IV. 調査結果の分析: 近畿大学に通う「外国にルーツをもっている」当事者の声を聴く
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(2) 一口に在日外国人といっても国籍は多様化しているし、同じ国籍を持っていても来日の背景や経 済状況、周囲の環境によってもまったく違う生活経験をしている。さらに、 「外国人」と「日本人」 の違いも、法制度による処遇の違いは明確であるが、実態は、国籍の違いで「日本人とは違う人た ち」と二分できるほど単純なものではない。そもそも日本の国籍法も過去から現在まで何度も法律 の中身が変わっている。また国境を越えた人の移動が一層活発になっている時代にあって、両親の 国籍が違うなど日本と外国の両方の国籍法の対象になる人たちが増えているのは間違いない。さら に日本との関わりが深くなる中で、「帰化」許可を受け、日本国籍を取得した人たちが累計で 50 万人を超えている。この数字には、「帰化」後に生まれた子どもたちは含まれていない。 また在日外国人の状況を説明する際には、日本の歴史的な事情として、旧植民地である朝鮮半島 出身者とその子孫(以下、「在日コリアン」と呼ぶ)の存在を抜きにしては語れない。朝鮮半島な ど日本の旧植民地出身者で、戦後も引き続き日本に居住していた人たちは、1952 年 4 月 28 日 (サンフランシスコ講和条約発効日)に、日本国籍を「喪失」し、一夜にして「外国人」となった。 当時の外国人の 9 割以上が在日コリアンであったのはこういう理由による。こうして法務省の統計 は、2006 年までは、「韓国・朝鮮」籍の人がトップを占めていた。時の流れとともに、在日コリ アンは世代交代が進み、既に在日 5 世が誕生している。さらに在日コリアンの大多数をしめる「特 別永住者 3」の数は継続して減少している。前述したこれまで帰化をした人たちの 7 割近くは、 「韓 国・朝鮮」籍の人である。 日本がバブル景気を経験した 1980 年代後半から 1990 年代にかけて、新たな外国人住民が増 えるとともにその国籍も多様化した。しかし国境を越える人の移動が活発になったといっても、国 境の壁は厳然とあるわけで、国家間の関係や経済格差、またそれぞれの国内事情によってその壁の 高さはどのようにも変わりうる。そして現在の日本は、在日外国人が多様化しているといっても、 国籍別でみると在日外国人全体の 8 割以上がアジア出身である。 一方、2014 年 6 月末の日本の総人口に占める統計上の外国人の割合は約 1.64%で、OECD 諸国の外国生まれの人口の比率 4 をみても日本の外国人人口は相当低い割合である。これは日本が、 外国人労働者にたいして労働市場をかなり制限していることが主な理由としてあげられる。特別永 住者や一般永住者など永住資格をもつ人たちは職種や在留の期限がないが、専門職・技術職以外の 外国人労働者は、例外的に受け入れられている。例えば、日系人 3 世までの労働者、技能実習生、 あるいは 2 カ国協定による介護福祉士・看護師及び候補生などがそれに該当する。国際結婚によっ て日本に住むことになる外国人も少なくない。もちろん、長きにわたって日本に住む在日コリアン の婚姻も外国籍と日本国籍のカップルの婚姻であれば、統計では「国際結婚」になる。最近では日 本全体の婚姻件数が減少しているが、国際結婚の件数も減少している。それでも 2013 年の総婚 姻件数約 66 万件 5 での内、夫妻の一方が外国籍であるカップルは 2 万 1 千件余りであった。例 えば、2013 年の妻の国籍の上位 3 か国は、中国、フィリピン、韓国・朝鮮の順になり、夫の国 籍の上位 3 か国は、韓国・朝鮮、米国、中国の順になった。夫が日本人で妻が外国人のケースは、 妻が外国人で夫が日本人のケースの 2.5 倍以上の件数になった。また、大学などの高等教育機関に 3. 旧植民地出身者とその子孫で 1945 年以降も引き続き日本に居住している人たちを対象にした法律に基づく永住資格. 4. OECD 主要統計 http://www.oecd.org/tokyo/statistics/. 5. e-Stat(政府統計の窓口) http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001028897、政府の統計で は、年度毎の日本人と主要な国籍別の外国人のカップルの婚姻件数はわかるが、在留資格別の統計は無いので、旧植民 地出身の在日コリアンも韓国から結婚で来日した人も同じ枠でカウントされる。. − 52 −.
(3) は、留学生として海外から学びにきている人たちがいる。日本政府は、2008 年に伸び悩んでいた 留学生を積極的に増やすための計画を策定し、2020 年までに「留学生 30 万人」を達成するとし て、目下、目標に向かって推進中である。 米国 50,515 人. その他 403,670 人. 中国 (台湾を除く) 648,734 人. ベトナム 2.近畿大学の外国にルーツのある学生たち 85,499 人. 近畿大学の東大阪キャンパスがある大阪府東大阪市は、「在留外国人総数上位 100 自治体」中、 第 11 位で、16,817 人の外国人が住む自治体である。東大阪市全人口に占める外国人住民の割合 ブラジル. 177,953 人 2 倍である。その外国人住民全体の約 7 割が「韓国・朝鮮」の は約 3.4%で、日本全体の平均の 韓国・朝鮮 508,561 人. 人で、約 2 割が「中国」の人であり、この二つのグループで東大阪市の外国人の 9 割を占める。通. フィリピン 213,923 人 学に利用される鉄道「近鉄」 (近畿日本鉄道)は、日本で最大のコリアンのコミュニティがある生. 野区を走っている。また広域自治体である大阪府は、外国人住民が 203,673 人で全国で 2 番目 に外国人が多く住む都道府県であるが、その上位 5 カ国・地域は、「韓国・朝鮮」116,182 人、 中国 50,539 人、フィリピン 6,322 人、ベトナム 6,110 人、台湾6 3,900 人の順となる。 2014 年 6 月末現在の国籍・地域別の大阪府の在日外国人(法務省サイト「在留外国人統計」より) ブラジル 2,573 人. 台湾 3,900 人. ベトナム 6,110 人. その他 18,047 人. フィリピン 6,322 人. 韓国・朝鮮 116,182 人. 中国 50,539 人. 大学という特色から留学生が含まれることになるが、近畿大学は、2013 年 5 月現在、329 人 の留学生を受け入れている。留学生の上位 5 カ国の出身国・地域は、中国―242 人、韓国―39 人、台湾―16 人、マレーシア―15 人、インドネシア―4 人の順になっている。「人権と社会」を 受講している留学生の数は把握できていない。 今回のアンケート調査では、 「外国籍の学生」ではなく、 「外国にルーツをもつ学生」という括り で、当事者の枠組みを考えた。そこで、 「外国人とのかかわりについて」の問 1 で、まず回答者自 身(学生)が、外国籍であったり、祖父母や父母が外国から来日したりするなど、外国にルーツを もっているかを尋ねた。国籍は尋ねなかったので、自由記述のところで自分の国籍やルーツを書い た学生以外の国籍はわからない。大阪府に在住する外国人の国籍の多い順にほぼ対応すると思われ る。そしてある程度日本国籍を持つ学生が含まれていると推定される。日本人と外国人のカップル から生まれたり、「帰化」をした両親を持つ在日コリアンであったりする学生などは、そのケース に当たる。 6. 新しい在留管理制度で交付される在留カード及び特別永住者証明書には、これまで「中国」にふくめていた「台湾」を 別に表示し、2012 年末以降の在留外国人統計にはその数字が反映されている。. − 53 −.
(4) 問 1 で「外国にルーツをもっている」と回答した学生が回答者 1,249 人中 78 人で、全体の 6.2%にあたる。前述したように、日本国籍の学生も含まれているからであろうが、日本全体の外 国人人口の割合の約 3.8 倍となり、大阪府の割合に比べても約 2.7 倍となる。所属学部でみると、 各学部で占める割合が 2%から 12.9%まで数字に幅はあるが、誰もいないという学部はない。 また、性別を答えるのに、 「女性」でかつ「外国にルーツをもつ人」は 26 人(33%)であった。 「男性・女性と答えるのに抵抗を感じる人」の中に、外国にルーツを持つ人も 2 人(2.6%)いた。 複数のマイノリティの立場に立つ人たちは当然、「外国にルーツをもつ人」のグループにもいるの である。 3.自由記述で述べたこと 問 16 は、「日本人と外国人が地域で共に生きていくためには、どうような取り組みをしていっ たらよいと思いますか。あなたの考えを記述してください」というものである。アンケート全体を 読むと、外国にルーツをもつ人の 8 割(61 人)が記述し、外国にルーツをもっていない人の 7 割 (780 人、文字化け 5 人)が記述していた。その中には、 「無理です」「わからない」のように提案 ではない回答もあるし、 「差別をなくす」「外国人との交流をふやす」のような一般的で短い文章の 提案もあるが、自分の考えをまとめてより具体的な提案をしている回答も多く見受けられた。 実際のところ、外国にルーツをもっている人の記述の大半は、外国にルーツをもっていない人の 記述と類似した提案であった。外国にルーツをもっていない人のほうが数としては 10 倍以上多い ので、そちらの方がより多様な意見があることの反映かもしれないし、大阪をふくめた関西地方で は世代を重ねてくらしてきた在日コリアンが圧倒的多数であるため、在日コリアンについては感性 や発想が日本人と似通っているのかもしれない。 まずは外国にルーツをもつ人の自由記述で、自分のアイデンティティについて書いた学生が 2 人 いた。一人は、在日 3 年目の中国の国籍の人で、もう一人は、朝鮮学校出身の在日コリアン(自身 は、「在日朝鮮人」と表現)である。以下に、二人の記述を紹介する。 〈私は中国人です。日本に来て三年目です。日本の社会やはり外国人差別が多いです。生活の中 で、私は日本人っぽいよく言われてます。…以下省略〉 〈私自身が在日朝鮮人であり、小中高校と朝鮮学校を出身している。私が望むのは、私達の歴史 と現状について正しい認識を持ってほしいという一点だけである。大学に通いながら差別を受 けたような事はないが、名前を言ったときなどに、 「いつ日本へ来たのか?」などと、聞かれる ことがほとんどである。大阪には在日外国人が非常に多く住んでいるのに、それが日本人の間 であまり知られてないのは悲しい。〉 この学生の場合は、名前にまつわる体験が書かれていて、本名 7 で大学に通学していることがわ かる。 また国籍は不明だが、米国で暮らしていた経験からコミュニティでの交流事業を提案している人 7. 在日外国人の中には、本来の名前ではなく、日本風の通名(通称名ともいう)で生活している人たちがいる。とりわ け、在日コリアンは、かつての植民地時代の日本の政策(1940 年「創氏改名」)に起因して、現在も継続して本名とは 別に通名で生活している人たちが少なくない。その現状がわかる公的資料があまりないこと自体が問題であるが、例え ば、政令指定都市を除く大阪府内の公立中学校での児童・生徒の本名使用率のデータでは、中学校が在日外国人全体の 38.5%、「韓国・朝鮮」籍に限ると 21.3%であり、府立の高等学校では、在日外国人全体の 42%、「韓国・朝鮮」籍に 限ると 26.1%である(2014 年度、大阪府教育委員会調べ)。. − 54 −.
(5) が 1 人いた。 次に 61 人のアンケートの内容の傾向をみるために筆者の判断で便宜的に 5 つのグループにわけ て、それぞれのグループから意見をいくつか紹介する。 1 つ目のグループは、交流をしたり、一緒に行事をしたりするというイベントを通じて、地域で の共生社会づくりをめざすというものであり、12 人の回答がそれにあてはまった。 〈もっとお互いの文化などを知らなければならないと思う。お互いの国へ行き、それぞれの国の 良さを見るべきだ。〉 〈もっとその国の人の文化や宗教にふれる場を多く作っていくべきだと思う。〉 〈外国人に日本の文化について知ってもらうために、様々なイベントをするべきであると思う。〉 2 つ目のグループは、差別をなくしたり、平等に扱うようにすべきなど人権のメッセージが強く 出ているものであり、12 人の回答がそれにあてはまった。 〈ヘイトスピーチをなくすように、法律できめ、選挙の投票や学校の無償化にすべき。せっかく 日本に来て働いてくれているので、平等にすべき。〉 〈まずは日本人の外国人差別の風潮を無くすことが先決である。村社会の基盤が根強く残ってい る現代の日本では、外国人は厄介者と扱われることが多いが、その意識を改善すべきだ。〉 〈とくに何もしなくてもすでに共に生きていっている。が、ヘイトスピーチなどの内容はすごく 程度の低く、恥じるべきものなので、すぐやめさせるべき。〉 3 つ目のグループは、相互理解や配慮という心がけや意識の変革を提案するもので、15 人の回 答がそれにあてはまった。 〈お互いにお互いの文化、価値観を本当に理解すべき。〉 〈お互いの文化や生活習慣について理解・尊敬し合い、何でもいいから自分から声をかける(外 国人は彼ら、彼女らの生まれた場所とは違う国で生まれたので、自分から積極的に話しかける 可能性はどちらかといえば低いことが推測されるため)ようにしていく。〉 〈日本とか外国人とか、アジア系とかヨーロッパ系とかあまり気にする必要のない壁だと私は 思っています。「あいつ○○人なんだって」っていう言葉とかすらいらないと思う。確かに国は 国だけど、他の地域から来たん、とか日本の中にも方言はあるんだから言葉がちがう、とか日 本人だけじゃなく海外の人にも思ってもらえるような取組みがいるし。…(途中省略)…もっ とみんなが、自分たちの偏った考え方に気付くべきだと思う。〉 4 つ目のグループは、学校教育での学習を提案するもので、10 人の回答がそれにあてはまった。 〈諸外国に対する知識をもっと得られる教育をすべきであると思う。それにより、外国人に対す る理解と受容性を高め、外国人が共に生きていける環境づくりができていくと思う。〉 〈差別意識を極力取り除けるような教育をしていく。〉 〈小さいときからもっと外国人とのふれあう機会を増やすべきだと思う。〉 5 つ目のグループは、外国人とともに生きていくことに悲観的であったり、否定的な意見を述べ. − 55 −.
(6) たりするものであるが、3 人の回答がそれにあてはまった。 その内、2 人は、現実の差別意識を変えたり、多様性を認める意識を形成したりする難しさの方 を先に感じている。 〈差別を撤廃するような条例等を作ったとしても、外国人を差別する人々の思想そのものが消え るわけではないので、完全に共生することは難しいと思う。〉 〈考えても 1 人 1 人の意識、考えが違うのでトラブルがなくなることはない。〉 もう一人は、「在日」としか書いていないが、その集団に対してある固まったイメージを持って おり、問題は「相手側に」あるとしている。「在日」という用語は、在日外国人全般を指すのでは なく、旧植民地出身の在日コリアンのことを本国の「コリアン」でないことを強調する省略の形で ある場合が多い。恐らくこの学生も在日コリアンのことを言っているのではないかと思われる。 〈そもそも横暴な在日が多いのでむしろ向こうが改善していくべきである。〉 この学生は外国にルーツをもっているほうに○をしているが、具体的な国名や外国とのかかわり の度合いは不明である。ただし、 「向こうが」という表現からは、自分は、 「在日」のグループには 属さないと認識していると読める。誤記の可能性もある。 6 つ目のグループは、上記 5 つのいくつか複数にまたがっているか、どこにもあてはまらないと 判断したものであるが、9 人の回答がそれにあてはまった。その内、現状のままでいいという回答 が 2 人であった。 4.「外国にルーツをもっている」、「もっていない」で、回答に有意差があった質問事項 アンケートの質問事項は、大きく「外国人とのかかわりについて」「学習経験について」「外国人 の人権について」「態度や行動について」「共生社会について」の 5 つの内容について尋ね、最後に 自身の性別と所属学部を尋ねている。その中で「外国にルーツをもっている」、 「もっていない」の 違いで、回答に有意差があったものもあるし、なかったものもある。その結果について、以下に簡 単にまとめる。 「外国人とのかかわりについて」 まず「外国人とのかかわりについて」は付問をふくめて 6 問の質問項目があった。その中で、問 2「つきあいの有無」は有意差があった。問 3「人間関係について」は、欧米系出身の場合とアジ ア系出身の場合とに分けて受容度を尋ねたが、「一緒に学んだり、働く」と「家族の誰かが結婚す る」という項目で有意差があった。「学習経験について」は、どこで学んだかについては有意差が なく、学んだ内容で有意差があった。「外国人の人権について」は、付問をふくめて 10 個の質問 項目があったが、有意差があったのは、問 8「ヘイトスピーチを知っているかどうか」と問 13「外 国人が過剰な要求をしているかどうか」の 2 問だけであった。その他のヘイトスピーチについての 見方や取り組み、外国人に対する差別に関する問いや「同化」8 についての問いも有意差はなかっ た。「態度や行動について」は、サッカー場で観客による人種差別的な横断幕を見たときに取る態 8. 同化とは assimilation のこと。異なる複数の文化を持つ集団が接触し、一つのものになっていく過程。多くの場合、よ り弱いものがより強いものに合わせ吸収されるケースがほとんどである。〈参考「部落問題・人権事典」(部落解放・人 権研究所 2001〉. − 56 −.
(7) 度や行動を尋ねたものであるが、有意差があった。「共生社会について」は、外国人が増えること についての地域社会への影響を尋ねたものであるが、有意差はなかった。 次に、有意差があった項目のいくつかについて具体的な数字をみていく。 まず、「問 2.あなたは日本に住んでいる外国人とのつきあいがありますか。」であるが、まず 「ルーツをもっている」人の 3 割が「つきあいがない」と答えている。つまり 7 割が「つきあいが ある」と回答し、更にその 7 割(42 人)が、 「家族・親戚」とのつきあいがあると答えている。し かし自身が「ルーツをもっている」なら、その家族や親戚も「外国にルーツをもっている」と考え るのが自然であり、ほぼ 100%に近い数の「ルーツをもっている」人が「家族・親戚」との付き 合いがあるものと予想していたが、結果はそうではなかった。以前、 「人権と社会」の受講生で「母 親が在日コリアンであったが、帰化をして日本国籍になり、親戚づきあいはない」と話した人がい た。そういうケースなど様々な事情があるのだろうか。逆に、「ルーツをもっていない」人の中に も、「家族・親戚」としてのつきあいがある人が 17 人いた。そして「ルーツをもっていない」人 の 65%は、外国人とは、日常的に具体的なつきあいをしていない。 Q2 外国人とのつきあい ある もっている Q1 外国にルーツ もっていない 合計. ない. 合計. 55. 23. 78. 70.5%. 29.5%. 100.0%. 402. 761. 1163. 34.6%. 65.4%. 100.0%. 457. 784. 1241. 36.8%. 63.2%. 100.0%. p<0.001. 問 3 は、日本に住んでいる外国人との人間関係についてであるが、A. 相手が欧米系の出身と B. ア ジア系の出身に分けて、(1)大学・職場で一緒に学ぶ・働く、(2)隣近所に住む、(3)友だちづ きあいをする、(4)家族の誰かが結婚する、という 4 つの場面に分けて、4 段階に分けて受容度 を尋ねている。その結果は、3 項目で有意差があった。まず「アジア系の出身の人」と(1)「大 学・職場で一緒に学ぶ・働く」で有意差があった。「ルーツをもっている人」は、8 割以上が「積 極的に受容できる」と回答した。「あまり受容できない」と回答した人はいなかった。一方、 「ルー ツをもっていない人」の一番多い回答は、「ルーツをもっている人」と同じく「積極的に受容でき る」であったが、 「ルーツをもっていない人」は 7 割弱であった。「あまり受容できない」(2.9%) と「受容できない」(0.4%)を併せると 3.3%が、一緒に学んだり、働いたりすることに否定的で あった。それに比べると「ルーツをもっている人」の否定的な回答の割合は 1.3%(1 人)と低い。. − 57 −.
(8) Q3. B. 1 アジア系の出身の人と大学・職場で一緒に学ぶ・働く 積極的に受容 できる もっている Q1 外国にルーツ もっていない 合計. まあ受容 できる. あまり受容 できない. 受容できない. 合計. 63. 12. 0. 1. 76. 82.9%. 15.8%. 0.0%. 1.3%. 100.0%. 776. 340. 34. 5. 1155. 67.2%. 29.4%. 2.9%. 0.4%. 100.0%. 839. 352. 34. 6. 1231. 68.2%. 28.6%. 2.8%. 0.5%. 100.0%. p<0.05. 「(4)家族の誰かが結婚する」という項目は、A. 相手が欧米系の出身と B. アジア系の出身のど ちらの場合も、有意差があった。相手が欧米系出身の場合は、「ルーツをもっている人」は、6 割 以上が「積極的に受容できる」と回答しているが、「ルーツをもっていない人」は、それが 5 割弱 になる。ただし、 「積極的に受容できる」と「まあ受容できる」の肯定的な回答を足すと、 「ルーツ をもっている人」の肯定的な回答が、86.9%になるし、 「ルーツをもっていない人」も肯定的な回 答は 86.5%になった。相手が欧米系の出身であれば、家族の誰かが外国人と結婚することを受容 していることがわかる。しかし、同じ結婚でも、相手がアジア系出身の場合は、「ルーツをもって いる人」「ルーツをもっていない人」のいずれのグループも、 「積極的に受容できる」という割合が 減少する。「ルーツをもっている人」は 6 割弱になるし、「ルーツをもっていない人」は 4 割強に なる。また、「あまり受容できない」「受容できない」という否定的な意見については、「ルーツを もっている人」 「ルーツをもっていない人」のいずれもほぼ同じ比率になった。「あまり受容できな い」は、いずれのグループも 1 割強となり、「受容できない」は、4%前後であった。つまり、ア ジア系出身の外国人と家族の誰かが結婚する場合、「ルーツをもっている人」もやはり抵抗感があ り、否定的な意見の人が 1 割以上という結果が出た。アジア系の出身の在日外国人という表現は、 広い地域を含むので、回答者がどういう出身国を想定したかはわからない。恐らく自分が日常で接 したり、情報を聞いたりする体験から、朝鮮半島、中国、フィリピン、ベトナムなど関西で多く住 むアジアの国々の外国人を想定した人は多いだろう。. 相手が欧米系の出身の場合 Q3. A. 4 家族の誰かが結婚する 積極的に受容 できる もっている Q1 外国にルーツ もっていない 合計. まあ受容 できる. あまり受容 できない. 受容できない. 合計. 48. 18. 8. 2. 76. 63.2%. 23.7%. 10.5%. 2.6%. 100.0%. 545. 444. 127. 27. 1143. 47.7%. 38.8%. 11.1%. 2.4%. 100.0%. 593. 462. 135. 29. 1219. 48.6%. 37.9%. 11.1%. 2.4%. 100.0%. p<0.05. − 58 −.
(9) 相手がアジア系の出身の場合 Q3. B. 4 家族の誰かが結婚する 積極的に受容 できる もっている Q1 外国にルーツ もっていない 合計. まあ受容 できる. あまり受容 できない. 合計. 受容できない. 44. 18. 11. 3. 76. 57.9%. 23.7%. 14.5%. 3.9%. 100.0%. 480. 439. 184. 49. 1152. 41.7%. 38.1%. 16.0%. 4.3%. 100.0%. 524. 457. 195. 52. 1228. 42.7%. 37.2%. 15.9%. 4.2%. 100.0%. p<0.05. 次に、「問 4.あなたが、外国人とつきあうにあたり、壁になっていると感じるものがあります か。」で有意差があった。あてはまるものにすべて○をするという質問であったが、 「ルーツをもっ ている人」「ルーツをもっていない人」のいずれも一番多いのが、 「1、言葉の違い」であるが、 「ルー ツをもっている人」 (57.7%)に比べ、 「ルーツをもっていない人」 (69.7%)の方が 10%以上多 いという差が出た。また、「5、外国人とつきあう機会が少ない」も約 10%の差があるが、「ルー ツをもっている人」の方が、すでに家族・親族・近所づきあいなどを通じて、外国人とのかかわり がより多いという結果が出ているので、その差が出ているのであろう。しかし、ルーツをもってい ても親戚づきあいのない人がいるし、他の外国人とつきあう機会が多いとは限らない。「ルーツを もっている人」の 2 割が、自分が外国人とつきあう機会が少ないことを壁と感じていることを確認 しておく必要がある。その一方、 「壁を感じることはない」が、 「ルーツをもっている人」の割合は、 「ルーツをもっていない人」に比べて約 2 倍多いということも特徴としてあげられる。 問 4.あなたが、外国人とつきあうにあたり、壁になっていると感じるものがありますか。 (あてはまるものをすべて選んで○) 外国人とつきあうにあたっての壁 Q4.1 言葉の違い. Q1 外国に ルーツ. もっている もっていない. 45. 57.7%. Q4.2 Q4.3 宗教・文化・ 考え方・価値 生活習慣の 観の違い 違い 34. 811 69.7% 589. 43.6%. Q4.4 肌の色や服 装の違い. 27. 34.6%. 3. 50.6% 445. 38.2%. 35. 3.8%. Q4.5 外国人とつ きあう機会 が少ない. Q4.6 外国人を理 解しようと する気持ち が少ない. Q4.7 壁を感じる ことはない. Q4 無回答. 17 21.8%. 2. 2.6%. 12 15.4%. 0. 3.0% 383 32.9%. 27. 2.3%. 95. 4. 8.2%. 0.0%. 合計. 78 100.0%. .3% 1164 100.0%. p<0.05. 「外国人の人権について」 前述したように、外国人の人権については、付問も含めて 10 個の質問のうち、8 個には「ルー ツをもっている人」「ルーツをもっていない人」で有意差が認められなかった。有意差があった 2 つについて以下に具体的な内容をみておく。 まず、 「問 8.在日外国人に対するヘイトスピーチの問題を知っていますか。」という質問である が、知っている割合が、「ルーツをもっている人」が 3 割強で、「ルーツをもっていない人」が 2. − 59 −.
(10) 割強であった。ヘイトスピーチという言葉自体は新しく登場したものであり、翻訳語が定着せずに メディアでも人権運動の中でも外来語としてそのまま使われている。最近の数年間はとりわけ在日 コリアンに対するヘイトスピーチが日本の各地で行われ、社会問題となってきた。2013 年にはそ の年の新語・流行語大賞の候補になるという状況に至り、国連の人権に関する機関からはヘイトス ピーチの現状を是正するよう繰り返し日本政府に勧告が出されている。ヘイトスピーチの内容をみ ると、外国人全体というよりも在日コリアンが直接の標的になっているものがほとんどであるた め、そうではない在日外国人の反応が鈍いということがあるかもしれない。しかし生活保護受給に 対するバッシングなどは外国人全体が標的になっている。ヘイトスピーチの攻撃の対象になりうる 「ルーツをもっている人」の 7 割近くが、ヘイトスピーチのことを知らないという現状はこのまま にしておいてはいけない。ヘイトスピーチに限らず、社会問題についても関心が薄かったり、情報 に接する機会を積極的に作っていないのであれば、問題は深刻である。「ルーツをもっていない人」 に対するアプローチとも併せて、ヘイトスピーチを人権の問題として理解できるような取り組みを すべての学生に対し積極的に進めるべきである。 問 8.在日外国人に対するヘイトスピーチの問題を知っていますか。(1 つ選んで○) Q8 ヘイトスピーチを知っているか 知っている もっている Q1 外国にルーツ もっていない 合計. 知らない. 合計. 26. 52. 78. 33.3%. 66.7%. 100.0%. 268. 892. 1160. 23.1%. 76.9%. 100.0%. 294. 944. 1238. 23.7%. 76.3%. 100.0%. p<0.05. 次の有意差があった質問は「問 13」である。これは、日本人と在日外国人との処遇の差につい てどこまで同等の法的権利を認めるかどうかという意見を尋ねるものである。結果は、次表のとお りだが、「在日外国人は人権の名の下に過剰な要求をしている」ということについて、「ルーツを もっている人」「ルーツをもっていない人」のどちらも一番多い回答は、 「どちらかといえばそうは 思わない」であり、半数を超えている。次に多いのが「そうは思わない」である。「ルーツをもっ ている人」の 3 割、 「ルーツをもっていない人」の 2 割が、過剰な要求ではなく、日本人と同等の 法的権利を認めるべきだとしている。しかし、「過剰な要求をしている」という意見も、少数意見 ではあるがどちらにもある。ただし、「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」のいずれも、 「ルーツをもっている人」よりも「ルーツをもっていない人」の方が 2 倍多い。また「ルーツをもっ ている人」のうち「過剰な要求をしている」と思う人が、どのような具体的内容を書いているのか をみると、 「過剰な要求をしている」ことに「そう思う」4 人中 2 人が「従軍慰安婦」と「参政権」 とあり、残り 2 名は空欄である。「どちらかといえばそう思う」5 人中 2 人が「参政権だけは与え るべきでない」「政府に圧力をかけたり、メディアも少し偏って報道していると感じること」とあ り、残り 3 名が空欄である。. − 60 −.
(11) 問 13.「在日外国人は、平等の名のもとに過剰な要求をしている」と主張している日本人がいます が、あなたはどうおもいますか。(1 つ選んで○) Q13「在日外国人は人権の名のもとに過剰な要求をしている」 という主張について どちらかといえ どちらかといえば そうは思わない ばそう思う そうは思わない. そう思う もっている Q1 外国にルーツ もっていない 合計. 合計. 4. 5. 42. 26. 77. 5.2%. 6.5%. 54.5%. 33.8%. 100.0%. 107. 136. 671. 236. 1150. 9.3%. 11.8%. 58.3%. 20.5%. 100.0%. 111. 141. 713. 262. 1227. 9.0%. 11.5%. 58.1%. 21.4%. 100.0%. p<0.05. 有意差があった項目の最後は、「態度と行動について」を尋ねるもので、「問 14. あるサッカー チームが、スタジアムのスタンドに入ってくる人に向けて「JAPANESE ONLY」という横断幕 を掲出しました。あなたがその場に居合わせたとしたら、どのような態度をとるでしょうか。」で ある。これは、2014 年 3 月に J リーグに所属するサッカーチームの試合中に起きた事件を参考 にしたものである。この事件は、マスコミでも大きく報道され、そのホームスタジアムのサッカー チーム(クラブ)は管理責任を問われ、J リーグより初めての「無観客試合」処分を受けた。この 質問項目で、一番多かった回答は、「ルーツをもっている人」では「スタジアムの人に知らせる」 (47.4%)であったが、一方、 「ルーツをもっていない人」では「差別だと思うが黙って見過ごす」 (53.4%)が一番多くなるという違いを見せた。二番目に多かった回答は、「ルーツをもっている 人」では「差別だと思うが黙って見過ごす」(28.9%)となり、 「ルーツをもっていない人」では、 「スタジアムの人に知らせる」(32.4%)であった。「ルーツをもっている人」の半数以上が、「差 別と思いつつ見過ごす」よりも「知らせに行く」という具体的な行動をとることを選んだのは、や はり当事者として許してはいけないという考えがその立場にない人よりも強いということの表れ であろう。より強い行動である「サポーターグループに差別だと注意する」も「ルーツをもってい ない人」が 9.7%に対し、 「ルーツをもっている人」は 15.4%が選んでいた。相手がどういう反応 をするかというリスクも発生するので、そこまで積極的な行動を取ることに躊躇する気持ちは理解 できる。それでも、この一番積極的な行動をまずとると回答した人は、「ルーツをもっている人」 「ルーツをもっていない人」のいずれのグループでも、「差別とは思わない」「共感する」を足した 数の 2 倍はいた。逆に言うと、この二つのネガティブな回答をした人は、それぞれ 1 割はいなかっ た。ただし「ルーツをもっている人」の中に「共感しネットなどに投稿する」を選んだ人が 2 人い て(2.6%)、 「ルーツをもっていない人」は 6 人(0.5%)なので、割合としてかなり高くなると いう結果になった。前述したように、ルーツをもっていても、どういう背景であるかは各々多様で あるし、自分がそのグループに所属していない(=「日本人である」)という意識がある人がいる ということかもしれない。どちらの立場にあっても「問題のある発言であることは 9 割以上が認識 していることから、 「ルーツをもっていない人」の多くが選んだ「差別と思うが、黙って見過ごす」 から「スタジアムの人に知らせる」といった態度や行動を選ぶ人が増えるように教育活動の中で問 いかけていく必要がある。. − 61 −.
(12) 問 14.あるサッカーチームが、スタジアムのスタンドに入ってくる人に向けて「JAPANESE ONLY」という横断幕を掲出しました。あなたがその場に居合わせたとしたら、どのよう な態度をとるでしょうか。(1 つ選んで○) Q14 JAPANESE ONLY 横断幕掲出について サポーターグルー スタジアム プに外国人差別 の人に だと注意する 知らせる. Q1 外国にルーツ. もっている もっていない. 合計. 差別だと 差別と思わない 共感し 思うが黙って から黙って ネットなどに 見過ごす 見過ごすい 投稿する. 合計. 12. 36. 22. 4. 2. 76. 15.8%. 47.4%. 28.9%. 5.3%. 2.6%. 100.0%. 112. 373. 615. 47. 4. 1151. 9.7%. 32.4%. 53.4%. 4.1%. 0.3%. 100.0%. 124. 409. 637. 51. 6. 1227. 10.1%. 33.3%. 51.9%. 4.2%. 0.5%. 100.0%. p<0.001. 5.結果からみえてきたもの 〈自分が思っているよりも外国にルーツをもっている学生は多い〉 「人権と社会」の授業を選択した学生のアンケートを通じて、外国にルーツをもっている学生は すべての学部にまたがって学んでいることを再確認した。近畿大学は、東大阪キャンパスだけで在 籍数 2 万 4 千人を超える総合大学であるだけに、過去からもそうだったし、これからもそうであ るといえよう。また、キャンパスの立地場所や通学圏である関西地方の歴史的経緯から在日コリア ンや中国出身の学生などが「外国にルーツをもっている」人たちの多くを占めていると推定される。 しかし、当事者自らが名のり(カミングアウト)をあげなければ、隣にいても気づかない場合が大 多数であろう。日本、中国、朝鮮半島などの東アジアでは、お互いに身体的特徴に共通点が多く、 一見では違いがわからないし、在日コリアンの場合は、世代を重ねて日本に暮らしているので、文 化や生活実態が日本人に近い。何よりも、差別や排除されることを恐れて外国にルーツをもってい ることを敢えて言わない学生もいるだろう。過去数年間の授業で、そうした当事者の学生から、自 分が外国にルーツをもっていることと、 「他の人には言わないでほしい」というメッセージを受け たことが何度かある。近畿大学には、それぞれが思っているよりももっと外国にルーツをもってい る人が多いことに学生のみならず講師も含めて、敏感であるべきである。また、この報告のために アンケートの質問内容をふりかえってみて、例えば「アジア系の出身」と「欧米系の出身」という アバウトな尋ね方をしていることが今になって少し気になった。アジアこそ多様性の宝庫のような 地域であるし、欧米は奴隷貿易や植民地支配といった負の歴史を持っているし、世界各地からの移 民受入れの先発地域である。こうした質問を通して、アジアや欧米に対するステレオタイプを強め ることにならないよう留意する必要がある。 また、日本の現在の国籍法の概要を説明したように、「国籍」は自明の理ではなく、法律で誰を 「日本国民」にするのか定められているのであり、法律が変われば国籍の取得条件も変わりうる。私 たちは、国籍と民族的出自を同一視することが正しくないことを当り前と思う意識を育てていく必 要もある。そして外国にルーツをもつ人たちの中には、外国籍の人もいるし、日本国籍の人もいる. − 62 −.
(13) し、親のいずれかが日本人の人もいるし、国籍一つとっても様々なケースが想定されることを共通 の確認としたい。 〈「結婚」になると受け入れない〉 外国人との人間関係を尋ねる項目では、 「ルーツをもっている」「ルーツをもっていない」のどち らも家族の結婚に対する拒否感が、他の「大学・職場で一緒に学ぶ・働く」「隣近所に住む」「友だ ちづきあい」に比べて強いことがわかった。既に説明したように、他の社会生活の場面では 9 割を 超える人たちが受け入れる(「受容する」と「やや受容する」)と回答しているのに、自分の家族の 結婚相手となると欧米系でも受け入れない(「あまり受容できない」「受容できない」)という回答 が 1 割を超え、アジア系出身の相手であれば 2 割が受け入れないという回答をしている。アンケー トに答えた年齢層の大半が 20 歳前後であると思われるが、若い世代も結婚に関しては、外国人を 避ける意識が根強いことを確認した。自分の家族が結婚する場合を尋ねてこのような結果が出た が、家族という関係になると「受けいれたくない」という回答には、なぜそうなるのかという理由 を聞かないとこれが、すなわち結婚差別といえるかどうかは難しい。しかし、そうした「受け入れ たくない」とすることは、本人の考えはどうあれ、結婚差別という行動につながりうる態度である。 こうした家族の中に受け入れたくないとする人は自分の相手を選ぶ場合にも、当初からその対象か らははずすという態度を取るのだろうか? ところで、兵庫県宝塚市の 30 代の男性市議が、婚約相 手であった女性が「祖父が在日韓国人」と告げると婚約破棄をし、それを女性側が「差別に起因」 しているとして提訴した事件が新聞記事で報じられたが(2013 年 1 月)、相手側は、「差別意識 はなく、政治的信条」と主張していた(2013 年 8 月に和解)。こうした出来事は、表に現われに くいが、調査の結果からも若い世代にも生じているとみたほうがいいのかもしれない。世界人権宣 言には「婚姻は、両当事者の自由かつ完全な合意によってのみ成立する」 (第 16 条 2)とある。人 権教育の課題として、恋愛や結婚について人権の視点でもっと議論を深めるべきである。 〈外国にルーツのある学生の方が、多文化共生への志向は若干強いが大差なし〉 「外国にルーツをもっている」人と「外国にルーツをもっていない」人との有意差については前 述しているが、実は、筆者の予想とは違って、全体的にはあまり大きな差がなかった。それこそ 「外国人に対する差別があると思うか」という質問や「具体的にどういう差別があると思うか」と いう質問などは、「外国にルーツをもっている」人と「外国にルーツをもっていない」人のそれぞ れの回答の割合がほぼ一緒であるという箇所もいくつかみられた。たしかに、アジア系出身の人と 自分の家族が結婚することの受容度や、「在日外国人が人権の名の下に過剰な要求をしている」と いう意見についての賛否を尋ねる項目などでは「外国にルーツをもっている」人のほうが、外国人 との共生を志向する意識がより強いとはいえるが、全般的には、近畿大学の学生の外国人の人権に 関する意識は、外国にルーツをもっていてもいなくても大きな差はなく、どちらの側の学生の意識 も今の日本社会の現状を映しているとみるべきであろう。 〈近畿大学の若者たちに希望をつなぐ〉 この報告では、 「外国にルーツをもっている」人の回答を中心に、 「日本人と外国人が地域で共に 生きていくためには、どのような取り組みをしていったらよいと思いますか。あなたの考えを記述. − 63 −.
(14) してください」の自由記述の内容を主に検討したが、比較のために「外国にルーツをもっていない」 人の自由記述も読んでみた。その 3 割は空欄であったが、逆にいうと 7 割は自分の意見を書いて いた。「郷に入れば郷にしたがえ」というように、 「外国人の側が日本社会に合わすべきである」と か、「在日外国人に対する特権を廃止する」(筆者注:特権の具体的な中身は書いていない)とか、 「無理だ」とか、人権の立場からは賛成できないような意見があったが、圧倒的多くは、相手の個 性や存在を認めようとし、プラス思考で様々な提案をしていた。また率直に自分の親の世代が持っ ている差別意識を語り、それに賛同できないと明言している意見があった。アルバイト先の店が在 日中国人のアルバイトの応募を「外国人」を理由に断ったという出来事を紹介しながら、それを批 判している意見もあった。無記名のアンケートで、圧倒的多くの学生が、まずはアンケートに真摯 に回答してくれたこと、そして私たちが伝えたい人権の内容に近い感覚をもっていることが確認で きて、あらためて、近畿大学の若者たちに希望を見た。 いきなりゼロから外国人を受け入れる話ではない。意識はともかく、実態として日本社会はすで に外国人と共にくらし、学び、働いてきた。今後は一層こうした国境を越える人たちと共にくらし、 学び、働く環境が増えるだろう。日本人が逆に海外に行くこともおおいにありうる。実際は綺麗ご とで終わらないだろう。個人の力を越えた社会のシステムや政治の権力によって、外国人という理 由で人権がないがしろにされたり、その救済も受けられないということは数え切れないほど存在す る。しかし、それに無気力になることなく、人間はすべて等しく尊重される存在であると確信する 人が増えることで、社会のシステムや政治を変える力になることも事実である。 もう一つ懸案を言えば、東アジアの近隣諸国との政治的な対立が厳しくなっている状況下で、さ らに相手国への反感を煽る情報が巷にあふれている。人権の視点からは、たまたまそうした国の国 籍をもっている個人と「普通の」つきあいができる次世代がもっと増えてほしい。平和・人権・民 主主義の価値を理解し、国境を越えた信頼と共感を生む市民活動ももっと活発になってほしい。こ うしたことはやはり教育に期待されるものである。いろいろな希望を抱きながら、近畿大学で人権 を教える課題とし、次世代につなぎたい。 参考文献 田中宏『在日外国人:法の壁、心の溝 第三版』(岩波新書、2013 年) 岡本雅享監修・編著『日本の民族差別:人種差別撤廃条約からみた課題』(明石書店、2005 年) 師岡康子『ヘイト・スピーチとは何か』(岩波新書、2013 年) 李洙任「人権の潮流 日本の帰化行政の現状からみえるもの」 『国際人権ひろば』102 号(2012 年 3 月)ヒューライツ大阪ウェブサイト. − 64 −.
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