが で きる もの は,「ガ」, 「ナ」,「バ」の 3種 類である。ここでは,それぞれの違いを詳 しく述べ るこ とは しない。 l101 津軽方言のアクセ ン ト体系 に関 しては上野善道 (1977,1989)を 参照。 は⇒ ここで,助動詞 シとされているものは,本稿の丁寧の助動詞ス と同一の もの である。此島正年 (1968)で は,シ とスをシに統合 しているのに対 し,本稿 ではスに統合 しているため,このような違いが生 じている。筆者が,シ とス をスに統合 していることに関 しては
,坂
本幸博 (2003)を 参照。 l121 女性であつて も,かな り強い怒 りの感情 を持 って,上か ら下 にものをい う場 合には,命令形 を使用す ることもあ る。 しか し,それは よほ どの場合であ る。 l131 津軽方言においては,「セ」が「へ」 に変化する現象がある。 (例)セナガ(背中)→ヘナガ,アセ(汗)→アヘ,オギセ(起きなさい)→ オギヘ しか し,全ての語において起 こるわけではな く(セメル(攻める)→
*ヘメ ル),発生条件など詳 しいことは明 らかではない。 l141 北条忠雄 (1975)に 「津軽のエギヘはエギスの命令法で,このエギスはイキ モス く行 き申す〉に由来する。」(p。 169)と の記述がある。ただ,こ こでは 丁寧命令形 (共通語の活用形で とらえている場合は命令形)との関わ りにつ いては記述 されていない。 l151 丁寧の助動詞「ス」 と丁寧の助詞「へ」 との間には後続する要素の違いが認 め られ るが,助動詞「ス」が命令形 を と り,「へ(活用)」 となった場 合 に は,助詞 「へ」 との間に後続する要素の違いはな くな り,一部のいわゆる終 助詞 を後続するのみである。 l161 この命令形のみの動詞「ケ」は,意味的領1面お よび形態的倶1面か ら,「ケル津軽方言の命令表現 37 (呉れる)」 の変種であるとして, I-2型 動詞 に帰属 される。なお,坂本幸博 (2003)で 調査対象 とした動詞 1026語 には,この「ケ」 は含 まれていない。 l171 こまつひでお (1999)で は,共通語の「 くれ (呉れ)」 が以下の ように解釈 されている。 クレヨとい う語形が,日本語話者の直覚で,(四段活用動詞 クレルの 命令形+助詞 ヨ)とい う結合 として反射的に分析 され,その分析 に基づ いて使用 されているとしたら,動詞 クレルを独立の活用形 として特立せ ずに,未然形か ら仮定形 までは下一段活用 として,ま た
,命
令形 は四段 活用 として使用 されていると認めればよい。図示すれば下表の ようにな る。 この場合,活用の異なる二つの動詞 なのか,相補分布の関係 にある 一つの動詞なのか というた ぐいの議論は不毛である。 語 幹 未然形 運用形 終止形 連体 形 仮定形 命令 形 活用型 れ れ れ る れ る れ れ 下一段 活用 れ 四段活用 井 上 史雄 (1981) 上 野 善 道 (1977) (1986) (1989) (p。 147) l181 l191 1201 この「コ」は,いわゆる指小辞 とされているものである。詳 しくは 日野資純 (1958)お よび此島正年 (1968)を 参照。 津軽方言の ヲ格 には,z(ゼロ),バ,ゴ
ト,ゴ
トバ,の4種類があ り,基
本 的にはzで 表 される。 しか し,使役形の場合 な どでは,他の3種 類で明示す る必要がでて くる。本稿ではそれぞれの違いは述べず,ゴ
トで代表 させ る。 共通語の「受け身・尊敬 ・自発・可能」の助動詞「れる・られる」 は,津軽 方言では,いわゆる rの 脱落が起 こ り,「エル」 として実現す る。この現象 に関 しては,此島正年 (1968)お よび,井上史雄 (1981)を 合わせて参照。 註(41に同 じ。 引用文献 安達太郎 (2002)「命令・依頼のモダリテイ」(『新 日本文法選書 4モ ダリテ イ』 くろ しお出版) 「荘内方言の r脱 落にみる形態変化の近代史」(東京外国語大学 論集31) 「 日本語のアクセ ン ト」(『岩波講座 日本語 5音 韻』岩波書店) 「青森市動詞のアクセン ト」(「日本海文化」13) 「日本語のアクセ ン ト」(『講座 日本語 と日本語教育 2日 本語 の 音声 ・音韻 (上)』 明示書院)大西拓一郎 (1995)「岩手県種市町平内方言の用言の活用」(「国立国語研究所報 告