カーを事例として―
著者
千田 直樹
雑誌名
東北人類学論壇
号
18
ページ
91-114
発行年
2019-03-31
URL
http://hdl.handle.net/10097/00126916
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障がい者スポーツの人類学的研究
―ブラインドサッカーを事例として―
千田 直樹
1. はじめに
一般的に障がい者スポーツは、「生まれつき、または病気や事故など様々な理由で 障がいのある選手が、それぞれの能力を活かしてできるようにルール設定されたス ポーツ」(コンデックス情報研究所 2017: 8)のことであると考えられている。障がい 者スポーツは第二次世界大戦により身体に障がいを負った兵士たちが多数生じたこ とで、彼らのリハビリテーションの手段として広まった(高橋 2004: 98-99)。今日の 障がい者スポーツは、パラリンピックに代表されるように高度な競技性を兼ね備え たスポーツとしても発展している。 視覚障がい者を対象とする「ブラインドサッカー」もその1 つである。基本的な ルールはフットサルのものを基にしているが、視覚的情報に頼らずともプレーでき るように様々な変更が加えられている。パラリンピックなどの国際大会においてプ レイヤーとして参加できるのは、ゴールキーパーを除いて全盲者のみである。しか し、日本国内の大会では弱視者と晴眼者も全盲者と同様にプレイヤーとして出場す ることができる。一般的に障がい者のものとして考えられている障がい者スポーツ に、なぜ健常者が参加するのだろうか。また、日本国内のブラインドサッカーチー ムは、ブラインドサッカーの体験会を実施することも主要な活動としている。体験 会は障がい者と健常者の双方を対象としており、純粋にブラインドサッカーを体験 することよりも、ブラインドサッカーを通じて何かを学ぶことに主眼が置かれてい ることも少なくない。それゆえ、彼らが行っている障がい者スポーツとは、そもそ も単なる身体的活動としてのスポーツに留まらない性質を持つものであると筆者は 考える。本研究では、ブラインドサッカーチーム「コルジャ仙台ブラインドサッカ ークラブ」で晴眼プレイヤーとして活動した筆者自身の経験も交えながら、現代に おける障がい者スポーツの特徴の一端について考察する。92
2. 理論的背景
(1) 身体技法 身体技法とは、人間にとって最も不可欠で本来的な道具であり、かつそれ自体が 働きかける対象でもある身体を用いる、伝統的な方法である(モース 1976: 132-133)。 泳ぎ方、歩き方、眠り方、食べ方といった日常的な動作はどの社会でも共通なよう に思えるが、実際には文化と歴史に基づいて異なる様相を見せている。 身体の動きは、人類一般に共通し、先天的に課されている解剖学的制約と、その 人が身を置く社会によって後天的に身につく文化的制約という2 つの要素によって 規定されている(寒川 2017: 52)。例えば関節を逆方向に曲げるといったように、身 体の構造上そう動かすことが不可能なのが解剖学的制約である。これに対し、文化 的制約は食事の時には茶碗を手に持つ、正座をするといったような、身体的に不可 能な動作ではないにもかかわらず、ある文化的背景を持つ人によってしか行われな いというような動きのことを指す。身体技法とは、この文化的制約によって規定さ れた「文化が拘束する動き」(寒川 2017: 53)のことである。 スポーツに固有の文化的制約とは、そのスポーツにおいて定められたルールのこ とである。例えばサッカーならば、サッカーという競技を特徴づける大前提として、 手でボールを扱ってはならないと定められている。足よりも圧倒的に器用な操作を 可能とする器官である手の使用を制限することは、一見すると非合理的であるよう に思われる。しかし、足をはじめとする手以外の、おおよそボールを扱うのに向い ていないと思われる身体の部位を使用し、見る人の想像を遥かに上回るような華麗 なプレーを現実のものとして行うことにこそ、「サッカープレイの快楽の本質がある」 (西山 2006: 182)のである。 スポーツだけに限らず、身体技法においては、ルールのようにその集団全体に共 通する文化としての動きのことを技術といい、その範囲内での個人に固有の動きの ことを技能という(寒川 2017: 53)。スポーツにおける身体技法は、ルールによって 定められた技術という不自由性に縛られているが、同時にルールの範囲内で与えら れた技能という自由性を持つものでもあり、この不自由に内包された自由という構93 造こそが、人々を引き付けるスポーツの魅力なのである(寒川 2017: 53)。 本研究では、ブラインドサッカーのゲーム中においてプレイヤーの動き方をブラ インドサッカーにおける身体技法であると考え、彼らが具体的に身体をどのように 使っているのかと、そして身体の使い方を規定する制約にはどのようなものがある のかを検討する。
3. ブラインドサッカーとコルジャ仙台
(1) ブラインドサッカー ブラインドサッカーとは、視覚障がい者を対象とする、サッカーから派生した競 技である。ブラインドサッカーという呼び方は通称であり、国際大会における正式 な競技名は単に「5 人制サッカー」または「フットサル」という(岡田 2009: 6)。 ブラインドサッカーの特徴は、視覚を使わずにプレーすることにある。全盲と一 口に言ってもその程度は人によって様々であるが、アイパッチとアイマスクの装着 によってそれらの条件を均等化し、フィールド上の全員が同様の条件の下でプレー する。この特徴のため、日本国内の大会においては弱視者、そして人数に制限はあ るものの晴眼者もフィールドプレイヤー1(以下、FP と表記)としてプレーできるこ とになっている。視覚障がい者向けのスポーツでは、全盲者はB1、弱視者は B2 も しくは B3 というように、クラス分けがなされており、ブラインドサッカーは本来 B1 クラスを対象としている。日本国内の大会では、いずれかのクラスの視覚障がい 者のFP がピッチ上に 2 人以上いる必要がある。 基本的なルールはフットサルを基にしてつくられている。フットサルと同様、試 合は5 人対 5 人で行い、各チームは FP4 人とゴールキーパー(以下、GK と表記)1 人の5 人で構成される。個々のルールに目を向けると、中に鈴が入っており転がる と音が鳴る専用のボールを使っている点、ピッチサイドに高さ1m ほどのフェンス がおかれている点、そしてピッチ内の選手達にゴールの位置、距離、角度と言った 情報を伝えるコーラーの存在が、通常のサッカーともフットサルとも異なるブライ ンドサッカーの特徴だ。コーラーは監督、GK と並び、ピッチ上の選手たちに視覚 1 ゴールキーパー以外の選手。94 的情報から指示を出すことができる存在だ。これら3 つの役割は、ルール上は弱視 者が務めることもできるとされているが、たいてい晴眼者が務めていることのほう が多い。 ブラインドサッカーでは、視覚を使わないという特徴のため、通常のサッカーや フットサルとは大きく異なった技術や戦術が発展している。以下ではその例のうち 一部を紹介する。 ドリブルをするとき、通常のサッカーやフットサルではボールを足のインサイド やアウトフロント 2で前に押し出し、ボールを蹴るのと走るのをくり返すようにし て進むが、ブラインドサッカーではボールを両足の間におき、左右のインサイドに 交互に当てながら前に進むドリブルをする。こうすることで1 歩につき 1 回ボール に触るようになるため、ボールが足からあまり離れず、目で確認せずともボールを 失いにくいドリブルができる。このやり方は運動生理学的にかなり不自然で、体に 負荷が大きい方法である(岡田 2009: 46)。 ブラインドサッカーのシュートでは、通常のサッカーやフットサルと同じ蹴り方 をする選手もいるが、つま先でボールの中心を突くように蹴るトゥーキックを用い ることも多い。トゥーキックは蹴るまでの動作が短いためGK にシュートのタイミ ングを読まれにくく、助走なしでも早いボールを蹴ることができるのが特徴である。 一方で、インステップやインフロントでのキックと比べるとボールがあまり飛ばず コントロールも難しいため、サッカーでは使う場面が限定される。サッカーと比べ てシュートを打つ時にスペースがないフットサルではよく見られるが、ブラインド サッカーでもトゥーキックは多用される。それは先述した独特なドリブルとも関連 している。インステップでシュートを打つには蹴る前にボールを少し前に蹴りだし、 軸足を踏み込んでから力強く蹴るが、ブラインドサッカーのドリブルで踏み込む動 作を入れるとボールの位置が体から離れてしまうため、正確にキックするのが難し くなってしまう。ドリブルのモーションからほぼ予備動作なしでシュートが打てる トゥーキックは、GK からしてもタイミングを外されやすく、シュートコースを予 2 足の内側で、土踏まずやや上の部分をインサイドといい、主に短いパスを蹴る際に用 いられる。アウトフロントとは小指の付け根あたりを指す。親指の付け根がインフロ ント、足の甲がインステップで、この2 つは主にシュートやロングパスに用いられ る。
95 測しづらい。伊藤(2015: 144-146)によれば、GK がブラインドサッカーのシュート は防ぎづらいというのには2 つの理由がある。1 つは視覚障がい者のプレイヤーは 表情からシュートのタイミングを計るのが難しいためで、もう1 つがシュートのタ イミングが読めないためである。独特なドリブルではシュートの時も足元からボー ルが離れないため、GK からすると突然シュートが飛んで来るように感じられる。 ブラインドサッカーでは、通常のサッカーやフットサルのように精確なパスを素 早く何本も繋いで相手の守備を崩し、ゴールに迫ることは難しい。そのため、攻撃 の選手にボールが渡った際の最初の選択肢は、多くの場合ドリブルである。ドリブ ルの最中に相手に囲まれ、これ以上ドリブルするのが難しい状況になると、自身の 後ろ側にいる味方か、ピッチの反対側のフェンス際にいる味方に向かって横方向の パスを出し、攻撃するサイドを変える。このようにして、ピッチの左右どちらかか ら攻めている時に、ピッチの反対側にパスを出して攻めるサイドを変えることをサ イドチェンジという。ブラインドサッカーでは、このサイドチェンジは頻繁に見ら れる。横方向のパスならば、トラップに失敗してもボールがフェンスに当たるため、 跳ね返ったボールを拾うことができるからである。 攻撃で重要なのがガイドの指示である。ガイドは必要な情報を手短に選手に伝え ることが求められる。ピッチ内の状況は常に変化しているため、指示の内容をすべ て言い終えるころには距離や角度が変わっていることが多いからである。ボールを 持った選手がアタッキングエリアに入ってくると、ガイドは「ゴールゴール!3m、 60 度、シュート!」というように、ゴールの位置、距離と角度を伝える。ガイドの 技量にも差があり、例えば視覚支援学校の教員のような、日常的に視覚障がい者に 指示を出す立場にある人の指示は短くて的確だという。 (2) コルジャ仙台ブラインドサッカークラブ ① 概要 コルジャ仙台ブラインドサッカークラブ(以下、コルジャ仙台と表記)は、仙台市を 拠点とするブラインドサッカーチームである。コルジャ(Coruja)とはポルトガル語 でフクロウの意味である。動物の名前が入っていて覚えやすく、語呂が良く、他の チームと重なっておらず、そして暗闇の中でも自らの高い知覚能力によって自由に 飛び回ることができるというフクロウの特徴がブラインドサッカーにぴったりだと
96 いうことから名づけられた。また、フクロウがしばしば森の賢者、知恵の象徴とし ても用いられるのになぞらえて、ブラインドサッカーに必要な感覚を練習によって 培い、知性と工夫にあふれたサッカーを目指したいという願いも込められている。 チームのエンブレムにもフクロウの写真が使われており、チームの関係者がチーム を呼称する際には「コルジャ」という略称で呼んでいる。また、ポルトガル語を用 いているのは、ブラインドサッカーにおいて世界トップレベルの強豪であるブラジ ル代表への尊敬の念を込めてのことである。 コルジャ仙台が結成されたのは 2012 年のことだ。結成当初は何とか試合を行う ことのできる程度の人数しかいなかったが、知人や友人を介して徐々に人数が増え ていき、現在ではサポートスタッフも含めれば 20 人を越える人数がチームの活動 に携わっている。チーム内には選手と監督やコーチの他、代表、運営、普及担当、 トレーナーといった役職がある。代表はスポンサーなどとの交渉をはじめとした外 部交渉、運営は事務的な仕事や体験会の受注などチーム運営に関わる仕事全般を引 き受けており、普及担当はチーム内では体験会担当と呼ばれており、体験会を主導 する役職である。トレーナーは練習中のフィジカルトレーニングを主導する。また、 役職ごとに決まった仕事以外の、練習時の送迎や練習の手伝い、体験会の補助など は、選手を含めメンバー全員が共有している役割である。 メンバーは大半が社会人であり、スタッフを含めた年齢層は 10 代から 40 代で、 そのうち選手は10 代から 30 代までいる。小学生のメンバーもいるが、公式戦に出 場できるのは中学生以上のため、選手として活動しているのは練習時のみである。 また、メンバーの中には女子選手もおり、男子選手と一緒に練習し試合に出場して いる。 視覚障がい者はほぼ全員がプレイヤーであり、運営スタッフは大多数が晴眼者で ある。例外として、前監督で現在は普及担当を務めるV’ さん3がいるが、彼は元々 選手希望でチームに加入したものの、聴覚にも障がいが見つかったことでスタッフ としてチームに携わることとなった。5 人の視覚障がいプレイヤーのうち、H’ さん はチーム唯一のB1 クラスで、片目が光を感じられる程度の「見えない人」である。 3 本研究では、プライバシーに配慮し人物の名前にはアルファベットの仮名を使用 する。なお、視覚障がいの有無をわかりやすくするため、視覚障がい者のメンバー については仮名に「’ 」をつけて表記する。
97 副キャプテンで女子日本代表のE’ さん、選手兼任コーチの F’ さんと G’ さん、FP の中ではチーム最年少である中学生の I’ さんの 4 人は各人の見え方に差はあるも のの、B2/B3 クラスに分類される「見えにくい人」である。日本国内におけるブラ インドサッカーのルール上、試合中にはこの5 人の中から少なくとも 2 人は常にピ ッチ上にいることになる。 晴眼プレイヤーは、ほぼ全員が通常のサッカー経験者である。一方で視覚障がい プレイヤーには、ブラインドサッカーを始める前に通常のサッカーをしていたとい う人はいない。視覚障がいのあるFP と晴眼者の FP はほぼ 1 対 1 の割合で、他の チームよりも比較的晴眼者の割合が高い。 メンバーが自身の関係者や知り合いを活動につれてくることもある。これらの 人々の中には、練習の際に飲み物を選手に渡したり、試合の際には選手にアイパッ チを貼ったりと、サポートメンバーの仕事をしている人もいる。しかし、公式ホー ムページ上に彼らの名前は記載されていない。かといってコルジャ仙台のメンバー として認められていないかといえばそうではなく、忘年会などのイベントの際には チーム側から参加するか声をかけている。また、過去には「チームを抜ける」とい うはっきりとした意思表示がないまま活動に来なくなった人もいる。 ② 活動の概要 コルジャ仙台の主な活動内容は、通常練習、公式戦、そして体験会である。 (ア) 練習 通常、コルジャ仙台は毎週日曜日に練習を行っている。練習場所は仙台市障がい 者総合体育センター(以下、体育センターと表記)のグランドまたは体育館や、岩沼 市、七ヶ浜町といった仙台市の近隣市町村にあるフットサルコートを主に利用して いる。ブラインドサッカーではその競技特性上、周囲から聞こえてくる雑音や、ピ ッチのコンディションといった環境によってプレーが左右される部分が大きい。FP たちがプレーする際に視覚ではなく、聴覚や触覚を頼りにしているために、それら を知覚することを阻害されると外界を認知することが難しくなり、自身の頭の中で 上手くイメージを作ることができなくなってしまうためである。ただし、仙台市内 のフットサルコートは利用料が高額であり、街中にある分周囲の雑音が多いため、 練習環境の良さと予算の2 つを考慮した結果、仙台市外のフットサルコートを利用 することが多い。
98 一方で、体育センターのグラウンドはほとんど整備されていないため練習環境は あまりよくないが、練習時にサイドフェンスを使うことができるのが利点だ。公式 戦で使用するサイドフェンスは仙台市が管理しているため、以前は練習では使うこ とができなかった。しかし、2018 年 11 月に市が新たにフェンスを購入し、以前ま で使っていたもの一部をコルジャ仙台が譲り受けたため、以降の練習では仙台市と 交渉せずともフェンスを使うことができるようになった。普段フェンスは解体して 体育センターのグラウンド横にある倉庫にしまっており、グラウンドでの練習の際 に組み立てて使用している。以前は公式戦の前になるとフットサルコートを利用す ることが多かったが、仙台市外のフットサルコートまでフェンスを運ぶにはトラッ クを使わなければならないため、フェンスを譲り受けた2018 年 12 月以降の練習は 体育センターのグラウンドを会場とすることが多くなった。 通常練習は午前9 時、あるいは午後 1 時に開始する。練習の際、車を持たないメ ンバーは駅などに集合し、車を持っているメンバーの送迎で練習場に赴く。集合場 所と時間はその日の練習場所によって異なっており、前日までに各人が送迎を担当 するメンバーから伝えられる。練習場に到着すると、着いた人から各自で着替えと アップを行い、練習開始予定時刻になったらすぐに全体での練習メニューができる ように準備しておく。その日参加するメンバー全員が揃い、予定時刻になると本格 的に練習を始める。はじめに監督のA さんを中心として簡単なミーティングを行い、 本日の練習内容と連絡事項を確認した後に全体で練習に入る。練習内容は日によっ て異なるが、概ね初めにボールを使わないフィジカルを鍛えるための練習、次にボ ールは使うがドリブルなど個人の技術向上のための練習、そして2 対 1 や 3 対 2 の ような攻守に分かれて行う、ピッチとゴールを使った実戦に近い形の練習というよ うに進行していく。練習の最後にはまた簡単なミーティングを行い、それでその日 の練習は終了となる。練習終了後は各自着替えを行い、最初と同様に各ドライバー の車に乗り合わせて帰宅していく。 (イ) 公式戦 2018 年現在、日本全国には多くのブラインドサッカーチームが存在している。そ の中でJBFA に登録し、公式戦を行うことができるのは 20 チームほどである。各 チームは北日本リーグ、中日本リーグ、東日本リーグ、西日本リーグのうちいずれ
99 かの地域リーグに属しており、毎年秋から冬にかけてリーグ戦をそれぞれ行ってい る。 北日本リーグでは、北海道で活動しているナマーラ北海道、新潟県の新潟フェニ ックスファイヤーズとコルジャ仙台の3 チームで優勝を争う。この形にリーグが再 編成された2017 年は、各チームのホーム4で2 週間ほどの間隔を空けて開催され、 それぞれのチームと1 試合ずつ 1 日に戦い、各ラウンドでの合計 6 試合で得た勝ち 点5を競いあった。2018 年は移動を考慮して北海道ラウンドを開催せず、新潟ラウ ンドと仙台ラウンドの合計4 試合で順位を決定する予定であった。しかし台風の影 響により新潟ラウンドが中止となったため、仙台ラウンドでの各チーム1 回ずつの 対戦の結果で優勝を争うこととなった。その結果、コルジャ仙台は新潟フェニック スファイヤーズに3-0、ナマーラ北海道にも 3-0 で勝利し、リーグ戦初優勝を果たし た。 各リーグ戦で優勝、あるいは上位に入賞したチームは、例年 3 月に開催される 「KPGM カップ ブラインドサッカークラブチーム選手権(以下、クラブチーム選手 権と表記)」への出場資格を得る。クラブチーム選手権では、地域リーグを勝ち抜い た7チームに海外招待チームを加えた8チームが、トーナメント形式で優勝を争う。 クラブチーム選手権への出場資格を得られるのは、チーム数が多く強豪がそろう 東日本リーグは3 位以上、西日本リーグは 2 位以上のチームで、中日本リーグと北 日本リーグは優勝チームのみである。コルジャ仙台はこれまで、新潟フェニックス ファイヤーズと長野県の F.C.長野 RAINBOW と共に所属していた旧北日本リーグ 時代に出場経験があったが、当時は希望すればリーグ戦の成績に関わらず出場する ことができる大会形式であった。現行の制度に移行してから初出場となった2019 年 の大会は、2 月 9 日と 10 日の 2 日間にまたがって開催される予定であったが、天候 不良のため9 日は中止となり、敗退チーム同士の順位決定戦を廃止して 10 日に全 試合を行った。コルジャ仙台は初戦で日本代表選手を数多く擁する強豪 F. C. 4 自チームが本拠地とする地域のことであり、ホームで行われる試合をホームゲーム と言う。また、相手チームの本拠地はアウェイと呼び、そこで行われる試合をアウェ イゲームと言う。 5 リーグ形式の大会で用いられる順位決定方法。試合に勝てば勝ち点3、引き分けなら 1、負ければ 0 というようにカウントし、全試合を終えた時点で最も勝ち点の多いチー ムが優勝となる。
100 Avanzare つくば(以下、アヴァンツァーレと表記)と対戦し、0-1 で敗れた。 毎年夏に開催される「アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権(以 下、日本選手権と表記)」は、全国のブラインドサッカーチームが一堂に会する、国 内では最も規模の大きな大会である。コルジャ仙台は2012 年の第 11 回大会から毎 年参加している。2018 年に開催された第 17 回大会には、全 21 のチームが参加し た。この大会では初日に3 チームごとのグループリーグを行い、そこで首位になっ たチームが2 日目に決勝トーナメントに進出し、2 位と 3 位のチームも他グループ の同順位同士で順位決定トーナメントへと進んだ。この大会でコルジャ仙台は、過 去最高成績となる4 位に入賞した。 (ウ) 体験会 体験会は、ブラインドサッカーチームの特徴的な活動である。JBFA に登録して いる中では東北地方で唯一のブラインドサッカーチームであるコルジャ仙台は、東 北各地で精力的にブラインドサッカーの体験会を実施している。体験会は普及担当 であるV’ さんやトレーナー、選手、運営補佐など多くの役割を持つ C さん、チー ムの代表を務めるS さんらを中心に、体験会の規模によっては複数の選手やチーム スタッフも参加する。視覚障がい者による講演を求められた場合には主にE’ さん、 G’ さん、H’ さんが参加し、実際にドリブルなどをしてみせるデモンストレーター が必要な時には晴眼のプレイヤーも参加する場合がある。 体験会の目的は、ブラインドサッカーの認知向上と障がい者理解の促進、及び新 規選手の獲得である。コルジャ仙台のメンバーは体験会をすることに対しては基本 的に前向きであるが、依頼があれば無条件に受諾しているわけではない。チームの 運営を担当するU さんはチームミーティングにおいて、体験会を受諾する条件とし て「(チームと依頼主の)双方にメリットがある」、「次につながる」、「(納得のいく額 の)お金がもらえる」ことを基準としているとメンバーに伝えていた。メリットがあ る、次につながるというのは、ブラインドサッカーの発展とチームの宣伝につなが るようなものや、依頼者らと今後も継続的に適宜協力し合えるような関係築くこと ができるといったことである。体験会以外の諸活動においても、他の団体と何らか のやりとりをする時にはこれらの条件を満たしていることを重要視する。こういっ た基準に満たない場合、依頼を断ることもある。
101 体験会の流れはその時の参加者によって異なるが、ボールを使わないメニューと 使うメニューに大きく分けられる。また、大人向けの体験会と子ども向けの体験会 では体験会の内容が異なっている場合が多い。大人向けの体験会は企業の研修など で行われるため、コミュニケーションの取り方を主眼に置いていることが多い。そ のため、ボールを使うメニューよりも、アイマスクをした状態でグループを作った り、白杖を使った歩行を体験したりといったボールを使わないメニューや、視覚障 がいのあるメンバーによる講演に時間を割く。これに対し子ども向けの体験会は、 人権教育や障がい者理解をテーマとしていることが多い。側に小学生以下を対象と している場合は、とにかくブラインドサッカーを楽しいものであると思ってもらえ るよう、アイマスクをしてのドリブルやシュートのようなボールを使ったメニュー が多く取り入れられている。 ③ 活動の様子 次に、コルジャ仙台の各活動の様子のうち、いくつかを紹介する。 (1) 練習時及び試合時における晴眼プレイヤーとアイマスクの事例 シュート練習や 1 対 1 などの選手が少数ずつ順番に行う練習メニューでは、FP はシュートをした後、コーラーから「(ゴールを 9 分割した時の)9 番(の場所にシュ ートが飛び)、キーパー(にキャッチされた)」というようにシュートのフィードバッ クをもらい、再び順番待ちの列の最後尾に並び直す。列に並びなおす時、B1 クラス である H’ さんはアイマスクをしたまま移動する。この際、列の最後に並んでいる FP が「H’ くーん、はーいはーい」などと声を出して、列まで H’ さんを誘導する。 また、他のFP と移動中の H’ さんが接近しぶつかりそうになった時には、試合中の ディフェンスと同様に「ボイ」と声を出し、自分の場所をH' さんに知らせる。 一方でB2/B3 クラスと晴眼の選手は、多くの場合アイマスクをその場で外す、あ るいはめくって、自らの目で列の位置を確認しながら列に戻る。シュート練習以外 のメニューでも、見えているメンバーは自分の番が終わるとすぐアイマスクを外す。 筆者自身もそうである。というのも、過去に一度、アイマスクを外さずに小走りで 列に戻ろうとしたところで、前方から走ってきた H’ さんと正面から衝突し、歯が 欠けてしまったことがあった。これ以降、練習でプレーしていない時には極力アイ マスクを外すようにしている。特にフットサルコートや体育館での練習の場合、見 えていない状態で歩いていると壁にぶつかったり、コートに備え付けてあるネット
102 に引っかかって転んでしまったりする危険性がある。筆者のように人同士でぶつか り、負傷することもある。また、事故による負傷を避けるため以外にも、晴眼プレ イヤーがアイマスクを外す理由がある。それは、他人のプレーを自分の目で観察し 参考にするためである。視覚的な手段によって物事を正確に捉えることができるた め、戦術理解能力が優れている点は、視覚障がいプレイヤーにはない晴眼プレイヤ ーの長所である。 練習の時だけでなく、試合中にもこれと同様のことが当てはまる。以下は晴眼プ レイヤーの強みが見事に生かされた事例である。晴眼プレイヤーである L さんは、 コルジャ仙台で最も得点を取ることができる選手であるが、試合ではスタメンで出 場するのではなく、後半開始と同時にピッチに送り込まれることが多い。その理由 は、前半はベンチから試合を眺めることで相手チームの動きを観察し、どのような 攻撃をすれば点を取ることができるかを考え、頭の中でプレーのイメージをつくっ ておくためである。例えば、2018 年の北日本リーグの対北海道戦で 2 得点を挙げた 後、L さんは「相手の中盤(にいる選手)が(攻撃のため前線に)上がった後、(守備のた めに)戻ってくるまでに時間があるから、そこの(選手が戻ってくる前の)スペースを 突けばいける、と思った」と語っていた。前半のうちに自分の目で相手の弱点を観 察し、プレーのイメージを作っておいたことが、後半の活躍に繋がったのである。 一方、2017 年に監督を務めていた V’ さんは、「本当はプレーしていない時であっ てもアイマスクをつけたままにしてほしい」と語っていた。これは常にアイマスク をつけることによって、ブラインドの状態に普段から慣れておくことが、プレー中 の空間認知能力を向上させることに繋がるためである。試合中の FP は、ピッチ上 にいる限りアイマスクを外すことはできない。そのため、常に自分の中にピッチ上 の自分の位置をイメージし、移動することによってイメージしている位置とピッチ 上の実際の位置に「ズレ」が生じたときには、GK やコーラー、監督らの声を聞い て、その都度「ズレ」を修正する。それによって、FP はピッチ上で「迷子」になる ことなくプレーしているのである。しかし、練習では頻繁に、しかも自分の意志で アイマスクを外すことができてしまう。それによって、試合中には声とイメージに よって補正している「ズレ」を、自分の目でピッチを見ることによって補正するこ とになるため、試合中に必須になる「ズレ」の修正力は養われない。目が見える、
103 という事はブラインドサッカーにおいてはメリットもデメリットももたらすのであ る。 また、アイマスクの下に貼るアイパッチは、一見するとさほど大した問題を生む ものには見えないが、実際にはプレーに重大な影響を及ぼす。現監督であるA さん らは「アイパッチをしているのとしていないのでは(試合中の動きが)全然違う」と述 べている。アイパッチを貼っている時と貼っていない時のプレーの感覚を筆者自身 がプレイヤーとして体験してみたところ、アイパッチを貼っているときの方がプレ ーすることに怖さを感じた。アイマスクのみを着けている場合、通常のものと比べ ると密閉性の高いアイマスクをしているとはいえ、その下にかすかな光が入り込む 余地はある。わずかな光しか感じられずとも、相手が近くに来ればその影で光の感 覚が変わるため、ディフェンダーの接近を知覚するための要素としては十分役に立 つ。また、人間、あるいは動物としての習性なのか、周囲の状況が分からずとも光 があるだけでなんとなく安心する。その光を全く感じられなくなってしまったとい うことが、もしかすると選手たちの心理に影響を及ぼすのかもしれない。普段の練 習では何の苦もなくできているプレーであっても、アイパッチを貼っただけで途端 にどこかぎこちなくなってしまうのである。 アイパッチを貼ることによるプレーへの影響は、光覚を認識できる視覚障がいプ レイヤーにも共通であるが、晴眼者の場合はことさらその影響が大きいようだ。そ の傾向が顕著なのがL さんである。先述した通り、L さんはコルジャ仙台の得点源 である。L さんは晴眼者であるが、通常のサッカー経験者であり、高い足元の技術 を持っている。ブラインドサッカー式でなく通常のサッカーと同様の蹴って走るド リブルをするため、シュートの直前に軸足を強く踏み込み強烈なシュートを放つこ とができる。また音に対する反応や空間認知といった、ブラインドサッカー特有の 技術も高い。 しかしそんなL さんでも、試合になるといつもよりもボールや相手に対する反応 が遅れる場面が増え、走り方やドリブルもどこかぎこちなくなっているように見え る。これには公式戦のプレッシャーや、対外試合ではコルジャのメンバー同士での 練習よりもディフェンスのレベルが数段上がるといった要因も考えられるが、アイ パッチによる影響も少なくはないとA さんらは分析している。 L さんの事例が示しているのは、目が見えることによって晴眼プレイヤーは一見
104 視覚障がいプレイヤーよりも優位にあるように見えるが、一方でいかに通常のサッ カーの技術に優れていても、視覚を封じられた状態で動くという視覚障がい者の身 体技法を身に着けていなければ、実際の試合で活躍することは難しいということだ。 反対に、視覚障がいプレイヤーは、「音に対する感覚が違う」とA さんが言う通り、 音を頼りにプレーする能力に優れている。足でボールを扱う技術と、暗闇の中でも 音を頼りに周囲の状況を正確に把握する技術の双方を兼ね備えていることが、ブラ インドサッカーをプレーするうえでは必須の身体技法なのである。 (2) 体験会に対する考え コルジャ仙台には、東北各地の自治体、企業、学校など、様々な団体から体験会 の依頼が届く。それらの多くは、ブラインドサッカーを通じて障がい者について理 解する事や、コミュニケーションの取り方を学ぶことなどを目的としている。しか し、コルジャ仙台はこれに加えて東北地方でブラインドッカーをする選手の発掘と 育成、新たなチーム結成の支援も体験会を行う重要な目的としている。チームには 晴眼者のプレイヤーも数多く在籍しているものの、A さんらは「全盲とそれ以外で は音に対する感覚が違う」と言っており、視覚障がい者、特に10 代の若い人を選手 として新たに獲得したいと考えている。また、G’ さんは、夏休みの小学生を対象に した体験会に参加した後、帰りの車内で以下のように語っていた。 視覚障がいの子ども向けの(体験会)をやりたいんだよ。極端な話、お金もらわな くてもいいから。それが次に繋がっていくし、(チームの)社会的な目的だし、存 在意義だから。視覚支援学校の子向けだと、発信力があるからなおさらさ。学 校で友達にこの前こんなことやったんだーって言ったりするから。スポ少 6(に 入っている子ども向けだと)だと本業はそっちじゃん。視覚障がいだと運動する 機会がそもそもなかったりするし。そういう意味でも(視覚障がい者向けに体験 会をやりたい)。 この日の体験会には4 人の小学生が参加していたのだが、その中の 1 人は視覚障 6 スポーツ少年団。小学生が所属する、地域のスポーツチーム。
105 がいのある子どもであった。G’さんはこの日の体験会について「成功」であると述 べており、満足げであった。また G’ さんのこの発言に対して車を運転していた A さんと助手席に座っていたU さんも同意しており、視覚障がいのある子どもを対象 とした体験会をやりたいというのはチームのメンバーに共通する考えのようだ。視 覚障がい者の人口は高齢者が多く、ブラインドサッカーにおいても選手の高齢化と それに伴う競技力の低下が世界的な問題となっている(岡田 2009: 227)。コルジャ 仙台でも G’ さんと F’ さんは 30 代後半であり、25 歳以下の若手は中学生の I’ さ んを除けば全員が晴眼者である。そのため、若い視覚障がい者たちにブラインドサ ッカーを体験してもらい、関心を持ってもらうことはチームにとって大きなメリッ トとなる。そして体験会の参加者が学校などで友人にブラインドサッカーについて 話すことで、ブラインドサッカーに対する認知の輪を広げていこうという狙いがあ る。 しかし、そのように考えている一方で、コルジャ仙台に届く体験会の依頼はほと んどが晴眼者の団体からのものである。G’ さんは、こうした現状がチームの活動資 金の獲得や障がい者理解の推進といったメリットにつながっているということを理 解しつつも、それよりも視覚障がいを持つ子どもにブラインドサッカーを提供する ことの方がむしろチームにとって重要な「存在意義」であると考えている。 視覚障がい者に運動の場を提供することがチームの「社会的な目的」かつ「存在 意義」であるということは、G’ さんだけでなくメンバーの共通認識であるようだ。 トレーナー、選手、そして運営スタッフという様々な役割を通じてチームに携わっ ているC さんは、チームの活動について以下のように語っている。 C: 「自分の考えですけど、コルジャは競技スポーツと障がい者スポーツの折衷 みたいな感じを目指してるんですよ。視覚障がい者が運動する受け皿になれば、 と思うんです」 筆者: 「受け皿、というのは? 」 C: 「イメージとしてはピラミッド状の構造があって、一番下が障がい者に生涯 スポーツを提供する場、受け皿(としての役割)。その次が競技スポーツの受け皿。 それで一番上が競技性の追及、って感じです。」
106 この発言から、C さんは競技スポーツと障がい者スポーツを明確に分けて考えて いるという事が伺える。現代においてはメディアなどを通じて障がい者スポーツの 競技性が強調される一方で、それに深く携わっている人物が両者を別種のものであ ると見なしているのである。さらにC さんは、コルジャ仙台が目指す活動の形を 3 つの段階に分け、競技スポーツと生涯スポーツをその中に位置づけている。つまり コルジャ仙台が障がい者たちに提供する障がい者スポーツは、これら2 種類のスポ ーツを包括する概念である。 そしてピラミッド状の3 層構造の最も下に位置づけているのは、障がい者に生涯 スポーツを提供するための「受け皿」である。これについては先述したG’ さんの発 言とも重なる部分がある。 高島・大河内によれば、「生涯スポーツ」とは「市民スポーツ」、「大衆スポーツ」、 「みんなのスポーツ」、「健康スポーツ」、「コミュニティスポーツ」という5 つの言 葉のすべての意味を含む概念であり、その特徴として「記録よりも楽しさを優先す る」、「勝つことよりも相手をおもいやってプレーする」、「怪我をすれば中止する」 といったことが挙げられる(高島・大河内 1990: 10-14)。つまり、近代スポーツの持 つ「競技性」という特徴よりも「遊戯性」に重きを置き、集団内の関係構築や健康 増進などを主な目的として行われる、すべての人が生涯を通じて生活の中で誰とで も楽しむことができるスポーツであると言うことができるだろう。この「すべての 人」には、もちろん障がい者も含まれている。C さんは障がい者が生活の一部とし て楽しみながらプレーすることのできるスポーツの1 つとしてブラインドサッカー を想定し、コルジャ仙台を障がい者が気楽に生涯スポーツを楽しむことができる場 所にしたいと考えているのである。 また、C さんはチーム作りについて、以下のようにも語っていた。 岡山 7のa さんは、総合地域スポーツクラブを作りたいと言ってて、つまり 盲学校中心のチーム作りのことなんです。理想としてはアヴァンツァーレみ たいな、学校と一体化したチームのことですね。アヴァ(アヴァンツァーレ)が 7 岡山デビルバスターズ。西日本リーグに所属するブラインドサッカーチームで、コル ジャ仙台とは2018 年の日本選手権予選リーグで対戦した。a さんはチームの代表を務 める人物である。
107 ずっと強いのって、結局若い視覚障がい者がどんどんチームに入ってくるか らなんですよ。それで育ったらそのまま日本代表に入る、いわば(代表の)ユー ス組織みたいな感じなんです。それを仙台も目指したいんです。 この発言からは、C さんが理想とするブラインドサッカーチームの在り方が伺え る。アヴァンツァーレは視覚障がい者と聴覚障がい者が学ぶ大学である筑波技術大 学の学生とそのOB によって構成されるチームであり、同大学とは密接な関係があ る。その黙っていてもどんどん視覚障がい者がチームに入ってくるシステムがアヴ ァンツァーレの強さの元となっている。コルジャ仙台もそれに倣いたいとC さんは 語っている。しかし、それは一朝一夕では実現できないということもC さんは語る。 障がい者スポーツに必要なのは受け皿と認知度なんですけど、ブラサカは危険 っていう認識が根強くて、盲学校では受け皿が少ないんですよ。だからこそ自 分たちがそうなりたいんです。 障がい者スポーツを推進する団体に対して視覚支援学校は協力的な態度を示しそ うなものだが、ブラインドサッカーについては実態が異なっている。アヴァンツァ ーレと筑波技術大学のように深い関係を築いているところもあるが、仙台市にある 視覚支援学校のように、ブラインドサッカーに対して否定的なところも多い。ブラ インドサッカーは見えない状態で走り回ることに加え、他の視覚障がい者向けのス ポーツと違い激しい身体接触が生じるため、危険なスポーツだと考える人は少なく ない。捻挫や骨折ならば治る分まだましだが、頭部を強打すれば残存している視力 を失うことにつながりかねない。H’ さんによれば、視覚支援学校では授業や課外活 動で様々なスポーツを行うが、サッカーはその中に含まれていないとのことである。 しかし、学校側がブラインドサッカーをやりたい視覚障がい者の受け皿となりきれ ていない以上、コルジャ仙台がその代わりに受け皿となり、若い選手たちを育てて いくべく活動するべきだとC さんは考えている。 (3) 晴眼プレイヤーとしての筆者の経験 筆者は2017 年 11 月 12 日に行われた北日本リーグ最終節仙台ラウンドの新潟フ
108 ェニックスファイヤーズ戦で、晴眼プレイヤーとして公式戦に初めて出場した。以 下では、試合に臨む晴眼プレイヤーとしての筆者の当時の経験に基づいた記述をす る。なお、分析と区別するため、この記述内における筆者の一人称は「私」とする。 両チーム0-0 のスコアで迎えた前半終了間際、監督の V’ さんに「千田君、行 こうか」と声をかけられた。試合前にあらかじめ出場させるということを伝え られていたが、初の公式戦出場に少し緊張した。 W さんにアイパッチをしてもらい、その上からアイマスクをつけた。これで 私の視界は完全な暗闇に包まれた。準備が済むと審判に手引きされてコーナー へ向かった。この時点では緊張のため周りの音を聞く余裕がなく、ピッチの外 にボールが出て主審が交代を認める笛を吹いたということがわかったのは、審 判に手引きされてピッチの中に入った時であった。私は 1-2-1 フォーメーショ ンの 2、つまり中盤の左側に入ることになっており、その位置まで進んだあた りで手引きをしていた審判が「ここでいい? 」と聞いてきた。正直なところ、 ピッチ内のどこに連れてこられたのかわかっていなかったが、とりあえずうや むやに「はい」と返事をした。 案の定、審判に手を放されると、自分がピッチのどこに立っているのかだけ でなく、前後左右までも全く分からなくなってしまった。とりあえずサイドフ ェンスを触って位置を確かめようと恐る恐る左に移動するも、まだ距離がある のか、はたまた移動している方向が間違っているのか、どこまで行ってもフェ ンスにたどり着かない。周囲の音を頼りにしようにも、すでにプレーは始まっ ているため、味方の声と敵の声、両チームの監督の声がすべて混ざり合い、何 1 つ情報として頭に入ってこない。自分がどこにいるのかさえもわからない焦 りから混乱し、コートをうろうろするだけの状態が30 秒ほど続いた。後から試 合の映像を見てわかったことだが、この時私は左手を横に伸ばしつつ足を先に 出して前方を探りながら、完全に腰の引けた奇妙な横歩きで、相手ゴールの方 向に向かってサイドフェンスと平行に移動していた。 その時、V’ さんの「千田君、こっち!」という声が何とか耳に入り、その声 を基にしてピッチのイメージと自分の位置を頭の中に浮かべることができた。
109 その後は「F’ さん、G’ さん」と声を出して味方との位置関係を把握し、近くに ボールが来れば音を頼りにボールを追い、「ボイ、ボイ」といいながらボールを 奪いに行った。 コルジャ仙台がコーナーキックを得ると、V’ さんからコーナーに向かうよう 指示を受けた。コーナーでは審判がボールの音を鳴らして待っていたため、音 のなる方向に向かいながら、リスタート後のドリブルを担当する H’ さんを捜 した。不意に人と衝突することを避けるため手を前に伸ばし、「H’ さーん」と 名前を呼びながら歩いていると、近くから H’ さんの声が聞こえた。声のする 方向に向かうと、伸ばしていた手がH’ さんの背中に触れた。H’ さんからは「俺 ドリブルするから、ちょん、って触るだけでいいよ」と言われた。前にH’ さん、 その後ろに私が立ち、主審の笛が鳴った後、H’ さんの足元に置いてあるボール に軽く触れた。その後、H’ さんがドリブルする音と、シュートを放つ音がした。 これが相手にあたってゴールラインの外に出たらしく、再びコーナーキックに なった。今度も同様に私はボールに軽く触れ、H’ さんも先ほどと同じように少 しドリブルした後すぐにシュートを放った。今度は相手のゴールスローを指示 する審判の声が聞こえたため、シュートがゴールの枠を外れたことを理解した。 私は急いで自陣ゴール前に戻り、F’ さんと G’ さんの声を聞いて自分と 2 人と の位置関係を判断し、自分の守備位置についた。その後すぐにハーフタイムに なり、後半からは交代でベンチに下がった。2 分ほどのプレー時間であったが、 V’ さんと A さんから「最初は混乱してたけど、声を聴いてすぐに立ち直ったよ ね」と褒められた。また、サイドフェンスから離れて動こうとしていたことも 評価された。ただ、相手だと思ってボールを奪いに行ったのは実は味方の選手 だったとも聞かされた。 ピッチの中に入った際、私は緊張のあまり周囲の音から自分の頭の中にイメージ を作ることができなかった。そのため、審判から手を離されるとピッチ上で「迷子」 になってしまった。とりあえずフェンスを探そうとしたのは、フェンスに触れるこ とができれば、ピッチ上の方向を把握することができるためである。つまり、ブラ インドサッカーでその重要性がしばしば強調される聴覚とイメージではなく、触覚 によってピッチを把握しようとしていた、ということだ。
110 ブラインドサッカーの初心者がフェンスを頼りにしてしまうのはよくあることだ。 声だけを頼りに判断すると、頭の中に浮かべたピッチ上の自分の位置のイメージが 間違っている可能性がある。ゴールの方向をまっすぐ向いているつもりが、実際に は少し斜めにずれた方向を向いていたため、ピッチ全体のイメージがずれてしまう、 といった具合である。フェンスは必ずピッチの両サイドにあるため、フェンスを触 ればすぐにピッチ上の前後左右がわかる。フェンスを触ることによって、頭の中に ある間違ったイメージを即座に矯正するのである。そのため、初心者は常にフェン スを触ることができるような位置までしか動くことができず、ピッチの中央部分ま で行けないことが多い。「私」がV’ さんにフェンスから離れたことを評価されたの はこのためである。また、H’ さんが「あの L でさえ、初めて試合に出た時は壁(フ ェンス)から離れられなかった」と語っているように、どれほど練習の時に上手い人 であっても、実際の試合で様々な声が飛び交うピッチの中に飛び込むと、聴覚では なくより確実な触覚を頼りにしたくなるようだ。このことから、聴覚よりも触覚に 基づいたほうが、より精確なイメージを思い描くことができるのだと筆者は考える。 しかし、多くの声の中から自分に必要な情報だけを判断することができるように なると、より高度なプレーができるようになる。上記の事例において、「私」はV’ さ んが名前を呼ぶ声を聞いて、ようやくピッチのイメージを頭に浮かべることができ た。そして、次第にフェンスから離れた場所でもプレーすることができるようにな っていった。ブラインドサッカーの技術のうち、周囲の音から状況を判断する能力 が向上すると、いちいちフェンスに触らなくとも、味方や、時には相手の声を聞く ことによって、自分がいるべき位置を判断することができるようになる。もちろん 触覚が重要な認識手段であることに変わりはないが、それよりも聴覚を用いて状況 を認識することの方が多くなると、一気にプレーの自由度が高まり、ブラインドサ ッカーをさらに楽しむことができるようになるのである。
4. 考察
先述したとおり、身体技法とは、文化的制約によって制限された動きである。晴 眼プレイヤーにとって、目が見えない状態は視覚障がいという解剖学的制約ではな111 く、ルールによって定められた文化的制約だ。そのため、彼らがプレーする障がい 者スポーツは、通常のスポーツと同じく敢えて自分の身体の動かし方にルールとい う制限をかけることによって、その制限の範囲内でより高い競技性を追及しようと する構造を持つものとなっている。つまり、晴眼プレイヤーにとって障がい者スポ ーツは、障がいに起因する身体技法の差異はあれど、「不自由の中の自由」を追求し ようとする点において通常のスポーツと同一の性質を持ったものなのである。障が い者スポーツに取り組む晴眼者たちは、「不必要な障害をあえてもうけて、それを克 服しようとする」(西山 2006: 182)というスポーツの構造を、まさしく体現している といえる。 このように、コルジャ仙台は競技スポーツとしてのブラインドサッカーに取り組 む集団である。しかしその一方で、コルジャ仙台が開催する体験会の目的の1 つは、 障がい者に生涯スポーツを提供することだ。生涯スポーツとは、楽しむことを優先 し、勝ち負けにこだわらないという性質を持ったスポーツである(高島・大河内 1990: 10-14)。生涯スポーツの提供を入り口として、競技性を追求したいと考える 人々にはともに競技スポーツとしてのブラインドサッカーに取り組んでもらう。生 涯スポーツの提供と競技性の追求は一連のものとなっている。つまり、彼らが障が い者に提供する障がい者スポーツとは、生涯スポーツと競技スポーツの複合的な体 系である。これに障がい者スポーツの出発点である医療的目的を加えたものが、現 代における障がい者スポーツであると筆者は考える。 一方で、コルジャ仙台に届く体験会の依頼は、その多くが企業や学校といった晴 眼者の団体から届くものであった。体験会を依頼する健常者たちは、「人権教育」、 「障がい者理解の促進」や、「コミュニケーションの取り方について学ぶ」といっ た目的を達成するための教材としてブラインドサッカーを選択している。障がい者 が「障がい者らしさ」を社会によって期待される(倉本 2000: 97)のと同様に、障が い者スポーツであるブラインドサッカーもまた、コミュニケーション能力に優れる という「障がい者スポーツらしさ」を期待されているのである。 以上のことを踏まえ、コルジャ仙台が実践している「障がい者スポーツ」とは何 なのかを改めて結論付ける。なお、リハビリテーションという医療的側面を強く持 った誕生当初の障がい者スポーツと区別するため、ここからは「現代の障がい者ス ポーツ」と表記する。現代の障がい者スポーツは、スポーツに取り組む人の身体技
112 法の差異によって通常のスポーツとは区分され、健常者からは「障がい者スポー ツ」らしさを期待される。また、その結果として、医療的目的を持つ障がい者スポ ーツ、競技性を追及する競技スポーツ、そして社会・福祉的な目的を持った生涯ス ポーツの3 つのスポーツの複合体となっており、そのためプレイヤーに限らずそれ に関わる各人がいずれかの目的を自由に設定することができるスポーツである。
5. おわりに
ブラインドサッカーの身体技法とは、競技のルールと、視覚障がい者としての身 体技法という2 つの要素を合わせたものである。前者は主に足でボールを扱うため の技術、後者は音とイメージによってボールや相手の位置と距離感を把握し、プレ ーするための能力だ。そして、これらが交差することによって生まれるのが、ブラ インドサッカーの独特な技術と戦術である。 ブラインドサッカーをプレーする晴眼者たちは、アイマスクをつけてプレーする うえで必要となる、視覚障がい者としての身体技法を習得することに面白さを見出 している。視覚を封じた状態での新たな身体の使い方を開拓しようとする試みは、 まさしく「不自由の中の自由」を追求するというスポーツの魅力を体現したもので あり、晴眼プレイヤーたちは自らにルールとアイマスクという二重の文化的制約を 課したうえで、見る人の想像を遥かに上回るような華麗なプレーを行うという「サ ッカープレイの快楽の本質」(西山 2006: 182)を味わおうと、あえて障がい者スポー ツに取り組むのである。 そして現代における障がい者スポーツの魅力は、自らがプレーすることだけでは ない。体験会を要望する晴眼者たちは、ブラインドサッカーを通じて相手を思いや ったコミュニケーションの取り方や障がい者との接し方について学ぶことに大きな 価値を見出している。一方で、障がい者スポーツチームであるコルジャ仙台が重視 しているのは、障がい者が生涯スポーツとしてブラインドサッカーをプレーできる 環境を作ることだ。このように、健常者と障がい者では、障がい者スポーツに期待 する役割は異なっている。現代における障がい者スポーツの特徴とは、競技の対象 が健常者にも広がったことで、多様な価値を期待されるようになった半面、健常者113 からはより障がい者スポーツらしさを期待されるようになったことである。 冒頭で述べたとおり、今日の障がい者スポーツは、パラリンピックに代表される ように高度な競技性を兼ね備えたスポーツとしても発展している。しかし、障がい 者スポーツはもはや障がい者だけのものではない。ブラインドサッカーのように、 健常者であっても、競技の補助や団体の運営に加え、時には自らも選手として競技 に携わることができる。その結果、両者は障がい者スポーツを介した同一のコミュ ニティに属しながらも、それぞれ異なった点に魅力を見出す。そのような両者の混 在は、障がい者スポーツを障がい者と健常者の双方にとってより魅力あるものへと 発展させていく。 2020 年に東京パラリンピックの開催を控える中、関係者たちの間ではパラリン ピックの「その後」の障がい者スポーツを取り巻く環境の変化を危惧する声がささ やかれている。当事者たちが現代における障がい者スポーツの性質をよく理解した 上で、パラリンピック以後の障がい者スポーツはどのように関心を集めるべきなの かを考えて行くことが重要であろう。
引用文献
伊藤亜紗 2015 『目の見えない人は世界をどう見ているのか』東京: 光文社新書。 コンデックス情報研究所 2017 『パラリンピック大百科』東京: 清水書院。 倉本智明 2000 「障害学と文化の視点」倉本智明・長瀬修編『障害学を語る』pp. 90-119、 東京: 筒井書房。 モース、マルセル 1976 『社会学と人類学Ⅱ』 有地亨・山口俊夫訳、東京: 弘文堂。114 西山哲郎 2006 『近代スポーツ文化とはなにか』京都: 世界思想社。 岡田仁志 2009 『闇の中の翼たち―ブラインドサッカー日本代表の苦闘』東京: 幻冬舎。 寒川恒夫 2017 「身体技術としてのスポーツ技術」『よくわかるスポーツ人類学』pp.52-54、 京都: ミネルヴァ書房。 高橋明 2004 『障害者とスポーツ』東京: 岩波新書。 高嶋實・大河内保雪 1990 『生涯スポーツへの提言」東京: 不昧堂出版。